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15時17分、パリ行き
2018年03月18日

T0022723p.jpgクリント・イーストウッド監督の最新作。
「アメリカン・スナイパー」や「ハドソン川の奇跡」など、このところ実話の題材作品が多いイーストウッド監督だが、今回もほんの3年前に起こったテロ未遂事件の映画化である。

その事件とは、2015年8月21日、オランダのアムステルダムからフランスのパリをつなぐ高速鉄道タリスの中で起きた。

自動小銃を持った男が車内のトイレから姿を現し、乗客と揉み合ったのちに発砲して男性一人を負傷させたが、すぐさま3人のアメリカ人と一人のイギリス人によって取り押さえられたのである。
撃たれた男性は一命をとりとめた。

犯人のアイユーブ・ハッザーニは26歳のモロッコ人で、イスラム国(IS)の訓練も受けていた。
逮捕された時、自動小銃AK-47と270発の弾丸、9mmルガー、ガソリンの入ったボトル、さらには大型のユーティリティ・ナイフとハンマーを所持していたとされる。

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当時タリスには554名の乗客がいて、一歩間違えれば多くの犠牲者が出ていたであろうことは想像に難くない。
奇しくも2人の現役の軍人がいたことも幸いしたのであろうが、勇気ある4人のとっさの行動が惨事を未然に防いだのだ。

しかし、この事件。 犯人が行動を起こしてから取り押さえられるまで、10分どころか数分あるかないかのわずかな出来事である。
実際、日本でも報道されたかもしれないが、これの7ヶ月前のパリの週刊誌本社の襲撃や10月に起こったパリ同時多発テロのインパクトもあって、正直印象は薄い。
イーストウッドはなぜこれを新作映画の題材に選んだのだろうか。

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上映時間は94分。 英雄となったアメリカ人青年たち、スペンサー・ストーンアレク・スカラトスアンソニー・サドラーの3人に焦点を当て、彼らの少年時代から始まる物語は、時折テロ事件の時間にフラッシュフォワードするものの、大半は3人のジュブナイルとヨーロッパ旅行記のシークエンスに費やされ、“肝心の”列車内の出来事は本当に短い時間しか描かれない。
 
予告編などから、本作に緊迫感一杯のパニック・サスペンスを期待してた観客には肩透かしかもしれないが、この映画は「その時に何があったのか」よりも、むしろ彼らが「なぜ行動したのか」という勇気の源をひも解いてみせた物語になっている。

スター俳優はどこにもいない。 それどころか当事者である主要人物はすべて本人が演じるという、これまた大胆にもほどがある試みが敢行されている。 撃たれて大けがをした男性までも本人が演じているのだ。(犯人役は俳優だけれど)
しかも列車内のシーンはセットではない。
実際にタリスを貸し切って、逆方向のルートではあるが、パリからアムステルダムまで走らせた列車内で撮影されている。
巨匠の“モノホンこだわり”は尋常ではない。


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スペンサーの母ジョイス(右)とアレクの母ハイディ(左)は学校の担任教師にキレていた。
お宅の息子さんはADD(注意欠陥障害)ではないですかと女教師は言うのである。
スペンサーは読むのが遅い。 アレクは窓の外ばかり見ていると。
「遅いの何が問題?」 「窓ぐらい見るでしょ」

薬の服用を勧める教師の言葉にはさすがのママコンビもキレた。
「あなたの仕事を楽にさせるために、私が息子に薬を飲ませると思う?」
話にならんわと教室を出ていく二人に教師は追い打ちをかけるように言い放った。
「シングルマザーの子供は統計的に問題を起こしやすいのですよ」 おいおいアンタ、それは暴言だぞ。
「私の神は世間の統計より偉大よ!偉そうな口を利かないで!」

ジョイスハイディは家がお隣りさん同士。
共に離婚していて同じ年の子がいる身ということで二人は仲がいいし、子供のことだとガチになるのである。
二人は子供たちを中学進学に合わせて、家から近くて学費も安い私立校のブルック・ビュー・キリスト教学校に転校させることにした。


【3バカ少年交友録の巻】
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奥の色白ポッチャリ君がジョイスの息子スペンサー・ストーン
手前がハイディの息子アレク・スカラトス

二人揃って転入した学校は幼稚園からの一貫校で、キリスト教系の私立校はとにかく厳格な学校だった。
それまでは割と自由が効いた公立校とは違い、お固い校風に馴染めない二人はたちまち校長室の常連になった。

チャイムが鳴ってもまだ廊下にいたら先生から「校長室へ行け!」
先生に少しでも口答えしようものなら「校長室へ行け!」
先生は一応叱りはするが、その場で時間をかけてしっかりと指導などしないのだ。 全部校長先生に任せて、あとは知らんということのようだ。

前述の、問題児に薬を飲ませたがる女教師といい、校長室行きを命じるだけで生徒と向き合わない、この神学校の教師連中といい、教職に就いた意味を軽んじているようにも思える。 アメリカってこうなのだろうか?

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とはいえ、スペンサーアレクも問題児なのは確かである。
教師という権力者におもねらないと言えばカッコいいが、悪く言えば大人をナメてかかっている、協調性が欠如したガキンチョなのだ。。

体育の時間でも、みんな白の体操着を着てるのに、この二人は迷彩柄のTシャツという私服でイキるのである、
いくらミリタリー・オタクでも、そもそも神学校で迷彩ファッションはナシであろうに。

そんな二人がこの学校で出会ったのが一歳上のアンソニー・サドラーだった。
彼も以前は公立校に通っていたが、スポーツ強化のためのマイノリティ奨学生として編入してきたバスケ少年である。
だがスペンサーアレクと同じように問題児の彼もまた校長室の常連組。
「あれ?君ら、また来てんの?」 「オメエもじゃねえかよ」
3人はすぐに打ち解け、熱い友情を育むようになった。

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放課後や週末は、バスケやサバイバルゲームに熱中。
スペンサーのミリオタは、あの歳にしては気合満点。
クローゼットを開ければモデルガンのコレクションがドッサリ。
「おまえはキングスマンか」と突っ込み半分、ドン引き半分。
クローゼットはエロ本を隠す場所と昔から相場が決まっていたが、時代は変わったものだ。 いや、そんなことを言ってる場合ではない。
日本のママさんなら、銃のオモチャをこんなに買い与えないだろう。 アメリカの家庭では普通なのだろうか?

部屋には「フルメタル・ジャケット」と「硫黄島からの手紙」のポスターが貼ってある。(もう一枚は分からん)
「フルメタル・ジャケット」はミリオタ的にはどうかと思う映画だが、劇中の言葉遣いはマネするなよ、坊や。 て言うか、あの映画はR18だぞ。 そんなもん守る奴ぁいねえか。
「硫黄島からの手紙」は巨匠のお遊びであろう。

さらには、担任教師に第二次世界大戦の戦略資料をオネダリするスペンサーアレク
先生もちゃんと作ってきてくれるのである。 いい先生だ。
戦争歴史資料に「やったー」とテンションが上がるという、なんともオモロイ中坊たち。
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やがて3人に別れの時がやってくる。
プロムがなくて女の子との交流もない神学校が退屈でならなかったアンソニーは高校進学を機に公立校への転校を決めた。
「ガールフレンドの良さを教えるよ」

スペンサーアレクの二人にはヤンチャのツケがくる。
校長は二人か片親であることを問題視して、アレクの父親に話をつけて母親のもとから引き取らせたのである。
こんなことがまかり通るとは、こういう所もアメリカなのかのぉ。
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3人が離れ離れになったといっても、時は原始時代ではないので連絡は取り合える。
時間ができれば、たまに会うことをしながら3人はそれぞれの青春時代を送り、年月は過ぎていった。


【スペンサーの兵隊修行録の巻】
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スペンサーは特に何がしたいという訳でなく、スムージーショップの店員をしながら日々をやり過ごしてきた。
ミリオタはミリオタ。 ガチで軍隊に入ろうと思ったことはなかった。その日までは。

店の向かいには募兵センターがあった。
そこから出てきた一人の兵士が店にやってきた。
注文を聞きながら「どこの所属ですか?」「どんな任務なんですか?」など根掘り葉掘り店頭インタビューに講じたあと・・・スペンサーの目はほとんどイッていた。

兵士とて人を殺す仕事ばかりではない。
一人でも多く人の命を救うパラレスキュー部隊。 これだ。これなのだ。
母親に心配ばかりかけ、優しさに甘えてきた。
今まで誰かの役に立ったか? 誇れる何かを成し遂げたか?

消えかかる命を死の淵から引き上げる、運命の救世主。 パラレスキュー部隊こそ我が進む道。 スペンサーは決断した。
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しかしこれまで自堕落ライフに流されてきたスペンサーの体はブーヨブヨのブックブク。
当然必死のパッチでコミットせねば、軍隊に入るどころか精肉所に売り飛ばされる。
「肉体改造じゃ!」
しかしアンソニーは鼻で笑う。 「できないとは言わないが、おまえはやらない」
いや俺ちゃん、やる時はやる子だよとスペンサーはマジになった。

そして見事な筋肉坊主と化したスペンサー
さっそく空軍に応募して、体力テストも余裕のヨッチャンでパスし、憧れのパラレスキューは目前だった。

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ところが・・・
「奥行知覚」の検査で引っ掛かった。
おくゆきちかく・・・ 売れない演歌歌手のような妙な名称の項目がアウトだった。
「要するにおまえはオクユキがチカクできないんじゃ」と言われてもスペンサーは納得できなかった。
あんなに努力したのに・・・
他の部隊ならば問題はないのである。 だがパラレスキュー部隊には入れない。

へこんでいてもしょうがないのでスペンサーは戦場での対処法を教える「SERE」(生存・回避・抵抗・脱出)の指導教官を目指すことにした。
初っ端から寝坊。 「腕立て伏せ!」
課題をミスする。 「腕立て伏せ!」
腕立て伏せばっかりやってるスペンサーは落第した。

次にスペンサーは"大人の託児所"と呼ばれるサンアントニオのラックランド空軍基地でEMT(救急救命士)を学んだ。
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ある日の授業中。
基地内で銃撃事件が発生したという緊急放送が流れる。
~~これは訓練ではない~~
教室は騒然となり、教官はドアを机でふさぐように指示した後、全員を個々の机の下に隠れさせる。
しかし、スペンサーは教官が止めるのも聞かず、ボールペンを持ってドアのそばで敵を待ち伏せる。
(部屋に入ってきたら即ボールペンでブッスリやったるで)
だが実際は何事もなく、警報も誤報だったことが判明する。

前にSERE(生存・回避・抵抗・脱出)を習っていたことが要因であろう。 確かにスペンサーの行動は規範的には不正解なのだが、火中の栗を自ら拾いに行く彼の気質は後々に生かされることになる。


【三勇者欧州見聞録の巻】
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スペンサーが兵士になるために、なんやかんやとやってるあいだ、アレク・スカラトスはというと、とっくに軍人になる夢をかなえていた。

子供の頃、スペンサーと別れてオレゴン州へと越した彼はローズバーグ・ハイスクールを卒業後、アンプクア・コミュニティー・カレッジに入学して、オレゴン州兵部隊に志願入隊した。
アフガニスタンに赴任していた彼に、EMTとしてポルトガルに駐留していたスペンサーから休暇を利用してのヨーロッパ旅行の誘いが来る。
もちろん、今はカリフォルニア州立大学のバリバリの現役学生になっているアンソニー・サドラーも加わって、ヤロー3人の諸国漫遊と行きましょうやと、話はポンポンまとまる。
こうしてサクラメントのミリバカ・トリオ、運命のジャーニーが始まるのである。

アレクは軍人の祖父が第二次世界大戦時に訪れた足跡を巡るためにドイツへと向かうので、後から合流予定。
まずはローマで待ち合わせしたスペンサーアンソニー
2人で仲良く旅レポをよろしくぅ!
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【ローマ】

「“すべての道はローマに通ず”って言うけど、俺たちの旅はここから始まるぜ」
「どうでもいいが“通ず”ってなんなんだ? “ツウズ”ってよ。 “通じる”でいいだろ?」
「うるせえな。 よその国の文法なんか気にすんじゃねえ。 それより写真撮るぞ」
「自撮り棒って俺、抵抗あんだよなあ。 おまえ恥ずかしくねえか?」
「ブツクサ言うな。 インスタ映えする笑顔で頼むぞ。 はいチーズ」
「どれどれ?うまく撮れた? ・・・キモい笑顔だ。俺もおまえも」
「痴漢常習犯のようなニヤケ顔だ。 こりゃインスタには上げられん」
「気を取り直してトレビの泉でコインでも投げよう。 確か後ろ向きに投げるんだよな」
「そうだが、俺は前から投げる。 トォリャッ!」

「銭形平次か、おまえは」


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【ベネチア】

「おっ? ビュウチフルなレディを発見。 さっそくインタビューしてみましょう。 ヘイ、カノジョ~」
「キャー!痴漢よー! 誰か助けてー!」
「なんもしてねえじゃねえかよ」
「おまえがチンコみたいなエロい頭してるからだろ」
「うるせえ。 チンコがTシャツ来て二足歩行するかアホ」
「ねえカノジョ、アメリカ人? 俺はアンソニー、こっちのチンコはスペンサー」
「私はリサよ。 よろしくね」
「一人旅してるレディってのは絵になるね」
「あなたたちはなぜここに? ヤクの密輸? 盗品売買? あっ分かったわ。痴漢の下見ね」
「なんでそんな風に見られるんだ・・・」
「やっぱ、おまえの頭だろ」

「これ以上、頭のことをイジったらシメるぞ」


その後ミュンヘンを経由して・・・
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【ベルリン】

「ベルリンに来たらチャリンコ・ツアーだよね」
「アンソニーよかったな。 三輪車のレンタルがあって」
「おまえこそ補助輪付きのチャリがあってよかったな」
「ガイドさんはどこを案内してくれんのかな?」
「ハイ着きました。 ここがヒトラーが自決した場所の跡地です。 今はマンションになってしまってますが」
「えっ? ヒトラーが死んだのってイーグルズ・ネストじゃなかったっけ?」
「それはあなた方が習った教科書が間違ってます。 アメリカがいつも正しいとは限らない」
「言われちゃった」 「言われちゃったな」
「旅の恥は柿食う客だとはよく言ったもんだな」
「ほんとほんと」

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「おじさん、ゴキゲンっすねえ」
「旅の若けぇの、わしのおごりだ。呑め呑めぇ」
「ゴチになりま~す」
「俺たちこのあと、どこの国に行こうかなあって迷ってんすよ」
「俺的にはパリはパスして、そのままスペインまで行ってもいいかな」
「若けぇの、それならアムスヘ行け」
「そんないやらしい名前の国なんかあったっけ?」
「誰がアヌスって言った、このアンポンタンめが。 わしが言ってるのはアムスだ。 オランダのアムステルダムだ」
「う~ん・・・チューリップと風車を観たってなあ・・・」
「若けぇの、アムスをなめるなよ。 アムスに行けばトリュフを買うのじゃ」
「はいはい。 幻覚キノコのことっすね?」

「おまえ、そこはボケないのかよ。 ズバッと言うなよ」
「フォフォフォ。 いいぞ若けぇの。 思う存分楽しんで来い」


その後、スペンサーアンソニーアレクと合流。
3人はいざアムステルダムへと向かい、夜のクラブで酒とトリュフでハジけまくった。
翌朝、ヘロヘロになった3人は今後の予定を話し合う。
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【アムステルダム】

「う~っ・・・吐きそう」
「俺もだ」 「俺も」
「ハメ外しすぎたな」
「トリュフってやべえな。 あれほど効くとは」
「まだ目が回ってるぞ」 
「よし、迎え酒といくか」
「殺す気か、アホ。 それよりこの先どうするんだよ。 パリへ行くか辞めるか」
「スペインまで行く時間の余裕と肝心のエネルギーがねえ」
「このまま帰るのもなんだし、とりあえずパリに行くだけ行くか」

こうして3人はパリを目指して、アムステルダム中央駅15時17分発の高速鉄道タリス9364号車に乗り込んだのだった。



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【2015年8月21日】

スペンサーアレクアンソニーの3人はセカンドクラスの車両に乗っていた。
Wi-Fiが使えないと愚痴っていたスペンサーは、1等車へと移ろうと言い出して、3人はファーストクラスの12号車へと移動した。
それっていいの? いいわけないよね。
「切符を拝見」って車掌さんが来ないのかな?

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1等車には食事サービス有り。
ドリンクやスナック類ももらえる。

「コレ可愛いな。 コーラの赤ちゃんだぜ」
「おみゃあの脳みそと同じサイズだっぺ」
「照れるじゃねえか」
 「ほめてねえよ」

とか言ってるうちに、刻々と運命の時は近づいていた。
列車はベルギーに入り、17時13分、ブリュッセル南駅に到着。
キャリーケースに銃を忍ばせた男は、その駅から乗ってきた。
その男、アイユーブは1等車の客席に着いた後、間もなくしてトイレに入る。

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フランス系アメリカ人の英語教師である男性マーク・ムーガリアンは奥さんと一緒にこの12号車のトイレに近い最後列の座席に座っていた。
トイレに入った男がもうかれこれ30分以上も出てこないことに気づいていたマークは嫌な予感がしてならなかった。
様子を見てこようと席を立つ。
自動ドアをくぐった先の右手にトイレがあるが、その前で一人の男性がイライラしながら待っていた。

「変だと思わないか?」 「ああ・・・」 などと言葉を交わしてたら途端にトイレのドアが開いた。
出てきた男は裸の上半身にバックパックを前向きに掛けていた。
手には自動小銃AK-47が握られていた。
半年前にパリで悲惨なテロがあったからだろうか、マークともう一人の男性には心の底で準備ができていたのかもしれない。

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【17時50分】
二人は武装した男に敢然とつかみかかり、AK-47を一旦は奪う。 これだけでも天晴れなことである。
しかし、マークは男が隠し持っていた拳銃で首を撃たれて、その場に崩れる。
車両はたちまちパニックとなり、乗客が一斉に逃げ出す。

テロリスト、アイユーブは床に落ちたAK-47を拾い上げてゆっくりと歩き出した。

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スペンサーはヘッドホンを付けていたために、ほんのわずか反応が遅れたが、前方へと逃げ去る乗客たちのただならぬ喧騒に気がつき、後方を振り返る。
明らかにヤバい状況だった。
座席を盾に、身を低くしてかまえる。

「スペンサー行け!」
アレクの声が飛ぶのとスペンサーが飛び出したタイミングはほぼ同時。
AK-47の銃口を向けた男に向かって、スペンサーは突進していった・・・・
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前述したように、この列車内の一連の出来事は短時間で解決する。
スペンサーアレクアンソニー、そしてフランス在住のイギリス人ビジネスマン、クリストファー・ノーマンが協力してアイユーブを取り押さえるのに、ものの数分。
撃たれて瀕死の重傷を負ったマーク・ムーガリアンの救命活動に十数分。 映画内の時間はもっと短い。

タリスは18時14分にアラス駅に緊急停車し、縛りあげられたアイユーブは駅で待機していた警官隊に引き渡され、マークは救命グループの手で病院に搬送された。

事件発生から30分程度で片がつき、誰ひとりとして死んでいない。 テロ事件にしてはミニスケールな内容である。
主人公たちの少年時代から兵士時代、ヨーロッパ旅行などのシークエンスにこれでもかと時間をさいた割には、映画的にいうところの“メインイベント”はアッサリそのもの。
では、この映画にクリント・イーストウッドが託したメッセージとは何か。

「彼はなぜそこにいたのか」 「なぜ行動を起こしたのか」
これは人の人生の下に敷かれた、目に見えぬ運命のアシストを描くとともに、我々が生きている瞬間瞬間には何らかの目的が秘められているということを語りかけているのである。

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自動小銃を構えたアイユーブに対して正面から突っこんでいくスペンサー。 ムチャである。
アイユーブには距離的にも十分余裕がある。
引きつけて狙って引き金を引かれたらスペンサーは即オダブツだ。

だが。
弾丸は発射されなかった。
カチンと音がしたまま、まったく愛想なし。
もう一度引き金を引いても(それぐらいの距離と時間があったのだ)、反応は同じ。
たまたまなのだ。 本当にたまたまなのである。

銃の方に問題があったのか、弾丸の雷管や薬莢に不良品が混じっていたのか。
何十年か前のオートマチック拳銃ならまだしも、自動小銃では何千発に一回あるかないかのミスファイアがこの時たまたま起こったのだ。

偶然にもほどがあるが、紛れもない事実である。
テロリストにすれば「さあ、これから始めるぞ」という時に、その車両に訓練された軍人が乗り合わせていたのも不運な「偶然」である。
大惨事となってもなんら不思議ではなかったこの事件が、一人の死者も出さずに短時間で収束した背景には、実は説明のつけ難い「偶然」がいくつも内在しているのだ。
この劇的な出来事には見えざる運命のパワーが垣間見られる。 そこに人生の摩訶不思議がある。

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スペンサーアンソニーがベネチアの街を見下ろすシーンの中でスペンサーは言う。
「俺たちに選択肢はない。 人生に導かれてる」

人生は何らかの目的に向かって進む。 本人の意志に関係なく、目的へと導かれる。
偶然は必然であり、進む道は数ある中から選ばれるのではなく、最初から一本の道しかない。
運命と呼ばれる奇跡の中に、自分の人生の意味がある。

オカルト的なことを言う訳ではないが、スペンサーたちがあの列車に乗り合わせていたことや、彼らがとっさに起こした行動を裏付ける伏線を劇中で語ることによって、何が起こるか分からない世の中で、ヒロイックな行動は特別な人だけの能力ではなく、誰にでもある可能性だとこの映画は説いている。
映画を観終わった後で、「今になって思えば」という伏線を思い起こしてみるだけでも、深いものが染み込んでくる。
自分の人生にも照らし合わせて、今まで通ってきた道を振り返る面白さがあるのだ。

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どうしてもスペンサー中心になるが、彼がそこに至るまでの「導き」の数々は劇中で多く示されている。

導き1★ 子供時代。 生徒会長に立候補するという意外なリーダー願望。(落選したけど)
導き2★ アレクとは隣家同士であったことや、校長室でアンソニーと出会ったこと。
導き3★ 授業中に先生から「今ここでテロが起こったら君たちはどう行動する?」と問われたシーン。
導き4★ ミリタリー・バカ。 サバイバルゲームで判断力と行動力のベースが培われる。
導き5★ バイト先の向かいに募兵センターがあったこと。 客で訪れた兵士と語り合ってスイッチが入る。 
導き6★ 奥行き知覚に難があってパラレスキューに配属されなかったこと。
導き7★ 大事な時に寝坊してSEREを落第したこと。
導き8★ 救急救命士の授業中のシーン。 一人だけボールペンを武器にして敵の迎撃に備えたこと。(女性教官が『今度テストに出すわよ』というセリフも意味深に暗示)
導き9★ 習い始めた柔術の腕をメキメキとあげていく。
導き10★ 3人の休暇スケジュールが合致して、ヨーロッパ旅行が実現した。
導き11★ ベネチアでイケそうな美女をナンパしたのにそれっきりだったのも不思議。
導き12★ ベルリンのバーで出会ったおじさんから予定になかったアムステルダム行きを勧められる。
導き13★ アムステルダムではしゃぎ過ぎて金と体力を消耗し、迷いに迷った末にパリ行きを決定。
導き14★ 2等席でWi-Fiが使えず、3人が勝手に1等席に移動したこと。
導き15★ テロリストの自動小銃が不発になったこと。

そういう偶然を言いだしたらキリがないだろうが、3人が15時17分発パリ行きタリスに乗っていたのは偶然が積み重ねられた必然であったと考えたくもなる。
何よりも自動小銃の弾丸が発射されなかった偶然。 そこにすべて集約する。
なにもかもが導かれていたことなのだと。

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裏を返せばテロリストの男だってテロを起こす決断をしたのは幾つかの偶然と、運命のお導きがあってのことかもしれない。
それもまた、彼がスペンサーたちの乗る列車に同乗てしまう導きであったとも言える。

クリント・イーストウッドは以前にも「ヒアアフター」で、人の辿る運命には何らかの目的があって、それぞれがつながっているといったスピリチュアルなドラマを展開していたが、丁度それを思い出す。
イーストウッドは時に、個人の人生や世界に物語をもたらす運命の見えざる手を語る時がある。
この「15時17分、パリ行き」は特にスピリチュアルなことを前面に語っている訳ではない。
しかし主要キャストに本人を配役したのも、奇跡の再現に信憑性をもたらす狙いはもちろんのこと、いつ何時我々の人生にも起きることさえ不思議でない危機と、勇気ある決断と行動が試される時が来ることをリアルに描写する目的のもとの「導き」なのではないだろうか。

生まれ育った環境、親兄弟、友人、学校、就職、趣味、恋愛・・・・・ 色んな選択肢を経て今の自分の人生がある。
いや、それはひょっとして選択ではなく、今の人生に辿り着くための導きだったとしたら?
もっと言えば、今がゴールではなく、この先にもっと大きな目的が自分の人生に待ち受けているのかもしれない。 まだ途中なのだ。
そう思えば不安? それとも楽しみ?
人生こそが最高にドラマティックな映画。

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レジオンドヌール勲章授与式にて。
左からクリストファー・ノーマン、アンソニー・サドラー、フランソワ・オランド大統領、スペンサー・ストーンアレク・スカラトス


「賢人のお言葉」
 
「偶然とはおそらく神が実名でサインしたくない時の別名かもしれない」
 テオフィル・ゴーティエ 
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