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ドリーム
2017年11月11日

T0021729p.jpg未来を切り開く新しい技術を開発する。 街を活性化させる施設を作る。 人々に夢を与える芸術を生み出す。
偉大なるひとつのプロジェクトが成し遂げられるのは、携わった人々が汗水を流した"チーム"という結晶の成果であるのは言うまでもない。

しかし、チームを成している小さな力である"地上の星"の名や、仕事ぶりが世に伝えられることはあまりない。
それがチームの功績としてくくられることゆえに致し方ないことなのだが、大きなプロジェクトの中で誰がどんな仕事をしたかを知るのは、後世に続くプロの卵のための夢の原動力になるのではないだろうか。



【入院回顧雑話(フィクション)PART1】
アッシは耳の病気で入院することになった。
入院2日目に手術が行われ、無事に済み、あとは経過次第であるが、早くも入院4日目にして映画中毒に襲われ、禁断症状が出始めていた。・・・・


「う~っ、苦しい・・・エイガぁ~、エイガぁ~・・・う~ん、エイガぁ~・・・。 いかん、ナースコールだ。 ポチッとな」
PINPO~N
そこへ看護師さんがダッシュで病室に駆け込んできた。

「どうかされましたか?」
「あっ、看護師さん。 今日もナチュラルメイクがキマってますね」
「そんなことを言うために呼んだんですか?」
「実はお願いがあるんですよ」
「なんでしょう?」
「映画を観に行きたいんですよ。 映画館に行ってきていいでしょうか?」
「ハイいいですよって私が言うと思います?」
「思いますけど」 「思うなよ。ダメに決まってるでしょ」
「え~。そんな石屋の小僧みたいな固いこと言わずにさあ」
「私は石屋の小僧じゃありませんよ」
「ちょっとぐらいいいじゃないですか。 行って30分、映画が2時間、帰るのに30分。計3時間。 それぐらいいいでしょ?ねっ」

実際そうなのである。
朝の診察のあと、10時から約1時間の点滴が終われば、次の19時の点滴まではほとんど何もすることがないのである。
そんな時間があるにもかかわらず、映画鑑賞の自由を召し上げられるというのは麻酔なしの手術よりも辛い。


「3時間だろうと3秒だろうとダメなものはダメなの。 それにしても本当に映画が好きなんですね」
「そう。映画が観れないのなら、せめて美人の看護師さんでも拝みたいけど、この病院には一人もいないようだ」
「そのケンカ、買いましょうか?」 「冗談ですよ」
「最近おもしろい映画ありました?」
「うん。 『ドリーム』っていう映画ですけどね」
「まあ、ベタなタイトル」
「ですよね。 でも“ドリームなんとか”や“なんとかドリーム”っていう映画はたくさんありますけど、案外に『ドリーム』そのままはほとんどないんですよ。 何年か前のインド映画に一本あるかな」
「で?その『ドリーム』って、どんな話?」
「60年代にアメリカとソ連の宇宙開発競争が激化していた頃、NASAで働いていた黒人女性の実話なんですよ」


1957年10月。 ソ連が人類初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功した。
これはアメリカにとっては鼻から牛乳を吹くほどのショックな一大事だった。
 
時は米ソ冷戦真っ只中。 核ミサイル開発に突っ走るソ連は大陸間弾道弾(ICBM)の実験も極秘裏に進めていた。
でかいだけでボンビーな国にそんな技術があるもんかとタカをくくっていたアメリカは「さ~て、どちらが先に人工衛星を打ち上げるでしょうか?」という競争に敗れてしまう。

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ソ連人が作った物体がアメリカの空を自由に飛んでいる・・・
アメリカ人は夜も眠れなかった。
しかもその1ヶ月後。 ソ連はライカ犬を乗せたスプートニク2号を打ち上げ、人類が宇宙に行けることを証明する。 いやそれよりも・・・
スプートニク2号の全重量が500キロ超。 これはソ連が水爆を搭載したロケットをアメリカにいつでも撃ち込めますよということを意味していた。 アメリカ人はチビった。

これはいかんとアセったアメリカだが、エクスプローラー1号というスプートニクに比べればオモチャのような人工衛星を打ち上げるのが精一杯だった。
それを経て1958年10月に発足したのが「NASA(アメリカ航空宇宙局)」である。 それと共に有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」が本格的に始動。

しかし・・・・
1961年4月。 ソ連が有人宇宙船ボストーク1号を打ち上げた。
地球をグルッと一周した飛行士ガガーリンは「地球は青かった」と言い、アメリカ人の顔は真っ青になった。


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「そこからいよいよNASAが巻き返すわけね」
「NASAの有人宇宙飛行計画『マーキュリー計画』には、弾道飛行するレッドストーン・ロケットと地球周回飛行するアトラス・ロケットの2つが計画されていました」
「ポーンと遠くへ飛ばすだけのやつと、地球の周りを回るやつね」
「航空宇宙工学というのは、やっぱり高度な計算が必要になりますけど、現代じゃコンピューターが計算すればいいのですが、この時代はまだそこまでは行っていませんでした」
「なるほど」
「映画の後半にIBMのコンピューターが導入されるシーンがありますが、それまでは大勢の人間が総がかりで計算をやってました。 それでも人員不足なのは否めず、教職に就くほど頭脳明晰であれば、黒人女性も積極的に採用したんですね」
「女性ばっかり?」
「女性の方が計算能力が高いんですよ」 「ええそうでしょ、そうでしょ。分かってるじゃないの」
「計算なんて女にやらせときゃいいんだっていう、要するにバカにされてた面もあります。」 「けしからんわね!」
「そんなわけですから黒人の女なんですよ。 でも彼女たちだからこそ、凄いことを成し遂げちゃったんですけどね」

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キャサリン・ゴーブル・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)
「世の中には本当に天才という人がいるもんでね。 この人は数学の才能が凄かったんですよ」
「そんなに?」
「なんせ10歳で高校に入りましたからね。 幼い頃から二次方程式や因数分解を理解していたぐらいです」
「グレートだわ」
「大学院から教職を経てNASAのラングレー研究所に雇われることになります。 この時すでに旦那さんとは死別しており、お子さんが2人います」

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ドロシー・ヴォーン(オクタヴィア・スペンサー)
「おむすびに目と口を書いたような人だわ」
「怒られますよ、あなた。 上手い女優さんなんですよ。 このドロシー・ヴォーンも数学はもちろんなんですが、マネジメント力をあらゆる所で発揮します」
「ほほぉ」
「先の先を見据える感覚が優れてるおり、様々な事柄に備えるためには難しいことでも学ぶことをいとわない御方です」

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メアリー・ジャクソン(ジャネール・モネイ)
「この方は工学志向でエンジニアになることを夢見ています」
「頭のいい人ばっかり出てくるのね」
「ロケットが大気圏に再突入する際に、空気が圧縮されるために火に包まれるでしょ?」
「ボーボー燃えてるわよね」
「あの時、中のパイロットが死んでしまわないように機体の外に遮熱版ってのがたくさん取り付けられてるんです」
「へ~」
「でも当時はね、その遮熱版が実験段階でどうしても外れてしまう問題があって、なかなかロケット開発が進まなかったんですよ」
「そういうことか」
「でもその問題を解決してしまうのが、この女性なんです」
「すごいじゃないの」

「この3人の女性がNASAで働いて、有人宇宙飛行計画の成功に大いに貢献する話なんですが、一筋縄ではいかない試練が待っています」
「あ~、この時代のアメリカだもんね。 やっぱり人種差別でしょ」
「その通り。 そんな理不尽な仕打ちを乗り越えて、彼女たちが素晴らしい仕事を成し遂げるんですが、それと同時にこの映画は、いかに差別というものが国営を損なうバカらしいものかということも描いています」
「今またアメリカは逆行してるけどね」

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「冒頭、キャサリンの子供時代のフラッシュバックのあとに、キャサリン、ドロシー、メアリーの3人が車に相乗りでNASAに出勤しようとするんですが、エンスト中にパトカーの白人警官に職質されます」
「イヤな予感だわ」
「そう思うでしょ。 でも警官はね、彼女たちがNASAの人間だと知って、『俺にまかせろ』ってな具合に、職場までパトカーで先導してくれるんですよ」
「あら、優しい」
「それぐらいアメリカ人はソ連にビビってたっていう描写です。 NASAだけが頼りですからね」
「職場でも白人が優しくしてくれればいいけど、そうはいかないのね?」
「そうなんです。 NASAに配属された黒人女性の計算手は30名ほどいるんですが、彼女らは別の場所で働かされるんです」
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「その時代はバスの席とか、役所の窓口とか、公衆トイレも「WHITE(白人用)」・「COLORED(有色人種用)」に分けられていたもんね」
「ラングレー研究所の宇宙特別研究本部が本来の仕事場なんですが、黒人女性の計算手たちは本部から800メートル離れた“西計算グループ”の建物の中で仕事をしなければなりません」
「まあ、要らない気を遣わなくて済むけどね」
「本部の建物は小ざっぱりしたオフィスビルなんですが、西計算グループは外壁がレンガ造りの図書館っぽい建物です。 ボロくて劣悪な環境だというわけではないんですが」
「邪魔されずに仕事に集中できるんなら良しとしましょう」
「ドロシーが計算手のみんなを引っ張っていくリーダー格になるんですが、かといって管理職の立場でもありません。 そこでドロシーは上司のヴィヴィアン・ミッチェル(キルスティン・ダンスト)に管理職への昇進を申し出るのですが却下です」
「なんで?」 「知りませんよ。 『黒人グループに管理職は置きません。 仕事があるだけ感謝しなさい』でバッサリ」
「キルスティン・ダンストの憎まれ役ってのも珍しいわね」

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「一方、エンジニア志望のメアリーは技術部に転属。 遮熱板の風洞実験を間近に見て、遮熱版を留めるコネクターに欠陥があることを見抜くのです。 それで同僚のゼリンスキーから技術養成プログラムを受講できる学校へ行くことを勧められるのです」
「今さら学校に?」
「NASAで正式にエンジニアとして働くには大学課程を修了していないとダメなんです。 その高校でプログラムを受けているだけでもOKなんですが、その高校は白人専用なんです」
「またそれかよ」
「国の法律としては『差別をしてはいけない』ということが決まっても、多くの州が『州法では認めない』と言うので、実質難しいんです」
「悲しいお国だこと」
「ですからメアリーは『私は黒人女だから叶わない夢は見ない』と言ってあきらめるんですね」
「ダメよ。 そんな差別に屈してはいけないわ」
「彼女のことはのちほど。 さて、3人の中で最もストーリーの中核を担っているのはキャサリンです。 特別研究本部から解析幾何学に精通した人材が西計算グループにいないかという要請を受けてドロシーがキャサリンを推薦したことから、彼女は白人だらけの本部で働くことになります」
「前途多難が見えてくるようだわ」
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「まず服装。 これは白人女性もそうなんですが、スカートはひざ下。靴はパンプス。 そして真珠のネックレスを着用すること」
「そんなことを強要されんの?」
「よく分かりませんがね。 キャサリンには真珠なんて買うお金はありませんので、ビーズで間に合わせるしかありません」
「そんなことに金を捨てなくたっていいわよ」
「それでこの本部。 もちろん男ばっかりです。 キャサリンが入ってくるなり、『ああ、そこのゴミを捨てといて』とか言って、てっきり清掃婦だと思ってる。 それでも彼女は完無視して席に座るとみんながビックリしてるっていうそんなムード」
「まあ予想通りというか、無理もないというか。 嘆かわしいにもほどがあるわ」
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「仕事もね、本来のレッドストーン・ロケットやアトラス・ロケットの軌道計算も男たちがやってしまって、キャサリンには提出された計算データを検算する役目を与えられます」
「間違いないかをチェックするのね」
「しかし、書類が所どころマーカーで塗りつぶされてたりするんですよ。 これじゃ仕事になりませんわな」
「なんで塗りつぶされてんの? 検算しろったってできないじゃん」
「全部見られたら、(こいつ、スパイするんじゃねえか?)って思われてんでしょうね」
「アホらしいて、なんも言えんわ」
「でも、キャサリンさん。 塗りつぶされたマーカーが薄いもんだから、明かりにかざして問題解決。 しかも自分なりの軌道計算を付け加えたりする」
「いいじゃないの」
「ポール・スタフォードという直属の上司がイケ好かないやつでして、『おまえ、余計なことすんじゃねえ』みたいな態度ですからまともに仕事させてくれません」
「ちっちぇえ男だわね」
「看護師さん、それはそうと仕事の方はいいんですか?」
「え?ああ、いいのいいの。続けて続けて」
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「でもこのキャサリンさん、骨のある人ですからちょっとやそっとのことでへこたれません。 元々計算能力はずば抜けてましたし、おもむろに黒板に上がって「フレネ標高」によるレッドストーンの軌道計算をスラスラ~ッとやっちゃうんです、周りが『こいつスゲェな』ってなります」
「先生、質問です」 「なんでしょ?」
「今言った“フレネヒョーコー”って何ですか?」
「フレネ標高とはですね。 3次元空間の曲線を解析する公式の一つです。 接ベクトルと法線ベクトルを基底のベクトルとして扱い・・」
「もういいです」
「でしょうね」
「だいたい分かりました」
「ウソつけよ。 アッシだってわかってねえんだから」

無題
「もちろん人種など気にしない、ちゃんとした人はいます。 キャサリンの能力をいち早く認めるのが研究所を統括する本部長のアル・ハリソン(ケビン・コスナー)。 この人は国の威信を背負っている責任者ですから必死なところもあるんでしょうが、肌の色や性別で人を差別したりしません。 このオフィスにいる以上は、みんな仲間であり、貴重な戦力だという気持ちで部下に接する人です」
「黒人女性の味方よね。 『ボディガード』を思い出すわ。 ♪エンダァァァァァ♪」
「歌わんでよろしいよ。 キャサリンはハリソン部長から認められて軌道計算のレポートを任せられますが、そう簡単に環境は変わりません」
「そのほかの男は心の狭い奴ばっかりだもんね」
「オフィスにコーヒーポットがあるんですけど、仕事の合間の息抜きに誰が飲んだってOKのはずです。 それをキャサリンがカップに注いで飲むんですがね。 でも翌日には2つのポットが置いてあって、「白人専用」・「非白人用」のラベルが貼ってあるんです」
「なんなの、その差別根性。 ヘドが出るわ。 ハリソン部長は気がつかないの?」
「ガラス張りの別室とは言っても、ワンフロアほど高床になってて死角になるんですよ」
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「あとはやっぱりトイレですね。 本部のトイレは使わせてもらえないんです。 ですからキャサリンは催した時は800メートル離れた西計算グループの建物のトイレまで駆け込まねばなりません。 雨の日でも、ずぶ濡れになってでもトイレに15分かけて行かねばならないキャサリンの姿は見ていてかわいそうと言うよりは、本当に差別とはバカげた愚行だと思いますね」
「こんなことだからソ連に勝てないのよ。 そんなことも分からないのかしら、アメリカ白人どもは。 こいつは黒人だから、こいつは女だからと、さもしい神経で人を見下すような奴に国を守れる力なんてありゃせんわ。 元々ソ連人に対しても「あいつらなんかどうせ・・」って見くびってたから宇宙開発競争におくれを取ったんでしょうが。 そりゃソ連みたいな共産国家は国で一丸となったら驚異的に強いわよ。 それなのに、才能を埋もれさせてでも人種排斥に躍起になって、最初からチームがバラバラになってるようじゃダメよ。 差別は国力を低下させるのよ。 差別こそがアメリカの弱点ね。 そこを肝に銘じなさい。  はい御清聴どうも」
「ご苦労様でした。 キャサリンのトイレ事情も気がつかなかったハリソン本部長ですが、彼女に責任の重い仕事を任せたこともあって、ようやく気がつくんですね」
「お願いします、本部長」
「キャサリンがたびたびオフィスを離れ、なかなか帰ってこないことに気づいたハリソン本部長は『君は一体どこで何をやってるんだ!』と叱責するんです」
「あらぁ~」
「するとキャサリンは堪忍袋の緒がチョンですよ。 真珠のネックレスのこととか、コーヒーポットのこととか、トイレのこととかをブチ切れた彼女は一気にまくし立てるんです」
「おー言うたれ言うたれ」
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「すると本部長は、コーヒーポットに貼ってある白人用だの非白人用だのというラベルをベリーッとはがし、西計算グループの建物にある女子トイレの『COLORED』の札をバールで叩き壊して、こう言い放つ」

『NASAでは小便の色はみな同じだー!』

「カッコいい!」 
「名言ですねえ」
「♪エンダァァァァァ♪」 「いや歌わなくていいから」
「トイレの問題が解決してよかったわ」
「さて、レッドストーン・ロケットの弾道飛行実験は成功したものの、次のアトラス・ロケットの地球周回飛行となると、楕円軌道から放物線軌道へと移る際の軌道計算が異常に難しい。 いくら計算しても気象条件やロケットの構造変更など、会議をするたびにデータがいちいち更新されるので計算が追いつかないのですね」
「大変ね~」
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「これではラチがあかないと、キャサリンは自分も一緒に会議に出席させてほしいと本部長に頼み、女性そのものが出席することさえ有り得なかった会議の場に入ることになるのです」
「誇りに思うわね」
「スタフォード部長からは『君は発言すんなよ』と釘を刺されますがね」
「このマーカー男だけはムカつくわねえ」
「会議のやりとりを聞いただけで答えの見えたキャサリンは居ても立ってもいられず、話に割って入り、ボードにアトラスの軌道を計算し始め、着水地点の緯度と経度をズバリと特定するんです」
『バハマ沖です』
「胸がすくわぁ」
007 Glen Powell as John Glenn
「男たちは唖然とする者や「ほんとかよ~」みたいなリアクションなど様々。 この一連の様子をニコニコしながら見ていたのが同席していた飛行士のジョン・グレン(グレン・パウエル)です。 映画ではえらく若く描かれていますが、当時40歳のジョン・グレンももちろん差別感情などこれっぽっちもありません」
「偉業を成す人はそんなちっぽけな人間じゃないってことよ」
「『いいねえ、君おもしろいねえ』とキャサリンを絶賛するグレンは、彼女の計算力よりも、差別社会に憶せずに前に出て、自分のやるべきことを全うする勇気ある姿に、命をかけた宇宙飛行に挑む自分と重ね合わせて、勇気を与えられたのでしょう」
「英雄は英雄を知るのよ。 三国志の曹操の言葉よ」
「これを機にキャサリンはジョン・グレンから全幅の信頼を得るのです」
「そう言えばジョン・グレンは昨年亡くなったわね」 「残念ですねえ」

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「とは言っても、キャサリンでさえ計算が追いつかない状況をNASAがそのままにするわけではありません。 ラングレー研究所に遂にIBMのコンピューターがやってくるんですけど、これが部屋のドアから入らないことがその時になって分かって、仕方なく壁を壊すというのがなんともトホホですね」
「こういう所よ。 当時の男のバカさ加減って言うのかしら。 見られて困る書類の要所を塗りつぶすのに、明かりにかざしたら透けて見えるような薄いマーカーを使ったりするのもそうだし、“冷蔵庫買った時の失敗アルアル”みたいな、コンピューターが部屋に入らない凡ミスなんかね、国家プロジェクトに携わる人間には思えないわ」
「しかもどうやって起動させるか男どもは四苦八苦」
「情けないわねえ」
「そこをたまたま部屋に入ったドロシー・ヴォーンがチョチョイとやってしまう。 機械に向かって『いい子ねえ』とか言いながら」
「キャサリンも凄いけど、この人も凄いわ」
「ちゃんと努力してるんです。 コンピューターが導入されることを聞いていたから、人間の計算手が不要になる時が来ることを見越して、図書館でプログラミングの勉強をしてたんです。 まあ本は「非白人用」の棚にはなくて「白人用」の棚から借りなきゃいけないんですが」
「つくづくイヤな世の中ね」
「図書館で人から白い目で見られて警備員につまみ出されても彼女は本をちゃっかり失敬しますが」
「かまうことはないわ。 どうせ白人のオツムにはプログラムの本なんて解りっこないわよ。 あっ、こんなこと言っちゃ逆にまずいわね」
「コンピューターを動かしたドロシーの腕が見込まれ、西計算グループの女性たち全員にプログラム作業の仕事が任されることになります。 やがてドロシーは管理責任者に昇格。 その辞令を届けに来たのは・・・」

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「さて、エンジニアをあきらめていたメアリーさんですが、彼女を応援する同僚のゼリンスキーの、自身もポーランド出身で迫害受けてきたユダヤの家系ながら必死で夢を追いかけてきたのだという言葉が次第に彼女を突き動かします」
「そうこなくっちゃ」
「プログラム取得のために白人専用の高校に入学できるように裁判所に請願するのです」
「そうよ。とにかくまずは行動。 結果がなんであろうと」
「裁判官は言います。 『前例がない』と」
「そんなのは言い訳よ。 考えるのが面倒なのよ。 「昔から決まってることだから」とか「それまで誰も何も言わなかったから」と、それ以上の思考を放棄してるのよ。 法の番人のくせに見損なっちゃうわね」
「メアリーは言います」
『あなたが今日、処理する案件の中で100年後も意義あるものは? あなたが前例になれば?』
「名言だわっ!」
「裁判官はにっこり微笑んで、『私は歴史に名を残すことをまだ為し得ていないが・・・』と、メアリーの訴えを認めるのです」
「さすが法の番人。 見直したわ!」 「どっちなんだよ」

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「1962年2月2日。 ジョン・グレンがアメリカ初の地球周回飛行に挑みます。 しかし、この時すでにキャサリンはこのプロジェクトから外れています」
「何かあったの?」
「先ほど言ったように、コンピューターが導入されたことから、人の手による計算が不要になったのです。 ドロシーの予見した事態になり、役目が終わったキャサリンは職務を離れ、自宅のテレビでアトラス・ロケットの打ち上げを見守っていました。 そこへ一本の電話がかかってきます。 ハリソン本部長からです」
「どうかしたのかしら?」
「発射時刻が迫っている時に、コンピューターが計算した数値が間違っていることが発覚するのです」
「そんなことってあるの?」
「この頃のコンピューターの性能はファミコン以下ですからね。 計算が早くても誤差が生じることがままあるのです」
「そこでキャサリンに?」
「そうです。 ジョン・グレンが指名するのです。 彼女でなければダメだと。 キャサリンにもう一度計算してくれと。 発射時刻が刻々と迫る中、キャサリンは研究所へと急ぐのです」
「ドラマチックな展開だわ」
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「モニターが並ぶコントロールルームからキャサリンがジョン・グレンに向かって自分が計算した数値を伝えたあと、ここは自分がいてはいけない場所と察して部屋を出ると、ハリソン部長が引きとめます。 『君も立ち会え』
「♪エンダァァァァァ~♪」
「だからエンダーはいいから」
「感動せずにはいられないわ」
「周回飛行の成功は史実ですから、それはそれとして、すべて無事に終わったあと、ハリソンがキャサリンにたずねます」

『我々は月に行けるかな?』
『もう行ってます』

「♪エンダァァ~ イアァ~ ウィロ~ウェイラァァ~ブユゥゥゥ♪」
盛り上がったアッシと看護師さんは、この映画には全く関係のないホイットニー・ヒューストンの「I Will Always Love You」を大合唱した。
ふと気がつくと、病室の入り口で担当の先生が鬼のような顔で仁王立ちしていた。
ジョン・グレンは宇宙から帰還したが、アッシはまだまだ入院生活から帰れそうにないらしい・・・・・
{PART2に続く}


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この映画のストーリーは、細かい所で何ヶ所かは史実と違うところもある。
ケビン・コスナーが演じたアル・ハリソンやキルスティン・ダンストのヴィヴィアン・ミッチェルも架空の人物だし、3人のヒロインたちの境遇も映画で描かれるほどの極端な差別を受けていたわけでもない。
だがその時代の風潮はもちろん、NASAで計算手として従事していた女性への扱いに対するイメージの全体的な描写としては間違ってはいない。

この映画の邦題には『私たちのアポロ計画』というサブタイトルが付けられていた。
「マーキュリー計画を扱っているのに、アポロ計画はおかしいのではないか」という批判が多数寄せられたことで、サブタイトルが削られて『ドリーム』だけのタイトルになったと聞く。
そんな炎上騒ぎはどうでもいいのだが、この映画を観るにつけ、キャサリン・ゴーブル・ジョンソンをはじめとした計算手がいなければアポロ11号の月面着陸さえ実現しなかったのではないだろうか。
それほどまでに彼女たちの功績は大きい。

大きなプロジェクトを成し得るのは一人ひとりが力を合わせた“チーム”という大きな力の賜物である。
その中の「誰が」と、量や内容についての差を語られるべきではないというのは承知していても、彼女たちの勇気ある行動は宇宙計画を成功に導いただけでなく、アメリカの国の未来に大きな波紋を投げかけたと言っても過言ではない。
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理不尽な差別環境にさらされれば仕事を投げ出しても不思議ではない。 誰からも文句は言われない。
それでも国のために尽力し、なおかつ人種差別という人の心にも愚直に立ち向かっていった。
与えられた才能が人の心にも響き、社会を変えれる可能性を信じていたのだ。

こういう人たちをことさらに美談でまつり上げろとは言わないが、国のために力を振り絞った“地上の星”を、歴史の本の袋閉じにしてはいけない。
原題は『Hidden Figures』(隠された人々)。
名もなき勇者を世に伝え、後世の糧にすることが健全な国を育てていくのだ。
いまだに白人至上主義を叫んでいる輩は幼稚園からやりなおせ。
「差別は国のためならず」だ。

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タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサーともに実力派の力量をいかんなく発揮し、「ムーンライト」で女優としてもハイ・ポテンシャルを感じさせたシンガーのジャネール・モネイはここでも優れたパフォーマンスを見せつけている。

便宜上、記事から省略したキャサリンの再婚相手であるジョンソン中佐(マハーシャラ・アリ)との交流のシークエンスも温かい印象を残す。
子供たちの前でプロポーズするシーンは涙腺が♪エンダァァ~する。
しかもプレゼントは真珠のネックレス!
ジョンソンを演じたマハーシャラ・アリは「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」でもタラジ・P・ヘンソンと夫婦役を演じている。

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ドロシー・ヴォーンもメアリー・ジャクソンも残念ながら故人であるが、98歳のキャサリン・G・ジョンソンが第89回アカデミー賞授賞式に登場。
「ドリーム」のヒロインたちタラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイが「長編ドキュメンタリー賞」のプレゼンターとしてステージに上がり、発表に先立ち、「アメリカの英雄です」と紹介されて現れたキャサリン・G・ジョンソンに会場総立ち、万雷の拍手。

寄り添ってマイクを持ってるのは娘さんだろうか?
一言いただきました。
「Thank you berry match」


「賢人のお言葉」
「自分というものを持って、固く自立している人には、宇宙もまたその味方をして立つ」
 ラルフ・ワルド・エマーソン
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