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アイリッシュマン
2019年12月03日

imagesN2F9D3L3.jpgNetflixなどの映像ストリーミングサービスに未だに手を出していない昔気質の"映画館原理主義者"の当方であるが、春先にアルフォンソ・キュアロンの「ROMA/ローマ」を観れて、あ~良かったねとすっかり油断していたら、最近はまた何やら妙な動きが起きているようだ。

Netflixが自社製作の映画を独占配信する前に、期間限定で一部の劇場で公開する。
この秋冬にかけて立て続けに6作品。 しかもラインナップを見てたら「ええやん!」と声が出るほどのいずれも良作揃い。
仮に配信だけで終わるようだったらあまりにもったいないとしか言いようがない。
劇場公開してくれるならそれはそれでいいが、えらい時代になってしまったもんだ。

映画を映画館で公開するつもりのない会社が映画の配給権を買い取り「うちと契約して、スマホかパソコンで観てね」という商売が幅を利かせるという変な時代だ。
まあ、ディスっててもしょうがない。
御厚意なのか、宣伝効果狙いなのかはともかく、ネフリ様の大サービスにはとりあえず感謝。

どういった大人の事情が絡んでるかはともかく、大々的な宣伝も打っていないので、突然劇場で公開されると聞いて、慌てた人も多いのではなかろうか。
特にこのマーティン・スコセッシの超大作など、見逃す手は絶対にない。

50年代以降のアメリカの裏社会を舞台に、最強の労働組合指導者だったジミー・ホッファ失踪事件の真相を暴き出す、超ド級のノワール・サスペンスである。
ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシという、ヤーさん映画に不可欠なメンツが雁首を揃えただけでもワクワクもの。
マーベル批判で目下大炎上中のスコセッシ御大であるが、久々の「モブ・マフィア」ものは失禁必至の傑作である。

「配信を待つか、劇場に駆けつけるか」 駆けつけるに決まってるやんけ!



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やあやあ、どうもどうも。 劇場に駆けつけた日本の映画ファンの諸君。 そうこなくっちゃな。
オシッコするならトイレット。 映画みるなら映画館。 簡単なことよ。

おっと、挨拶が遅れたな。 性はシーラン、名はフランク。 よろしくフランク・シーランだ。
そんなやつ知ーらん? そうだろう、無理もねえ。 追々ご説明させてもらうので、しばしの辛抱だ。
ちなみに俺はとっくの昔に死んでいる。
この映画のために、こうしてあの世から挨拶させてもらってるんで、よろしく。

それにしても日本の皆の衆よ、ラグビーのワールドカップ、盛り上がったなあ。
実は俺は生まれも育ちもアメリカだが、親父がアイルランドの出でね。 密かにアイルランドを応援してたんだよ。
いやあ、おみそれしちゃったよ。 日本のラグビーがここまで強くなっていたとは驚きだ。
後半、逆転を狙って押し込んでいたところをミスター・ヒメノのジャッカルで流れを止められてしまったが、あれが痛かったな。
しかし、本当に日本は素晴らしかった。 また4年後にもう一度戦いたいもんだね。

ああ、前置きが長くなっちまったな。
この「アイリッシュマン」という映画は、この俺、フランク・シーランが主役なんだよ。 アイリッシュマンは俺のあだ名でもある。
マーティン・スコセッシが俺の告白本であるノンフィクションの原作をたいそう気に入りやがってね。 告白本ったって、俺が書いたんじゃねえがな。

そんでもって、その原作をスコセッシの旦那は1憶6千万ドルという大枚をはたいて映画化したんだよ。 えげつねえ金額だろ? そりゃ、パラマウントはそんな大金だしゃあしねえよ。
逆にカネを払うNetflixもどうかしてるぜ。
まあいいやな。

で、この映画。 一口で言うなら極道映画だ。
裏の人間たちの不道徳な悪行三昧が描かれてるんだが、中心になってるのは俺がジミー・ホッファをイテこました話だ。

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御存じかな?ジミー・ホッファ。 やけに顔がデケぇだろ。
まあ、日本の皆の衆には馴染みがねえだろうが、アメリカでホッファを知らねえ野郎はモグリと言ってもいいほどの超有名人だ。

誰かってぇと、簡単に言えば労働組合のボスだ。
組合の偉いオッサンがそんなに有名人に登り詰めるのか?って、日本人には不思議だろ? そういう国なのよ、アメリカは。

第二次世界大戦が始まる前の30年代のアメリカってのは恐慌のせいで恐ろしいほど景気が悪くてね。
職はねえし、あっても安月給でこき使われる、ちょっとしたことですぐクビにされるというドツボな社会だったのよ。

で、ホッファの御仁はというとだな、最初は食品会社の倉庫係だったんだが、あまりにクソな労働条件にブチ切れて、仲間と一緒に仕事をボイコットしたらしいんだな。
彼の作った小さな組合は、経営者連中を労働条件交渉の席に着かせて、真っ当な労働契約を勝ち取るまでに至った。 たいしたもんだよな。
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ホッファのこの行動力が世間に知れ渡り、『チームスター』という全米トラック組合から力を貸してくれよと誘われた彼はそこで幹部になるんだな。

そこからはイケイケドンドンよ。
各地の運送会社のストライキを指揮して、労働条件改善の実績を積み上げまくっていったのさ。
1957年にはチームスターの委員長に就任して、すっかりトラック野郎たちのアイドルになったホッファはカリスマ的な人気を誇る指導者としての地位を固めてゆき、組合は共和党・民主党に次ぐ第三政治勢力になるほど、凄い規模の大組織になった。

そんな大げさなと思うかも知れねえが、アメリカのほとんどの物流業界はホッファが手中に収めてたんだから、彼が一声かけりゃアメリカ全土の流通をストップすることだってできる。
国はもちろん困るよな。 だから政治家はホッファの言いなりになるしかねえ。 そういうこと。

まあ、彼の行動力・実行力はそれほど凄いんだけど、コイツのやり方はとにかく手段を選ばなかった。
もちろん暴力や脅しなど当たり前。 マフィアともネンゴロになってたから、むしろ、そういう極道なやり方の方が多かったはずだ。
コイツ、逆にバカなんじゃねえかって思うくらい、あとさき考えてるようなフシはコレっぽっちもねえ。
やったるわいと思ったら、何でもありで目的を実行していく男だったさ。
ただし、会社側もストライキを防ぐためにこちらもマフィアの手を借りたりして、もう何が何だか分からん状態の世の中だった。

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そんな中、ジミー・ホッファが突然行方知れずになる。 
一体どこへ消えたのかと世間は騒然よ。

普通に考えればマフィアかなってことになるわな。
裏金のことでモメてたマフィアに消されたんじゃねえかと言われたが、とにかく死体のシの字も見つからねえ。
女とブラジルに逃げたとか、ミンチにされて捨てられたとか、いろんな噂が流れたが結局真相は闇の中・・・と思うだろうが俺はすべてを知っている。

なぜならジミー・ホッファを殺したのは俺だから。

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俺はね、元々チームスターに入っていて、ホッファとは仲良く頑張ってきた間柄だった。
なのに俺があいつを殺したのには、よんどころない事情があってね。
まあ、組合とマフィアがチョメチヨメしてりゃあ、あれこれ事情ができるのが当たり前といやあ当たり前の世界だよ。

歳を食って、随分もうろくした頃に俺は弁護士のセンセーにホッファの件を告白したのが本になった。
長年のミステリーとされてきたジミー・ホッファ失踪事件の真相が世に出たんで世間はビックリ仰天。
正直、俺なんか名前もあまり知られていない小物だったからな。

まあ、俺が殺したという証拠も出てこねえから、告白なんかどうせ寂しがり屋のジジイのホラ話だろうという奴がたくさんいたのも無理はねえ。
いいさ、そこんとこはご想像にお任せするよ。

さて、本が映画化されたけども、俺の役を演じるのがロバート・デ・ニーロときたもんだ。
嬉しいねえ。 こんなむさ苦しい男の役をデ・ニーロがやってくれるなんてな。
ホッファの役はアル・パチーノだってよ。 デ・ニーロとの共演は確か「ヒート」以来じゃねえかな。
おらぁ、ワクワクすっぞ、by悟空だ。


それでは俺の話にチョイと付き合ってくれ。
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たいした学もねえ俺にやれることといったら兵隊さんになるしかねえ。
第二次世界大戦時、陸軍の兵士だった俺は勲章ものの大活躍をした。と、言えば聞こえはいいが、所詮は人殺しの毎日さ。
歩兵部隊が引っ捕らえたナチの捕虜どもを上官様が「なんとかしとけ」っておっしゃるから片っ端から殺しまくってたんだな。

スカッとするぜえ。 命乞いの顔をしたドイツ野郎どもを撃ち殺すってのは爽快なもんだ。
良心? うーん、いちいちそんなことを気にするような場所じゃねえのよ戦場ってとこは。
上官様のご命令とあれば、やることはやらなきゃな。

戦争が終わって除隊になった俺が就いた職はA級の牛肉を運ぶトラックの運転手だった。
メアリーという、これまたタバコをプカプカ吸ってばかりいやがる女と結婚し、のちに俺は3人の子持ちになる。

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ある日、仕事中にトラックの調子がゲキ的に悪くなりやがった。
最寄りのスタンドに寄って、エンジンと格闘してた俺に一人のオッサンが手助けしてくれた。
車に詳しい男は頼りになるな。

一見、田舎の商売人風だが、終始ニコニコしながら余裕たっぷりに人の懐に入り込んでくる男だった。
人馴れしたイタリア系の奴。 カタギじゃねえなというのは察しがついた。

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その後、俺は毎日トラックで運んでいる高級肉を"スキニーレザー"(ボビー・カナヴェイル)というフィラデルフィアのマフィアに横流しする副業を始めた。
始めたと言っても、そう何回もできることじゃねえ。

配送先の責任者に「スンマセン、知らん間に肉を盗まれました」とテキトーに言い訳をぶっこいたが通るはずもなく、俺は会社から訴えられるハメになった。
しかし、この時代はすでにジミー・ホッファが天下を取っていて、トラック運転手にとっちゃあ強い味方の世の中だった。
肉を盗んだ俺は普通に考えりゃあ完璧にムショへ直行してるはずだが、ビル・ブファリーノ(レイ・ロマーノ)という弁護士さんはやけに自信満々だった。

いやあビックリしたね。 裁判長が「警告しておくぞ」と言うもんだから、どんな御小言を頂戴されるのかと思ったら、俺に向かって言ったんじゃなかったのよ。
「証拠もないのに労働者を訴えるな。 くさいメシ食わせるぞ、コラ」 
聞いたことねえよ。 裁判長が法廷で原告の人間を恫喝するなんて。
まっ、なんにせよ俺は無罪放免。 

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そして俺は弁護士センセーから従兄だという人を紹介された。 思いがけない相手との再会だった。

ガソリンスタンドで出会ったあの男。
名前はラッセル・ブファリーノ。 もちろんそのスジの人間で、ペンシルベニアのマフィアのボス様だ。

そうそう。演じてるのはジョー・ペシだってよ。 ビックリだな。 生きてたのかよジョー・ペシ。

俺はブファリーノのおやっさんの仕事を手伝うことになった。 ペンキ塗りだ。
テレビでヒロミを観てDIYの趣味に目覚めたのさ・・・というのは嘘だ。
ペンキ塗りとは裏の社会で言う「汚れ仕事」だな。 ペンキは銃で撃たれた相手の飛び散る血のことを言う。
邪魔者を始末して、組織のやりやすい環境(色)に塗り替えて綺麗にするっていう意味でもある、そういうお仕事だ。

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こちとら戦争で何人もブチ殺してきたからな。 もうすっかり神経が麻痺してるのは自分でも分かってる。
命の重み? 人の痛み? 知らん、なんじゃそりゃ?

また兵隊気分に逆戻りだ。
俺は天職のように、組織の妨げになる奴らを脅し、泣かし、痛めつけ、そして殺していった。

人を殺すことがなんでもなくなるってのは悲劇だな。
ペギーという下の娘がいるんだが、俺の馴染みでもある食料品店で店主ともめたらしい。 万引きを疑われたのかなんか知らんがな。
その時、ペギーは店主にちょっと小突かれたと、俺は家でその話を聞いた。

ペギーを連れ出して店まで行った。
店主を外に引っ張り出して、白昼の路上でシメあげて右手をグッチャグチャにしてやったんだわさ。
ヤローは「手がぁ~!手がぁ~!」とピーピー泣いていた。
やかましい。 娘を小突いた右手に俺が罰を与えてやったんだ。 殺されなかっただけでもありがたく思え。

ペギーをわざわざ連れて来て、俺の暴力を見せつけるってのもどうかしてるだろ?
娘のためなら火の中水の中のカッコいいところを見せたかったんだが、彼女はドン引きしてたな。 当たり前か。
まあ、その他にもだな、娘が見てると思ったら、気持ちの抑えが効くと考えた計算もある。 いなきゃ店主をぶっ殺してるよ。

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ある日の午後。 俺はダイナーで一人のオッサンと相席をしていた。
オッサンはどうやら俺がブファリーノのペンキ塗りだってことを知ってるらしい。
近々クリーニング屋を始めるらしい御仁は、ライバル店の存在が目の上のタンコブのようで、それをどうにかできないかと相談を持ち掛けてきたのだ。

"少し心配と言う奴は、ひどく心配してる。 かなり心配と言う奴は必死だ"、というのが俺の知恵袋のひとつ。
どうやらかなり必死らしいオッサンの依頼を受けた俺はクリーニング屋を焼き払う計画を立てた。
報酬は1万ドル。

デラウェア州にある「キャデラック・リネン・サービス」というクリーニング屋を下見した。 なかなかデカい工場だ。
爆弾を仕掛けた車でも外に置いとけばよかろうかな?

ところが決行前に俺はブファリーノのおやっさんから呼び出された。

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おやっさんの隣りに、「おんどれシバいたろか」というオーラをプンプンさせたヒゲメガネのオヤジがいた。
アンジェロ・ブルーノ(ハーヴェイ・カイテル)というフィラデルフィア・ファミリーのボスだ。

驚いたことに、俺がデラウェアのクリーニング工場を焼き討ちしようとしてることをヒゲメガネ、そしておやっさんもすでに知っていた。
ヒゲメガネは言った。
「おまえが何かしようとしてるクリーニング工場の出資者を知ってるか? 俺だ」

・・・・・・・・う~ん、どういうことかな?
ってことはアレか? あの依頼人のオッサンはクリーニング屋ではなく、アンジェロ・ブルーノと張り合ってる敵の回し者だった可能性があるってことか?
おやっさんに話を通さずに、自分で勝手に小遣いを稼ごうとしたのが、どえらいドツボを踏むことになっちまった。 やっぱ闇営業に手を出しちゃいけねえな。

普通なら今頃俺の心臓は動いてなくてもおかしくないが、おやっさんが話をつけてくれた。
「ラッセルがいなきゃユダヤの連中に引き渡すところだ。 感謝しろよ、アイリッシュマンよ」
へいへい、二度といたしません。

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俺はおやっさんを裏切るまいと誓った。
まずは俺をハメようとしやがったクリーニング・オヤジを殺し、その後はとにかくペンキ塗りとしての仕事に精進した。

マフィアの数だけ、殺される連中もその数、いやそれ以上いる。 殺し屋とは予想以上に忙しい稼業だった。
毎日のように人を殺しまくったぜ。
殺す阿呆に死ぬ阿呆。 同じ阿呆なら殺さにゃ損そん。

殺しに使う銃は基本一回こっきり。 撃ったら川に捨てる。 これ常識。
銃をパンと撃ちゃあ川にポイと捨てる。
パンと撃ちゃあ川にポイ。 パンしたらポイ。 パンしたらポイ。
川底をさらえば小国が武装できるくらいの銃がある。

ついでに言うと、女房のメアリーと別れた俺はアイリーンという女と結婚した。 以上だ。

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俺はおやっさんから新しい仕事を与えられた。
全米トラック組合「チームスター」の委員長、ジミー・ホッファのボディガードだ。

俺はおやっさんに色々と助けられたが、このホッファという男からも直接でないとはいえ助けられた恩義がある。
今度は俺が力を貸す番だ。 シーランの恩返しの始まり始まり。

それにしてもだ。
人気、カリスマ性、世間への影響力・・・ この男の存在そのものが尋常じゃなかった。
エルヴィス・プレスリーやビートルズなんぞ目じゃねえ。
大統領の次に力を持つ男、それがホッファだった。

俺に会った時のホッファの第一声が告白本のタイトルさ。

『聞いたぞ。 おまえが家のペンキを塗ってると』

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知れば知るほどジミー・ホッファという男は実に面白い男だった。
映画スターでもない、才能豊かなアーティストでもスポーツ選手でもない。
人より秀でた一芸なんぞコレっぽっちもねえ、どこにでもいる人間だ。

しいて言うなら「強気」のカタマリだ。
労働組合をまとめるにはそりゃ強気じゃないと務まらねえとはいっても、この男の強気一辺倒は天然記念物なみに常軌を逸していた。

なんせカタギのくせに、マフィアに対しても平気で「おんどりゃ~!」って食ってかかっていくのだから、こいつ一本ネジが飛んでるんじゃねえかと思うくらいだ。
マフィアの奴らにすりゃ、かえって「こいつマジやべえな」と引いちまうんだな。

マフィアさえもビビるほど、バカ一歩手前の怖いもの知らずで、しかも口だけでなく、やり方はともかく不言実行のデキる男。 それがホッファという男さ。
だからマフィアも彼を買っており、味方につけようとすれば、ホッファもまたマフィアを味方につけて利用しようとしていた。

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俺はどんどんホッファという男が好きになっていった。
ブファリーノのおやっさんからは、この先、敵になるか味方になるかを見張っとけというようなことも言われていたが、少なくとも俺個人にとっちゃあ敵じゃねえ。

トラック組合のトップのくせにトラック運転手の経験ゼロ。 時間厳守にうるさく、パフェが好き。
パフェだってよ。 店に行って「ねーちゃん、パヘちょうだい」って言ってんじゃなかろうか。

確かに彼は組織のトップに立つ男だ。
だが、どこか彼は独りで闘っているようなところがあった。
マフィアの手を借りたりしてたとは言っても、心から信用しておらず、汚いことに利用する雑巾のようにしかマフィアを見ていない。
いつでも敵に回す覚悟を持ちながら奴はマフィアをコントロールしたがっていた。

長いものに巻かれようとしないし、己の本能の赴くままに、自由にしゃべり自由に行動する。
戦場で上官の言われるままにドイツ兵を殺していた俺は、一体自分の人生が誰の者で自分が何者であるかも漠然としたままここまで生きてきた。 今もそうだが言われるままに人を殺す、ただのアイルランド野郎なんだ。
ホッファのような人間がまぶしかった。 彼のような男になれるのなら・・・。

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好きにモノを言い、好きに行動して権力を持つと、エゴイストになるのにはそう時間はかからねえ。
全米トラック組合は実際のところホッファの私物と化していた。
運転手たちから掻き集めた膨大な額の組合年金をラスベガスの開発に投資していたらしい。

ケネディが大統領になり、弟のボビーが司法長官になった。
かねてからホッファが政界に影響力を持つことをうっとおしがっていたボビーはホッファをブタ箱にブチ込もうと躍起になっていた。
テメエの父親(ジョセフ・P・ケネディ)もマフィアとツルんで色々やってたことがあるってえのによ。

「ケネディのクソが!」
口癖のようにケネディ一家をディスっていたホッファは遂に組合年金不正運用で告発されてムショ送りとなった。

この頃から、ウチのおやっさんもそうだが、ホッファの世話になり世話を焼きの関係だったマフィアの連中はホッファに次第に見切りをつけ始めていた。

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1967年に収監されたホッファの刑期は13年。
しかし、やっこさんはわずか4年でオツトメを終えた。

それだけ模範囚だったってか? ちがうちがう、そんなワケねえだろ。 カネだ、カネ。
ホッファがムショに入った直後にボビーがロスでパレスチナ野郎に殺されてよ、ジョンソンが二期目の大統領選をバッくれた。 ここでホッファに流れが来た。
ホッファはジョンソンのあとにホワイトハウスの椅子に座ったニクソンと取引した。

チームスターの委員長を辞めることを条件に司法取引した・・・と良いように言えばそうなんだが、実際は賄賂をつかませて特赦を勝ち取ったのさ。
大統領を買収するなんてことを考えて実際にやるなんて、こいつマジでどうかしてるよ。

そしてシャバに戻ってきたホッファがおとなしくするはずもなく、再びチームスターの委員長に復帰する気満々だった。

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チームスターにはホッファの後釜としてフランク・フィッツシモンズが就いていたが、マフィアにとっちゃあ、そいつの方が好都合だった。
なにせ、ホッファが委員長の頃は組合資金を全部彼が一括管理していて、裏金の融通がなかなか効かなかった。
フィッツシモンズはホッファのようなやり方を辞めて、支部ごとに権利を分散させたので、マフィアへのカネ回りは実にスムーズだったのよ。

第一線への返り咲きに必死のパッチになっているホッファに対して、おやっさんは正直さじを投げていた。
いいかげんに隠居してくれよと、マフィアの連中にとってホッファは完全にオジャマ虫だった。

そこでババをつかむのはやっぱり俺なんだな。
おやっさんから「おまえが奴に言え」と言われたよ。
「限界だと告げる時が来た」

心苦しかったよ。 まさか俺からホッファに引退を迫るなんてな。
「最終通告だ」


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マフィアの連中からすっかり嫌われ、田舎に引っ込めと言われたホッファは分かりやすいくらいに顔色を変えた。
ハイそうですかと言うはずがないことは覚悟してたが、目ん玉ひんむいてブチ切れた奴の顔を間近で見たらなかなかの迫力だったよ。

「俺に何かあったらイタ公はみんなムショ行きだぞ」

あ~あ、言っちまったぞ。
マフィアの悪さを一緒にやってきたこの男はもちろん全部知ってるからな。
引退勧告はせめてものお情けだが、それを足蹴にして、逆にマフィアをゆすっちゃあ、もう取り返しは付かねえ。

おやっさんは腹をくくった。
「俺たちは手を尽くした。 奴の自業自得だ。 火の粉は振り払わねばな」
こんな悲しい気分は久々だ。

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俺ももう、とうに五十を過ぎた。
ペンキ塗りの仕事はこれが最後になればいいのだがな。

その相手がジミー・ホッファならば本望なのか、それとも不本意なのか、自分ではよく分からない。
できれば殺したくない男だった。
無茶苦茶な奴だったが、俺のかけがえのない友人でもある。

労働者の味方だったのは紛れもない真実だ。
集めたカネの使い方がとやかく言われたが、新しいアメリカを築き、夢と希望があふれる世の中の実現を望んだ末のラスベガス投資だったと俺は信じたい。
そのためにはマフィアを利用しまくったが、彼自身、決して極道の仲間になるようなことをしなかった。
なんだかんだでマフィアの連中を毛嫌いしてたのさ。
社会のクズだ、害虫だと思いながらマフィアをいいように操ってポイ捨てしてやろうという腹だったんだろう。 マジで無茶な野郎だよ。

クソみたいなマフィアよりも、額に汗して真面目に働く労働者の味方であることの方がホッファの生きがいだったんだろう。
彼のそばにずっといた俺は、奴のそんな生き方が羨ましかった。

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俺は今まで何十人という人間の命を葬ってきた。
もちろん、そんな人生はマトモな人間のものじゃねえ。

兵士の時も戦争の意味なんてまるで考えなかったことが、殺し屋の俺を熟成していった。
戦争での体験を言い訳にするつもりはないが、人を殺すことにほぼ何も感じなくなった俺は、同時に自分が何者であるのかを見失った。
「殺せ」と命令されて臆することなく「ハイ殺します」となる奴には「自分」というものがない。

戦争の時ならいざ知らず、戦争が終わっても非人道の極みである人殺しを掃いて捨てるほどこなす。
そこに俺の意思はない。 誰かのためにやっている。 そして人の道からどんどん外れていく。

人の人生を奪うという俺の人生。 一体なんのために俺は親から人生を与えられ、人を殺す人生を選択したのだろうか。
そして、ジミー・ホッファという友人を手にかけることに至って、俺は本当に自分の人生の意味が見えなくなったんだ。

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娘のペギー(アンナ・パキン)は子供の頃の食料品店での経験がずっとトラウマになっており、それ以来よそよそしくなった。
ブファリーノのおやっさんにも同じ匂いを感じるんだろう。
おやっさんがニコニコしながら愛想を振りまいても、挨拶一つしなかったくらいだ。

俺がそのスジの仕事に絡んでることは承知していたが、それでもテレビでどこぞのギャングが殺されたというニュースを観た時のペギーが俺の顔を恐怖の表情で見つめることが何度かあった。
その視線は本当に辛かったよ。
今じゃペギーは口を聞くどころか目も合わせてはくれない。

今さら家族への愛がどうだのと言ってもお笑い草だが、償えるものなら償いたい。
毎日のようにどこかで人を殺してる悪魔の様な父親を持ったことが、娘の心に一生の傷を負わせたのが俺の人生の一番の無念でもある。

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戦争で多くの敵を殺し、トラックの運転手をしながらケチな泥棒をして真面目に働いてる人に迷惑をかけ、マフィアの手足となって殺しを重ね、友人さえも撃ち殺した。 そして娘からの愛も失った。

そんな人生を望んでいた訳ではないのに、なぜこうなったのか?
ただの空っぽの男だったんだ。
何がしたいという大きな夢もなく、人から「やれ」と言われなきゃ動けねえ、ただのデクの坊よ。
あげく人の道から外れて、このザマよ。
何も残らねえ余生を迎えるだけだ。

俺は何者だったのか?
ただのアイルランド人だ。 そしてペンキを塗り続けた男。
ハッキリ言えるのはそれだけだ。

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上映時間が3時間半という「七人の侍」に匹敵する長さ。

総じてスコセッシの映画は2時間半超えなどザラにあるが、これほどの長さは珍しい。
「必要か?」と思うようなシーンが無きにしもあらずで、おそらく大手のスタジオの製作なら間違いなく「もっと短くしろ」とカットさせられているはず。
ここらへんが映像ストリーミングサービスの強みだろうか。
自宅で観るのなら時間は別にいいもんね。

ただし、これから配信でご覧になる方は、できれば「ちょっとトイレで一時停止」など極力控えてノンストップで鑑賞することをお勧めする。
この長さに味があるのだ。 そして語り口のリズムも心地いい。

テンポがイマイチ緩慢ではという評価も少なくないのだが、なんのなんの個人的には全く長尺感は感じなかった。
これは多分にジャンルの好みによるものだと思う。
こういった任侠ノワールが好きか嫌いかで感じ方も変わってくるのでは?

この手の裏社会モノは得てして長い映画が多いものだが、本作は3つの時間軸を行き来しながら、緊張を孕んだエピソードの数々が有無を言わさぬエネルギッシュな弁舌で畳み掛けてくる。
このグイグイくるテンポがアッシには快感でたまらなかった。

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義理と人情を秤にかけりゃの「唐獅子牡丹」的な、人外に堕ちた男が組織と友情の間で葛藤する懺悔の物語である。
スコセッシの撮るヤーさん映画に、これまた王道というかベタというか、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシという完全無欠の任侠役者を配せば、面白い映画が出来ないはずがない。

主人公の回想のあと、ストーリー全体の中盤部分からスタートする、スコセッシお得意の前奏。
バイオレンス、スローモーション、複数時間、血気みなぎるオトコ臭・・・・
どこを切り取ってもスコセッシ印が顔をのぞかせる魅力たっぷりの男のロマンチカに昇天。
こんな贅沢すぎる3時間半が他にあるか? 長すぎるなどと言ったらバチが当たるぞ。

東映のかつてのお家芸に想いを馳せずにいられないゴリゴリの任侠映画を、スコセッシがセルフカラー全開で仕立て上げた快作だ。

それにしてもロバート・デ・ニーロを若返らせたインダストリアル・ライト&マジックの技術が凄すぎる・・・。

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実際のフランク・シーランの本音はどうだったかは分からないが、人殺しを生業とし、組織の掟の中でしか自己確立できなかった男は、寿命を全うして、自身の中で贖罪を果たせたのだろうか。

“マフィアも歩けば銃弾に当たる”世界でもがく悪党の映画に、我々カタギはなぜこうもしびれてしまうのか。
これを観ればそこらのチャラいパリピなどヘドが出るだろ?
罪を背負った背中が泣いている男の姿の中に 学ぶべきものは多い。


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「賢人のお言葉」
 
「まだまだ自分の何分の一も知っちゃあいない。 だから生きることにせっかちなのさ」
 ジェームズ・ディーン
 (死の一週間前の言葉)
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