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ゼロ・ダーク・サーティ
2013年03月04日

T0013208p.jpg 今年のアカデミー賞ですが。

 「アルゴ」でしたねえ。
確かに面白かったし、個人的に昨年のベスト7位に入れた映画ですが、ベン・アフレックが監督賞にノミネートされてませんし、「たぶん『リンカーン』じゃないの?」って予想してたもんで、プチ・サプライズでした。
 でも、よかったねえ、アフレック。

 それにしても、なんでオバマのカミさんがプレゼンター?
演出担当者も『リンカーン』だろうと勝手に決めつけてたんでしょうか?

       

 アカデミー賞では作品賞や主演女優賞など5部門にノミネートされ、音響編集賞を受賞した(「007 スカイフォール」と同点受賞)「ゼロ・ダーク・サーティ」。
ビンラディン殺害までの顛末を描いた内容で、何かと物議をかもした衝撃の問題作であります。

 監督は「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー。
火中の栗を拾うのが、お好きなようで。 
 
 “ゼロ・ダーク・サーティ”とは【00:30】。即ち午前0時30分を指す軍の専門用語で、ビンラディンの潜伏先に特殊部隊が踏み込んだ時刻のこと。
       

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御存じ、オサマ・ビンラディン
2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロの首謀者とされる人物。

 実は生年月日が不明。 出生地も定かではなく、サウジアラビアかイエメンかとされている。
 お父さんは中東最大のゼネコンの創始者で、出稼ぎ労働者の身から、一代で巨万の富を築いた叩き上げの苦労人。
22回結婚し、55人の子供を授かり、オサマは10番目の妻との間にできた17番目の子。

 ええとこのお坊ちゃんだが人一倍イスラムLOVEが強く、アフガニスタンに侵攻したソ連と戦うために、資金の援助だけでなく、自ら武器を取って前線で戦った英雄である。
湾岸戦争でクウェートに駐留した米軍の気ままな振る舞いにブチ切れた彼はアメリカにケンカを売ることに決めた。
 そして「9.11」を引き起こす。

アメリカは事件以来、ビンラディンをとっ捕まえようと躍起になっていたが、さっぱり行方をつかめず。
米軍が"誤爆"と称して、学校や病院に爆弾を落としてるうちに、巻き込まれてひっそりと死んでんじゃんねえかい?と思っていたが、「9.11」から10年後の2011年5月、「ビンラディン殺害」のニュースが飛び込んできた時は、妙な感慨を覚えたものである。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
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 主人公はジェシカ・チャスティン扮するCIA情報分析官マヤ
風が吹いたら飛ばされそうな華奢な体に青っちろい顔。
しかし、情報のギャザリング&アナライズの腕は確か。
そんな彼女が2003年、CIAパキスタン支局に派遣されてくる。

チームリーダー:ダニエル(ジェイソン・クラーク)
 「若すぎやしませんかね?」
ブラッドリー支局長(カイル・チャンドラー)
 「ああ見えて冷血だそうだ。」


【CIA密着24時! こうして彼らはビンラディンのタマを取った!】

 「嘘をつくと痛めつけるぞ」の巻
とにかく情報がなければオハナシにならない。
捕虜さまは大切な情報源。
アンマルという金の運び屋だった男をダニエルは“手厚く”もてなす様子を我々は目の当たりにする。

 水攻めっ!(ダチョウ倶楽部みたい)
 箱攻めっ!(そんな拷問あるの?)
 パンツをずらすっ!(中坊のイタズラじゃねえか)
 4日間、飲ませず食わせず眠らせずっ!(修行僧ならヘッチャラ)

 それでもアンマルは口を割らない。 見上げたもんだ。
そこで、ある日、マヤは攻め方を変えることを提案、実行。
 アンマルにごちそうを振る舞い、「あなたは拷問で意識がもうろうとしてて覚えていないでしょうけど、テロの計画を喋ってくれたから多くの人が救われたの。感謝するわ。」
カマをかけられたアンマルは観念し、「アブ・アフメド」という人物の名前を教える。
「アブ・アフメド」・・・“アフメドの父”という意味で本名ではないが、確かにそういう名の連絡係がいることが判明する。
 この「アブ・アフメド」が今後の大きな鍵を握るのである。
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 「D.C.にアブ・アフメドはいないわ」の巻
2005年、アルカイダのNo.3、アル・ファラジの逮捕に成功するが、コイツも口はカッチカチ。
 そうこうしてるうちにダニエルは、人を痛めつけて悲鳴を聞く毎日に心が折れてワシントンに帰ってしまった。

 マヤが同僚で3人の子持ちであるジェシカ(ジェニファー・イーリー)とホテルのレストランにいたところ、爆弾テロに遭い、間一髪で脱出。(2008年、イスラマバード・マリオット・ホテル爆破テロ事件)

 2009年12月30日、アルカイダの幹部でヨルダン人医師のバラウィが寝返って情報を提供するというので、アフガニスタンの基地でジェシカがバラウィを迎える。
マヤはオフィスでジェシカからの朗報のメールを待つ。
しかし、車でやってきたバラウィはジェシカたちCIA局員や兵士の前で、車に積まれた爆弾を爆発させた。
CIA局員7人が死亡する惨事となった。

 死と隣り合わせの未知の地で、CIA局員は身も心もギリギリで奮闘している。
我々の取材はまだまだ続く。
マヤが言ったように、「D.C.に帰ってもアブ・アフメドはいない。」のだから。
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 「生かされた私が決着をつける」の巻
友人を失った上に、「アブ・アフメドはすでに死亡している」という情報がもたらされた。
 それでもマヤは折れない。 心の中は復讐の冷たい炎で満たされていた。
「関係者全員を見つけ出して、ビンラディンを殺す。」

 テロ対策センターチーフのジョージ(マーク・ストロング)はオカンムリ。
「今まで何十億ドルも注ぎ込んだのに、このザマはなんだ! 死人まで出しやがって! 殺す相手をさっさと見つけてここに連れてこい!」
 このハッパが効いたのか、ある新米分析官が一束のファイルに注目。
アブ・アフメドは生きている。 死んだのは兄の方。
 要注意人物リストの写真がヒゲヅラのオッサンばかりなので見落としてしまったという人為的ミス。
「なんじゃい、そりゃ!」とツッコミも入れたいが、そんな場合ではない。
「アブ・アフメド」・・・本名は「イブラヒム・サイード」

 マヤはワシントンのダニエルに連絡を取り、「サイードの電話番号を調べ出して。」と依頼。
ダニエルはクウェートの王子と交渉。
夜中にランボルギーニの販売店を開けさせ、「好きなのを選べ。」
イエローのガヤルドLP550-2バレンティーノバルボーニ
王子様はお目が高い。
 いやいや、そうじゃなく。 アメリカ国民の税金でクウェートの王子に車を買い与えるとはなんということか。
我々取材陣はひとこと言ってやりたかった。
「俺たちにも買ってくれ。」
そんな空気ではなかったので遠慮した。
こうして、CIAはサイードの母親宅の電話番号をGET。
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 「私にチームを下さい」の巻
 アブ・アフメドは何回か母親に電話をかけているが、かけてくる場所や時間帯もまちまちで、なかなかポイントを絞り込めない。 特定できてもすぐに動ける部隊を配置してるわけではないので、何の意味もなし。
マヤ支局長に直訴するが、ニューヨークでテロ未遂があったことでピリピリしてるボスはそれどころではない。
「今はビンラディンよりもテロ対策なんだ!」
「今すぐ私にチームを下さい!」
「正気を失くしたか!」

「ビンラディンを取り逃がした男って一生呼ばれてもいいの!?」
マヤは我々取材陣の前で堂々と上司を脅迫していた。

 「アルカイダをやっちまえ!」と米軍がパキスタンを空爆し、パキスタン人にも多数の犠牲者を出したことにキレたISI(パキスタン軍統合情報部)は、この支局長をスパイだと被害者にリーク。
シャレにならん脅迫を受けた支局長は帰国。 お疲れさん、また会いましょう。
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 「屋敷を見つけたクソッタレです」の巻
ダニエルの後任のリーダーであるラリー(エドガー・ラミレス)は、特定したアブ・アフメドの携帯電波を傍受しながら、電話をかけてる人物を必死に探す。
欧米人を見つけたら血の気の多い、隠れ過激派に囲まれるようなデンジャラスな町で、車から携帯電波の強弱を探知し、遂に白のSUVに乗りながら携帯を耳に当ててる男を発見。
「アブ・アフメド」が姿を現した瞬間である。 我々取材陣の興奮は一気に頂点に達した。

 SUVを尾行し、辿りついた山あいの町アボッターバード。
 車は一軒の屋敷に入っていく。 まちがいない。ビンラディンはここにいる!
DNAを採取するために、ワクチン接種を装ったり下水を汲みとって調べるが手掛かりなし。

 レオン・パネッタCIA長官(ジェームズ・ガンドルフィーニ)にブリーフィングするも「証拠を出せ。」と鼻で笑われるチーム一同だが、マヤが横から口を挟む。
「おまえは誰だ?」
「屋敷を見つけたクソッタレです。」
我々取材陣の誰もが背中に変な汗をかいていた。

後日のブリーフィングで、「この屋敷にビンラディンがいる確率は?」と問うパネッタ長官に、「60%」などとビミョーな数字を口にする男どもを前に、マヤはビシッと言い放つ。
「100%確実ですわ。」
 怖い。この女は怖い。
お会計の伝票を差し出す時のクラブのママさんよりもずっと怖いと我々取材陣は思った。
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 「ジェロニモ、確保」の巻
作戦決行の日がいきなりジョージからマヤに伝えられた。
「真っ先に君に伝えたかった。 今夜だ。」

 オペレーション:「ネプチューン・スピア」発動。
海兵隊特殊部隊ネイビーシールズの精鋭中の精鋭、DEVGRU隊員15人がUH-60ブラックホーク・ヘリ2機に分乗し、エリア51から飛び立った。
我々取材陣も、もちろん同乗させてもらう。
ハッキリ言って乗り心地は良くない。
時々「ヤバくね?」と思うぐらいに振動する。
その時、隊長らしき人物が周りの隊員に訪ねた。
「この中で墜落経験者は?」
ほとんどが手を上げた。 「そうか。じゃあ大丈夫だ。」
 我々取材陣は、揃って「ムンクの『叫び』」の様な顔をしていた。
「今すぐ降ろしてくれ」という言葉さえ発することができなかった。

 目標の建物の上空。
隊員が次々とロープをつたって降下。 我々取材陣も後に続いた。
暗視ゴーグルを装着した隊員たちは、まるで「スター・ウォーズ」に出てきたタスケン・レイダーのような感じである。

 午前0時30分。いよいよ屋敷に踏み込む。
 その時、上空に待機していた2機のヘリのうち1機がバランスを失って墜落してしまった。
ただただ呆然とする我々取材陣を尻目に隊員たちは粛々と作戦を遂行していくのだった・・・。
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 面白い。 なかなか面白い。
当初、アメリカの公開時期が大統領選挙前の10月だったことで色々言われて公開日変更。
拷問を正当化しているかのような描写も批判にさらされた。
まあ、嘘を描くよりはいい。

 ともあれビンラディンを追う一人の女性の執念が凄まじい熱を帯びて描かれている。
劇中、怒っているか泣いているかがほとんどのジェシカ・チャスティン。
その気迫あふれる演技が本作のクオリティの大半を独占している。
観ていて怖いぐらい。
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 口の堅い奴からいかに尋問で情報を搾り取るか。
 本名も分からないターゲットの素姓をいかにあぶり出すか。
 そしてターゲットの行動をいかに掴むか。
 中の様子が分からない屋敷を衛星動画などから、住んでいる人数や“本丸”が隠れている可能性を分析。
「9.11」から10年間の執念の追跡の足取りを、要所を抑えてアブラギッシュに綴っていく重厚な展開の緊張感がたまらない。

 「ハート・ロッカー」と同じような「爆発」の恐怖感が本作でも牙をむく。
ホテルの爆破テロのシーンで、巧妙に植え付けられたトラウマは、マヤの同僚が自爆テロで爆死するシーンに効果を現す。
車が砂漠の向こうから走ってきて、徐々に基地に近づいてくる時のハラハラ感が尋常ではない。


 圧倒されるのは、クライマックスの襲撃シーン。
 しばしば挿入されるナイトビジョン・ゴーグルのグリーンの映像が凄いリアリティ。
実際の作戦にかかった時間とほぼ同じ時間で再現されており、臨場感はフルの迫力。
鍵のかかったドアというドアを爆弾をセットして破壊し、主観映像も入れながら、射殺した人物の頭と心臓にトドメの2発を撃っていく描写も怖いし、“その時”のシーンも張りつめた空気の中であっさりと終わってしまう描写も別の怖さがある。
無題 

 任務を終えC-130輸送機にたった一人で乗り込み帰国の途に就こうとするマヤ
パイロットが「これからどこへ行きたい?」と問う。
マヤは答えず、ただ静かに涙を流す。

最初の頃は悲惨な拷問に目をそむけていたマヤは、すっかり違う人物になってしまった。
怪物を穴から引きずり出すために、自ら怨念の怪物と化した。
目的は達したが、命を落とした友人は帰ってはこない。
また、自分自身も人として大事な物を失った。
自分はどこへ行くんだろう・・・。
怪物の代わりに己が怪物となって闇へと潜り込んだ彼女の魂は彷徨い続ける。


「賢人のお言葉」
 「他人にテロを加える者は、常におののく。」
クロディアヌス
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コメント

はじめまして

オハラハンさん、はじめまして。

政治的賛否両論はあったようですが、僕はドキュメント風で臨場感と緊迫感続きのある秀逸な軍事サスペンススリラーと思います。

作戦現場に観客を参加させている気分になる夜間戦闘のナイトビジョン視点のドキドキ感は、さすがビグロー監督の手腕と感じました。主人公マヤの涙は、言葉にならない「対テロ戦争時代の転換点の空虚感」でしたね。

コメントの編集

Re: はじめまして

泰然さん、はじめまして。
コメントありがとうございます。

おっしゃる通り、あのクライマックスは恐いぐらいのリアリティでした。
グリーンの映像がホント、ハラハラさせられましたよね。
「ハート・ロッカー」も良かったですが、「ゼロ・ダーク・サーティ」も軍事モノの傑作ですね。

公開時期などで政治的なことも色々言われてましたが、それだけ内容の質が濃いからでしょう。
絶対何か言われそうな題材なのを承知で、実録軍事映画の傑作を作ってみせたビグロー監督、お見事です。

憎しみの感情のぶつけあいになってしまった対テロ戦争の虚しさ。
ジェシカ・チャスティンの張りつめっ放しの演技も最高でした。

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急襲作戦は見事というしかなく、軍事大国アメリカの優秀さ、強さを世界にアピールできるだろう。逆立ちしてもアメリカには勝てないと、テロリストたちが解散してくれるといいのだが...
名機ALPS(アルプス)MDプリンタ: 2013年03月30日

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