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オオカミは嘘をつく
2014年12月30日

T0019381p.jpg 狼というと、「赤ずきん」、「狼と七匹の子山羊」や「ピーターと狼」の影響なのか、「嘘」というイメージが強い。

実際は「ワイルド」の象徴のような動物のはずの狼である。
羊の皮を器用にかぶってるところなんて誰も見たことがないのに、獲物を獲って食うためなら姑息な手も使う小悪党扱いされるのはなぜなのだろうか。

狼は獰猛である。 めっちゃ強いはずなのである。
だが狙う相手は子ブタちゃんだったり、子ヤギちゃんだったり、小さい女の子という弱キャラばかり。
それもヘタな詐欺師のような手口で近づいてくるというパターンを繰り返す、とんだチープ野郎なのだ。

いいでしょう。 それならそれでけっこう。
狼は嘘をついてナンボ。
ああ、ついてやるともさ。 おそろしくワイルドな嘘を。
覚悟せよ。 人の皮をかぶった狼の嘘がもたらす惨劇を。


2013年の釜山国際映画祭でティーチインにブラッと顔を出したクエンティン・タランティーノが、「今年ナンバーワンの作品じゃー!」と猛烈に奨励した映画として一躍話題になったのが、このイスラエル映画。
◇ 無実を訴える少女惨殺事件の容疑者。
◇ 容疑者を執拗に追う刑事。
◇ 殺された少女の父親。
この3人が絡み合う異質のサイコ・トラップ・サスペンスなのだが、確かにタランティーノが好きそうな映画である。
何がユニークかって言うと、物語そのものは実におぞましい内容なのだが、所どころにスッとぼけた描写があったり、コントのような展開が意表を突くタイミングでぶちかまされるのである。
非常にクセのある映画だ。

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森の中にある廃墟の家の中で、3人の子供が隠れんぼをして遊んでいた。
しかし、そのうちの一人の幼い少女が行方不明になってしまう。
巷では最近、少女ばかりを狙った殺人事件が相次いでいた。
神隠しのように姿を消した数日後、性的暴行を受け、両手の指を全部折られ、両足の爪は全部剥がされた上に、頭部がない状態で発見されるという、なんとも残忍極まりない猟奇事件なのである。

警察が躍起になって捜査を進める中、やがて一人の男が捜査線上に浮上する。
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中学校で宗教学を教えている教師ドロール
奥さんと一人娘とは離別し、現在は一人暮らし。
パンチの効いたオデコで、ハエも殺さない顔をしているが、疑われた根拠は曖昧な目撃証言のみ。
当然、彼は「何も知らない。」の一点張り。

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刑事のミッキは、絶対にドロールが犯人だと信じて疑わない。
出世欲もパンパンの彼は、とにかくドロールから自白を引き出すことに必死のパッチである。
一貫して、事件とは無関係だと主張するドロールに業を煮やした彼は、ひと気のない場所へドロールを連れ出し、椅子に縛りつけて、仲間と共に暴行を加えて自白を強要する。

それでも「知らないものは知らない。」と訴えるドロール
同僚のラミ刑事に促されてドロールを解放したものの、この暴行の様子を通りすがりの少年が陰からスマホで撮影しており、その映像が動画サイトにあがってしまう。

頭にツノが沸いて出た署長「おんどれみたいなボケは交通課に行きさらせ。」ミッキに栄えある栄転を通達。
それでもミッキは車でドロールを尾行したり、一日中家の前で張り込んだりと、いっぱしのストーカー状態。
そんな時、隠れんぼ中に行方不明になっていた少女の死体が発見される。
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またしても同じ手口。
体だけを警察が見つけやすい場所に放置し、頭部だけを持ち去るのは、悲しみに暮れる遺族がいつまでも子供の遺体を埋葬できないようにするためである。

これ以上犠牲者を出す訳にはいかない、警察の威信にかけて何としても犯人をお縄にしたいと腹をくくった署長は、内密でミッキに捜査の権限を与える。
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これで 水を得た沙悟浄のように、大いに職務に励むミッキは、もうナリフリかまっていられぬとばかりに、ワンちゃんと散歩中のドロールを襲撃する。
スタンガンでノックアウトさせて、さあ煮て食おうか、焼いて食おうか、三枚におろして刺身にするか、今度こそこの変態教師を自白させたるどー!と鼻息はゴールドシップのように荒い。

ドロールを車のトランクに押し込んだミッキだったが・・・
彼の頭を後ろから勢いよくスイングされたシャベルが直撃し、しばしミッキはオネンネ・タイムに入ることになった。
ドロールをつけ狙っていたのは、実はミッキだけではなかったのだ。
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見事な曲線のタマゴヘッドに、半ばイッた目をしているこのオッサンこそ、何を隠そうアソコを隠そう、殺された少女の父親ギディ
退役軍人であり、警察の上層部にも顔が効く。
「誰にも邪魔はさせねえぜ。 この刑事もしょうがねえから一緒にラチっとくか。」

ギディはイスラエルの国境沿い(エジプト側かヨルダン側かレバノン側かは不明)の、アラブ人が多いのでイスラエル人はあまり近づかないという場所に、一軒の家を購入していた。 この時のために。
地下室がついている。 その中からどんなにデカい声で叫んでも外には聞こえないというのは実験済みだ。

ドロールミッキを地下室に運び、ミッキの銃は預かっておいて、まずはドロールを椅子に縛る。
ご丁寧にも椅子は床にボルトで固定してある。
ミッキも一応縛られていたが、ギディに協力することを条件に拘束を解かれた。
これからやることは薄々分かるが、それでドロールが犯行を自供してくれればメッケモンのミッキにとっては拒む理由などない。
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ギディとしては、娘の頭がどこにあるかが知りたいのだ。
正直に言わなければお仕置きだ。
娘の頭の場所はもちろん大事なのだが、“目には目を”の肉体的復讐もギディには重要なのだ。
警察署長から入手した事件の検案書を基に、娘が受けた苦痛をそっくりドロールにも与えようという算段である。
□ 両手の指を全部へし折る
□ 両足の指の爪を全部剥がす
□ バーナーで胸を焼く
□ 鎮静剤入りのケーキを食べさせて眠ってる間に頭部を切断する


「こんなことはやめてくれ。 私は本当に何も知らないんだ。」と半ベソで訴えるドロール
「おまえがやらなきゃ誰がやるんだ。 そんなに痛い目に遭いたいのか。」
「あんた、正直に何もかも喋った方がいいぞ。この親父さんは本気だぞ。」

仮にドロールが何かを喋ったとしても、何もしないなどという御仏の心など持ち合わせちゃいないギディはヤル気120%。
「まず最初はアンタにやらせてやるよ。」と指名されたミッキは、半分躊躇しながらもドロールの指にハンマーを叩き下ろす。
「じゃあ今度は俺だ。」
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一本づつ指が砕けるごとにドロールの断末魔が地下室に響き渡る。
ミッキ「やりすぎじゃないのか。」と言うものの、復讐の権化と化したタマゴ親父を止めることはできない。
まだミッキは警察官としての本分が残ってるせいか、そこまで残虐になれないのとは対照的に、ギディは半分楽しみながらドロールの肉体を凌辱していく。

ギディが席を外し、キッチンに行って、睡眠薬の入ったケーキ作りという「親父の日曜料理」に励んでる時、ドロールから「私には娘がいる。 そんなことをするもんか。 君にも子供がいるんだろ。」と情に訴えかけられたミッキ
地下室に再度下りてきた時、その様子のおかしさに感づいたギディミッキを銃で脅して拘束する。
「おまえまで妙なマネするんじゃねえぞ。」

その時・・・・
家のチャイムが鳴り、意外な訪問者がやってくる。
ギディの父、ヨラムだった。
少し前に母親が、娘を亡くしたばかりの息子を思って、不動産屋から番号を聞き出し、「世話焼きTEL」をかけてきて、あーだのこーだのと喋ったばかりである。
息子のつっけんどんな態度が心配になって、今度は父親が押し掛けてきたという訳だ。
ママの手作りスープ持参で。
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仕方がないとは言え、空気をこれっぽっちも読まない親父と、ただいま最高警戒レベルの取り込み中の息子とのスープの夕餉。
しかし、かすかな物音がして、ギディは地下室に下りていったのだが、あろうことか「ちょっと待ってて。」と言われたはずの親父のヨラムじいさんまで後から地下室に来てしまったのだ。
「ここでジッとしてろ。」と言われたにもかかわらず、動きまわってコトをややこしくするのはB級ホラー映画のヒロインだけでいいというのに、人の親というのも子の心知らずで、余計なことばかりしてくれる存在だ。

「おまえ・・・これはなんだ? この縛られてる人は誰なんだ? おまえはここで何をしとるんだ?」
仕方なくギディは説明する。
それを聞いて「そんなことをして死んだ娘が喜ぶと思っているのか。 おまえ、もしあの男が無実だったらどうするつもりだ。 今からでも遅くはない。 彼を家に帰してやれ。」・・・・と、普通の親ならそう言うだろう。 だが・・・・・
Big-Bad-Wolves-Szene-1.jpg 
「ワシにもやらせろ。」

え--------っ!
アッシもそうだったが、この映画を観てて、ほとんどの観客が座席から転げ落ちそうになったのではないか。
娘を殺された怒りをグツグツとたぎらせていたのは父親だけではなかった。
眼球の中にえぐりこまれても痛くもかゆくもないほど孫娘を可愛がっていたジイジもまた、どす黒い復讐の炎を瞳の中に燃やしていたのだ。

最初はパッと見でいかにも悪人ヅラのミッキを犯人だと勘違いして、「孫をやったのはオマエか。」と詰め寄って、ギディから「そいつはちがうよ。」と突っ込まれるシーンが微笑ましい。
すでに両手両足がボロボロのドロール
次の手順としては、「バーナーで胸を焼く」
それやるの? ホントにやるの?
トロの炙り寿司じゃあるまいし。
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やります。
「ギャ------ッ!」 そら、そんな声も出るわ。
「いい匂いだ。」と、じいさん御満悦。

この時の少し前にミッキに、ここから逃げ出すために嘘でもいいから、適当な場所を言って時間を稼げと言われていたドロールは、とある農地の温室工事現場の一角に埋めたと喋るのである。
確かめにギディが車を走らせ、留守をすることになったヨラムじいさん「腹が減ったなぁ。」と冷蔵庫を物色。
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そこには睡眠薬入りのケーキが冷やされていた。
ヨラムじいさんは何も知らない。
「おっ、うまそうだな。」と、食い意地がビッグバンしたヨラムじいさんはケーキをパクつく。
当然、ものの数分後には、ボブ・サップの右ストレートを喰らってノビた曙のように崩れ落ちて、高いびきをかくという大ボケをやらかすじいさんなのであった。

なんだか分からないが、突然じいさんが寝っ転がったので、よしっ!今が逃げるチャンスだと、なんとか縛られてる状態から脱出しようとするミッキドロール
一方、ガセネタだと分かって、猛スピードで家に引き返してくるギディ
ようやく脱出したミッキは妻と連絡が取れたと思ったら、妻の口から背筋が凍るようなある事実を知らされるのである。

       
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一体どこに着地するのか皆目見当もつかない、状況が二転三転するサスペンス。
クライマックスからは、無慈悲で救いようのない展開へなだれ込んでいく。
猟奇系ホラーまがいの痛々しさをまき散らし、色んな角度から得体の知れない恐怖と笑いがアポなしで舞い降りるキッチュな映画だ。

この映画には、劇中いくつか「コメディか?」と思わせるようなスカしたシーンが放りこまれている。
確かにヨラムじいさんの登場はそれだけでコントだが、他にも、警察署長の息子が署長室の椅子に座って、パパの言うことをオウム返しするシーンに「なんじゃこいつ?」と目がテンになる。
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「コウツウカに、とばすぞー!」

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そして謎のアラブ人
ギディが監禁用の家を下見に来た時にも登場する、馬に乗った奇妙なキャラ。
脱出したミッキが夜の道で遭遇し、ケータイを借りる。
iPhone 4sである。
「アラブ人がiPhone持ってるのが珍しいかい?」
「いや、そういうわけじゃ・・・」
これもシュールなシーンだった。
このiPhoneのおかげで、ストーリーが回るんだけどね。

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極めつけは、ギディが睡眠薬入りのケーキを作るシーン。
図体のでかいオッサンが無表情で黙々とホームメイド・クッキングするという見るからにサイコなシーンには、バディ・ホリーの名曲「エブリデイ」が流れる。
「スタンド・バイ・ミー」でも印象的に使われていた、晴れやかでご機嫌なポップナンバーをバックに、ミルクや卵や砂糖やらをボウルでシャカシャカするオッサンの姿に「なんでそんなに手際がいいのか!?」と驚嘆する。
このシーンもなんともキテレツ。

これは残酷童話なのだ。
妙に現実逃避したシーンがあるのはそのためではないか。

原題の「BIG BAD WOLVES」は数々の童話に登場する悪いオオカミのことで、「悪役」を意味する慣用句“BIG BAD WOLF”の複数形。
悪いオオカミは一匹ではないことを意味しているが、確かに悪いオオカミは主要キャラだけでなく、噂だけで教師を変質者扱いする生徒たちも羊に群がるオオカミであるし、被害者の父親に捜査資料を流す警察も、なんとしてでも獲物を捕らえようとするオオカミである。
しかし。
やはり、とんでもないBig Bad Wolfが一人。
  
この先、少々ネタバレですので。
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

ドロールが別れた妻に電話して、誕生日の娘に会いたいと言うがすげなく断られたのに、すぐあとにバレエ教室で女の子たちを見守ってた彼は自宅の部屋で少女にバースデーケーキを御馳走するのである。
なんとなくスルーしてしまった、このシーンは考えてみれば妙だったのだ。
この少女の正体は・・・・・

ミッキドロールを尾行する。 ドロールが自宅に帰ったと思ったら、すぐに出てきて黒いポリ袋をゴミ捨て場にポイっと捨てていく。
その直後に道を渡ろうとする近所のおばあさんに手を貸す行動に、ミッキもついスルーしてしまったが、この“黒いポリ袋”も後あと考えたら恐ろしいシーンなのである。

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「賢人のお言葉」
 「この世の中に人間ほど、強欲で性の悪い獣はねえよ。 狼は共食いなんかしねえが、人間ときた日にゃ、生き身の人間をぼりぼり食うんだ。」
 フセーヴォロド・ガルシン 
(「信号」)
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