ゲット・アウト
2017年11月30日

向こうの御両親に気に入ってもらえるだろうか。
話が合うだろうか。
やっぱり学歴や職業や収入とかを気にするのだろうか。
「おまえみたいなヘチャムクレが、よくもうちの娘に手を出してくれやがったな」などと思われてはいないだろうか。
何も向こうの両親と結婚する訳ではないのに、人様の御令嬢を手をつけた男には避けては通れぬ通過儀礼の自己プレゼンテーション。
もちろん気に入ってもらえれば万々歳なのであるが。
だが問題は、自分のどこが気に入られたか?である。
そもそも、カノジョの両親が会いたがった本当の目的を知っているか・・・?


白人の恋人がいる黒人の青年が、初めてカノジョの実家へ行くことになる。
娘のカレシが黒人であることなど意に介さず、快く迎えてくれた白人の一家。
しかし・・・何かがおかしい・・・ この家族は一体・・・・?
「パラノーマル・アクティビティ」シリーズのジェイソン・ブラムが製作を務め、アメリカの人気お笑いコンビ"キー&ピール"の一人、ジョーダン・ピールの映画監督デビュー作となる本作は、観る者の予想をはるかに裏切る衝撃のスリラーである。
この映画で我々は、おぞましい人種差別のイビツな有り様を目撃することになる。

ある夜のこと。 瀟洒な住宅街に迷い込んでしまった黒人青年アンドレ(キース・スタンフィールド)。
金持ちの白人ばかりが住んでるようなこんな場所で、誰かに因縁をつけられたら面倒なことになる・・・と思っていたら、後方から真っ白なスポーツカーが近づいてスピードを落とし、こちらの様子をうかがっている。
うっとうしいなあと思ったアンドレは方向転換して歩き出そうとするが・・・
フルフェイスのヘルメットをかぶった何者かにヘッドロックで落とされたアンドレは車のトランクに放りこまれどこかに連れ去られていく。
車のオーディオからはフラナガン&アレンの1939年のナンバー「ラン、ラビット、ラン」が流れている。
♪逃げろウサギちゃん、走れ走れ走れ♪
数ヵ月後・・・

写真家である黒人青年クリス・ワシントン(ダニエル・カルーヤ)には、ローズ(アリソン・ウィリアムズ)という付き合って4ヶ月になる白人の恋人がいる。
この日の彼は気が重かった。
今から車でローズの実家へ行くところである。
俺が黒人だってことを両親に話してない?
いや、そりゃまずいだろ。
ローズは「うちの親はそんなの気にしないわよ~」と言うが、まったくってことはないだろ。 会った時のリアクションを考えたらゾッとするよ。
「父はオバマ信者なの。 3期目があったら投票するっていうぐらいだもん」
オバマはオバマ。 俺は俺なの。
あ~嫌だなあ。 そりゃ両親には会っておいた方がいいけどもさ。
やっぱり「カレシは黒人です」くらいは事前に言っといて欲しかったなあ。
口でいくら繕っても、ちょいと顔見りゃ分かるんだよ、そういうのは。
(なんだ、娘のカレシはニガーかよ)って、絶対そういう顔するよ。
あ~気が重い。 ちょっと一本吸うか。 えっ?タバコ? そんなの簡単には辞めれないよ。
ハイハイ分かってますよ。 御両親の前では吸いません。
その時、道路を横切った一頭のシカが車に激突する。
一瞬の出来事だった。
シカはどうやら道路脇の草むらに弾き飛ばされてるようだ。

このまま走り去っても問題はないのかもしれないが・・・
様子を見に行くと、草むらに横たわってるシカはまだ息があった。
どのみち助かりはしないが、どうしても放っておいたままにはできなかった。
俺を見上げて何かを言いたそうなシカの目を見てると、昔の苦い記憶が甦ってくる。
母親もあんな目をしながら自分が死んでいくことを感じていたんだろうか?
とりあえず警察に連絡した。
やってきた白人警官は俺にしつこく身分証の提示を求める。
それに対してローズが「失礼でしょ!」とキレて食ってかかってる。
いいんだよ、こういうのは慣れっこさ。
ローズの剣幕にしぶしぶ警官は引き下がって帰って行った。
あとは管理団体がなんとかするらしい。
それにしても嫌な気分になってしまった・・・・
湖畔の森の外れにあるアーミテージ家は「離れ」が2軒もある大きな家だった。
そしてローズの両親は予想以上に温かく迎えてくれた。

お父さんのディーン・アーミテージ(ブラッドリー・ウィットフォード)は神経外科医。
お母さんのミッシー(キャサリン・キーナー)は精神科医だという。
なんともホスピタルな御夫婦じゃないか。
御両親ともに人種に対する偏見は感じられない。
むしろ、やけに好意的だ。
こんな白人家庭もあるんだな。 俺がちょっと神経質になりすぎてたのか。
ディーンは「オバマに3期目があれば投票するんだがな」と、娘と同じことを言う。
それはオバマの政治姿勢がどうとかじゃなくて、「黒人だから」投票するって意味に聞こえるのは俺の考えすぎかな?
まあ何にしても差別主義者じゃないってアピールは承りましたよ。
ここに来る途中でシカをはねてしまったアクシデントのことを話すと。
「かまわん。 シカは生態系を壊してるからな。 殺してくれて感謝するよ」
いや、殺したって言い方は・・・・。
それよりも俺がちょっと引っ掛かったのは、ここには二人の黒人の使用人がいることだった。
庭師の男と家政婦の女性だ。
これはもう典型的な奴隷制度時代の白人の家に見られた光景だ。
これはたまたまなのか?

「うちの祖父はね、昔、陸上の選手としてならしたんだよ」
ほぉ。
「オリンピックには出れなかったけど、あのジェシー・オーウェンスとも一緒に走ったことがあるんだよ」
ベルリンで4つの金を獲った黒人ランナーですね。
「もちろん全然歯が立たなかったけどね」
でしょうね。
「ヒトラーが見ている前でオーウェンスは凄い走りをして、あの差別主義者の鼻を明かした。 実に素晴らしい選手だ」
黒人の誇りでもあります。
「祖父によく思い出話を聞かされたもんだよ。 祖父もオーウェンスみたいなランナーになりたかったんだろうけど」
ふ~ん。
「君はうちにいる二人の使用人のことが気にかかってるんじゃないのかい?」
ばれてたか。
「二人にはね、祖父母が亡くなるまで介護を手伝ってもらってたんだよ」
はあ。
「祖父母が亡くなったからといって、解雇するのが忍びなくてね。 それでそのまま雇ってるのさ」
なるほど。

庭の管理仕事をしている男はウォルター(マーカス・ヘンダ―ソン)。
挨拶しておくか。
よぉブラザー、調子はどうだい。
すると、彼は一瞬変な顔をした。 俺、なんか変なこと言ったかな?
「どうも。ウォルターです」
なんだそりゃ。 調子が狂うな。
「こき使われてないかい?」 冗談のつもりで言ったが。
「アーミテージさんはいい方ですよ」
分かってるよ。

家政婦の女性はジョージナ(ベッティ・ガブリエル)。
やけにヘラヘラしてるが、目が笑っておらず、笑顔を無理やり貼り付けてるような女だ。
「アーミテージさんは私を家族として扱ってくれます」
そりゃ良かったな。
でもその言い回しは奴隷制度時代に黒人の使用人が言わされていたおなじみのフレーズだぜ。
それにしても、しょっちゅう鏡を見ながら前髪をいじってるが、なんなんだ?

明日は近所の人々を招いてのパーティーがあるらしい。
集まってくる人はみんな、ここのお祖父さんの世話になった人ばかりだという。
俺がなかなかタバコを辞めれないという話になり、それならばミッシーの催眠療法をうけてはどうかとディーンが勧める。
そうか、お母さんは精神科医だったな。
だけど催眠術なんてものはノーサンキューだ。 俺は丁重にお断りした。
御両親はいい人だが、ローズの弟のジェレミー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)の態度はよろしくない。
なんでも大学でスポーツとケンカに明け暮れてるらしい。 楽しそうな奴だ。
「黒人ってのはケンカ強いんだろ? 俺と勝負するか?」
するかアホ。

その夜、なかなか寝付けなかった俺は一服吸おうと外に出た。
すると向こうからウォルターが全力疾走してきた。
えっ?なになに? どうしたどうした?
奴は俺の前を横切ってビューンと走り去っていった。
何やってるんだ? この夜中に運動か?
ふと建物を見上げるとジョージナが部屋で鏡とにらめっこしている。
またやってるぞ、あの女・・・と思ったら振り向いてガンを飛ばされた。
なんなんだよ、もう。

さっさと家の中に戻って寝よう・・・と思ったら、今度はお母様と来たもんだよ。
呼び止められたからには付き合わなきゃしょうがない。
他愛のない会話で適当にやり過ごすつもりだったが、ミッシーがティーカップをスプーンでクルクルかき混ぜる動作がやたらにしつこい。・・・というのを気にしてたら、俺は見事に催眠術にかかってた。
やられました、お母様。 もうどうにでもなさって下さい。

俺は母のことを思い出していた。
母は女手ひとつで俺を育ててくれた。
その日も、働きに出ている母がいつもと同じように帰ってくると思っていた。
だが、いつまでたっても母は帰ってこない。
俺はテレビを観ながら時間をやり過ごしていたが、母がひき逃げで亡くなったということを随分後になってから知らされた。
母が亡くなったのだということ聞いても、俺にはどうすることもできなかった。
もし、いつもより帰りが遅れてることを気にして、俺が警察に電話するなり、何らかの行動を起こしていれば母は助かっていたかも知れない。
母はひき逃げに会った直後は即死ではなく、まだ息があったらしいのだ。
あの時こうしていればという仮定の話の結果に自信は持てないが、自分が何もしなかったという事実が俺を今も苦しめるのだ。
・・・と、気がつけばベッドの中だった。
あれ? 俺、確か催眠術をかけられて・・・はて?どうしたんだっけ?
なんにせよ、目覚めの一服だ。
???タバコがまずい。
ハッ!これはやっぱり・・・・
ローズにそのことを言うと、「ママったらしょうがないわねえ。 でもタバコを辞めれるんだったらいいじゃない」
それもそうだけども。

パーティーが始まった。
なんとまあ、これでもかというぐらい白人だらけだ。
居心地が悪いったらありゃしない。
次々と寄ってきては、見世物扱いだ。
「黒人のかたって、やっぱりアチラの方は強いんでしょ?ホホホ」
ホホホじゃねえよ。 気色わりぃな。
「タイガー・ウッズのファンなんだよ。 あのスイングは黒人ならではだ。 時代は黒人だよ」
おたくがそう思うんならそうなんでしょ。
盲目の画商は、「君の写真が好きなんだよ」と言う。
見えないのにかい?
どいつもこいつも「黒人いいネ!」の大合唱だな。 人の体をベタベタ触ったり。
どうしてそんなに黒人のことをほめたがるんだ?
なんでそんなに黒人をうらやましがるんだ?
目つきが好奇心丸出しだぞ。
人を品定めするみたいに・・・
マジで居心地が悪いので建物に入り、充電しておいたスマホを取りに2階に上がった。
・・・・アダプタが抜けている。 そんなはずはない。 誰がこんなことを。

ジョージナが清掃中に誤ってコードを抜いてしまっという。
そうか・・・。 なら、いいんだ。 別に怒っちゃいないよ。
招待客が白人ばっかりでこっちもイライラしちゃってね。
すると・・・
「NO~~」 え? 「NO~NO~NO~」
クスクスしながら、急に「ノー」を連呼し始めた。 あなた、何も分かってないのねと言いたそうに。
「No,No,No,No,No,No,No,No,No,No・・・・・」
ノーノー教の教祖か、おまえ。
よく見ると、彼女の目から涙が一筋・・・・・
引きつった笑いと噛み合っていない、その涙の意味は何なんだ?

おっ? 客の中に黒人がいるじゃないか。
息の詰まる思いをしてたから、これは気が楽だ。
よぉ、お仲間同士だな。 俺はクリスってんだ、よろしく。
俺はグータッチの挨拶をするために拳を突き出した。 やっぱ黒人の挨拶はこれだね。
だがこの男・・・ 俺が差し出したグーを手で握って握手しやがった。
どういうつもりだ、こいつ?
まあいいや。 そういう育ちのよろしい黒人もいるってことだろ。
名前をローガンという。
なんと、お隣のご婦人が奥さんなんだと。
マジか。 まあまあの歳の差があるように見えるが。
それにしても行儀のいい奴だ。 中流の白人の真似でもしてるつもりか?
俺は留守宅で愛犬の世話をしてくれている友人のロッドに電話を入れて、コトのあれこれを報告した。
ロッドはその黒人の写真を撮れないかと言ってきた。
何か思い当たることがあるのだろうか。
俺はさりげなくスマホをローガンに向けた。
おっと。 うっかりフラッシュをオフにしてなかったので、ピカッとなっちまった。 あっ、ごめん。まぶしかった?
すると・・・

フラッシュにビックリしたにしては度が過ぎるほどの呆けた顔になったかと思うと、ローガンの鼻から血が・・・。
え? え? え?
そして奴が俺に掴みかかってきた。
「出ていけー! 出て行くんだー!」
いや、そんなに怒らなくても。
どうしたんだ、おい。 頼むから落ちつけよ。
周りがローガンを引き離し、ミッシーが催眠療法か何かで落ち着かせたのだろうか、さっきとは打って変わって大人しくなったローガンは、謝罪して帰って行った。
なんでもいいが、もう俺はうんざりだ。
ここは変だ。 何かがおかしい。
ずっとここにいると、よくないこと起がきそうだ。
ローズに申し訳ないが、俺はもう帰りたいと漏らすと、ローズも承諾してくれた。
君を愛してはいるが、とにかくこの家から早く離れたい。

一方、外では招待客が集まってビンゴゲームが開かれていた 。
景品は・・“クリス”。

ビンゴが揃って、クリスを引き当てたのは、あの盲目の画商の老人だった。
自分が白人たちへの貢ぎ物であったことなど知る由もないクリス。
その後、クリスに一体どんな運命が待ち受けているのか。
その夜、クリスはローズの部屋のクローゼットから、決定的な“ある物”を発見してしまう。
一刻も早く逃げなければ。
しかし、そう気がついた時にはあとの祭りだった。

「GET OUT」というタイトルは、79年のホラー映画「悪魔の棲む家」にちなんだもので、エディ・マーフィーが「サタデー・ナイト・ライブ」でこの映画をネタにしているところから取られている。
「白人てのはバカだな。 “出て行け”って言うオバケの声がするのにそのまま住み続けるなんて。 黒人は迷信深いからすぐに出て行くぜ」


恐怖と笑いは紙一重と言うように、優れたホラー映画というのは、たとえばワンシーンだけを切り取って「これはコメディですよ」と説明してもそれが通るぐらいの、可笑しみのあるナンセンスな光景の集合体なのである。
怖い映画は同時に笑えるのだ。
この映画はさすがにお笑い芸人が考え付いたのもうなづけるほど、衝撃の真相はまさしく「そんなアホな」を地で行くトンデモネタであると同時に、その発想を人種差別のテーマと絡めてなおかつホラーに仕立て上げてあるという、そのアイデアが素晴らしい。
観終わったあとにもう一度観たくなること請け合い。
そこかしこに伏線が散りばめられてあり、いちいち説明されていない部分にも細かい理由が隠されている。
それらを自分の目で探すのも楽しみ方の一考。

人種差別といっても、ここで描かれているのは、偏見を歪んだ羨望と欲望に変えて、奪えるものは奪い、不要なものは排除するという、ゾッとするような“いいとこ取り”の支配絵図なのである。
黒人ってこうだろ? 白人ってこうだろ? 怪しき周囲の者たちだけでなく、災難に遭う主人公にも言える人種の偏見が、奇妙なねじれ方でもって逆転するとコントにも思えるほどおかしな世界となる。
そこに秘められた、まがまがしき人種侵略。
欲望というのは何をしですかやら分からない、悪魔の感情である。




それでは、ここから先は、クリスの親友でTSA(運輸保安局)に勤めるロッド(リルレル・ハウリー)と、飼い主の帰りを待つワンちゃんの会話による衝撃の「ネタばれ編」に突入する。

「ねえねえロッドさん。 僕の御主人さまが帰ってこないんだけど、何かあったのかな?」
「大丈夫だとも。 クリスは無事さ」
「無事って・・・。 やっぱり何かあったんだね。 教えてよロッドさん」
「それを言うとね、コンプライアンス的にまずいんだよな」
「そんな大げさな。 ロッドさん、しょっちゅう御主人さまと連絡を取り合ってたよね。 僕の聴力は人間の数倍はあるからね。 実はだいたいのことは把握してるよ」
「さすがはクリスの相棒だ」
「あの白人どもはイカレポンチもはなはだしいよね」
「狂ってるとしか言いようがないな」
「二人の黒人の使用人がいたよね。 彼らは何をされてたの? 催眠術で洗脳とかされてたの?」

「アーミテージ家にお祖父さんとお祖母さんがいたが、もう亡くなったとディーンは言ってただろ。 でも実はね、庭師のウォルターはお祖父さんで、家政婦のジョージナはお祖母さんなのだよ」
「はあ?」
「ここに出てくる白人は、とある秘密結社とつながっている。 彼らは永遠の命を手に入れるために、黒人の体を乗っ取ることを思いついたんだ」
「そんなことができるの?」
「代々医療業を営んできたアーミテージ家のお祖父さんはね、凝固法という脳移植を確立させるんだ。 そうして老いた白人は気に入った黒人をさらってきては自分の脳を若い黒人の体に移植して生き永らえてるのさ」
「自分が永遠に生きれるなら黒人になったってかまわないってことは、黒人を差別してるのとは意味が違うんだね。 いや、やっぱり差別か? ここに出てくる白人にとって黒人は、人格を追い出して体を容器として利用するための「モノ」でしかないんだね。 それにしても脳を移植するだなんて・・・」
「それがね、脳を丸ごと移植ってわけじゃないんだよ。 神経系の一部をつなぐだけなんだけどね」
「その手術をお祖父さんから受け継いだディーンさんがやってるんだね」

「ウォルターが夜中に全力疾走してたのも、ウォルターの中身がジェシー・オーウェンスに憧れてたお祖父さんだからだ」
「黒人の体を手に入れたから、はしゃいでたんだね」
「冒頭で拉致されるアンドレという青年は、ローガンと名乗ってたあの歳の差夫婦の青年だと気づいた人も多いだろう」
「黒人流の挨拶もできないし、白人っぽい喋り方をして会話が噛み合わないのも脳みそは白人の誰かさんだからだね」
「ウォルターもローガンも帽子をかぶってただろ。 手術跡があるからだ。 ジョージナが鏡を見て前髪を気にするのもそのためさ」
「ローガンがカメラのフラッシュを見て、突然取り乱すよね?」
「オリジナルの人間の脳は一部残っているからね。 心の奥底に本人の意識が閉じ込められていて、強い光を受けた時に脳が刺激されて意識が蘇るのだろうね」
「『出ていけ!』って言ったのはローガンの前の人格のアンドレで、クリスに早く逃げろと警告してたんだね」
「ジョージナが涙を流すのも、心の中から助けを求めてるサインだったんだろう」

「クリスの恋人のローズもグルだったなんて」
「クローゼットには彼女が付き合ってきた男とのツーショット写真が山のようにある。 相手は全員黒人だ。 しかも使用人のウォルターと恋人同士のように寄り添って写ってる写真や、アンドレ、さらにはジョージナと一緒に写ってるのもあったんだ」
「彼女が獲物を家に引っ張り込む役目だったのか」
「弟のジェレミーは力づくでターゲットを拉致するが、姉のローズは肌の色など気にしない、理解ある女性のフリをして若い黒人に近づいて恋人関係になって生け贄にするんだ」
「よくそんなことを何回も続けられるもんだよ」
「ローズにしてみれば ある程度の期間は恋人として楽しむ目的も兼ねてるんだろう。 クリスとは4ヶ月続いているし、父親がパーティー(クリスの品評会)を開くと言った時は嫌な顔をするしね」
「ひっつめ髪にして、白い服を着て牛乳を飲みながら、次の獲物をネットで物色するオネエサマのブキミさに僕チン思わず脱糞」
「ここでするんじゃないよ、おまえ。 なんにしてもクリスはよく無事で戻ってこられたよ」

「彼を救うのは皮肉にも昔の奴隷制度の象徴でもある“綿”だというところもうまい」
「思えばこのイカレ家族は色々と小細工をしてるよね」
「警官に職質されるシーンで、クリスに身分証の提示を求める警官にローズが食ってかかるだろ? 身分証を見せたら記録が残ってしまうからさ。」
「行方不明者の捜索で記録を検索されちゃうもんね」
「ミッシーがクリスにしつこくタバコを辞めさせようとするのは、もちろん健康な体のままでいてもらわないといけないからだ」
「大事な“商品”だもんね」
「ラストも皮肉だよ。 瀕死のローズは、パトカーが来たのでてっきり白人の警官の助けを利用できると思ったが、実は残念、パトカー(正確にはパトカーではない)から降りてきたのはこの俺様でしたというオチは、“白人と思ってたら中身は黒人でした”という、ローズたちがやってきた“黒人の中に白人”の所業と真逆のしっぺ返しなんだ」
「なるほど」
「その他にもいろんなセリフの中に、“今思えば・・・”っていう含みのあるものは一杯あるよ」
「シカが生態系を壊してるとかどうとか・・・」
「それはそうと君もどうだ? 昨今の猫ブームに乗って、自分の脳をどこかのネコちゃんに移植して、君は猫として暮らしていくっていうのは」
「僕はけっこう。 犬のままでいいです」
「いやあ、一回やってみようよ。 そしてフラッシュを当てたらネコが「ワン!」って吠えたら面白そうだし」
「ロッドさん」 「なに?」 「噛むよ」 「すまん」

「自分にない物を持ってる相手の肉体を手に入れてみませんか? わたくし、ディーン・アーミテージがお手伝いします。 料金は相談に応じます」
「でも私たち、死んじゃったけどね~、ホホホ」
「そうだったね。 どなたか肉体を提供して下さらないでしょうか? あなたの体に私の脳を。 あなたの脳はゲット・アウト」
「賢人のお言葉」


ジョセフ・ジュベール
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