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ぼくの名前はズッキーニ
2018年03月03日

T0022384q.jpg土曜の朝にEテレでやってる『ひつじのショーン』をたまに観る時があり、「ストップモーション・アニメってヤベえっすな」と、手間暇かけた緻密な映像作りに感心することしきり。

CGよりは安上がりとはいえ、遥かに時間はかかるし労力も並ではない古典的手法ですが、人形が命を吹き込まれたかのように動く、手作り感と風情は格別。
自らの手で映像に細かく力を入れたものはそれだけでなく、ストーリーもきちっと力を入れるのだろうと思います。
よって、ストップモーション・アニメの映画は秀作の確率が高いようです。

ティム・バートンの「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」や「チキンラン」、「ウォレスとグルミット」シリーズなどがありますが、個人的には「メアリー&マックス」、「ファンタスティックMr.FOX」が好きですね。
昨年公開された「KUBO/二本の弦の秘密」は観逃したのですが、かなりこれも評判が良かったようですね。

そしてそしてまたまたストップモーション・アニメの新たな秀作がここに一本。
昨年のアカデミー賞で長編アニメーション賞にノミネートされたスイス/フランス製アニメで、セザール賞では最優秀長編アニメーション賞の他、実写映画を差し置いて最優秀脚色賞を受賞した珠玉作です。

母親を亡くし、施設に入ることになった少年が仲間たちと絆を育み、新たな旅立ちを果たす物語。
子供向けか?と侮るなかれ。
上映時間わずか1時間6分という人形劇を最後まで見届けた時・・・・、込み上げます。 熱いものがほとばしるのを禁じ得ない傑作です。

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9歳の少年イカールは母親と二人暮らし。
イカールの言葉を借りれば、「お父さんは“若い雌鶏”が好き」
どうやら父親はその“若い雌鶏”を追って、家を出て行ったらしい。
それ以来、母親はイカールのことをかまわなくなり、朝から晩まで缶ビールを飲みながら、ソファに座ってテレビばかり観ている。

一方、屋根裏部屋でいつも一人で遊んでいるイカール
窓から凧を揚げたり、壁に絵を描いたり、母の飲み干したビールの空き缶を高く積み上げたり。

滅多に外には出ないのだろうか。 学校に通ってる気配もない。

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母親はイカールのことを“ズッキーニ”という愛称で呼ぶ。
イカール自身も「ズッキーニ」と呼ばれることが好きだ。
母親と数少ないコミュニケーションの時の、母親の第一声だからだろうか。 自分のことを呼んでくれるなら何だっていいのだ。

母親はいつも不機嫌で些細なことに怒り、イカールをひどく叱りつける。
自分に辛く当たる時の母親はいつも怖いが、それでもたまに笑ってくれる時の笑顔がイカールは大好きなのだ。

しかし、ある日・・・
母親と二人でも、一人ぼっちのような暮らしをしていたイカールは本当に一人ぼっちになってしまう。

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お母さんが事故で亡くなった。
その事故を担当したのは心優しい警察官のレイモン
母親がつけた“ズッキーニ”という愛称を大事にし、「イカール」と呼ばれることを嫌がる少年のことがレイモンは不憫でならなかった。

「ビールばっかり飲んでたけど、たまに笑ってた」
ズッキーニはまだなんとなく、母親の死を受け入れていないようだ。
「お母さんは出かけた。 お父さんは雌鶏が好き」

レイモンズッキーニをひとまず「フォンテーヌ園」という孤児院に預けることにした。

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「みんなの新しいお友だち、ズッキーニよ。 仲良くしてあげてね」
園長先生は厳格だけども優しい。
担任はポール先生。

クラスには男の子3人と女の子2人がいた。
ズッキーニの新しい家族だ。 ズッキーニと同じ目をした子供たちが5人いた。

ズッキーニは不安でならなかった。 家がいい。 ママといたい。

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「ズッキーニというよりイモって顔だぜ」
クラスのリーダー格的存在のシモン
「ムショへようこそ」
ヒネてるねえ。

ズッキーニ「イモ野郎」と呼んでからかうシモンは最初こそウザい少年だが、本当は心の優しい子なのだ。
人や世の中を斜めに見ている大人びたところがあるが、誰よりも人のことを気にかけている、というか気にせずにいられないのだろう。
強がっているが、寂しがり屋な内面を秘めているのだ。

ズッキーニが持参した凧を取り上げてケンカになったことが、却ってお互いの距離が縮まる。

「ママのところへ帰りたい」というズッキーニが、園長先生「それは無理なの。 ママはお空へ行ったでしょ」と静かに諭されているところを聞いていたシモンは、ズッキーニに心を開くのだった。
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「俺の親は二人ともヤク中なんだ」

両親ともにドラッグ中毒とはキツい話である。
どれほど荒んだ生活を送ってきたか。 まともな親子関係などなかったであろことは想像に難くない。
両親は服役中のようだが、この両親が出所した後の方がシモンが心配だ。
少なくとも彼はクスリに手を出す大人にはならないだろう。


ズッキーニの母親は事故死なのだが、正確には少し違う。
アルコール依存症だった母親は、ちょっとしたことで癇癪を起し、ズッキーニに暴力を振うこともあった。

ズッキーニが屋根裏部屋でビールの空き缶を積み上げて遊んでた時に、それが誤って倒れ、大きな音を立ててしまった。
怒った母親はズッキーニを叱るために屋根裏部屋への階段を上っていた。
恐怖のあまりズッキーニは悪いタイミングで天井の扉を閉めてしまい、その弾みで母親は階段から転落して亡くなったのだ。
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「僕がママを殺してしまった」
母親が死んだことを認識していない訳ではないのだろう。
罪の意識が現実を受け入れられないのかもしれない。
でも、誰が彼を責められようか。

どんな母親であろうと愛そうとしていたズッキーニ
「ママに会いたい」は本音なのだ。
叶わぬと分かっていても。
自分のやってしまったことが何もかも夢であるならば。


シモンは他の子供たちの境遇もズッキーニに明かす。

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ジュジュブは食べることが大好き。歯磨きまで食べる。「健康にいいんだもん」 いや、良くないよ。
ジュジユブの母は精神を病んで、息子を育てられなくなった。 冷蔵庫を開け閉めしてて変になったのだそうた。

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アメッドは恐竜とロボットが大好き。 ボーッとしてるけどいつのまにやらムードメーカーになっている。
アメッドの父は強盗て服役中。 ナイキが欲しかったのだそうだ。

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ベアトリスの親は不法滞在者だったのか、強制退去となった。
車の音が聞こえると親が迎えに来たと思って外に出てみるのだが・・・

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アリスは滅多に口を利かないおとなしい女の子。
父親は娘に“イタズラ”をするような男だった。 髪の毛で半分隠れた顔には見せたくない傷がある。

「みな同じさ。 誰にも愛されていない」
子供の口から「愛されていない」という言葉が出てくる。 悲しいことだ。

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レイモンズッキーニの様子を見にフォンテーヌ園を訪れる。
シモンの話から世の中には子供を愛さない大人がたくさんいるのだということを知ったズッキーニにとって、親でもないのに自分のことを心配してくれるレイモンが不思議でならない。 警察官だからだろうか?
そういうようなことを聞くと「義務で来たんじゃないよ」レイモンは言う。

ただし、ここに来ると、警察が嫌いなアメッドからイタズラをされるのがレイモンには悩みの種だ。
外のベンチでズッキーニと話してたら、いつも2階の窓から水風船が落ちてくる。
頭がびしょ濡れになるが、あれはあれでけっこう痛いのだ。


ある日、フォンテーヌ園に新しい入園者カミーユがやってくる。
ズッキーニは恋に落ちた。
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ハスキーな声が魅力的な女の子だった。
どこか大人びたところがあって、みんなが彼女を気に入り、園を照らす太陽のような存在となっていく。
心を閉ざしていたアリスも彼女のおかげで、顔を隠していた髪を上げるほどに心を開くようになった。

カミーユがどういう境遇でここにやってきたのか興味津々のシモンズッキーニを誘って園長室に入り、彼女の資料を覗く。
「お父さんがお母さんを殺して自殺・・・。 だからあんな目をしてるんだ」

そうだろうか? ズッキーニには美しい瞳に映った。
今まで悲しいものしか見てこなかった目かも知れないが、これからどんどん楽しいことや美しいものを見て輝きを増すに違いない汚れない瞳だった。
やがてカミーユズッキーニは意気投合し、大の仲良しになっていく。

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みんなとスキー合宿。
昼は雪合戦。 夜はポール先生のDJによるダンスパーティーで大盛り上がりだ。

ポール先生はロージー先生との間にまもなく赤ちゃんができる。
愛情たっぷりに育てられますように。 幸せな子供に・・・

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「それーっ!いくぞーっ!」
「イヤッホー!」
「よーし、このままの勢いでダブルコーク1440だー!」
「えーっ? そんなことできるの?」
「やったことないけどね」
「テメエ、殺す気かよ! 停めろ停めろ!」
「大丈夫だ大丈夫。 成功すれば平昌オリンピックに出ようぜ~」
「いや、もう終わってるし!」
「マジっすか?」


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深夜、眠れなかったズッキーニカミーユの二人は外に出た。
雪の上に寝そべった二人を月明かりが照らす。
カミーユがそっとつぶやく。
「ここに来て、あなたに会えてよかった」

お互いに辛いことを経験してきた二人がやっと見つけた安らぎの絆。
愛されなかった子が誰かを愛し、誰かに愛される。
冷たいはずの雪がこんなにも温かいものだろうかと、銀世界の中の二人は幸福を噛みしめる。

そして帰りのバスの中でズッキーニは眠っているカミーユの頬にそっとキスをした。

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ある日、カミーユの叔母が園にやってきた。
姪っ子を引き取りたいと言う。
園長先生はこの叔母にどこか胡散臭いものを感じながらも拒否することはできない。

「同居するなら死ぬ方がマシ」
カミーユはこの叔母の身勝手でだらしない性格をよく知っている。
「私を引き取れば、たくさんお金がもらえるから」

扶養手当が目当てなのだ。
子供の不幸を食い物にする恥知らずの大人は珍しくない。
違う意味で不幸な、さもしい人間だ。

カミーユを行かせまいと子供たちは知恵を絞り、彼女を園から脱出させる。
レイモンの車に乗り込んだズッキーニカミーユは兼ねてからの夢だった遊園地でのデートを実現させる。
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射的のゲームで百発百中の腕前を見せるカミーユ
しかし、これには悲しい事情がある。
「家にピストルがあったから。 パパに撃ち方を習ったの」

外国らしい話だ。
フランスはまあまあ銃規制は厳しい部類に入る国であるが。
人を傷つける目的のためだけの武器が一般家庭にある危機はタガが外れた時は一瞬にして何もかも失われる。

パパはそのピストルで・・・ 君のママを・・・
君だけは"安全のためだからこそ"銃を持つという自由の国の浅はかな発想をマネしないでくれよ。

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ズッキーニカミーユレイモンの自宅に招かれた。
店でも始めるのかと思うほど、部屋中にサボテンの鉢が。
「ものを育てるのが好きなんだ」
それにしてもハメ外し過ぎやしませんかね。
だが、これにもレイモン自身が抱えてる心の傷の表れなのだった。

やがてズッキーニカミーユレイモンが実の子と会えない寂しさを抱えた父親なのだということを知る。
「親を捨てる子供もいるんだよ・・・」

一方、姪っ子が行方をくらましブチ切れてた叔母はカミーユを探しあて、強引に連れ去ってしまうが、これもシモンの機転が功を奏し、カミーユは無事に園に戻ってきた。
だがシモンは聞いてしまった。
レイモンズッキーニカミーユの二人を引き取りたいと打ち明けたのを。

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カミーユの帰還を祝うパーティーでアリス「死ぬまで一緒!」と言った言葉にシモン「そんなの嘘だ!」と怒りをぶちまけた。

ここでずっとみんな一緒に暮らす。 それが果たして正解なのか。幸せなことなのか。
シモンも分かっている。 こことは違う道があるなら行くべきだと。
でも、取り残されてしまう寂しさが拭えない。

ズッキーニは自分が幸せになることでシモンが傷つくことに動揺する。
「僕は行かないよ、シモン」
だが、友だちは言った。 これ以上ない友情に満ちた惜別の言葉を。
「俺たちのために行け」

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パペットによるストップモーション・アニメというアプローチを取っている映画でも、決して低年齢層向けの作品ではありません。
一人の少年が孤児院に入り、そこで友情や愛に恵まれて、やがて新たな人生に踏み出していくまでを描いているのですが、わずか66分のストーリーの中には孤児をめぐる様々な問題が網羅され、かなり濃密というか、むしろハードな話です。

しかも劇中、視覚的にもセリフとしても観客に与えられる色々な情報は、あたかも珍しいことではないかのごとくサラッと出てきて戸惑いを覚えると同時にショッキングでもあります。

オープニングでズッキーニがアルコール依存症の母を死なせてしまうくだりも、あえて詳細な描写をしていません。
あとになってから「僕がママを殺してしまった」というセリフで我々は大いにうろたえさせられます。

虐待、薬物中毒、不法滞在、犯罪、自殺などに走った親たちを持ったそれぞれの境遇の子供たちも、当たり前のように世界のどこかであることだというように、その現実をさりげなく見せます。 このさりげなさが却って衝撃を与えます。

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親からどんな目に遭っても、なお愛を乞う子供の姿が突き刺さります。
ズッキーニの、母を憐れみつつも自分は愛されていたのだと自ら納得させる健気な思いは胸が詰まります。

彼が大事にする凧の表に描かれているヒーローっぽいデザインはパパの絵。(裏は雌鶏の絵)
その凧を揚げる描写は、パパとは離れているけど、今でも繋がっているのだというのを仄めかしており、一本の糸を手放したらもう戻ってはこない不安の形が凧なのですね。

缶ビールの空き缶を母の形見として持ち続けるのも、母を破滅に追いやったモノではなく、母の愛したモノだから。

シモンの服のマークにはドクロがデザインされており、布団のシーツにもドクロと交差した骨のいわゆる「毒物マーク」の模様が描かれています。
薬物中毒の両親とドラッグへの確かな批判が込められています。 シモンらしいですね。

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「なぜ、涙が出るのかしら」

映画の最後の方でカミーユが流す涙には、思わず感情が持って行かれます。

愛というものに触れた嬉し涙なのかも知れません。・・・が。
普通の人生が叶わなかったことを振り返り、新しい家族で再出発するこの形を幸福と受け止めていいのかという複雑な感情が発露したのかも知れません。
亡き両親のこと・・・ 一緒にひと時を過ごした園の友だちのこと・・・
不幸せな人が癒され、不幸せなことが世界から無くなり、誰もが当たり前の人生を送れる喜びに満ちた世界の実現を願って・・・・

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「孤児院」というと、ドラマや小説の世界ではよく扱われますが、実際にも存在するのに、それらについての詳しいことはほとんど聞きません。
これはプライバシーの問題があるので、取り扱いも難しいのだろうということは想像に難くありません。
お父さんとお母さんがいて、当たり前の愛情を受けて当たり前に育てられる、かけがえのない"普通"の叶わなかった子供たち。

不慮の事故や病気による早世。 これは仕方ないとして。
身勝手な過ちで、自分はもちろん、子供の人生まで取り返しのつかないことになってしまう親がいる。
これから親になるかも知れぬ大人や、親になったばかりの大人の皆さんは、子供の人生を破壊することなく、"普通"であることの幸せを築いてください。
親はやっぱり親。 子供は愛していますし、愛されることを待っています。

「孤児」。 たった二文字でも嫌な響きです。
一人でもそんな境遇の子が減ることを望んでやみません。
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「賢人のお言葉」
 
「人に大切なのは自信を持つことだ。 私が孤児院にいたとき、腹をすかせて街をうろついて食い物をあさっていたときでも、自分では世界一の大役者ぐらいのつもりでいた。 つまり勝ち気だったのだ。 こいつをなくしてしまったら、人はうち負かされてしまう」
 チャールズ・チャップリン
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