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シークレット・スーパースター
2019年09月14日

T0024182p.jpg山口百恵やピンクレディーらを生んだ「スター誕生」。
BEGINやJITTERIN’JINNを輩出した「イカ天」。
スターを目指す人たちの足掛かりとして、昔はこういったオーディション番組というのがあった。

アメリカでは、ゆりやんレトリィバァも最近出演した「アメリカズ・ゴッド・タレント」があるが、日本じゃもうそんな番組はとんと見かけなくなった。

その分、アイドル・オーディションはしょっちゅうどこかで催されているし、その他にも、あいみょんや米津玄師などのように動画サイトなどで楽曲をアップしたことをきっかけにしてメジャーへの道を歩み出すケースが多いのもいかにも現代的。

世の中、チャンスは案外どこにでも転がっている。
ただし、それを支える周りの人の力も不可欠。
夢を追う人を応援した人も、ある意味スーパースター。


歌手になりたい15歳の少女が過酷な状況にもめげずに夢に向かっていく姿を描いたこのインド映画は2017年に本国で公開されて、インド映画歴代興行成績第3位を記録する大ヒットとなった。
海外でも高く評価された、この珠玉のボリウッドムービーが満を持しての日本上陸。


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15歳の少女インシア(ザイラー・ワシーム)。
インド西部のグジャラート州ヴァドーダラーで両親、大伯母、そして幼い弟と一緒に暮らしている。

インシアは母のナズマ(メヘル・ヴィジュ)と一緒に歌謡番組を見るのが大好きだ。
そして自身もいつかは歌手になれたらという夢を持っており、ギターで自作の曲を作ったりしている。

しかし、家庭内に暴君として君臨する父親の存在が彼女の夢を阻もうとしている。
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エンジニアである父ファルーク(ラージ・アルジュン)は今どき漫画にも出てこないような、暴力的オレ様旦那である。

妻をほめるということを知らないのか、口を開けば人格を否定する罵り言葉の連発。
もとより、女性を奴隷のようにしか見ていない男で、怒りの度合いによっては、男の義務のように妻に暴行を加えるゲス支配者なのだ。

たとえば、メシのおかずの味が薄いと言っては説教が始まる。
「謝って済む問題か? これが17年間働いた夫に食わせるメシか? おまえにはウンザリだ。 今度謝ったら、おまえを捨てるからな」
ナズマはジッと耐えるだけだ。
毎日のように家庭がこんな雰囲気である。

もちろん、娘が歌手になりたいなどと許すはずもない。
「叶いもしない夢にうつつを抜かして何になるんだ?」

この父がいる限り、彼女の夢が夢のままで終わるのは濃厚である。

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インシアの夢を応援したい母ナズマはネックレスを売ってノートパソコンを買ってあげる。
その母の助言もあって、インシアはプルカで顔を隠し、"シークレット・スーパースター"の名で自分が歌う姿をYouTube にアップするのだった。

やがて"シークレット・スーパースター"は再生回数がみるみるうちに上がり、美しい歌声はインド中の話題となっていく。
沢山の人に歌を聴いてもらえる歓びを感じるインシア
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彼女のサイトに寄せられたメッセージの中には、かつては一世を風靡しながら今では落ち目の音楽プロデューサー、シャクティ・クマールから送られたものもあった。

だが、母が娘にパソコンを買い与えるためにネックレスを売ったことが父にバレてしまう。
殴られようとしている母を守るために、インシアはパソコンをバルコニーから放り捨てて破壊するのだった。
それでも歌手への道をあきらめ切れないインシアは、シャクティ(アーミル・カーン)とコンタクトを取り、ムンバイまで行ってレコーディングにのぞむのだが・・・。

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「よろしくお願いしまっす、シャクティさん」
「思ったより子供だったなあ。 いくつだっけ?」
「15です」
「盗んだバイクで走りだす年頃だな」
「なんですかそれ? 私、バイクなんか盗みませんよ」
「歌の話だよ。 いや、それより遥々ムンバイまで来て御苦労さんだね。 腹へってない?」
「大丈夫です」
「なんか飲むか? タピオカでも」
「タピオカ嫌いなんですよ」
「そうか、俺も嫌いだ、へへッ。 じゃあスタジオに直行だな」
「シャクティさんて昔は凄いプロデューサーだったんでしょ?」
「昔は、じゃなくて今もだ。 日本にジャニーさんがいればインドにシャクティ・クマール有りって学校で習わなかったかな?」
「ジャニーさんは偉大ですけど、シャクティさんのことはコレっぽっちも」
「なっとらんな、近頃の教育は」
「シャクティさんって賞とか獲ったことないですよね?」
「そういうのには最初から辞退してるんだ。 若い人たちの才能に目を向けてやった方が業界のためにも有意義だ」
「見かけによらず人格者だわね」
「どうせ審査員はトウシロばっかりだからな。 俺の本当の凄さに理解が追いつかんのだ。 どうせなら俺が審査員をやった方がいい。 そして俺が俺に賞をバンバンやるのだ。 俺よ、おめでとう。 俺よ、ありがとう」
「結局ほしいのね」

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「それより君、レコーディングのことは御両親はご存知なんだろうな?」
「いえ、知りません。 でも母さんはきっと応援してくれると思うけど、問題は父さんね。 知られたら多分、私は市中引き回しの上、打ち首獄門でしょう」
「身の毛がよだつなあ。 そんなに厳しいお父さんなのか?」
「厳しいなんてもんじゃ。 モラハラ、DV当たり前。 母は毎日怯えながら家事をやってます。 顔にアザを作るなんてしょっちゅうですよ」
「今どきそんな時代遅れなバカ殿がいるとはな。 お母さんもそうだがキミも大変だろ」
「こないだ、私の学校の成績が落ちたことに腹を立てて、私が大事にしてるギターの弦をちぎっちゃいました」
「音楽人として聞き捨てならないな。 楽器を傷つける奴には天罰が下る。 特に太鼓を大切に扱わない奴にはな」
「どうして?」
「バチがあたるからだ」
「シャクティさん、私、真剣に悩んでるんですけど」
「すまんすまん。 とにかくそんな旦那とはさっさと別れるべきだとお母さんに言ってあげなさい。 そういう俺様風を吹かす男なんてのは案外自分に自信のない奴が多いもんだ。 三下り半を叩きつけてやったら、ヘナヘナ~っとなって何もできん」
「そううまくいくかどうか・・・。 だからね私、ムンバイまで来たついでに、いい弁護士さんを探したいんです。 お母さんを自由にするために」
「両親を離婚させようというのか?」
「私、あんな父親は要らないわ。 シャクティさん、相談に乗ってくれる弁護士さん知りません?」
「そういえば超やり手の弁護士がいるな」 「マジッすか?」
「俺と女房が今、離婚訴訟中の真っ最中でね」 「はい?」
「女房についてる弁護士が、これまたすっげー優秀だもんで、俺このままじゃアホほど慰謝料取られそうなんだよね」
「そりゃまた・・・」
「紹介してやるともさ。 まずはスタジオにレッツらゴー」

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「シャクティさん、私、アッハ~ンとかウッフ~ンとかヨガリ声を出すような歌なんて唄えません」
「いやいや、これがいいんだよ。 君、いい声を持ってんだから、こういう歌を唄う方が売れるぞ」
「でも、私の唄いたい歌とは全然違います」
「ほらな、これぞ音楽業界のアーティストとプロデューサーのモメごとアルアルだよ。 これはビジネスなの。 まずは売れなきゃダメなの。 アーティストが唄いたい歌と、売れる歌は別物さ」
「でも・・・」
「唄いたい歌は単独ライブが叶えばそういう場でいくらでも唄うがいいさ。 でもな、CDという形にして商売品を店に出す以上は世間にウケるものを作らなきゃ意味がないんだ。 プロデューサーなんか必要なくなるしな」
「ムリなものはムリです」
「こまったちゃんだな・・・」
「とにかく私の唄いたい歌を聴いてください」

「しょうがないな」

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「♪ でも社長の名前は~西村さ~ん ♪」
「合格っ!」
「ありがとうございます」
「さっそく、その歌をレコーディングだ!」
「いや、著作権的にまずいんじゃ」
「じゃあ、"西村さん"って所を別の名前に変えよう」
「怒られると思いますけどねえ」
「どうすりゃいいんだよ」
「だから本当に私の唄いた歌を・・・」
「分かった分かった。 それで行こう。 時間がないし、ブログの行数の無駄使いだからな」
「なんです?」

「なんでもない。 さあレコーディングだ。 シークレット・スーパースターが世界に羽ばたく時が来たぞー!」


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ダメもとでインシアに唄わせてみた往年の名曲に俺は漏らすほどの感動を覚えた。
メロウなバラードに乗せて、魂を揺さぶる歌声がスタジオに流れた時、俺は本当に生きて来て良かったと思ったのだ。
スタジオにいたスタッフの誰もが、ラリッたような顔をして恍惚としていた。

彼女の美しい歌声はまさに現代のセイレーンである。
これだけ人の心をつかめるのなら、イロモノの歌を歌わせる子細工など不要。
ちゃんとした歌さえ唄わせれば、彼女の生き生きとしたプラチナヴォイスがさらに活かされる。

プロデューサーとして、インシアはイケると俺は確信した。
こうしてめでたく、シークレット・スーパースター"は俺の作曲したオリジナルのナンバーでメジャーデビュー。
もちろん売れに売れて、結果彼女はインド最大の音楽賞の女性べストシンガーにノミネートされたのだ。

さて、インシアの御両親はどうなったのか。
俺が紹介してあげた弁護士に彼女は色々とアドバイスをしてもらい、離婚に必要な書類を揃えてもらったようだ。

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しかし、お母さんは離婚はしないと強く言い切ったのだそうだ。
離婚したところで、稼ぎはない。
娘と幼い息子を育てねばならないのに、軽々しく夫と別れることなど、それは却って無責任になる。
しかも学校にも行かず黙ってムンバイまで行ったインシアをお母さんは非難した。

インシアもお母さんは意気地がないと言い返し口論になったらしい。
そこでインシアは大伯母のアーパさんから、15年前のお母さんのことを聞かされたらしいのだ。

お腹の中の子が女の子だと分かった時、親族から中絶を強要されたお母さんは断固拒否し、娘を出産した。
わざわざ"インシア(女の子)"という意味の名前を付けた理由がそこにあったのだ。
生まれる前から、その命を死に物狂いで守ってきたお母さんの「私の女の子」にかける愛情がどれほど深いものか。
それを知ったインシアはお母さんの気持ちを尊重することにしたのだそうだ。

う~ん、なんていい話だ。
インシアよ、お母さんを大切にするのだぞ。


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父親のサウジアラビアの転勤が決まり、家族そろって移住することになった。
インシアも残念ながら歌手の道に進む夢はあきらめた。
俺としては本当に惜しいことだが、仕方がなかろう。
泥棒顔をしたこのオヤジについていって、サウジアラビアで新しい人生を送ってもらいたい。

ところが・・・

ムンバイの空港のカウンターで、荷物が一つ多いので超過料金が発生すると言われたオヤジが目を付けたのはインシアが持参してきたギターだった。
「そんなものは要らんだろ。 捨てろ」と言う。
このボケ。 俺がその場にいたら貴様の両耳に掌底を叩き込んで鼓膜を破壊してやる。 音楽が嫌いなら、貴様の鼓膜こそ不要品だ。

しかし、俺の出る幕はなかった。
娘の愛しんできた宝物、夢と希望の神器。 それをゴミのように言い、捨てさせようとするオヤジに遂にお母さんはキレたのだ。

「サウジアラビアには一人で行って下さい」

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お母さんとインシア、弟はその足で賞の授賞式に向かった。 俺も連絡をもらって合流した。
残念ながらインシアの受賞は叶わなかった。
目が節穴、いや、耳が顔の飾りの審査員がまだいるのか。 嘆かわしいことだ。
まあ、受賞したモナリ・タークルも悪くはないのだがな。

ところがモナリはステージ上でシークレット・スーパースターこそが賞にふさわしいと、受賞を辞退。
関係者席で見守っていた我々は驚いたのなんの。
行ってこいインシア。 あそこが君の夢見た場所。
もう顔を隠す必要ないと、君はプルカを脱ぎ捨ててステージに上がり、見守るお母さんに向けたスピーチを静かに語り始めた。

 
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お母さんはいつも戦っていた。
本当のスーパースターは誰でしょうか?
世界一のお母さん。
あなたこそが隠れたヒーロー。 シークレット・スーパースター。



いかんいかん。 涙腺がダダをこねる。
星飛雄馬のごとく、俺は今、モーレツに感動している。

立派になったインシアの姿とその言葉こそ、若き頃から苦労を重ねてきたお母さんへの、これ以上ない労いではないか。
人生が報われる幸福とは、こういうことを言うのだな。
この母娘だからこそのドリームズカムトゥルーだ。


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さあ諸君。 この先からの私はシャクティ・クマールではなく、シャクティを演じたアーミル・カーンだ。 この映画のプロデューサーでもある。
つまり私はプロデューサーの役を演じたプロデューサーだ。 ややこしい話だよ、まったく。

さて、映画「シークレット・スーパースター」、楽しんでもらえたかな?
ニッポンの諸君、インド映画もいいものだろ?
インドの素晴らしさを分かってもらえたなら、我が国をホワイト国に加えてくれ。 君らに言ってもしょうがないか。

それはともかくも、自分で言うのもなんだが、この映画は大切なことを教えてくれるよな。
これは15歳の少々のサクセスストーリーという単純なものではない。
タイトルがヒロインの母親のことを差し示していることがラストで明かされるように、これは実は娘を支えてきた母の物語であるのだ。

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私はこの映画の中にさりげなくインド社会の風潮に対する問題提起を促したつもりだ。
インドではまだまだ当たり前のように男尊女卑の因習がまかり通っている。

女はバカのように扱われ、犯罪に巻き込まれるケースは女性の方が圧倒的に多いのだ。
そして、ナズマが女の子を妊娠したことから親族に中絶を迫られたエピソードが映画の中で語られるが、これも悲しいかな、選択的女児中絶はいまだにインドで行われている。

宗教上の伝統は尊重したいが、それとこれとは違うだろう。 性別によって取り捨て選択される命などあろうはずがない。
そもそもが女性がいなければ子孫は残せないのだぞ。 女性がいなくなったらどうするつもりなのだ?
インド人は愚かではないと私は信じているし、真の成長を遂げる我が国の姿を国際社会に見せれる日が必ず来ると約束しよう。
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中絶の強要に屈せず、夫の虐待にも耐えながら、子供を守るために日々戦い続けてきた母ナズマ
確かにスーパースターではある。 しかし、それが母親というものだとも言える。
母は皆、シークレット・スーパースターなのだな。
諸君らの母上も皆そうだ。
子供のために我が身を挺する"シークレット・スーパースター"は常にそばにいる。

世の中、女性の権利はまだまだ低い。 そういう世界の中で、子の親となった女性は死に物狂いで戦う。
悪しき因習に抗う守護者であり続け、世界と戦ってきた偉大なる母を讃えたこの物語がきっと諸君らの胸に大いなる啓示となって刻まれるであろうことを願っている。

これから母になるやもしれぬ女子たちよ。 目指せスーパースター。
 
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余談ではあるが、インシアを演じたザイラー・ワシームはこのほど女優を引退すること発表した。
残念だが、信仰はもちろん大事ではあるし、彼女の決断は尊重されねばならない。
いつか、立派な母親となったザイラーの姿を楽しみにしたい。

私か? アーミル・カーンはまだまだ現役さ。
付け足りない筋肉が残っているのでね。
プロテインと二人三脚でマッスル道をこれからも邁進するのさ。
筋肉に愛をこめて。

えっ?映画? ・・・そうだったな。 もちろん本業もバリバリムキムキで頑張るよ。
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「賢人のお言葉」
 
「支配したり服従したりしないで、それでいて何者かであり得る人だけが、本当に幸福であり、偉大なのだ」
 ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ
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他にもこれ観ました  ~8月編 Part3
2019年09月07日

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「よこがお」

 「淵に立つ」(16)・・・ 未だ記憶に新しい衝撃作を撮った深田晃司監督の最新作は、不条理の奈落に堕ちた女の静かな復讐を描くヒューマンサスペンス。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
献身的な仕事ぶりと、温厚で面倒見のいい人柄で、周囲から熱く信頼されている訪問看護士・白川市子(筒井真理子)。
なかでも訪問先の大石家とは家族みんなと交流がある。
ニートだった大石家の長女・基子(市川実日子)も介護福祉士になる目標を持ち、市子はその勉強の手伝いまでしてやっていたが、次第に基子は市子に憧れ以上の感情を抱きはじめていた。

ある日、大石家の次女で中学生のサキ(小川未祐)が行方不明になる事件が起きる。
一週間後には警察によって無事に保護されたが、誘拐・監禁の疑いで逮捕されたのは市子の甥っ子の辰男(須藤蓮)だった。
ニュースを見て衝撃を受けた市子は、サキの母・洋子(川隅奈保子)に説明する機会を逸し、気づいた基子からは黙っていた方がいいと諭された。
市子は事件には全くの無関係であるが、これから結婚を控えている彼女の心は、事件のことが大石家や婚約者に知られる不安で一杯だった。
やがてそれが現実となる。

週刊誌はあたかも市子が犯人の甥っ子を手引きしたのではないかという論調で記事を書いており、これを知った洋子の逆鱗に触れた市子は大石家への訪問を断られる。
さらにワイドショーのインタビューで、モザイク入りながら、ある女性が明らかに市子の人間性を貶める証言をしていた。 基子だった。
連日記者が自宅や職場に押し掛ける。 結婚は破談となり、ケアセンターも辞職した。

半年後。 ある美容院に内田リサという女性が訪れ、米田和道(池松荘亮)という美容師を指名する。
これを機に、リサは和道との距離を徐々に縮めてゆき、やがては深い仲になる。
リサと名前を変えた市子は、基子のカレシが和道だと知っていた。
自由奔放な女に変貌した市子は、自分から人生を奪った基子への復讐を始めるが・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
“無実の加害者”が、あっという間にすべてを失う転落劇。
そこに描かれるのは、普段から見ている正面からでは窺い知れない様々な人の“横顔”という一面。

マスコミはタチの悪いストーカーという横顔をさらし、SNSは便所の落書きに変わる。
当事者の周囲は皆、正面を向いてくれなくなり、プイと横顔を向けたままだ。
市子に一方的な感情を抱き、独占欲が度を越して恐ろしい行動に出る基子しかり。
女子中学生を誘拐する辰男もしかり。
そして、人のために尽くしてきた奉仕者の市子は別人となって、人生を奪った基子への復讐者となる。

半年前・現在という二つの時間軸を行き来しながら別の横顔を見せる市子は、さらに4年後というラストで、また違った一面の横顔を車のサイドミラーに映るラストカットで浮かび上がらせる。
言わずもながら、筒井真理子の神演技にはひれ伏すしかない。
市川実日子も堂々たる実力を見せつける。

世の中の大部分の人は他人の本当の一面を知ることはなかなかない。
そこに悪意のつけこむ隙があり、理不尽な悲劇が生まれることになる。
人間の二面性の不条理をえぐり出す、深田晃司渾身の傑作。
        


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「永遠に僕のもの」

1970年代に世間を震撼させたアルゼンチンの衝撃的な事件をもとに、美しい顔立ちで"黒い天使"と呼ばれた17歳の少年殺人犯の半生を描く青春犯罪映画。
昨年アルゼンチンで最大のヒットなった作品です。
主人公を演じるのはこれがデビュー作であるロレンソ・フェロ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1971年、ブエノスアイレス。
日常的に窃盗を繰り返している17歳の美貌の青年カルリートスは、転校先の学校で野性的なラモンと出会う。
互いに魅せられた二人はチームを組み、銃砲店などから大胆な盗みを重ねるようになっていく。

だがある邸宅に侵入した時、カルリートスは無造作に屋敷の主人を射殺してしまう。
これを皮切りに彼は殺人を繰り返すようになっていくが、その狂った日々は思わぬ形で終焉を迎える・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この主人公のモデルとなったカルロス・エドゥアルド・ロブレド・ブッチは20歳で逮捕された時は巻き毛のブロンドの童顔美少年で、「犯罪を犯す奴の顔って猿みたいな顔してまんねん」ってな説を唱えた"ロンブローゾの理論"を覆した人物であります。
殺人11件、殺人未遂1件、強盗17件、強制わいせつ1件、誘拐2件、強姦ほう助及び強姦未遂1件・・・・・・ クソ野郎やないかい!
当然、終身刑。 現在67歳の彼はハゲ頭で今もムショの中に元気でいます。

この映画でも、平然と人の物を盗み、平然と人を撃ち殺す、カルリートスのサイコパス全開。
ゲイ友まで殺してしまうシーンは狂気。
しかし、ほとんど勢いだけで悪さをしながら、ギリギリのところで逃げおおせる、この男のソツのなさたるや。
彼の両親や、ゲイ友の両親(親父のハミキンにワロた)が、いい脇役ぶり。
        


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「JKエレジー」

【クラッシュビデオ】・・・小動物や植物、食べ物など、形ある物が女性に踏み潰される(破壊される)様を見て性的欲求を満たす目的で作られた動画。
そんなのがあるんだ・・・。

大学へ行くお金のためにクラッシュビデオ出演のバイトをしている女子高生の閉塞状況打破的青春ドラマ。
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群馬県桐生市。 高校三年生の梅田ココア(希代彩)は成績優秀で、大学にも行きたいのだが、生活保護を不正受給している父親と元漫才師のニートである兄が日がなゴロゴロしている家庭では、大学に行くお金などなく、進学など夢のまた夢。
そんな彼女は学校と遊園地の売店のバイトの合間にクラッシュビデオに出演しているという、誰も知らない秘密があった。
最初は兄の元相方であるカズオ(猪瀬広樹)からの頼みで仕方なく出演していたが、今ではあらゆる物の破壊行為にちょっとした快感を覚えている。
奨学金制度に一縷の望みを託して勉強に励んでいたココアだったが、そんな中、クラッシュビデオに出てたことが学校にバレて推薦は取り消しに。
死んだ母親の残したお金を父親が使ってしまい、ビデオ出演で貯めたお金も兄が持ち逃げ。
絶望するしかない状況の中でココアが下す決意とは果たして・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「大人は分かってくれん、でも頑張るよ若人は」という、まあよくある話っちゃあ、そうなんだけど、案外悪くはございませんでした。
なんで観ようと思ったかというと、クラッシュビデオがやはり気になりまして。 しかし、ストーリーの暗喩程度の描写で、さほど深くは突っ込まれてませんね。
父・兄、カズオ、二人の級友、それぞれのヒロインとの絆についても少々掘り下げが甘い点はあります。
でも、これから期待できそうな若い役者さんを観るのも楽しい。
希代彩か・・・、覚えておきましょう。
あと、父(川瀬陽太)と弟(前原滉)のクソぶりが絶妙ですな。
        

 

main ko 
「火口のふたり」

これ、意外に掘り出し物。 想定外の面白さ。
直木賞作家、白石一文の同名小説を、「この国の空」の荒井晴彦監督が映画化した官能のラブストーリー。

伊東ゆかりの『早く抱いて』がオープニングで流れる。
舞台は秋田。
十日後に結婚を控ている直子(瀧内公美)は久々に故郷の秋田に帰省し、昔の恋人の賢治(柄本佑)と再会する。
「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」
直子の婚約者が戻ってくるまでの五日間、二人は肉体の記憶が欲す快楽に身を委ねていく・・・・・

おおおおおお、不倫の映画か!と思うでしょう。
その通りっちゃあその通りなんですが、実はこの二人、「それ、あかんがな!」の関係なのであ~る。 URであ~る、キャンペーン中。

出演者は柄本佑と瀧内公美の二人だけ。 祭りや飲食店のエキストラ、電話の声(柄本明)もありますが、基本は柄本・瀧内だけの二人芝居。

原作は知らない上に、予備知識も入れずに観に行きましたが・・・・
ぶったまげましたねえ。
セックスしてるかメシ食ってるかだけの話。
この二人の関係は映画が始まってすぐに従兄妹同士であることが判明します。

おいおい、まさかな・・・と思ってますと、直子が(隣に座ってと言いたげに)ソファをパンパン叩く。 この仕草がかわいい。
ここから一線を越えた二人はもう止まりません。 とにかくヤッてヤッてヤリまくる。 賢治のチンコが腫れるくらいに。
「賢ちゃん、こすりすぎよ」 やかましわい。

いちいち数えてませんが、セックスシーンが何回あることやら。
「こんなもん、そこらへんのAVと変わらんやんけ」と言われてもしょうがないでしょう。
セックス描写がとにかく露骨で、この二人ホントにヤッてるんじゃ?と思うくらい。
「周りを気にすると興奮する」ということで、バスの座席に座りながら手淫をするという「おまえらアホか」みたいなシーンも。

こういった禁断の恋愛ものは久しく観てなかったので、なんだか新鮮で妙なリアリティが可笑しみを誘います。 事実、これはコメディなのかと見紛うほど笑えるシーンも多々。
残された日数をここぞとばかりに存分にセックスしまくろうという従兄妹のやり取りもまた魅力。
どういうタイミングの時か(ちょっと怒ってる時?)、賢治が突然秋田弁になるところが面白い。 「方言になるの辞めてよ」と突っ込む直子。

絶対こうなってはいけない二人は、その昔、富士山の火口を上空から撮った写真のポスターの前で抱き合った。
いつ噴火するやもしれぬ、噴火すればマグマに呑みこまれる。 そういったタイトロープなつながりだからこそ、愛はさらに燃え上がる。
「人生って、けっこう難しいよね」
        
 

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「ロケットマン」

エルトン・ジョンは好きでも嫌いでもないっすなあ。
いい曲出してますけど、見るたびにチンドン屋みたいな格好をしてる印象が強くてね。
「この人、どういうセンスなん?」とか思いながら、それでもこういう人が名曲を書いたりなさるのですから、アーティストって摩訶不思議。

実在の、それも今も現役の人物を描く映画は普通にありますが、それを自前のナンバーオンリーのミュージカルでやるという所はひとつの冒険。
ヘタすりゃ「不幸自慢」と「成功話のPV」になりかねませんからな。
どころがコレ、なかなか興味深い人間ドラマでして、人というのは普通と違う面があるほど、それだけ生きていく上では苦悩することも多いということがよく分かります。

こんな超能力者みたいな人間がいるんだなと驚愕せずにはいられない、エルトンの幼少時の絶対音感エピソードが凄すぎますが、当の彼が本当に欲しかったものは愛情。
父親はハグさえしてくれずに「あっち行け」だの「静かにしろ」だのとしか言わずに、結局母と別れて家を出ていってしまう。
この経験が、人から愛されたがる気持ちの強いエルトンを形成していったようです。

作詞家としての長年のパートナーであるバーニー・トービンやマネージャーで“恋人”だったジョン・リードとの関係も深く描かれ、売れれば売れるほど孤独になってゆき、薬に溺れていくエルトンの浮き沈み人生のドラマに引き込まれます。
自殺未遂をやらかした二日後にドジャースタジアムでライブを行う「ロケットマン」熱唱のシーンこそが見せ場とは思いますが、ここをもっとガッツリやってくれればなとは思いましたが。

演じるタロン・エガートンのこれまた歌唱力の達者なことといったら・・・。
売れたなあ、この人。 

        

 
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「ブラインドスポッティング」

黒人ラッパー兼俳優のダヴィード・ディグス。
ヒスパニック系白人の舞台脚本家ラファエル・カザル。
長年の友人である二人が脚本・主演を担当した映画で、オークランドに暮らす黒人と白人の幼馴染二人の友情と葛藤を通して、アメリカの現実を浮き彫りにする社会派ドラマ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
全米で最も人種的に多様なオークランドが地元の黒人コリン(ダヴィード・ディグス)は暴行の罪で服役して刑期を終え、あとは指導監督期間の残り3日間を無事に乗り切らなければならない。
コリンと幼馴染で問題児の白人マイルズ(ラファエル・カザル)の2人は引っ越し業者で働いているが、ある日、帰宅中のコリンは突然車の前に現れた黒人男性が白人警官に背後から撃たれるのを目撃する。
これをきっかけに2人はアイデンティティや、急速に高級化する生まれ育った地元の変化などの現実を突きつけられ、次第に2人の関係が試されることとなる。
コリンは3日間耐えれば自由の身として新しい人生をやり直せるのだが、問題児マイルズの予期できぬ行動がそのチャンスを脅かす・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

♪ Yo Yo!
この映画マジでCOOL!
マイハートにグサリと来~る!
ホットな友情伝わるソウル! Yo Yo!

♪ Yo Yo
アメリカの現実ぅ! 社会の真実ぅ!
目をそらすなクソ差別ぅ!
二度づけ禁止の串カツぅ! Yo Yo!

♪ Yo Yo!
世の中やはり持つべきは友! かけがえない友!
友と朝まで飲も! スモモもモモも桃の友!
友!もっと友! ももっと! ともっと! トマトはトメイトォ!
トルネードは野茂! タモさんはいいとも! 牛はモー!
もうワケわからん独り相撲! Yo Yo!

♪ Yo Yo!
俺のショボいラップで伝わるか感想!
ともかく観てくれ男の友情! 波瀾万丈!
ヤクもハジキも差別もみな一掃!
クソの時代を爆走! これが奴らの人生道!
約束するぜ熱い感動! Yo Yo!


すいません。 よくわかりませんね。

小粒ながらもギューッと中身の詰まった良作。
オークランド愛がヒシヒシ伝わりますねえ。

銃社会を象徴する、あのシーンにはハラハラ。
ラップを武器にして怒りをぶつけるクライマックスには超感動!

        


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「トールキン 旅のはじまり」

映画「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの原作「指輪物語」の著者として知られる作家J・R・R・トールキンの激動の半生を映画化。
名作に大きな影響を与えた彼自身の愛や友情が明かされる伝記映画です。
トールキンを演じるのは「女王陛下のお気に入り」のニコラス・ホルト。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第一次世界大戦、フランスのソンム。
出征したトールキン(ニコラス・ホルト)は激戦の戦場で行方の知れない友人ジェフリー(アンソニー・ボイル)を探し求めていた。
トールキンは幼くして父を亡くし、12歳の時に母も病気で亡くなった。
後見人となったモーガン神父(コルム・ミーニイ)の世話で上流階級の子弟が通うキング・エドワード校に入学。
そこでトールキンは親友となるジェフリー、ロバート、クリストファーという3人の学友と出会い、秘密クラブを結成。 さらにエディス(リリー・コリンズ)という女性と愛を育む。
だが、オックスフォードに入学して才能が花開こうとした時、大戦が始まってしまう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どこか「スタンド・バイ・ミー」的な青春映画を思わせる友情の物語でして、全編に著書の元ネタっぽいものが散りばめられているのを感じ取るとニヤッとしてしまいますね。

「仲間」というのが一番のキーワードでしょうか。
ジェフリーがアラゴルンとして投影されてるのかな?
だとするとロバートやクリストファーはサムかレゴラスか。
神父さんは明らかにビルボ・バギンズですね。

伝記ものとしてはトールキン本人の実像に迫り切ってはおらず、それよりかは「ホビットの冒険」、「指輪物語」の誕生秘話と言った方がいいかも。

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ワイルドライフ
2019年09月02日

T0024013p.jpg家族の光景は不変ではない。
個人の人生が移ろいゆくものである限り、家族という姿は一生同じ形では終わらない。
壊れやすいほどに脆く、いつでも生まれ変われるほど強い。

****************
平凡だが幸せだった家族は父の失職を機に次第に壊れ始める。
危険な出稼ぎに出ていく父。
やむを得ず働きに出る母と14歳の息子。
生活は安定を失い、気持ちがバラバラになって、もう二度と元の姿に戻らぬ家族の姿を見つめる息子は少しずつ大人になっていく・・・

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そんな映画を撮ったのが俳優のポール・ダノ。
クセモノ役者としては五指に入る個性のカタマリ。

「リトル・ミス・サンシャイン」の筆談少年。
「ゼア・ウイル・ビー・ブラッド」のインチキ宣教師。
「プリズナーズ」の知的障害者の青年。
「それでも夜は明ける」の差別主義者の農園監督官。
・・・普通の役もやってるのだろうが、心の奥底をざわつかせる演技で魅せてきたポール・ダノが映画監督デビュー作でまたもや我々をざわつかせる。


1960年代。 モンタナ州のグレートフォールズに暮らしているブリンソン一家。

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ジェリー(ジェイク・ギレンホール)、母ジャネット(キャリー・マリガン)、息子ジョー(エド・オクセンボールド)の3人家族。

父はプロゴルファーになる夢に挫折し、ティーチング・プロとしてゴルフ場に勤めている。
それまでに何度か仕事を辞めては、また新しい仕事に就くと、それに併せて家族は引っ越しを繰り返してきた。
今のモンタナも越して来てまだ何年も経ってはいないが、ようやく家族はその土地に慣れてきた頃だった。

確かに裕福とは言えない生活である。
それでも両親は仲睦まじく、二人でキッチンに立って寄り添いながら、料理を手伝う父と楽しそうに話す母の姿を見ると、ジョーは幸せな気持ちに包まれるのだった。
しかし、そんな愛おしい日々が突然終わる。

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僕はブリンソン家の14歳の息子。
名前はジョー。 なんでそんな平凡な名前を両親は付けたんだろうか。
両親ともにイニシャルが「J」だから、息子も「J」にしたかったのかもしれないけど、ジョー以外他になかったのかな。

クラブではアメフト部に所属。 父さんは僕が将来アメフト選手になってほしいようだけど僕はガッツリ補欠だよ。 そんな才能はないよ。
母さんは元代用教師だったこともあって、僕にもっと勉強に時間をかけてほしいと言う。
母さんが熱心に勉強を教えてくれることもあり、僕の成績はいつもトップで、飛び級でもやれるくらいだ。

父さんはプロゴルファーを目指していた人だから、スポーツでメシを食う男にステイタスを感じるのだろう。 と、言うより、勉強が苦手だった自分にコンプレックスがあるんじゃないかと思う。

スポーツができても学歴がないと社会は厳しい。 仕事が長続きしない父さんはそれが身に染みている。
スポーツはできなくても学歴があれば社会は順当に渡っていける。 母さんはそれをよく分かっている。
だから僕の教育方針では意見が合わないみたいだけど、それを除けば二人は本当に仲の良い両親で、僕はこの父さんと母さんの子に生まれて本当に良かったと思うんだ。

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僕は学校ではこれといった友人がいない。
未だに新しい学校に慣れずに、人の輪になかなか入り込めないんだ。

父さんはアドバイスしてくれた。
「個人的な質問をしてみろ。 みんな、自分のことを語りたがるもんだ」
なるほど。 ゴルフ場でティーチング・プロをしている父さんの経験だね。

僕も父さんの仕事場でバンカー整理とか清掃とかを手伝ったことがあって、お客さんにコーチをする父さんがけっこう親しげに話しこんでいたりしてるのを見たことがある。
実はこれが良くなかったんだろうか?
ある日、父さんは支配人に呼び出されて仕事をクビになった。

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父さんは淡々としていた。
こういうことには慣れっこなんだろう。

支配人から「コーチの立場をわきまえていない。 客とつながりすぎてる」と言われたらしい。
賭けゴルフに関わってるんじゃないかと思われたようだ。
そんな濡れ衣よりも、「退職金が80ドルちょっとかよ」と父さんはそっちの方にブツクサ言っていた。

それから間もなくして、ゴルフ場から解雇を撤回する電話がかかってきた。
「我々がまちがっていた。 戻ってくれ」
よかった・・・。 また父さんは仕事に戻れる。

だけど父さんはなぜか意地を張った。
「話すことなんかあるか。 あんな連中とはマッピラだ」
なんでだよ・・・。

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ぶっちゃけ、うちはそんなに余裕がないらしい。
父さんは次の仕事に関してあまり焦ってる様子もない。
母さんが自分も仕事を探すと言い出す。 それはしょうがないよね。

「どこかあるでしょ。 スーパーのレジ係でも」
「レジ係? そんなもん子供のバイトだろ」
レジ係だって立派な仕事だよ、父さん。
「好きにしろ」

母さんは色々回ったけど、どこも間に合ってるみたいで苦労していたが、ようやく水泳教室のコーチという仕事に就いた。
複雑だったろうな。 人に勉強を教えれるくらいの学があるのに、父さんの前職と同じのスポーツのコーチになるなんてさ。

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父さんは心が折れてしまったんだろうか。
仕事を探しに行くでもなく、毎日家の中でゴロゴロしてるだけだ。
今まで何度仕事を辞めたのかは僕もハッキリとは知らない。
辞めては探すことの繰り返しの人生に疲れたのかもしれない。

母さんは最初は耐えていた。
「失業しても彼はすぐに仕事を見つけてきたわ。 今回も信じましょ」

だけど父さんの腰はいつになっても重いままだった。
母さんだけを働かせてる訳にはいかない。
僕はアメフト部を辞めた。 バイトを探した方がいい。

それを知った父さんは母さんと口論になった。
「俺を追いつめるな!」
「そろそろ現実を見つめてよ!」

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僕は写真館のバイトに採用された。
写真館の主人は言った。
「人は善きことを記録するために写真を撮る。 幸せな瞬間を永遠に残そうと。 私たちの仕事はその手伝いだ」

写真館を訪れるのは圧倒的に家族連れが多かった。
幸せな瞬間を残そうと。
みんながレンズに向かって笑顔を向ける。
僕ら家族にも、みんなが笑顔だった時は確かにあったのだけれど。

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父さんが山火事の消火活動に参加すると言い出した。
時給1ドル・・・。 それって服役囚の人が更生プログラムの一環でやってるやつだよね。 一般の人でも参加できるの?
いや、そんなことより、なんでそんな危険な仕事を父さんは選んだんだろうか。

「国の力になりたいんだ」 家族の力になってくれよと僕は言いたかった。
母さんもさすがに黙っていなかった。
「あなたは逃げてるだけよ。 いいかげん大人になって。 時給1ドルなんて、死ぬかもしれないのに馬鹿げてるわ」
「人を茶化すな!」

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父さんが出発する日、見送りに行った。 もちろん母さんは来なかった。
「母さんを怒らせる気はなかった。 心の声が何かしろと言う」

プロゴルファーの夢に破れ、仕事も住居も転々として家族に負担をかけてるのが父さんなりに辛かったのだろうか。
ゴルフ場を辞めてから、どうしたらいいのかとそればかり考えてたんだろう。 今までと同じように、「また新しい仕事を見つけりゃいいだろう」とは割り切れなかったんだ。
夫として父親として、それまでの自分とは違う、新しい方向を模索し続けたんだろうけど、結局は分からなかったのかも知れない。
だから、タダみたいな報酬で危険をかえりみずに国の役に立っている男として虚勢を張る方に逃げたんだ。

とにかく無事で帰って来てくれればいい。

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母さんに誘われて山火事を見に行った。
どういうつもりなのかは分からない。
牧草地を抜け、山に近づくにつれて煙が濃くなってくる。
やがて到着した現場で、森林を呑み込むように炎が燃え広がっていく山肌を僕はじっと見つめていた。

「この炎が彼を駆り立てる・・・。 理解できないわ」
あきらめた表情で母さんはつぶやいた。

帰りに立ち寄ったダイナーでウエイトレスを見ながら、母さんはジャネットという自分の名前がウエイトレスみたいで嫌いだと言った。
何の話なんだよ。 母さんのどこか投げやりな表情が僕は嫌いだ。
「こんな寂しい場所に引っ越すんじゃなかった。 人生やり直すのに34歳じゃ遅すぎるわ。 いえ、50歳っていうべきかしら」
母さんが、こんな冷めた顔をするんだと知った。

「どうせ、お父さんには女がいるのよ。 そう思わない?」
「そんなことない。 大丈夫だよ」
「ひよっ子に何が分かるのよ」


そのあと僕は、母さんだって逃げてるじゃないかと気づくことになる。

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父さんを見切って、違う男に行くことにしたらしい。
以前に家に来たことがあるミラー(ビル・キャンプ)という人は車販売店のオーナーをやってる人で、水泳教室で知り合ったそうだ。 戦争で負傷した足を引きずっており、いかにも成り金みたいな風貌だけど、人当たりは悪くない。
母さんはただの友人と強調してたが、派手な化粧をして頻繁に出かけるようになった。

水泳のコーチを辞めてミラーさんの会社に雇ってもらうのだと母さんは言ってた。
でも僕は、その車販売店を訪ねたことがある。 母さんは雇われてなんかいない。
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ミラーさんの自宅に食事に招かれた。
いつどこでそんなドレスを買ったんだというようなオメカシをした母さんは、遠慮なく父さんに対する愚痴をみっともなくこぼしつづける。
ミラーさんから、行きたい大学を尋ねられて僕は「ケンブリッジ」と答えれば、「貧乏人は貧乏人のままよ」と母さんは冷たく言い放つ。
母さんが今の状況に絶望しまくっているのがよく分かる。

酔った母さんはレコードをかけて、チャチャチャを踊り出し、嫌がるミラーさんを誘って、僕の目の前で口づけまでした。
情けない気分で一杯だった。 現実から目を背けて逃げる母さんを見てるのは居たたまれない。

遂には、母さんの部屋から裸のミラーさんが出てきたのを、夜中に目が覚めた僕は見てしまった。
「父さんを愛してるのか」 僕は聞かずにいられなかった。
「もう死にたい。 他の道があるなら教えて」
「わからないよ」

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父さんが帰ってきた。 モンタナはもうすっかり冬だ。
また親子3人揃う時間ができれば、なんとかなるんじゃないかと僕は思っていた。

父さんが嬉しそうに「ロッキー山脈の森林局の仕事が決まった」と言う。
ロッキー山脈って・・・。 
「ジョーの部屋もあるぞ」 また引っ越すのか・・。

やがて母さんは切り出した。
「いろいろ整理したいの」
「整理したい・・・? 男ができたか!?」

僕は父さんを落ち着かせるために説明したけど、それが逆効果だった。
ミラーさんの家に向かった父さんは玄関に火をつけた・・・。
こないだまで山火事を消してた人が・・・。

ミラーさんは父さんを告発しないと言ってくれたが・・・。

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僕たち家族はどうしてこうなってしまったんだろうか。
裕福でなくてもそれなりに幸せだった。
両親も仲が良く、僕も両親が好きだった。
この家族は最高だった。

「どうなるの? 僕ら家族はどうなるの、母さん?」
「わからない・・・」


どれくらいの月日が流れただろうか。
両親は離婚し、母さんはオレゴンのポートランドで暮らしている。
セールスマンになった父さんと暮らしている僕は写真館でそのまま働いている。

週末。 僕は母さんを呼んだ。
そして親子3人で写真館に行った。

今が幸せな瞬間じゃないけれど、でも、かつて僕らは幸せな家族だったのは確かなんだ。
人生は何が起こるか分からない。 その中で、一度壊れた家族だけど、何が起こるか分からないから、また元に戻るかもしれない希望を僕は信じてるよ。
これからどうなるか。 未開の人生を生きている僕たちの記念写真を撮ろう。
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家族も所詮は個人個人が人生を営んでいく者の集合体。
とはいえ、誰か一人の人生に不都合が生じた時、他の者も知らぬ存ぜぬは効かずに必然的に巻き込まれていく。 それが家族の定めだ。

生活している以上は、自分でコントロールができないところで人生が狂うこともある。
突然の嵐が吹き込み、目の前にあったはずの人生のレールという道が消失し、ただ生き延びることにガムシャラにならねばならない苦難を味わう家族は少なくない。

大都会であろうと、未開の自然の地であろうと、予測不能の人生を生きていく我らは皆、“野生動物”(「WILD LIFE」)。
理想を求めて、内から突き上げる本能が正解のない生き方を探ろうともがく。
人は誰もが人生のサバンナの迷い子。

飼い慣らされることを拒んだ父ジェリー
夫の"飼育"から決別した母ジャネット
そして家族の現実を知って、独り立ちのために檻から出た息子ジョー

彼らもまた、未知なる試練に立ち向かうワイルドライフ。


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リチャード・フォードの原作を脚色したゾーイ・カザンのソツのないシナリオ。
視点を意識した緻密なショットが積み重ねられるカメラワーク。

一家庭の移り変わりという質素なストーリーを端正に撮り上げていったポール・ダノの初メガホンは実にファンタスティック。
意外な才能が眠っているものだ。

ジェイク・ギレンホール、キャリー・マリガンのアンサンブルほど鉄板な物はナシ。
ポスターのカットにも使われている、あのラストの、ちょっとだけ視線を交わすシーンは絶品。

それよりもサプライズだったのは息子役のエド・オクセンボールドだろう。

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ちょっとズルいんじゃないかというほどのピュアすぎる風貌が大きな武器になっているのは誰の目にも明らか。
柔らかな眼差しをしているのに、時として、その目線が心情を強く叩きつけてくる。
この独特のキャラクターは貴重だ。

M・ナイト・シャマランの「ヴィジット」のラップ少年がここまで化けるとは驚き以外何ものでもない。
メルボルンの18歳、恐るべし。



「賢人のお言葉」
 
「人生の目的は悟ることではありません。 生きるんです。 人間は動物ですから」
 岡本太郎

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他にもこれ観ました  ~8月編Part2
2019年08月28日

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「隣の影」

お隣りさんに関心がないのに、隣人トラブルが多いという不思議な昨今。 人のことを気にしない分、それだけ自分勝手なことをやる人がいるからでしょうか。
「世界で最も住みやすい国ランキング」の常に上位にいる国アイスランドからやって来た、隣人トラブルをテーマにした恐ろしいサスペンス。
・・・・・・・・・・・・・・
そのお隣りさん同士とは、分かりやすく書くと、ジーサンとバーサンの老夫婦が住んでいる家。
片やオッチャンとオバチャン(奥さんは多少若い)の中年夫婦が住んでいる家。
この両組が塀を隔てて醜いイガミ合いをおっぱじめるのである。

中年夫婦のオバチャンは毎朝、飼い犬と共にサイクリング。 昼からポーチで日光浴。 しかし、隣の老夫婦の家の庭に立っている大きな木が日差しをさえぎっておりストレスが溜まっていた。
木の枝を手入れしてくれと中年夫婦からやんわり言われてジーサンの方は「いいよ」と言うのだが、バーサンの方がどえらい剣幕で「あの木には触らせない」と猛反対し、あんたこそ犬をちゃんとしつけろとオバチャンに向かって犬のウンコを投げつける。

翌日、老夫婦の車のタイヤが全パンク。 中年どもの仕業だなと思うが証拠がない。
それならとジーサンも庭の木を切るために頼んだ庭師をオッチャンの見てる前で追い返す。
ジーサンは玄関に防犯カメラを設置。
やがて、老夫婦の飼い猫が行方不明になる。
怒ったバーサンはとんでもない行動に打って出る。 これがかなり怖い。 信じられないほどの暴挙。
オバチャンはショックで倒れ、オッチャンは遂にキレた。

老夫婦の家には丁度その頃、元カノとのセックス動画を観てて妻に追い出されたボンクラ息子が帰ってきて居候しており、庭に張ったテントに寝泊まりして中年夫婦の行動を見張っていたのだが、これが皮肉にも取り返しのつかない悲劇を生むことに。
・・・・・・・・・・・・・
気になったのはバーサンがどうしてああも庭の木を触らせたがらないのか?
劇中に出てくる老夫婦の息子は次男で、実は長男が何年か前に失踪しております。
いや・・・次男は「兄貴は自殺したんだよ!」と母親に怒鳴ってましたが、「失踪」というのは長男の自殺を受け入れられずにいる母親が言ってる世迷い言か?
そこら辺の真相が不明で、これと庭の木に何か関係があるのかと勘ぐってましたが、結局それはあまり関係なし。
観たまんまの話です。
予想通りというか、映画的には「やっぱりそうなりますか」というクライマックスを迎えます。 面白い映画ですが、もうひとヒネリ欲しかった気もしますね。
        


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「ピータールー マンチェスターの悲劇」

今から丁度200年前のイギリスで起きた史上最も残忍で悪名高い事件"ピータールーの虐殺"の全貌を名匠マイク・リーが史実に忠実に再現した歴史ドラマ。

それが起こったのは1819年。
ナポレオン戦争も終結し、勝利したイギリスですが、市民のふところはギリギリでした。
1815年に制定された「穀物法」は国外からの安い穀物の輸入を制限し、農民を守るための法律でしたが、結果的にパンに課せられる税金が上がり、人々の生活はかなり苦しくなっていたのでした。
それに加え、選挙のシステムを変えるべきだという声も高まっており、あちこちで抗議運動や集会が行われていました。
そして、マンチェスターのセントピーターズフィールドにて大規模な集会とデモ行進が行われることが決まり、カリスマ的な活動家であるヘンリー・ハントも招かれて演説することになったのでした。

1819年8月16日。
集会には6万人の民衆が集まっていました。
反乱を懸念した治安判事はヘンリー・ハントの逮捕状を発行。
彼が演説を始めると同時に、集会を解散させる法令である『騒擾(そうじょう)取締り令』を判事が宣言。
直後、地元の義勇農騎兵団と銃で武装した騎兵連隊が民衆の中に突入して虐殺が始まり、広場はあっという間に地獄絵図と化すのです。


マイク・リーはこの事件を映画化するにあたり、あえてこれという主人公を置かず、視点を偏らせることなく、ドラマティックな味付けも排除して、パノラマ的に史実を語っています。
これがいいのか悪いのか。
とにかくやたらに集会と演説のシーンが多く、物語としては時間の流れが非常に緩慢で、あまりに話が進行しないので多少のイラつきを覚えるのも事実。
とにかく忠実にというのも分かりますが、結果が分かっている物語を観るには、少々盛ってもいいからエモーショナルなキャラクターが欲しいですね。
同じ仲間でも「お前らと一緒にすんなよ」みたいな風を吹かすところが鼻につくヘンリー・ハントなんか、もっとイジったらと思うともったいないですねえ。
        


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「ワイルド・スピード/スーパーコンボ」

これに関してはアッシは怒っている。
面白いとは思いますよ。 単体作品として観れば。
納得できないのは「ワイスピ」を名乗ってること。
そりゃシリーズに登場したホブスとショウが出てんだからスピンオフとうたうのは間違いじゃないけど、これは「ワイスピ」じゃないよね。

予告編を観た時から大方の予想はついたけど、ロックとステイサムの肉弾アクションをやりたいのなら、よその作品でやってちょうだいな。
何よりも車の出番がまるで少ない。
マクラーレンが申し訳程度のカーチェイスをやるだけ。 「そんなの有りか」みたいな動きをするバイク相手に。

シリーズでは絶対のお約束だったダッジやポン車は影さえ出てこない。
まあ、ドムが出てないんだからダッジに関しては別にいいが、それにしたってカーアクションをないがしろにし過ぎちゃいませんかね。
スピンオフなんだから割りきれってことですか。 はい分かりました、割りきりましょう。

それにしても、どんどんスケールは大きくなっていくし、キャストも豪華になっていく。
ライアン・レイノルズやヴァネッサ・カービー、さらには脱獄したショウママのヘレン・ミレンも本格的にシリーズ参戦でしょうか。 シャーリーズ・セロンも再登場するでしょうね。
でもなんか違うなあ。 ここらで一回原点に立ち返ってほしい気もする。 それか、終了するかだ。
ポール・ウォーカーが亡くなった時点でそうするべきだったね。
        


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「イソップの思うツボ」

「カメラを止めるな!」の監督、上田慎一郎と「カメ止め」で助監督をしていた中泉裕矢、スチール担当だった浅沼直也の3人が共同で監督を務めたトリックムービー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カメだけが友だちの内気な女子大生・亀田美羽。 彼女が通う大学には日本一の仲良し芸能一家の娘・兎草早織もいる。
ある日、大学にイケメンの八木圭佑という臨時講師がやってきた。
恋愛体質の早織は早速積極的に圭佑にアプローチ。
美羽も圭佑のことが気になりながらも、あれよあれよという間に圭佑とうまくデートまで漕ぎつけた早織を羨ましそうに見ているだけだった。

カメが空から降ってきたという奇妙なニュースが流れていた頃、早織の母親はある人物と浮気をしていた・・・
翌朝、とある山の中で男が足を縛られたままバギーに引きずりまわされていた。 それは早織の父・信司が雇った復讐代行屋・戌井連太郎と娘の小袖による、信司の妻の浮気相手へのお仕置きだった。

パリに留学したい小袖のために1000万円が必要な連太郎は、昔一緒に組んでいた札付きのワル、近藤から金を持ち逃げしていたが、突然現れた近藤に金の返済と共に新たな仕事を請け負うことを要求される。
それは仲良し芸能一家の兎草親子3人の誘拐だった・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この映画、どう説明していいものやら・・・。
イケメン講師に恋する対照的な二人の女子大生の三角関係のドラマ?などという安い話ではないのは予告編などから百も承知。
「カメ止め」のクリエイターの新作ってことで、どんな仕掛けがあるのかとワクワクしながら拝見しましたが、「カメ止め」と比べるのは酷ってもんで、あまり期待値を上げるとビミョー。

中盤からゲキ的にガラの悪いムードになり、誘拐という物騒な展開の犯罪ドラマに移行しながら、最初のキャンパスストーリーを前フリにした意外な復讐劇の真相が明らかにされていくという、どんでん返しが待っているのですが・・・。

こういう伏線だらけの話ってのは、ネタばらしのタイミングが難しいってのが痛感しますねえ。
人によっては「そんなの最初っから気づいてたよ」と「全然気がつかなかった」という部分がおそらくマチマチになるでしょう。
それほど伏線の張り方は多少甘いと思います。
ですから、「今そこでバラすと面白くないんじゃ・・・」みたいなとこもあるのね。
それと悪人のリアリティのなさが決定的に致命的。
        


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「ダンスウィズミー」

「ウォーターボーイズ」、「スウィングガールズ」の矢口史靖監督の最新作は、「なんでミュージカルって、さっきまで普通に喋ってたのに突然歌いだしたり踊ったりするの?」という疑問に答える?ミュージカル映画。
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OL鈴木静香(三吉彩花)はミュージカルが大の苦手。
ある日、姪っ子と一緒に訪れた遊園地で、怪しい催眠術師マーチン上田(宝田明)に「音楽が聞こえると歌い踊りだしたくなる」催眠術をかけられてしまう。
そのせいで静香は会社で会議をぶち壊したり、憧れのエリート社員・村上(三浦貴大)に誘われて出かけたレストランでも大暴れ。
分かっているのに体が言うことを聞かず、このままではマトモに生活ができないと途方に暮れる静香。
こうなれば催眠術をかけたマーチン上田に解いてもらうしかないが、本人は夜逃げしたばかり。

マーチンのサクラをしていた斎藤千絵(やしろ優)をつかまえ、興信所の調査員・渡辺義雄(ムロツヨシ)に捜査を依頼。 新潟までの足取りはつかめたが、興信所への追加料金が払えずに止むを得ず、静香は千絵と一緒にマーチンを探す旅に出る。
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三吉彩花って、あまりよく知りませんでした。
「いぬやしき」でノリさんの娘を演じてた子? ああ、あの子ですか。 もう覚えました。
この子、手足が長いねー。 歌って踊れば、なおのことそのプロポーションが生きてくる。

ただ案外にミュージカルシーンが少ないよね。
突然歌って踊り出すのをギャグにしたいのか、一応ちゃんとやりたいのか、そのバランスが難しかったかと思う。
中途半端な描写に終わったヒロインのトラウマ克服エピソードはいっそのこと端折って、もっとお笑いに振り切ってほしかったかな。

気になったのはヒロインの住んでるタワーマンション・・・
家賃おいくら? 東京の相場は知らんけど立地からしたら20万は切らんでしょ。
勤めてる会社の給料がすごいのか?
        

 
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「命みじかし恋せよ乙女」

2018年に逝去した樹木希林の遺作にして世界デビュー作。
ドイツと日本を舞台に、自分を見失ったドイツ人男性の人生を変えた出会いを描く物語。
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酒に溺れ、仕事も家族も失ったドイツ人男性カール(ゴロ・オイラー)のもとへ突然、ユウ(入月絢)と名乗る日本人女性が訪ねてくる。
風変わりなユウと過ごすうちに、人生を見つめ直し始めるカールだったが、その矢先、彼女は忽然と姿を消してしまう。
ユウを捜しに訪れた日本で、カールがユウの祖母(樹木希林)から知らされたのは、驚きと悲哀と感動に満ちた物語だった・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この映画は2008年公開の同監督による「HANAMI」の続編的な位置にある作品。
その前日譚を観ていないのがアドバンテージになるのか何とも言えないところ。
主人公の人生再生を怪談噺のアプローチで綴っていく心理ドラマですが、いまいち自分にはハマらなかったですね。
兄とも姉とも仲が悪く、溺愛された親の期待を裏切り、その死に目にも会えず、果ては妻子とも縁を切られるこのダメ男のフワフワな自分探しにどうもついていけず。 そりゃあ亡霊も引っ張りに来るわな。

希林さんは終盤に登場。
彼女は本作の撮影から2ヶ月後に亡くなっている。
その彼女の、線香花火で言うところの「散り菊」と呼ばれる最後の瞬きを思わせる演技を見届けただけですべて良し。

小津安二郎の「秋刀魚の味」(62)で、杉村春子の付き人をしていた希林さんが訪れた撮影現場が神奈川県の茅ヶ崎市の「茅ケ崎館」。
その「茅ケ崎館」にて希林さんが最後を飾るとは感慨深いですね。

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他にもこれ観ました  ~8月編 Part1
2019年08月25日

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「チャイルド・プレイ」

可愛いかと言われるとそうでもない子供型のお人形さんに殺人鬼の魂が宿り、人を殺しまくるという30年前の傑作ホラーのリブート版。
1作目のヒットからその後6本の続編が作られましたが、個人的には、4作目の「チャイルド・プレイ/チャッキーの花嫁」(98)が好き。 笑うで、あれは。

今度のチャッキーは現代っぽくAI搭載のハイテク人形。
スマホのアプリから様々な設定ができるというスグレモノ。 後ろ髪が長いっ!
リブート版では殺人鬼がどうのこうのという設定ではありません。
製造元のベトナムの工場で、作業員が上司にドヤされた腹いせに設定をいじくって、そのまま自殺してしまうのであります。
その“不良品”の一体をつかまされた(というより、母親が持ち帰ってしまった)ために、子供がどえらい災難に遭いなさるというわけ。

人形のチャッキーは主人公の少年アンディ君のご機嫌をとるために人殺しも厭わない。
アンディ君を傷つけたり悲しませたりするような奴をチャッキーは容赦しないのだ。
アンディ君の手を引っ掻いた飼い猫でさえも犠牲になる。

前シリーズでは人形の中に殺人鬼という人間の思考があるがために、ブラックユーモアや悪趣味なギャグなどがセリフにもどんどん出てきたけど、融通が効かなくなったAIの暴走である今回はそういう毒っ気があまりないですね。
アンディ君を独り占めしておきたくて、善悪の区別がつかなくなった極単思考マシンのズル賢いバカ真面目の恐ろしさをチャッキーの特色にしたのがリブート版のコンセプト。
でもこれはこれでいいのではと思えるほど、観終わった後はまずまずの満足感が来ます。

ひとつ言うならば、ストーリー上のこととはいえ、なぜこの人形が大人気でバカ売れしているという設定なのか? 売る方も買う方も、アメリカ人の玩具に対するセンスがよく分かりませんね。

監督はラース・クレヴバーグ。 
この人が本作のオファーを受ける2年前に撮ったハリウッドデビュー作が、次に紹介する「ポラロイド」です。
        


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「ポラロイド」

日本では幕末の頃。 「写真」というものが初めて世に出た時、当時の人は「写真を撮られると魂を吸い取られる」と本気で信じていたそうな。
微笑ましいのぉ、などと言ってられません。
こちらのホラー映画は、そういう話。 写真に撮られたら終了でございます。
「シャッター」(08)っていう映画もそんな話じゃなかったっけ?
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写真が趣味の女子高生バードはアルバイト先の同僚から、ビンテージ品のポラロイドカメラをプレゼントされる。
さっそく仮装パーティーでクラスメイトたちを撮影するのだが、写真には奇妙な黒い影が被写体の人物にまとわりつくような感じで写りこんでいた。
やがて写真に撮られた者たちが、その後次々と無残な死を遂げていく。
クラスメイトたちの死の原因がポラロイドカメラにあると確信したバードはその謎を突きとめようとするが、彼女にも死の恐怖が迫っていた・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ポラロイドカメラは撮ったその場で写真のプリントが出来上がりますから、このホラーはそこをうまく突いてますね。
写真に写った影は被写体の人物が死ねば、次のターゲットの所に移動する。 写真に撮られた人たちに、次は誰が殺されるかを"お知らせ"してくれるのだから親切なもんですな。

次は自分の番だと知った者が恐怖のあまりに「くっそー、こんな写真、処分してやるぅ」なんてことをしようとしても無駄。
たとえば写真を燃やそうとしたら、写真に写ってる人の体まで燃えだすというガチの呪い。
人物の写ってる部分をビリッビリに破いたら、ご想像の通りの惨劇が待っております。

劇中でヒロインが手にするポラロイドカメラには、実は恐ろしい怨念がこもっており、写真に撮られた人物を殺していくモンスターが後半から登場。
幽霊とかいうのとはチョット違っており、ハッキリと実体がありまして、これがなかなかのブキミさ。 しかもちゃんとした弱点もあります。
ところどころ妙なオマヌケ感があるホラー映画です。

出演者はほとんど無名の人ばかりですが、「X-ファイル」のスキナー副長官のミッチ・ピレッジが出ております。
        


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「アルキメデスの大戦」

今やVFX映画の第一人者と言ってもいい監督・山崎貴が三田紀房原作の同名コミックを映画化。
戦艦大和の建造計画の裏に隠された不正を暴こうとする若き天才数学者の奮闘を描く歴史大作。
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太平洋戦争開戦の1945年からさかのぼること12年前。 欧米との対立が深まり、軍拡路線を歩み出した日本では老朽化した戦艦金剛に代わる新造戦艦の計画が秘密裏に進行していた。

しかし、海軍省内では意見が真っ二つに分かれていた。
「これからの海戦は航空機が主流になる。 巨大戦艦の建造など国家予算の無駄使いだ」という建造反対派(山本五十六少将、永野修身中将)。
対して「砲撃こそ海戦の真髄。 巨大戦艦を建造すれば敵国に効果的な圧力を与えることができる」という建造推進派(嶋田繁太郎少将、平山忠道中将)。

反対派としては、推進派が出した見積もり額の嘘を決定閣議にまでどうしても暴きたいところ。
山本五十六が目を付けたのは料亭で出会った、元帝都大学の数学者・櫂直(かい・ただし)。
「数字は嘘をつかない」
数学と美を寵愛し、常に巻き尺を携帯して美しいものを計測したがる変人であるが、大学内では100年に一人の天才と言われていた。

超速かつ正確な計算能力を持つ櫂は同時に軍人嫌いでもあったが、山本から「巨大戦艦が建造されればその力を過信した日本は必ず戦争を始める」と説得されて戦艦大和建造阻止のために協力することを決意。
軍部の妨害工作などに脅かされながらも櫂は持ち前の頭脳を駆使して戦艦大和の秘密に迫っていくのだが・・・・・
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まずは冒頭の大和沈没のシーンが凄い。 さすが山崎VFX。
撃墜されてパラシュートで海に落ちた米兵を米軍の救助艇が助ける細かい描写はスタッフのお祖父さんが残した手記から採用されています。 あれを見て「勝ち目がない」と思ったそうな。

櫂直を演じる菅田将輝が黒板に数式を書きながら長台詞を滔々と発する大会議のシーンも圧巻の一語。 凄すぎるよ、菅田将輝。
彼の相棒となる田中少尉役の柄本佑がまた素晴らしく、ストーリーの中の良きアクセントとなっていますね。
平山中将役の田中泯の存在感たるや! 彼だけが違うペースで演技をされており、眼鏡のレンズが反射で真っ白になった瞬間の冷徹な鬼気を醸し出すカットにゾクッ!

「戦艦大和を絶対造らせてなるものか!」と言ったって、結局大和が造られるのは史実。
主人公が推進派の出した建造見積もり額の捏造を苦労しながら暴いていく頭脳戦はシビれるほど魅力的なのですが、それでもなぜ戦艦大和が建造されてしまうのかという点が気がかりのまま物語を追うことになります。

山本五十六はアメリカと戦争をするのには反対していたと言われていますが、これにも異論を唱える人も少なくありません。
本作の五十六少将はそれを反映しているかのように、開戦反対という立場を取りながら、永野中将から「君も軍人なのだな」と言われるほどの素顔を垣間見せるシーンが印象的。
山本五十六が根っからの軍人であったように、櫂直もまた美を求める根っからの数学者だっただけのこと。 彼は己の美学の欲望に敗北してしまうのです。

「この怪物(大和)を生みだしてはいけない!」
すでに世に生まれていたのだ。 怪物を造り上げてしまうことになる数学の怪物が。
彼が生みだしたのだ。 数学的にも美しい、二つとない大戦艦を。
        


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「存在のない子供たち」

レバノンの貧民窟で過酷な人生を過ごした少年が、“自分を産んだ罪”で両親を訴える姿を描き、中東の貧困、移民問題を浮き彫りにする衝撃作。
カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、第91回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされています。
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わずか12歳で裁判を起こしたゼイン。
訴えた相手は自分の両親だ。
裁判長から「何の罪で?」と問われたゼインは大きな瞳でまっすぐ前を見つめてこう答えた。
「僕を産んだこと」

中東の貧民窟に生まれたゼインは、両親が出生届を出さなかったために、自分の誕生日も知らないし、法的には社会に存在すらしていない。
学校に通うこともなく、路上で物を売るなど、朝から晩まで両親に働かされている。
唯一の支えだった大切な妹サハルが11歳で強制結婚させられ、怒りと悲しみで家を出たゼインを待っていたのは、大人たちが作ったさらに過酷な現実だった・・・・
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観るに堪えない。 いい意味で。
物語はフィクションですが、こういう子供は珍しくもないほど世界のあちこちにいるのでしょう。
女性監督のナディーン・ラバキーはこの現状を一人の少年のドラマに一気に凝縮させ、これでもかとばかりに、酷い世の中で生きていくしかない子供の悲劇を真正面から描いています。

子供が家族の生活費を稼ごうと必死に働くという、貧国を体現したかのような少年ゼイン。
見るからにマズそうな手製ジュースを路上で売る・・・・
薬を溶かした水で洗って乾かした服を刑務所に売りに行く・・・・
大家の営む雑貨屋で配達の手伝いをする・・・
さらに働く場所をあちこち探しまわる・・・・
まだ11歳の妹が口減らしで強制結婚させられる・・・・
ウエイトレスの女のベビーシッターをするも、不法移民である女が拘束されてしまい、ゼインは文字通り赤ん坊と路頭に迷う・・・・
国外に出るお金のために赤ん坊をパスポート偽造屋の男に売ってしまう・・・・
妹が夫の虐待で殺されたと知り、ナイフで“クソ野郎”を刺して少年刑務所に収監・・・・

観てるだけでしんどくなってくる、不遇エピソードの連打。
親がいないのではない。 ちゃんと二親いるのだ。 なのになんでこうなるのだ?
そりゃ「世話できないのなら産むな」とブチ切れたくもなりますわな。
子供にこんなことを言わせてしまう。 何がどこでどう間違ってしまったんだろうかね。 どこをどうすれば善くなるの? 分からんね、分からんよまったく・・・。
最後にはホッとさせられる締めくくりなんだけど、でもこれほど衝撃のあまりにヘコむ映画はなかなかないよ。
        


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「世界の涯ての鼓動」

名匠ヴィム・ヴェンダース監督が死の危険のある任務に向かう男女の狂おしい愛を描くラブサスペンス。
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ノルマンディーの海辺に佇むホテルで出会い、わずか5日のあいだで情熱的な恋に落ちたダニー(アリシア・ヴィキャンデル)とジェームズ(ジェームズ・マカヴォイ)は、別れの朝の引き裂かれるような痛みに、互いに生涯の相手だと気付く。
だが生物学者のダニーには、グリーンランドの深海に潜り、地球上の生命の起源を解明する調査が、MI‐6の諜報員であるジェームズには、南ソマリアに潜入し爆弾テロを阻止する任務が待っていた。
ダニーには地球の未来が、ジェームズには世界の運命がかかっている。
二人はたった一つのミスで命を落とすという危険な仕事へと旅立つのだった。

やがて恐れは現実となり、ダニーの潜水艇が海底で操縦不能となり、ジェームズはジハード戦士に拘束されてしまう。
死が目前まで迫る闇に閉じ込められ、愛の記憶に救いを求める二人。
果たして彼らはこの極限の死地を脱け出し、最愛の人を再びその胸に抱きしめることができるのか・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
恋愛映画というジャンルは好きじゃないです。
監督や俳優、またはシチュエーションの面白さによりけりですが。
ヴィム・ヴェンダースという巨匠に、共に演技派のマカヴォイとヴィキャンデル。 これだったら、そんなに間違った作品ではなかろうと思って拝見しましたが・・・。

作風にこだわらないヴェンダースとはいえ、こんなベタな恋愛モノも撮るんだなと思いました。 いや・・・ベタとは違うか・・・? なんだろうな・・・。

いつ命を落としたって不思議でないことも覚悟の上で特殊な仕事に携わっているプロフェッショナルが、運命の愛を経て、命の尊さを知る。
海の底の小さな生命も、聖戦に命を投げ出す異国の兵士も、この世界で心臓を鼓動させて生きている、その意味とは・・・。
海洋生物学者もスパイも、この世界の生命の鼓動を聞く。

仕事で死ぬことも受け入れてたけど、やっぱり愛する人のために生きなきゃいけないんだぁー! 生きたいんだぁー! 愛とは生きること! 生きるとは愛することなんだぁー!・・・・・ってなことを描きたかったんだろうとは思うんですけど、なにぶんテンポがよろしくない。 それでいて最後の方になってバタバタしますな。

男の方も女の方も、最初っから「仕事に命かけてますよ・感」がまったくなくて、どこかナヨいので、生死の境での心理ドラマもそんなに緊張しない。
どっちかが不幸な結末にでもなってれば・・・と考えるのは意地が悪いかな?
        


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「カニバ/パリ人肉事件38年目の真実」

佐川一政(Issei Sagawa)。 1949年4月、兵庫県神戸市生まれ。
フランスに留学し、パリ第3大学大学院博士課程に在籍していた1981年。
佐川は自室を訪れたオランダ人女性留学生ルネ・ハルデルベルトの後頭部をカービン銃で撃って殺害。
その遺体を屍姦したあと、解体して写真に撮り、いくつかの部分の肉を食べたという。
その後、パリ郊外の公園に女性の遺体を遺棄しようとしていたところを目撃されて逮捕される。
しかし、精神鑑定の結果、心神喪失と判断されて不起訴になっている。
日本に送還され、精神病院に措置入院していたが1985年に退院。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
個人的には詳しくは知らない事件なのよね。 外国で起こった事件だし、ちょっとした話題にはなったけど、センセーショナルってほどでもなかったような記憶があります。
この映画はその後の佐川一政がどうしているのかを追ったドキュメンタリー。 日本映画ではありません。 ハーバード大学の感覚民族誌学研究所所属の2人の映像作家が取材して撮り上げたフランス=アメリカ合作映画です。

佐川一政は2013年に脳梗塞を患い、実の弟の佐川純に介護されながら東京郊外で暮らしております。
その彼かお兄さんのどちらかが、ずーっと喋ります。 それもすっごいドアップで。
そして後半には里見瑤子というピンク女優も出演するのですが、基本は佐川兄弟による近況報告が「顔近すぎ!」の映像で延々と流されるだけ。

申し訳ないけど。

寝た!

途中、どれくらいかなあ・・・?
10分どころじゃないね。 20分、下手すりゃ30分はオチてたかも。
上映時間90分のうち、3分の1は観てないのでどうこう言いにくいのですが、これは正直つまらんかったわ。
「好きな人の唇に吸いつきたいと思うでしょ? それと同じことなんですよ」とカニバリズム思考を説明するセリフだけは印象に残ってますが。

それにしたって、この偏執的を通り越したような超ドアップ、しかもピンボケの映像を一貫させたこの作り手は素人なのか、ただ単にフザけたのか。
いずれにしても映画体験としては、ある意味記憶に残る。
        


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「サマー・オブ・84」

「E.T.」、「グーニーズ」など、80年代のジュヴナイルSFや青春ホラーの傑作にオマージュを捧げたカナダ発のユース・スリラー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1984年のオレゴン。 郊外の住宅街で暮らす15歳の少年デイビーと3人の親友たちは、常にツルんで冒険ごっこに勤しんでいる仲良し4人組。
近隣の街では次々と同年代の子供たちが失踪していて、街ではちょっとした話題となっていた。
新聞社には"ケープメイの殺人鬼"と称する人物から、13人の少年を殺害したと自ら主張した手紙が届いていた。
自分の暮らす街で殺人事件が起きるなんてと興奮を隠せないデイビーはある日、向かいに暮らしている警官のマッキーこそが事件の犯人だと確信する。
行方不明の広告に印刷されている少年を、数日前にマッキーの家に入っていくのを偶然見てしまっていたのだ。

デイビーと親友たち4人組は、独自に捜査を始めてマッキーの家の物置に侵入。
マッキーがホームセンターで購入したらしい大量の土やショベル、動物の死骸の腐敗を抑える水酸化ナトリウムの袋、血のついたTシャツなど、次々とマッキーこそが殺人鬼ではないかと匂わせるような物証を発見する4人組。
だが、そのことを両親に話すとこっぴどく叱られた上に、見つけた証拠の数々がマッキーの説明によって、デイビーたちの誤解だったことに結論付けられてしまう。
外出を禁じられたデイビーだが、どうしても自説を曲げることができない。
そうこうしてるうちに事件は意外な展開を見せ、少年たちに思いもよらぬピンチが訪れる。
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ヒョロヒョロの主人公の少年・・・、ちょっと大人びているイケメン・・・、太っちょ・・・、メガネ・・・
この4人組・・・・・ これは「スタンド・バイ・ミー」そのまんまじゃないか。
人物設定はもちろんのこと、劇中には80年代の青春ホラーあるあるが随所に散りばめられ、少年たちのひと夏の冒険をノスタルジックムードむんむんで描いております。

少年たちが勝手に想像をめぐらして、探偵団よろしく、事件の謎を探る物語は前半こそ、どこか「バカをやってる少年たち」の微笑ましさが滲み出てるのですが、後半からガラッとムードが一変。
事態があれよあれよという間にシャレにならんところまで行く展開はまさに「してやられた」です。
純粋無垢でキラキラ輝いていた青春時代が終わるという現実の残酷さを見せつけて映画が終わるというオチは意外性万点。 
チャリンコ版マッドマックスと評された「ターボキッド」(15)を撮ったカナダの調子こき3人組ユニット「RKSS」の2本目の長編監督作は、けっこう侮れない秀作。

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天気の子
2019年08月21日

177922.jpg新海誠監督の「君の名は。」以来3年ぶりの最新作。
異常気象により、長期にわたって雨が降り続く東京を舞台に、離島から家出してきた少年と、祈ることでわずかな晴れ間を作る能力を持った少女が、過酷な運命に立ち向かっていく物語。

ディテール豊かなスーパークオリティで圧倒する“新海印”の映像美。
緻密で独自のロマンティシズムを語るラブストーリー。
世界観を力強く引き出すRADWIMPSの神ナンバー。

歴史的大ヒットの前作が置いていったハードルを意識することなく、ぶれることのない“新海ワールド”の「愛の讃歌」が今回も全開。
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2021年。
高校1年生の森嶋帆高は離島から家出して東京にやってきた。
生活に行き詰った彼は、東京行きのフェリーで知り合ったライターの須賀圭介を頼り、オカルト雑誌の編集プロダクションを営む須賀の仕事を手伝うことになる。
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連日雨が降り続く異常気象の東京。
須賀の事務所で住み込み、彼の姪っ子の夏美と共に取材に駆け回る帆高。

そんな中、彼は不思議な能力を持った少女と出会う。
ある事情を抱え、小学生の弟・凪と暮らす天野陽菜。
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「ねえ、今から晴れるよ」
彼女は"祈る"ことで、雨天の街にわずかな時間だけ局地的に晴天をもたらす「100%の晴れ女」だった。

生活が苦しい陽菜のために、帆高は陽菜の「晴れ女」の能力を生かして、晴天を望む人たちのためのサービス業を提案。
「晴れ女業」で能力を駆使する陽菜だったが、その代償が次第に彼女の体に起き始める。

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家出の届け出が出ていた帆高の元には警察の捜査の手が迫っていた。
そして陽菜と凪の元には児童相談所が介入し、引き離されることを恐れた姉弟は帆高と共に逃げるのだが、やがて帆高は陽菜の背負った過酷な運命と対峙せねばならない時が訪れる。

     

台風が過ぎ去り、盆休みも終了し、悪魔のようにクソ暑い今日この頃。
残暑お見舞い申し上げます。

今日もせっせとブログを書いてると、例によって妄想タイムに突入したアッシの前に、軽めのチャラい男が出現した。
(有)K&Aプランニング代表、須賀圭介である。
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「よぉ中年。仕事探してんだろ?」
  
tenkinoko3 cat「探してませんけど」

2136442_201905290596851001559099562c 40「話が続かねえだろ」

tenkinoko3 cat「そんなこと言われたって」

2136442_201905290596851001559099562c 40「なあ中年よ、なんか面白い都市伝説とか知らねえかい?」

tenkinoko3 cat「存じませんな」

2136442_201905290596851001559099562c 40「話が続かねえだろ」

tenkinoko3 cat「うるっさいなあ」

2136442_201905290596851001559099562c 40「中年よ、『天気の子』観たんだろ?」

tenkinoko3 cat「観ましたけど」

2136442_201905290596851001559099562c 40「俺のどこがカッコよかったかを100項目以上述べよ」

tenkinoko3 cat「特にありません」

2136442_201905290596851001559099562c 40「この野郎、なんかあんだろ」

tenkinoko3 cat「夏美ちゃんの胸の谷間とスラッとした脚がサイコー」

2136442_201905290596851001559099562c 40「中年よ」       

tenkinoko3 cat「へい」

2136442_201905290596851001559099562c 40「元気でいいぞ」

tenkinoko3 cat「恐縮です」
       
すると「活力」と「色気」の混じったムンムン臭が辺りに漂った。
そこへ現れたのは須賀圭介の姪っ子、須賀夏美
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「お二人さん、えらく盛り上がってるけどなんの話かしら?」
 
tenkinoko3 cat「あっ、夏美ちゃん。 今、あなたの叔父さんにカツアゲされてたんですよ」

2136442_201905290596851001559099562c 40「おい中年、嘘は良くないぞ」

geo19072105010010-p1 40「圭ちゃん、お金を返してあげて」

2136442_201905290596851001559099562c 40「親族を信用しろよ、おまえ」

geo19072105010010-p1 40「ところで中年さん。 『天気の子』観てくれたんですって?」

tenkinoko3 cat「夏美ちゃん目当てで」

geo19072105010010-p1 40「私の素敵なところをいくつ言えるかしら?」

tenkinoko3 cat「軽く100項目はあります」

2136442_201905290596851001559099562c 40「えげつないぞ、中年」

geo19072105010010-p1 40「陽菜ちゃんだって可愛いわよ」

tenkinoko3 cat「向こうは人のカノジョだしなあ。 夏美ちゃんのようなグイグイくるタイプの方がアッシは好き」

2136442_201905290596851001559099562c 40「中年よ」

tenkinoko3 cat「へい」

2136442_201905290596851001559099562c 40「もう寝ろ」

tenkinoko3 cat「嫌じゃ」

すると、どこからともなく、さわやかな風が吹いてきた。
よどんだ空気がキラキラした粒子で洗い流されるような清々しい風と共に現れたのは天野陽菜の弟・凪くん、10歳。
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「さわやかすぎてすいません」
  
tenkinoko3 cat「凪センパイっ!」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「中年さん、『天気の子』観てくれたんですね。 出演者、スタッフ、配給会社に成り代わってお礼を申し上げます」

tenkinoko3 cat「なんてデキた小学生なんだ。 インチキ話を書いてメシ食ってるどこかのオヤジとはえらい違いだ」

2136442_201905290596851001559099562c 40「口を慎め、中年」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「中年さん、グイグイくる女の子は冷めやすいところがあるからね。 そういう子には中途半端な態度で接しちゃいけないんだよ」

tenkinoko3 cat「そうなんですか、凪センパイ」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「どんな女の子にもそうだけど、付き合う前は何でもハッキリ言って、付き合ったあとは曖昧な態度でいく。 これが基本」

tenkinoko3 cat「ああ、映画の中でも凪センパイおっしゃってましたね」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「“女心と秋の空”。 女性の心をつかむのは天気の予想と同じだね。 先を読んで備えること。 言葉や表情が含んでるものを読み取って、いい関係を保つ努力をするのは男子たるものの役目。 女の子が常に幸せでいられるカレシになることを目指さないとね」

tenkinoko3 cat「なんというありがたいお言葉! なんという素晴らしい御方! おい、そこのイカサマライター、おまえのギャラを半分、凪センパイに差し上げなさい」

2136442_201905290596851001559099562c 40「誰がイカサマライターだ、こら」

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D8mQHrWVUAAeIU_ 40「天気といえばこの映画、ある意味、斬新で壮大な話だよね。 なんたってさ、“愛は地球を救う”とは真逆のことが繰り広げられるんだもん」

tenkinoko3 cat「確かに。 まあ、“人の命は地球よりも重い”とも言うしね。 世界がどんな形であっても、愛する人と生きられるのならば、『天気なんか狂ったままでいいんだ!』は究極の愛の告白」
          
D8mQHrWVUAAeIU_ 40「でも、実際この世界が狂うことを選択したのは僕たちでもあるよね。 正確には今の大人だけど」

tenkinoko3 cat「面目ありません」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「人が暮らしていくなかでエネルギーは消費される。 その結果、あまりにも地球を傷つけすぎたよね」

geo19072105010010-p1 40 「だって電気やガソリンなしじゃ暮らしていけないもの」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「便利で快適な暮らしをとことん追い求める。 そこに商売が絡む。 そのしっぺ返しで、人の暮らしにくい環境になってしまったのはあまりにも皮肉だね」

2136442_201905290596851001559099562c 40「世界中が国をあげて対策には取り組んできたんだろうけどな」
 
D8mQHrWVUAAeIU_ 40「のんきに構えすぎたし、環境に対する意識の高め方が追いつかなかったんだよね。 目先の利得よりも、自分がとっくに死んでるような未来のことを考えろったって、便利さと金儲けの味をしめた人間には土台無理だったんだよ」

tenkinoko3 cat「では凪センパイ、地球はもう救いようがないってことですか?」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「僕らが想像してるより来てるところまで来てるのかもね。 雨の降り方なんておかしいもん。 人が死ぬくらい降るんだよ。 それくらい量も強さも加減知らずだしさ、台風なんか一つ来たら間をおかずに二つ目三つ目と来るじゃない? ちょっと変だよね」

2136442_201905290596851001559099562c 40「もう昔の日本じゃなくなってしまったんだなあ」

geo19072105010010-p1 40「春と秋の間隔が短くなって夏と冬が長くなったもんね」

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D8mQHrWVUAAeIU_ 40「この映画のように東京の大部分が水没してしまう将来ってのは絵空事じゃないかもしれないよ。 暮らしに一番身近な天気のことをないがしろにしたツケは必ず来るよ」

tenkinoko3 cat「なんとかならないんでしょうか、凪センパイ」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「ならないだろうね。 しかも、こういう世界にしてしまった大人たちは次の世代の僕らに問題を丸投げした。 『青春や恋愛にうつつを抜かしてないで、君たちがこの狂った天気をなんとかしろ』と無責任に世界を僕らに譲り渡したんだ」

tenkinoko3 cat「返す言葉もございません」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「だからといって僕らの世代に勝手に押し付けて期待されても特別なことが出来るわけじゃなし、青春や恋愛や普通の人生を僕らはあきらめる気はないよ。 大人が残したこの世界をそのまま受け入れて生きていくんだ」

tenkinoko3 cat「そういう考えになるのもごもっとも」

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D8mQHrWVUAAeIU_ 40「自分の人生や愛する人のことを犠牲にするくらいなら、天気なんか狂ったままでいいさ。 ましてや僕の姉ちゃんを人柱にするなんてのは断固認めないからね」

tenkinoko3 cat 「そうですな。 先人たちが選択した世界ですからね。 あなた方が気に病む必要はない。 世界の形が変わっても愛は永久不変」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「そういう意味じゃ、この映画はキレイゴトじゃない方の結論に向かった点では斬新だね。 主人公の帆高が身勝手とか言われるかも知れないけど、『お前ら地球のために犠牲になれよ』と言う方も身勝手だよ。 どのみち世界は狂うところまで狂う。 その時に現実問題として、生活が激変することを一人一人が受け入れる心構えと備えはしておかないとね」
     
tenkinoko3 cat「環境問題についての説教ではなく、シンプルに世界を救うか、愛を救うかの二択の話ですな。 大人は世界を救わなかった。 子供だってそっちを選択したってとやかく言われる筋合いはない。 愛を救う決断をするのもそれはそれで美しくもある」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「おっと、もうこんな時間だ。 ちょっとデートの約束があるもんで。 女子を待たせる訳にはいかないので、これにて失礼させていただきます。 中年さん、またどこかでお会いしましょう。 夏バテにはくれぐれも気をつけて。 ではごきげんよう」

tenkinoko3 cat「さようなら凪センパイ。 どうぞデートを楽しんできて下さい。 ・・・ううっ、うらやましい! そしてなんていい人なんだ! ううううっ・・・」

2136442_201905290596851001559099562c 40「おい・・・こいつ泣いてるぞ」

geo19072105010010-p1 40「気色悪いわね。 圭ちゃん、いいからこのオッサンは放っといて帰りましょう」

2136442_201905290596851001559099562c 40「もう大人になれよ、中年。 あっ、大人か」

     

短編でもいいから凪センパイのスピンオフ映画の製作を求む!

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「賢人のお言葉」
 
「雨の日は、雨を愛そう、風の日は、風を好もう、晴れた日は、散歩しよう、貧しくば、心に富もう」
 堀口大學

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トイ・ストーリー4
2019年08月15日

T0017158p.jpgピクサーのアニメ映画は通常、前座の短編ムービーがあるのですが、今回それがないというのがもはやただごとではありません。

もうかれこれ9年も前になる前作の「3」でてっきり完結したと思っていましたが。

監督のジョシュ・クーリーは「すべてのエンディングは新しい始まりを意味する」と語ります。

確かに形の上では、オモチャたちがアンディの家からボニーの家に移っただけで、そこから再びいかなるドラマを展開していくのかは、相当にハードルが高いはずです。

オモチャに人格を持たせた設定で、子供に愛されることを生きがいや存在意義としながら暮らす彼らが、いずれは一方通行になる愛情に葛藤する姿が前3編を通じて描かれてきました。

ピクサーの作品は時に、「そこまで深く考えたことがなかった」というテーマに踏み込んでくることがあり、それを普通の人間ではなく、車であったり、魚であったり、モンスターであったり、スーパーヒーロー・ファミリーであったりと、多様なキャラクターに置き換えてアプローチしてきます。

その代表格が「トイ・ストーリー」のシリーズで、子供心の喪失や、無償の愛といった、理屈や善し悪しで計れない複雑な人間のサガに言及した物語なのが特徴。

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なんだかんだでオモチャに人格を与えた設定はズルいですね。

大人になってもオモチャを捨てるなとおっしゃいますのかい?
子供から大人になる成長過程で、得る物があれば失くしていく物があるのはやむを得ないんじゃないんですかい?

そもそもがオモチャが人格を持ってしまえば、それはもう「所有物」ではなくなり、ペットと同じくどう扱うか、面倒を見るかというところまで話が行くと、堂々巡りを繰り返すのは当然。

ウッディバズらは、すっかりオモチャ離れしたアンディから、これからオモチャを必要とするボニーに迎えられたものの、いずれは再び不要となる悲しい運命が待っているのです。
元々このシリーズは、人格を持ったものを所有物として描くあたりに批判とまではいかずとも疑問を呈する声もあったのは確かです。
少々お門違いな指摘のようにも思えますが、映画に出てくる“人格を持ったオモチャたち”は果たしてこのままでいいのか?という、かすかな引っ掛かりを持って「3」を観終えた人も少なくないでしょう。

それに応える形のストーリーが語られるのが今回の「トイ・ストーリー4」です。
あくまでも「トイ・ストーリー」の中でのオモチャたちの話であって、人間のために尽くすだけ尽くして捨てられる"人生"より、他にあるはずの幸せ、オモチャにとって本当の幸せを問う物語です。

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大学生になったアンディから、オモチャの大好きな女の子ボニーに譲られたオモチャたち。
そしてここでも月日は流れて、ボニーがいよいよ幼稚園へ行く歳になります。

しかし最近は、数あるオモチャの中でボニーが遊ぶ時、ウッディが選ばれることがめっきり減ってしまっています。
ウッディは寂しい気持ちもありながら、少しづつ成長へのステップを上がるボニーを親のように見守っている今日この頃。

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ボニーは幼稚園の体験入園にやってきますが、不安で不安で仕方がありません。
家を出る前から気が進まない様子だったボニーを見かねてウッディはリュックの中に入ってこっそりついていくのですが・・・。

教室の中で、他の子供たちに話しかけるタイミングもつかめないまま、ポツンとひとりぼっちのボニーは机にあった工作の材料と、プラスチックの先割れスプーンで、手作りのオモチャを作り始めます。

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ボニーは自分の手で作ったこのオモチャを「フォーキー」と名付けました。
このフォーキーを作ったおかげで、ボニーは体験入園を楽しく過ごせたのでした。

フォーキーにもまた命が宿り、リュックの中で対面したウッディですが、自分がゴミだと思い込んでいるフォーキーはただただパニくるばかり。

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ボニーの家に帰ったあと、ウッディフォーキーをみんなに紹介するのですが、フォーキーはスキを見てはゴミ箱の中に入ろうとします。
そこが一番落ち着く場所なのでしょう。

「自分はオモチャなんかじゃない。 ごはんを食べ終わったら捨てられるゴミだ」
まだフォーキーは自分がボニーにとって大きな存在であり、オモチャとしての役割を理解できないようです。

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ウッディはもはやボニーのための自分の役目はそろそろ終わりに近づいてきていることを確信しています。
子供は成長しつつ、新しいもの、それまでとは違うものと接し触れ合うことで情操が育っていくのです。

古いものに興味が薄れていくのは悪いことではありません。
子供は新しいものに目を向けることで子供なりの見識を広めていくのです。
ウッディはそれを分かっています。

今度は自分の代わりに、フォーキーボニーの支えとなり、成長の友となっていかねばならないのですが、当のフォーキーはとにかくスキあらば逃げ出そうとします。
今、フォーキーがいなくなればボニーは傷つきます。
ウッディボニーのためにフォーキーの面倒を見ようとするのですが・・・。

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ボニーとその両親はキャンピングカーで旅行に出かけます。 もちろんオモチャたちも一緒なのですが、ウッディがちょっと目を離したすきにフォーキーが逃げ出してしまいます。

バズやジェシーたちにあとは任せ、車から飛び降りて跡を追ったウッディフォーキーを発見。
「ボニーを笑顔にできるのは君だけだ」
自分がどれだけボニーにとって大切なのかを説得されたフォーキーボニーのそばにいようと決心します。

二人が辿り着いたある町のアンティークショップでウッディは見覚えのある子供用ランプスタンドを見つけます。
それは11年前にある事情で離れ離れになっていたボー・ピープのセットの土台のランプ。
アンティークショップにボーがいると確信したウッディは店の中へ。

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一方、キャンピングカーに残った他のオモチャたち。
なかなかウッディらが帰ってこないことを心配したバズは単身で車外に飛び出して救いに行こうとします。

胸のボタンを押せば〔内なる声〕が。
〔ソラをトベ ムゲンのカナタへ サア、イクゾー!〕

しかし、着地に失敗した場所は移動遊園地。 射的ゲームの店主に拾われて景品の陳列用ネットに縛り付けられてしまいます。
そこで出会ったぬいぐるみのダッキーとバニーの協力を得て脱出したバズ

しかし、ウッディはいずこに。
ところがこの移動遊園地の裏手にあるのがウッディフォーキーが入っていったアンティークショップだという、まさにバズの〔内なる声〕のささやかなミラクル。

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ボー・ピープを捜してアンティークショップへと入ったウッディが出会ったのはギャビーギャビーという女の子人形。
50年代製の値打ち物のはずが、おしゃべり機能で声が出るはずのスピーカーが壊れているために収集家にも嫌われ、ずっとキャビネットの中にいました。

ギャビーギャビーウッディの中に入っているボイスボックスを狙っており、手下である腹話術の人形たちにウッディを捕えさせようとします。
なんとか逃げ出したウッディですがフォーキーが人質に。

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ウッディはやがてボー・ピープと再会。
「トイ・ストーリー2」に登場しながら、なぜ「3」にはボーが登場しなかったのかが、本作の冒頭で描かれてその謎が解けます。

ボー・ピープはアンディの妹のモリーが愛用していたランプスタンド付属の人形だったのですが、11年前、モリーがボーをいらなくなって、新しい引き取り手に譲られることになり、それ以来ウッディとは離れ離れに。

ボーは前の持ち主からアンティークショップに売られたものの、今は移動遊園地の中で、持ち主のないオモチャ人生を満喫しています。

ボーに助けられ、バズとも合流したウッディフォーキーを救いに向かうのですが・・・。

無題 ga
 
ギャビーギャビーもまた孤独なオモチャ。
元々壊れていた不良品だったために市場に出回らなかったことから、今まで一度も子供に愛されたことがありません。

声さえ出れば・・・。
ギャビーギャビーの願いは店のオーナーの孫娘ハーモニーに持ち主になってもらうこと。
ハーモニーは祖父から定期的に古いオモチャを分けてもらっており、おしゃべり機能さえ直り、声が出せればハーモニーに気に入ってもらえて持って帰ってもらえるのではないかとギャビーギャビーは望みを持っているのです。

愛されたことがない。 一度は愛されたい。
大切に扱われてきたウッディがうらやましく、わずかなチャンスに賭けようとするギャビーギャビーの切なる思いに、ウッディは自分のボイスボックスを譲ることを決意します。

こうして、おしゃべり機能が回復したギャビーギャビーは、果たしてハーモニーに気に入ってもらえるのか。
そしてウッディには、さらなる重大な決断の時が訪れます。
愛か。 仲間か。 自分にとっての幸せを・・・。
ウッディの〔内なる声〕が選択した道とは・・・・・
Screen-Shot-2019-03-19-at-8_55_49-AM.jpg

これは賛否両論あるでしょうねえ。
観終わってもアッシはどうにも複雑です。
いや、映画は凄く良かったです。

「3」でボー・ピープを出さなかったのは「4」を作る目的のためだったのではと思います。
今回のエンディングを描きたいがために。

やっぱり「3」で終わっとけばいいじゃないかという反面、これはこれで有りじゃないかと納得している気持ちもあります。
作り手がここまで物語を掘っていこうとするのは、オモチャに人格を与えたことへの責任感を全うしようという気持ちの表れだと思うと、このエンディングに到達するのは必然だったと思いますね。

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本作で象徴的に描かれているのが、自分の人生のために行動するスピリットです。

ボニーはおそらく人見知りなところもあって、幼稚園に入園するための体験入園で心細い思いにさらされます。
リュックの中で見守るウッディにもこればっかりはどうすることもできません。

この時、ボニーは机にあった材料で、自らオモチャを作り始めます。
これはボニーにとって非常に大きな前進であり、感動のポイントでもあります。
彼女は自ら行動するのです。
自分の“友だち”でもある、家のオモチャは、いわば人から与えられたものです。
しかし、自分の手で、精一杯の想像力を駆使して作り上げたオモチャであるフォーキーが、彼女に勇気をもたらし、一番の友だちになるのは当然です。

幼稚園に行きたくないということが通らないことはボニーも理解しています。 誰もが歩む同じ道を通ることの重要さを分かっています。
そのためには、しばしの支えになってくれる友だちをその手で作り上げ、自ら名前まで付けたボニーの行動力が発動するシーンは何気なく描かれてますが素晴らしいの一語です。

他のオモチャに比べれば、へんてこなビジュアルのチャチなフォーキーですが、ボニーにとっては自分で行動して得た、何物にも代えがたい「愛する存在」ですから、またすぐにでも作ろうと思えばできそうな物であっても、あの心細い思いをした時に誕生したフォーキーこそが大切です。
フォーキーがいなくなってしまった時の、あの落ち込み様も納得ですね。

この、自分で行動して愛するものを得るということが本作の重要な主眼であることは明白です。

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ギャビーギャビーは愛されたことがなく、それでいて何よりも愛を欲する切ないキャラクターです。
彼女もまた愛を得るために暴力的ですがハッキリとした行動に出ます。
望みを叶えるためにはどんなことだって厭わない。 人生を決してあきらめず、小さな可能性にも賭ける意志の力。 その点は立派といえば立派です。

彼女が欲しいのは「声」。
ビジュアルだけでは見向きもされないということを認めてしまっているところが切ないのですが、元から壊れてしまっている、おしゃべり機能という付加価値さえ復活して「声さえ出せれば」ということに望みをかけます。
声が欲しい、そんなギャビーギャビーですが、彼女の手下たちが腹話術の人形だというのも意味深ですね。

ボニーが想像力でもって愛するものを得たことに対し、ギャビーギャビーは直接語りかけるアプローチで愛をつかもうとするのですが・・・。
〔ワタシとトモダチになって〕
ハーモニーからあっさりと「いらない」と捨てられてしまうシーンは現実的で残酷で、選ばれなければアイデンティティさえないオモチャの悲哀と一方通行の愛に、虚しく切ない気持ちで胸一杯。

ギャビーギャビーは最初は不気味な感じでしたが、「3」のロッツォ・ハグベアのような哀れなヴィランで終わらないという展開になり、まさかの涙腺バッツン感動が待っていようとは・・・。
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ボニーなら可愛がってくれるはずだと、ウッディに誘われて行こうとするギャビーギャビーは、遊園地で迷子になって泣いている女の子を見つけて居ても立ってもいられなくなります。
自分の姿とダブったのでしょう。 行くあてのない迷子だった自分と、迷子になっている女の子。

女の子の目につきそうなところまで移動したギャビーギャビー。 ここでも彼女は行動を起こします。
女の子もまた、捨てられているかのような迷子に見えたその人形を放ってはおけませんでした。
〔ワタシとトモダチになって〕
「私が助けてあげる」
互いの愛が通い合う、ジーンとくるシーンです。

お母さんが見つかった女の子に抱かれて去っていく時のギャビーギャビーの幸せそうな表情。
救われますねえ。

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そしてウッディ
薄々そんな感じはしてました。

何よりも、この映画の冒頭にボー・ピープと別れることになるエピソードを持ってきたことがその伏線です。
(別れ際にボーウッディの帽子の位置を直してあげるシーンにキュン死!)

アンディという存在がいても、同じように愛する存在だったボーと別れる悲しい経験をしたウッディには、オモチャにとって必ずしも持ち主のところにいるだけが幸せではないのではという、かすかな気持ちが心の底に芽生えていたのかもしれません。

ボニーに引き取られて9年が経ち、ウッディも男の子用のオモチャでもあることから、次第にボニーが成長と共に気持ちが離れ出していることをウッディもヒシヒシと感じています。
そこに来てフォーキーの出現です。
しかし、ウッディは嫉妬する訳でもなく、フォーキーにオモチャの心得を説き、自分の役割を託すことで、幼稚園通いや、多くの友達をこれから作っていくであろう、未知なる世界へ踏み出すボニーをサポートしようとします。

離れ出したボニーの気持ちがもう元には戻らないことをウッディは受け入れているのです。
そしてボーとの再会と、ギャビーギャビーの孤独に触れたウッディの〔内なる声〕が呼びかけます。
他の人生があってもいいんじゃないかと。
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今はギグス・マクディンプルズという小さい人形を相棒に、遊園地の中で持ち主のない自由な人生を送っているボー
片やウッディボニーの家に戻っても、果たして居場所はあるでしょうか。 いや、バズやジェシーやたくさんの仲間がいますが、オモチャの喜びや役割ということに関してはもう居場所はありません。

ボーも一緒にボニーの家に帰れば?とも思いますが、ランプスタンドのない単なる陶製の人形ではウッディと同じことです。
持ち主に愛されるオモチャでなければ帰る意味がないのです。
何よりもボーだって今の仲間を捨てる訳にはいきません。

もう必要とされない。 でも、自分が必要としているものは何なのかをウッディは自問自答します。
子供を笑顔にすることだけに捧げてきた人生から、いよいよ自分の幸せを考える分岐点に立つウッディ
ボニーのように、ギャビーギャビーのように、自ら愛するものを得るための行動を起こす時が来たのです。

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親友のバズも複雑だったでしょう。
「ボニーはもう心配いらない」
ウッディを解放し、背中を押してあげる一言ですが、内心では(行かないでくれ)という気持ちも少なからずあったと思います。

フォーキーの面倒を一生懸命見てあげるウッディの姿に、彼が心なしか迷っているのだなということをバズも察しています。
「ウッディ、心の声に従うんだ」ということを再三言うのも、ウッディが後々に決心の時を迎える様な事態がやってくるのではということを予期していたように思えます。

愛してくれる存在を見つけて“迷子”ではなくなったギャビーギャビーに対し、愛するボーと共に生き、持ち主のない“迷子”のオモチャの人生を選択したウッディ
いや、自ら見つけた自分の道があるのなら、それはもう迷子ではないと思います。

バズは言う。
「君はもう迷子なんかじゃない」 友情の名言だ!


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結局、最初に書いたことに話は戻ってしまいますが、オモチャに人格を与えて始まったこのシリーズは、いずれこういう一種の迷路にはまる運命にあったように思います。
子供の遊び道具という定義ではなくなり、犬や猫のようなペットと同じように、「捨てるなんて可哀そう」と言いだせば、もはやこれはオモチャの話ではありません。

人間はオモチャから幸せを与えてもらいますが、オモチャにもオモチャの幸せがあってもいいんじゃないかということを突き詰めたら、どうしたってきれいな結論は出ないでしょう。
じゃあバズやジェシーやフォーキーや他のオモチャたちはどうなるの? 彼らだってボニーが大人になれば用なしになるんですし、ギャビーギャビーも同じことが言えます。
「子供のためのオモチャ」という前提を否定してるわけではないでしょうが、それでも、もし今後シリーズが続くならオモチャの存在意義がブレるようであってはいけません。

まあ、でもこれはファンタジーですからね。
ウッディボーには幸せになってほしいなと思います。
バズとも絶対二度と会えないなんてわけじゃないしさ。
そうでしょ?デューク・カブーン
20190320083610.jpg 
「イエス、ウィ、キャナダ!」

こいつ面白いキャラだったな。 声はキアヌ・リーブスだそうで。
最後のピクサーのタイトルロゴのシーンにも出てきましたね。


無題 toy 

「賢人のお言葉」
 
「時代の風潮、自分を取り巻く環境、さまざまな価値観、それらを正しく見きわめ、自分の判断で行動できるのは、どこにも属さない「迷子」だけだ」
 夏目漱石

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