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ジャコメッティ 最後の肖像
2018年01月19日

T0022509p.jpg芸術家というのは、やっぱり凡人にはないセンスを持ってる人なわけだから、そのぶん・・・

クセがすごい!

画家だけで言うならば北斎しかり、ピカソしかり、セザンヌしかり、ゴッホもダリもまたしかり・・・
この人たち、変なんですぅ。

脳を働かせる部分が、人とは違うからだろうか。
芸術家のほとんどがそうではないかと思うほど、やたらに変人が多い。

いや、変人というよりは気難しいというのだろうか。
気難しい一般人はいても当たり前なのに、芸術家は気難しいというクセがあるだけで変人待遇がアップするのは少し気の毒ではあるが。
やはり、「人々を感動させるアートを生み出す才能がある人なのに」というギャップが強すぎるのだろうか。
それにしたって芸術家のクセがすごい。
鬼才とは、すなわち人格なり。


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アルベルト・ジャコメッティ (1901~1966)
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彫刻家であり、画家であり、版画家。
スイス出身でお父さんも著名な画家。

ジュネーヴの美術学校を卒業し、21歳でパリに移り、どこの流派にも属さず、独特の作風を発展させて瞬く間に成功を収める。
シュルレアリスムから離れて、目に見える通りのものを作ろうと決意。 簡単なようで不可能といってもいい。
それを突きつめて、ずっと削いで削いで削ぎ落とし続けてできた彫刻がかの有名な「歩く男」である。

人から言わせれば、“目に見える通りのものを作る“はずが「なんでそうなっちゃったの?」とツッコミたくなる彫刻は、昨年催された「ジャコメッティ展」で堂々日本への凱旋を果たしている。
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絵画も多数残しているジャコメッティだが主に肖像画が多い。
素人目には「書きかけ?」で終わってるかのような、これもまた一目でジャコメッティの作品だと分かるほど独特の作風である。
本当に書きかけのまま辞めたものが多いらしいが。
 
モデルはカロリーヌという愛人をはじめ様々な人が務めているが、彼の描いた最後の肖像画のモデルとなったのがジェイムズ・ロードというアメリカ人の作家である。
評論家でもあり、長年の友人だったロードは1964年、ジャコメッティの個展が開かれていたパリに赴いた。
その際にジャコメッティから肖像画のモデルになってくれと依頼されて引き受けたのだが、それがロードにとって運のつき。
彼はドえらい目に遭うのである。

その体験談を綴ったジェイムズ・ロードの手記「ジャコメッティの肖像」。
これをジャコメッティの大ファンと公言する俳優のスタンリー・トゥッチが脚色・監督を手掛けて映画化。
これは伝記映画ではなく、最後の肖像画が完成するまでの顛末と、その期間のありのままのジャコメッティを描き出したコメディタッチの人間ドラマである。

ジャコメッティを「パイカリ」シリーズのキャプテン・バルボッサでおなじみのジェフリー・ラッシュが演じ(激似!)、ジェイムズ・ロードには「コードネーム U.N.C.L.E.」、「フリー・ファイヤー」のアーミー・ハマーが演じている。

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1964年。 ジェイムズ・ロード(アーミー・ハマー)は浮かれまくっていた。
なにせ、アルベルト・ジャコメッティから肖像画のモデルになってくれと依頼されたからである。
そんなにテンションが上がることなのだろうか? 上がることなのだ。

たとえば突然、本田翼から電話がかかってきて「一日でいいからデートしてくれませんか?」と言われたらどんな朴念仁でも平常心ではいられない。
いかに自制しようとも、一服盛られたかのようにハイになること必至だろう。
それと同じことなのである。

ロードにとってはジャコメッティは憧れの人である。
作家でもあり美術評論家だったロードジャコメッティを取材した当初から彼の作品に魅せられ、個人的にも10年以上に渡って友人の関係にある。
この時も、彼はジャコメッティの個展を観るためにアメリカからはるばるフランスのパリに訪れていた。

もうすぐ帰国が迫った頃、ジャコメッティから肖像画のモデルを頼まれたロードはもちろん喜んで引き受けた。
憧れの巨匠が自分の絵を描いてくれる・・・・・ 巨匠の仕事も間近で見られる・・・・・
ドキがムネムネ、ワクがムネムネ。 トキメキが暴走するジェイムズ・ロード

巨匠は「2~3時間で描き上げる。 遅くとも夕方までには」と言う。
その言葉を信じて、ロードは巨匠の住むイポリット=マンドロン通り46番地へと向かった。
やがて彼は知る。 芸術家の口約束がどれほどデタラメであるかを。

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アトリエはお世辞にもきれいとは言い難かった。
床は石膏の粉まみれ。 作りかけの彫刻がいくつか放ったらかしのまま。
整理整頓などクソ食らえと言わんばかりに、道具という道具は場所も決めずに乱雑に放置されている。
ひいき目に見れば、「巨匠の仕事場は一味違うよね~」などと言えなくもない。

ロードを案内したジャコメッティ(ジェフリー・ラッシュ)。 タバコをくわえてマッチを擦る。 火をつける。 マッチを床にポイ。
(おいおいおい・・・ 灰皿とかあるやろ。  ・・・ないな)

同居している弟のディエゴ(トニー・シャルーブ)が彫刻の完成品用の台座を作って持ってきた。
しかし巨匠。 せっかく完成した作品を「これは駄作だ」とポイ。 ガシャーン!
おいおいおい・・・ せめてゴミ箱に捨てるとか。  ・・・ゴミ箱がないな)

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真っ白なカンバスをイーゼルに立てるジャコメッティ巨匠
椅子に座らされたロードは顔や足の位置を細かく調整される。
「よし。動くなよ」 (へい)

くわえタバコで絵を描きはじめる巨匠。
「冷酷な顔をしてるな」 (なんやねん急に?)
「凶悪犯に見えるぞ」 (それならアンタの方がよっぽど・・・)
「見たままは描けないな」 筆が止まる巨匠。 (かかへんのかい)

巨匠は言った。 「肖像画とは決して完成しないものだ」
(いや、かかへんからやんけ)

一日目のセッションはこれにて終了。
帰国の飛行機は明後日だし、まあいいかとロードは思うのだが甘かった。
これより彼は地獄の18日間を味わうことになる。
クセのすごい巨匠の気まぐれ、“描く描く詐欺”。
それはまるで吉本新喜劇のすち子と吉田裕の「乳首ドリルすんのかい、せんのかい」を見てるようなお戯れ。

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ジャコメッティのもとに時折、ご陽気な婦人がやってくる。
カロリーヌ(クレマンス・ポエジー)。 娼婦であり、ジャコメッティの愛人である。
「シラガ頭ちゃ~ん」とか、または「お~い、老いぼれ犬」などと実に口の悪い挨拶で巨匠を呼びながらアトリエに入ってくる。

そして巨匠はニヤつきながらカロリーヌ嬢とイチャイチャし始める。 奥方の見てる前で。
その奥方のアネット(シルヴィー・テステュー)も、日本人哲学者の矢内原伊作(タカツナ・ムカイ)とあてつけのようにヨロシクやっているのだが。

とっくに夫婦関係は破綻してるのであるが、たまに画廊から札束がドーンと送られてくるジャコメッティのフトコロを考えれば、アネットも早々別れることもできない。
たまにアネットが新しいコートの一つでも買おうものなら、ジャコメッティ「この物質主義者めが!」と罵りだしてバトルが勃発する。
見苦しさ満点の、犬も食わないケンカをそばで見せられるロードは居心地が悪い。

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2日目以降、すぐに描き上げてくれると思っていたロードの期待は一瞬で吹き飛ぶ。
巨匠は一筋縄ではいかない。
描こうとすれば辞める。 辞めるかと思ったら描きはじめる。 でもすぐ辞める。

真面目に描いてると思ったら、ふと動きが止まる。
そして、「クソッタレー!」と叫んで頭を抱え出して、「今日は辞めだ」。 これの繰り返しである。
そんなこんなで、予定は延び延び。
ロードだってヒマではない。
アメリカではゲイの恋人が首を長くして待っている。
予定が延びるごとに電話で恋人に謝りたおすロード

tszsvdfrmd8.jpg 
「お前の横顔は変質者だな」
「光栄です」(しばくぞ)
「刑務所か精神病院行きの顔だ」

(わかったから、はよかけや)

そして描きだす。
やがて・・・・・
visual.jpg 
「クソッタレー!」

(また始まった。 かかへんのか? かくんか? かかへんのか? かくんか?)

「ダメだ・・・・・」 (かかへんのかい)
「よし、描くぞ」
362167_005.jpg 
(かくんかい)

3日目も4日目も5日目6日目も7日目も8日目も、ずーっとこんな調子である。
final-portrait-003.jpg
「今日の俺は調子がいいぞ」
(何を根拠に)
・・・・・
「続ける価値があるか・・・?」
「え?」(また、嫌なことを言い出したぞ)
・・・・・
visual ss
「クソッタレがぁーっ!」
(もうええっちゅうねん)

例によって、しばし固まる巨匠。
(どないすんねん。 かくんか? かかへんのか?)
「辞めた。 おい、飲みに行こう」
(かかへんのかい)
「いや、やっぱり描こう」

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(かくんかい)

どんどん日にちだけが過ぎて行く。
されど一向に絵が完成する気配はない。
「あと一週間あると嬉しい」などと、冬休みの宿題をさぼったまま始業式前日を迎えた小学生みたいなことを言う。

ロードも半ば腹をくくった。
恋人には何回も電話してるうちに愛想をつかされた。
こうなりゃ『かくんかい、かかへんのかい祭り』にとことん付き合ったるわい。

それでもやはり、ジャコメッティという芸術家はロードには実に魅力的だった。
こういう面倒くささも貴重な体験である。
自分が今、この巨匠とともに同じ時間を共有していること自体が素晴らしいのだ。

362167_004.jpg
ある日、一息入れようと二人で散歩に出る。
ジャコメッティがピカソについてディスり倒す。
よっぽどムカつくことがあったのだろうか。

「ピカソは過去の芸術の模倣だ。 人のマネをして自分のものだと言う。 ふざけるな。 アイツはコソ泥だ」

こういうのを拝聴するだけでも貴重である。
そういうナマの本音を聞きたいのだ。 しかもピカソの話だなんて。
「絵についてアドバイスを求められたから、「ここをこうすればいいんじゃないか」と助言をしたらあの野郎、俺の言ったことと逆に直しやがった。 なめやがって」
(そういうとこがピカソだな)

「セザンヌは正しい。 アイツは最後の天才だ」
(ほぉ)

ところで絵の方はどうなのだろうか?
「明日は本格的に始めるぞ」
(ほんまかいな)

visual ss
もちろん本格的に始まるわけがなく、巨匠の例のクセが始まる。
「クソッタレがぁーっ!」
(やっぱり)

「出口が見つからん・・・」 (かかへんのか?)
「やめますか?」 「まさか」 (おっ? かくんかい)
「・・・やめよう」

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(かかへんのかい)


巨匠のクセのすごさは並ではない。
珍しく筆が進み、半分ぐらい描けたかという時になると、何が不満なのか、せっかく描いた絵をベターッと塗りつぶしてしまうのである。
「描きすぎたな」 (なにが?)
「う~ん・・・・ でも描きたらん」 (どないやねん)


愛人のカロリーヌと連絡がつかなくなり、いっぺんに機嫌が悪くなって筆も止まる。
カロリーヌが舞い戻ると機嫌回復。 絵もそっちのけで遊び回る。

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一日あればどころか、2,3時間あれば描くと言った巨匠の言葉とは裏腹に、もう2週間以上が過ぎた。
「希望が見えてこないんですけど・・・」
「は? 希望が欲しいのか?」

確か、自分は頼まれてモデルになったのではなかったか。
これではなんだか、「何が悲しくてオマエの絵なんか描かにゃならんのじゃ、ボケ」と言われてるようなものである。

「わしはな、希望が最高潮になると投げ出したくなるんだよ」
(ふ~ん・・・・いや、わからん!)


15日目・・・ 16日目・・・ 17日目・・・
このままでは一年たっても、いや、何十年たっても描けないだろうとジェイムズ・ロードは確信した。
見限ってアメリカに帰るのも惜しい。 是が非でも絵は完成させてほしい。
しかし、おとなしく巨匠がスラスラと筆を動かす期待などするだけ無駄なことが分かった今、ロードは途方に暮れるしかない。

我が道を歩くというより、我が道の真ん中で寝転がってるような究極のオレ流を発揮するジャコメッティ
まな板の上に乗せられたまま生殺しの鯉状態で待ち続けるロード
はたして絵は完成すんのかい? せえへんのかい?・・・・・
362167_001.jpg 

ジェイムズ・ロードジャコメッティと共に過ごしたパリでの18日間。
手に負えないほどの芸術家特有のクセのすごさが炸裂する一巨匠の実態を見せつける物語は、実際のところ有益な教訓は何一つない。
そこにはただただ、おもろいオッサンの生態が息づいているだけ。

絵を描いては消し、描いては消し。
叫んで悪態をついて、コロコロと気分が変わるガキ気質。
妻に厳しく、愛人に優しいゲス道一直線。
お金をお金とも思っていないように雑に扱うバチあたり。
ワインとコーヒーを一緒に飲む、食の変態。
こんなおもろいオッサンがどこにいるだろうか。

彼の創作した芸術品の善し悪しは分からないが、巨匠と呼ばれる男は一味もふた味も違う。
実際にこの世界に存在したクセスゴなアーティストの一挙手一投足を楽しませてくれる、監督の「ジャコメッティ愛」が強烈にほとばしった異風の人間ドラマだ。


d5946125x.jpg 
【ロードの肖像画】
巨匠的には完成はしてないのだが・・・

ロードがアメリカに帰国したあと、まもなくしてジャコメッティから手紙が届いたという。
『すぐに戻ってくれ。 もう一度最初から描きたいから』

かくんかい。


「賢人のお言葉」
 
「永久の未完成、これ完成である」
 宮沢賢治
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