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アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場
2017年01月29日

T0021320p.jpg戦争というものはすっかり様変わりした。
今も世界のどこかで紛争があるが、現在欧米の大国が相手にしているのはテロリストである。
国という相手ではなく、組織または個人のテロリスト相手に躍起になって、ひっそりと戦争をしているのだ。

今やドローンという便利な兵器がある。
兵士が戦場に出向くことなく、安全な自国の施設から操縦する無人航空機が空からターゲットを探し出してミサイルを撃ち込むのだ。
ボタン一発で敵を排除。 まさにゲーム化した戦争である。

オバマ元大統領は前任のブッシュから「テロとの戦い」を継承したが、地上軍を大幅に削減する代わりに、ドローンによる攻撃を増やした。
オバマが就任した2009年から2015年までの6年間、ドローンの攻撃で殺害したテロリストは2372人から2581人。 民間人は64人から116人が死亡している。
イラク戦争後はトマホーク巡航ミサイルでのリビア空爆ぐらいしか軍事行動の印象がないアメリカだが、ちゃっかりやることはやっていたのだ。

98年の大ヒット映画「踊る大捜査線 THE MOVIE」で、青島刑事が叫んだ名台詞がどうしても頭をよぎる。
「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」
警察組織にはきつい一喝なのだろうが、「戦争」に関してはそうとは言い切れない。
ドローンの台頭は戦争を変えた。
『戦争は会議室で起きている』のだ。


このイギリス映画も広義ではドローンが題材の戦争映画かもしれないが、上映時間と同じ1時間42分がリアルタイムで進行する物語で、そこで描かれてるのは、会議室で行われる戦争のあまりにもショッキングな実体である。
監督は「ツォツィ」のギャビン・フッド。
昨年1月に逝去したアラン・リックマンの遺作となった作品である。

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イギリス軍のキャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は諜報機関に属する将校である。
早朝からロンドンにある常設統合司令部に“出勤”してきたのは、長期にわたって追いかけているテロリストの居場所を突きとめたという一報を受け取ったからだ。

【アイシャ・アル・ハディ】
東アフリカ最重要指名手配の女テロリスト。
英国名はスーザン・ダンフォード。 つまりは元々イギリス人。
しかし改宗して、ソマリアのイスラム武装勢力“アル・シャバブ”に協力し、数々のテロを行ってきた最も危険なテロリストなのだ。

ケニアのナイロビでアル・シャバブの幹部らが潜伏していることが判明した。
彼らを監視していれば必ずやスーザン・ダンフォードも現れるはず。
目下、統合司令部ではケニア軍と連携して、アル・シャバブの幹部たちを捕まえるという地上戦の計画を練っていたが、もしもダンフォードが現れたら躊躇なくドローンからのミサイル攻撃で彼女を暗殺する。 大佐の腹は決まっていた。
ようやく巡ってきたこの機会を逃してはならない。

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内閣官房会議室に召集された「国家緊急事態対策委員会(通称コブラ・オフィス)に“出勤”してきたのは国防省副参謀長フランク・ベンソン中将(アラン・リックマン)。

彼はここに来る前に孫娘(?)あてのプレゼントを買うために玩具店に寄った。
御目当てはアナベル人形なのだが、どれにしようか迷ってなかなか決められず、ケータイで家族と話しながら相談している。
そしてようやく買ったあとで、出勤後に家族に電話すると、「えっ?“動く赤ちゃん”? なんだ・・・間違って買ってしまったな・・・。」
せっかくアナベル人形を迷ったあげくに買ったのに、孫娘が欲しがってるのは「動く赤ちゃん」だったようだ。
会話をそばで聞いていた補佐官が「私がなんとかしましょうか?」と声をかけてくれる。

この何気ない微笑ましいシーンは、実は物語に込められたテーマを象徴する強烈な皮肉であることがのちのち判明する。


会議室にはベンソン中将のほか、ブライアン・ウッデール閣外大臣、アフリカ担当政務次官アンジェラ・ノース、そしてマザーソン司法長官が集まっていた。
ケニアのナイロビで展開されようとしている英米共同のテロリスト捕獲作戦(通称E作戦)の政治的判断を精査して最終命令を司令部に伝えるために顔をそろえた面々はただならぬ緊張に包まれていた。

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一方、アメリカのネバダ州クリーチ空軍基地に、配属されて間もないスティーヴ・ワッツ中尉(アーロン・ポール)がドローン操縦の任務のためにやってきた。
コンビを組むのは、こちらも配属されたばかりのキャリー・ガーション上等航空兵(フィービー・フォックス)だ。
2人はヘルファイアミサイルを搭載したドローン、MQ-9リーパーをナイロビ上空へと飛ばし、アル・シャバブのメンバーたちの動向を監視しながら、いつでも攻撃できる体制を整える。

ワッツキャリーの若き兵士は人をまだ撃ったことがない。 それぐらいの経験なのだ。
ワッツにとって初めてのドローンでの任務は、ケニアから遠く離れた安全な場所から戦闘行為をするというのが不思議な感覚だった。
コントロールルームの座席に着いた時は、やがて自身の倫理感を揺るがす苛酷な瞬間が訪れるとはワッツは予想だにしなかった。

無題
ケニアのナイロビ。
手先の器用な職人のファチマには9歳になる娘のアリアがいる。
この村では銃をかついだイスラム武装勢力の男たちが通りに立っては人々を威嚇している。
父親は娘に教育を受けさせてやりたくて、こっそりと部屋の中で勉強を教えているが、誰かに見られたら大ごとだ。

アリアはフラフープで遊ぶのが大好きだ。 ものすごく得意なのである。
しかし、女の子が遊んでるところさえでも、目撃した近所の住人が血相を変えて父親に注意する。
そんな暮らしなのだ。 特に女性にとっては息のつまる社会だ。

だが父親はまだ知らない。
我が子に降りかかるおぞましい運命を。

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ドローンによる偵察映像はライブでロンドンの常設統合司令部並びにコブラ・オフィスにも流れている。
やがて、マークしていたアジトから車が出発する際に、車に乗り込もうとしている女性らしき人物が確認される。
ハワイのパールハーバーに従軍している画像分析官が顔認識システムで、この女性をスーザン・ダンフォードと断定。

パウエル大佐は色めき立つ。 遂にこの時が来たのだ。
当初はアル・シャバブの幹部たちをケニア軍が急襲して捕獲するという地上戦が予定されていたが、ダンフォードの出現で状況は一変した。
「捕獲」から「殺害」へ。

テロリストたちの車はやがて一軒の平屋に到着した。
車から降りたメンバーがその家の中へと入っていく。

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現地では工作員のジャマ・ファラ(バーカッド・アブディ)が偵察任務を行っていた。
先日、正体がばれた仲間の工作員がアル・シャバブに処刑されていたので、彼は慎重にならざるを得ない。
元は武装勢力にいたが、逃げ出したこの自分の顔を覚えてる兵士も少なくはない。
通りをウロウロしている兵士に顔を見られたら気づかれる危険を背にジャマはターゲットを偵察する。

手にしているのはプレステ・ポータブルを改造して作られたコントローラー。
実はドローンの操縦に使われる。
無論、でっかい飛行機のようなものではない。
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ハチドリ型ドローン。 通称ハミングバード。
16センチ程度のバッテリー駆動式超小型ドローンで、これならばかなり接近した映像が撮れる。 もちろん空中停止も可能。
クチバシがあらかじめパカッと開いており、中にカメラが仕込まれている。

重さは10グラムにも満たないが、パタパタした動きは割とバッテリーを食うので、稼働は長くて10分ぐらい。 安物のコードレス掃除機みたいなもんである。
この小鳥ちゃんが最初にダンフォードの顔を捉えて大手柄。
さて、次はテロリストたちが入っていった家の中も見たいが、鳥が家の中まで入っていってはいくらなんでもおかしいので、次に使われるのが虫!
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昆虫型ミニドローン。 ここまでドローンは進化している。
007の世界が今や実際に行われているのだ。
ただし、こちらの稼働時間は5分程度しかバッテリーはもたない。

そしてこのカナブンちゃんが、ターゲットの入っていった家に侵入し、天井の梁に停まって部屋の様子を映し出す。
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ベッドの上に広げられているのは、明らかに大量のTATP爆薬だった。
それを一人の若者が着用したベストにもう一人の男が爆薬を仕込んでいく様子がハッキリと映し出されている。
これから連中はどこかで自爆テロを実行しようとしている。
一刻の猶予もならない。
今すぐにでもドローンからこの家にミサイルを撃ち込んで殺さないと、何時間としないうちに大勢の犠牲者が出るのは明白だった。

パウエル大佐は攻撃の指示をコブラに仰ぐ。
攻撃といっても標的となるその場所は市街地でもある。
当然テロリストだけを都合よく殺せる訳はない。
ヘルファイアなら家一軒ぐらい破壊できるが、もちろん近隣にも被害は起こる。
その点の憂慮も含めて、まずはロンドンのお上の許しを請わねばならない。
コブラからのGOサインなしでは攻撃はできないのだ。

だが・・・この映画が進化したドローンの話ではないことなど承知だが、ここから先はまるで(いい意味で)ヘタなコントを見させられてるかのようなドタバタが展開される。
まさに衝撃。 笑い話にもならないスッタモンダを大国のお偉方がかますのである。

無題 j 
最終的な決定は閣外大臣が下す。
しかし、コトをややこしくしているのは、一般市民にも被害が出る懸念はもちろんなのだが、ケニアがイギリスの友好国だということ。
テロリストを狙った末の結果だとしても、友好国の市民を巻き添えにするのが果たして止むを得ないで済まされることだろうか。
それに殺す相手は同じイギリス人なのである。 ミサイルのボタンを押すのはアメリカ人だが。

ベンソン中将は自爆ベストの映像から、あれが人の密集した場所で爆発したら少なくとも80人は死ぬだろうと判断する。
ならばあの家にミサイルを撃てば近隣がどれほどの被害を被るのかだが、これも漠然としている。
ミサイル攻撃は政治的にも法的にも可能なのかということで「会議室」は紛糾する。
ウッデール閣外大臣は法律顧問でもあるアンジェラ・ノースに問うも、「法的には正当性はない。」と断言される。
ベンソン中将は軍の立場として、テロを未然に防ぐために攻撃も止むなしの主張は揺るがない。

困り果てた大臣は、外務大臣の意見を伺うことにした。
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シンガポールでの貿易会議に出席していた外務大臣ジェームズ・ウィレット(イアン・グレン)。
どうやら食べたエビにあたってしまい、トイレから離れられなくなった"緊急事態"に、さらに難題が降りかかる。
彼の立場としては、ケニアでそれはまずいだろう、と。 
だからと言ってテロリストをむざむざ逃すのも寝覚めの悪い話だ。

自分のお腹の中が"テロ"に遭ってるので、正直ケニアのことなど「それどころではない話」だった。
自分で決断できなかった彼は、その問題をアメリカのスタニック国務長官(マイケル・オキーフ)に丸投げする。

そのスタニック国務長官はというと・・・
中国で外遊中で、卓球のイベントに出席して楽しんでいた。
そんなお楽しみのひと時にかかってきた国際電話に不機嫌になった長官はもはやマジメに考える気はなかった。
そんなことを私に決めろってか、イギリスの首相に聞けよ、これはそういう問題だろう、じゃ、そういうことでバイバイキーン・・・・・
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では今度は首相に聞きましょうというとこまで来たら、もう立派なコントである。
この人らは何をしとるのん? 「シン・ゴジラ」と同じような光景だ。
で、首相は「被害を最小限に抑えなさい。」
いや、それができんからアンタに聞いとんのやないかーい!
「卑怯ね。」アンジェラは吐き捨てる。

ともかくも、攻撃の承認は下りた。
多少の被害は避けられないが止むを得ない。
パウエル大佐にとっては6年越しの悲願が叶う。

しかし、ここで想定外の事態が発生する。
標的の家のそばに思わぬ人物がやってきたのだ。
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フラフープで遊ぶのが大好きな少女アリア。
彼女は母親が焼いたパンを毎日、家の外の通りに出て売っているのだ。 少女の背後にある石壁の塀の向こうはまさに標的となっている家だった。
その家にミサイルを撃てば、テロリストは一網打尽にできるだろうが、まちがいなくパン売りの少女も巻き添えで死ぬ。

ドローンが上空から撮っている映像にロンドンの司令部も会議室も、そしてドローンの操縦士のワッツも戦慄する。
攻撃ポイントに、何の罪もない子供がいることは誰もがハッキリと確認した以上、周辺の被害も止む無しのスタンスが一気にぐらつく。
ようやく攻撃命令を出しかけた「会議室」も、ちょっと待て・・・という空気になる。

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パウエル大佐としては、絶対逃したくないチャンスだった。
少女がひとり死んだってかまわないとまでは言わない。 そこまで鬼ではない。
しかし、刻一刻と爆弾を体に巻いたテロリストが街中へと向かう時間が迫っている。
6年も追ってきた最重要危険人物にまたしても逃げられてしまうかもしれない。
今の機会を逃せば、それこそ軍人としての死であることをパウエル大佐は感じている。

司令部でも「会議室」でも意見は分かれた。
少女一人を救うために80人を犠牲にするのか、少女を犠牲にしてでもテロリストを殺すという法的・政治的にも灰色な決断を下すのか。
アンジェラはハッキリと言った。 80人が死んでもいい、少女が助かるのなら。
ベンソン中将は言う。 80人だけでは済まない。 その先にも彼らテロリストたちはもっと犠牲を出すことをやる。 だから今殺さなければ。


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しかし、ドローン操縦士のワッツ「時間をくれ。」とギリギリまで命令に抵抗する。
どうか少女に現場から離れるチャンスをと。

パウエル大佐は止むなく、工作員のジャマに連絡を取って、なんとかあの少女を現場から遠ざけさせようとするのだが、通りにたむろする兵士たちにジャマの素性がばれてしまい、「パン買占め作戦」は頓挫。
ジャマも兵士たちの追手を逃れて現場に近づくことができなくなってしまう。

だがジャマは、通りかかりの男の子を呼びとめて、釣り銭は全部あげるから、あそこで女の子が売ってるパンを全部買ってくるんだと頼む。
喜んで駆け出していく男の子だが果たして間に合うのか。

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パウエルはなんとかミサイル発射の命令を引き出す理由が欲しかった。
少女がいるのは、家を真上から見ての左下の角のところ。
少女への影響を最小限に食い止めるには、ミサイルの着弾点をずらすしかない。
それでも少女が絶対死なないという保証はないが。

パウエル大佐は司令部でリスクアセスメントを担当しているサディック伍長(バボー・シーセイ)に、着弾点による被害確率を計算させる。
少女のいる位置は65%の確立でほぼ死を招く。
少々着弾点をずらしても、変わらない数字だった。
パウエルにとってどうしても欲しい数字は「45%」。 65%という数字が大臣の首を縦に振らせない。

彼女は、モニターに映る家の隅っこを指さして、ここならどうかと伍長に問う。
それでも「65%~45%」という曖昧な返事が返ってくる。
パウエルは「45%以下になるよう計算し直しなさい。」と伍長に帳尻合わせを暗に求める。
伍長は渋々、コマンド数値の下の確立数を告げねばならなかった。

45%の数字を受けて閣外大臣から命令が下る。
「殺害実行」

少女アリアの運命はそれこそ運を天に任せるしかない。
誰もがモニターを凝視しながら「早くその場から離れてくれ」と祈る。
ヘルファイアが放たれる。 すべては「空の目」のみぞ知る・・・・・
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まさしく絵に書いたような、船頭多くしてなんとやらである。
判断と責任の押し付け合い、なすり合いが国家レベルの偉いさんたちの間で繰り広げられる。
リアルタイムで進行するこの物語を観客も同時に追体験しながら、「会議室」で行われる戦争の茶番に唖然呆然、そしてやり切れない気持ちで見届けることになる。

フィクションとはいえ、実際にもこんなケースはあるのだろう。
現地に行かずとも安全な場所からモニターを眺めて、対敵の手段をシミュレートかつ選択しながら進めていく、お手軽な戦争は得てしてこんなことになるのだろう。
返す返すも、現場にもっと人員がいたら・・・と悔やまずにはいられない。

ましてや「国対国」ではなく、一人二人のテロリストを抹殺する闇討ち行為が今や現代の戦争である。
どこの国がどこの国の敵を殺そうとしているのかさえ、もはや曖昧になってしまっている。
戦争するからには、そこらへんは割り切っているのだろうとてっきり我々が思っていた国家の人間や軍人でも、「法的にどうか?」「政治的にどうか?」とこの期に及んでその是非を議論し合うのだから、この映画の中の話でも、「国家間で何の打ち合わせもなく始めた作戦なのか?」と疑問に思わずにはいられない。
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裏返せば映画のツッコミどころになってしまうのかもしれないが、もう少しやり方があったのではないかとは思う。
殺害にこだわらずにケニア軍の部隊を急行させて家を包囲すれば、少なくともアリアはあの場所へパンを売りには行かなかった。
テロリストが自暴自棄で爆弾を炸裂させる危険がケニア兵に及ぶかもしれないが、そこも込みで準備をして対峙するのが現場のプロではないか。
素人考えなのかもしれないが、この出来事はドローンによる殺害に固執するパウエル大佐の功名心や、戦争にリスクなど考慮しないベンソン中将の考えが隠然たる力として水面下でうごめいているので、このやり方の形はどうしても雑に映る。

実際のリアルな現場なら、子供だろうが老人だろうが一般庶民の存在など無視するのだろうか。
そこにいる方が悪いと割り切るのだろう。
少なくともアメリカはこの6年間、おそらくそうして最大で116人の一般人の命を無視してきたと思われる。


戦争をするからには犠牲が出ないなどということはない。
それでも、物語は実に残酷な問いを投げかける。
「一人の少女」か、「80人」か。
「会議室」でも意見は真っ二つに分かれる。

少女を救うのならば、自爆テロで最低80人の犠牲者が出る。
80人を救いたかったら少女に死んでもらうしかない。
「少女を救うべきだ」 「80人の中にだって少女はいる」 「人ひとり救えないようでは、我々のやってることに意味がない」 「犠牲は止むを得ない。1人より80人の方を救うのは当然」

観客も考えざるを得ないこの難題には答えはない。
単純に数の問題ではないからだ。・・・と、綺麗ごとを言ってても、二者択一を迫られた「戦争中の会議室」は、どちらを選んでもババをつかむことに変わりはない。
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一番恐ろしいのはパウエル大佐が2発目を撃てと指示したシーンだ。
一発目だけでは、スーザン・ダンフォードは死ななかったのだ。 深手を負った体をかろうじて動かそうとしている映像をドローンが捉える。
躊躇なく指令を飛ばした彼女の目には、アリアの両親が爆風で倒れた我が娘に駆け寄ってる映像など映ってはいない。 気にもしていない。

ネタバレになってしまうが、病院に担ぎ込まれた(車に乗せて運んだのは武装勢力の男たち)アリアはもう息をしていなかった。
感傷をえぐり取られる思いだが、こういうことは当たり前にあるのだと言わんばかりに映画は語っている。

コブラ・オフィスに"出勤"する前にベンソン中将は孫娘へのプレゼントに悩んだ。
そして彼は選択を誤った。 違う人形を買ってしまうも、この日の任務が終わった後、補佐官がちゃんと"動く赤ちゃん"を買い換えてくれていた。
そもそも彼は孫娘へのプレゼントなど真剣には悩んではいない。 ナイロビの少女と同じぐらいに軽い。
選択ミスをしても、彼にとってはさしたる問題ではない。
"動く赤ちゃん"はどこでも売っている。 しかし、アフリカの地でつつましくパンを売っていた少女はもう“動かない”のだ。
こんな悪い冗談のような悲劇があるだろうか。

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すべて終わった後、政務次官アンジェラ・ノース中将を激しくなじる。
「恥ずべき作戦よ。 安全な場所からやっただけ。」
これに対して、為すべきことを為すという荷を背負う軍人の答えは、ある意味見上げたものだ。

私は5つの自爆テロの現場処理を経験した。  地面に遺体が散乱していたよ。
今日、コーヒーとビスケットを手にしながら見たことは確かに恐ろしい。
しかし、テロリストたちがやったであろうことはもっと恐ろしい。
決して軍人に言ってはならない。
彼らが戦争の代償を知らないなどと。

戦争に綺麗ごとは通じないことを知っているのは現場も見てきた軍人だからこそだ。
「会議室」だけでしか見てこなかった者には理解はできない。
優先すべきは為さねばならない目的のみ。 それはテロリストだって同じ。
守るためには犠牲は出るという大いなる矛盾を抱えながら、何が正解なのか、間違っているのかは誰にも分からない。
天から見下ろして全てを理解できる目など誰も持ってはいないのだ。


「賢人のお言葉」
 
「戦争の最初の犠牲者は真実である。」
 アイスキュロス
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