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デトロイト
2018年02月11日

T0022450p.jpg毎週土曜の夕方に放送されてる「報道特集」。
先日この番組で、アメリカの白人至上主義者たちの姿がレポートされていた。

インタビューに応じている20代の白人の男は終始ニコニコしながら、「これからは隠さなくていいんだ」と、白人至上主義者であることを誇りであるかのように言う。
大統領が黒人から白人のレイシストに代わって、この浮かれようだ。
彼は、「民主主義なんかに期待していない。白人と非白人が自分の母国を作って別々に暮らせば争いごとなんかなくなる」と言う。
よくこれほどの狭い視野と下品な価値観で生きてきたなと思う。

昨年の8月に白人至上主義者が行うデモに反対する群衆めがけて車が突っ込み、一人が死亡する事件が起きた。 これに関してインタビューアーが「痛みは感じないか?」と聞くと、男は「全く感じない。当然のことだ。 防衛のためにやったことだから」と、相変わらずニコニコしながら胸を張って答えていた。
この男。ビョーキだな。

ケンカする気はないけど仲良くする気もない。
人の内面などに興味もなく、頭を使わずにルーズに生きてきたのだろう。
自分の周りは自分の好きな人だけでいい・・・
お菓子の家に住みたいという子供と同感覚の幼稚な奴だ。
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数ある理由の中で、ただ肌が黒いと理由だけで人間を嫌悪する。 異常な感覚だと自分で感じないのか?
互いに近づいて色々と知り合い、理解し合おうという大きな視野をなぜ持てない? それぐらいの簡単なことがなぜできないのだ?
差別主義を勲章のように堂々と自慢することが恥ずかしくないのか?
それを恥ずかしく思わないんだったら、おまえはビョーキだ。

親方が親方なもんだから、近頃また白人至上主義者がいきり立つ社会と化したアメリカ。
公民法制定から半世紀以上経つのに何も変わらない、変わろうとしないこの国は果たしてこの先どうなるのだろう?

法律ができても、未だに白人の警官が黒人をどうしたこうしたということが後をたたない。
そしてお決まりのように暴動が起きる。 アメリカの風物詩だ。
大なり小なりある数々の暴動事件の中で1967年に発生した「デトロイト暴動」もまたワッツ暴動やロス暴動と並ぶ最大級の暴動として知られる。
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それはデトロイト市警が違法酒場に強引な手入れを行ったのがきっかけだった。
不当な捜査に反発した地元住民の黒人たちと警察との小競り合いがやがて暴動へと発展し、略奪、放火などが勃発。 ミシガン州は軍隊を投入するなど、デトロイトの街は戦場と化していった。
死者43人、負傷者は1100人以上にものぼり、被害総額は4500万ドルにも達する大規模な暴動であった。

「ハートロッカー」、「ゼロ・ダーク・サーテイ」のキャサリン・ビグロー監督が次に目を向けた世界の闇。
デトロイト暴動とその最中で起こった「アルジェ・モーテル事件」の全貌に迫った、今の時代だからこその問題作である。
☆★☆★☆★☆★☆★

黒人が人口の8割を占めるデトロイト。
冒頭、絵本のページをめくるようにアニメのテイストで、デトロイトの街に黒人層が流れていった歴史が語られて物語は始まる。

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1967年7月23日。 からりとした暑さのデトロイト。
その日の夜、12番街の交差点に建つビルの2階にある酒場では、ベトナムから帰還兵を祝うパーティーが行われていた。
そこへ、無許可営業であるその違法酒場にデトロイト市警が摘発に乗り込んできた。
怒号や悲鳴が入り混じった喧騒の中、客や従業員ら全員が外に出され、逮捕者は次々と護送車に押し込められていく。

通りは人で溢れかえっており、その中の誰かが警官たちに向かって石を投げた。
騒ぎが小競り合いレベルで済まなくなるのに、たいした時間は要さなかった。
暴動は瞬く間に広がり、12番街では商店への略奪や放火が始まり、もはや手がつけられない状態となっていく。
遂にはミシガン州が軍隊の投入を要請する事態にまで至る。
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暴動は一夜明けても収まる様子はなく、ジョン・コニャーズ下院議員が街頭に立ち、民衆に呼び掛ける。
「自分たちの街をけがすな!」
冷静になることを促す議員の言葉がまるで届かないのか、これまでの鬱憤が溜まりに溜まった民衆の怒りは収まるどころか、ボルテージは上がる一方。
「焼き払え!」

暴動というものの群衆心理のメカニズムには詳しくないので、シロウトの我々は腑に落ちない思いで一杯だ。
警官たちに怒りをぶつけるのはまだ分かるとして。
自分たちが暮らしている街を自分の手で荒し、黒人が営んでいる店を同じ黒人が盗みに入って、中には火までつける奴がいる。
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なぜそんなことを?
敵も同胞も区別がなくなる、この狂気は何ゆえに生まれるのだろうか?
あまりにバカげたことを仕出かしていると、なぜ人々は冷静になれなかったのだろうか?
暴動というのは、そういうものなのか?
少くとも街中に戦車まで出てくる状況を見たときに、頭を冷やして家でじっとしていれば、むごたらしい悲劇は避けれたかも知れないのだ。
 
その悲劇、「アルジェ・モーテル事件」。
7月25日の夜、市内のモーテルに宿泊していた黒人の青年たちの一人がふざけてオモチャの銃を窓の外に向けて発泡。
これを狙撃と勘違いした警官たちがモーテルに押し掛ける。
当時、そこには黒人男性7人と白人女性2人がいたが、結果、3人の黒人男性が警官に射殺された。
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事件直後は警官の正当防衛による射殺とされたが、のちに容疑者に対して警官や州兵による違法な暴行が行われた末の殺人だったことが明るみに出る。
3人の警官たちが第一級殺人などの罪に問われて起訴されたが無罪となっている。

映画はこの痛ましい「アルジェ・モーテル事件」を中心に進行する。
カメラは被害者・加害者警官ら当事者たちの目となり、我々観客はこれから想像を絶する一夜を目撃する事になる。


【ラリーの長い夜】
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インディ・デビューしたばかりのバンド、ザ・ドラマティックスのリードヴォーカル、ラリー・リード(アルジー・スミス)。
この日の夜は彼にとってバンドにとって特別な夜になるはずだった。
はじめて地元の音楽堂、フォックス・シアターの大きなステージに立つのだ。 あわよくばメジャーのレコード会社モータウンとの契約もかかっている。
ステージでは女性3人組のマーサ&ザ・バンデラスが華麗な歌声を響かせ、舞台袖でスタンバってるメンバー全員は誰もかれもが緊張していた。

次はいよいよ自分たちの出番だ。 あぁヤバい。 死ぬほど緊張するぜ。
「一度合わせておこうか」 軽いリハをして緊張をほぐした。 バッチリだ。
さあ、いざ出番だという時になって、突然ステージは中止だと聞かされた。
冗談じゃないぞ、おい。


外で暴動が起きており、警察から強制的に避難の指示が出たのだ。
観客が全員退去させられる光景をラリーたちは呆然と眺めるしかない。

ちょっと待てよ。 まだ大丈夫だろ。 一曲だけだから。
なんでだよ、こんな時に。 みんな戻ってこいよ。


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どうしても諦めきれないラリーは、虚しいことと知りながら、ステージに出て歌い始める。
メンバーの弟で友人でもあるフレッド・テンプル(ジェイコブ・ラティモア)がなだめようとするが、それを振り切ってラリーは熱唱した。
誰もいなくなった客席に向かって。
「If you haven't got love」。 So Lonery~ So Lonery~

何してくれやがるんだ、デトロイト。 
返してくれよ、俺のステージを。


劇場を出たザ・ドラマティックスのメンバーはバスに乗り込んだものの暴徒の襲撃に遭って離れ離れになってしまう。
ラリーフレッドと共にバージニア・パークのそばにあるアルジェ・モーテルにチェックインする。
そこはまだ比較的平穏な場所だった。
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プールサイドにいた2人の白人女性、ジュリー(ハンナ・マリー)、カレン(ケイトリン・デヴァー)と仲良くなったラリーはその足で、ジュリーの友人らが泊まってる部屋に向かう。
やがてジュリーの遊び仲間であるカール(ジェイソン・ミッチェル)ら5人の男が合流した。

リー(ペイトン・アレックス・スミス)、マイケル(マルコム・デヴィッド・ケリー)、オーブリー(ネイサン・デイヴィス・ジュニア)。 そして復員兵のロバート・グリーン(アンソニー・マッキー)である。

このカールというヤツはいつもこんな風にハイなのか?
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つい先日亡くなったジョン・コルトレーンは「ヘロインで死んだ」などとホザきやがる。
ボケか。 肝臓ガンだろが。
「だからヘロインが原因で・・・」などとまだ言ってやがる。
分かった分かった。クソして寝ろ。


話題はどうしても暴動のことになるが、こいつの口はホントによく回りやがる。
「黒人は常に銃を突きつけられてる。 白人どもは俺の街、俺の車・・・全部自分のモノという」

ピストルを振り回して白人警官のマネごとをするカールは誤ってリーを撃ってしまった・・・と思ったらそれは二人が仕組んだドッキリで、銃は競技用のスターター・ピストルだった。

こんな時に、よくそんな悪ふざけができるもんだな。
だいたい、なんでオマエがそんな競技用ピストルなんか持ってるんだ? 国際陸連の職員か、オマエは?
しょうもないことやりやがって。


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オモチャを手にした幼稚なイチビリ野郎が元凶といえば元凶なのだった。
笑えることと笑えないことの区別がつかないのだろうか。

「ブタどもを脅かしてやるぜ。 俺たちはやられっぱなしじゃねえ」
カールは窓の外に見える警戒中の州兵たちに例のオモチャの銃を発砲する。
ラリーにとって長い夜の始まりだった・・・・・・


【クラウスの熱い狂気】
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デトロイト市警の警察官フィリップ・クラウス(ウィル・ポールター)は暴動の混乱の中で略奪犯の取り締まりを行っていた。
相棒のフリン(ベン・オトゥール)と共にパトカーに乗り込み、変わり果てたデトロイトの街並みを眺めながら嘆きが止まらないクラウス

「暴力で何も解決しないと言うが、問題は我々があまりに非暴力的だったことだ」

俺たちゃ聖母じゃねえっての。 なんのためにこんな制服着て銃持って手錠持って危険な街ん中歩いてんだよ。
黒人様をツケ上がらせると、平気でこんなバカをやらかしやがるぜ。 俺たちの街をこんな風にしやがってよ。

「見てみろよ。 まるでベトナムじゃねえか」

「俺たちのせいだ。 何もせずに見てたからだ」

俺の目の前で好き勝手しやがる黒んぼは片っぱしからブチ殺してやる。
と、思ったらさっそくバカがノコノコと出てきたぞ。 ふざけやがって。

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雑貨店から、明らかに商品を略奪して外に出てきた黒人の男とクラウスが鉢合わせ。
慌てて逃げ出した男を追いかけるクラウスはちゅうちょなくショットガンをぶっ放した。
攻撃してきた訳でもない相手を背後から撃つというのは警官といえど完全な違法行為だった。

仕留めたか・・・? 当たったはずだが。 後ろから撃ったのはマズかったが、言い訳はなんとでもなるさ。

撃たれた男レオンはクラウスたちを振り切ったあと、知り合いの民家の前まで逃げてきた。
そこにある車の下に潜り込んで隠れたが、それはもうあまり意味がないとレオンは悟った。
驚いて出てきたその家の老婆にレオンは「ママを呼んでくれ」と言ったきり、そのまま息を引き取った。

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やっぱり怒られたか・・・
うちの上司、だいぶブチ切れてたなあ。
そうか・・・、あの男、くたばったのか。
しらばっくれてやろうかと思ったけど、弾道検査すりゃ俺の仕業ってチョンバレだもんな。
そりゃ、後ろから撃っちゃいけないのは分かるけど、相手は泥棒の黒人だぜ? ほめてくれるんならまだしもそんなに怒られることか?

ハイハイ。わたくしが悪ぅございました。 これでよろしいですか。
差別主義者? その言い方はどうかなあ?
俺がやってるのは正義だぜ?
今度やったらクビ? この人手不足に? まあ、次はうまくやるさ。


このクラウスという警官は病的なまでに黒人を蔑む人種差別主義者である。
職務に忠実というよりは、警察バッジを一種の武器に、嬉々として黒人を排斥することに血道をあげてきた外道なのだ。
黒人を刺激して挑発して暴力を煽って、黒人を正当に逮捕できるように仕向けることも厭わない。
どんなやり方を使ってでも、「黒人を虐げることもできる職業」を最大限に利用することに必死の男だった。

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その日の夜、クラウスフリン、そして新人警官のデメンズ(ジャック・レイナー)を伴って12番街あたりをパトロールしていた。
そこへアルジェ・モーテルから何者かが銃を発砲してきたという通報を受け、現場に急行する。

自分でイタズラをしておきながら、警官隊に包囲されるという事態にチビッたカールは逃げ出そうと2階から階段を駆け下りる。
誰よりも早くモーテルの中に突入したクラウスは、そこで階段を下りてきたカールを見た。
警官の姿を見て、思わずきびすを返して背中を向けたカールクラウスはためらわずに射殺する。

そして彼はのちのち正当防衛が主張できるように、カールの死体のそばにナイフをそっと置いた。
やってやったぜ。 だが、こいつは銃を持ってない。 犯人じゃないってことか? まあどうでもいい。
さあ犯人探しだ。 俺たちに銃を向ける黒んぼに手加減はしないぞ。


クラウスの熱い狂気が燃え盛っていた・・・・・・


【ディスミュークスの厄介な憂鬱】
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メルヴィン・ディスミュークス(ジョン・ボイエガ)は人種差別の激しい南部のアラバマから家族と共にデトロイトに移住し、溶接工をしながら民間の警備員をしている。
この制服を着ている以上は少なくとも白人警官から因縁をつけられることはない。
それどころか、こちらがキチンとした態度で接すれば白人もそれなりに紳士だった。
それが制服の持つ魔力だった。

この世界の御し方を心得てやってきたディスミュークスだが、黒人から白い目で見られることもある。
それも致し方のないことだった。

この制服も時には便利なのさ。
挑発に乗せられて無駄な暴力に訴えて警察に引っ張っていかれるバカもいる。
そんな奴を止めることもできる。
ウッドワード通りで生命保険会社のビルを警備する州兵に若者が食ってかかっていた。
なにをやってるんだ、家に帰って大人しく寝ろ。

「すいませんねえ、そいつはうちの甥っ子なんですよ。 勘弁してやってください」

「俺はアンタの甥っ子じゃねえよ」 「うるさい。 頭を冷やせ、このバカ」
相手が州兵だからいいようなものの、警官だったら真っ直ぐ向かって行った時点で銃を抜かれるぞ。
ちょっとは考えろ。


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その日の夜、契約している食料雑貨店の警備をしていたディスミュークスは明らかに銃声を耳にした。
狙撃事件の発生らしい。
ディスミュークスは州兵と共に現場のアルジェ・モーテルに直行する。

もうすでに警官隊が突入した後で、何人かの黒人がすでに身柄を取り押さえられていた。
白人の女性もいることに少なからず驚いたディスミュークスだが、もっと衝撃だったのは1階のロビーの床に一人の黒人の男の死体がうつ伏せに転がっていたことだった。

その場にいたクラウスという白人警官は「そいつがナイフで襲ってきたから」と言った。
ナイフで襲ってきた相手に銃でか?
それに、この死体は後ろから撃たれてるようにも見えるがな。


だが彼は何も言えなかった。 言わない方がいいというのは、これまで彼が経験してきた生き方が尾を引いているのだろう。
だがしかし、このモーテルの窓から銃を撃った奴がいる。
まずはそれを突き止めないと。 捜査に協力はするが、この白人の警官はなにやらヤバい狂気の匂いをプンプンさせている。
大丈夫なのか? 捜査の名を借りて妙な事態になったら、果たしてこの俺に何かできるだろうか?


ディスミュークスの厄介な憂鬱は収まりそうにない・・・・・・


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モーテルにいた若者8人が拘束されて1階の廊下に整列させられる。
ザ・ドラマティックスのシンガー、ラリーと友人のフレッド。 殺されたカールの友人のリーマイケルオーブリー。 ベトナムからの復員兵グリーン。 そして2人の白人女性ジュリーカレン

「壁に顔を向けて手をついてろ。 こっちを見るなよ。 抵抗したら即撃つぞ」
感情を抑えたクラウスのキリッとした威圧の声が8人を震え上がらせている。
ちょっとの口答えでもクラウスフリンは容赦なく銃の台座で殴りつけた。

州兵も混じっての銃の捜索が行われたが、問題の銃はどこからも発見されなかった。
クラウスはイラつく。 証拠品さえあれば黒人なんぞ煮ようが焼こうが好き放題できる。
だが、州兵や民間警備員らもいる手前そんな勝手はできない。
「おまえらは容疑者だ。 銃がどこにあるか正直に言え。 撃ったのは誰だ?」

だが誰も「知らない」と言うばかりで、逆にクラウスのサディスティックさはどんどん増していく。
「喋れ」、「知らない」の繰り返しと共にクラウスの恐喝と暴行はエスカレートするばかりだった。

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「恐いか?恐いだろ。 祈れよ。 お祈りするのはオマエら得意だろ。 さあ祈れ。 なんなら聖歌でも歌え。 ほら、大きな声で!」

クラウスは若者の一人にナイフを持たせた。
「ナイフで自分を守れ」 
見え透いた挑発をして相手の反応を面白がるクラウス

フリンはと言うと、女性にコンプレックスでもあるのか、黒人と一緒にいたというのが許せないらしく、2人の白人女性にしつこく尋問する。
「白人だからといって見逃がしてもらえると思うなよ、この売春婦どもが」と、ためらいなく女を殴る。
警察バッジをつけてるのが信じられない卑小な男だ。

これは軍隊のしごきか? 奴隷を虐待する王様か?
およそ日本では考えられないような光景である。
いくら犯罪捜査だからと言って、民間人に対する警官の態度とは程遠い所業が延々と続く。

見るに堪えないこの尋問のシーンは実に40分も続く。
我々観客は否応なく耳目をその現場の中に放り込まれ、一部始終を見届けさせられるのだ。

 
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クラウスにとっては、とにかく銃の在り処だった。 そして誰が撃ったか?
それを知るまではクラウスの“趣味”は続く。

クラウスリーを別室に連れて行き尋問する。
「本当に知らないんだ」
「そうか。言わないんだったら死ぬまでだ」
床にうつ伏せにさせてリーの顔の横で床を撃つ。
「そこでじっとしてろよ。 声を出すんじゃないぞ」
リーは恐怖のあまりに言う通りにするしかない。

本当に殺しはしないのだが、外にいる他の者はリーが殺されたと思い込んでいる。
「殺しやがった。 本当に殺しやがった・・・」
「あっけなく死んだぞ。 嘘をつくからああなるんだ」

それは、順番に殺していくぞと言ってるも同然のクラウスの「死のゲーム」の始まりだった。

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次はベトナムからの復員兵グリーンの番だった。
彼もまた別室に引っ張り込まれ、死を装わされることになるが・・・。

カールが2階から発砲した時、彼はジュリーカレンと一緒に3階の部屋にいた。
音は聞いたが本当に何があったかは知らない。
それよりも、黒人が白人女性と部屋にいたというのがクラウスフリンも気に入らないらしい。 つくづく浅ましい奴らだ。

グリーンがベトナム帰りだと聞いてそこに食いつくところも、妙な虚栄心を感じさせる。
オマエは本当に兵士か? 階級は? 人を殺したのか? 登録証もどうせ偽造だろ?
警官は兵役に就かないからか。 そんなにうらやましいのか、お国の役に立った男が。

女性に対しても黒人とは違う異質の、上から目線な言い草が怒りを通り越して憐れみさえ覚える。
特にフリンという奴はゲスだ。 家に帰ってマスでもかいてろ、ボケ。

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ディスミュークスは黒人の自分が何とかクッション代わりになろうと気をもむ。
そうでもしないと本当にあのクラウスという警官は取り返しのつかないことをやりそうで恐ろしい。
とにかく、銃による発砲があったのは確かなのだから、彼らが正直に話せばコトは悪い方に転がりはしないとディスミュークスは信じるしかない。
「警官を敵に回すな。 今を生き抜け」

白人におもねって、一緒になって若者たちをいたぶるようなマネなどもちろんしたくない。
スキを見て彼らを逃がしてやりたくもなるが、もはや制服を着て白人警官と一緒に職務を遂行している自分の姿を見ている彼らの目は明らかに敵を見る目だった。 そこがディスミュークスには恐いのだった。

2人の女性をなんとか彼の計らいで解放はできたが、それも彼にとっては後々逆効果となってしっぺ返しが来ることになる。

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ディスミュークスとは顔見知りで、共に現場に向かった州兵のロバーツ准尉(オースティン・エベール)はこの出来事の中の唯一の良心だった。
州兵に捜査の権限が制限されてるとは言っても、モーテルの中で行われてる警察官のやり方は目に余るものだった。

ミシガン州警察が様子を見にやってくる。
ロバーツ「あれはあまりにもやり過ぎだ。 なんとか辞めさせないと」と訴えるが、州警の責任者は「人権の絡む問題に関わりたくない」と言ってアッサリ引き揚げてしまう。

この「見て見ぬふり」が物語の一つのテーマにもなっている。
ディスミュークスとてロバーツ准尉とて、面と向かってクラウスには意見できず、そのまま悲劇になだれ込むのを食い止めることはできなかった。
どうすることもできなかった状況ではあるが、彼らに限らず、どこにでもある人種差別の現場では被差別者だけでなく、「これはおかしい」と思う第三者が声を発すれば、差別主義者が考えを改めるまでに至らずとも、心の中になんらかの引っ掛かりを与えるきっかけが生まれる。
考えを改めさせられなくてもいいから、まずは考えさせるのだ。
そこから始まるのだ。

そしてロバーツ准尉は行動する。
別室でうつ伏せたまま恐怖で固まっているリーを逃がしてやるという行動に出たのだ。
ちょっぴり男をあげたな。

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銃は一体どこにあるのかを口を割らせるために行われてる「死のゲーム」。
クラウスは3人目を新人警官のデメンズに選ばせた。
「おまえがやってこい」とデメンズに任せたのが間違いだった。

別室で本当に殺さず撃つふりをする。 他の者に銃声を聞かせて本当に殺したと思わせて自白を迫るのが目的だった。
この説明がデメンズに伝わっていなかったのだ。
そしてデメンズはオーブリーを本当に射殺してしまうのである。

初めて銃で人を撃った経験ができて顔を上気させているデメンズの様子に、まさかと思って部屋を覗いたクラウスは大変なことになったと焦る。
「本当に撃つ奴があるか、このバカが。 ゲームなんだ。 撃つふりなんだよ」

3人の警官は一気にうろたえた。
真実はもうどうでもいい。 
この状況をどうにか取り繕って、ここから引き揚げないと。 それを考えるだけで精一杯だった。

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クラウスは拘束していた者たち一人一人に、カールの死体を見せて「ここで起きたことは全部忘れろ。 誰にも一言もしゃべるな。 約束を破ったら殺すぞ」と脅しをかけて解放した。

グリーンラリーマイケルも黙ってモーテルを出て行ったが、最後のフレッドだけはなぜか些細な抵抗を見せた。
自分とは初めてこの夜に出会っただけの、言葉も交わしていない男の死体である。 何の義理もない。 言われたとおりに口をつぐんでも良かったのだ。

だが彼は「見て見ぬふり」ができなかった。
なぜか?
フォックス・シアターで観客が全員退去させられたステージの上で、ラリーが虚しい抵抗を見せて孤独な熱唱をしていた姿が彼の心に突き刺さっていたからだ。
フレッドも抵抗したのだ。 このデトロイトの街の理不尽な暴力に。

「あんたが殺した・・・」

クラウスは銃を抜いた。 フレッドは3人目の犠牲者となった。
ラリーは逃げたというのに皮肉なものである。

こうして「アルジェ・モーテル事件」は一応終息した。
その後の真実を追う物語はまた後ほど。

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映画を観ている観客にとって最大の疑問だったのは、尋問を受けた黒人たちがなぜスターター・ピストルのことを言わなかったのかだ。
3階にいたグリーンと女性たちは分からないから仕方がないが、他の5人は知っているのは間違いない。
銃の発砲は誤解なんだ、あれはオモチャの銃でカールがふざけてやっただけなんだと言えば状況は違っていたかもしれない。

だが彼らはそれを喋らなかった。 そこが解せない。
5人揃って恐怖のあまりにできなくなってしまったのかというのも妙だ。
やはり彼らはあえて喋らなかった・・・と思うのだ。

警官たちがオモチャの銃の音でビビったのだと知ったら、彼らはそれを認めるだろうか? おそらくは信じないだろう。
トチ狂った警官が「俺たちをバカにしてるのか?」と、さらなる暴力に出ることを思えば、(誰かが喋ってくれないだろうか)という希望のもと、それぞれ自ら口を閉ざしたのだ。

もっとドラマ的な推測を許されるのなら、恐怖のどん底にいながらも、白人ナニクソの感情が頑なに彼らの口を固くしたのではなかろうか。
誰がお前らに従うものか、本当のことは絶対に言うまいと強圧的な警官に抵抗することを彼らは決めたのだ。
殺されるかもしれない。 恐い。 誰か助けてくれ。
そう思いながらも、街で白人への怒りをぶつけている同胞たちと同じように戦うのだと腹をくくってもいたのだ。
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うらぶれたモーテルの中に"小さなデトロイト"ができていたのだ。
冷静になって命を大切にすればいいのにと思うかもしれないが、それでも何かしらの抵抗をせずにはいられない。 そこに"暴動"と似通った心理があるのだろうか。

俺たちはオモチャの銃の音にビビるような腰ぬけじゃないぞ。
銃がどこにあるかだと? 探し出せないまま、せいぜい怯えているがいいさ。
警察バッジと制服がなければ何もできないおまえらに俺たちは負けない。 絶対に生き抜いてやるぞ。

被害を被った彼らのビビり方を見てたら、とてもじゃないがそんな憶測はあまりに漫画チックで現実的じゃないかもしれない。
それでもだ。 あの40分間のシーンの中にいる錯覚をもたらされ、差別主義者の男に向かって「ええかげんにせえ!」と背中を蹴飛ばしてやりたくてもやれない思いで観ていたアッシはね、そうも思いたくなるのだよ。


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事件後、ディスミュークスは警察に呼ばれた。
現場にいた当事者として、捜査協力の意見を求められるとばかり思っていたが違っていた。

取調室に入ってきた二人の捜査官は、持ってる銃はリボルバーだな?とか、モーテルに入った時に男が撃たれたのを見たのか?などと、どうも的の外れた質問をする。
「おまえは容疑者だ」

白人から身を守ることもできる制服がここに来てアダになったのだ。
現場に自由に出入りし、白人警官に協力していたことが、彼らに虐待された女性たちの反感を買い、面通しで「この人よ」と売られてしまったディスミュークスはデメンズらが自供して逮捕されるまで留置場に入れられることになる。

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アルジェ・モーテルで地獄を見たラリー・リードは解放された直後、パトロールしていた警察官たちに保護される。
大怪我を負っているラリーに「何があった?誰にこんなことをされたんだ? 病院に連れてってやる」と言った警察官たちの言葉は、今までのことを思えば天使のささやきのように聞こえる。
同じ警官でもえらい違いだ。

だがラリーの心の傷はあまりに深かった。
モータウンからお声がかかってメジャー・デビューのチャンスが訪れる。
だがレコーディングに向かったスタジオのブースの中に、モータウンには似つかわしくない白人の男がいるのを見つけたラリーは歌うのを辞めてしまう。
「白人が踊って喜ぶ歌など御免だ」

やがてラリーは教会の門を叩き、聖歌隊の一員として天に召された友を悼む歌声を贈るのだった。

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良心の呵責に耐えかねてデメンズが上司に洗いざらいぶちまけ、フリンもあの日のことを告白する。
窮地に追い込まれたクラウスは最後までしらを切り通そうとする。

かつてディスミュークスを取り調べた捜査官が、次はクラウスにブチ切れた。
「殴れば思いだすか?」
クラウス「弁護士を呼んでくれ」と言うのが精一杯だった。

そして始まった裁判では、弁護士の入れ知恵か、クラウスはもちろんのこと、自供していたフリンもデメンズも容疑を否認する。
全員白人の陪審員、白人の裁判長。
自白は証拠として扱われないと宣言されて、3人の警官は無罪となった。

法廷を出て、タバコで一服しながら「大変な目に遭ったな」と語りあう3人。
どっちがだ? おまえらより大変な目に遭った人のことに思いを馳せてみろ。 そんな想像力などないか? この人殺しどもめ。


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変わろうとするどころか時代が後退するアメリカ。
白人と黒人が無理に仲良くしたくないならそれでもいい。 知ったこっちゃない。
だが勘違いしてはならないのは、どちらも「至上」ではないことだ。

居丈高に振る舞う白人も、略奪に走る黒人も、みんなバカばっかりだ。
だからこそ、この国は前進しないのだ。

人種に至上もクソもあるか。
みんな対等だ。 子供に胸を張って教えれる生き方をしろ。
壁の方を向かせた相手の背中に一方的に文句を言って、何が始まるというのだ?
対話は面と向かってしないと成り立たないことぐらい猿でも知ってるぞ。

あの40分間のおぞましいシーンの中には確かにアメリカの病理が描かれている。
まずは対話だ。
別に自分が何かをされた訳でもないのに、特定の人種と仲良くしたがらないボケナスなど論外だ。

誰もかれもがガンジーやマザー・テレサになれとは言わん。
だが、同じ人間同士でありながら、狭いにもほどがある価値観でしか判断できないような人生のどこが面白い?
白いとか黒いとかで分断するような国など、北朝鮮と戦争したって負けるぞ。 肝に銘じておけ。

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トランプ政権の影響で、再び人種間の対立が刺激される世相の中で、キャサリン・ビグローがあえてブチかました問題作。
たかだか映画一本で大国の方向がどうなる訳でもないが、歴史の闇を突く「キャサリン砲」が残す弾痕は決して小さくないはず。
今こそ「対話」が開かれることを望む。 特定人種の至上主義が蔓延る世界などまっぴら御免だ。

この映画でやはり強烈な印象を残すのは、差別主義者の警官を演じたウィル・ポールターである。
もともとがちょいとクセのある顔つきをしている。 彼の武器といってもいい。
つり上がった眉の下から睨む目つきだけで、何も喋らなくても伝わることが伝わる。
それほどの"顔力"を持っている。

こざかしい表情かと思えば、フッと、ワンパク坊やの童顔そのままのおどけた顔を作る時もある。
「ナルニア国物語」や「メイズ・ランナー」の頃から誰もが薄々感づいていた彼の才能が、ここにきて神的な爆発を見せた。

しかし、この映画。 オスカーから全く無視されたとは信じがたいな。

 
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「賢人のお言葉」
「私たちを苦しめるあなた方の能力に対して、私たちはその苦しみに耐える能力をもって応じましょう」
 マーティン・ルーサー・キング・ジュニア
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