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母という名の女
2018年07月05日

T0022993p.jpgいつの頃からか、【毒親】という言葉をよく聞くようになった。
『子供に害悪を及ぼす親』
この御時世だからか、随分な言われ方である。
これが流行ってるような感じがなんか嫌であるが。

そりゃ虐待をするような親は論外だが、一般に言う【毒親】とは、それとまた違うようである。
親も大変だな。 干渉すればウザい。 干渉しなければ無関心と言われる。
何を求めてるのか。 完璧な親などいるわけなかろうに。

まあ切った張ったに発展さえしなければ、あとは成るように成るだろうけど。


メキシコの映画監督ミシェル・フランコは、ミヒャエル・ハネケやアスガー・ファルハディといった系統のクセ盛りの人間ドラマを描く監督である。

自分の娘をいじめた少年たちに復讐する父親を描いた「父の秘密」。
末期ガン患者から安楽死を頼まれて苦悩する看護師を描いた「或る終焉」。
鬱々とした語り口の中に、突如ギョッとするような表現を挟む、ちょいとヤバ目のメキシカン監督。
そんな彼の新作は、これぞ毒親と言うべき、ある一人の母親のご乱心を描いたドン引きミステリーである。
  

連日熱戦が続くワールドカップ。
たった今、日本対ベルギー戦が終わった。
身も心もくたびれたアッシは強烈な睡魔に襲われていた。
あ~あ、これから仕事かよ。 今日は一日、日本国民は喪に服して休日にすりゃいいのによ。

その時、ピンポ~ンとドアチャイムが鳴った。
朝の5時。 誰だ?こんな時間に。
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「Buenos Dias」
 日本語で頼むよ、お嬢さん。
「おはようございます、白石麻衣です」
 嘘をつくんじゃない。
「私はメキシコで暮らすバレリアです。 17歳です。 どうか私の話を聞いてちょうだい」
 何だ急に? 新手の訪問詐欺でもなさそうだが。
「私の母は俗に言う毒親なの」
 フン。 ダメな自分を親のせいにする甘ちゃんがここにもいるのか。 ここはひとつガツンと説教をかましてやろう。 そうですか、どうぞ上がりなさい、お嬢さん。 むさくるしい部屋ですが。
「まあホント。 むさくるしいわ」
 しばくぞ。
「お茶を淹れるならハーブティーでお願いします」
 大阪の水道水で十分だ。 いくらでもお替わりしろ。 で?お母さんの話と言うのは?
「私の母はひどい人間です。 いえ、あれはもう怪物よ」
 順を追って聞かせてもらえるかな。
「私にはマテオという同い年のカレシがいるの」
 マテオ? おお、あのピッチャーの投げるスライダーはエグいでな。
「それは阪神のマテオよね。 私のカレシはあんなライオン丸のようなオッサンじゃないわ」
 そのマテオがどうかしたのか?
「私とマテオとの間に女の赤ちゃんが生まれたの」
 メキシコって17歳で結婚できたっけ?
「ううん、ダメなの。 18歳以上よ。 でもデキちゃったものはデキちゃったんだから、二人でちゃんと育てるわ」
 それはそれは、末永くお幸せに。
「と、言いたいところだけど、それを母がずべてダメにしたんです」
 なんだか嫌な話を聞かされそうだな。

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「私がまだ出産する前の頃から話を始めるわね」
  はいよ。
「私は姉のクララとプエルト・バジャルタにある別荘に二人で住んでたの」
 クララ? 自分で歩けるようになって良かったね。
「私の姉はゼーゼマンさんの娘じゃないわ」  
 バジャルタというと観光名所じゃないか。 そこに別荘を持ってるのか。 金持ちだな。
「母が父と離婚した際にもらったもんだけどね」
 うらやましいね。
「私はお腹が臨月でパンパンなので、姉がご飯を作ってくれたり、色々と世話してくれます」
 いいお姉さんだ。
「でも姉って、自己主張がないっていうか。 遊ぶこととか異性のことにも積極的じゃないし、友達の少ないタイプなのよね。 お化粧とかもしないしさ」
 人それぞれだよ。
「姉は小さな印刷店を経営していて、マテオはそこのバイトだったんです。 それが縁で私と知り合って」
 お姉さんじゃなく?
「そこなのよね。 姉もマテオに気があったんじゃないかな? まあ分からないけどね」
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「臨月ってホント眠いし、だるいし」
 そうらしいね。
「でもマテオったら、そんな時でもヤリたがるの。 元気チャンよね」
 臨月の時のセックスはよくないぞ。 やっぱりオコチャマだな、君らは。
「そうなのよねえ。 だから最初なにも考えずにヤッたらデキちゃって。 でも問題は産んだ後なのよね」
 カレシのバイトだけの稼ぎじゃ、やっていけないでしょ?
「マテオのお父さんはホテルを経営してるの。 そんな大きなホテルじゃないけど、そこの仕事を手伝わせてもらえばよかったんだけど、それも無理なのよね。 彼、お父さんから勘当されちゃったし」
 そりゃ怒るだろうな。 無計画だし、最初っから親を当てにしてるし。
「でも、赤ちゃんは待ったなし。 私は出産そのものが物凄く不安で不安で」
 出産費用も心配だし。
「それでね、姉が母に電話したの。 私としてはあの人を頼るのは嫌だったけどね」
 お母さんが嫌いなの?
「う~ん・・・私はお父さん派」

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 お母さん、歳いくつ?
「いくつだったっけかなあ? 四十いってるかいってないかあたりと思うけど」
 ヤバいじゃないか。 全然現役でいけるぞ。 お名前をぜひ。
「アブリルよ。 言っとくけどラヴィーンじゃないからね」
 先に言われた。
「今はスペインで暮らしてるんだけどね。 慰謝料で生計を立ててるのか知らないけどさ。 全然金に困ってないみたいよね」
 まあ、いいじゃないか。 こうして娘を心配してお産に協力してくれるんだから、母親ってありがたいよね。
「その時は私もそう思ったけどね。 アレ、とんでもない女よ」

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「なんだかんだで無事に出産。 元気な女の子よ」
 おめでとさん。
「ま~痛いのなんの」
 そりゃそうだ。
「名前はカレンにしたわ」
 カレンといえば今は滝沢だが、個人的に思い浮かぶのはホンダの原チャリのカレンだな。 カゴが付いててトロトロ走る、まさにジジババ仕様の原チャリ。 当時は顔がパンパンの若い大竹しのぶがコマーシャルをやってたなあ。 
「なんの話してんの?」

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「育児ってハンパないよね。 いやぁ、こんなきついと思わなかったわ」
 子育てはひとつの仕事だからな。
「赤ちゃんってすぐ熱だすし。 なによりホントよく泣くのよ、あの子」
 赤ちゃんは泣くのが仕事。 泣くことで免疫力がつく。 “泣く子は育つ”の格言は正解。
「でも四六時中よ。寝るヒマもないわ」
 君、私に子育ての相談に来たのか?
「ちがったっけ?」
 ちがうよ。 お母さんの話だろ。
「そうそう、そうだったわ。 マテオはマテオで色々と頑張ってくれるんだけどさ、イマイチ頼りないんだよね」
 そこでお母さんの出番だ。
「そういうこと。 母もね、私と同じ歳に姉を出産してるのよ」
 それであんなに若いのか。 それにしても血は争えんな。

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「さすがは子育ての先輩よね。 あやすのも上手いし、ミルク作るのもオムツ替えるのもテキパキやっちゃうし。ホント、おみそれしました」
 まあ、お母さんだって自分の最初の時は君と同じように大変な思いをしたはずだ。
「まるで自分の子供みたいに、献身的に世話してくれるの。 私なんか出る幕がないくらい」
 ここに来て母性本能が甦ったのか?
「いやぁ、私もついつい甘えて油断ブッこいちゃったわよ」
 おっ?どうやらここから本題が聞けそうだ。
「あの女はね、私のカレンを奪ったのよ」
 お母さんに原チャリを盗まれたのか?
「原チャリじゃなくて私の娘よ!」
 そうだったな。
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「なんとあいつ、私らの知らない間にカレンを勝手に養子に出してしまったのよ」
 勝手に? 実親の承諾なしに? う~ん、メキシコの法律は知らんけども。
「ホント突然だからね。 マテオのお父さんとだけで話進めてやんの」
 でも君ら、ぶっちゃけ生活能力が不安だしな。 お母さんがそれを心配してってことは?
「いえいえ、そんな感じじゃないの。しかもそのまま行方知れず。 カレンが今どこでどうしてるのか、会わせてもくれないし、母とも連絡かつかなくなっちゃったんだから」
 そりゃちょっと普通じゃないな。
「それで終わりじゃないの。 私と姉が住んでたバジャルタの別荘が知らない間に売りに出されてたのよ。 突然不動産屋が来て写真撮り出してさ」
 福屋工務店か。
「いいえ、センチュリー21よ」
 おお、メキシコにもセンチュリー21があるのか。 するとケイン・コスギに会えたのか?
「会えるわけないでしょうが。 どうでもいいわよ、そんなこと」
 どうでもいいってこたぁないぞ。 カクレンジャーのニンジャブラックに会えるのは光栄なことだぞ。
「それよりも住む家が無くなった方が大問題よ」
 不動産屋に売り主のこと、聞いてみたら?
「そういう個人情報は教えてくれないって、その一点張りよ」
 愛想が悪いな、ケイン・コスギも。
「だからケインは居ないっての。 それにね、これだけじゃ終わらないのが母の怖いところよ」
 まだ、あるのか。
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「マテオまで姿を消しちゃったのよ」
 君のカレシはホントつくづくだな。
「これは後々に分かることなんだけど、あのアホ男、うちの母とデキてやんの」
 とんでもない話になってきたな。
「カレンに会わせてあげるって誘われて、車に乗せられて行ったらしいのね。 カレンには会えたけど、そこで母に迫られてブッチューからのチョメチョメからのスットコドッコイよ」
 なんてうらやましい。
「それで、このアホタレはそのまま帰ってくることなく母と暮らし始めるの」
 ギャハハハハハハー。
「笑うところじゃないでしょうが!」
 いやあ、あまりに衝撃すぎて逆に笑っちゃうよなあ。 孫は奪う。 家も取り上げる。 娘の恋人も奪う。 どうしたんだ、君のお母さんは?
「知らないわよ。 とにかく私は必死のステテコで二人を捜したわ」
 よく見つかったね。
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「不動産屋さんは相変わらず教えてくれないんだけど、担当してくれた男性社員の人がね、私が持参した母の写真を見て、ヨガ教室の前でよく見かけるって、こっそり教えてくれたのよ」
 さすがはセンチュリー21だ。 よし、宣伝しといてやろう。
 不動産売買・賃貸情報なら ♪ センチュリー・トウェンティー・ワーン ♪
「どこにいるのかと思ったらメキシコシティだったけどね。 ヨガ教室を片っ端からあたってたら、これまた偶然、のんきに歩いてる母とマテオを見つけたの」
 執念のたまものですな。
「まるで新婚夫婦みたいに寄り添ってさ。 気色悪いったらありゃしないわよ。 住んでるところを突きとめて、あとは車で出て来たところを突撃よ」
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「待て、こらーっ! オカン、何考えとんじゃ、ドア開けろ、ボケー!」

「逃げられたけどね」
 でも住んでる所も分かったんだから、追い詰めたも同然。
「カレンもマテオも一緒に乗ってたわ。 ホントにあのクソ親、何がしたかったのやら」
 昔の新婚の気分をもう一度味わいたかったとか?
「キショいキショい。 ってか怖い怖い」
 謎だよなあ。 計画性はあるが、それが果たして得があることなのか。
「車で逃げた母は、このあと信じられないこと、やらかすんだけどね」
 また、なんかやんのかよ。
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「マテオは途中で降ろされたみたいなのね。 そして母はカレンと一緒にレストランに入ったの」
 バアバと孫娘のサシめしか。
「いいえ、食事はしないの。 店員さんにベビーチェア持ってきてもらって、カレンを座らせてベルトで固定したの」
 まあ普通だわな。
「そこまではね。 それで何も注文することなく、その場から母は一人で帰っちゃったの」
 はあ? 赤ん坊を置き去りってこと?
「信じられないでしょ。 カレンは火がついたように泣いてたらしいわ。 鬼よ、あの女は」
 その後はカレンちゃんは無事に?
「警察から連絡をもらってね。 マテオとも会って、とりあえず一緒に帰ることになったわ」
 君、マテオくんを許してあげるのか。
「許す? んなワケないでしょうがぁ!」
 だよね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ひとしきり喋って気が済んだのか、バレリアは帰って行った。
さて、仕事に行くか。
すると、またしてもチャイムが鳴る。
忘れ物でもしたのかな?
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「おはようございます」
 どちらさま?
「小柳ルミ子です。 メッシ最高」
 ちがいますよね。
「アブリルです。 バレリアの母ですわ」
 ああ、あなだが。
「うちの子から色々お聞きされたと思いますけど」
 お聞きさせていただきました。
「さぞ私のことを鬼のようにディスってたでしょうが、あれは事実です」
 ほぉ、お認めになる? ではまた、なんであんなことを?
「そうね・・・ 嫌がらせ? 復讐? 適当な言葉か見つからないわ」
 娘さんのことがそんなにお嫌いで?
「私はね、17でクララを産んで二十歳そこそこでバレリアを産んだの。 私が選んだ人生だから文句は言えないけど、正直、女として一番ピチピチの時代を子育てに費やしたと言っても過言ではないわ」
 ご苦労様です。
「若いときに小さい子供を二人も抱えるもんじゃないわね。 地獄よ、ホント。もう、くったくた。 旦那は全然協力してくれないし」
 またしても人生相談みたいになってきたぞ。
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「ストレスからかしらね、次第にクララに手を上げるようになったわ。 かわいそうだけどね、あの子を叩いたらスカッとするの。 あの頃の私はちょっと壊れてたわ。旦那とも喧嘩が絶えなかったし」
 ヤンママの苦労の悪いパターンだな。
「だからね、クララは今でもあんな感じなの。 私には逆らわないし、派手に遊ばないし、私より着飾ったら悪いと思っているのか、女っ毛が全くないでしょ。 ああなったのは、半分私の責任」
 その点、妹さんは・・・
「ちょっと放任しすぎたかもね。 姉を叱ってばかりいる私のことを自然に嫌いになっていったし、その分、自由に育ったから、見ての通り、そこら辺の男といちゃついて、考えもなく子供まで作っちゃったわ」
 それは同じ17で子供を産んだあなただって当時は何も考えてなかったんじゃ?
「そうよね。 まあ、どっちに似たんだか知らないけど、父親とも全然ソリが合わなかったよね。 どのみち別れたんだからどうでもいいんだけとね」
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 娘さんの妊娠を聞いたときはなんとも思わなかったですか?
「そりゃ最初は親心も出たわよ。 私と同じ苦労をしないようにって、別れた旦那の所へ行って、バレリアに援助してあげてと頼みに行ったのよ」
 優しいですね。
「でもね、旦那は言ったわ。 『本人が来るのがスジじゃないのか』 アウトレイジじゃあるまいしさ。 どうせあの子が行ったって追い返すんでしょうが。 そのまま私は何も言えずに門前払い」
 よっぽど、おたくらと関わりたくないんでしょうね。
「その時ね。 きれいな再婚相手と二人のお子さんが門の外からでも見えたのよ。 その瞬間、なんて言うのかなあ、頭の中で線が一本飛んだのよね。 もうなんだかアホらしくなってさ」
 元旦那にキレたんですか?
「ううん、そこじゃないの。 あのオッサンのことはどうでもいいの。 っていうか、凄くうらやましかったの。 でね。冷静になったら、なんで私がバレリアみたいな、ふしだらでだらしない女の世話を焼かなきゃならないのかって思えてきたのよね」
 いや、そうは言ったって娘さんでしょうに。
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「あの子を育てるために青春時代の貴重な時間を犠牲にしたのよ。 親に感謝しろとまでは言わないけど、自分一人で生きていけるかのように好き勝手ばかりやってさ。 別れた旦那が幸せになるのはいいわ。 ちゃんとした大人ですもの。 でもね、まだまだガキの気分のあの子にはそんな資格はないわ」
 そんな風に考えるかなあ?  
「男と遊ぶなら頭つかいなさいよ。 避妊もせずにズッコンバッコンやってりゃハラむのは当り前よ。 しかもちゃんとした職にも就いてないクソガキとどう生活すんの? 養子縁組をしたのはむしろ二人のためよ。 マテオのお父さんだって賛成してたしね」
 そりゃまあそうかもしれんけど・・・
「第一ね、お産だって時に、私に何も言ってこなかったことね。 そりゃね、随分長い間、疎遠だったけどさ。 普通一言あるでしょ? クララから電話をもらわなきゃ、今頃自分に孫ができてたことも知らずに屁ぇこいて寝てたところよ」
 いや、それでもほとんど誘拐に近いことをやってカレンちゃんを取り上げて、家まで勝手に売って、しかもマテオまで誘惑して夫婦ゴッコに高じるとは・・・・
「私はね、決めたの。 全部奪ってやるって。 私があの子と同じの歳に多くを奪われたようにね。 世の中甘くないって教えてやるわ。 『親ってウザいよね~ あれ?子供ができちゃった~ まあなんとかなるでしょ~ 親の別荘で家賃いらずで暮らして、そのうち仕事も見つかるでしょうよ 人生楽勝楽勝~』 そうは行くかボケ!」
 極端だなあ。
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「マテオって男も昆虫並みに脳みそスッカスカ。 ちょっと迫ったらイチコロよ。 恋人の母親だって分かってんのかしら。 結局自分の生活能力に自信がなかったのよ。 バレリアを捨てて私とカレンとこのまま暮らせばって考えたんでしょうね。 どこまでも自立心のないカスなのよ、あのお坊ちゃんは」
 確かにあの男には同情の余地はない。
「どうせバレリアもマテオも、フラフラしたこの二人に子育てなんか無理よ。 赤ん坊が泣きやまないぐらいで、なにピーピーべそかいてんの。 あんたが先に泣き止みなさいっての。 あんたみたいなガキが一丁前の母親ヅラしてたら胸くそが悪いわよ。 だから取り上げてやるの。 これは母としての愛情よ」
 そうかなあ。
「子供も男も住むところもなくなって、パニくってる娘を想像すると溜飲が下がったわ。 正直ざまあみろって思ったのよ」
 だけどカレンちゃんをレストランに置き去りにしたのはいただけませんな。
「あれは申し訳なかったわ。 娘にばれて、どうしたらいいか分からなくなって。 若い男と赤ちゃんが欲しかったわけじゃないからね。 全部ばれた時点で、カレンもマテオも必要ないの。 トータル的には半分私の勝ちよ。 どうせ裏切ったマテオをあの子は捨てたんでしょ? 取り戻したのはカレンだけ」
 やったことを後悔してませんか? 満足ですか?
「どっちとも言えないわね。 でもね、ひとつ分かったわ。 母親って強いわね。 母親。それ自体が怪物よ」
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ここでアッシは目が覚めた。
夢だったか・・・
そりゃそうだ。 こんな朝っぱらからメキシコ人のネーチャンとオバチャンがうちにやってくるはずがない。
やれやれ。 ふと時計の針を見てぶったまげた。 完璧に遅刻していた。
Σ(゚д゚|||)


この映画、とにかく細かい部分で説明が省かれているために謎が多い。
ここまであれこれ書いてきたが、一部想像も交じっており、母親に語ってもらったことは全部アッシの創作である。
母親がなぜにあんな暴挙に出たかは映画では全くその理由は語られない。

姉のクララはなぜあんなキャラなのか?
バレリアはなぜ母を避けていたのか?
ここらへんだけでも分かれば母の行動もなんらかの理由が見いだせるのだが。
イマジネーションを刺激される点では映画的な面白さが溢れているし、衝撃的な展開もあるので、釘付け度はハンパではない。

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子供を取り戻して、マテオとも和解したかに見えたバレリアだったが、空港でマテオを“置き去り”にしてしまうラストが印象的。
母に子供を奪われた時からバレリアが意外な行動力を発揮するのは、それだけ「母親」になるということが人間離れしてる存在へと成長することを意味しているのだろうか。

「母という名の女」はアブリルのことでもあるし、バレリアのことでもある。
アブリルがレストランにカレンを“置き去り”にする怪物と化したならば、バレリアもマテオを空港に“置き去り”にして母という名の怪物となったのだ。

タクシーの中でうっすらとほほ笑むバレリアに救われる気もするが、彼女は果たしてこの先どうやって生きていくのだろう。
扶養者もいなければ住む家もない。
まずは姉を頼るのだろうけど、法的手続き上、アブリルの養子であるカレンの身元がどうなるかも分からない。
マテオもこのまま引っ込むとは思えないが。

とにかく色々と引きずられる映画だ。 でも面白い。
この監督、変態だ。 監督という名の変態だ。

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カレンちゃんを演じたのは4人の赤ん坊らしいが、レストランで置き去りにされてしまうシーンを演じた赤ちゃんは名演だ。
店を出て、車に乗って行ってしまうアブリルを何度も振り返りながら、この世の終わりのように泣き叫ぶのである。
これ、ワンカットのシーンである。 どうやって演出をつけたのかも不思議だ。
ワンテイクで済んだのだろうか。 泣き声だけアフレコか?
それにしても赤ちゃんの泣き声は刺さる。


「賢人のお言葉」
 
「残念なことに、私達は愛するものと戦わなければならない。 恋においても、母親としても」
 シドニー=ガブリエル・コレット
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