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シェイプ・オブ・ウォーター
2018年03月23日

T0022612p.jpgもう1ヶ月近くも前だけど。
第90回アカデミー賞のことをチョチョイと。

「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」で辻一弘氏がメークアップ&ヘアスタイリング賞を3度目の正直で受賞。
映画の予告編観てても「そりゃ、そうでしょ」と納得。
ゲイリー・オールドマンがあんなに変身するプロの技に脱帽。
これは日本人として嬉しい限り。
そうそう。ゲイリー・オールドマンもおめでとう。


今年もジミー・キンメルがMCでしたが、出席してもいないマット・デイモンを相変わらずイジり倒す。
「ごめん、時間切れだ」 あんた好きだな、そのネタ。
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そのキンメルはオープニングで昨年の誤発表騒動に触れ、「名前を呼ばれてもすぐに席を立たないで!」とカマして会場を温める。
エマ・ストーンのニンマリした顔がすぐさまカメラで抜かれてたね。

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主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンド「インクルージョン・ライダー」の発言も色々と勉強になった。
助演男優賞を受賞したサム・ロックウェルのスピーチを見守るマクドーマンドの半泣き顔も印象深い。

プレゼンターも毎回多士済々だけど、ジェーン・フォンダが出てたね。久しぶりに見たよ。
「ウエストサイド物語」のリタ・モレノや、「北北西に進路を取れ」のエヴァ・マリー・セイントの顔も。
主演女優賞のプレゼンターとしてジェニファー・ローレンスと一緒に登場したジョディ・フォスターは痛々しい松葉杖姿。 スキーでこけたらしい。
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「まあ、お気の毒。 その足どうしたの?」ローレンスが振る。
「ストリープ!」フォスターが目の前の席にいるメリル・ストリープを指差して「彼女に"アイ,トーニャ"されたのよ」と恐れ知らずのジョークをブッ込む。
3部門にノミネートされている、ナンシー・ケリガン襲撃事件疑惑のトーニャ・ハーディングを描いた「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」をネタに使って主演女優賞候補のマーゴット・ロビーが爆笑していた。
ローレンス「私も以前に彼女に転ばされたわ」と2013年の授賞式の「階段でバッタリ事件」で便乗。

メリル・ストリープ、「ハァァ?私がぁ?」というリアクションながら涙流して大ウケ。
これも全女優からリスペクトされるストリープへの愛のイジリなのだ。

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なんといっても昨年の作品賞のプレゼンターとして少々気まずい思いをしたウォーレン・ビーティーフェイ・ダナウェイが“リベンジ”の再登場。
こういうところが本場は洒落てるよね。
 
「またお会いできて光栄です」ビーティーが切り出し、ダナウェイ「プレゼンターを2度もできるなんて素敵でしょ?」と会場を沸かせた。
そしてビーティーが読み上げた作品賞はギレルモ・デル・トロ監督作品の「シェイプ・オブ・ウォーター」。

13部門という最多ノミネートの勢いそのままに「スリー・ビルボード」や「レディ・バード」などのライバルを蹴散らして、作品賞のほか監督賞、作曲賞、美術賞の4部門を受賞。
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あれ?ドキュメンタリー映画は撮らないんですか?と振ったら「マイケル・ムーア監督じゃねーよ!」と突っこむだろうか?

ギレルモ・デル・トロの映画はイコール、クリーチャーの映画でもある。
「クロノス」、「ブレイド2」のヴァンパイア、「ミミック」の昆虫のモンスター、「デビルズ・バックボーン」、「クリムゾン・ピーク」の亡霊、「パンズ・ラビリンス」の妖精、「パシフィック・リム」の怪獣など、異形の存在をギレルモは愛し続けてきた。

もとより特殊メイク職人でもあり、ガキの頃から日本の特撮モノをこよなく愛してきたオタク魂パンパンのギレルモの「クリーチャー愛」は尋常ではなく、作品における美術的な世界観の造詣におけるクオリティはこだわり過ぎるくらいにこだわる男である。
もちろんビジュアルだけに留まらず、脚本家としても多くの作品に関わってきたギレルモのストーリー・テリングには多少のクセはあるものの深遠で知的なファンタジーを構築することで定評がある。
 
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そんなオタクの語り部ギレルモにオスカーをもたらした「シェイプ・オブ・ウォーター」も当然ながらクリーチャーが出てくる映画である。
それも半魚人である。
半魚人というとB級映画ぐらいでしかお目にかかれないクリーチャーであり、「大アマゾンの半魚人」(54)という古典はあるものの、こちとら知る由もない。
かろうじて「ウルトラQ」のラゴンや、ダウンタウンの「ごっつええ感じ」で松っちゃんがやってた「産ませてよ~」の半魚人しか、パッと思い浮かばない。
 
ギレルモは「シェイプ・オブ・ウォーター」で半魚人と人間の女性との愛の物語を描いた。
「なるほどそれは『美女と野獣』のようなものなのか。それならば、さほど目新しい話ではないのでは?」と思ってしまうが、この映画の中身はそうシンプルではない。
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確かにストーリーラインは「美女と野獣」や「キングコング」のような、種を超えた絆のラブストーリーを骨子としてはいるが、決定的に違うのはヒロインが美女ではないことだ。
サリー・ホーキンスには失礼だが、色気など皆無と言っていいアラフォーの地味女子キャラは、知らない人からすれば「松金よね子か?」と思われても無理はない。

しかもこのヒロイン、口がきけない。 ハンデキャッパーのジミジョがヒロインならば半魚人はあくまでも半魚人。
キスしただけでイケメンの王子様に早変わりなどしない。 
徹底して「美女と野獣」の裏を行く、言葉を持たぬマイノリティの者同士の美しくも切ないラブストーリーなのである。

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いかなる雑音も一切届かない水の底。
二人に言葉は元々ない。 だから何も聞こえる必要はない。
こうして一緒にいるだけで、孤独の傷は泡と消えゆく。
幸せに包まれて、深き碧の世界は愛のぬくもりで満たされる・・・・

なぜ"彼"と彼女がこうしているのか。
それでは語っていこう。 水のプリンスと声なきプリンセスの言葉を超えた愛の物語を。


それは今から半世紀も昔の1962年。
米ソ冷戦真っ只中の時代で、舞台はアメリカのボルチモア。
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ヒロインの名はイライザ・エスポジート(サリー・ホーキンス)。
彼女は実は言葉が話せない。
首に幼少の頃からついたまま消えぬ傷がある。
その傷と共に幼い彼女は心を引き裂かれて言葉を失った。

川に捨てられていたらしい彼女は孤児院で育ち、「エスポジート」という姓も本名か定かじゃない。
“エスポジート”・・・ラテン語で“孤児”。
愛されたこともない。 意思のやり取りもままならない。
ハンデを持った人の心の叫びを気に留める人などごくわずかな時代だ。

だから彼女は世界に何も期待はしていなかった。
明日大きな戦争が起きようとも、すでに未来が滅びた彼女には世界の行く末など関心の外だった。
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イライザの暮らすアパートは1階が「オルフェウム」という名の映画館になっている。 うらやましい住まいだ。
彼女の部屋の隣に住んでいるのは売れないゲイの画家のジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)。
イライザの数少ない理解者の一人だ。

彼と一緒に近所の「ディキシー・ダグのパイ」の店でテイクアウトした、あまり美味しくないライムパイをつつき合ったり、彼の部屋で昔の映画をテレビで楽しむのがイライザの憩いのひと時だ。

ビル・ボージャングル・ロビンソンのタップを絶賛し、30年代に活躍した女優アリス・フェイを懐かしむ。 古き良き時代を語るジャイルズの、少年のようにほころんだ顔がイライザは好きだった。

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ジャイルズは勤めていた広告会社を飲酒が元で解雇されている。
酒のせいだけじゃないのかもしれない。 ゲイには生き辛い時代だったのだ。
再び雇ってもらおうと、イラストを描いては描いては元上司と会って、決して衰えていない自分の腕を見てもらう。
だが反応は芳しくない。
もう広告の世界にイラストの居場所はない。 写真の時代なのだ。
いや・・・ジャイルズには薄々分かっているのだろう。 ゲイに居場所なんてない・・・

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イライザはアメリカ政府の情報機関「航空宇宙研究センター」で働いている。
と言っても、清掃員なのだが。

世話焼きの同僚ゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)は、いつも遅刻気味のイライザのためにタイムカードの列に入らせてやる。 後ろで並んでる人から文句を言われるが、おかまいなしだ。
イライザと仕事でコンビを組むこともあるゼルダのお喋りは「うちの亭主は」「うちの亭主が」と、夫への愚痴で終始する。
イライザはそれを微笑ましく聞き流す。

黒人であり、女性。
60年代のアメリカはこれらのマイノリティも社会の隅に追いやった。
はみ出し者だからこそゼルダイライザの心を慮れる。 イライザもまた、はみ出し者だからこそゼルダの心を慮れる。

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ある日、研究室に大きなカプセルが運び込まれてきた。
最近になってこの研究所に赴任してきた科学者のチームが手配したものらしい。

水をなみなみと湛えた水槽のようなカプセル。
興味を惹かれて近づいたイライザは、その中にうごめいている生き物を感じた。
それが彼女と"彼"のファーストコンタクト。

数日後、イライザゼルダは緊急で呼び出され、研究室を「20分以内にきれいに掃除してくれ」と命じられる。
床は血だらけ。 棚の下には指輪と人の指が2本転がっており、それを見つけたイライザは紙袋に入れ、やがてある男の元に返される。

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その指の主はこの男。
リチャード・ストリックランド(マイケル・シャノン)。 横分けのホワイトカラーだが、これでも軍人である。 階級は大佐。

このたび航空宇宙研究センターに運び込まれてきた生物に対する処遇について軍から委任されているストリックランドはその生物を邪険に扱っていた。
立場の弱い者に自分が上であることを誇示しながら虐待を楽しむ男である。
だがその虐待に生き物が予想外の反撃をしたのだろう。 ストリックランドは左手の薬指と小指をガブリとやられ、このざまである。

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ここで少しこの男について触れよう。
この「指ガブリ事件」の少し前にイライザゼルダは男子トイレを清掃中にストリックランドと会っている。

その時に彼はこんなことを言った。
「用を足す前とあとで2回手を洗う奴は軟弱な奴だ」 えっ?そんな人いる?
手を洗ってからでないとテメエのチンコもさわれないのなら、それは確かに軟弱モノだ。
このオッサンの言うことは正しい。

だがそんなマッチョイズムの持論をわざわざ婦女子の前で披露するこの男、典型的な「男とアメリカは強くあるべし」を至上とするクラシカルな保守オヤジである。

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家に帰れば妻と二人の子がいる。 これもまた彼の理想とするファミリーの形態及び「アメリカのパパ像」である。
特別に家族を愛してる訳ではない。
ストリックランドという男は、家族を幸せにするために一所懸命働いて、良きパパになろうというようなタマではない。
「アメリカ男はこういう生活を手に入れてこそ一流ってもんだぜ」と、理想を実現させた自分を誇っているだけだ。

たまに早く帰ってきたら、オヒサマがまだ上にあっても妻をベッドに押し倒して、まるでレイプでもするかのように激しいセックスに高じる。
しかも妻が声を出すの嫌がる。 「黙れ」と言うのだ。
彼が虐待している生き物の発する声を思い出すからだ。

何よりも愛し合おう、分かち合おうという気などサラサラない。 自分よりローランクの人間など、自尊心を満足させるための飾りでしかない。
自分に何かを求める「声」が彼は嫌いだ。 自分を敬わずに意見する「声」が彼は嫌いだ。
彼は沈黙の中にいる神でいたいのだ。

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ストリックランドにはもう一つ足りない物があった。
キャデラックだ。
アメリカの富の象徴。 成功者はこれに乗ってこそ成功者。
バカでかいだけで、燃料は食うわ、故障はするわという、まさに中身が薄いくせに威張り散らしてるだけの古風なアメリカ男そのものの車だ。

セールスマンも、「成功者の5人のうち4人は乗ってますよ」などと営業トークをする。
ミルクホワイトのコンバーチブルも良かったが、ストリックランドの目を惹いたのはティールグリーンの62シリーズだった。

この色が好きだという訳ではない。 なぜこの色なのか。
彼がいつも虐待する生き物の色であり、イライザゼルダらの清掃員が着ている制服の色だからだ。
この色のキャデラックに乗ることで、声なき弱者を完全に支配できる満足感を満たせる気がしたのだ。


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一方イライザは研究室の清掃に通ううちに、この生き物の姿を目にし、そのあまりの神々しさに惹かれる。
もちろんそれは人間ではない。 濃緑のモンスターである。
なぜ彼女はそんな異形の存在の虜になったのだろうか?

人の美的感覚はそれぞれだというだけでは説明にもならないか。
ならばだ。 彼女はすでに遠い昔に"彼"と出会っていた記憶がわずかに残っているというのはどうか。
赤ん坊の時の彼女は川に捨てられていたという。
「川」? 川に浮かんでいたのか? 川べりか? そもそもなぜ川か? この赤ん坊が水の危険にさらされていたであろうとの想像は難くない。

川に流されていた赤ん坊の彼女を救ったのが“彼”、もしくは仲間か。
この“彼”はアマゾンの奥地で現地の人に神と崇められていた生き物らしいが、まさか地球上にたった一体ではあるまい。
彼女は過去に見ているのだ。 “彼”を。 水の中で救いの手に包まれた記憶が心の底にある。
だから、彼女はバスタブの中で自慰をするのだ。

もうひとつ突飛な考察をするならば、彼女はもともと人間ではなく、この生物と同種ではなかろうか。
彼女にはその記憶がなくて、あのラストの“能力”で体の一部だけが「元に戻る」とも解釈できる。

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動物とコミュニケーションを図るには食べ物で釣るか、鳴きマネをするか。
「食」と「音」でお近づきを試みるのはセオリーだ。

イライザはゆで卵が好き。 板東英二なみに好きだ。
そのゆで卵を使っての接近遭遇は成功。
“彼”もゆで卵が気に入ったようだ。

アイコンタクトも通じ、“彼”は手話も覚えた。

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“彼”は音楽も好きだ。
レコードプレーヤーを持ちこんで、毎日のようにイライザはレコード持参で“彼”と共に過ごす。
今日はベニー・グッドマン? それともグラン・ミラー・オーケストラ?
マデリン・ペルー・・・ アンディ・ウィリアムス・・・


「ゆで卵」と「音楽」と。
 二人に語り合う言葉はないけれど、心は手に取るように通じ合う。
好きなものを食べて、好きな音楽を聴いて。
ジャイルズとの、ライムパイとクラシック映画もいいけれど、“彼”との水槽越しのデートはイライザの毎日に輝きをもたらす。
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“彼”にとってもイライザとの出会いは新鮮だった。
誰もが自分を恐れおののく。
逃げる者、武器を向ける者、奇異の目で気味悪がる者、距離を置いて、ひたすらかしこまる者。
“彼”はどこにいても独りぼっちだった。
だが彼女は違った。

彼女が自分を見る目は、それまでの誰とも違うキラキラした眼差しだったのだ。
自分と同様に言葉を持たぬ彼女の、しなやかな手の動きから伝わる「情」は“彼”の心の扉をこじ開けた。

「ゆで卵」と「音楽」と。 そして「彼女」と。
その順番は、いつしか「彼女」が最優先になった。
ゆで卵の味も音楽の安らぎも手話も知った。
しかし“彼”が知った、最も大切なものは「愛」だった。

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ここでもう一人の人物にも触れよう。
航空宇宙研究センターに新しく赴任したロバート・ホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)。
今回、アマゾンで捕らえられた新種の生物に対して並々ならぬ研究意欲を覗かせている。

彼は、現在アメリカがソ連としのぎを削っている宇宙開発競争に優位に立つために、実験サンプルとして、この生物をロケットに乗せてはどうかと提案していた。
2通りの呼吸法を持つこの生物なら打ってつけのはずなのだ。
だが、ストリックランドは生体解剖して機能を調べるべきだと主張し、上官のホイト元帥(ニック・サーシー)からも同意を得る。
科学者としての興味よりも、単純に生き物の命を安易に奪うことに強い抵抗を覚えるホフステトラーは心の中で静かに憤るのだった。

ロバート・ホフステトラーと名乗っている彼の本当の名はディミトリ・アントノヴィッチ・モショコフ
実はKGBのスパイである。
報告を受けた組織は、生体解剖される前に先手を打って生物を殺せとホフステトラーに命じる。
どちらに転んでも、あの生物が死なねばならぬ状況にホフステトラーの心は痛んだ。
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彼もまた孤独だった。
祖国のために異国の地を踏み、まるで違う名前を騙り、別人になってコソコソとした生き方をしている。
科学者のはしくれでありながら、政治の道具となって転がされ、いつ何どき存在を消されても不思議でない囚われの身であることを感じていた彼は、あの生物と出会って考えが揺らいでいた。

"彼"を救わねば自分の魂も死ぬように感じた。
知らない世界に連れてこられ、言葉も分からず、身も心も蹂躙され、やがてこの世から抹消されようとしている、あの未知の生き物に自分を重ね合わせたホフステトラーは重大な覚悟を決めるのだった。

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"彼"が殺されようとしていることを偶然知ったイライザは、"彼"を救い出すためにジャイルズに手伝ってほしいと訴える。
尻込みするジャイルズに、イライザの手は激しく訴える。
《私にできることは彼を救うか死なせるか。 彼を助けないんだったら、私たちだって人間じゃないわ》


彼女の訴えが背中に突き刺さったまま、ジャイルズは昔の上司に会いに行った。
予想していた以上の態度で突き放されたジャイルズはその足で「ディキシー・ダグのパイ」の店に入った。
若い店主と話してるうちに、不意に手を触ってしまった。
キレた店主は、客として入ってきたばかりの黒人夫婦の入店を断り、ジャイルズにも「出て行け」と凄んだ。
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人とちょっと違うということだけで、この国はなぜこうも生き辛いのか。
毎日街角で黒人が殴られている。 同性愛者は後ろ指を指されて避けられる。
強い者が弱い者を虐げる愚行から目を背けては加担しているのと同じ。
ジャイルズは腹をくくった。
世間が人間扱いしなくとも、最低でも自分は差別主義者に加担する愚か者に成り下がりたくなかった。

ジャイルズホフステトラーの協力、そして土壇場でイライザの思惑に気づいたゼルダも手を貸して、“彼”を研究所から脱出させる大胆な作戦は成功。
“彼”はイライザの部屋でかくまわれることになった。

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"彼"はありのままのイライザを愛する。
ライザも本当の自分を見てくれる"彼"を愛する。
姿形も、言葉も、生き方も、違いのすべてを愛は許してくれる。

"彼"の生きる世界。 水の世界。
透明に輝く結晶に満ち溢れた、何もかもが平等の世界。
自在に姿を変えても手に取ることのできない水はそれでも水であり続ける。
そんな形のない"宇宙"からあなたはやってきた。
あなたの命を育み、あなたの生を彩る、愛おしき水で私を包み込んで。 あなたを感じさせて。


しばしの間、なんびとにも阻まれることなく、水にたゆたいながら二人だけの時は過ぎて行く・・・・・

人間だから、人間じゃないからという概念さえも、愛という力は覆す。
人種や生まれた国や肌の色や宗教や、取るに足らぬ相違で他者の言葉に耳を傾けぬちっぽけな我々に向かって、この美女でもない普通の女性と半魚人の愛がなんらかの「言葉」を語りかけてくるようだ。

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ストリックランドの理想は死に絶えつつあった。
噛みちぎられたものの、戻ってきた二本の指は処置がおざなりだったのか、日に日に腐敗が進んでいく。
左手の薬指、そして小指。 これは「妻」と「子供」の象徴である。
その指を一旦失っても、再びくっつけ直しても、特に感情が揺れ動かないストリックランドは、指などあってもなくてもこだわらないかのような目で己の手を見つめる。

家族などはどうでもいいのだ。 フェンダーが無残にへしゃげたキャデラックだって、そんなのはただのモノだ。
だが自分の世界が、理想をことごとく裏切る者たちによって蝕まれていく状況が許せない。
人間に生まれて良かったと思えるほど、おぞましい姿のモンスターが自由の身となってどこかにいる。
口が利けぬくせに反抗的な清掃員の女。
含んだ目で自分を見る黒人の女。
そして何もかも台無しにしたソ連の回し者。
自分の世界を弱者に侵されるなど、絶対にあってはならない。


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弱き者を踏みつけて、生き残る強き者が君臨するストリックランドの理想のアメリカ。
その世界の中で自分こそが神であろうとするストリックランドは、アマゾンから来た"神"がうとましくてならない。
神は自分だけで十分なのだ。

誰がモンスターを逃がす手引きをしたのか。 ストリックランドは従業員一人一人を尋問していく。
何か知ってるに違いないと彼があたりをつけたイライザゼルダは当然シラを切る。
つまらぬ隠し事をしてることを掴んだら、この世界でおまえたちが生きる場所はないぞ。
ストリックランドとしては十分脅したつもりだが、イライザは帰り際に手話で何かを語った。
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「F」 「U」 「C」 「K」 「Y」 「O」 「U」

ストリックランドにはチンプンカンプンだが、穏やかじゃないことを言ってるのは目を見れば分かる。
激昂するストリックランドゼルダ「“ありがとう”と言ってるんです」とフォローするが、そんなはずはないと分かっているストリックランドの忌々しい気持ちは収まらない。

ホフステトラー博士がソ連のスパイであることを突き止め、拷問の上に殺害したストリックランドゼルダの家を訪問し、彼女の夫を問い詰めてモンスターが隠れている所を聞き出した。

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どんなに惹かれあっても住む世界が違いすぎる現実をイライザは受け止めねばならなかった。
やがてくる“彼”との別れのために、雨水で運河が氾濫する時期をカレンダーに刻んでいた。
その時が来たら“彼”を帰らせるのだ。

しかし、その時は突然に来る。
ゼルダから「すぐにアパートから逃げて」と連絡をもらったイライザジャイルズと共に“彼”を連れて運河へと向かうのだが・・・

種を超えた愛の物語は、想像を絶する運命の急流へと駆け抜ける・・・・・ 


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この物語のモチーフに挙げられるのが「言葉」。
言葉を持たぬ者同士の愛が描かれることはもちろん、この時代において声を発することさえ封殺されたマイノリティがひとつとなって行動を起こす物語でもある。

ヒロインは物を言わぬ代わりに「見る目」が違う。
人が忌み嫌うような容姿の者でも彼女は相手の心を見て心で語りかける。
「強い男」をアピールして弱者を差別するような男には「Fuck you」の“一言”で断罪してみせるのだ。
言葉を発さない者の“言葉”は実に強く鋭い。
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また、ゆで卵と音楽から始まる愛は逆に言葉の価値を超え、愛という感情こそが最も力を秘めた“言葉”であることを我々は知る。

夫にそれまで文句ひとつ言わずにやってきたゼルダストリックランドに秘密を喋った夫に向かって「あんたは黙ってて!」と、自らの言葉て夫の口を閉じさせる。
ホフステトラーの場合はこれという言葉はないが、異国の地で本当の自分を隠して黙してきたソ連人の彼が、独りぼっちの生物の命を守るためにアメリカ人に手を差し伸べる行動も十分興味深い。

そして同性愛者として日陰で忍んできたジャイルズは、この物語の語り部である。
彼の視点以外のことまで語られてるのは、ひょっとしたら、この物語自体がジャイルズの空想の産物ではないかという見方もできないことはない。

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モンスター、障害者、黒人女性、異邦人、ゲイ・・・
これらのマイノリティが語ることを解放するならば、その両極にいる雄弁なストリックランドは最後に喉をかっ切られて、抵抗の言葉さえも発せず地にひれ伏すことになる。

彼のキャラクターはどうしても時の大統領とダブる。
メキシコ人を「強姦魔」と罵り、障害者を笑い物にし、移民を追放したがり、女性を蔑み、黒人に暴力を振るう者を擁護する。
同性愛者には取り立てて過激なことは言ってないが、ただ興味がないだけだ。

「神は私の姿に近い」とまで言ってのけるストリックランドは少数の弱者を徹底的に排除したがり、理想の強い国の神を標榜する。
しかし彼が人生の最後に発する言葉が「おまえは神か?」というのは、とてつもない皮肉だ。

マイノリティの意見にあまり触れることのなかった昔に比べれば、多くの人が声を上げて多くの意思や主張を聞くことができる時代だ。
「サイレント・マイノリティ」は今やサイレントでもなく、マイノリティでもなくなってきている。
そんな世相を鑑みて、マイノリティが言葉を禁じられた時代を舞台に、水のごとき透明な愛を描いたファンタジーは、世界が問われている寛容と慈愛の物語でもある。

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ストリックランドの銃弾を受けても驚異的な治癒力で甦る“彼”の姿がイエス・キリストの復活を思わせるように、このモンスターをイエスに寄せている描写がなされていることに気づく人は多いだろう。
ストリックランドに拷問されてる姿や、ジャイルズの髪をリーブ21も飛んで逃げるほど増毛したりするヒーリングパワーはイエス・キリストそのもの。

ギリシア語で魚は「イクテュス」(ΙΧΘΥΣという。
これはΙΗΣΟΥΣ(イエス)」ΧΡΙΣΤΤΟΣ(キリスト)」ΘΕΟΥ(神の)」ΥΙΟΣ(子)」ΣΩΤΗΡ(救世主)」のそれぞれの頭文字を取ったものである。
ギレルモが半魚人を登場させた意図は、魚はキリスト教上では神を象徴するものであるからだ。
人間が神に取って代わろうという自惚れへの戒めが込められている。

神は人に非ず。 人は神に非ず。
人は人を隔ててはならぬ。 人の魂はみな等しいもの。
人類みな愛し合おう。 愛の中に神は宿るのだ。

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この映画には至る所に暗喩が散りばめられており、それらを見つけては解釈を導き出す映画的な面白さがあふれている。

◆ オープニングの水の中の部屋のシーン。
◆ 緑中心のイライザの装いに後半から加わり出す「赤色」。
◆ 映画館で上映されている「砂漠の女王」(60)と「恋愛候補生」(58)。
ストリックランドの2本の指とキャデラック。
◆ ライムパイ。 ゆで卵。
◆ 「ラ・ジャヴァネーズ」。
◆ サムソンとデリラ。
◆ ミュージカル・シーン。

特に色遣いの仄めかしが機知に富んでいるほか、「清掃」、「バスタブ」、「注射」、「トイレ」、「雨」、「イライザの部屋の壁の模様」など「水」に関連付けたものは多い。

ギレルモ・デル・トロからの愛の聖書。
言葉よりも雄弁に、無色透明の水よりも鮮やかに。

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あなたの形は見えなくても、私の周りにあなたを感じる。
あなたの存在が私の目を愛で満たす。
それは私を謙虚にする。
あなたはどこにでもいるから。




「賢人のお言葉」
 
「深海に生きる魚族のように、自らが燃えなければ何処にも光はない」
 明石海人
(「白猫」)
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コメント

アカデミー賞、面白かったですね。私は、フランシス・マクドーマントがスピーチする姿が、何故か大竹しのぶに見えました(笑)

シェイプ・オブ・ウォーター、本当に素晴らしかった✨サリー・ホーキンス、素敵でした~😆(確かに!松金よね子さんに似てますねー👍)最初、バスタブの中で自慰をするシーンにビックリしましたが、ラストシーンを観て、彼女は、彼(水棲生物!)と実は同じ種なのかと膝を打ちました‼でも、川に捨てられたときに、すでに会っていたんじゃないか、とまでは思いつきませんでした‼きっと、きっとそうですね‼運命的な巡り合わせだったんだ😭ますます感動してしまいました✨ありがとうございます❗

コメントの編集

Re: タイトルなし

サティさん、ごぶさたです

確かに授賞式のマクドーマンド、大竹しのぶですねー(笑)
金色の衣装もインパクト強!

「シェイプ・オブ・ウォーター」よかったですよねえ。
サリー・ホーキンス、素晴らしい女優です。

「おおっ!」と唸る&感動のラストでしたが、イライザは「川」「清掃員」「バスタブでナニすること」「卵を焼くのではなくて茹でること」「アパートの部屋の壁」など「水」の関わりだらけ
「運命の糸」いや「運命の水」によって、いつか見た彼と再び巡り合えたという話ならいいなあと思ったのでした
二人の幸を切に願うのみ

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