FC2ブログ

トップ  >  感想  >  万引き家族

万引き家族
2018年06月29日

T0022863p.jpg第71回カンヌ国際映画祭にて、是枝裕和監督の「万引き家族」が最高賞のパルムドールを受賞。
日本映画がパルムドールを獲得するのは「地獄門」(54)、「影武者」(80)、「楢山節考」(83)、「うなぎ」(97)以来、5作目。
是枝監督にとってコンペティション部門出品5度目の正直となった。

今年の日本アカデミー賞で「三度目の殺人」が作品賞など6部門で受賞。
その約2ヶ月後でのこの朗報である。
まさに「是枝 半端ないって」である。

「空気人形」と「海街diary」以外オリジナル作品を作り続けてきた是枝裕和。
もちろん今回も監督が「10年くらい自分なりに考えてきたことを全部込めた」というオリジナル作品。
万引きを重ねながら東京の下町で暮らす、ある5人家族の秘密に包まれた絆。 
傷ついた一人の少女に救いの手を差し伸べたことから、彼らの過去と孤独が浮き彫りになっていく・・・・・

是枝作品は時に説明を入れていい部分にあえて説明を省き、尚も完全なオチをつけずに進行途中の流れのまま締めくくるケースが多い。
この映画も、主人公である家族の過去は過多な説明を避け、ミニマムなヒントだけを仄めかしているに過ぎない。
謎に包まれた人物たちの、映画だけでは見えない部分を推し測って観れば、そこには当たり前であるはずが当たり前でないことの苦悩と幸せを抱えた者たちの複雑な情緒が見えてくるのである。


東京の下町、荒川。
高層マンションに挟まれながらポツンと建つ一軒の古い平屋の家。
そこには5人の家族が住んでいた。


ph_lily.jpg
柴田治(リリー・フランキー) 47歳

建築現場の日雇い労働者。
小心と大胆の二面性を持っているが基本、人がよく、世話焼き。 
実は本名は全く別の名前である。


screen-shot-2018-03-17-at-11-50-26-am.jpg
の妻・信代(安藤サクラ) 36歳

クリーニング工場のパート従業員。
衣類の中の忘れ物を同僚と共に着服している。
彼女もまた本名は別の名前。


ph_kiki.jpg
柴田初枝(樹木希林) 78歳

柴田家の家主で、2ヶ月に一度受給される年金が一家の安定収入。
別れた夫と後妻の息子夫婦の家に、ある目的で定期的に訪問している。
実はかなりの守銭奴。


ph_matsuoka.jpg
信代の妹・亜紀(松岡茉優) 21歳

女子高生見学店でバイトをしている。
源氏名は「さやか」。
常連客の“4番さん”に共鳴するものを感じている。



ph_jo.jpg
息子・祥太(城桧史) 11歳

学校には行っていない。 家では押し入れの中で寝ている。
から万引きの手ほどきを受け、スーパーに行ってはと一緒に万引きをしている。 
実はの息子ではない。


この5人家族。 一見は夫婦と息子と祖母と義妹という家族構成に見えるが、映画を観ているうちに早い段階から、その先入観がグラつき出す。
お互いどこまで血がつながっているのかが怪しくなり、彼らが秘めているものが、のっぴきならない事情であることは次第に読めてくる。


363357_004.jpg 
日雇いのとパートの信代。 亜紀の風俗店のバイト。 無論その稼ぎだけでは食えない。
初枝の年金が一番アテになる。
それでも足りないものは、万引きで賄っている。

祥太が街のスーパーへ行き、食料品や生活必需品を万引きしてくるのである。
祥太は、いよいよ実行となった時、両手の5本の指先を合わせて、人差し指をクルクル回す「指回し」をして、手の甲にキスをする。
それが彼のルーティーンである。
そのあとはと阿吽の呼吸の見事な連携プレイで獲物をゲットして引き上げる。

maxresdefault huy
ある冬の日。
いつものように“一仕事”を終えて帰宅の途についていた祥太は、団地の1階の廊下に座り込んだまま凍えて震えている少女を発見する。
「ねえ・・・またいるよ」

廊下の隅にしゃがみこんでいる少女の姿が衝立の隙間から見えるのは、これが初めてではなかった。 恐らくは親から閉め出されたまま部屋に入れてもらえないのだろう。
こんなに寒い夜の外で凍えている子供を放っておくことはできなかった。
「コロッケ食べる?」
は少女を連れて帰ることにした。

f4d8d5767dcc26f8c5da054a4dfd947d-1024x572.jpg 
信代「もう少し金の匂いのするもん拾ってきなよ」と愚痴る。 と、言いながらも信代は「ゆり」と名乗る少女にうどんを食べさせてあげた。
初枝は、ゆりの腕に火傷の跡を見つける。 服をめくれば体のあちこちに傷があった。
「転んだ」ゆりは言う。

誰もがなんとなく分かってはいた。 ゆりの親はそういう親なのだと。
だがこのまま長居させては誘拐になる。
渋々信代とともにゆりを団地に返しに行くのだが・・・

部屋の前まで来た時、夫婦の激しい罵り合いが聞こえてくる。
表にまで十分聞こえるほどの恥も外聞もない夫婦喧嘩の大声と物音。
そして「産みたくて産んだわけじゃない!」と言う母親の声。
それを聞いた信代は黙って引き返す。

「産まなきゃよかったって言われて育つと、ああはならないよ。 人は急に優しくなれないからね」

380718.jpg  
信代ゆりを娘として育てることに決めて、2ヶ月が経ち、すっかり春になった頃。
テレビのニュースでは「荒川区で5歳の女の子が行方不明」と報じていた。
両親は2ヶ月間ものあいだ、「親戚の家に預けた」と嘘をついており、怪しんだ児童相談所が警察に連絡したのだ。

マスコミに問い詰められながら両親が平身低頭している姿は信代の心には何も響かない。
バレなければこの子はそのまま捨てられていたのだろう。
名前は「ゆり」ではなくて「じゅり」だったようだが、信代は新たに「りん」と命名する。
「りんの方がいい」
hqdefault qsa 
りんの腕には傷がある。
そして、信代の腕にも同じ場所に同じような傷がある。

自分で家族を選んで生まれて来れないけれど、生き方を選ぶのは今からでも遅くはない。
生き方まで狂った道に踏み込んだことがある信代は、りんに決してその轍は踏ませまいと誓った。

だがそれもりんの意思次第である。
「一人で帰れるよね」
りんが帰りたければそれでも良かったが、りんは残ることを選んだ。
「あたしたち、選ばれたんかな」
363357_002.jpg
信代「自分で選んだほうが強いんじゃない?」初枝に語りかける。 「なにが?」
「絆よ。 キズナ」

信代りんのために新しい服を買ってあげると言うと、「あとで叩かない?」りんが聞く。
母親の「服を買ってあげる」という言葉が、娘を殴る合図だったのだろうか。
なぜ愛されるべきものが愛されずに痛みを受け止めねばならないのか。

かつて、愛の言葉と暴力を交互に受けてきた過去に思いを馳せながら、信代りんが今まで着ていた服を燃やす。
「好きだから叩くなんてのは嘘だよ。 好きだったらこうやってあげるの」
信代はしっかりとりんを抱きしめてやるのだった。

363357_005.jpg 
が建築現場で怪我をしてしばらく働けなくなる。
信代はクリーニング工場をリストラされた。 同僚とやってた衣類の忘れ物の着服がバレたのだろう。

工場側も二人いっぺんに解雇できず、どっちが辞めるか話し合ってくれと言われる。
“共犯”の関係だった同僚は「見ちゃったんだよね。 ニュースに出てたあの女の子とあんたが一緒に歩いてるところ」と、さりげなく脅す。
「しゃべったら殺すから」
一家の家計は初枝の年金頼みとなった。

「信代さんといつヤッてんの?」亜紀に聞かれる
体で繋がってるのではない。 「お金だよ、お金」
「俺たちゃ、普通の家族じゃねえからな」

無題 lio
一家揃って海へ行く。
「血が繋がってない方がいいってこともあるよ。 余計な心配しなくていいからね」
血の繋がりはないが、手を繋ぎ合って海辺で戯れる5人の背中を眺めていた初枝は後日の朝、布団の中で冷たくなっていた。

葬式を出すお金はない。 というより、この家族の存在自体知られてはならなかった。
「お祖母ちゃんは最初からいなかったんだ。 いいな」
にそう言い聞かされた祥太は、自分の心の中から何かを盗まれたような気がしていた。
初枝の遺体は床下に埋められた。

DbDCGR9VwAIr0My.jpg 
祥太りんは近所の駄菓子屋「やまとや」で万引きをした。
お菓子をくすねた二人は店から出ようとした時、主人(柄本明)に引き止められる。
「妹にはさせるなよ」 そう言って主人はお菓子をもうひとつくれた。
妹・・・ 万引きがバレていたことより、りんが自分の妹に見られたことに祥太はささやかな嬉しさと共に果てしない罪悪感に駆られる。

学校に行かずとも、誰かから教えられなくとも、万引きが悪いことだとは祥太も薄々わかっている。
その悪いことをしているから、自分の家族はどうにか保っているのだが。
それにりんを巻き込んでいる自分のことに嫌悪感が沸き上がってくる。

は足の怪我が治っても働きに行き出す気配はない。
年金の不正受給を続け、初枝のへそくり探しに夢中になっている信代
「お店に置いてあるものは誰のものでもない」と言ったは、店のものどころか、車上荒らしまでやリ出す。
その姿に、祥太の心は次第にから離れていく。
857991_615.jpg
やがて祥太はある決意を胸に、りんと一緒にスーパーへ行った。
これが最後の万引き・・・。
それはもう二度と家族が元に戻ることができなくなることを意味していた。

● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●


人がこの世に生まれてきた時、必ず誰かと血が繋がっている。
そしてひとつ屋根の下で暮らし、ある程度の期間の人生を共にする。
それが家族という一つの規格。
だが、血の繋がりと絆は別物。

今までがあまり世に出なかっただけなのか、同じ家族の者の命などオモチャのように扱い、いとも簡単に奪い去る嫌な事件があとを絶たない昨今である。
家族を破壊するのも築き上げるのも他愛のないことで、血というものはあまりにもろい。
そうやって家族を捨て去る人がいるのなら、拾う人がいてもいいのではないか。
血を超えた絆で繋がり合うのも「家族」ではないだろうか。
盗むのではない。 捨てたものを拾うのだ。

b0db3fbf.jpg 
祥太が万引きを見つかって捕まるのだが、逃げた際に怪我をして病院に担ぎ込まれる。
警察沙汰になった以上、彼らが本当の家族でないことが明るみに出るのは時間の問題だった。
追い詰められたたちは逃げようとするが、すでに捜査の手は回っていた。

尋常ではないワケありを抱えてるらしいものの、それが終盤まで判別としないミステリアスな家族。
彼らが遂に警察に御用となってから、捜査員との問答で過去がおぼろげに見えてくる。
だがそれも、ほんの少しつまむ程度である。
決してワイドショー的な暴露話にはならない。

説明は少しで十分。 この家族が辿った過酷な道を思いながら、「家族」という概念が揺らぎ、その安定神話が崩壊した、病んだ現代の現実を考えるには、これ以上ないストーリーテリングである。

20180615211659.jpg 
柴田治。 本当の名前は榎勝太。 一方の信代の本名は田辺由布子。 この先も便宜上、信代のまま文章を進める。
劇中、二人が体を交えるシーンが一度あるが、二人にはそれまで肉体関係はない。
むしろ、は童貞だという。 セックスを終えた「できたな・・」と呟く。

信代はホステス、は常連客という間柄だった。
信代にはもうすでに夫がいたが、とんでもないDV男だった。
「好きだからこそ」と言っては殴り、謝ってしばらくすれば殴る。
限界はすぐに来た。
そして信代の事情を知った
二人はDV男を殺して埋めた。 裁判では信代の正当防衛が認められたようである。

名前を変えた二人は初枝の家に転がり込む。 もちろんアカの他人であるが、このあたりの経緯は定かでない。 亜紀とももちろん他人であるし、そして祥太も彼らの子ではない。

363357_003.jpg 
初枝亜紀もまた厳密に言えば他人であるが、捨てられた者同士の絆で繋がっている。
初枝は夫に捨てられた。 今はもうこの世にいないその夫は後妻との間に息子を作った。
その息子・柴田譲(緒形直人)も今は家庭持ちである。
初枝と譲は何の血縁関係もないが、別れる時にどういう取り決めをしたのか、初枝は定期的に息子の家を訪ねて慰謝料をもらう。

譲と妻・葉子(森口瑤子)の夫婦には二人の娘がいる。 さやかという女子高生。
そしてオーストラリアに留学中という姉。 実はオーストラリアなどにはいない。
初枝と同居している亜紀こそが、その娘であり、とどのつまりは家出である。

上の娘は留学中で・・・・ああ、そうですか・・・・という会話をしているが、両親は知っているのだろう。
家を出て行った亜紀が、父の前の奥さんと名乗るこの老婆のもとで世話になっていることを感づいている。
それを初枝も感じ取り、「慰謝料」を建前にして、譲から毎月3万円ほどの「養育費+口止め料」を頂戴しているのだ。
maxresdefault ddd 
亜紀の親から初枝が金をせしめているのは、酷なことに、亜紀本人は知らない。
家出するほど、亜紀に具体的に何があったかは謎である。
よくできる妹と、できない自分。 風俗店で働く時の源氏名に妹の名を使っているのは、そういったコンプレックスの表れなのだろうか。
オーストラリアに留学した、あるいはする予定なのは実は妹の方か。

ここでふと思う。 彼女はあの夫婦の本当の子だろうか?
譲は実はバツイチで、前の奥さんの子だとか?


以前から柴田家に顔を見せに来ていた初枝を頼って家出した亜紀
行き先が分かっているのなら、両親にとっては体のいい厄介払いができたようなものだ。
世間体もあるし、さやかの受験や就職に差し障りがなければ、亜紀に帰ってきてもらおうとは思わない。
亜紀は捨てられたのだ。

ph_ikematsu.jpg
JK見学店の風俗嬢である亜紀は常連客の“4番さん”の顔が見たくなった。
長年見ていない親や妹の顔など興味はないが、いつも自分に会いに来てくれる人とはどんな人物なのだろうか。

“4番さん”(池松荘亮)は話すことができなかった。
そんなハンデを背負った彼の人生が容易な道ではなかったことは亜紀にも分かる。

“4番さん”のこぶしには傷があった。
「誰かを殴ったんですか? 私も自分を殴ったことありますよ」

傷ついた心を埋め合う亜紀と“4番さん”にささやかな絆が生まれる。

ph_ando.jpg 
家から初枝の遺体が発見されるも、信代をかばって罪を全て引っかぶる。
「捨てたんじゃない。 拾ったんです。 誰かが捨てたのを拾ったんです。・・・いるんじゃないんですか?ほかに捨てた人が」
死体遺棄は事実であるが、夫を奪った家族から捨てられた人を拾ったのだ。
りんも拾った。 あの子を“遺棄”した親から。

信代は子供の産めない体であるらしい。
りんを連れ去ったことに対して女性刑事(池脇千鶴)は女性だからこそ一歩踏み込んで信代を問い詰める。
子供をさらって、自分が母親気分になりたかったのか?と。
「子供には母親が必要なんですよ。 子供を産んだことがないあなたには分からないでしょうけど」
「母親が必要っていうのは、母親がそう思いたいだけでしょ」
子供は必要とするのか? 産みたくて産んだんじゃないと言って母親になった女を。

「なんて呼ばれたかった? お母さん? お姉さん?」
「さあ・・・・ なんだろうね」
この時、信代は何度も何度も顔をこするように目元を拭う。
「なんだろうね・・・ なんだろうね・・・」

母になりたかったのだろう。 なれないのだろうけど。
ふっ切ったはずなのに。 母と呼ばれなくてもそれでもいいと思っていたのに。
なぜ涙が出てくるのか。
涙は見せまいとする子供のように信代の手が目元でせわしなく動く。

こんな泣き方があるのかと、しばしサブイボが噴き出す。 魂がもらい泣きをする。
「0.5ミリ」や「百円の恋」など、幾度となく安藤サクラの激演を見せつけられてきたが、改めて彼女の底知れぬポテンシャルには驚愕するしかない。
カンヌ国際映画祭の今年の審査委員長だったケイト・ブランシェットはこうコメントした。
「私が今後、映画で泣きの演技をした時、安藤サクラを参考にしたと思ってもらってかまわない」
安藤、半端ないって。

manbikikazoku_201805_1_fixw_730_hq.jpg
机の下で指をくるくる回しながら刑事と相対する
「子供に万引きさせて後ろめたくなかったですか?」
「ほかに教えられることが何もないんです」
奪ってばかりの人生だった。 人に与えたことは何もないのかもしれない。
信代の夫を奪い、初枝の年金を食い物にし、そして彼らはりんを奪い、かっては祥太をも“奪って”いた。

信代が一緒になってまだ間もなかった頃のある日。
二人が松戸のパチンコ屋の駐車場で車上荒らしをしていた時、炎天下の車の中に置き去りにされていた赤ん坊を発見したのだった。
その赤ん坊に治は自分の本名と同じ呼び名を名付けた。 漢字は「祥太」として、以来二人はこの子の親となった。

祥太は刑務所の信代に面会する。
驚きというか、意外というか、信代祥太を連れ去った時の車の車種やナンバーをずっと覚えていたことだった。
習志野ナンバーの赤のヴィッツ。
いずれ教えてやらねばならないという覚悟はいつでも出来てたのだろう。 教えられることはあったのだ。
その気になれば本当の親に会えるよと。

おまえ何を言い出すんだと戸惑う信代は言う。
「うちらじゃダメなんだよ、この子は」

DbqrCSiVAAA3Q2J.jpg
今は施設で暮らしている祥太と束の間の時間を過ごす
「僕を置いて逃げようとしたの?」
「ごめんな。 父ちゃん、おじさんに戻るよ」 「・・・うん」
炎天下の車の中に赤ん坊をほったらかしにした親と同じことをやらかしたに何も言えることはない。

「僕、わざと捕まったんだ」 「そうか」
施設を出る頃になれば祥太は果たして実の親を探すのだろうか。
断ち切られた祥太の絆は次は誰と繋がるのだろうか。

祥太を乗せたバスと並走する
その姿を見る祥太は小さくつぶやく。
それまで口にすることのなかったこと。 最後まで言えなかったこと。
「父ちゃん」


mannbikisub.jpg
家族とは一体なんだろうかを問う映画は多い。
特に是枝裕和の映画はほぼ一貫して、家族の本質を理屈で割り切れない視点から描いてきた。
「誰も知らない」の延長線上にあるかのようで、「そして父になる」の五里霧中の閉塞感を受け継いだ本作は、これまでにないほど観る者の神経を締め上げる。

「万引き」。 なりの理屈で言うなら「お店にあるものは、まだ誰のものでもない」ものを持っていくという考えである。 もちろん大間違いな考えだが、この物語では、「売りに出された」=「見捨てられた」という者たちが、誰のものでもなく、引き取り引き取られ、あるいは自ら繋がり合う。
誰のものでもない人々が“万引き”されてきて出来上がった家族が、世のルールや理屈を超えて肩寄せ合う姿が、いろんな問いを投げかけてくるのである。
ph_02.jpg
人間の裏側の要素が集まった、病んだ社会の縮図のようでもある。
万引きを筆頭に、DV、幼児虐待、遺失物横領、幼児連れ去り、死体遺棄、年金の不正受給、ゆすりたかり、果ては殺人や乳児の車中置き去りのことまで語られる。
いかなる理由があろうと犯罪は犯罪であるが、主人公家族の行状を特に断罪するわけでなく、無論同情もしていない。
 
かつての家族から傷つけられる、捨てられる、そんな経緯をたどって身を寄せ合って家族になった人たちが懸命に生きようとしている姿と、その周囲を取り巻いている悪意やアンモラルを対比して、拾う人が悪いのか、捨てる人が悪いのかを問いかける。
是枝映画の真骨頂というか、ある意味ずるいというか、またしても「正解のない疑問」で観る者をカオスに叩き込むのである。

良いのか悪いのかで言えば、そりゃ悪い人間が圧倒的に多く出てくるが、簡単に人間そのものを善悪で二分できないのが世の中の不条理な所で、この映画は徹底的にそこを突いてくる。
人間性の正解まで六法全書の中には記されていない。
家族神話の崩壊を差し出して、血液やDNAより重い、人の絆の温度を知らしめる。 我々は凄い傑作を観たのだ。 それだけは確かだ。
363357_006.jpg
そして例によって例のごとく、これといったオチをつけず、まだこの先がいくらでも語られる進行形のまま映画は締めくくられる。
祥太は本当の親を探すのであろうが、亜紀はまだこの先が見えないままだが、かすかな希望は感じさせる。 

そういった中で、対照的に暗澹たる気分になるのが、りんである。
保護されて本当の家族のもとに返されて、「りん」から「じゅり」に戻ったものの、この子にとっては母親に叩かれる日常がまたやってきただけである。

夫に殴られて顔にあざを作った母親(片山萌美)は、「服を買ってあげるからこっちにおいで」と折檻の合言葉を娘に投げかける。 まだ懲りてないのか、この女・・・

ラストでは、部屋に入れてもらえないのか、りんが玄関の外廊下で一人遊びに高じている。 また元に戻っただけだ。
事件になったから、この両親はしばらくは大人しくしているだろうが、産みたくて産んだわけじゃない子供に愛情を注ぐことなど一生ないだろう。
そしておそらくは、この子は短い命を終えて、我々が「またか」と顔をしかめるニュースの中で、その名前を告げられるのだろう。

世の中、ちゃんとした家族の方が多いだろうとは思う。
だが、不穏な暗示を残したまま終わるこの映画は、今もどこかで、捨てられた者たちが拾ってくれるのを待っているメッセージを投げかけている。
20180616_03.jpg 
リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林。 この3人の役者がいて、いい映画ができないわけはない。
「ちはやふる」や「勝手にふるえてろ」でキター!の松岡茉優も加われば、もはや名優アベンジャーズ。
池松荘亮、池脇千鶴、高良健吾、柄本明、森口瑤子、緒形直人などがちょっとだけ出て、爪痕を残すという、これまた贅沢かつヤリ過ぎなキャスト。

何より子役が素晴らしすぎやしないか。
祥太役の城桧史くん。 「じょう・かいり」というヒーローのような名前だが、この子、いい目をしている。
台詞はそんなにない。 その分、目で語らなければならない難役に十分応えている。

りん役の佐々木みゆ。 どこかで見たような・・・と思っていたらAmazonの米粉パンのCMに出てくるアレルギーの女の子ではないか。
そりゃ、ええ仕事するわ。


「賢人のお言葉」
 
「共同体は思いやりの固い絆を保ち続ける。 その思いやりの中で、人は初めて取り消しのきかない人間として、ゆるぎなく確立されるのだ」
 ルイス・マンフォード
スポンサーサイト

母という名の女 | トップページへ戻る | 他にもこれ観ました  ~6月編(上)

このページのトップに戻る

コメント

このページのトップに戻る

名前
題名
メールアドレス
WEBサイト
 
コメント
パスワード
  管理者にだけ表示を許可する

このページのトップに戻る

トラックバック

このページのトップに戻る

プロフィール

オハラハン

Author:オハラハン
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

カテゴリ

ご意見・ご感想はこちらから

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター

ブロとも一覧

月別アーカイブ

11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02