FC2ブログ

トップ  >  感想  >  ROMA/ローマ

ROMA/ローマ
2019年04月29日

poster_71254_1.jpg今年のアカデミー賞で最多の10部門にノミネートされ、監督賞、撮影賞、外国語映画賞の3部門を受賞したアルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」。

この映画はアメリカ最大手のインターネット動画配信事業会社Netflixから配信されるオリジナル映画。

いつの頃からか、オンライン・ストリーミング・サービスを提供する業者がポツリポツリと出てきた。
正直興味はなかった。
それに契約していないと観れないオリジナル動画コンテンツのCMがテレビで流れても、右から左に聞き流していたのである。

そういったサービス会社もHuluやAmazonプライムくらいしか知らず、Netflixを初めて知ったのは、ウィル・スミス主演の映画「ブライト」のCMが流れた時からである。
無題 m
その作品は、アメリカではヒットしなかったB級作だから“ネットスルー”されたという映画ではなく、ハナからネット配信を前提にしたNetflixの発注作品。
しかも9000万ドルも製作費をかけているし、監督は「スーサイド・スクワッド」のデヴィッド・エアー。 ジョエル・エドガートン、ノオミ・ラパス共演という、ガチの映画である。
それが“劇場スルー”してネットが先という事態に、いよいよこういう時代が来たのかと妙な胸騒ぎを覚えたものだ。

そしてこの「ROMA/ローマ」である。
早くから評判は耳に届いていたし、「日本での公開はいつになるんだろう?」と気になっていたら、ネット配信映画だと聞いて愕然としたものだ。
良質の作品でありながら、「フランスで公開されない映画」としてカンヌ国際映画祭で締め出しを食らってから、ボチボチと論争が湧き起こり出した。

「劇場で公開されない映画を果たして映画と呼ぶのか?」

そんなもん、考えるまでもなかろうとアッシは思っていたが、あちこちで映画賞を獲りまくり、英国アカデミー賞で作品賞まで受賞し、遂にはアカデミー賞にまでノミネートされるに至っては、時代の波は相当なところまで来ていることを痛感した。

teenager-lay-on-the-floor-in-the-room-512624358_800.jpg
いい作品ならば観たい。
しかし、スマホやパソコンで観るのは映画ファンとしては、そこは違うのである。 決定的に妥協できないものなのだ。
だがいずれは受け入れなければならない時代が来るのだろうかと思いつつも、この映画を観るのはハッキリ言ってあきらめていた。

ところが3月に入ってよもやの劇場公開決定。
しばらくこのことを知らずにいたのであるが、情報を頂いた某氏には厚く御礼申し上げます。
大規模な公開というわけではないけれども、Netflixの英断に感謝。

そんな訳で、このたび何年振りかでイオンシネマに行ってきた。
まだ「ワーナーマイカル」だった時代以来だからホントに久しぶり。 しかも初の茨木。
茨木サイコー。 いばらギじゃないよ、いばら「き」だよ。


こうして、ようやく映画館での鑑賞が実現した「ROMA/ローマ」。
 YalitzaAparicioRoma.jpg
これって・・・
絶対、大きなスクリーンで観るべき作品ではないか。

決して派手な作品ではない。
メキシコシティの、とある中流家庭で働く家政婦の視点で、家族の日常と絆を描く静かな物語なのだが、知らずにズルズルと引きずり込まれていく、深み抜群の映像が素晴らしい。

アルフォンソ・キュアロンとの名コンビであるカメラマン、エマニュエル・ルベツキは実は本作には参加していない。
今回はキュアロンが撮影も兼ねており、やはりこの監督はカメラワークでストーリーを語る人だというのが改めて分かる。

全編6Kの65ミリフイルムで撮影された精細で奥行きのあるモノクロの画面。
そして随所で横移動するカメラが、第三者の目となる我々の想像力を掻き立て、その場所、その時間のリアルな体感と、そこにいる人物の感情がうごめく感触がその映像だけで伝わってくる。

タイトルの“ローマ”とはイタリアの首都とは何の関係もなく、メキシコのメキシコシティ近郊にある地区「コロニア・ローマ」から取っている。
セレブの街とまで言わないが、それなりの高所得者層の住宅街である。

image_201904222136266bb.jpg
時代は1970年。
コロニア・ローマにある中産階級の家庭で家政婦として住み込みで働いているクレオ(ヤリッツア・アパラシオ)。 彼女がこの物語の主人公。

雇い主は医者のアントニオ。 その家族は妻のソフィア。 トーニョ、パコ、ペペ、ソフィという4人の子供たち。 そして祖母のテレサ。 +・飼い犬のボラス。

クレオはメキシコの先住民ミシュテカの出身。 2人体制のもう一人の家政婦アデラも同郷。
メキシコの公用語であるスペイン語の他、クレオはアデラとの会話はミシュテカ語で交わす。

炊事・掃除・洗濯・子供の送り迎え・・・
忙しいながらも充実した毎日。
だが、この家の主人と妻のあいだに時折感じる緊張に、クレオはいつも居心地の悪さを覚える。

365907_005.jpg
医者である主人のアントニオは、会議のためにカナダのケベックへ出張していたが、ある日、一時的に帰国。
車を車庫に入れる時、タイヤは思いっきり犬のウンチを踏んだ。

所用をさっさと済ますと、またすぐにカナダへと立つのだというアントニオ
見送る夫人のソフィアは夫をすぐに行かせまいとするかのように、ベッタリくっついては名残りを惜しむ。
夫は、あからさまにイラついている。

アントニオはカナダなどには行かない。 別の女の所であろうとソフィアも、そしてクレオも気がついていた。
夫に裏切られてると分かりながらも、あえて問わずに最後まで信じている奥方の胸中をおもんばかりながら、クレオは犬のウンチが転がる車庫の床を掃除する。

この犬、クソばっかりしとるのぉ。

Roma-Oscars-Jorge-A-Guerrero-Denied-Visa.jpg 
棒を振り回してイキってるこの男は、クレオのカレシのフェルミン
スラム街育ちでヤンチャばかりし、酒とシンナーで死にかけたこともある彼は、どういう経緯か武術の師匠と出会って改心したらしい。

アデラとそのカレシと一緒に映画館へダブルデートだったが、クレオフェルミンは予定変更でラブホへ。
シャワーカーテンのロッドとポールで棒術の練習をするフェルミン。 それもフルチンで。 パンツを穿け。

棒をブンブンするたびに租チンも揺れる。
「アリガトゴザイマシタ!」 いいからパンツを穿け。

roma-7.jpg
後日、クレオフェルミンと映画館へ行った。
上映されてるのは『大進撃』。 フランスのコメディ映画である。

この時、クレオフェルミンに妊娠したかも知れないことを告げた。
「生理が遅れてるの。 できちゃったかも。 どうしよう」
「いいことだろ?」と、サラッと言うフェルミンに少し安心するクレオだったが。

やがてフェルミン「ちょっとトイレに行ってくる」と言って席を立った。
そして彼は戻ってこなかった。
 
やりやがったな、こいつ・・・。

cleo-y-sofia-0-cke.jpg 
クレオは不安でならなかった。 子供を産むことになれば、仕事を辞めなければならないのではないか。
涙ぐみながらにクレオソフィアにも妊娠しているかもしれないことを打ち明ける。

「私はクビになるんでしょうか?」
「まあクレオったら。 クビになんかしないわよ」
優しく受け止めてくれたソフィアによって、クレオはすぐに病院に連れて行かれ、妊娠3~4ヶ月という診断を受けた。

しかし。 フェルミンとこれからのことを話し合いたいが連絡がつかない。
もしかしたら、このまま・・・
ソフィアの夫アントニオも帰ってこない。

ソフィアは子供たちに対して、まだ本当のことを言っておらず、パパはまだカナダのケベックにいるのだと嘘をついたままになっているのだ。
元の家庭を取り戻そうと、子供たちに『パパ、早く帰って来て』という手紙を書かせたりしている。

MV5BM2RlNzYyMGEtOTAwZC00NGZkLThmODQtYTI1NTQ2M2Y3ZjBiXkEyXkFqcGdeQXVyODExNTExMTM@__V1_.jpg
クリスマスを過ぎた。 依然アントニオは戻らない。

そんな中、クレオとアデラはソフィアとその子供たちに伴われ、新年を祝うために親戚の元を訪ねて大晦日を過ごした。
パーティーの夜、森で火事が起きる騒ぎもありながら、やがて街に帰ってきたクレオ

MV5BMjQ5YjBkYzktZDBhMC00N2RjLTk4MmEtNDFjYTI5YTcwYjVhXkEyXkFqcGdeQXVyODExNTExMTM@__V1_.jpg
映画「宇宙からの脱出」を観に行く祖母のテレサと子供たちを映画館まで連れて行ったクレオ
その時、彼女はアントニオの姿を見てしまった。 まさに「家政婦は見た」である。

若い女性と一緒に映画館から出てきたアントニオは楽しそうにはしゃいでいた。


17roma-trailer1-facebookJumbo.jpg 
ソフィアは、アントニオと別居中であることを子供たちに悟られまいとしていたが、次男のパコがソフィアの電話での会話を聞き、父が帰ってこないことを知ってしまう。

盗み聞きしたパコを思わず叱ったソフィアだが、心を痛めさせてしまったことをパコに謝りながら、他の子には言わないでほしいと頼むのだった。

ソフィアの心は一杯一杯だった。
「私たちは強い」と、女性としての矜持を示しながらもポツリとクレオに漏らす。
「男たちが何と言おうと女は独りなのよ」

無題 wa
アデラのカレシのラモンを通じて、クレオフェルミンの居場所を知った。
野外の武術訓練場。 政治家の名前の看板が掲げられている。
そこで整列して形稽古に励む大勢の男たちの中にフェルミンは居た。

あなたの赤ちゃんがお腹にいると話すと、険しい顔で「だから何だ」フェルミンは言い放つ。
自分の子だと認めようとしないばかりか、「殴られたくなければ帰れ」クレオを威嚇する。
「この召使いが」

恥ずかしいほどのバカだな、こいつ。

roma_2.jpg 
出産が間近に迫るクレオはテレサに連れられて、家具店にベビーベッドを見に行った。

建物の外が騒がしい。
反政府デモが行われているのは分かっていたが、それを通り越した騒々しさをクレオは感じていた。
銃声が聞こえる。 窓の外で多くの人が逃げ惑っている。

ただならぬ気配に戸惑っているうちに、何人かの若者が店に逃げ込んできたが、後から追ってきた男に一人が銃で撃たれて倒れた。

roma09.jpg
政府軍の支援組織である武装集団が、反政府デモの抗議者たちを襲撃しているのだ。
家具店に逃げ込んだ抗議者たちを追ってきた集団の中にフェルミンがいた。
フェルミンは驚いた表情でクレオに銃を向けるが、しばらく睨みつけたあと、そのまま立ち去った。

その直後、クレオが破水した。

xG-4ggICEQkx.jpg 
車で病院へ急ごうにも、街は暴動でごった返し、道がなかなか進まない。
やっとこさ病院に到着したが、そこは奇遇なことにアントニオが勤める病院だった。

分娩室へ向かう途中、クレオはバッタリ出くわしたアントニオから励まされる。
別れ際に何やら言い訳めいたことを口にしていたようだが、そういうことは家に帰って、奥さまや子供たちの顔を見て言ってやってよと思うクレオだったが、正直なところ、それどころではなかった。

73f0fd2ba8567bd5-600x338.jpg
診察したところ、胎児の心音が聴こえないことからクレオは急遽手術室へと運ばれる。

クレオは複雑な思いで、医師や看護師たちのやり取りを聞いていた。
赤ん坊の命を救おうと、多くの人が必死になっている状況に囲まれながら、クレオは自身の胸によぎった歪んだ本音と向き合っていた。

赤ん坊は死産だった。
女の子だった。
「さよならを言ってあげて」と医師から渡された小さな骸を胸に抱きながらクレオは泣いた。

methode_sundaytimes_prod_web_bin_9088dd60-1efe-11e9-bf10-a69b3e42a388.jpg 
ソフィアアントニオは正式に離婚することになった。
そのことをソフィアは子供たちにハッキリと告げた。
「パパはもう帰ってこない。 離婚するの。 これもまた冒険よ。 一緒に支え合いましょ」

ソフィアは車庫の幅ギリギリのでかい車のギャラクシーを二束三文で売り払い、小さな車を買うことにした。
ギャラクシーが引き取られる前に、その車でソフィアは子供たち、そしてクレオも誘ってビーチへと出かけた。
その間にアントニオが家に残っている私物を引き上げる段取りである。

roma10.jpg
海は少々荒れていた。
子供が泳ぐには危険である。
子供たちは泳ぎたそうだったが、ソフィアから強い口調で止められていた。

ソフィアが一旦車まで戻っている間、クレオは子供たちを見守る。
最初は大人しく波打ち際で遊んでいた4人の子供たちだが、トーニョとパコの2人が浅い所までなら大丈夫と思ったのか波の中に入っていく。

クレオは子供たちに波から離れるように注意しながら、ヒヤヒヤした気持ちでトーニョとパコを見ていたが・・・・

roma-no-theaters-gq.jpg 
トーニョとパコの姿が見えなくなった。
流されたのだ。

クレオは泳げない。
それでも何の迷いもなく海へと入っていく。

救わねばならない。 子供を死なせてはならないと、我が子を失っていたクレオは波にもまれながら必死の思いで溺れていたトーニョとパコを救い出すのだった。

365907_001.jpg 
命からがら海から戻ったクレオと子供たち、そして駆け付けたソフィアが身を寄せ合って抱き合う。
ソフィアは感謝の念を伝えるが、クレオは涙に暮れながら告白を始めた。

「本当は欲しくなかったの。 生まれて欲しくなかったの」
お腹に宿した子供の出産を望んでいなかったのだ。
だが、母親の顔を見ることなく、声を出すことなく死んだ娘をその手に抱いた時、クレオは激しく後悔した。

我が子が生きて生まれてこなかったことに安堵してしまった罪悪感に苦しんでいたクレオは、海の中で死に瀕している子供たちを前に思わず行動した。 助けなければ。 子供の命を救わねば。
泳げないと分かっていても、自分が命を落とすことになるかもしれなくとも、生まれる命を望まなかった自分の罪を戒めるようにクレオは波へと入って行ったのだ。

そう。 この家族も先住民の出の自分を受け入れてくれた。
この世界に必要とされない命はない。
クレオの背負った罪はソフィアの言葉で洗い流される。
「私たち、クレオが大好きよ」


一家が自宅に帰ると、本棚が無くなっていた。 アントニオが持ち帰ったらしい。
クレオは洗濯の準備を始め、見上げる空を飛行機が飛んでいく・・・。
MV5BNTliNWQ4NzAtMTRmNi00OTFhLTlkOTYtODAwNmVjYjRhZjlhXkEyXkFqcGdeQXVyNDE5MTU2MDE@__V1_.jpg 

この映画は監督アルフォンソ・キュアロンの半自伝的作品とされている。
おそらくモデルは次男のパコであろう。

そしてラストには「リボへ」というメッセージが添えられて直後にエンドロールを迎えるのだが、この“リボ”というのはクレオのモデルとなった乳母リボリア・ロドリゲスさんを指している。

キュアロンの子供時代に世話になったリボさんへの感謝を込めた思い出語りとも言える映画で、「あなたはいつまでも私たちの家族」という親愛がこれでもかというほどに溢れている。

スターは一人として出ていないし、主役の女性は演技経験ゼロの学校の先生。
社会への大それた啓発はなく、あくまでも個人的信書の意味合いが濃い、極々質素なストーリーである。
メジャーの映画スタジオのどこもかしこも「誰がこんな映画を観るねん」と出資しなかったのも、もっともかもしれない。
だからNetflixが資金を出したのだが。

でもいざ、こうして日の目を見ることになった同作を観れば、これが劇場で公開されないこと以上の悲劇はない。
地味な話なのに、なぜにこうも惹きつけられるのか。 不思議な感動だ。

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△


『 勝手に超憶測 「ROMA/ローマ」という映画 』
Roma-Trailer.jpg 
【水】

この映画では所どころ、「水」、あるいは液体が印象的に扱われている。

マス目の模様が映し出される冒頭シーン。 最初は何が映ってるのか分からないが、やがて泡の混じった水がザザーッと流れてきて、そこでやっと「屋内ではない場所の床を誰かが掃除をしている」というシーンであることに気づく。
この、真上から接写したタイル地の床を画面の上方向からザザーッと水が流れる・・・ これはまさに波が押し寄せる海のクライマックスシーンを暗示しているのは誰の目にも明らか。

割れたコップの破片と共に床にこぼれた酒。
シャワー。
窓の外の雨。
水たまりだらけの村。
火事の際のバケツリレー。
クレオの破水。
そして荒れた海。
MV5BZjJhYzdiMmQtZWI4ZS00YjYwLWE4MmYtNmQ2ODhhODAyYTMyXkEyXkFqcGdeQXVyNjIzMzI0ODM@__V1_.jpg

Roma-Image-3.jpg

roma-3.jpg

Roma-Movie-Still-1.jpg  
水は人の人生とは切っても切れぬ物。
人は母なる体の中で羊水に包まれて命を育まれ、そこを突き破ってこの世に出てくる。
自然の幸を育て、料理をコントロールする「水」。
乾きを潤し、汚れを洗い流す「水」。
癒しや娯楽など、命の洗濯にもなれば時として命を危険にさらす海は、生と死が混在する巨大な「水」。

ただ、そこまで飛躍しなくとも、キュアロンが見ていたリボさんのイメージは、たとえば炊事や洗濯、タイル掃除など、常に「水」があったということだ。


DwxEernU8AADx4u.jpg
【犬】

ここに出てくるボラスという名の飼い犬は、さして「可愛い」というほどの愛玩犬でもないし、飼われているガレージの中でアホほどウンチを捻るのである。

医者が主の中産家庭ならば、“らしい”犬を飼ってもよさそうなものだ。
どういう経緯でこの家に来たかは定かでないが、そんな“らしくない”犬でも彼(彼女?)は家族として愛されているということだ。
そこらにウンチを排出しようが、犬自身は怒られない。 掃除しそびれたクレオの方に多少とばっちりは来るが。

一つ屋根の下で暮らせば、それはブサ犬であろうと先住民の家政婦であろうと、みな家族。
犬をクレオのメタファーにしたわけでもないが、キュアロンの家族愛はこの飼い犬にも投影されている。

roma_dogs.jpg
ソフィアが子供たちとクレオらを連れて向かった親戚の家では、歴代の飼い犬が剥製となって壁一面に飾られている。
ちょっと引くシーンであるが、ここまで“家族の一員”としてリスペクトしたら、飼われた犬も冥利に尽きようというもの。

「メキシコ=野良犬」。 犬に対して雑なのかというメキシコへの偏見を少なからず持ってるのは申し訳ないが、この剥製シーンはメキシコ人ならではなのかとイメージも覆る。
いつまでも忘れないという愛情。 同じ家族だという愛情。
それは家政婦でも同じ。 「召使い」などでは断じてない。


Roma_2 x
【車】  (さあ、踏めと言わんばかりに犬のウンチが↑)

これはもう、「車=男」。
車庫の幅ギリんちょのフォード・ギャラクシー500XL。
ちょいとミスったらコスるのは必至。
このギャラクシーは、ソフィアの夫アントニオのメタファーであり、この家庭に窮屈な存在だったことが描写されている。

夫が愛人のもとから帰ってこない事を覚悟したソフィアは、ギャラクシーに乗り込み、サイドモールが剥がれようがアチコチぶつけながら運転するシーンがコミカル。
絶対通れるワケないやん!てな車と車のあいだを「オラオラ~」と突っ込んでいくところは、最初は「ヘタなのか?」と思うがそうではなく、ギャラクシーが夫の象徴のようなものであるからだ。

カッコだけ威張り散らしたかのような図体で、家族のサイズに馴染まなくなった夫への“体罰”である。

conoce-epicos-autos-aparecieron-roma3.jpg
その後、そんなギャラクシーを売り飛ばすソフィア。 彼女いわく「飽きたわ」
代わりに違う男ならぬ、身の丈にあったかのようなルノー12。

アメ車から、おふらんすカーへ。
このあたりがニヤリとさせられる。


Screen-Shot-2019-01-03-at-10_42_45-PM-1.jpg
【飛行機】

冒頭の床掃除のシーンで、タイルに水が流れると、そこが吹き抜けの場所だということが分かり、水面に上空を飛ぶ飛行機が映り込む。
そしてラストシーンではクレオが空を見上げて、そこにも飛行機が飛んでいるというループした構造になっている。

途中でも飛行機が飛んでいるシーンはあるのだが、多分に意味が重いのはこのオープニングとラストの「かぶせ」であろう。
この映画を観た方々がこれについて「なるほど」と思うような考察をされているが、アッシも一つ考えてみた。
ネット上のレビュー全部に目を通せないので、ひょっとしてこれから書くことが他の記事とかぶるかもしれないが、その際はご容赦を。

この「飛行機」は、アルフォンソ・キュアロン監督なのである。
冒頭はキュアロン監督がクレオを上空から見守っているのだ。
水が流れてくる方向からして、このショットの目線はクレオ自身ではない。 水を流した本人がクレオであるから、水面の飛行機を見ているのはいわゆる“神の視点”である。

これはキュアロン監督が乳母に捧げた話であり、冒頭はキュアロン監督(飛行機)がクレオを見つめている描写であり、ラストでは空を見上げたクレオ自身の視点が飛行機(キュアロン監督)の形をした守護天使を捉える。

リボさんを慕い見守ってきたキュアロン監督。
幼き頃のキュアロンを我が子のように愛し見守ってきたリボさん。
互いの想いが交錯する、まさに血や民族を越えた尊き親愛の視線のエアメール。 それがこの映画の激アツなところだ。


3472692lpw-3474860-article-cinema-jpg_3665287.jpg
【「大進撃」と「宇宙からの脱出」】

この映画には登場人物が鑑賞する映画として、70年当時メキシコで上映されていたと思われる2本の映画が取り上げられている。

クレオフェルミンが観に行くのは1966年のフランス映画「大進撃」
ナチス占領下のパリを舞台に二人のフランス人がイギリス兵を脱出させるための手引きをするドタバタが繰り広げられるコメディ映画である。

監督はジェラール・ウーリー。 ブールヴィルとルイ・ド・フュネスというコメディアンが主演し、これがなんと腰を抜かすほどの大ヒットとなった。
「タイタニック」に抜かれるまで、フランスの興行収入記録1位を30年間保持していたというのだから凄い。
観たことはないので、ちょっと興味をひかれる。
 
james-franciscus-marooned-caps-006.jpg 
もう一本は、子供たちと祖母テレサが観に行く映画で、1969年のアメリカ映画「宇宙からの脱出」

宇宙空間で帰還不能に陥った宇宙船の乗組員を救出するパニック映画で、監督は「荒野の七人」や「大脱走」のジョン・スタージェス。
グレゴリー・ペック、ジーン・ハックマン、リチャード・クレンナ、ジェームズ・フランシスカス、リー・グラント、デヴィッド・ジャンセンという豪華キャスト。
アッシもこれをテレビの洋画劇場で観たが、船長が死んでしまうシーンは、子供心にかなりのトラウマとなった。

「大進撃」「宇宙からの脱出」もアルフォンソ・キュアロンが子供の頃に観た映画であるらしく、「大進撃」は戦時下の逃避行という点で言うなら、「トゥモロー・ワールド」であり、珍道中とするなら「天国の口、終わりの楽園。」というキュアロン監督の2作品につながる。

「宇宙からの脱出」は言うまでもなく「ゼロ・グラビティ」である。


013f630451112a074abdaa2162145554-3__20Roma.jpg 
【謎の人物】

劇中、まあまあヤバめの奴が出てくるのが、この映画のチョイ変な所。

クレオフェルミンを捜し回って見つけた武術訓練場。
フェルミンをはじめ、整列した多くの訓練生を前に、コーチらしき男が手本を見せる。

「俺の特技だ」
目隠しして片足立ち。 巨人の丸のポーズだろうか? いや、よく見ると人差し指・中指の2本の指をタッチさせるウルトラセブンのエメリウム光線の反磁力線ポーズであるが、どっちにせよ武術のクソの役にも立たない悪ふざけである。
「俺の特技だ」 だからなんやねん。

MV5BMDk4ZGE1MTItZjU0Zi00NjUxLWI4NGUtMDMxMjg5MzI1NmY3XkEyXkFqcGdeQXVyODExNTExMTM@__V1_.jpg
ソフィアが子供たちやクレオ、アデラを伴って親戚の家に行く。
新年を祝う宴もたけなわの時、森で火事が発生。
みんながバケツリレーで消火活動に必死のパッチになっているのに、その傍らでナマハゲのようなコスをしているオッサンが急に歌を歌い出すのである。
「おのれも手伝わんかい」というツッコミもなく、オッサンはイッた目つきで歌を熱唱する。

まさか火を消す効果のある超能力的ソングなのか?
いずれにせよ、子泣きじじいのようなミノ・ファッションのままでは火に近づいたら確かにヤバいことはヤバいが。

このような謎の人物についていちいち考察していたらキリがない。
映画に内容そのものについて、「9割がた事実」とキュアロン監督が言ってるように、これも9割のうちに入るのだろう。
キュアロンの幼少の記憶に刻みつけられた「変な人」。 シンプルにそれだけだと思うが。


1_EUQxrD3VrnsHAvhTi4i8wQ.jpg 
【メキシコの災難】

キュアロンの幼少の記憶だけでなく、この映画はメキシコが体験した昔から近代までの悲劇を綴るとともに、キュアロンの郷土愛が詰め込まれている。

クレオとテレサが家具店に行った時に遭遇する「コーパス・クリスティの虐殺」。
1971年6月。 学生デモを政府軍組織が弾圧・虐殺した「血の木曜日事件」とも呼ばれる惨劇で、学生約120人が殺害された。
フェルミンが通っていた武術訓練場は、政府軍支援組織の「ロス・アルコネス」という武装集団の養成所であったことが仄めかされている。

romafilm.jpg
クレオが妊娠の診察を受けた際、新生児室を見に行くと、突然地震に見舞われる。
すぐに収まるが、まあまあ揺れの大きい地震である。
別にわざわざ挿入しなくとも物語には何の影響もない出来事が描かれているのは、1985年に起きた、これまたメキシコの歴史上、重大な悲劇を忘れてはならないというキュアロンの思いである。

1万人近い死者を出し、3万棟もの建物が全壊した未曽有の大災害。
愛する乳母の記憶と同じく、キュアロンにとって「がんばろうメキシコ」の情熱は今も枯れることがない。

そして、2012年に発生したグアダラハラでの大規模な森林火災を想起させる山火事のシーンも含め、天変地異というくくりで言うなら雹(ひょう)が降るシーンもある。
メキシコは時として人が死ぬほどの雹の豪雨が降ることもある。

天変地異もあれば差別もあれば、映画には出てこないが麻薬の問題もあるメキシコ。
生きていくにはキツい国かもしれぬが、それでも人はたくましく生きる。

そんな国で生まれ育ったキュアロンが、自身を守ってくれながら多くのことを教えてくれた乳母への感謝。
彼女なくしてはない人生への謝辞と愛があふれた傑作、それが「ROMA/ローマ」。


5c473bda52414700923655a3-750-563.jpg 
親や教師以外に、自分の人生を導く存在に恵まれるのは実に幸福である。
映画のどこまでが事実を占めているかは不明だが、ほぼ事実ならキュアロンの裕福な家庭環境は、他のメキシコ人と比べれば恵まれていたかもしれない。

そこをあえて、逆の盛り方をせずにキチンと描いた上で、人生を支えてくれた人への感謝を忘れないキュアロンは偉い。
自分はどうだったかと振り返ると、親を尊敬しているし、忘れることのない素晴らしい教師も二人いた。 が、それ以外となるとそんな人はいない。
もちろん、家政婦などいるわけもなく、大人になってからは職場の人間に、参考になる程度の先輩はいたが、人生に大きな影響を受けた人はいない。
強いて言うなら。 『映画』だろうか。

映画は今まで多くのことを教えてくれた。
そして、これからも。

映画に感謝を。

Roma.jpg

「賢人のお言葉」
 「時はすべての佳き事の乳母であり、養い手である」
 ウィリアム・シェイクスピア
スポンサーサイト



マローボーン家の掟 | トップページへ戻る | キャプテン・マーベル&他にもこれ観ました~4月編

このページのトップに戻る

コメント

ローマ

ローマの感想拝見しました。
自分自身が見た時も「?」と思う部分がいくつか在ったので解釈を見てスッキリしました。
地震と争いのシーンは見るのが辛かったです…
メキシコの文化、風習も勉強になる作品でした。

コメントの編集

Re: ローマ

べグビーさん、コメントありがとうございます。

参考にしていただけて幸いです。

監督の故郷と恩人への感謝が詰まった、いい映画でした。

災害や事変を乗り越えて前へ進む。 国も人もたくましいメキシコ。

そして日本も。

コメントの編集

ROMA /ローマ

いつもながら、素晴らしい考察✨参考になりました❗良かったですねー、ROMA /ローマ。劇場で鑑賞できて本当に嬉しかった😆やっぱり映画は映画館で、ですよね😃あの、横方向に流れていく俯瞰の撮影方法、確かに絵巻物みたいでした。それに、モノクロだから、過去の思い出という感じを共有できたと思いました。自分の幼少の頃は、洗濯機はあったけど、まだ絞るローラーが付いたものだった記憶があります。あと、物売りが通りを行く風景も、豆腐屋さんとか、竿竹屋さんとか、焼き芋屋さんを思い出して懐かしかったです❗本当に素晴らしい映画でしたね~👍そして、私も映画から沢山学んでいるな~と思いました✨映画に感謝です。また感想楽しみにしています❗

コメントの編集

Re: ROMA /ローマ

どうもです、サティさん。

今回は映画館で公開していただけましたけど、この先、またネット限定のようなケースがあるのは覚悟しなきゃならんでしょうね。
作品にもよりけりだけども「ROMA/ローマ」はやっぱり劇場で正解の傑作。

美しいモノクロは確かにノスタルジックな記憶を刺激されますよね。(もしや同世代?)
アッシの頃はポン菓子屋さんもよく来てたなあ。
あとはゴム紐やタワシの押し売りもね。 おばあちゃんが追い返してたっけね。

これからも映画は我らの師であり聖典。







コメントの編集

このページのトップに戻る

名前
題名
メールアドレス
WEBサイト
 
コメント
パスワード
  管理者にだけ表示を許可する

このページのトップに戻る

トラックバック

このページのトップに戻る

プロフィール

オハラハン

Author:オハラハン
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

カテゴリ

ご意見・ご感想はこちらから

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター

ブロとも一覧

月別アーカイブ

09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02