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彼女の人生は間違いじゃない
2017年07月31日

T0022020p.jpg人の人生が突如一変する。
いい方向へならいいが、一変というのは大概は悪い方へと変わったことを指す。

先の震災しかり、最近の九州の豪雨もしかり。
ニュースでは、人生が一変して途方に暮れる人々が映っている。
明日も明後日もずっと変わらないはずだった人生を失った人々は、この先、どうやって気持ちの整理を付け、明日を信じて一歩を踏み出すのだろうか。


最近では「PとJK」や「オオカミ少女と黒王子」などの少女漫画原作の青春映画も手掛ける廣木隆一監督は、この道30年以上のベテランで作風も幅広い。

かつて「RIVER」で秋葉原の通り魔事件で人生が変わった少女を描いた廣木監督は福島県出身でもあることからか、「さよなら歌舞伎町」では主人公の妹が東北の震災で実家の工場がつぶれてAV女優になるエピソードを描いていた。

華々しい恋の青春もあれば、否応なしに人生の激変を迫られた人のドラマも撮る廣木隆一監督の最新作は、福島の仮設住宅に暮らすある女性の物語である。


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早朝の福島県、いわき駅。
東京行きの高速バスに乗り込んだ金沢みゆき(瀧内公美)。
これが彼女のいつもの週末。

いわき市の仮設住宅で父親と暮らすみゆきは普段は市役所に勤めている。
週末になると高速バスで東京へ行くその目的は、誰にも言っていないアルバイトがあるからだ。

渋谷のとあるマンションの一室の事務所に顔を出す。
「おはようございまーす」 「おはよう、YUKIちゃん」
"YUKI"がここでの彼女の名前。
みゆきの東京での仕事はデリヘル嬢。 やり始めてもうすぐ2年になろうとしている彼女のもう一つの顔。

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三浦秀明(高良健吾)はデリヘル嬢を客の待つホテルまで送り迎えし、トラブルの際の用心棒まで兼ねている。
車で東京の街を走らせながら、三浦は後部座席のみゆきに聞く。
「もう何年だっけ?」 「来月でちょうど2年」

2年ならば卒業にいい頃合いであろうと思うが。
そういえばスカウトしたのがこの自分だっけと思い出し、この仕事にすっかり小慣れた面も出てきたみゆきを見ながら、三浦自身もこの仕事に対してそろそろという気持ちを抱いている。
もうすぐ彼にひとつの転機が訪れようとしているからだ。

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福島の仮設住宅に帰り、また月曜からは市役所員のみゆきにもどる。
父親の(光石研)には東京の英会話教室に通っていると言ってある。

は原発事故の影響で農業の仕事を失った。
震災からもう5年も経つが、何の仕事もせずにゴロゴロしており、補償金をパチンコ屋につぎ込んでいる。
「補償金を食い潰してこの先どうすんの? なんかしたら?」
「うちは農家だ。 他の仕事なんかできるか」

母親は津波に流されたまま未だに見つかっていない。
あの時から父親の心は前を見なくなった。
母は秋田の人で、仙台の祭りに遊びに来ていて、とは牛タン屋で知り合ったらしい。
そんな思い出話ばかりして過去にしがみつく父親にどうしてもみゆきはイラついてしまう。


がパチンコ屋に行けば、自分と同じような身の上らしき男がたむろしている。
その中の一人、五十嵐(波岡一喜)はトマト農家がダメになり、今は霊感商法にハマり、に胡散臭い壺を売りつけようとする。
はウンザリする。 五十嵐にではない。 自分にだ。
あの男はあの男なりに前に進んだのだ。 おかしな方向ではあるが、後ろばかり見ていて立ち止まったままの自分とは違う。

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みゆきの勤める市役所で、広報課に所属する新田勇人(柄本時生)。
家は流されずに済んだが、父親の経営する工場は無くなった。
母親は祖母と共に新興宗教にハマって家を出ていってしまい、彼は歳の離れた弟の面倒を一人で見ている。

弟の食事の世話になっているスナックに顔を出せば、東京からアルバイトに来ている女子大生を紹介された。
震災の時の話が聴きたいという。 「卒論のテーマに・・」
卒論の・・・・・
別に誰かに話を聞いてもらって同情されたり、励ましてほしいなどとは思ってはいないが・・・。
己の不幸が卒論のネタに利用されることに引っかかりながら、それでも何か話をと思う新田だが言葉に詰まってしまう。
新田は自分が広報という仕事に就いていることを今日ほど恨めしく思ったことはなかった。

悪酔いして道端で吐いている新田の足元に、風で飛ばされてきた何かのチラシが目に入る。
そこに記された「がんばろう福島」の文字を見て、新田は虚しい気持ちで「がんばってるよ・・・」とつぶやくのだった。


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みゆきは元カレの山本健太(篠原篤)から連絡をもらい久々に再会した。
もう一度やり直せないかと山本は言う。

震災の直後に会った時に、山本「お母さんが亡くなったのに俺たちデートしてていいのかな」と言った一言にみゆきは距離を感じて二人は別れたのだ。
そうではないとみゆきは思う。
なぜ支えてくれなかったのだ。 なぜ守ってくれるような言葉をくれなかったのだ。
二人で会っていることの方が大事ではなかったのかと。

あの一言を謝りながらやり直したいと訴える山本に、みゆき「考えとく」と言って逃げるように去る。

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父親の情けない姿も、山本のしおれた姿もみゆきには見たくない現実だった。
なぜこんなことになったのかと思っても仕方がない。
それでも、逃げたかった。

二百数十キロ先の災害など遠い場所の遠い過去の出来事かのように、普通の日常が続いている東京に行けば現実を忘れられる。
福島にいる時の公務員とは違う自分になって、誰からも哀れみを受けず、逆にどこかの見知らぬ誰かを喜ばせる風俗の仕事は、むしろみゆきには生きている実感でもあった。
しかも、東京には自分をフラットな目で見てくれて、いざという時には自分を守ってくれる人がいる。 仕事とはいえ。

だが三浦はもうそろそろこの仕事が潮時であることを匂わせている。
もうすぐ子供が生まれるのだ。
劇団で役者もしている三浦はどうやら近々別の道を歩み出すのであろう。
「おめでとうございます」 みゆき三浦にとっての人生の激変を祝う。
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2年前に逃げるように東京に出てきて三浦と出会った面接の時に、風俗の仕事への覚悟を見せたことを思い出す。
「無理しなくていいよ」と言う三浦に、みゆきは無理などしていない強い自分を見てほしかった。 無理をしていたのだが。

「やるからには何かあったら俺が守ってやる」と言う三浦みゆきはムキになった。
「どうしてそんな簡単に守ってやるなんて言えるんですか!」
三浦「自惚れんな」と言った。
「あんただけ特別じゃない」

心の底では悲劇のヒロインとして誰かに情けをかけられたかったのかも知れないし、またもう一人の隠れた自分は震災など屁でもなく、男とデートもするし抱かれたりもするぐらい強くありたかったのか。
強くしていようと弱々しくしていようと、どっちにしろ、どう生きていけば自分に正直になれるかが分からなかった。
母も家も失った自分が、風俗嬢として堕ちた姿を人から哀れんでほしいのか、強く生きている姿として理解されたいのか。 
少なくとも、忘れたかったのだ。 乗り越えたかったのだ。
そして誰かにこう言ってくれれば報われるのかもしれない。
「あなたの人生は間違いじゃない」と・・・。

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ひと頃に比べて、はパチンコに身が入らなくなったものの相変わらず悶々とする日々を過ごしていた。
仮設住宅の隣りの部屋には、ほとんど外に出てこない女性、酒井時子(安藤玉恵)がいる。
そこの主人である政明(戸田昌宏)は東電の社員で、周囲から嫌がらせを受けていたのだ。
夫は原発の汚染水の汲み上げに追われていて、ほとんど奥さんのことには気が回らないらしく、時子はますます人を拒んで閉じこもっている。

ある日、酒井夫婦の部屋の前を通りかかった時子が自殺を図ろうとしているところを見て慌てて助け出した。
時子の夫に「なんであんたが見てやらないんだ!」と叱責する。
その瞬間、彼は悟る。 ではおまえは何をしている?
何もしていないじゃないか。 5年前のあの時も、なぜ妻のそばにいてやれなかったのだ?

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妻は今も海の底で寂しい思いをしているのに、自分が行くべき場所はパチンコ屋ではないし、妻のためにしてやれることはいくらでもあるだろうに。
は許可を取って、立ち入り禁止区域になっている我が家に向かった。
そして箪笥の中にある妻の衣服を片っぱしから取り出して持ち出す。

飲み友だちでもある漁師に舟を出してもらい、沖に出たは次々と妻の服を海に投げ入れる。
「かあちゃーん、寒いやろー! ごめんなー! ごめんなー! 寒いやろー、かあちゃーん!」

はこうして、その日から苦しむことを辞めた。

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例によって週末、東京に出てきて事務所に行ったみゆき三浦が仕事を辞めたと聞かされた。
劇団のチラシに記された住所を基に、三浦が出ている舞台を覗いた。
二人芝居は自分にはよく分からなかったが観客は拍手喝采だ。
同じように拍手を送るみゆき。 この拍手は何よりも、自分の居場所を見つけた三浦への祝福だった。

みゆきもまたこの東京が居場所ではないことを感じる。
やり直してみようか・・・
間違ったことはしていないと思ってはみても、私が向き合う人はここにはいない。
お金で私を愛でてくれる人ではなく、生まれ育った場所で共に時間を過ごした人と向き合ってみよう。
そこにきっと居場所がある。

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仮設住宅の前で山本が待っていた。
二人でラブホテルに行く。
もう一度やり直したがっている彼にすべてを打ち明けた。 東京でデリヘルをしていたことを。
こんな自分でもかまわないのなら、許せるのならとみゆき山本に委ねる。

それでもいいとみゆきと重なろうとした山本だったが、ここで失敗したらもう二度と昔の二人には戻れないプレッシャーからか、山本の身体は言うことを聞かなかった。
「もういいから」と服を着るみゆきはそれでも、かすかな光を感じる。

2年前に東京で「無理しなくていいから」と言った三浦の気持ちが沁みる。
私だけが特別ではない。 自分を哀れみ、現実から逃れるために、違う自分になろうと無理をしてさらに苦しんでいた。
そんな自分は今しがた消え失せた。
時間はかかるが、いずれ山本とやり直すことができるのだろう。
そして、私はこの地に居場所を見出し、強く生きていく。

間もなくして、みゆきの元に三浦から双子が生まれたという写メが届いた・・・

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新田もまた少しづつ立ち上がろうとしていた。
否でも自分たちはがんばるだけ。
忘れてはいけないが、誰かが覚えてくれている。 それだけでもいいと思う。

弟が練習する自転車の後ろを押してやりながら、新田は一人でこげない自転車の様な人生を踏み出す決心の中で、「未来はあるよ」と後ろからサポートされるエールを感じるのだった。
墓地が汚染され、新しい墓地を作るにも、骨が汚染されて移せないという問題に直面している頑固な菊地老人(麿赤兒)からオハギをもらったことは忘れられない。

福島に親族が住んでたという写真家の山崎沙緒里(蓮佛美沙子)は福島の風景を撮り続けており、新田の尽力で仮設住宅の一棟を借りてささやかな写真展が催された。
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写真展は大盛況。
東電の酒井とその妻、時子も写真店に訪れる。
震災時の福島の様子だけでなく、震災以前の今は失われた風景や人々の笑顔も映った写真もある。
みんなが笑っている顔・顔・顔が何物にも代えがたい絶景。

そして夫妻は、数ある写真の中に、いい笑顔で写っている自分たちの姿を発見する。
「もう一生、帰れないんだろうな」とつぶやいた政明も妻の時子もその写真から目が離せなかった。


みゆき三浦新田山本酒井・・・
それぞれの光を求めて。
それぞれの戻る場所を見つけて。
それぞれの明日へとまた歩き出す。



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正直に言って、部外者の私たちが被災者の気持ちに寄り添えることは、いかに相当量のアーカイブを見て学んでも限界はある。
人それぞれに違う、色々な思いはあるだろうし、私たちの勝手な思い込みとは違う被災者の思いもあるはずだ。
私たち対岸の者は気安く「がんばってください」と言うが、それでどうなるものでもない葛藤もある。
リアルな話、じゃあお金ですかというところまで及んだら、もうその先から今までをなかったかのようにしてしまう恐さもあるのだ。

もっと「百聞」を聞きたいし、「一見」を見たいと思う。
本作にも描かれてるように、例えば補償金で遊び回ったり、変な詐欺が流行ったり、嫌がらせや差別、一家離散、別れた恋人、墓地の移転など、どうにもならない現実や、きれいごとではない人間の暗部もある。
変な話だが、そういう「本当のところ」を知りたいのが本音だ。

何本映画を観ようと、何冊もの本を読もうとも学べない人間の弱さを見てこそ、より人間の愛おしいところを感じたい。
それでも人間が好きで、人生はいいものだと感じたい。

災害云々は抜きにして、人の人生がガラリと悪く一変してしまうことは誰にも起こり得ること。
そこから人は何をあきらめて、顔を向けることのできなかった未来を見据える決心ができるのか。
そこに壮絶な葛藤のドラマがある。

群像劇と言うには「さよなら歌舞伎町」ほどではないが、様々なドラマをバランス良く散りばめながら、確かなメッセージを投げかける。
丁寧に人間を描いた、今の時代に必要な力作だ。 廣木隆一のベスト作であろう。
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役者陣は廣木監督作品の常連をはじめ、いずれ名だたる名優揃いだが、一番のサプライズは瀧内公美であろう。
デビューしてまだ5年ほどのキャリア。 2014年の「グレイトフルデッド」で"孤独ウォッチャー女"を怪演して注目を浴びたが、まださほどガツンと来ている女優さんではなかった。

「日本で一番悪い奴ら」の婦警役や、「ブルーハーツが聴こえる」の中の一編「人にやさしく」にも出ているが、今回の作品の素晴らしい演技を観ればもうこの人を忘れることはない。 すっかり覚えた。
今までなぜ目立たなかったのか。 気づかなかったアッシがバカなのか。 このピカイチの存在感。
熱演というよりは巧みな演技をする。 凄味さえ感じる才能だ。

彼女も含め役者全員グレートだが、やはり光石研のうまさは神。
佇まいのキャラからすでに仕上がっているのは毎度のこと。
じんわりと空気を完全支配してしまう演技で、あの船のシーンをされたら、そりゃあ涙腺が破裂するのは当たり前。

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「賢人のお言葉」
 
「人はいつまでも故郷を身に付けている」
 ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ
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