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ハウス・ジャック・ビルト
2019年07月21日

T0023953p.jpg鬼才と呼ばれる映画監督は少数派だから言われるかと思いきや、考えてみればけっこういるものだ。

鬼才20傑・・・「( )」は独断と偏見の鬼度
ミヒャエル・ハネケ(鬼鬼鬼鬼鬼)
デヴィッド・リンチ(鬼鬼鬼鬼鬼)
クエンティン・タランティーノ(鬼鬼鬼鬼鬼)
アレハンドロ・ホドロフスキー(鬼鬼鬼鬼鬼)
タル・ベーラ(鬼鬼鬼鬼鬼)
ギレルモ・デルトロ(鬼鬼鬼鬼)
テリー・ギリアム(鬼鬼鬼鬼)
ジョン・カーペンター(鬼鬼鬼鬼)
デヴィッド・クローネンバーグ(鬼鬼鬼鬼)
キム・ギドク(鬼鬼鬼)
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトウ(鬼鬼鬼)
ティム・バートン(鬼鬼鬼)
クリストファー・ノーラン(鬼鬼鬼)
ジョエル&イーサン・コーエン(鬼鬼)
ペドロ・アルモドバル(鬼鬼)
ポール・バーホーベン(鬼鬼)
ギャスパー・ノエ(鬼鬼)
ダーレン・アロノフスキー(鬼)
デヴィッド・フィンチャー(鬼)
フランソワ・オゾン(鬼)

存命中のひと限定で、とりあえず思いつくままに並べて20人で締め切り。
あとからまだまだ名前が出てくる。
要するに、映画監督は意外に鬼才だらけなのだ。

しかし。
鬼才の中でも「こいつイッてるな」というヤバめの奴がいる。
デンマークの生んだ変態・ラース・フォン・トリアーである。
残念ながら彼は「鬼才」の枠に入らない。
鬼才というよりは「奇才」と呼ぶ方がお似合いではなかろうか。
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ともかく観客を挑発する映画を作ることに感しては超一流である。
ワーハッハッハ! どうだ、ムシャクシャ、モヤモヤするだろ!
「おまえになんかこの映画の意味が分からんだろ」って言われてるような嫌な気分だろ! その通りだ!ワーハッハッハ!
そうなのだ。
この監督は、観客を見くだしながら映画を撮っている節がある。

さすがは「ドグマ95」の言い出しっぺだ。
観客の観たがるようなエンタテイメントを外したがるのは何も珍しくはないが、彼の場合はさらに観客の嫌がるようなものを押し付けてくる。
観てて不快な気分になる素材のストーリーを偏執的に語りまくるか、映画として面白いのかどうか自分でも分かっていないままに見切り発車したような、徹底的に実験的なアプローチで貫いたりするようなこともする。

そんな変態、ラース・フォン・トリアーの「ニンフォマニアックVol.1/Vol.2」以来5年ぶりの最新作はまたしても良い子の鑑賞には向かないコンプライアンス無視の毒作である。
前作でセックス依存症の女の波瀾万丈を描いた奇才は、今度は死体マニアの殺人鬼の物語を描く。

◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎

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その夜。
ラース・フォン・トリアーは呑気に屁をこきながら爆睡していた。
世もすっかり深まった丑の刻、ある者が夢枕に立った。

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「おいラース、起きろ。 起きるのだ」

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「う~ん、せっかく気持ちよく寝てたのに・・・あっ!部屋ん中で立ちションは困るよ、坊や」

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「気にするな。 これはただの水道水だ」

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「いや、水道水でも床ビッチョビチョになるし」

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「そんなことより、おまえに話がある」

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「坊や、いま何時だと思ってるんだ」 

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「言っておくが、私はこう見えて坊やではない。 おまえとタメのオッサンだ」

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「だったら、なおさら人の部屋に入り込んでフルチンになっちゃいけないと思うがね」

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「説明しておこう。 私は実はおまえであり、おまえは私でもある」

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「言ってる意味が」

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「私の正体は、おまえの“良心”が目に見える形となって現れた姿だ。 このところのおまえの堕落は目に余るものがある。 おまえの中の良心が見るに見かねて、こうして小便小僧の姿となっておまえの前に馳せ参じてやったというわけだ」

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「これは悪い夢か? それとも私の頭がどうにかなってしまったんだろうか? 夕べはクスリもやってないのに」

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「おまえ今、サラッと怖いことを言ったな。 まあいい、それよりもおまえ。 たいがいにしとけよ」

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「なんのこと?」

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「また、くだらん映画を撮ったな」

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『ハウス・ジャック・ビルト』のこと? え~?心外だなあ。 けっこう評論家のウケもいいんだよ」

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「だろうな。 それはおまえが撮ったからだ。 ラース・フォン・トリアーが撮った映画と聞いた時点で、観客の見る目に自然とバイアスがかかるのだ。 「ああ、どうせ例によってお得意の挑発映画だろ」という色眼鏡をかけて、おまえの映画を観ているに過ぎない。 観終わって不快な気分になれば「さすがラース・フォン・トリアー」となるし、逆にしっくり収まってしまっても、トリアーの映画を理解できたと錯覚を起こしてるだけの話だ」

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「そう言われたってなあ」

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「今度のような映画でも、同じ内容の物をスピルバーグやスコセッシが撮ってみろ。 気でも触れたかとボロカスに言われるだけだ。 おまえが撮った映画だから、おまえらしいデキかどうかを判断されてるだけだ」

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「私にどうしろと?」

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「おまえも昔はこんな映画人ではなかったはずだ。 確かに『イディオッツ』の頃から変な監督だとは思われていたが『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の芸術性は高いし、ドグマ95を提唱した本物志向の姿勢は素晴らしい。 『ドッグヴィル』『マンダレイ』のようなテーマの追求に特化した挑戦的アプローチは他の誰もやったことのない攻撃芸術だ。 ともかくおまえは映画作りにかけては人一倍の向上心があったのだ」

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「そりゃどうも」

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「しかし『アンチクライスト』あたりから陰湿な作品をおまえは連発し始めた。 それも、かなり救い難い内容のものばかりだ。 その頃は心の病を患っていたから致し方ないかもしれぬが、愛や人生や人間そのものを否定する映画への傾倒が顕著になり出したのは明らかだ」

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「私はね、普遍的なキレイごとは嫌いなんだ。 人間なんて本質は薄汚いものさ」

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「まあそうだがな。 ひとつ聞くが、おまえは女性が嫌いなのか?」

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「女性? 人並みに好きだけど?」

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「おまえの一連の作品を観てるとそうは思えんのだがな。 おまえは女性をバカな生き物だという風に見ているだろう? そして女性をサディスティックに蹂躙したがる、一種のフェチのようなものも垣間見える」

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「それはよく言われるよ。 でも私は男だからどうとか女だからどうとかなんて意識してないね。 ただ、撮りたいテーマによっちゃあ、女性を主人公にして話を回す方がやりやすいんだよ。 オッサンよりも女性がワヤな目に遭う方が痛ましさも伝わりやすくて印象に残るでしょ。 テーマを伝える近道でもあるのさ」

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「おもろいことを言うのぉ」

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「おもろいでしょ?」

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「おもろないわ!」

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「なんだよ~」

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「ものは言いようだな。 そんなえらそうなことが通用する映画なのか、今一度振り返ってみようじゃないか」


【第1の出来事】
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それは12年前のことでございました。
ワシントン州の田舎道を1台の赤いワゴン車が走っておりました。
運転しているのは建築技師のジャック(マット・ディロン)という男。
特別に急いでる訳でもない家路への途中、ジャックはパンク修理に四苦八苦している女性(ユマ・サーマン)と遭遇したのでございます。
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どうやらジャッキの部品が折れてしまったようです。 これではパンクの修理はできません。
ジャックは知り合いの鍛治屋が近くにあることを教えてあげました。

女の顔には(私にそこまで歩いていけってか?)と書いてありました。
ジャックとしては、できることなら女を置き去りにしたい気分でしたが、それも気が引けるので仕方なく女を車に乗せました。

鍛治屋へ行く途中も、そこからまた戻る時も、車の中で女はよく喋りました。
女は明らかにシナを作っておりました。
(こういう時って男から誘うもんでしょ。 こんないい女が目の前にいるんだからさ。 あっ、もしかして童貞? やっだー、キショッ!)
分かりやすく顔に出る女のようでございます。
もちろんジャックは女とイチャつく気持ちはサラサラございません。
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鍛治屋に直してもらったジャッキがまた壊れ、再び鍛治屋に戻らざるを得なくなりました。
ジャックは女に関わったことを激しく後悔しました。
女は相変わらずよく喋ります。

「あなた、もしかしたら殺人鬼かも。 そんな目をしてるもの」
まことに無礼な女でございます。
「でも違うわね。 虫も殺せないようなあなたが・・・」

数秒後、その無礼な女は死体になりました。 合掌。
無題 asd
これがジャックの最初の殺人でございます。
ジャックは女の死体を持ち帰り、冷凍倉庫に保管しました。


【第2の出来事】
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ジャックは、ある家を訪ねました。
中年の女性クレア(シオバン・ファロン)が玄関口にまで現れて応対いたします。
自分は警察の人間であると、いけしゃあしゃあと嘘をつきながら部屋の中に入りたがるジャックでしたが、バッジを見せようとしない男を易々と部屋に招き入れるほどクレアもバカではないようです。

ジャックは焦りました。 近所の住人に姿を見られるのも得策ではありません。
しかし、適当な言い訳を並べれば並べるほどグダグダになり、クレアはますます不信を露にいたします。

ジャックはチラリと部屋の中を伺い、リビングに飾られてる写真や表彰状からクレアの、鉄道員である夫が亡くなってまだ間がないことを察します。
抜け目のない男なのでございます、ジャックという男は。

ジャックは作戦を変更。 自分は実は警官ではなく保険調査員であると名乗ります。
年金が増額になるかもという話を持ち出すと、クレアはようやくジャックを部屋の中に案内したのでございました。
外で長々と待たされたことにムカついていたジャックは、すぐさま行動に移りました。
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数分後、クレアは死体になりました。 合掌。

殺人の痕跡を消す細工をし、死体をお持ち帰りしようとしたジャックですが、いざ現場を離れようとすると、色んなことが気になって気になって仕方がありません。
ジャックは潔癖症の上に、強迫性障害を患っていたのでございました。
あそこの指紋は拭き取っただろうかだろうか? 血痕を残してきてないだろうか? 
車に乗り込もうとしては、また家に戻るということをジャックは何度も繰り返しました。

明るいうちに退散するつもりが気がつけばすっかり夜になり、パトロール中の警官に尋問までされる始末。
念には念を入れようとする性格が災いする本末転倒ぶりにジャックは己のバカさ加減を呪うのでした。

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適当にその場をなんとかうまくごまかしたジャックですが、余裕もヘッタクレもござませんでした。
とにかくその場を早く離れるために、シートにくるんだクレアの死体をロープでそのまま引きずりながらワゴン車で逃走いたしました。
プロスペクト通りの倉庫に到着した時には、クレアの顔はのっぺらぼうになっておりました。

ちなみに死体を引きずった血の痕はそのあとに降った激しい雨に洗い流されました。

その後もジャックは殺人を重ね、集めた死体を使って芸術写真を撮ることに熱中しはじめました。
強迫性障害も症状が改善し、ジャックの人生はアゲアゲの絶好調でございます。
ジャックは自ら『ミスター洗練』と名乗り、写真を新聞社に送り付けて世間をざわつかせては悦に浸っておりました。


【第3の出来事】
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ジャックは交際中の女性(ソフィー・グローベール)と幼い二人の連れ子ジョージとグランピーと共にハイキングに出かけました。
3人の母子はさぞ楽しいピクニックを期待していたのでございましょうが、まことにあいにくなことで。
確かにジャックにとっては楽しいイベントでしたが、母子にとっては地獄でございました。

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ジャックは監視塔に上り、ライフルを構え、母子たちを鹿に見立てて射撃を楽しみ始めました。
まさに鬼畜とはこのこと。

一人目の子鹿をズドン。 次いで二人目の子鹿もズドン。
二人まとめて、合掌。

母鹿は呆然とするしかありませんでした。
そんな哀れな母鹿に対し、ジャックは子鹿の死体を蹂躙しはじめました。
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ジャックは死体を人形のように利用して、母親にピクニックごっこを強要しました。
母親が、死体となった我が子の口に食事を運ぶ様をジャックは大いに楽しみました。

屈辱を通り越した地獄を強いられた母親はこのあと射殺されました。 合掌。


【第4の出来事】
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ジャックが次に夢中になっていたのはジャクリーン(ライリー・キーオ)という臆病で神経質な美女でした。
ジャックは彼女に「シンプル」というあだ名をつけて呼んでいます。 おまえは単純な奴だという意味でバカにしたあだ名でございます。

シンプル嬢の部屋に行ったジャックは、自分はこれまで60人も人を殺してきたということを告白いたします。
最初はシンプル嬢も信じていませんでしたが、やがてジャックが新聞を賑わしている殺人鬼『ミスター洗練』であることにようやく気がつきました。
窓の外から警官に助けを求めても酔っ払い扱いされてスルーされてしまいます。
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この日のジャックは、なぜかよく口が回ります。
最低の町、最低の国、最低の世界では誰も救ってはくれない・・・・・
男はいつも犯罪者扱いだ、男に生まれただけで罪を背負っている・・・・・

誰に向かって言っているのか、人生や世を儚んだ恨みつらみがジャックの口からほとばしるのでございました。

ジャックはシンプル嬢のオッパイを御開帳し、乳首の周りをマーカーで円を書きました。
印です。 切り落とすための。
両乳房を胸パッドのように切り落とされたシンプル嬢はその後、死体となりました。 合掌。

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切り取った乳房の片方をジャックはパトカーのフロントガラスにペッタンと貼り付けました。
もうひとつの片方の乳房は有効利用。
手先の器用なジャックは乳房を材料に財布をこしらえました。
乳首がワンポイント刺繍のデザインにも見える、乙な財布をジャックはしばらく愛用したのでございます。


【第5の出来事】
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ジャックのことを女子供ばかり殺す外道とお思いになられるでしょうが、男もそれなりの数を殺しています。
このたびジャックは男を次々とさらって監禁。
集めた5人の男たちを頭が重なるように横一列に台座に固定いたしました。
ちょうどラグビーのスクラム状態のまま男たちが縛られております。

ジャックがやりたいのは、あるチャレンジでした。
連なった男たちの5人の頭を一発の銃弾で貫通させることができるのか?
ある程度距離を取った位置から側頭部に狙いを定めて、ライフルから弾丸を発射して5人の頭に一発で穴を開けてみようという、そこらのユーチューバーよりも断然面白いことをやろうとジャックは考え付いたのです。

しかし、銃砲店で購入したはずの弾丸がフルメタルジャケット弾でないことに気づいたジャックは店主のアル(ジェレミー・デイビス)に怒鳴り込みますが、逆に警察に通報されてしまいます。
どうやら自分が『ミスター洗練』であることがバレたようです。
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時間がありません。 ジャックはトレーラー住まいの狩猟仲間であるS.P.じいさん(デヴィッド・ベイリー)のもとに向かい、怪しむ彼を刺殺してようやくフルメタルジャケット弾を手に入れたのでした。
S.P.じいさんに合掌。

説明が遅れました。
フルメタルジャケット弾とは先端が鋭利に尖った軍用の弾丸のことでございます。
他にも弾丸の種類として、先端がくぼんだホローポイント弾や先端が丸まったソフトポイント弾などがございますが、これらの弾丸は著しく貫通能力が低いのです。
着弾した際に弾丸が変形しやすい形状になっているのは、より相手に痛みを与えるのが目的だからです。

それに比べるとフルメタルジャケット弾の尖った形状は貫通させることを目的とした弾丸です。
この弾丸ならば、ジャックのやってみたいことが実現するのでございます。
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S.P.じいさんのもとに駆け付けた警官を射殺して、めでたくフルメタルジャケット弾を入手したジャックは冷凍倉庫にトンボ帰り。
縛られた5人の男たちが震えてるのは寒さのせいか、それとも刻々と近づく死の恐怖のためか。

さあ、準備は整いました。
ライフルに弾丸をセット。 サイトで照準を定め、あとはトリガーを引くだけでございます。

しかし、ジャックを追う警官たちがすでに倉庫の場所を突きとめて、今まさに踏み込もうとしているのでございました。

     

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「これが大まかなストーリーの流れでおます」

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「もちろん、連続殺人の有り様を並べ立てただけの映画ではないが、相変わらずおまえのやり方は理屈っぽいな」

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「アートですよ、アート。 人間のマニアックな思考を音楽や絵画などの芸術的アプローチで解体してみるのが私のアートなんですよ」

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「引越センターか、おまえは。 アートアートアートアートアート・・・・・ フン、屁理屈をならべるには便利な言葉だよ、まったく。 確かにな、主人公の異常心理を掘り起こしていく語り口はかなり興味深い。 『こういうのが好き』っていう観客が少なくないのも分かる気はする」

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「そうなんですよ。 強迫性障害を抱えていた天才ピアニストのグレン・グールドの映像を挿し込んだり、デヴィッド・ボウイの「フェイム」をバンバン流したり、ボブ・ディランの「ホームシック・ブルース」をパロったり、とにかくジャックというシリアルキラーの心理そのものにをより興味を持ってもらえるようにしたのさ」

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「おまえの好きなものを散りばめたのだろう? 自分自身の反映でもあると言いたいのか?」

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「私だけじゃなく、人は誰でもシリアルキラーになる下地を持っているのさ。 好きなことへのこだわりや、嫌悪するものへのこだわりという偏執性がさらに狂気を増し、禁欲性が取り払われた時、人は容易く、ためらわず周囲を攻撃する。 それは人間誰しも持っているパラノイアなのさ」
 
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「ジャックが家を建てようとするが、結局完成しないな。 そうして出来上がるのは死体製ハウス。 究極の欲望遂行だが、趣味が悪いにもほどがある」
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「人を殺す行為というのは、人間が一段階ステップを上がる、一種の隠された進化でもあるのさ。 その行為に芸術性を追及する者が出現する時、我々はそこに神の姿を見るのさ」

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「おもろいことを言うのぉ」 

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「おもろいでしょ?」

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「おもろないわ!」

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「またかよ~」


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「劇中何度か、ジャックと会話をし、クライマックスには本格的に登場する謎の老人のヴァージ(ブルーノ・ガンツ)のことを聞こう」
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「ヴァージってのはね、ダンテの「神曲」に登場するローマの詩人ヴェルギリウスのことさ。 ジャックを地獄に案内してたでしょ。 ジャックはつまりダンテ。 ジャックもまた芸術家ということだね」

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「なんだおまえ、「神曲」みたいな芸術作品、俺にも描けるぜってことをやりたかったのか? それともやっぱりキリスト教にコビってるのか?」
 
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「単なるジャックの死に対する知的欲求だよ。 人を殺してアートにしてきた男が、どうせ自分は死ぬ時は地獄行きだろうから、その時どんなアートな死に方をするんだろうなと考えた先に、問答の形で導いてくるのがヴァージという幻影さ」


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「非現実的な世界観を挿入したのは「アンチクライスト」「メランコリア」でも見られた終末描写と似通っているな。 この物語はのっけからヴァージと会話をしていることからジャックの回想という形式なのだが、現実のジャックは絞首台の上に立っているという見方ができる」

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「もうすでに死者になってるという見方でもいいよね」

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「確かにな。 それに劇中で描かれる殺人の告白の真偽さえ怪しい」

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「彼の妄想だと?」


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「そうだ。 彼は実は誰一人として殺してはいない。 次々に描かれる殺人は、家を建てたかった男の、"こんなふうに家を建てたい"という願望の満たし方を「殺人アート」という歪んだ形で妄想したものだ」
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「つまり、“家を建てたい男”というのは実はメタファーではなく、そっちが本筋で、殺人描写がメタファーであるという逆の考え方?」

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「最初のユマ・サーマン演じる女がジャックを「虫も殺せない男」と値踏みするのは間違っていないのだ。 タイヤがパンクして困っている女を車に乗せてやったまでは現実なのだ。 だがあれほど侮辱されても彼は何もできなかった。 ジャッキで顔面を殴るシーンは妄想だ。 それ以降の殺人も全部妄想だ」

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「そりゃいくらなんでも飛躍してるよ」

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「ユマ・サーマンや“3番目”のソフィー・グローベールらの被害者のキャラクターにハッキリとした役名が付いていない。 “4番目”のジャクリーンは“ジャック”の変形であり、わざわざ“シンプル(一般人)”とニックネームを付けたのも現実のことではないことの証だ」

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「クレアとか、子供たちのジョージやグランピーは?」

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「グランピー(イライラする)って変な名前だと思わないか? 多分にな、ジョージもグランピーも、かつて家で飼ってた犬か猫かのペットの名前であって、“2番目”のクレアと鉄道員の夫のグレンという故人はジャックの両親だと見た。 彼は両親から追い出されたか、それと似たような経験をしており、家の外で長々と待たされるエピソードはそのことを示唆している」

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「すげえ想像力」

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「“5番目”のフルメタルジャケット弾の生贄にされる5人の男は、学生時代か会社の同僚か、いずれにしても彼にとって思い出したくない嫌な人物なのだ」

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「すると、どういうことに?」

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「ユマ・サーマンにバカにされたままジャックは帰宅した。 いや、その足で湖に向かった。 建築家として自信を失くした彼はそこで入水自殺したのだ。 家を建てようとしたり壊したりするシーンで、「何でそんな場所に家を建てるのか?」が気になったが、あの湖にはジャックの死体が沈んでるのだ」
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「作った私が言うのもなんだが、シリアルキラーの話じゃなくて、メンタル激弱の建築士の妄想話だったとはガッカリだな」

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「言っただろう。 私はお前の“良心”なのだ。 おまえの好きそうな救い難い話なんぞ私には興味の外だ」

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「まあ、見方は人それぞれさ。 私はね、常に「こんな映画、今まであったか?」と人に驚かれたいのだ。 それが私の目指す「映画職人道」なのさ。 そして人間の闇の心理に目を背けずにまじめに考えたいのだよ。 うつ病を患った自分からすればね」

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「よかろう。 今回の映画は駄作だと断じることはできない。 が、傑作でもない。 周囲に媚びないおまえのポリシーは認めよう。 常にセンセーションを巻き起こさねば、それはそれでラース・フォン・トリアーではない。 これからもその調子でマイウェイを突き進むがよい」

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「ありがとうごぜえやす」


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「おやすみのところを邪魔したな。 ゆっくり寝グソでもひねって惰眠をむさぼるがよいぞ」

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「あのぉ・・・ すいませんけど」

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「なんだ?」


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「床がビッチョビチョなんですけど、ちゃんと拭いていってもらえませんかね」

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「知るか、ボケ」

◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎

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「賢人のお言葉」
 「お前の道を進め、人には勝手なことを言わせておけ」
 ダンテ・アルギエーリ
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