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ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~
2018年05月29日

T0022914p.jpg先日、ボストンマラソンで川内優輝選手が日本人では31年ぶりの優勝を成し遂げた。

スタートから大逃げを敢行し、10キロ地点で追いつかれてトップ集団から離されたが、後半に再び盛り返して圧勝するという、えげつないレースぶりで世界の度肝を抜いた。
だがこれも彼の作戦だった。

雨は降るわ、風は吹くわ、クソ寒いわというコンディション。
だがこれぞアフリカ勢の選手が最も嫌がる悪条件であることを彼は逆に味方に付けた。

アフリカ勢の選手が後半に足を残しておこうとするのをそうはさせじと、自らレースを作りにいったのだ。 とは言え、よほど自分の走りに自信と確信がなければこんな芸当はできない。

これからはプロになる同選手。
期待は大きいがこの人、東京オリンピックに出る気は今のところないらしい。


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さてボストンマラソンと言えば、忘れてならないのが2013年に起きた爆弾テロである。
14時45分頃、ゴール付近の沿道二ヶ所に仕掛けられた爆弾が立て続けに爆発。
死者3人、負傷者282人を出す大惨事となり、その地獄絵図の映像は世界中を震撼させた。
後日、チェチェン人の犯人2人組は、一人が警察との銃撃戦で死亡し、もう一人の男も逮捕されて事件は解決したのだった。

昨年公開された映画「パトリオット・デイ」はボストンマラソン・テロ事件を題材に、捜査関係者、テロリスト、犠牲者、その他の一般市民など複数の視点で、この事件の発生から終息までを描き、テロに屈しない人間の心の強さを讃えた秀作だった。
だが、この映画の中では言及されていなかった重要な真実がある。

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当日、爆発地点に居合わせたために、両足を失う悲劇に見舞われた27歳の青年、ジェフ・ボーマン
病院のベッドで意識を取り戻した彼は、爆発直前に現場にバックパックを置いていった男のことを記憶しており、FBIにその犯人像の詳細を語って情報を提供した。
この証言が防犯カメラの映像から容疑者を絞り込めるのに大いに役立ち、事件の早期解決に繋がったのだった。

その後もジェフ・ボーマンは、テロの傷から立ち直ろうとするボストン市民が掲げたスローガン『ボストン ストロング』のシンボルとして人々から「英雄」と讃えられた。
だが、両足も未来の希望も失い、一人では生きていくことのできない身となった自分が英雄だなどと持ち上げられる、この境遇を彼はどう感じていたのだろうか。

この映画は、ジェイク・ギレンホール演じるジェフ・ボーマンという男の知られざる葛藤に迫りながら、人間のストロング・スピリットを温かく見つめた、一人の平凡な男の勇気の物語である。

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倉庫型スーパー「コストコ」の従業員であるジェフ・ボーマン(ジェイク・ギレンホール)。
ローストチキンを焼く仕事を担当しているが、今日の彼は朝からそれどころではなかった。

ボストン・レッドソックスが2連敗中なのだ。
ジェフにとっては財布を落とすよりも一大事である。
早く帰ってスポーツバーのテレビでレッドソックスを応援したいのに、ここに来てローストチキンを焦がしてしまう大失態。
上司はもちろんオカンムリ。

しかし、このまま後片づけなどのトラブル処理をやってたら、確実に野球中継には間に合わない。
ジェフは子猫のような瞳で、年に何回もしている"一生のお願い攻撃"で「帰らせてちょうだい」と訴える。
こんな場合、「おまえ、仕事とレッドソックス、どっちが大事なんじゃい」と上司にキレられるのが普通だが、この仏様のような上司のケヴィンさん(ダニー・マッカーシー)は「しょうがないな・・・。 今回だけだぞ」
ええっ!?  ボストンの人はレッドソックスのことになると分別がつかなくなるのだろうか? 微笑ましいが太っ腹にもほどがある。

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レッドソックスファンが集ういつものバーに向かったジェフは、元カノのエリン(タチアナ・マスラニー)とバッタリ。
彼女とは一度別れて、再びヨリを戻したが、また別れたのだ。

この男、とにかく「約束を守る」ということが大の苦手なのだ。
待ち合わせの時間に遅刻するなど日常チャメシゴト。
「たかが遅刻」だと、レディの気持ちを思いやらなければ、同じ女に二度もフラれることになる。
仕事にもカノジョにもいいかげんなダメ男なのだった。

いまだに未練たらたらなジェフは、明日ボストンマラソンでチャリティランナーとして走る予定のエリンのために寄付金集めに協力する。
そして翌日には必ず応援に行くからと約束するのだった。

ジェフは熱く語っているが、エリンは話半分で聞き流す。
今までどれだけ約束を破られてきたか。
来るにしたって、またどうせ遅刻するのだろうと彼女は何も期待していなかった。

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ダメ男は、こういう時に限って律儀なのである。
時間にはギリギリだったものの、紙に書いた手製の横断幕を手に、フィニッシュ地点でジェフエリンのゴールを待っていた。

その時、人ごみの中をかき分けながら無造作に歩いていく男がいた。
その男とぶつかってムッとなったジェフは男と一瞬目が合ったが、そんなことよりも間もなくやってくるであろうエリンのことで頭が一杯だった。

彼女を見つけることができたら、なんて声をかけてあげようか。
また付き合ってくれなんて言ったら引かれるだろうなあ。
彼女と出会ったボストン。 彼女が住んでるボストン。
レッドソックスと、マラソンと・・・ ボストンは最高だ・・・

時刻は午後3時まであと十数分。
その瞬間、ジェフはこれまで聞いたことのない大きな音を聞き、これまで味わったことのない衝撃を体に感じていた・・・・
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エリンはフィニッシュする地点までもうすぐの所まで来ていた。
ジェフは応援に来ると言っていたが、彼のことだ、どうせまた遅刻しているのだろうと思っていた。

そして。 凄まじい衝撃音が体に伝わり、爆炎がハッキリと見えた。
瞬間、何が起きたのか、頭が回転しなかったが、エリンはとてつもない不安に襲われた。
彼は来ていないはず。 ああいう人だから。 絶対とは言えないけれど。
でも、この胸騒ぎは何なのか? 彼は来ていたのか?
大勢の人が苦しんで叫んでいる、あの場所に、もしかしたら・・・
 
いつも約束なんて守らないのに、まさか・・・
そんな心配がどうか杞憂に終わってほしい。 電話をかけたら「ああ、ゴメン、寝坊しちゃったよ」と言ってほしい。

やがてエリンの悪い予感は的中し、しばらくは大きな罪悪感が彼女の心にのしかかるのだった。


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生きてるのか・・・
ああ、そうだった。 すごい爆発だったなあ。
あの時、意識はあったんだ。
自分の足がとんでもないことになってたな。
すっげー痛かったけど、この足、治るのかなあ、ダメかなあ、それよりもこのまま死ぬかもな、と思ってたんだっけ。
誰かが必死に僕のことを助けようとしていたけど、僕は「落ち着け。 他の誰かを助けろ」ってなことを何度も繰り返し言ってたはずだ。
足はどうなったんだろ? 体を起こせないから分からないけど、足の指を動かしてる感覚がないので多分ダメなんだろ。

それよりもエリンは無事だったのだろうか? エリンの顔が見たい。
目を覚まして最初に見る顔が・・・ おまえかよ。
僕が目覚めたのに気づいた友人のサリーは「おまえの両足は無くなった」と言った。
そうか、やっぱりな。 ってか、随分ハッキリと言ってくれるじゃないか。 そこがサリーらしいや。

色々言いたい事や聞きたいことがあるのに、「エイリアン」のフェイスハガーみたいなヤツが口を塞いでて、うっとおしいことこの上ない。
しょうがない。 紙とペンで筆談だ。
「フォレスト・ガンプ」のダン中尉みたいでカッコいいだろ? ウケた。良かった。
でも、やっぱりショックだな。

一体何が起こったのか? テロか?
だとすると、僕は重要な人物を見ていたことになる。 まちがいない。 あの男が道に置いていったバックパックが爆弾だったんだ。
そのことを伝えるとサリーは驚いていた。 まもなくしてFBIという人たちが来た。 おお、映画みたいだ。


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両親、親戚が病院に押し寄せ、僕よりもパニくっていた。
僕の両足がなくなったことに父も母もかなりうろたえていたらしい。
命が助かったんだからと、父(クランシー・ブラウン)は自分自身に言い聞かせながらも怒り続けていた。

会社のケヴィンさんが病院を訪れた。
父は食ってかかった。 「働けなくなった息子にクビを言い渡しに来たのか!」
そんなこと言うなって。
でもケヴィンさんは言った。 「彼をクビにはしません」 そりゃあないよ、ケヴィンさん、僕みたいなダメ社員なんか。
会社で入っていた保険の手続きでサインをもらいに来たんだと。
父が失礼なこと言ってごめんね。

二人組の犯人のうちの一人が死亡したらしい。
家族は狂喜乱舞した。
「二人目もブッ殺せ!」
物騒だな。 アメリカ人のそういうとこが嫌われるんだぜ。 


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心配かけたね。 君が無事でよかったよ。
君がもう少し早くゴール付近まで来ていたら、君まで巻き添えになっていた。
それを考えたらゾッとする。 本当によかったよ。

「いつも遅刻するのに・・・。 私のせいだわ。 本当にごめんなさい」
君のせいじゃない。 そんなこと言っちゃいけない。
うちの母になにか言われたかい? そんなのは気にするな。

遅刻せずに君との約束を守れた僕ってやっぱりいい奴だろ?
あんな目に遭ったのに、こうしてまた君の顔を見れる人生が続く。 それで十分さ。

弾力包帯を取り外す時はキツかった。
お医者さんも「これが一番つらい」と言ってたが、これはマジ。
だけど、君がそばにいてくれたから耐えられたよ。
でも、この無くなった足を見ると、この先の人生に、痛みよりも苦しいものが待っているかもしれない。
そう思うと・・・


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6週間後に僕は退院した。
見送ってくれる人や病院の外にいた多くの人たちが僕に拍手を送る。
まるで世界が変わっていた。 どうして僕なんかが。

母(ミランダ・リチャードソン)が嬉しそうにインタビューに答える。
「息子はヒーローよ」
僕が? ただ、足を吹き飛ばされただけだよ。 何かを成し遂げたわけじゃない。

車に乗り込むだけでこんな重労働とは・・・
できるだけ早く帰りたい気分だ。
歩道橋の上で横断幕まで広げて声援を送っている人たちがいる。
『BOSTON STRONG  BAUMAN STRONG !』 うまいな。
でも、僕は別に強い人間じゃないよ。


無題 
確かに、犯人を追い詰めることに役立った証言をしたかもしれないけど、別にたまたま見て覚えていたことを喋っていただけだ。
でもみんなは僕を英雄だなどと持てはやす。
「がんばったね」、「私たちの誇りだ」、「すごいなー」、「写真いいですかあ?」
僕は黙って、少し口角を上げてサムアップするしかない。

僕は彼らに何をしたのだろうか? 
足が無くなった人間は、ハリウッドスター並みに凄いのだろうか?
ちょっとずつ心がささくれだって来ているのが、自分でも分かる。
そうなのだ。 うっとおしいのだ。

レッドソックスに熱を上げるあまりに、仕事はいつもいいかげんで、約束も守れずにカノジョに2回もフラれた男が、こんな一瞬で神様・大明神様を拝むように讃えられる。 異常だとしか思えない。
そういう人たちが悪いわけじゃないんだけど、僕にはもう終わったことだ。 これからの自分の人生には何の関係もない。

あの爆発を生き延びたから、テロに屈しなかった象徴のように奉りたいのだろうか?
僕の言葉が、悪人に天罰を与えるきっかけになったのが、誇り高き行動なのか?
病院を退院して以来、“なぜ?”が止まらない。


無題 v 
家族も親戚も妙に浮かれている。
家族の中に“有名人”ができたのだ。 そりゃ嬉しかろうよ。
複雑だ。 こんなバカ騒ぎは辞めてくれとハッキリと言いたいが、今まで心配してくれて、ずっと病院に詰めて僕の回復を祈ってくれた親族には言えない。

足を吹き飛ばされて英雄? じゃあ誰か代わってくれよ。 両足のない人生の肩代わりを誰か頼むよ。
ションベンも一人でできないんだぜ。
こんな屈辱があってたまるか。
勝者はあのテロリストの方だ。 僕はなんにも勝っちゃあいない。 僕は敗者なんだ。


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エリンは自分を責めていた。
僕が応援に行ったせいで事件に巻き込まれたのだと。
母も、息子を2度もフッた女を良くは思っていない。
何の義理もないのに、あんたのマラソンを観に行って息子はあんな目に遭ったんだと思っている。

君は何も悪くない。
僕のことで君が苦しむのは本意じゃない。
よかったら越してくるかい?
母も君のことを知れば分かってくれるさ。
3人で暮らそう。


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相変わらず僕の元にはマスコミの取材やイベント出演などの依頼が来る。
母はそれをすべて引き受ける。 「あなたががんばってる姿がどれだけ人の励みになるか」
がんばってるというより、がんばるしかないんだ。 こんな体なんだから、毎日がつらい。
それに、元よりダメ人間な僕が、優れた人徳者のように持ち上げられて、人目にさらされる。 これも想像以上にきつかった。
僕には逃げ場がなかった。

アイスホッケーに興味がないなんてことはないけど・・・
ボストン・ブルーインズの試合のオープニングセレモニーに呼ばれたが、正直ギリギリまで帰りたい気分だった。
「音痴なのに国家を歌わされるような気分だよ」

エリンが付いていてくれなきゃ、どうなっていただろうか。
ただ旗を振るだけだ。 適当にやってサッサと引っ込めばいいのだが。
でも、そのわずかな時間が相当に長かった。
照明を落としているせいで観客の顔は全く見えない。
車椅子の男が旗を振ってるだけで、唸るような歓声が僕を包む。
息苦しい。 もうこんなことは御免だ。


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やっと義足をつけるまでになったけど、リハビリ自体は順調というほどではなかった。
メディアに出たりとかで忙しいからだ。
恥ずかしい話だよ。

リハビリの約束の時間に遅刻するなんてしょっちゅうだ。
インストラクターの人も怒ってた。
足が無くなっても、僕は遅刻人間のまま変わらない。

母はリハビリ中の僕を撮ってはSNSにあげる。
なんだかそれが生きがいのように、“英雄を育てた母親”を楽しんでいる。

ある時、エリンと母が衝突した。
オプラ・ウィンフリーと対談する話が決まったと喜ぶ母に、エリンは「NO」の声を上げた。

「リハビリを最優先して」
「息子の素晴らしさを人に教えたいだけよ、それがいけないこと?」

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サリーたちと酒場に行くと、一人の男がカラんできた。
「あの爆弾テロは政府の陰謀なんだろ? あれは演出であって、おまえはギャラをもらったんだろ?」
ああ、その通りだよとでも答えてやりたい気持だった。
もう、どうでもいいが、なんでみんなそんなに僕のことばかり見ていろいろと言いたがるんだ。

エリンが妊娠した。
彼女と一緒に暮らし始めて間もなかった頃、僕は足の無い体では初めてのセックスをしたのだった。
その時の子なのだろう。 僕は動揺した。

「こんな体で育てられるわけがないだろう!」
「育てられないのは足を失ったからじゃなくて、自分がまだ子供だからよ」

言い出した僕がバカなのだが、車の中での口論は止まらなかった。
なぜ僕に執着する。 ただのカスなのに。
怒ったエリンは車に僕を一人残して去っていった。
僕を一人にするな・・・・・

もう何がなんだか自分でも分からない。


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あの事件の時、僕を救い出してくれたカウボーイハットの人物はニュースの映像でも流れていた。
その人物、カルロス(カルロス・サンズ)という人も僕ほどではないけど、時の人になっていて、メディアは彼と僕を御対面させたかったが僕はずっと断っていた。

なぜ会ってみる気になったのだろうか?
彼も人から注目されて、わずらわしい思いをしてるのではないだろうか?
一人にしてほしいという気持ちと、一人にしないでくれという気持ちが葛藤している、そんな気持ちを共有したかったのかもしれない。

最初は少しぎこちなかったが、カルロスはポツリと語りはじめた。君に感謝していると。
彼には二人の息子さんがいた。 “いた”のだ。
二人とも、もうこの世にいない。
兄はイラクで戦死した。 その苦しみに耐えかねてカルロスは自ら命を絶とうとも考えたが死にきれなかった。
だが葬儀を終えたあと、兄を失った痛みと父親が苦しむ姿に今度は弟の心が折れてしまったのだ。

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二人の息子を失う悲劇に見舞われた彼は何を支えに生きてきたのだろうか?
つらい道のりを歯を食い縛って走る、名もなき人たちの強い姿を見て己を奮い立たせようと、あの日のボストンマラソンに来ていたのだろうか?

爆発が起きて、辺りがひどい惨状になっているのを目の当たりにしたカルロスは思ったのだそうだ。

「あの日はゴール付近にいてね。 息子のことを思いながら国旗を配っていたんだ。 体は逃げ出したかった。 でも、今こそ生き方を変えようと思ったんだ。 君を救うことで息子を救っている気持ちになれた。 深く感謝している。 君も私を救ってくれたんだ」

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人々が僕の姿から何を感じ、何を求めているのかが分かった気がする。
自分の愛国心を振り替える人や、我が身に置き換えて、もしもの時の知恵を得た人もいるだろう。
たが、テロに直面した人だけでなく、世界中には人生の大きな痛みに苦しむ人がいる。
生きている限り誰にでも起こり得る挫折や絶望を乗り越えるとき、人の心の力は自力だけではままならない。

人は学びながら人生を歩み行く。
悲しいかな世界は様々な苦しみに満ちていて、その分、苦しみを乗り越える生き方の手本もその数だけある。
勇気は巡る。 挫折した人は、挫折を乗り越えた人の姿を勇気に変えて生きていく。
その姿を見て、また世界のどこかで挫折した人が勇気を与えられる。
勇気が輪となって世界は築かれていく。
その輪のひとつになるのが、僕が足を失った意味かもしれない。


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昔のメディアは、こういった体の一部を失った人たちをあえて伏せてきたところがある。
一般大衆が"色んな意味で"気分を害するであろうことに妙な配慮をし、"弱者"を人目にさらすことをなんとなく敬遠していたのだ。

放送や出版物にも全くなかったわけではないが、ハンデを克服する姿を人に観てもらうことが、障害者に対する社会的意識を高め、同じハンデや悩みを持った人たちの励ましになるという道徳的な志向はあっても、いざ大っぴらに取り上げるのははばかられ、障害者は否応なく日蔭の存在となっていった。

しかし近年は医療技術の向上により、身体障害者の社会復帰も格段に増え、それらをメディアが取り上げる機会は多くなった。
パラリンピックの認知度も上がり、車椅子競技やブラインドスポーツなど、障害者のスポーツもテレビなどでよく目に触れるし、街にはバリアフリー設備も増えた。
身体的ハンデを持った人たちが積極的に外に出れる社会として、人も街も意識は確実に上がっている。
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そんな時代だからこそ、障害者をメディアが取り上げるのも今さら感があって、「24時間テレビ」のように「感動の押し売りだ」などという批判も上がったりして、逆にまた扱い方が難しくなっている。
他意はなくとも「偽善」だの、「感動ポルノ」だのと炎上する世の中なのだ。

そうだろうか。 一部そういうシロモノはあるかもしれないが、すべてのコンテンツがそうではなかろう。
それだけ障害者が身近な社会になった証左なのだろうが、それでもこういう人たちの頑張る姿を伝えることは今でも意義はあると思う。

この映画を観ていると、ハンデを背負う人生を余儀なくされた人の葛藤にもリアルな描写がなされていることも評価できるが、やはり困難を乗り越える姿、その並大抵ではない闘いのプロセスを伝えることが、知る機会の少ない私たちを学ばせ、勇気を必要とする人々のバイタリティとなるのだという救いへと着地するところが感動する。

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事件や事故に巻き込まれて、人生が大きく激変する人たちがいる。
身体的な傷や、心の傷の痛みに打ちひしがれても、時は進む限り、人生も前へと進まねばならない。

ジェフ・ボーマンは足を失った現実を受け入れ、その人生を歩むことを世に知らしめてこそ多くの人の心を救うのだと悟り、ダメ男から英雄へと昇華していく。
絶望から一転、世界に影響を与えるほどの、自身の人生の意味を見出せたのは、ある意味うらやましくもある、貴重なひとつの到達点である。

もちろん彼だけが苦しんでいた訳ではない。
母も恋人も苦しんでいたのは当然だ。

  一見、俗っぽく描かれるジェフの母パティ
我が子の両足が無くなったことを最初に医師から聞かされた時の絶望感は想像を絶する。
不憫な息子のこれからの人生を彼女なりに肯定し受け入れて、いかに息子を支えようかと心を痛めた末の決意を示したのが、息子が決して人生の敗残者でないことを世に見せることだったのではないか。

傍から見れば、やり方は決して褒められるものではないが、考えれば息子をタダでさらし物にする親はいない。
彼女なりに息子に「強くあれ」と願った結果が、あのやり方だったのではないだろうか。
そして一日一日、社会復帰への道を刻んでいく息子を見ることが彼女の唯一の支えだったのだ。
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演じるミランダ・リチャードソンの巧いことといったら!


恋人のエリンは、ジェフの災難を自分のせいにして悩み苦しむ。
では、どうすれば良かったのかという正解も分からなという彼女の宙ぶらりんの状態も他人には計り知れぬ逆境であろう。

エリンに罪はないし、別れた男に何も義理立てする必要はないが、彼女を一途に想った故の男の運命に素知らぬふりをすることなどもちろんできない。
運命とは時に残酷の度を超える。

パティからもやんわり拒絶されても、彼女はジェフの人生に寄り添うことを決意する。
妊娠が判明した時も、迷いはあったがもうすでに決めていたのであろう。 ジェフはうろたえてしまったが。
彼女もまた自分の人生の激変を受け入れる。 この覚悟が凄い。
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母のパティも、恋人のエリンも。 女性はストロングだなあ。


監督はデヴィッド・ゴードン・グリーンという人で、まだ40代の人だが割と作品数は多い。
にも関わらず、日本未公開作の多さは尋常ではない。
かろうじてテアトルシネマの企画『未体験ゾーンの映画たち』でニコラス・ケイジ主演の「グランド・ジョー」が陽の目を見たぐらいである。
カンヌで銀熊賞ももらったことがある人だし、フィルモグラフィーをチェックしてると、割と面白そうな内容の映画があるのにね。

ジェイク・ギレンホールはどんな役であろうと、彼に任せておけば安心みたいな適応力が存分に出ている。
だいたいがダメ男の役は得意の範疇とはいえ、この役だって容易ではない。
特殊効果を施してあるからこそ、下半身が不自由な演技は難しいし、より繊細な感情の表現が要求される。

またひとつ、ギレンホールの「さすが」を見せつけられる作品が加わった。
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「賢人のお言葉」
 
「苦しみを甘んじて受け、耐え忍んで強くなってきた人間こそ、この世でいちばん強い人間なのだ」
 ホール・ケイン 
(「永遠の都」)
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