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ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男
2018年04月29日

T0022645p.jpgゲイリー・オールドマンという役者は色んなタイプの映画に出演し、色んなタイプの役柄をこなす。
ともかくも芸達者である。
だが、ひと頃の彼には悪役のイメージがかなりあった。

やはり「レオン」の悪徳刑事だろう。 あれが強烈過ぎた。
あれを機会にオールドマンには悪役のオファーが殺到するようになった。
それについて彼自信も悩んだ時期があったらしい。
「私に悪役のオファーをする連中は想像力の欠片もないのだろう」と言ったのは有名な話。

オファーを断った作品が多いのか、イメージほど悪役を多数演じている訳ではない。
「レオン」に加え、「フィフス・エレメント」の武器商人、「エアフォース・ワン」のテロリスト、「ロスト・イン・スペース」のドクターぐらいがコテコテの悪党。
「ハンニバル」のメイスン・ヴァージャー役に至っては、あまりに特殊メイクすぎて、「誰やねん!」な状態に。
製作総指揮も兼ねた「ザ・コンテンダー」では、開き直ったのかギャラの節約か、自ら進んで敵対キャラの下院議員を演じていた。

あとは「ハリポタ」のシリウス・ブラックや「ダークナイト」シリーズのゴードンのような主役をサポートするキーマンの役が最近は多い。
どんな役であろうと、映画を観終わった後で「ゲイリー・オールドマンもよかったなあ」という感想がついてくるくらいに、彼はしっかりと爪痕を残す仕事をやってのける。
この巧すぎる役者が「裏切りのサーカス」でオスカー候補になった時、意外にもこれが初ノミネートだということに誰もが驚いた。

そして遂にこの名バイプレーヤーに今までとは違う光が当たる時が来た。
第二次世界大戦下の"伝説のリーダー"といわれる英国首相ウィンストン・チャーチルを演じたゲイリー・オールドマンが、いい意味で"らしからぬ"、主演男優賞受賞。
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もうすぐ99歳になるお母さんに感謝を捧げ、「お茶の用意をして待っていてね。 オスカーを持って帰るよ」
泣泣泣! いい人だぁっ!

チャーチルと比べて頭の形も両目の距離もまるで正反対のオールドマンを、完璧に70年前の宰相に変身させた辻一弘氏の驚嘆と称賛に値する神業もさることながら、その仕事に応えて喋り方や歩き方などを研究に研究を重ねて魂を注ぎ込んだ名優の真骨頂。
プロフェッショナルの精力がほとばしる名作を拝める映画ファンの歓びがここにある。

ここんとこパッとしなかったジョー・ライト監督の逆襲の渾身作はアカデミー賞6部門にノミネートされ、主演男優賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の2部門を受賞。
チャーチルという名前だけはよく聞く偉人。
ヒトラーから世界を救った男とは、いかなる人物だったのか・・・・・・


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ウィンストン・レナード・スペンサー=チャーチル(1874~1965)

ええとこのボンボンであったが、勉強はできない、運動も苦手、クラスメイトから嫌われ、先生からは怒られっぱなしという、この世の終わりのような学校生活を送った落ちこぼれ少年だったチャーチル
そんな彼が国を背負って立つリーダーになるとは本人でさえも予想していなかっただろう。

だが政治家になっても決して順風満帆だったわけではない。
首相になるまでに内務大臣や海軍大臣などを務めているが、政策面ではやたらにチョンボを犯す"しくじり大臣"だった。
それに加えて、所属していた保守党から一時期、対立政党だった自由党に鞍替えし、20年後に再び保守党に戻ってくるというブレブレのスタンスは当然仲間内から「なんじゃこいつ」と思われており、党内ではゴリゴリの嫌われ者だった。

時は1940年5月。
当時の英国首相だったネヴィル・チェンバレン(ロナルド・ピックアップ)が辞任する。
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「わては辞めさせてもらいますさかいに」

ナチスドイツにすり寄って宥和政策を推し進めた結果、ヒトラーをつけあがらせて侵略活動を後押しするような形になってしまったことで批判を浴び、内閣不信任案を出されて辞任することになったチェンバレン
さて、後継者を誰にするか?
チェンバレンの希望はハリファックス子爵(スティーヴン・ディレイン)だった。
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しかし、ハリファックスは貴族院議員である。
イギリス議会は上院に相当する貴族院と下院に相当する庶民院があるが、当時は貴族院議員は首相になれない決まりがあった。
「おたく、眠たいことを言っちゃいかんよ。 私が庶民院をまとめることなどできるわけないでしょうに。 まあ、首相になれたとしても今は私の出る幕じゃない」

そりゃそうである。 彼も外務大臣としてチェンバレンとお手手つないでやってきた。
『戦争するぐらいならドイツと仲良くした方がマシ・政策』を推してきた者としては今、「じゃあ、代わりに俺が」という空気ではない。

では誰にするのか?
誰もが頭の中に一人の男の顔を思い浮かべた。
あいつかよ・・・
野党を納得をさせられる適任者といえば、あの人物しか思い付かなかった。

かくして英国首相ウィンストン・チャーチルが誕生した。

fc2blog_20180427011226bb5.jpg Elizabeth-Nel.jpg
まもなく23歳になるうら若きレディ、エリザベス・レイトン(リリー・ジェームズ)は期待と不安を胸に、大きな邸宅の門をくぐった。
チャーチル専属のタイピストとして雇われた彼女は、自分がこれから伝説の生き証人となることをまだ知らない。

チャーチルって、どんな人かしら?
気難しい人だってことはチラッと聞いてるけど・・・
まあ、私のような美しい女性を邪険に扱う男なんているわけないわよね、ムフフのフ。


「遅ーい!!!」 ひえ~!
「さっさとタイプの準備せんかい! 今から喋ることをきちっと原稿にせえよ!」
そんな急に言われても。 仕方がないわ。とにかくやらなきゃ。
それにしてもこのタイプライター、ちょっと感じが違うわね。特別仕様かしら。

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「かくかくしかじか、なんたらかんたら」 カチャカチャカチャカチャ・・・ 使いにくいわ、このタイプライター。
「ああでもないこうでもない、アレのコレがソレなもんで」 カチャカチャカチャカチャ・・・ この人の喋り方、聞き取りにくいわあ。
カチャカチャカチャカチャ・・・
「じゃかましいっ!!!」 ひえ~!
「カチャカチャカチャカチャうるさいんじゃ! タイプライターは静かに打ったらんかい!」
そんなムチャな。

「ところでアンタどなた?」
は? あ、あのぉ今日からお世話になります、エリザベス・レイトンと申します。 よろしくお願いします。
「え? いつもの彼女はどうしたのかのぉ?・・・あっそうか、わしがクビにしたんじゃったのぉ」 ひえ~!
「まあどうでもええわい」 ええんかい。
「今わしが喋ったこと、ちゃんと打てただろうな?」 は、はい。
「よし、読んでみろ」
えーっと、『お婆さんが川に洗濯に行くと、川からお爺さんが流れてきました』
「そんなこと言うとるかーっ!」 ひえ~! だって聞き取りにくいんだもの。
「タイプもマトモに打てんのなら辞めてまえーっ!」
フエ~ン、ひどいわ! パワハラよ、パワハラだわ! 内閣府に告発状を送ってやるわ!

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奥様がなんとか執り成しくれました。
「あなた、最近マナーが悪いわよ。 権力者はもっと思いやりを持たないと」
「へいへい」

それにしてもさっきから・・・酒臭っ! 朝から呑んでるの?
聞いたところでは朝にスコッチ、昼と夕食にシャンパン、夜はワインとブランデーをガバガバ呑むんですって。
アルチューじゃないの。
酔った勢いでなんか変なことされないかしら。
自己防衛のためにICレコーダーで会話を録音して、場合によれば週刊誌に売るのよ。 そうよ、それがいいわ。


その時、電報が届いたようです。 国王ジョージ6世からです。
どうやらこの人が首相に任命されたようです。 世も末よね。

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奥さまは嬉しそうです。
「あなたの青年時代からの夢よ」
「国難だからな。 損な役割を押しつけられたのだ」
確かにそうかもしれません。 
今この時期に首相になるのは間違いなく貧乏くじです。

「もっと若い時に首相をやりたかったよ」
この人に若い時があったのかしら?

国王から首相任命を承るためにチャーチルさんはバッキンガム宮殿へ向かいました。 それも堂々と遅刻。
国王を待たせるなんて、度胸だけは名首相のようです。

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ジョージ6世もきっと思われたでしょう。
「なんでハリファックスじゃなくてコイツなんだ?」

イギリスは今大変な時期。 果たして気難しいアルチューの爺様に一国のリーダーが務まるのでしょうか?
人の意見に耳を貸すようなタイプでもないし、この人に庶民の気持ちが分かるのかしら?
「バスに乗ったこともない。パン屋に並んだこともない」 ダメだこりゃ。

第一次世界大戦時、自由党の海軍大臣だった頃のオスマン帝国との戦いで推進した「ガリポリ作戦」が失敗し、大蔵大臣の時は金本位制復帰が失敗。
そんなことがあっても、それ以降、なぜか何らかの大臣のポストに収まっているというこの人の魅力は何なのかしら?


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5月13日。 組閣のために議員たちが集められ、首相が就任のスピーチをなされました。
「我々は今、史上最大の戦いを目前に控えている。 私が差し出せるのは、血と苦労と涙、そして汗だけだ。 目の前には、忍耐と苦難の日々が待ち受けている。 "我々の方針は?"と問われれば、私はこう答える。 陸、海、空において徹底的に戦うことだと。 神が与えしすべての力でもって戦う。 途方もない暴政に対して、人類の犯罪史を塗り替える怪物に対して、"我々の目的は?"と問われれば、一言で答えられる。 勝利だ! どんな犠牲を払おうと、どんな恐怖を味わおうと、どれだけ長く険しい道でも勝つ。 勝利なくしては生き残ることもできん!」

これを聞いていた前首相のチェンバレンとハリファックスは文言に「平和」と「交渉」がないのが気に食わなかったみたいね。
ナチスドイツにどういう態度で臨むのか。 要はそこ。
そりゃ腰が引けてた今までと違ってチャーチルさんは徹底抗戦派の人ですものね。

元々嫌われ者だったこの人に対して周囲も陰口が止まりません。
「彼は妄想に取り憑かれてる」 「100のアイデアを出すが96は危険だ」 「帝国が重大な岐路に立つ時に酔っ払いが舵取りを・・・」 「彼が属するものはただ一つ、彼自身だ」
なによ。 あなたたちが彼を選んだんでしょ。  汚れ役を人にやらせといて、文句ばっかり言うもんじゃないわ。
ナチスと戦う前に身内と戦わなきゃならないなんて、チャーチルさんも大変ね。



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5月19日。 国民に向けてのラジオ演説です。
「国民の皆さん。 首相として初めてお話します。 深刻な危機に瀕した我が国について、大英帝国について、連合国について、何よりも自由という大義について、フランスとベルギーで大きな戦闘が起きている。 ドイツ軍はフランスに侵攻した。 しかし打撃を受けたのはフランス軍のほんの一部であり、侵略されたのはほんの一部の領土に過ぎない。 イギリスとフランスは共に助け合い前進している。 人類の歴史を汚す独裁者から、フランスのみならず人類を救うために、今、ひとつの誓いが我々を団結させる。 勝利を手にするまで戦い続ける。 決して諦めない。 服従はしない。 どんな犠牲や痛みを伴っても、我々は勝たねばならぬ。 そして必ず勝つ」

パチパチパチ。 素晴らしいですわ。 一国のリーダーはこうでなくては。
でも、これはやっぱり周りも納得しないでしょうね。
フランスは今、激的にヤバい状況ですもの。 陥落寸前だと聞きましたわ。
和平交渉もあると思っていた国王からも「国民には正しい情報を伝えなさいよ」と電話が入るし。


翌日、記者から演説について、「マジで戦争しまんのか?勝てますのかいな?」と聞かれてチャーチルさんのリアクション。

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「キマったぁーっ!」

Vサインのつもりだったのでしょう。 私には「おまえの鼻の穴をイテもうたろかい」に見えました。

首相、あのポーズはマズイですわ。
「わしが何かしたかのぉ?」 手の甲を相手に向けたら侮辱の意味なんですよ。
「マジで?」 普通の人は知ってますよ。
「でも、もうやっちゃったもん。 今さら言われてもしょうがねえよ。 ワッハッハッハー!」 なにがおもろいねん。


さて、目下ヨーロッパ戦線は非常に厳しいものになりました。
フランスが落ちるのも時間の問題です。
英・仏の兵士30万人がダンケルクの海岸まで撤退し、孤立状態になっています。
なんとか救出する術はないのでしょうか。

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「つまり我々は数日のうちに陸軍を丸々失うのか?」
そこで首相は思いつきました。 
カレーに4千人の守備隊がいるのですが、この部隊を東に向かわせ、ドイツ軍を引きつけてる間に、ダンケルクに取り残されてる兵士を脱出させる作戦を提案します。

30万人を救うために4千人を犠牲にするのです。
これにはハリファックス子爵は焦りました。
「イタリアが和平交渉の仲介を申し出てきた。 大英帝国の主権が保証されるなら考慮してもいいと答えた」
詭弁ですわ。 侵略された国の主権を保証する侵略国がどこの世界にありますか。 ムッソリーニはペテン師ですよ。
戦いを避けたい気持ちは分かります。 実は私の兄もね・・・いえ、それは置いておきましょう。
今、30万人の陸軍兵を失うことは大きな痛手です。

チャーチルさんはキレました。

「我が国をヒトラーの支配下におけと? 断じて有りえん! あの独裁者に道理など通じん! 私が全責任を取る! 何のためにこの席に座ってると思うか!」

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ハリファックスさんはどうしても戦争が嫌なのですね。 それは立派な心がけです。
だから敵と話し合いましょうと。 その話が相手に通じると思っておられるのでしょうか?
あなたが口にしてるのは宥和ではなくただの命乞いです。

ナチスドイツの犯罪行為に目をつぶるのですか?
話せば分かる相手がよその国を侵略しますか?
独裁者と握手したら最後、我々も外道と同じ地に堕ちるのですよ。
誰のための和平ですか? 降伏したら主権もクソもありませんよ。
イギリスが終わるのですよ。 それでもいいんですか?

ダンケルクにいる兵の救出作戦をハリファックスさんは「自殺行為だ」とおっしゃられます。
「最後まで戦い抜くというヒロイズムこそ危険だ。 兵士を無駄死にさせることは愛国心じゃない」
あなた、男ですか? 戦いをあきらめる方が恥ですよ、とチャーチルさんがおっしゃってました。
「君らは、いつ学ぶのだ? 頭を食われながら虎に道義を説くことなどできん」

チャーチルさんを辞任に追い込むためにチェンバレンさんと何やら画策してるようですけど、まあせいぜい裏でコソコソとおやりになって下さいな。


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対象的なのは国王陛下のジョージ6世です。
当初はチャーチルさんが首相になるのを不本意に思っておられたようです。
チェンバレン前首相やハリファックスさんとは非常に親しく、ナチスとの宥和政策にもむしろ賛成しておられました。
第一次世界大戦の時のような苦しみを国民に与えたくなかったからです。

国王はチャーチルさんが苦手でした。
「私のどこが恐いのです?」
「次に何を言い出すか分からん」 なるほど。
「党はハリファックスを望んでいるが彼は無能だ。 だが私は嫌われている。 ガリポリの戦い以来信用されていない」
こんな男でも弱音を吐くのかと、少しだけ国王のチャーチルさんへの見方が変わったようです。

もともとは兄のエドワード8世が離婚歴のあるアメリカ人女性との愛に走り、王位を退いたスキャンダルの時にチャーチルさんだけは「国王といえど自由恋愛は認められるべきだ」と擁護してくれたという恩義もあるので、国王も首相の力になりたかったのでしょう。

翌日、驚いたことに国王が直々にチャーチルさんを訪ねてやってきたのです。
「私は君を支持する。 君の首相就任を誰よりも恐れていたのはヒトラーだ。 あのケダモノを怯えさせる男を私は信頼する。 戦おう」
政界一の嫌われ者だった人に、かけがえのない親友ができた瞬間でありました。


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国王からの勇気あるお言葉をいただく前の日に、私は辛い仕事をしたのです。
ダンケルクの脱出作戦のためにドイツ軍を陽動するカレーの守備隊のニコルソン准将に電報を打つのです。
30万人の兵士を救うために、囮となってドイツ軍に追い詰められてる4千人のカレーの部隊は今か今かと救出を待っているのでしょう。


『救出は行わない』

タイプを打ちながら私は涙を流すのを禁じ得ませんでした。
出征した兄がダンケルクで亡くなっているのです。
カレーの兵士たちはどういう思いで命を散らしていくのでしょうか?
少なくとも私の兄は首相の英断を支持するでしょう。 そうでなければ兄の死は報われません。 兄が戦った意味さえも無にはしたくないのです。

5月27日、カレー陥落。
そして1週間後の6月4日。 ダイナモ作戦により、民間船の協力もあって33万1226名の兵士がダンケルクから撤退を果たしました。
詳しくはクリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」をご覧ください。 DVD&ブルーレイ絶賛発売・レンタル中でございます。



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ダンケルクでの作戦は勇気ある撤退ですが、それでも敗走は敗走です。
ベルギーもとっくに陥落した今、私たちは崖っぷちにいることに変わりはないのです。

戦争にこだわり多くの国民の命を犠牲にするのか、ナチスドイツと名ばかりの講和を結び、悪魔に隷属する“死に体”の国家の道を行くのか。
行くも地獄、戻るも地獄。 自分の考えが果たして正しいのか、間違っているのかと首相は大いに悩みます。

そんな時、奥様のクレメンティーンさんは励まします。
「全世界があなたの肩にかかっている。 その心の葛藤があなたを支えてきた。 欠点があるから強くなれる。 迷いがあるから賢くなれる」
なんと素晴らしい奥様なのでしょう。
リーダーの妻もまたリーダー。 奥様もご一緒に戦っておられたのですね。 私、感動してしまいました。

「逃げ出した国に未来はない。 戦って敗れた国は起き上がれる力がある」
そうこなくちゃいけませんよ首相。 とはいうものの差し迫った現実は厳しいものでした。
ドイツってなんて強いのでしょう。
講和も致し方ないのかという所まで追い詰められたイギリス。
果たして首相の決断は?


演説のために官邸から議会へと車で向かう途中のこと。
運転手が気がつくと後部座席の首相の姿が消えていたそうです。

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突然の思いつきだったのでしょう。 首相は初めて地下鉄に乗りました。
これには乗り合わせた市民の方々もビックリ仰天でございます。
葉巻をくわえて「マッチ持ってない?」
刑事コロンボみたいなことをおっしゃいますが、首相、車両内の喫煙は・・・・いいのかしら?いいんでしょうね。 私もよく存じません。

首相はおもむろに乗客たちに問いかけます。
「ざっくばらんに聞きたいのだがな。 君たち国民の気持ちはどうなんだ?」
勝ち目は薄いが、それでも戦うか? イギリスが存続するのであれば戦いをあきらめて敵と手を結ぶか?

市井の民の力強い言葉が響き渡りました。

「NEVER!」 「NEVER!」 「NEVER!」 「NEVER!」 「NEVER!」
幼い少女さえも、降伏してはダメだと「NEVER!」を叫びました。
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ここで首相はトーマス・マコーリーの書いた詩、『橋の上のホラティウス』の一説を口ずさみ、乗客の一人が引き継ぎます。

門の護り手である勇敢なホラティウスは言った
地上のあらゆる人間に遅かれ早かれ死は訪れる  
ならば先祖の遺灰のため、神々の殿堂のため、強敵に立ち向かう以上の死に方があるだろうか


人の意見に耳を貸さなかった首相が、初めて自ら足を運んで意見を問うた相手は王でもなければ議員でもなく夫人でもありません。
首相は地上よりもさらに下に降りて、名も知らぬ市民の声を求めたのです。 これは非常に大きなことです。
自分の地位が誰の物であるかは明白です。 断を下すのはもちろん首相の意志ですが、政治の本当の導き手は国民の心なのです。
“仲間”を欲していた孤立無援のリーダーは、街角のポリティシャンの心を直に受け止め、決意を固めました。


アリス・シンプソン・・・ マーカス・ピーターズ・・・ モーリス・ベイカー・・・ ジェシー・サットン・・・
「NEVER!」を口にした人の名を尋ね、いつの間にやらメモっていたのには驚きです。


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1940年6月4日の下院演説です。

英国は長い歴史を誇るが、そのいかなる時期においても侵略に対して完全な防御を備えたことはなかった。
しかし私には絶対的な自信がある。
我々が皆、するべき役割を果たし、できうる限りの準備をすれば、必ず祖国を守ることができるだろう。
何年もかかるかもしれない。 単独で戦うことになるやもしれない。
だが何があろうと我々は最後までやるつもりだ。
それがイギリス政府の決意であり、議会の、そして国民の総意である。
たとえヨーロッパの大部分の領土と、古く名高き国々が、ゲシュタポをはじめとする忌まわしきナチス組織の手に落ちたとしても、我々は決して怯まない。
最後まで戦い抜く。 我々はフランスで戦う。 我々は海で戦う。 我々は日々大きくなっていく自信と力でもって空中で戦う。
我々はどんな犠牲を払おうとこの島を守る。 我々は海岸でも戦うだろう。
我々は水際でも戦うだろう。 野で、街頭で、丘で戦うだろう。
我々は決して降参しない。
例えこの島やその大部分が征服され、飢えに苦しもうとも、私は降参を信じない。
我々の陛下が海の向こうで英国艦隊に守られ、陛下の全ての力と権力によって、神のよき時代の中へ、彼らを古きより救い、新世界へ解放する歩みを進めるまで、努力を続けるだろう。


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このスピーチは首相の声ではありません。
国民の声なのです。 イギリスの心なのです。

私は思うのです。
確かに戦争は誰だって嫌です。 死ぬのは怖いです。 人を殺すのも嫌です。
でも、真に平和を望むのならば戦うことを避けてはいけないのです。

自分が欲しい物を手にする手っ取り早いやり方が「力」です。
世界には強い力を欲する指導者があとを絶ちません。 
力の強い者が何もかも手に入れるのは、野生動物の中にも見られることです。
野生の世界では一度力で決着がついたらそれまでですが、我々は人間です。
暴力に訴えてきた者に対して尻尾を巻いて媚びへつらったり、おこぼれをもらって自我を捨て去るなど、それこそ畜生道に落ちることを意味します。
暴力に暴力で対抗するのは、人間としての最も重い決断ですが、人間であるからこそ乗り越えねばならない責務ではないでしょうか。

戦いを放棄して、「強者こそが善」と妄信している侵略者を地上にのさばらせる行為や思想は侵略者よりもタチが悪いのです。
人間は腑抜けな生き物ではないはずです。
武器や腕力などの強弱はあっても、意志の力に差はありません。 みな対等です。
自分の国を奪われても、生活を脅かされても、抵抗をあきらめたら心は死んだも同然。 あとは滅びるだけです。

右の頬をぶたれたら左の頬を差し出すというのは、恐怖に負け、勇気を捨て去り、人間を辞めた外道の言い逃れです。
戦うことは場合によっては決して野蛮なことではありません。 
世を乱す敵に戦いを挑むのが本当の人間の正義です。

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私にとって、チャーチル首相のおそばで仕事を手伝わせていただいたことは一生の財産です。
たくさんの思い出があり、多くのことを学びました。
女人禁制であるはずの戦時作戦室に招かれて戦況を説明して下さった日のことは忘れられません。

あの方はいつも一人で悩み一人で苦しみながら自分の信念の是非と戦っていました。
かなりきつかったでしょう。 傍から見れば大勢の「平和主義者」と一人の「戦争屋」の内紛です。
犠牲を強いる政治に自信を持てる人などいません。
いつ心が折れてもおかしくなかった状況でも自分を見失わなかった精神力は、たくましきリーダーの資質そのものだと感じました。 

批判されては何度も立ち止まりながら、それでも自分が正しいと思えば、大勢に流されることなく己を貫こうとするこの一本気。
向かい風が吹く方向に問題があるのに、我が身かわいさに追い風へと逃げる数多の政治家とは違いました。
この方の意志で多くの命が失われたことも事実ですが、彼がこの時代に首相の席にいたことは、大きな幸運だったと私は信じてやみません。
その後の世界の歴史に必ずや大きな財産を残したでしょう。 そして、感動的な伝記映画も作られるでしょう。

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チャーチルが全てにおいて優れた政治家だったとは思わないし、もちろん映画もまた彼を手放しで賛美しているわけではない。 ましてや戦争大いにけっこうなどと吹聴はしていない。
チャーチルの弱い面も含めた描写のキャラクター・ドラマとしても十分面白いが、命題はそこではない。

クライマックスにある地下鉄のシーンはフィクションである。
その、ある意味で「嘘」のシークエンスを付け足した意図の中にこそテーマがある。
庶民の声に耳を傾けるチャーチルの人柄なんかにジョー・ライト監督は興味はない。
これは国民の声こそが政治を動かす最大の動力源である、そうあるべきだというシンプルな声明である。

劇中何度かチャーチルの演説シーンはあり、やはり最後の「ネバー・サレンダー!」は胸を打つが、それでも一番響く言葉は地下鉄の乗客たちが発した「NEVER!」である。
権力者はどうしても同じ高みの位置にいる政敵とのバランス取りや、同盟国や対立国の動きなど、庶民が見ている方向とは違う方へと目を向けてしまいがちだ。
国のリーダーたる者、いかに庶民と同じ目線に降りて、多くの声を拾い上げれるかが問われる。
その声こそが政治の大きな力なのだ。

そこだけフィクションではあるが、独裁者から世界を救うのは、こうした市井の人々の声だということなのだ。。
世界はこうあるべきだと声を発すれば、世界は変わるのである。
誰がリーダーだの首相だの大統領だのとかではない。
民ひとりひとりに世界を導ける言葉の力がある。 そこに気づけるリーダーが今いるだろうか。

トランプもプーチンも習近平も安倍も、どこを向いて権力者の椅子に座っている?
あなた方がもしタイピストだったら、国民の声を正確に聞いて文書にできるか?
耳を持ってくれ。 高みから地上に降りて耳をすますがよい。

362605_006.jpg 

「賢人のお言葉」
 
「成功も失敗も終わりではない。 肝心なのは続ける勇気だ」
 ウィンストン・チャーチル
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