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アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
2018年05月21日

T0022677p.jpg平昌五輪も終わり早や3ヶ月。
それにつけてもフィギュアスケートの人気の高さは昔のことを思うと凄まじいものがありますね。

選手のルックスもスレンダーになり、技術も格段に上がって、華やかさもアップ。
何より日本人選手は強くなりましたから、余計に盛り上がりますねえ。

あの競技を観てますと、「アクセル」はなんとなく分かりますが、「ルッツ」、「フリップ」、「ループ」、「トウループ」とかの言葉が飛び交います。
どこがどう違うのやら・・・?
「サルコウ」なんてのもありますね。 「誰が猿公やねん!」

やはりフィギュアスケートの華とも言うべき大技はトリプル・アクセル。
その代名詞が浅田真央でしょうが、世界で初めてトリプル・アクセルを成功させた女子選手は1988年の伊藤みどり。
それ以降、現在までの30年の間、トリプル・アクセルを飛んだ女子は7人だけ。
浅田真央はバンクーバーでショートプログラムとフリー合わせて3度成功させるという偉業を成し遂げてます。 それで銀メダルってなあ。

さて、パイオニアである伊藤みどりに続いて二人目のトリプル・アクセル成功者となったのがアメリカのトーニャ・ハーディング
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1970年オレゴン州ポートランド生まれ。
3歳からスケートを始め、12歳でトリプルルッツに成功。

フィギュアスケート選手として最初の頃はパッとしませんでしたが次第に力をつけて、20歳になった91年の全米選手権で、アメリカ人女性選手としては史上初のトリプルアクセルを成功させます。
一躍フィギュア界のトップに上り詰めた彼女ですが、その3年後には思わぬ運命の落とし穴が待ち構えているのでした。

トーニャ・ハーディングといえば、切っても切り離せないのが「ナンシー・ケリガン襲撃事件」。
1994年1月。 リレハンメル・オリンピックの代表選考会である全米選手権の会場で、優勝候補と目されていたナンシー・ケリガンが練習後に何者かに膝を殴打されて大怪我を負い欠場。
優勝したのはトーニャ・ハーディング
その事件の2ヶ月後に、トーニャの元夫ジェフ・ギルーリー他2人の男が逮捕されて、トーニャ自身も関与を疑われます。

最近日本でもカヌーの選手で残念なことがありましたが、五輪出場の狭き門のためにライバルを卑劣な手段でもって蹴落とすという前代未聞のスキャンダルは世界中を震撼させました。

トーニャ自身は疑惑を否定し続け、なんやかんやと揉めながらリレハンメル五輪に出場しましたが、お次のお騒がせはこれまた印象深い「靴ひも事件」。
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2日目のフリーの時、自分の出番になっても失格ギリギリまで姿を現さず、出てきて滑り始めたものの、トリプルルッツ失敗直後に演技を中断。
泣きながら審査員の所まで行ってスケート靴のひもの不具合をアピールするという姿が、事件のこともあってか世界中の人々が「なんだかなあ・・・」ってな気分になりました。

会場のザワザワムードが異様でしたし、靴ひもが切れたわけではなく、「結び直すのに何であんなに時間がかかるのか」と素人目には往生際の悪さにしか映りませんでしたね。

結果は総合8位。
優勝はウクライナのオクサナ・バイウル。
特例で出場していたナンシー・ケリガンは銀メダルを獲得しました。

襲撃事件の裁判で懲役を逃れるために罪を認め、スケートから足を洗ったあとはプロボクシングや総合格闘技にも挑戦。
この頃の彼女は嫌われ者というよりも笑い物であり、没落感は痛々しいほどでした。
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現在は家族と平穏に暮らしておられるようですが、あまりにも波瀾万丈の半生を送ったトーニャ・ハーディング
そんな彼女の生い立ちから、あの事件のことをはじめスキャンダルの裏側までを赤裸々に綴ったこの映画。
いくらかフトコロに入るのでしょうが、トーニャもよく映画製作を承諾しましたねえ。

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この映画はトーニャ・ハーディング本人と母親、元夫などその他の関係者の実際のインタビューを元に脚本が構成されています。
ただ、それぞれの言い分が所々食い違っているらしいのですが、それをあえて利用して一本の映画に収めた監督のクレイグ・ギレスピーと脚本のスティーヴン・ロジャースか見事な仕事をしています。

トーニャ・ハーディングを演じたのは「スーサイド・スクワッド」のハ―レイ・クイン役で一気にはじけたマーゴット・ロビー。
トーニャの母ラヴォナを毒々しく演じたアリソン・ジャネイはアカデミー賞助演女優賞を受賞。

勝者の栄光から一転、疑惑まみれの嫌われ者に転落した女の「想定外人生」。
これは喜劇なのか? それとも悲劇か?

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

トーニャの人生を語るのに欠かせない人物が二人。
母親のラヴォナ・フェイ・ゴールデントーニャの夫のジェフ・ギルーリー
彼女の人生はこの二人との戦いでもありました。
良い意味でも悪い意味でも母と夫はトーニャに大きな影響を与えましたが、この二人なくしてトリプルアクセルを飛ぶトーニャ・ハーディングは存在しなかったでしょうし、この二人なくして世界中から嫌われることになるトーニャ・ハーディングもいなかったでしょう。

それではこの御二人に話を伺ってみましょう。
まずはトーニャのお母さん、ラヴォナさんです。


【I,LaVona】
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「なんだい、文句でもあんのかい!」
「なんも言うてませんやん」
「フン。 “人を見たら泥棒と思え”ってやつさ。 くだらないお喋りなんかしてるヒマはないんだよ」
「お礼は弾みますので」
「それを先に言いな。 気がききゃあしないね」
「肩に乗ってるそれは、何ですかね?」
「あんたが今から図書館に行って鳥類図鑑を借りてきたら、それ見て説明してあげるよ」
「はいはい、インコですね。 すいませんでした」
時間の無駄遣いみたいな質問は辞めな。 あんた、うちの娘のことを聴きに来たんだろ?」
「トーニャさんって、やっぱ子供の頃から素質があったんですかね?」
「3歳の時にスケートリンクに連れてってあげたのさ。 そしたらまあ、どこで覚えたんだか、すいすい滑るんだよ。 それもいいバランスで重心を取るもんだから、その時、アタシは思ったね。 ああ、この子は天才だな、と。 さすが私の子だな、と」
「最後の方だけ聴き取れませんでしたが」
「ああそうかい、役立たずの耳は切り落としてインコのエサにでもするかね?」
「すいません」
 iTonya_00179-683x1024.jpg「トーニャが4歳になった時に、ダイアン・ローリンソンがやってるスケートレッスンに連れて行ったのさ。 うちの子も教えてもらおうと思ってね」
「飛びこみで?」
「当たり前だよ。 いきなり来たからあのコーチ、面くらってたけどね。 タバコ吸いながらリンクに入っていったらブツブツ言いやがんの」
「そりゃそうでしょ」
「そりゃ、いいように思われる態度じゃないってことぐらい分かってるさ。 でもカネ払うのはこっちだよ。 それにうちの子の滑りを見りゃ、教える価値がある才能だってことが分かるだろうさ」
「でも4歳は早くないですかねえ?」
「関係ないよ。 うちの子はできるんだから。 他の子はみんな10歳ぐらいだろうけど、あんな連中は金持ちの道楽の哀れな犠牲者さ。 コーチだってそこんとこを理解してるよ。 トーニャの滑り見た途端にアタシの言ってることが間違ってないって分かったようだね」

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「頻繁に暴力を振るわれてたみたいですな」
「人聞きの悪いことを言ってくれるね。 しつけだよ、しつけ」
「みんな、そうおっしゃるんですよね」
「大げさなんだよ。 自分の娘をどう育てようとアタシの勝手だろ。 それにさ、どんなに怒鳴ろうが、ひっぱたこうが、あの子はピーピー泣くなんてことはしない。 怒られれば怒られるほど、凄い顔つきで練習してるんだよ」
「お母さんが怖いからでしょ」
「そいつは違うね。誰に似たんだか、競争心と負けず嫌いは一丁前だよ。 だからね、大人しくしているようでもたまに反抗的な匂いがする時があるのさ。 たいしたタマだよ、あの子は。 もちろん、そん時だってアタシは手加減なく殴り飛ばしてやるけどね」
「もうちょい優しくしてやったらいいじゃないですか」
「レッスン代は誰が払ってると思うんだい。 ウェイトレスしかしてないアタシの少ない稼ぎがほとんど無くなるんだよ。 スケートの衣装もアタシの手作りだしね。 そこまでしてるアタシにまだ甘えた口を聞くようだったら我が娘でも海に沈めてやるよ」
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「どうしてそんなに気合いが入ってるんですか?」
「決まってるじゃないか。 アタシの生活が楽になるからだよ。 トーニャが世界的なフィギュアスケーターになってごらんよ。 アタシの老後はバラ色さ」
「自分のためですか」
「自分が幸せになろうとするのがいけないことかい? ましてや老いた親の面倒を子供が見るのは当たり前だろ。 才能は親の恩返しに使ってもらわないと」
「高校も強制的に辞めさせたんだとか」
「高校なんか行ったってクソの役にも立ちゃあしないよ。 余計な遊びを教えるような友だちなんか害にしかならないからね。 学校に行かなくなってトーニャは毎日8時間練習できるようになったよ」
「8時間! サラリーマンじゃないですか」
「そんなもん普通だよ。 食事と寝る時間があっただけ感謝しな」
「まあ確かに実力のある選手にはなりましたけどね」
「アタシに言わせりゃあ、まだまだだけどね」

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「この親にしてこの子あり」というやつでして、これでグレない方がどうかしてるってもんです。
生まれもってDNAと母親の影響の併せ技で、トーニャ・ハーディングという人間がここに完成。
自信過剰、我慢知らず、高飛車、無作法・・・
タバコはプカプカ吸うし、アイスクリームが大好物。 (ダブバーというメーカーがお気に入りらしい)
まあ別にいいですけど、体調管理などこれっぽっちも頭にないんですな。

アスリートだからといって誰もが人格者とは限りませんが、これほど礼節の欠片もないアスリートが第一線にいるというのは、ある種のおとぎ話です。

ある大会にて採点に納得のいかなかったトーニャは、これから次の選手が滑ろうという時にリンクに飛び出し、審判員の席まで突撃。
本当に取って食うのではと思うぐらい、凄い形相で食ってかかります。
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「どうすれば高い点をつけてくれるの!? 私の方がうまいでしょうよ!」

そういうことを胸にしまう選手は少なくないでしょうが、みんなが見ている前で言いたいことを臆面もなくぶちまけるその根性は、ある意味たいしたもんです。
いい子ちゃんぶるつもりは毛頭なし。 「私は私だ」と、この競技に命をかけてるプライドが彼女をこういう風にさせるのでしょう。

こんなこと、皆様も言えます?
「俺、あいつよりメッチャ仕事しとるで! オイ社長! この働き者で優良社員の俺様の給料をもっと上げたらんかい!」
・・・・・言えませんな。 ってか言ったらアホですわな。
 
さて、トーニャの方はと言いますと、文句を言ったって採点が修正されるはずもありません。
「あなたの演技は自分で思ってるほどではないわ」みたいなことを言われます。
トーニャ、プッチ~ン。 「クソくらえよ!!」(字幕) (実際はもっと卑猥なことを言ってますがね)
そのことをたしなめたダイアン・ローリンソン・コーチにも、「あんたなんかクビよ!」


少し後半のシーンですが、こんなことも。
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アルベール五輪で4位に終わってスポンサーがつかず、ウェイトレスをしながら食いつないでいた彼女は、一旦クビにしたダイアン・ローリンソンと再び組み、リレハンメル五輪を目指すのですが・・・。

思うような結果が出せずにイラつくトーニャは、試合が終わった後、審判員の一人を待ち伏せします。
家に帰るために車に乗り込もうとするおじさんを引きとめ、「私が嫌われてるのは分かってるわ。 どこがダメなの? 何が足りないのか言って」
イタい。 イタいのぉ。
誰か言うたれや。 おまえの、そういうとこがアカンねん!

そして審判員のおじさんは言う。
「君は私たちのイメージとは違うんだ。 完璧なアメリカの家族を見せてほしいんだよ」

これは裏を返せば「審判に愛想を振りまけ」と言ってるようなもんです。
採点する人のイメージにそぐうか、そぐわないかで芸術比較の評価は決まります。 それが現実です。
トーニャの場合は、この時はまだ事件前とはいえ、私生活のトラブルも多かったし、日頃の言動や立ち居振る舞いは褒められたもんではありません。 そんな悪いイメージは決してプラスにはなりません。

優雅さや華麗さなどの様式美は二の次に、「私の凄いジャンプ力を見てよ」だけが目的のような「ドヤ技」の応酬。
しかも音楽はZZトップの「スリーピング・バッグ」という選曲も完全にハズしてます。
自意識過剰というか、誰からも好かれなくたってかまわないという態度は審判にはウケないのです。
「家族とはみんな仲良しで私生活もハッピーでやってますよ」というオーラを出してみろと受け取ったトーニャは早速行動に移しますが、そのことも含めて、彼女に影響を与えた二人目の人物に話を伺いましょう。

元夫のジェフ・ギルーリー氏であります。
1990年、トーニャが19歳の時に結婚し、わずか2年で離婚。
ナンシー・ケリガン襲撃事件の中心人物として94年に逮捕されます。


【I,Jeff】
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「俺の話が聞きたい? こっちは忙しいんだがね」
「やかましい、このエロヒゲ。 おとなしく聞かれたことに答えたらんかい」
「な、な、なんだよ、急に。 それが人にものを尋ねる態度かよ。 こえ~じゃねえか」
「女房を殴るカス男はオマエやな。 DVがそんなに楽しいか、ええこら」
「あ、あれはもう済んだことだし」
「済んだこともずんだ餅もあるかボケ。 オマエはほんま最低やな」
「いや、こればっかりは病気みたいなもんでさ。 ついつい、やっちゃうんだよ。 でもあとでちゃんと謝って仲直りするんだぜ」
「謝るのは当然じゃ。 2年続いたのはむしろ長い方やな」
「トーニャだって、黙って殴られっぱなしじゃないさ。 誰もが知ってる通りのああいう女だからな。 散弾銃持ち出された時は焦ったがね」
「あの母親もよく結婚を認めたもんだ」
「なんだったっけ・・・、『二人の関係は庭師と花だよ』って言われたなあ」  
「オマエに手入れされる花は災難やな」
「でもね、彼女は怒った時に本領を発揮するんだ。 フィギュアスケートでもね、競技前に何か腹立つことがあったら本番で技がキレッキレになるんだよね」
「怒りをエネルギーに変えるアンガーマネージメントやな。 確かに自分との戦いのメンタルスポーツでは有効や」
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「トーニャが初めてトリプルアクセルを飛んだ時は、演技前に彼女にヤジを飛ばす客がいたんだ。 『引っ込め!ヘタクソが! “労働者・オン・アイス”か!』
「おもろいヤジやな」
「それで火がついた彼女はクルクルクルーッからのズドーン!よ」
「ヤジさまさまやな」
「まさにその通り。 ヤジった男は実はトーニャのお袋さんからカネで頼まれてやったんだよね」
「この親子こそ凄い庭師と花やな」
「トリプルアクセルを決めても、やっぱり人気はナンシー・ケリガンなんだよな。 あの頃はクリスティ・ヤマグチとかもいてアメリカのフィギュアは全盛だったからね」
「確かに巧いのはハーディングだろうけど、愛されてたのはケリガンってイメージがあるな」
「ケリガンだって、実は口が悪いところあるんだぜ」
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「そういえば審判員から『完璧なアメリカの家族を見せてくれ』って言われたトーニャはオマエさんに何か言ってきたんかね?」
「そん時はすでに俺たちは別れてたんだけどね、突然電話かけてきて『あなた無しでオリンピックは無理』とか言ってきてよぉ、なんか悪いもんでも食ったんかなとは思ったよ。 ハハァン、そういうことか」
「お袋さんともケンカ別れしとったが、そちらの仲直り計画はうまくいかんかったようやな」
「しっかし・・・あの女もやるのぉ」
「オリンピックがかかっとるからな」
「だからといってイメージが変わるわけなかろうに。 まずは自分が変わらにゃダメって気づかんのか」
「よおし、無駄話はここまでや。 肝心のあの事を聞こう。 何の事か分かっとるな」
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「あれは俺じゃねえよ」
「世間的にはトーニャがオマエに相談して、オマエが二人の襲撃犯を雇ったということになっとるぞ」
「あれはね、93年の全米選手権の北西部地区予選の前だったかな。 トーニャ宛てに殺害を予告した脅迫状が届いたんだよね」
「差出人はオマエか」
「ちげーよ。 なんで俺が出すんだよ。 それでトーニャは予選を棄権した。 その事を俺はダチ公のショーン・エッカートに話したんだよね。 どこのボケナスの仕業かなあなんて世間話してたんだ」
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「食いものなら道に落ちてるもんでも食いそうな顔しとるのぉ」
「このショーンって奴はね、元諜報員なんだ」
「マジか?」
「って、自分で言ってるんだけどな」
「ああ、そういう奴か。 まさかUFOも呼べるとか言うんじゃなかろうな」
「マインドコントロールが得意なんだってよ。 それに『自分は4歩先を考えられる』んだそうだ」
「将棋指しみたいなことを言うんじゃのぉ」
「で、ショーンに脅迫状のことを話したら、『それはフェアじゃないからナンシー・ケリガンにも脅迫状を送ろう』って言い出した」
「やっぱり、なんか悪いもんでも拾い食いしたんだな」
「まあ、勝手にしろよと思ってたんだけどね。 それで何日かしたらあの事件だもん」
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「こいつがデリック・スミスとシェーン・スタントという二人の男にやらせたんだな」
『俺は歴史を変えてやったぜ』とか言ってたから、何の事かと思ったんだけどな」
「別に自分が直接やったわけでもないのにな」
「それにさ、トーニャに送られてきた脅迫状なんだけど、あれもこのボケの仕業なんだよ」
「トリプルアクセル級のアホだな」
「そうなんだよ。 何するか分からんからアホなんだよ、こいつ。 それで会う人会う人、自分が事件の首謀者だみたいなことを言いふらしてさ。  それでテメエの手が後ろに回ってんだから、世話ねえよ」
「さて、建て前はそこまでやでアンチャン。 本当のことを吐いてもらおうかいのぉ」
「いや、本当だよ。 信じてくれよ」
「どこまでトーニャが知ってたか。 オマエはどこまで計画に加わっていたか」
「そのことは司法取引で検察に言いました。 トーニャも知っていました。 もちろん私も知っていました」
「どうも釈然とせんが、得てして真相は単純なもんだろう」

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こうして夫から売られた形のトーニャでしたが疑惑を完全否定。
全米スケート協会とアメリカ・オリンピック委員会は聴聞会を開いて、トーニャのオリンピック出場権を剥奪しようとするのですが、トーニャは聴聞会を阻止するために訴訟を提起し、そのまま留まることになります。

一時はミシェル・クワンが選ばれかけてましたが補欠に回り、結果ハーディングと特例でケリガンが五輪のアメリカ代表に。
この時のリレハンメルのフィギュアは異質の視線を集め、前述の通り、「靴ひも事件」でハーディングのオリンピックは終わりました。

帰国後、裁判で罪を認めるのですが、3年の執行猶予、罰金16万ドル、500時間の社会奉仕活動、精神鑑定、全米フィギュアスケート協会の登録抹消、スケート協会主催の競技会やイベント参加の生涯禁止という、事実上の永久追放処分が下されます。

刑務所に入らずに済んだのですが、トーニャは裁判長を前に「刑務所に入りますから、私からスケートを取り上げないでください」と泣きながら訴えます。
「スケートができなければ私はただの凡人です。 私は怪物ではありません」


【You,Tonya】
無題 t 
貧乏、父親との離別、母親の暴力、夫の暴力・・・
それでもあなたは負けまいと、くじけまいと自らを鼓舞し、スケート人生をひた走ってきた。
なぜスケートだったのだろうか。 フィギュアスケートは人間性が出る競技とも聞く。
世間に媚びることなく、批判されようとも、笑われようとも、審判に尻尾を振る演技を拒んで、見せかけのモラルに歯向かうかのようにあなたはリンクで舞っていた。
誰よりも高く。 誰よりも鋭く。
誰にも負けない・・・ 自分は強い・・・ あなたはあなただけを表現する、それがあなたのフィギュアスケート。


「貧しいからって謝ったことはない。 それが私」

貧乏を笑った子たちを見返すために、褒め言葉の一つも知らない母親を沈黙させるために、愛も分からぬ夫に妥協しないために、常に戦い続けたあなたは、いつしかその戦い方さえ見失った。
周りに愛せる人がいなかったかもしれないが。 誰のことも好きになろうとしなかったあなたは最初から戦いに負けていて、正しいことも間違っていることも分からなかったのだ。

人は誰しも過ちは犯すが、あなたは自分が傷ついた分、多くの人を傷つけ、不快な思いをさせ、過ちを認めなかった。
あなたは自分が怪物ではないと言う。
だが、スポーツが綺麗ごとだけではない概念を見せつけ、人生の地獄から想像を絶するポテンシャルが発揮されることも証明してみせた。
美しくはないが、まがまがしく咲いて散った毒のある花。
今さら恥なくても、そういうあなたのままでいいのでないか。

叩かれても踏みつけられても立ち上がり、そしてあなたは世間に叫ぶ。

「私はトーニャ」
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この映画は時折フェイクのインタビューを挿入し、ドキュメンタリー風の構成を組み込んでいます。
トーニャ・ハーディング(マーゴット・ロビー)、ラヴォナ(アリソン・ジャネイ)、ジェフ(セバスチャン・スタン)、ダイアン・ローリンソン(ジュリアンヌ・ニコルソン)、ショーン・エッカート(ポール・ウォルター・ハウザー)、マーティン・マドックス:架空のプロデューサー(ボビー・カナヴェイル)といった人物がカメラの前で好きに喋ってるわけですが、それぞれの言い分が微妙に違うのは実際のインタビューもそうだからで、それをなんら忖度することなく、そのままコピーしております。

全員が「私は正しい」ということを、なんとなく含みを匂わせた言い方で語る、妙なおかしみが次第にストーリーを支配していき、黒澤明の「羅生門」を思わせますが、実話であることが尚更、興味を引きます。
誰もかれも好きになれない人物ばかりですが、みんな面白いキャラクターですね。
最後にはみんな傷つくのに、コメディかと思うほどにユーモアが滲み出ており、こんな笑えるスキャンダルだったのかと驚くほどに面白い、いい意味での「三面記事映画」です。

音楽もまた懐メロのオンパレード。
シカゴの「長い夜」、ハートの「バラクーダ」とか、フリートウッド・マックの「ザ・チェイン」など、なぜかこのストーリーとは少し年代がずれる歌ばかりでしたが。

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マーゴット・ロビーは「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の演技でセックスシンボル的なイメージがつきそうだったんですが、「スーサイド・スクワッド」のハ―レイ・クインでワクを超えたキレっぷりが大きな糧になりました。
彼女はヴィジュアル負けしていない、デキる女優です。

オリンピックの演技前のシーンで、ひとり鏡に向かってメイクをしながら、次第に感極まり出し、半ベソをかきながらケバいメイクのまま必死で笑顔を作ろうとするシーンが異様な迫力を醸し出します。
マーゴット・ロビーの渾身の笑い泣き。 いつのまにやら凄いことになっている女優マゴロビのトリプルアクセル級の名演です。

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トーニャの母ラヴォナを演じたアリソン・ジャネイは歳を感じさせないほど若々しい肌力を今も見せる女優さんですが、ここでは強烈に老けてます。
変わりっぷりもそうですが、これほどダーティーな性格の役をこともなげにリアルに演じるアリソン・ジャネイの年季の入り方はさすがです。
我が子が幼くても平気で蹴飛ばしてたラヴォナが、トーニャとケンカになった時にナイフを投げつける衝撃のシーン。 わずかに動揺する鬼ママの表情がいい。

それと絶妙のタイミングで耳をつつくインコも名演技。

アリソン・ジャネイは近年で言うならヒュー・グラント共演の「Re:LIFE ~リライフ~」で演じたジェイン・オースティンおたくの教授役が絶品でして、あれでいっぺんに好きになりましたね。
祝オスカー。


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「賢人のお言葉」
 
「他人があなたを批判してその批判の内容が当たっているならば、喜んで感謝。 その欠点を正す機会に変えなさい」
 ジョセフ・マーフィー
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