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エセルとアーネスト ふたりの物語
2019年11月19日

T0023592p.jpg51Mm7CnvOPL__SX258_BO1,204,203,200_ レイモンド・ブリッグズという英国ロンドン出身の絵本作家がいる。 現在85歳。

彼の代表作といえばやはり『スノーマン』であろう。

文字が一切なく、絵だけで物語を語る、まさに“絵本”。
世界各国で出版され、もちろん日本でも長きに渡って親しまれている珠玉の名作である。

レイモンド・ブリッグズは1934年にロンドンのウィンブルドンで生まれた。
中等教育学校から大学まで一貫して美術を学び、ブライトン美術学校で教師として教鞭をとるかたわら、1973年に『さむがりやのサンタ』で絵本作家デビュー。

『サンタのたのしいなつやすみ』、『いたずらボギーのファンガスくん』を経て、1978年に『スノーマン(ゆきだるま)』を発表し、さらには核戦争の恐ろしさを描いた『風が吹くとき』(1982)も大いに反響を呼び、こちらはアニメーション映画にもなった。


そんな偉大なクリエイター、レイモンド・ブリッグズが自身の両親の人生を描いて、英国ブックアワードを受賞した傑作『エセルとアーネスト』(98)がイギリスを代表するアニメーション監督、ロジャー・メインウッドによって映画化。
41年間に渡り、“ふつう”を懸命に生きた愛しき夫婦の物語を、原作と変わらぬタッチで再現した、魂を揺さぶる感動作が誕生。
なお、ロジャー・メインウッドは2018年、ガンのために65歳で死去し、これが遺作となった。


The-Snowman-Resin-Money-Box-Bank-Figurine-Ornament-Raymond-Briggs-SM107-19cm-162700525465.jpg こんにちわ、スノーマンです。 はじめて喋ります。
はい? ジャニーズ? Jr.の9人組? なんですか、それは?
よその事務所のタレントのことは知りませんよ。 今は一旦忘れてください。

あらためまして、私はスノーマンです。
これから私の生みの親であるレイモンド・ブリッグズさんのご両親のお話である映画「エセルとアーネスト ふたりの物語」のことを語らせていただきたいと思います。

とは申しましても、さりとてドラマチックな展開が巻き起こったりする話ではありません。
極々どこにでもある夫婦のありふれた普通の生涯の話です。
しかし、この話を語り終えた時に、いかに「普通」というのが、かけがえのないものかということがご理解いただけるのではないかと思います。

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まず、オープニングは実写で始まります。
仕事場にいるレイモンド・ブリッグズさんがご両親の物語を書くことについて、一言述べられます。

「ママとパパは普通の人だった。 普通の人生・・・ それを絵本にしようと思った。 『こんなんじゃなかった』とか『こんなことまで・・・』とか恥ずかしがるかもしれないけど・・・」


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この方がのちにレイモンドのお父さんとなるアーネスト・ブリッグズさんです。
毎朝、手押し車で牛乳配達の仕事をしています。
朗らかな性格で、楽天的な一面もありますが、DIYも得意なアイデアマンです。
俳優のヴィクター・マクラグレンのファンだそうです。

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こちらはのちにレイモンドのお母さんになられる、エセル・ボウヤーさん
とある上流家庭のご婦人の家にメイドとして働いています。

エセルさんは、いつも決まった時間に2階の窓から外を覗きます。
牛乳配達を終えて自転車で帰宅する青年といつも目が合い、にこやかに手を振る彼に、エセルさんは黄色い雑巾を振って挨拶します。

でも、エセルさんは仕事の合間を縫ってのことなので、どうしてもタイミングが合わない事もあります。
メイドとして働きに来てるこの家のご婦人に用事で呼ばれたら、いつまでも窓に張り付いてる訳にはいきませんので、"自転車のカレ"とスレ違いになることも。

そんな時は彼の方も、窓で雑巾を振ってる彼女が今日はいないとなると気になります。
そういう時に行動に移すのが早いのがアーネストさんという人です。
無題 bvc c 
「君が窓から雑巾を振るから来たよ」

来たよ、と言われてもねえ。
でもこれが、エセルさんアーネストさんの本格的な出会いでした。

「映画を観よう」アーネストさんが誘ったのは、ヴィクター・マクラグレン主演の『血涙の志士』。
ジョン・フォードが監督したサイレント映画の傑作です。

エセルアーネスト、最初のデート。 1928年の春のことでした。

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それから2年後の1930年、エセルさんはメイドの仕事を辞め、二人はめでたく結婚。
25年ローンで分譲住宅を買い、ウィンブルドンでの夫婦生活がスタートしたのです。

家の内装を見ながらはしゃぐ二人の姿はなんとも微笑ましいものがありました。
「見てよ、フランス窓だわ!」
「すごい、水洗トイレだ」
「嬉しいわ、庭が欲しかったのよ」


お子さんを授かった時、エセルさんは38歳。 難産だったそうです。
お医者さんからは高齢出産のために二人目は無理だと言われました。
それでも待望のお子さんです。 それがレイモンドでした。

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レイモンドはすくすく育ち、活発でしっかりした子になられました。
アーネストさんは息子さんを「ぼうず」と呼びます。

「ぼうず、嵐のニノさんが結婚だってよ」
「マジっすか」 「幸せになってほしいわね」
「ぼうず、剛力さんがカレシと別れたぞ」
「マジっすか」 「どうでもいいじゃないの」
「ぼうず、チャンスだぞ。 剛力さんは今フリーだ」
「いや無理っす」 「あなた、変なこと言わないで」
「じゃあ、俺がいくか」

「応援するよ、パパ」 「二人とも、シバくわよ」


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エセルさんアーネストさんの二人は言うまでもなく仲がいいのですが、政治のことについては意見が対立しています。

下町の労働者階級出身の牛乳配達人であるアーネストさんは労働党支持者。
対するエセルさんは品のいい街で生まれ育ち、上流家庭のメイドもしてましたから、少し自分を上に見ているところがあります。
「私たちは労働者階級じゃありません」と言って保守党を支持しているエセルさんですが、まさか数十年後のイギリスに保守党から女性首相が誕生するとはさすがに予想してなかったでしょう。

イギリスは30年代頃から保守党が強く、選挙に勝つとエセルさんは鼻高々。
アーネストさんにはドイツで労働党党首(ヒトラー)が首相になったことが羨ましくてなりません。(1933年)
しかし、よもやこのドイツが世界の人々の"普通"を揺るがしていくのです。

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1939年。
「チェコスロバキアの半分をヒトラーにやっちまったぞ・・・」
ほどなくして、イギリスが宣戦布告。

「戦争が始まる・・・」
政府の方針で150万人の学童疎開が行われ、レイモンドはドーセットの親戚の元に行くことに。
「まだ5歳なのに・・・」と、エセルさんは泣き暮れておりました。

それでも、まもなくして届いたレイモンドからの便りが夫妻の心の支えになりました。
「"敬具"だってさ、フフフ。 どこでそんな言葉覚えたんだろうね」

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空襲に備えて裏庭にシェルターを作って一夜を明かす日も多くなりました。
「思ったより居心地いいな」
床は水浸しですが。

庭のシェルターだけでなく、「モリソンシェルター」と呼ばれる、動物が入る檻のような室内用シェルターもあります。
政府から送られてきたパンフレットを基に組み立てるのですが、これはただ寝るだけのもの。
家が崩れて圧死する心配はないでしょうが、爆風の塵やホコリはまともに食らいます。

こういうヤツです↓
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【エサを与えないでください】


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空襲に遭うロンドンで消火活動に参加するアーネストさんです。

相当大変な思いをされたのでしょうか。
アーネストさんは憔悴しきって帰宅。
「疲れたよ・・・」と言うなり彼は泣き出しました。
「造船所は死体だらけだ」

この映画でたった一度だけです。 アーネストさんが泣くのは。
子供のように泣きじゃくるアーネストさんエセルさんは抱きしめて慰めます。
「こんなこと、いつまで続くのかしら」

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数年後、ドイツが降伏し、戦争が終わりました。
人々は通りに繰り出して勝利を祝います。
アーネストさんも大いに喜び、美酒に酔いしれながら、近所の友人を見つけて宴に誘うのですが。

「息子が戦死したんだ」
「・・・そうだったな。 ごめんよ、忘れてた」
「いいんだ」
「もう二度と戦争なんてご免だな・・・」



さて、レイモンドですが、グラマースクールに通ったくらいですから、さぞ勉強ができた子だったのでしょう。
しかし青年に成長したレイモンドはスクールを中退して、美術を学びたいと言い出し両親を驚かせました。

特に中産階級の意識が強いエセルさん「絵描きなんかじゃ生活できない」と猛反発しますが、レイモンドの決心は固く、好きなことに打ち込む道を進むのだと、自分を曲げない立派な若者に成長したことがアーネストさんにはちょっぴり嬉しくもありました。
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心の病を抱えた恋人ジーンと結婚して、片田舎のサセックスに家を構えたレイモンド
相変わらずエセルさんは何もかも気に入りません。
レイモンドの長髪も髭も田舎の暮らしも、教会で式を挙げない今風の結婚も。

息子夫婦の暮らす家を訪ねて、「陰気な家ね」と毒づく母親とどうしても相容れないことに悩むレイモンド
アーネストさん「ぼうず、俺はこういうところに住みたかったよ」レイモンドを慰めます。

さらにエセルさんにとってショックだったのは、レイモンドたちが子供を作らない、作れないのだというのを知ったことでした。
「私たちは孫を抱けないの?」 「ごめんよ、ママ」


それから月日は流れ、人類が月に行った時代。
70を過ぎたエセルさんは体調を崩し、やがて入院することに。
アーネストさんは献身的に看病しますが、エセルさんの体は少しずつ確実に悪くなっていきました。

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レイモンドが見舞いに訪れ、ごく普通に会話をしていたエセルさんですが、アーネストさんが席をはずした時、「ねえ、さっきのおじいさん、だあれ?」レイモンドに聞いたのだそうです。

人には誰にでも“その時”が訪れます。
1971年。 エセルさんが亡くなり、数ヶ月後にアーネストさんもあとを追うように世を去りました。
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The-Snowman-Resin-Money-Box-Bank-Figurine-Ornament-Raymond-Briggs-SM107-19cm-162700525465.jpg 20世紀の始まりから約70年の人生を慎ましく生きた普通の夫婦の物語です。
彼らの人生には戦争という辛い体験があり、普通の人生だったとは確かに言いがたいです。
しかし、そんな時代でも、夫と妻は愛し合い、息子のことを愛し、「どこにでもある家庭」を守り抜いてきました。

普通に学校に行き、普通に仕事を持ち、普通に恋をし、普通に結婚し、普通に子供を産んで育て、普通に老い、子供の成長を見届けて、そして静かにこの世から去っていく。
何の面白みもない人生でしょうか?
いえ、これほど素晴らしい人生はないのではと私は思います。
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他人とは違う才能に恵まれた人のドラマチックな人生もそれはそれで素晴らしいでしょう。
それと同じように普通の人の普通の人生もまた、普遍的な人間力の魂の為す御業として讃えられるものなのです。

この映画で描かれる夫婦の物語は、さして劇的でもなく、エセルさんの偏見意識や夫妻の死の様子なども美化することなくリアルに描いています。
エセルさんが亡くなって父息子が駆け付けると、病院の中は中でも、病室でなく、遺体安置室でもなく、特に使用されているようでもない空き部屋に、エセルさんの亡き骸がストレッチャーに乗せられたまま放置されてるというシーンがあります。
アーネストさんのあまりに孤独な臨終のシーンも同様に、死に方だけは選べないのもまた「普通」の人間であるからこそです。
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誰の人生にも大なり小なり何らかの波瀾はあります。
普通に生きていくことは簡単なようで難しいのです。

世界には争いの絶えない国、毎日のように子供が飢えと病気で死ぬ国、いつ何時、爆弾が炸裂してもおかしくない国など、国のトップの人間一人の考え方次第で改善できるはずが何もできないという、普通の人生を送ることに値しない国がゴマンとあります。
The-Snowman-Resin-Money-Box-Bank-Figurine-Ornament-Raymond-Briggs-SM107-19cm-162700525465.jpg 日本のみなさん。 そんな外国に哀れみや後ろめたさを感じろとは申しません。
しかし、あなたがたの国は戦争もない。 夜中に一人で外を出歩けるし、銃を持った人間がうろついてもいない。
これは当たり前ではないのです。 ちょっとしたボタンの掛け違えでどこへ転がるか分からないのが国家というものです。
「普通」に人生を全うできることの尊さとその重みを受け止めて、平和な社会を守っていくのが世界に対する日本の使命です。
世界に示す手本となって、これからも普通の国ニッポンが平和の道を邁進していくことを望みます。

自分で申し上げるのもなんですが、私こと、スノーマンがみなさんに愛される理由はなんだと思われますか?
ただの雪だるまですよ。 それに私は絵本の中ではまったく声を発さない。
白くて丸い顔に二つの点の目と一本の曲線の口、そして赤い鼻。
たったこれだけのシンプルなビジュアルです。
そんな私が親しまれるのは、これもまた「普通」であるからなのです。
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私はジェームス君を冒険の旅に連れていきますが、何物にも代えがたい「普通」が常にそばにあることの愛しさを語り上げてもいるのです。

普通が当たり前ではなくなる時代、いや、昔の普通は今では普通じゃない時代がもうとうに来ているのでしょう。
しかし、愛するべき人と共に人生を添い遂げる「普通」だけは永久不変であることを切に願います。

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「賢人のお言葉」
 
「人の世を創ったのは神でもなければ鬼でもない。 やはり向こう三軒両隣にちらちらするただの人である。 ただの人が創った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい」
 夏目漱石
(「草枕」)
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