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ひとよ
2019年11月24日

T0024059p.jpg今年も残りふた月を切ったこの時期に来て、尋常ではない傑作がすべりこんできた。

今年すでに「麻雀放浪記2020」、「凪待ち」を送り出している白石和彌監督の最新作は劇団KAKUTAを主宰する桑原裕子原作の舞台劇の映画化。

ある事件を機にバラバラになってしまった家族4人が再会し、壊れた絆の再生に向けて歩み出す物語である。


家族といっても個人個人、自分の人生がある。
しかし、その血の繋がりが思わぬ足かせとなることも多々ある。
「切っても切れない」関係を切りたくなっても、たとえ切ったとしても、同じ血が流れている事実は何があろうともそこは動かせない。
それでも一度壊れてしまった家族が再び繋がるには、何に怒って何を赦せばいいのだろうか。
あの日の一夜(ひとよ)からずっと明けきらない闇をさまよった家族の魂に朝陽がさす・・・・・・


平成16年5月23日。
その日の夜は激しい雨が降っていた。
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とある地方都市にあるタクシー会社「稲村交通」の前に一台のタクシーが停まり、後部席から一人の男が傘をさしつつ下車する。
「飲まなきゃやってられねーよ!」みたいなことを大声でぼやいている。 かなり酔っているらしい。
しかし、その直後。 突然タクシーが猛スピードでバックして男を轢いた。

稲村交通の営業所の建物は経営者家族の住居でもあり、そこでは三人の兄妹が留守番をしていた。
高校生の兄・大樹、中学生の弟・雄二、そして妹の園子は怯えていた。
“あいつ”が帰ってくる。 どうせ酒に酔っているであろう“あいつ”が帰ってきたら、また殴られる。 いつ終わるか分からない地獄が始まるのだ。

会社を切り盛りしつつタクシードライバーもこなしている母が居酒屋まで“あいつ”を迎えに行ってる。 母は大丈夫だろうか。
食卓に集まり、気をもんでいた兄妹の前に、帰宅した母のこはるが顔をのぞかせた。
作り置きのおにぎりを食べながらこはる子供たちに言った。

「お母さん、さっき・・・・お父さんを殺しました」

子供たちは固まった。 母は確かに言った。 “あいつ”を殺したと。
さらにこはるは言う。
「もう誰もあなたたちを殴ったりしない。 これからは自由に生きていける。 何にでもなれる。 お母さんは今、すごく誇らしいんだ。 ・・・これから警察に行ってきます。 必ず戻ってきますから」

そう言い残してこはるは、連絡しておいた甥の丸井の運転する車に乗って去ってしまった。

それから十五年の歳月が過ぎた。
タクシー会社は丸井が引き継ぎ、現在は「稲丸タクシー」と名を変えて今も営業を続けている。
従業員もこはるの事情を承知し同情している古株も多く残っている。


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三兄妹の長女である末っ子の稲村園子(松岡茉優)は地元のスナックに勤めている。
美容師になりたかった本来の夢はとうにあきらめた。
学費のこともそうだが、誰が殺人犯の娘に髪を切ってもらいたがるだろうかと思うと夢を追う気力も失せた。
狭い町である。 噂が広がるなどあっという間だ。

こんな町を出て余所へ行けばやり直しも効くかも知れないが、必ずや帰ってくる母を園子は待ちたかった。
連日、ひどい暴力を振るう悪魔のような父親がいる限り自由などないだろうと思っていた自分たちを、母は自ら罪を犯して救ってくれたのだ。
でもしょせん人殺しは人殺しである。 この町に帰ってきたら母はどんな誹謗中傷を受けるか分からない。
だから今度は自分が救わねばと思っていた。

“あいつ”の命日に墓参りに行った。 兄の大樹も一緒だが、もう一人の兄である雄二とは連絡がつかなかった。
本当はあんな奴の墓参りなど行きたくもないが、これも人の目を考えてのことである。
園子は柄杓の水を墓石に叩きつける。
「もう死んでるけど、さらに死ね!」

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三兄妹の長男・稲村大樹(鈴木亮平)は、電気屋の社長の娘と結婚し、そのまま会社の雇われ専務に収まっている。
実質上は「何もせんむ」で、会社の中に彼の居場所はなく、社員からは邪魔者扱いされている。

子供の頃から大樹は吃音に悩まされていた。
父親に対する恐怖から出たのかは分からないが、この吃音のせいで人とコミュニケーションを取るのが苦手だった。
こんな自分とよく一緒になってくれたものだと、妻の二三子(MEGUMI)には感謝しかない。
だから彼は言えなかった。 父親を殺して服役中の母がいることを。
二三子には、両親ともに死んでいて、この世にはいないと言ってある。

だが、妻とはしばらくうまくいっていない。
母がもしかしたら帰ってくるかもしれないという杞憂とともに、鬼父と同じ血を引く自分が人の父親という身になったことが恐ろしく、年々彼は妻子に心を開くことが少なくなり、今や離婚届を突きつけられている状態である。

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次男の雄二(佐藤健)は東京に出て、大衆雑誌のフリーライターをしている。
ただの風俗のルポなのにクソ真面目な文章を書いては担当者からボツをくらう日々に、こんなはずではなかったと雄二は思う。

雄二は小説家になりたかった。
中学の頃に、息子の将来の夢を知っている母が買ってくれたボイスレコーダーを常に肌身離さず持ち歩いては、思いついた文章を録音したりしながら小説家になる夢を膨らませていた。

だが、15年前のあの夜に母が「お母さん、さっき・・・お父さんを殺しました」と言った言葉がいつの間にか録音されてたことに気づいて以来、ボイスレコーダーは仕事場の机の中に置かれている。
それを見るたびに雄二の気持ちはささくれる。

父親が一度キレた時に振るう暴力は加減がなかった。
特に癖のように反抗的な目を向けてしまう雄二に対して父親はさらにエキサイトした。
ヘタすれば死ぬのではないかというところまで殴られ蹴られ続けた。

彼は耐えようとした。 独り立ちするまでの少しの辛抱だと。
だが母があいつを殺したせいで人生が狂った。
「何にでもなれる」と母は言ったが、なりたいことが叶わなかった雄二にとって、あの日の夜はまだ続いている。

大樹園子とはほとんど会わない雄二だが、ある日、大樹から「母さんが帰ってきた」という連絡がくる。


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稲村こはる(田中裕子)は夫の雄一を殺した罪で15年服役して出所したあと、全国各地を転々として暮らしていたという。
このまま帰らずにどこかで違う人生を歩むことも考えたが、「必ず帰ってくるから」と子供たちに誓った約束を果たそうと戻ってきた。

この15年間、子供たちが、稲丸タクシーがどれほど世間の衆目にさらされてきたかは、こはるにもある程度の想像はつく。
申し訳ないと思いながらも、自分がやったことに後悔はないという自負を胸に、堂々と戻ってきて自分も世間の風を受けることを決めたのだ。

認知症の母親の徘徊に悩んでいる事務員の柴田弓(筒井真理子)は「こはるちゃんみたいな度胸があったらなあ」と漏らすが「度胸じゃないよ」こはるは言う。
なにもかも覚悟の上なのだ。 どんな事情があろうと人を殺して褒めてくれるような社会などない。
あとあと世間から容赦なく罵倒されることも考えた上で、それでもこはるはこれしかないというやり方で暴力亭主を葬った。

義父母が亡くなるまで待ち、子供たちのためにせっせとお金を貯めこんでおいて、周到に計画を練って犯行に及んだのだ。
だから情状酌量も求めなかった。 求刑通りの刑を受け入れた。
法は法で正しいが、自分のやったことも自分の中では間違ってはいないとこはる心の中で胸を張る。

母が帰ってきたことに三兄妹のそれぞれの想いは微妙に異なり、複雑な感情が自身の中で錯綜する。

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園子は母に感謝している。
なにせ父親が生きているときの家庭は地獄だった。
その地獄から母が自ら生け贄なる形で自分たちを救い出してくれたのだ。
だが、その後まったくの無傷だった訳ではない。 ある意味自分も生け贄になったようなものだ。

想像以上に世間の風当たりは強く、美容師になる夢に打ち込む環境ではなくなった。
寂れたスナックで働き、客の勧める酒をあおっては悪酔いし、身内のタクシー会社に甘えて迎えに来てもらっている。
やけ酒なのか。 やけ酒なのだろう。 

父親と同じく、女に手を挙げるクソみたいなカレシと別れたばかりの園子は、貧乏クジを引いたドライバーに今夜も八つ当たりする。

だがいいのだ。 母だけにすべてを背負わせる訳にはいかないと園子は人生を受け入れた。

母が出所する日に柴田さんと一緒に出迎えに行ったが、宇治金時の美味しそうな店につられてる間に母は出所してしまってスレ違いになったことを園子は悔やんでいた。
もうこのまま帰ってこないのではと思っていた矢先の母の帰還は素直に嬉しい。

兄たちのビミョーな気持ちも分からないではないが、自分だけ東京へ逃げたくせに、世間の奴と変わらない目付きを向けながら、スレた態度を隠そうとしない雄二には猛烈に腹が立つのだった。

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雄二園子とは対照的に、母がやったことにはどうしても納得できない。
一度罪を犯した者の家族にさえも、これほど世間は敵意を向けるものなのかということを痛感させられた。
そうなることが分かっていたはずではないのか。
自分だけでなく大樹園子も思い描いた道を諦めざるをなかった。
事件さえ起こさなければ今は・・・

自分は耐えようとした。 母もなぜこらえてくれなかったのか。
中学の頃、コンビニでオトナの雑誌「デラべっぴん」を万引きして店長に捕まった。
警察に通報されそうになるところを、迎えに来た母は、自分が買ってきてと頼んだのだ、こういう雑誌を見ないと体が火照ってしょうがないのだと、店長がドン引きするような嘘をついて勘弁してもらった。

昔からそういうところのある人だった。
子供が窮地になると自ら火の粉をかぶりに行き、恥をかこうが罵倒されようが人身御供となって子供を守りたがるのだ。

あの男を殺すことで子供を守りたかったのかも知れないが、自分たちのメチャクチャな人生は何も変わらない。
帰省して久しぶりに会った母は髪が白くなっていたが、どこか吹っ切れたような顔をしていた。
あの男がいた時には見ることのなかった柔らかい顔だ。

自分が正しいことをした聖母のつもりなら、それは違うと言いたかった。 誰からも赦されて生きていく場所なんかないのだと、雄二はパソコンに向かって、ある記事の原稿を打ち込んでいく。

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大樹にとっては母が戻ってきたことは複雑だ。
もちろん嬉しくはあるが、正直なところ、タイミングが悪かった。

妻に対して母のことは嘘をついたままだ。
母も、自分が死んだことにされてるなど知る由もない。
大樹が家庭持ちになったことを聞いて母は嬉しそうにしていたが、うまくいっていないことを知ると顔を曇らせた。
大樹の心の底には「全部あなたのせいだ」という感情がある。 母が事件さえ起こさなければ家庭はもう少しうまく回っていたかもしれないのだ。
一方で、そんなことを言ってはいけない、そんな風に考えるのは間違いだという思いもある。

母が自分たちを助けるために殺人を犯したことは大樹自身も受け入れたいのだが、人の夫となり、人の父親になった彼には人殺しを肯定してはいけない気持ちと母を赦す気持ちが胸の中でせめぎ合っていた。
雄二が何かにつけて母を責めるような恨み事を口走るたびに大樹「母さんは母さんだぞ」と咎める。 自分自身にも言い聞かせるように。

両極とはいえ、態度がハッキリしている雄二園子とは違い、やや中立地帯な部分で彷徨っている大樹。 兄妹の中で彼だけが家族を持ってるからだ。

やがて離婚届のサインを迫る二三子に、遂に母の存在と過去の罪が知られることになる。
なぜ黙っていたのか、なぜ自分や子供と向き合ってくれないのかと責める二三子に対し、殺人犯の息子である苦悩を背負い込んだ大樹の感情が爆発する。

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父を殺した母とその子供ら三兄妹たちの想いのすれ違いから絆の再生へと繋がる展開のけん引役となる人物が、タクシー会社に新人ドライバーとして入ってきた男、堂下道生(佐々木蔵之介)である。
愛想も良く、真面目に業務をこなし、酒もタバコもギャンブルもやらない好人物で経営者の丸井のウケもいい。

映画の前半では、まるでインパクトのないキャラクターながら、佐々木蔵之介がこんな小さな役で終わるはずがないという観る側の予想通りに、この堂下という男が真の顔を見せ始める後半からストーリーは大きく動く。

彼には別れた妻と暮らしている17歳になる息子の和樹(若林時英)がいる。
堂下はある日、会社に10万円を前借りした。
和樹が会いたいと言ってきてくれたのだ。
堂下は舞い上がるほど嬉しかった。

息子とは幼い時以来だ。 もちろん二人っきりで一緒に過ごした記憶などない。
父親らしいところを見せようと、メシを食ったあとは、息子にちょっとしたお小遣いを持たせて、いいカッコをしたいという気持ちがあった。 そのための給料前借りだった。

久しぶりに会った、年頃に成長した我が子は不良になっているようでもなく、真面目そうではあるが少々おとなしいようだ。 初めてといっていほどの父親との対面だから緊張しているのだろう。
まあ、極道になるよりは全然マシだ。 自分みたいになるよりは・・・・・
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和樹と食事をし、帰り際に幾らかのお金を持たせて別れた堂下
自分を「父さん」と呼んでくれて、過去のことを気にしていない様子の息子に彼は感謝した。
堂下にとっては幸せに満たされた特別な一夜となった。

堂下は実は元「反社」の人間である。
今はスッパリその世界から足を洗い、酒も断った。
妻や子供に顔向けできない人生を歩んできた男は、一からやり直そうとした。

だが、堂下の過去を知るチンピラの友國(大悟(千鳥))との思いがけない再会は、そう易々と抜け出せない極道の世界の恐ろしさを堂下に知らしめることになる。

"親の因果が子に報い・・・"
なぜこうなってしまったのか。 自分が今まで息子に向き合えなかったからか。 人を泣かせてきた自分と同じ血が息子にも流れてるからなのか。
どうしてだ。 どうしてなんだ、和樹。 堂下は絶望する。
そして、折れた心のまま、彼は事件を起こす。


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親子の絆の再生という物語はさほど珍しくはないが、親子という容易にままならぬ関係について改めて深く考えさせられる映画でもある。

「親の因果が子に報い」が本テーマであるとも言え、子のために善かれという想いで親の選んだ選択が、結果的に空回りして、親の犯した罪が子の人生に影響を及ぼしていく。
この映画は罪に囚われ続ける親子が、そこから脱け出すための取っ掛かりに手をかける、夜明け前の物語である。
まだ陽が昇るところまではいかず、完全な答えを出す訳ではないが、それでも親子という「人間対人間」のドラマの感動が十二分に届くのだ。

やり場のない不条理な状況からなかなか前へと踏み出せない三兄妹の三者三様の感情が激しく行き交い、重荷を背負った彼らの素顔が浮かび上がってくる心理劇を軸に、母親の実りなき信念の無情さが親子愛の絶対神話に疑問を投げかける、濃厚な家族ドラマがエッジの効いた演出で描かれている。

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子育てや教育をはじめとした、子供のためのエデュケーションに答えはない。 すべて結果論だ。
あれを教えておけばよかった、教えなければよかったという後悔に意味はなく、ましてや自身の生き方が子供の心に差し障ったのかと、自己否定しても詮無いことである。

母のこはるは夫を殺した。 子供たちのために。 結果的には悪化しただけだ。
堂下は極道だった。 子供のために足を洗ったが手遅れだった。
子供のために倫理を捨てた母親。 子供のために父親に戻ろうとした男。
だがその「子供のために」が空転してしまう悲劇は、しょせん親は親、子は子という、個人の人生は個人のものである現実にぶちあたる。

いい意味でも悪い意味でも「親の心、子知らず」である。 家族とはそれで当たり前というか、人の親はそこを受け入れて乗り越えて、さらに自分を認めなばならない。

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大樹園子も望んだ道に進んでいない事について不思議がる母親に雄二は静かにキレた。 なんて無神経な母親だろうかと。

隠し持ったボイスレコーダーのスイッチを入れながら、彼は敬語で母親に質問する。
「子供たちの人生がめちゃくちゃになっている時に、あなたは何をしていましたか?」
十五年間、溜まりに溜まった感情を露わにして詰め寄る雄二の冷え冷えとした表情と口調がこはるにズシリとのしかかる。

「親父が生きている方が楽だった。 暴力に耐え続けてればよかったのを、あなたが殺して何もかも分からなくなった」
だが、こはるの"あの夜"の覚悟は生半可ではない。 それだけ「子供のために」の信念は揺るぎない。

「お母さんは間違っていない。 お母さんは絶対間違っていない」
「じゃあ、何しに帰ってきたんですか?」

母の「間違っていない」という覚悟の重さの言葉に、雄二は未だ過去に囚われたままの自分の足元を見せらてる気分になる。
「何しに帰ってきたんですか?」は、変わりもしない過去を引きずり、うまくいかない人生をどうやって変えていいか分からない彼の卑少さから絞り出された疑問形の言葉だ。 

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堂下こはるをタクシーに乗せて自暴自棄になって暴走するクライマックスで、跡を追う三兄妹は"あの夜"にフラッシュバックする。
特に雄二は、自分を殴りまくった父親に対する感情、または警察へ出頭する母の面影を追っていた。

何がどこで狂ったのか。 どうするべきだったのか。
そもそも、あの父の子として生まれたことが間違いか? 人目から逃げて母を恨んだ卑怯な自分の十五年間に、どこからやり直せばいいのかという答えはあったのか?

堂下は言う。
「おまえのせいだ。 おまえが全部ぶち壊したんだ」

自分が変わらねばならなかったのに。 過去は変わらないのに。
「どっからやり直したらいいのか教えろよ・・・」雄二は慟哭する。

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堂下もまた、父親として「子供のために」という想いが届かなかったことに心が折れて泣き叫ぶ。
「あの夜は何だったんだ」
やっと父親らしくなれた。 息子は息子で、この人が父親なんだという心で顔を見て言葉を聞いてくれてるのだとばかり思っていたのに。

あの夜は何だったのかとむせび泣く堂下に、こはる「ただの夜ですよ」ポツリとつぶやく。
「自分にとっては特別でも、他人にとってはただの夜なんですよ」

子のためならば、親が何をするかは結果が何であれ、それはそれで過ちではない。 否定もならぬ大義である。
それを子がどう受け止めるかだ。 不遇は親のせいではない。 自分がどう変わるかにかかっている。
将来を見据えて自身がどう歩き方を決めるかで、いくらでも人生はあらゆる疑問の答えが見つかるのだ。

夜は必ず明けるものだが、太陽に背を向けてては同じことだ。
陽の光は自分が上を向いて顔を上げねば拝むことはできない。

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この映画は物語そのものの感動ももちろんだが、俳優陣の圧倒的とも言える演技の凄味に耳目を奪われっぱなしになる。

佐藤健の出演作を全部観てる訳ではないが、これまでより一段ギアを上げたような気迫ならぬ鬼迫のこもったダークな役柄は彼に最もふさわしいのではと思える。
パンクした自転車を蹴り上げる、あのちょっとした動作ひとつ取っても、三十になったばかりと思えぬほどの円熟味がある。
登場してから最後まで全編に渡り、映画の空気を支配する佐藤健の凄さがハンパない。

松岡茉優は「勝手にふるえてろ」以来、観るたびに「どこまで覚醒すんねん状態」が発動し続けている。
「万引き家族」や今年の「蜜蜂と遠雷」もそうだが、役を自分のものにする才がズバ抜けてエグい。
不思議なことに松岡茉優と分かっていても、「松岡茉優が演じてます・感」を出さないのだ。 どうなってるのだ、この女優さんは。

鈴木亮平も新境地であるとはいえ、思えば役を選ばない人だ。
変態仮面をやってたぐらいである。 演技に対する志向の高さが伺えるこの役者は今回も素晴らしいパフォーマンスだ。
あの「ああああああっ!」とブチ切れるシーンにはドキリとさせられるほどの役への憑依感が全開だ。

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もちろん田中裕子も見事なのである。
白髪は彼女の提案で自ら染めたのだそうな。
やつれたビジュアルをあえて纏いながらも、芯の強さが残るバイタリティ抜群の母親という難役をリアルに演じ、さすがな所を見せてくれる。

また脇を固める役者もグッジョブ揃いで、丸井社長をコミカルに演じた白石作品の常連、音尾琢真や、「お母さん、殺しちゃったよ」が絶品の筒井真理子も、姐さんキャラの韓英恵も素晴らしい。
ただ、千鳥の大悟のキャスティングはいかがなものかと。 いや、大悟はちゃんとやってるんだけど。

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やはり「デラべっぴん」に触れねばなるまい。 (別に触れんでもええがな)
中学生の雄二が万引きし、そして十五年後に母こはるが同じ店から復刻本を万引きする、伝説のエロ本である。
いや、アッシの場合はどちらかというと「オレンジ通信」、「アップル通信」の方なのであるが。

80年代の男子は本屋でビニ本を買う勇気もなければ、レンタルビデオ屋でアダルトビデオのコーナーのカーテンをくぐる勇気もなかった。
せいぜい「週刊プレイボーイ」や「週刊平凡パンチ」、または「GORO」でムスコをなだめるのが関の山だった。

そこへ彗星のごとく出現した救世主が「オレンジ通信」だった。
発売中のアダルトビデオがワンサカと紹介されてる内容で、近所にあったエロ本の自販機まで夜中にこっそり買いに行ったものだ。(多分本屋では売ってなかったかも)
お金を入れて本が出てくる時、ガタン!って結構な音がするのがヒヤヒヤだった。
何よりも表紙がまったくエロ本っぽくないというのがどんなにありがたかったことか。

「オレンジ通信」、「アップル通信」から少々遅れて英知出版から出たのが「デラべっぴん」である。
こちらも「AV観るより、こっち観とけ」な嬉しい内容だった。
ただ、映画の中ではコンビニで売ってるようだが、アッシらの時代ではコンビニでは売ってなかったと思うが。
すげーな、平成。

雄二大樹園子がタクシー会社の事務所の裏側でタバコを吸いながら、母が「デラべっぴん復刻版」を万引きしたことをネタにするシーンは世代にはツボ。
「復刻版つくってんじゃねーよ」にはワロた。



「賢人のお言葉」
 
「子供を父や母に結び続けている絆は、決して切れることはない。 だが、それはゆるむのである」
 デーヴィッド・ハーバート・ローレンス
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