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ムーンライト
2017年04月28日

T0021623p.jpg ちょっとしたハプニングに見舞われたものの、第89回アカデミー賞作品賞の栄冠に輝いた「ムーンライト」。
LGBTQを扱った映画での作品賞受賞は史上初。

それまでのいくつかの秀作はノミネートされてもなかなか受賞までには至らなかった。
あのアン・リー監督の「ブロークバック・マウンテン」でも最多8部門にノミネートされながら作品賞は逃している。
LGBTQというテーマに加えて、黒人だけのキャスト、監督、脚本家による作品が作品賞を受賞したのも史上初という、まさに歴史的マスターピース。

タレル・アルバン・マクレイニーが執筆した戯曲を原案として、長編2作目の監督となるバリー・ジェンキンスが映画化し、脚本も担当。
キャストはナオミ・ハリス以外は聞いてもピンと来ない無名の役者ばかりだが、名作が誕生する基盤は知名度やキャリアだけではないことは映画を愛する者には周知のこと。
取り分け本作では一人の主人公の三世代をそれぞれ三人のニューフェイスが演じており、複雑な内面を抱えたキャラクターに息を呑むような真実味を与えている。



【I:リトル】
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シャロン(アレックス・ヒバート)はマイアミのリバティシティで母親のポーラ(ナオミ・ハリス)と共に暮らしている。
引っ込み思案な彼は、学校では“リトル”というあだ名で呼ばれていじめられていた。
心を許せる唯一の友人といえばクラスメイトのケヴィン(ジェイデン・パイナー)ぐらいしかいない。

ある日、いじめられっ子に追われて麻薬地区の廃墟に見を隠していたところをフアン(マハーシャラ・アリ)という男に助けられる。
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キューバ人のフアンは、このマイアミでクラック・コカインの売人をしている。
独身だが、テレサ(ジャネール・モネイ)という恋人と共に自宅で暮らしている。

なかなか心を開かないシャロンフアンに何を聞かれてもまともに答えれなかったが、フアンの自宅で一泊しテレサと語りながらようやくフアンにも心を開いていく。
翌朝、フアンシャロンを自宅に送り届けたが、ポーラのつっけんどんな態度には引っかかりを覚えざるを得ない。
ヤクをやってるなと直感で気づいたフアンは、そういう母親と一緒にいるシャロンのことを気にかけずにはいられない。

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フアンを父の様に慕い、多くの時間を過ごすようになったシャロン
ある日、フアンシャロンに海で泳ぎを教えた後、静かに力強く語りかけた。

俺はキューバで生まれ育った。 キューバは黒人だらけだ。
俺がガキの頃、月が出るとよく外を駆けまわってたもんだ。
するとそれを見ていた老女がこう言うのさ。
“月あかりを浴びて走っていると、黒人が青く見える。 だからおまえをブルーと呼ぶ。”とな。
いいかシャロン。 自分の道は自分で決めろよ。
周りに決めさせるな。


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ある夜、ヤクの得意客の車がずっと道に停まっていることに気づいたフアンが車中を覗くと、客の男とシャロンの母親がコカインをキメていた。
フアンが思わずポーラに母親としての責任のような説教めいたことを口にするとポーラは逆上する。

あんたがあの子を育てるのかい?
あの子がいじめられる理由が分かる? あの子の歩き方を見たでしょ!
私はこれからもあんたの所からクスリを買い続けるからね!


翌朝、シャロンフアンの家を訪ねてくる。
「ママが嫌いだ」とポツリとつぶやく。
「俺もママが嫌いだったが今は恋しい。 そんなもんだ」
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尚もシャロンは問う。
「オカマってなに?」
「もしゲイであっても“Faggot”(オカマ)と呼ばせるな」
「ゲイって自分で分かるものなの?」

「多分な。 だが今すぐ分からなくていい」

「母さんにクスリを売ってるの?」
その場から立ち去っていくシャロンに何も言えずに、フアンはうなだれながら涙を流すしかなかった。

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この【第1章】だけでも十分に揺さぶられるものがある。
ヤクに溺れ、男を連れ込んでは息子の面倒などまるで見ない母親。
学校にいけば「オカマ」と言われていじめられる。
親しい友人は一人だけいるにはいるが、他の子供とはどこかが違う自分の孤独を受け止めてくれる安らぎは周りにない。

母親からも疎まれ、学校でも虐げられる自分は一体何者なのだろう? どういう生き方があるのだろう?と少年は身も心も迷い続ける。
想像できるだろうか。 まだ歳が十にも満たない子供が、自分はオカマなのかと他人に相談せねばならないという孤独の暗黒さを。

父親のような懐で受け止めてくれるフアンの言葉のひとつひとつがシャロンの心に本当に響くのはまだ先である。
月のあかりを受けて、ブラックではなくてブルーに輝くという、その瞬間とは?
自分で自分の道を決める、その道しるべとなるあかりが灯る時とは?


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フアンというキャラクターは悪い人間ではないが、キューバからやってきて売人をしている背景はなんだろうか。
シャロンに言い聞かせた「自分の道は自分で決めろ」は当然彼もそうしてきたからであるが、母親らしからぬポーラの醜悪さの中に自分の母親の面影を見たからかもしれない。
親に振り回されることから逃れ、キューバを捨てて、生きるために売人になったのだろう。
「俺もママを嫌いだったが、今は恋しい」

そんな彼はポーラにヤクを売っている。 それこそがシャロンを不幸にさせているのだと知り、自分の選んだ道が一人の少年をどん底に突き落としたことにフアンは自責の涙を流す。



【II:シャロン】
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高校生になったシャロン(アシュトン・サンダース)。
相変わらず学校でいじめられているが、特にテレル(パトリック・デシル)とそのグループからのいじめは執拗で、なにかと言えばオカマのネタだ。

 母のポーラは麻薬に溺れて、精神状態が不安定だ。
ヤク代を稼ぐために売春婦までやっている有り様で、息子に金の無心さえする。
 フアンは亡くなったが、今でもシャロンテレサの家に行っては食事の世話になっている。
「うちのルールは、愛と自信を持つことよ」

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ケヴィン(ジャレル・ジェローム)とは今も仲良しだが、次第に友人以上の感情を抱き始めているシャロン
ケヴィンシャロンのことを親しみを込めて「ブラック」と呼んだり、時には「ニガー」とも呼ぶ。
 
テレルから母親やテレサのことをひどく言われて傷ついたシャロンは夜のビーチへと出かけた。
そこへケヴィンが現れて、マリファナを吸いながら二人は人生の野望を語り合う。

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「なぜブラックって呼ぶ?」
「おまえの愛称さ」
「じゃあおまえは?」 「隣りに座ってハッパをすすめる奴さ」

「おまえは何に泣く?」 「泣き過ぎて自分が水滴になる」


月あかりの下でブルーに染まる二人は互いに触れ合い、やがてキスを交わし、ケヴィンシャロンに手淫をするのだった。

だがその翌日、事件が起きる。
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テレルケヴィンにゲームを持ちかける。 テレルが選んだ相手を倒れるまで殴るというバカげた度胸試しのようなものだが、ケヴィンテレルに逆らえない。
最初から標的はシャロンだった。
いやいやながらも、ケヴィンシャロンを殴ったが、シャロンは倒れようともしない。
「シャロン、頼むから倒れろ」ケヴィンに懇願されても彼は立ち尽くして何度も殴られるのだった。

やがて力尽き倒れてしまったシャロンを今度はテレルたちが囲んで足蹴にする。
警備員に救われたシャロンだったが、ソーシャルワーカーの面談では何も語らなかった。
相手の名前を言ったところで何の解決にもならないことを彼は知っていた。
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翌日登校したシャロンはまっすぐ教室に向かい、テレルを背後から椅子で殴りつけて昏倒させる。
逮捕された彼は、パトカーに乗せられる時、そばに立っていたケヴィンをじっと睨みつけるのだった。


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主人公の大きなターニングポイントとなる【第2章】。
シャロンを取り巻く環境は、子供時代の頃よりも悪化している。

母親は重度の麻薬依存症に陥っている。
クスリのせいで酩酊してる時は、「私の大切な子、私の宝もの」と優しい声でシャロンの頬を撫でるのだが、クスリが切れた時のキレっぷりは相当な重症だ。
クスリ代欲しさに、シャロンがテレサからもらった小遣いまで寄こせとわめき散らすほどに逆上し、母親の自分からは逃げれないようなことを口走った時から、シャロンの心には自分の道を決める決心が芽生えつつある。

学校でのいじめは陰湿さも加わり、自分がここまでされる仕打ちにシャロンは逆に自身を愛せなくなっている。
ケヴィンに殴られるままになっている姿から、それが垣間見える。


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シャロンにとって子供の頃から唯一心を開ける友人だったケヴィン。
彼への想いは月のあかりの下でハッキリとしたものになっていく。
暗闇の中で自分のことさえ見えなかったシャロンを今、ケヴィンという月光が照らしているのだった。

「泣き過ぎて、自分が水滴になりそうだ」
これは愛の告白でもある。
愛する相手に自分の悲しみを吐露する表現の、このあまりの美しさは、すべてをさらけ出そうとするシャロンの想いがはち切れんばかりに溢れている。
誰も愛してくれなかった、こんな自分を愛してくれるのか。 いや、愛してほしいと「ブラック」から「ブルー」になったシャロンは静かに心を開放していく。
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だが、あの事件はシャロンを月のあかりも届かぬ闇へと引き戻した。
戻らざるを得なかったのだ。
物心ついた時から理不尽な風にさらされてきた彼は、ここにきて目を背けてきた苦痛を自らの手で駆逐するために正面から対峙する道を選ぶ。

男らしさを問われる黒人社会に歩調を合わせるケヴィンに理解を示しつつも、恋情を抱く同じ相手から愛と暴力を受けたことでシャロンの中の何かが決壊したのだ。
誰かをこの先、愛することもないだろう。
真の自分を封じ込め、誰からも愛されなくてもかまわないから、何も恐れなくていい生き方を選ぶ。
シャロンが自分のことを否定する敵に暴力を向けたのは、その宣言でもある。


【III:ブラック】
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10年の歳月が過ぎ、シャロン(トレヴァンテ・ローズ)はマイアミからアトランタに引っ越していた。
彼は大きく変わっていた。
体を鍛え上げ、歯に金のグリルを装着し、身も心も武装したかのような、高校時代とは見ちがえるほどたくましくなっていた。
車はオールズモビルのカトラス・シュプリームを乗り回し、「ブラック」という通り名で今は亡きフアンと同じくヤクの売人として生計を立てている。

ある夜、ケヴィンから突然の電話がかかってくる。 テレサから番号を聞いたという。
今もマイアミにいるケヴィンは料理人としてダイナーで働いており、あの事件のことを謝罪したい、店を訪ねてきてほしいことを伝えられたシャロンは電話口で静かに涙する。
あの頃のすべてを忘れようとしていたのに・・・
その夜、シャロンは夢精する。

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翌日、シャロンはアトランタの麻薬厚生施設で暮らしている母ポーラを訪ねた。
麻薬の売人をしている息子を心配して諭す母に対して、シャロンは逆に非難の言葉とともに溜めていた思いを浴びせる。
ポーラは涙ながらに息子に許しを乞う。
「愛が必要な時に愛さなかったから、私のことは愛さなくていい。 でも、あんたを愛してるわ」
和解した母と息子は抱擁し、二人はようやく普通の親子に戻る。

母を見舞った帰りにシャロンはフロリダへ足を延ばす。
キューバ料理の店に入っていったシャロンは、いそいそと接客しているケヴィンを横目に一人カウンターに座っていた。
たくましく成長し、まともな職で汗を流しながら充実し切った風なケヴィンに易々と声をかけづらいものを感じながら、シャロンは見守っていたが、すぐにケヴィンは彼のことに気がつく。
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テーブル席に移り、ワインを飲み交わす二人だが、シャロンはなかなか言葉が出ない。
「うつむくクセは昔と変わってないな」

ケヴィンは結婚し、子供も作り、刑務所に入って、妻子とは別れている。
シャロンがヤクの売人をしていることには否定的で、一体なぜ自分を呼んだのかとシャロンは少しばかりイラつくのだった。
おもむろに立ちあがったケヴィンはジュークボックスに向かい、シャロンを思い出すきっかけになった曲をかける。
流れてきたのはバーバラ・ルイスが1963年に歌ったポップ・ナンバー、「ハロー・ストレンジャー」。
“あなたと再会できて嬉しい”と歌われる、この歌だけで二人の間に多くの言葉は必要なかった。

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二人は車に乗り込み、ケヴィンの家に向かい、あらためて語り合う。

「やりたいことは何もせず、周りに流されていた」
思うような道ではなかったが、自分の人生は幸せなものだったと打ち明けるケヴィン
「シャロン、おまえは何者だ」

「あの夜のことを今でもずっと覚えている。 あの時以来、俺に触れたのはおまえ一人だけだ。」

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十年の歳月を飛び越えて、さまよい続けるシャロンの魂が辿り着くべき場所に辿り着く、美しすぎる【第3章】。

ゲイであることを自分から否定するかのように、強靭な肉体とケバケバしい金のグリルをはめた歯という風体で周囲の者を遠ざけてきたシャロンは、フアンのあとを追うように麻薬の売人になっている。
母親の体と心を破壊した麻薬を商売にする道を歩んでいるのは本心から望んだことではないはずだが・・・。

愛することも愛されることも拒んだ彼が何者になるのか。
父親のような感情を抱いたフアンの人生をなぞることだけが残された道だった。

だが、ケヴィンとのあの夜のことを忘れてはいない。
ケヴィンからの電話を受けた夜に夢精したように、彼の魂はずっと求め続けていたのだ。

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ダイナーでシャロンとケヴィンが再会するシーンが魅力的だ。
お互いが秘めた想いをすり合わせたり、いなしたり。 それでも確実にひとつになろうとしている。
金歯のグリルをはずしてケヴィンの作った料理をシャロンが口にする、一種の「交わり」のシーンも実に官能的。

ケヴィンの家で、シャロンは心の鎧を脱ぎ捨てる。
自分が何者であるかを決める時が来たのだ。
あの夜のことを今も忘れず、以来誰にも体に触れられていない告白。
彼が自分自身を許した瞬間である。

再びあの日の夜のように寄り添う二人。
自分を愛し、人に愛される歓びの中で、ブラックだったシャロンの魂はブルーの輝きに包まれていた。
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この映画は登場人物のほとんどが饒舌ではない。
特に主人公のシャロンは滅多に胸の内を言葉にすることはない。
その分、時として口を突いて発するセリフが光を放つ訳だが、やはり黙して語る部分の多い映画だけに、人によっては少々伝わりにくさを感じるかもしれない。

それでも一人の人生の、3章構成でありながら2時間に満たないストーリーは、十分なほどの“声なき語り”で埋め尽くされている。
それだけに切り口となる子供時代のチャプターは大きなウェイトを占めているので、ここでいかにキャラクターの中に自分が入っていけるかが評価の分かれ目になる。
母親とフアン、そしてケヴィンという3人がキーパーソンとしてシャロンを取り囲み、彼の孤独とその後の歩みが描かれていく源がすべて【第1章】の中にある。
こうしてキャラクターと一体となって、移ろいゆくシャロンの人生を見届ける我々は、いかに愛と痛みが人生を決定づけていくかを知ることになる。

確かに、目新しい話ではないし、「私は黒人でもなければゲイでもないから理解が及ばない」という感想の人もおられるだろう。
しかし誰の人生にも、暗闇の中で方向を見失う時代がある。
その時、暗闇を照らす月光が射し、あなたが道を見つけるきっかけとなった“月”のような誰かの存在は必ずあったはずなのだ。
恋愛や友情、家族、仕事、人間関係などの中で、自分が一体どんな人間となって世の中を歩いていくのかを迷いつつ見つけてきた人生。
人生の手本となった母、救ってくれた学校の恩師、ふられた女、裏切った友人・・・・ 誰もかれもが私のムーンライト。

そして、この物語もしかり。
愛されることなく育った主人公が、人から眉をひそめられるセクシュアリティを抱える葛藤と共に人生を積み重ねて、自分の道を見出していくストーリーは人種や性指向関係なく、誰の胸にも響く、いや響いてほしいと願わずにはいられない。

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「賢人のお言葉」
 「わたしの存在そのものが質問なのだ。 その答えを知りたくて生きてるんだ」
 寺山修二
 
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