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他にもこれ観ました  ~6月編(上)
2017年06月20日

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「ゴールド ―金塊の行方― 」

一獲千金は男のロマン。 しかし、うまい話には落とし穴があるのが常。
1990年代、北米の金融界で実際に起きた金鉱詐欺、通称"Bre-X事件"。
インドネシアに金鉱山を発見したというカナダの資源会社に、投資家が群がって株価がドーンと上がる。
しかし後になって「GOLDが出たのはウソだぴょ~ん」というのが発覚して株価がドーンと下がる。

アメリカ・カナダの経済に大混乱をもたらした、この一大事件。
金鉱脈はまず、ココと狙いをつけたところでボーリング調査を行い、金の含有量のデータから「ココは宝の山だ」と認定されて本格的な採鉱が始まるのですが、この事件はそのデータの数値が全くのデタラメであり、誰もがそれを何の疑いもなく鵜呑みにしていたのでした。
「そんな詐欺が成り立つのか?」というような、おそ松くんもビックリのお粗末な事件です。
この金脈スキャンダルを基にしたアメリカンドリームの光と闇の悲喜劇。 一応フィクションです。
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ケニー・ウェルス(マシュー・マコノヒー)は父から受け継いだ鉱山ビジネスの会社を仕切っていたが、80年代はウッハウハだったものの、90年代に入るとみるみるうちに会社の経営は火の車になった。
そんな時、彼は夢を見た。 インドネシアのボルネオで金鉱山を発見したという"夢のお告げ"を真に受けた彼は、地質学者のマイク・アコスタ(エドガー・ラミレス)を訪ねる。
業界ではイマイチ相手にされていないアコスタの「環太平洋理論」の信者でもあるケニーは並々ならぬ熱意でアコスタを口説き落とし、ボルネオのジャングルに向かった。
地元民の協力を経て採鉱をするがなかなか成果が上がらない。 しまいにはマラリアにかかって死にかけるケニー。
そんな苦労も報われて、遂に二人は金鉱山を発見するのだ。
会社はV字回復。 話を聞いてもくれなかった銀行は手のひらを返してすり寄ってくるわ、投資会社が乗っ取り目的で近づいてくるわと、ケニーの周辺は一気に慌ただしくなる。
インドネシア政府を巻き込んでの妨害なども乗り越えながら、ビジネスは順風満帆かと思われたその時、ケニーはアコスタが提出した金のサンプルのデータ数値が嘘だったという衝撃の事実を知る。
ケニーには一体何が何やら? アコスタも行方不明。
FBIの捜査も入り、窮地に立たされたケニーに果たして逆転の目はあるのか・・・・
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主人公の辿る浮き沈みが激しいのなんの。
「551の豚まんがある時ぃ~・ない時ぃ~」に匹敵するほどのアゲサゲ人生はそれだけで面白いのですが、成功者にたかってくる亡者たちのいやらしさなんかも見てたら、ホント「人間ってイヤ!」。
映画の途中から、実は前半のくだりがFBIの事情聴取による主人公の回想だったことが判明し、それまでのことが事実だったかどうかが怪しくなる語り口がミソ。 もとから共謀してた? そんな感じもしますね。 しかも、あのラスト!
アルシンドになっちゃった落武者ヘアーのマシュー・マコノヒーのビジュアルに唖然としますが、物語を引っ張っていく演技はさすがですね。
        

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「美しい星」

突然、宇宙人に覚醒した家族の奇想天外な人間賛歌の物語。
1962年に三島由紀夫が発表して物議をかもした原作を「桐島、部活やめるってよ」、「紙の月」の吉田大八監督が映画化。
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★テレビ気象予報士の大杉重一郎(リリー・フランキー)は、ある日自分が火星人であることに目覚めた。
自分は太陽系惑星連合の使者だと名乗り、生放送中に地球温暖化の深刻さを訴え、火星人のポーズをキメる重一郎の行動はどんどんエスカレートしていく。
★自転車便のメッセンジャーのバイトをしている長男・一雄(亀梨和也)は、ある日自分が水星人であることに目覚めた。
ひょんなことから参議院議員・鷹森の秘書、黒木(佐々木蔵之介)と出会い、私設秘書として働くようになり、黒木の謎めいた魅力に心酔していく。
★大学生の長女・暁子(橋本愛)は、ある日自分が金星人であることに目覚めた。
目立つことを極度に嫌う彼女は、ストリートミュージシャンの竹宮の歌を聞いて感動し、彼の故郷の金沢まで追いかけ、「僕も君と同じ金星人」と打ち明けられる。
★重一郎の妻、伊余子(中嶋朋子)は家族と接する時間が少なく、さびしい毎日を送っていたが主婦友から「美しい水」という名の水を勧められてネットワークビジネスにハマっていく。
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荒唐無稽な話なようですが、宇宙人云々は無理やり頭から追い出して観れば、ついて行けなくもないかなという作品。
妻を除く大杉一家の3人が本当に宇宙人に覚醒したかどうかは実際のところはボンヤリしたままです。
ただ元々、今の自分はこれでいいのかという鬱屈としながら色々とあきらめていた彼らが、ちょっとしたきっかけで自分がこの星の住人じゃないのではと思い込み出すところから、不思議と環境のことや人々の思想などについて意見を前面に出すようになるのが面白いですね。
さらには、それがほとんど狂気じみた形で暴走し、逆に家庭が崩壊していく様も皮肉です。
過激なエコロジストになる父親。 危険思想の政治秘書に心酔する息子。 女たらしのクズだと気づかずにストリートミュージシャンにほだされる娘。 健康水を本物と思いこんで詐欺商法の片棒を担がされる母親。
良かれという思いで自分が変わったはずなのに、周りが目に入らないほどのめり込んでいく家族は崩壊からそして再び再生へと肩を寄せ合う。 この美しい星、地球の尊さを噛みしめながら。

ちなみにアッシは六星占術的には「天王星人(+)」でごぜえやす。
母なる故郷のユラナスよ。しばらくは帰ることもなかろう。
すまぬがアッシはこの地球が好きなのだ。
        

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「たたら侍」

刀よりも鉄砲の数が物を言うようになった戦国時代。
そんな中、1000年前から奥出雲で受け継がれてきた製鉄技術「たたら吹き」。
日本刀に欠かせぬ材料を作り出す小さな村は、貴重な鋼を手に入れようとする諸大名や山賊の襲撃に幾度かさらされてきた。
秘伝を継承する村下の長男に生まれ育った伍介(青柳翔)は、村を守るために強くなりたいと願う。
商人の口利きもあって、村を出て織田信長の軍に仕えた伍介だったが、戦さ場の現実に怖じ気づき、何もできないまま村に戻ってくる。
やがて、伍介の仕官を手引きした大商人の与平(津川雅彦)が村を訪ねてきた。
村を守るためには鋼の技術を鉄砲に使う事だと与平に進言された伍介はそれ以来、鉄砲作りに躍起になる。
これに反対した伍介の幼なじみの新平(小林直己)が何者かに襲われる中、村は段々と要塞化していく。
それは鋼の利権を狙う与平の企みであり、自らの過ちに気づいた伍介だったが、いやが上にも多くの犠牲を払う戦いに巻き込まれていく・・・・・
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どうせLDHのショーケースなんじゃろ?という色眼鏡は外して観なければいけません。
ハイローみたいなヤンキー映画に興味はございませんが、時代劇ならば別です。
なんだかんだ言われてるようですが、個人的には悪くないと思いますが。
確かにストーリー上、もう少しピリッとした落ち着きがあった方が良かったかもしれません。
浮ついたような微妙なノリも気にはなりましたけれども・・・。
主人公はまあまあのヘタレなんですが、そのキャラクターだからこそ、物語の真意がいかに伝わるかですね。
武器を使う意味の重さ。 武器を使わずに戦うことの重さ。 侍であっても農民であっても大切なものを守るための戦い方を問うたテーマはしっかりと感じ取れます。

出演者の不祥事で早い打ち切りになってしまいましたが、そこまでしなきゃいけませんかね? 出演シーンもわずかですし。
舞台挨拶に出てたのが大きいのかなあ。
        

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「光をくれた人」

予告編を観てるだけで泣きそうになりますが、あらすじが大方わかってしまう予告編の弊害はちょっと考えないといけませんね。
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1918年。 戦争から帰還したトム・シェアボーン(マイケル・ファスベンダー)は傷を負った心を閉ざし、孤独を求めてオーストラリアの孤島の灯台守の仕事に就く。
やがて彼は町の名士の娘イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)と出会い、恋に落ちた二人は結婚し、孤島で共に暮らし始める。
しかし、夫婦に度重なる流産という不幸が襲いかかる。
心が深く傷ついたイザベルを心配するトム。
そんなある日、島に一隻のボートが流れ着く。
乗っていたのは既に息絶えていた若い男と、泣き叫ぶ女の子の赤ん坊だった。
保全局へ報告しようとするトムを制して、イザベルは赤ん坊を自分の娘として育てたいと懇願する。
過ちだと知りつつも、イザベルの気持ちも痛感するトムは彼女の願いを受け入れてしまう。
そして4年後、愛らしく育った娘のルーシーと幸せに暮らしていた二人だが、トムは墓地で偶然にも産みの母親ハナ(レイチェル・ワイズ)と出会ってしまう。

ハナにとっては偏見にもめげずに愛し合ったドイツ人の夫フランクとの間に設けた愛しき娘だが、激しい弾圧を逃れようとボートに乗って夫と娘は逃げてそれっきり。
てっきり死んだものだと思い込み、日々悲しみに暮れてたハナのもとに「娘さんは大切に育てられている」という匿名の手紙が届く。
衝撃を受けて警察に相談するハナだが、手掛かりは掴めずに2年が過ぎる。
やがて灯台建設40周年記念式典の出席のために町に出てきたトムとイザベル。 そこでトムが手をまわして式典に招待していたハナと対面し、イザベルもハナもすべてを悟る。
「打ち明けるべきだ」 「今さら手遅れよ」 「彼女が母親だ」 「あの子にとって私が母親よ」
大変なことを仕出かしてしまったことに慄きながら対立するトムとイザベル。
やがてトムは思いがけない行動に出る・・・・・
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二度も我が子の産声を聞くことが叶わず、辛い思いをしたことは同情するが、尚更本当の母親から子供を奪うというイザベルの行為は正直同情できません。 しかも夫を憎むあまりにとんでもない復讐をするのですからね。
夫のトムも妻の流産の悲しみを見ていることもあって、ギリギリ迷って一線を越えてしまのですが、密かに手紙を出したり、対面を手引きしたりする良心の呵責の末のコソコソした行為もどうかなあと思いますね。
産みの母親はもちろん、幼い娘が一番不憫で、灯台を探して一時行方不明になるシーンは胸が痛みます。
観終わってアレコレと考えたお客さんは多いでしょう。
こういうケースはどちらかが不幸にならないと収まらない訳で、できる限り救われる思いで締めくくってますが、それでもやりきれない悲劇です。

「光をくれた人」というタイトルも深い。
戦争で傷ついたトムの心に光を与えたイザベル。
子供を亡くしたイザベルに光を与えた、海から来た赤ん坊。
海を漂ってる赤子を光のもとへ救い出したトムとイザベル。
戦争のせいで差別されていたフランクに光を与えたハナ。
あきらめと絶望の淵にいたハナに光をくれたトム。

誰かが誰かに光を与えている。 なのにこの悲劇・・・。
その裏で光を奪っていた行為の代償があまりにも大きすぎたのですね。
        

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「花戦さ」

華道の流派である池坊の家元が継ぐ名跡「池坊専好」。
現在の池坊専好は4代目で初の女性だそうですが、初代は安土桃山時代、織田信長や豊臣秀吉とも関わりがあった御方。
その専好の数ある伝説を基にした鬼塚忠原作のフィクション小説を映画化したエンタテインメント時代劇。

ショッキングピンクがバックの派手なポスターには、キャストのほとんどがニコニコした顔で貼り付けられています。
『秀吉ギャフン!』のコピー。 軽快なムードの予告編。
どう見たってコメディかなと思いますわな。
でもこれ、まあまあヘビーな話。 いや、いいんですけどね別に。

河原で多くの死体が転がってるシーンがのっけから出てきます。
貧乏のあまりに、野垂れ死にしているホトケがどこにでも転がってるのが当たり前だった時代なんですね。

それにしても秀吉の暴君ぶりが凄いんじゃわいな。
もちろん会ったことはないですけど、そんなにひどい人だったんですかね。
そういう一面はあったでしょうけども、ここに出てくる秀吉は北の国のミサイル・オタクの小僧と変わりゃあしません。
千利休に対する嫉妬が絡んだ因縁は有名な逸話ですが、元々病弱だった愛息の鶴松が亡くなると、秀吉は八つ当たり的に庶民を弾圧します。
「猿」って呼んだ者は子供でも処刑してしまうんですからね。 このオッサン、ムチャクチャやな。

そこで、池坊専好(野村萬斎)がいけばなで、秀吉の傲慢をいさめるための"戦さ"を挑むというお話。
史実も混じってはいるものの、一応はフィクションなので、歴史のお勉強で観るのではなく、ここは専好さんがいけばなで以て「美」について説く、貴重なお言葉を勉強しましょう。
梅も桜もそれぞれに美しい。 互いを認め合う心こそが本当の美。
        

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「武曲 MUKOKU」

あれ? 「むきょく」じゃないの? 「むこく」?
【武曲(むこく)】とは北斗七星の中の二連星のこと。
北斗七星の柄杓型の柄の先から2番目にある、おおぐま座ゼータ星ミザールはアルコルという伴星が存在するのだそうで、つまり肉眼ではひとつに見えるけれど実は二つの星がお互いの引力で引き合って軌道を描いている連星なんですと。
北斗七星は本当は北斗八星なのです。
でも、このアルコルという星は、「北斗の拳」でいうところの"死兆星"。 見える人は近々死にます。 お気をつけ下さい。

さて、これは星の映画ではありません。
藤沢周の原作を「私の男」の熊切和嘉監督が映画化した、二人の青年の運命の物語。
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矢田部研吾(綾野剛)。
商業ビルの警備員をしているが、酒びたりの毎日を送っている。
飲みすぎて死ぬんではないかというぐらい、一日中べろんべろんのヤサグレぶり。 なぜこうなったかというと・・・。
幼い頃から警察官の父親はとにかく厳しい親で、研吾に毎日剣道のスパルタ教育を施していた。
研吾はとにかく父親が嫌いだった。
優しかった母が病死してからは父と子の対立は激しくなり、やがて県警の首席師範の座を降ろされた父は酒に溺れるようになる。
ある日、些細な口論から木刀を持って庭に出た二人。
研吾は父の頭に木刀を叩き込んだ。 それ以来、父は昏睡状態のまま病院で寝たきりになっている。

羽田融(村上虹郎)。
ラップのリリック作りに余念がない高校生。
ある日、学校の剣道部員にカラまれ、道場で大立ち回りを繰り広げた融は師範代から素質を見出されて、嫌々剣道部に入れられる。
最初は乗り気でなかったが次第に剣道にのめり込んでいく融。
彼は昔、堤防の決壊で水流に呑まれて死にかけた経験がある。
あの時の、生と死の境をもう一度味わいたかった融は、師範代の用事を引き受けたことがきっかけで研吾と出会う。
道場にフラリとやってきて、師範代から挑発された研吾と剣を交えた融は、殺し合いの様な狂気をはらんだ研吾の剣が忘れられない。
台風の夜、融は研吾のもとを訪ね、勝負を申し出る。

互いの引力に引かれるように出会った研吾と融。
研吾は自分を許して人生を切り開けるのか。
融は生きている実感を手にすることができるのか。
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目がすわり、体の芯から劣化しているような狂気を放射する綾野剛。
満たされない不安のあと、凶暴性の発露と共にハッとする輝きを見せる村上虹郎。(お父さんに似てきたなあ)
この二人の凄い演技だけで満腹。

人間って本当に不器用な生き物ですな。 余計な言葉がなくても伝わる思いもあれば、ちょっとした一言さえあれば・・・ということもある。
そんな所からやり切れない悲劇に堕ちた研吾に光を指すのが、父と同じように「闘え」と要求して向かってくる少年。
それこそ武者震いしそうな運命の物語。 役者のガチがダイレクトで迫る傑作だ。
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皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ
2017年06月16日

T0021677p.jpg子供の頃、血沸き肉踊りまくったロボット・アニメ。
「マジンガーZ」と「ゲッターロボ」。
しかし、マジンガー・シリーズとゲッター・シリーズを除いて他には?と問われると以外にグッときたモノはないのである。

申し訳ないがガンダムの世代ではない。
だが、観たことはあるけど面白さは??・・・というのを入れれば、アストロガンガーやライディーンが出てくるし、コン・バトラーVやガイキングあたりまでがギリギリである。

そしてもうひとつが「鋼鉄ジーグ」。
日曜の夕方になると、テレビから「♪ダンダダダダーン、ダダンダーダダン・・・♪」と、我らがアニキングこと水木一郎がシンギングする主題歌が流れる。
歌詞のほとんどがバンバンバンで占められ、歌い出しのダンダダダンまで含めたら、威勢のいいお経のような歌で、手抜き感満載の歌詞に当時のガキンチョたちはド肝を抜かれたものだ。

作詞者は林春生で「サザエさん」の歌も書いた人だし、まあ手抜きって訳ではないのだろうが、一度聴いたら誰もが「おまえはバンバン教の教祖かい!」と突っ込まずにはいられないファンキーなアニソンである。

歌はともかくとして。
無題
「鋼鉄ジーグ」はロボット・アニメであるが、ロボットに乗り込んで操縦するというパターンではなく、主人公の司馬宙(シバ・ヒロシ)が頭部に変身し、あとで胴体や手足のパーツと合体するという、異色のルーティンを踏むところが面白い。
腕と足のフォルムが戦国武士の甲冑の「こて」と「すねあて」を思わせ、動きも速く、ロボット感からは弱冠距離を取っている。
だいたいのアニメのロボットデザインが、赤あるいは青が印象に残るのを意識しているのに対し、このジーグは上半身の黄色と脚の緑をメインにした菜の花畑の様なカラーリングを施し、前腕にわずかに伺える青はまるで目立たない。 このデザインも実に型破りだ。

ぶっちゃけ、毎週マジメに観ていたわけではなく、内容も他の作品と混同しているほど記憶に乏しいので、面白かったかどうかを言える義理もない。
実際視聴率はあまり振るわず、タカラから出ていた玩具マグネモ・シリーズだけは売れていたという複雑な“子供の事情”があったというのも有名な話。

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そんな「鋼鉄ジーグ」。
日本での放送の4年後。 78年からイタリアでも放送されるのだが、これがまたケタ外れの人気を博し、視聴率が80%を超えたという。 昔の紅白なみである。
視聴者世代は子供、それも大方が男子と限られているはずであることを思えば、この数字は驚異。

70年代後半の時代には、日本製のアニメがヨーロッパに大挙輸出されており、フランスでは「UFOロボ グレンダイザー」が視聴率100%を記録したと伝わっているように、ヨーロピアンの日本アニメに対するツボのハマり方は尋常ではない。

日本アニメを放送する専門のチャンネルまであったイタリアで、前述の「鋼鉄ジーグ」や「グレンダイザー」はもちろんのこと、「マジンガーZ」、「キャプテン・ハーロック」、「ルパン三世」、「タイガーマスク」、「キャプテン翼」など多くの“日本の宝”に触れて熱狂したイタリアーノの童子の中に、ガブリエーレ・マイネッティという少年がいた。

その少年は大人になって映画監督となり、2015年、遂に長編デビューを果たした。
その作品が「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」である。
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この映画は「鋼鉄ジーグ」の実写化という訳ではない。
ロボットなどは出てこないし、ハニワ幻人のハの字も出てはこない。

これは、突如ヒーローとなる宿命を負った一人の男が自らの生き方を問う再生ストーリーに、マイネッティが感銘を受けた「鋼鉄ジーグ」のベースにあるスピリットを投影させた野心的エンタテインメントである。
本作はイタリアのアカデミー賞であるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で、最多の16部門にノミネートされ、主演男優賞、主演女優賞など7部門を受賞している。

なんと、のっけから「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」のオープニング・タイトルが日本語でそのままドーンと大映しになる。
てっきり配給会社が余計なことをしたのかと勘ぐってしまったが、これは監督が日本へのリスペクトを込めて、わざわざタイトルを日本語にしたのだという。
そりゃどうも。 グラッツェ、グラッツェ。


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主人公はシバ・ヒロシではなく、エンツォ(クラウディオ・サンタマリア)という男。
物静かではあるが、うだつが上がらない見本のような人生を歩んできた男で、家族なし、職なし、ダチなし、カノジョなし、カネなし、夢もチボーもなし。
ローマ郊外のトル・べッラ・モナカという街にあるボロいアパートで一人暮らし。
大好物のヨーグルトをむさぼるように食いながら、アダルトビデオをむさぼるように観るのが唯一の楽しみである。

もちろん、まともなことをして食いぶちを稼いでやしない。
盗品を売りさばいたり、マフィアに出入りするゴロツキにくっついてはパシリや見張りなどをしている文字通りのクズだ。

その日、エンツォはつまらん盗みを働いて、ポリスメンに追いかけられていた。
ローマを流れるテヴェレ川まで逃げてきた彼は、いよいよ追いつめられて川に飛び込む。
だが、その川の底には放射性廃棄物のドラム缶が沈んでおり、エンツォは誤ってそのドラム缶の中に体がはまってしまう。
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ようやく命からがら水底から這い上がったエンツォだが、しこたま放射能にまみれてしまった。
逃げ隠れするのに必死のパッチだった本人は何も気づかない。
アパートに帰ったら、シャレにならんぐらいの寒気に襲われ、真っ黒なゲロを吐いてダウン。
毛布にくるまってブルブル震えながら、エンツォはアパートの一室で一人、生死の境をさまようことになる。

普通なら「おまえはもう死んでいる」になってもおかしくない状態であるが、なぜか体調はみるみるうちに回復。
元気になったエンツォは“オヤジ”と呼んで慕っているセルジョを訪ねる。 仕えているマフィアから麻薬取引を任されたセルジョの仕事についていくことになったエンツォ
その前にセルジョの家に寄ったエンツォはそこでセルジョの娘アレッシア(イレニア・パストレッリ)と対面する。
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会った途端、エンツォに向かって「あんた、アマソの手先?」と聞いてくるアレッシア
彼女は熱狂的な「鋼鉄ジーグ」のファンで、DVDプレーヤーを片時も離さず、炎の帝王がどうだのと、しゃべる言葉は「鋼鉄ジーグ」のことばかり。
どうやら彼女は現実とアニメの世界を混同した妄想の中で過ごしているらしい。
母親が亡くなり、セルジョがムショに入っている間に施設に預けられた孤独から心を病んでしまったのだと、娘の不憫な境遇をセルジョは嘆く。

だがセルジョはそのあとで向かった麻薬取引の現場で、突発的なイザコザの末に射殺されてしまう。
そばにいたエンツォも銃弾をくらい、ビルの9階から転落して地上に叩きつけられる。
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今度こそマジで「おまえはもう死んでいる」のはずなのだが。
なんと、エンツォはむっくりと起き上った。
もちろん彼自身もビルの9階から落ちたことぐらいは分かっている。
なのに、素人レスラーからパワーボムをくらった程度のような感覚で、骨折はおろか打ち身も捻挫も出血もなし。

(一体自分の体に何が起きているのか・・・・)
(「お母さん、僕は丈夫な体に育ちました」どころのレベルではないことは確かだ。)
(川に飛び込んでから一時期体調不良がMAXだったのが関係しているのかもしれない・・・)

とにもかくにも、自身の体が劇的にレヴォリューションしたことをエンツォは悟った。

だが、この時点で彼はまだ知る由もなかった。
エンツォ自身の人生もまた大きく変わろうとしていることを。

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アパートに帰り、エンツォは試してみた。
セントラルヒーティングのラジエーター(アコーディオンみたいな暖房器具)を引っこ抜き、力任せにひん曲げてみた。
スーパーマンやターミネーターなら顔色一つ変えずにクイッとやってしまうだろうが、さすがにそこまでではない。
それでも地球人離れした怪力で、ラジエーターはハリセンみたいに変貌した。

しかし、これで真冬の夜はクソ寒い思いをすることになるとは考えなかったのか。 暑さ寒さもヘッチャラになったのならいいが。
確かなのは、あとでアパートの大家さんに激ギレされることである。

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スーパーパワーを身につけたと分かった人の8割方は、まずは自分の利益にそれを役立てることを考える。
まっとうなことはしないのが人間のサガ。

いかにも怪しい格好で夜中の街に出たエンツォは、銀行に外付けされてるATMを引っこ抜き、かついでお持ち帰りした。
あの型のATMなら紙幣がカッツカツに入っていても300キロぐらいかもしれない。
ただ、イタリアのATMのメーカーはどうか知らないが、日本のATMは無理やり力づくで金を盗ろうとしたら特殊なインクが噴出される仕組みになっている(のもある)。
くれぐれも、いくら力自慢であろうとATMのお持ち帰りは絶対してはいけない。
どうせ紙幣が使えないという事ではなく、泥棒はいけないのは当たり前。

何者かがATMを引っこ抜いてお持ち帰りするという、防犯カメラの映像が動画サイトに流れて世間は騒然。
一体、あのフードの人物は何者なのか?
人々はこの謎の人物を「スーパークリミナル」と呼んだ。


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一方、イタリアン・マフィアのボス、ジンガロ(ルカ・マリネッリ)のイライラは頂点を迎えようとしていた。
麻薬の取引に行かせたセルジョが死んでしまっていることなど知らないジンガロは、てっきりセルジョが麻薬を持ち逃げしたのではないかと気が気でない。
取り引き相手である上部組織の女親玉ヌンツァ(アントニア・トルッポ)に知れたら殺されかねない。 いやまちがいなく殺される。

このジンガロという男は病的と言っていいほどのナルシストである。
周りから注目されたい、尊敬されたい・・・ 自己顕示欲がスクスク育った彼は自分をリスペクトしない奴は部下でもアッサリと殺す。
スマホの色はブラック意外は有り得ないという。
部下にスマホを買わせに行かせたら(自分で買いに行けよ)、「これ64ギガだぜ」と白を買ってきやがったことに子供の様なキレ方をする。
カラオケを歌うとカマっぽい歌い方をし、昔テレビのオーディション番組に一回だけ出たことをいつも自慢している。

ヌンツァにキレられる前に、なんとかセルジョを探し出そうとジンガロは部下を引き連れてセルジョの家に押し掛け、アレッシアを拷問しようとする。

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ジンガロたちがたむろしている部屋の外をたまたま通りかかったエンツォは一旦スルーした。 もちろん助ける義理などない。
だが、彼の心はざわつかずにはいられなかった。
母親を亡くして「鋼鉄ジーグ」だけを支えに生きている女は、父親も失ってしまったことをまだ知らない。
かつてはエンツォも、多くの仲間や友達を失って、今までを自暴自棄に生きてきたのだ。
昔の自分の面影を垣間見せるアレッシアの心の叫びが今エンツォの胸をかき乱していた。

この力が生まれたのは己のためではなく、この力を必要とする人のため。
救いを求める人の力になることで、自らの魂も救われるのだとエンツォの中の正義が語りかける。

フード姿で部屋に飛び込んだエンツォはアッという間にジンガロの手下どもを一網打尽。
ローマの片隅で、鋼鉄ジーグが降臨した瞬間である。
スーパーパワーを振るうエンツォに魅了されたアレッシアは、彼を「ヒロシ」と呼んで慕い、こうして二人は共同生活を始めるのだった。

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「ヒロシ。 その力で皆を救わなきゃ。 あなたは人類を救う運命を背負ってるのよ」
「だからヒロシじゃねえし。 俺は誰も救わねえ」
「闇の世界を救って。 そして父さんを助けて」

おまえの親父さんは死んだんだよとは、なかなか言い出せなかったエンツォだが、やがてそのことをアレッシアが知る。
父親を見殺しにしたことを知って傷ついたアレッシアエンツォのもとから去ろうとするが、エンツォの想いは止まらなかった。
彼女のために生きていく、その固い決意こそが今のエンツォの生きる意味であった。

「今は生きていて楽しい。 おまえがいるから」
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遺体安置所でセルジョの亡骸と対面したアレッシアが、セルジョの胸の入れ墨の形を知っていたことや、セルジョに別れを告げる時に、「さよならアマソ」と、アニメに出てくる敵幹部の名前を呼んだことから、何がアレッシアを傷つけていたのかをエンツォは悟った。
彼女は幼い頃から父親から性的虐待を受けていたのだ。

もう何者にも彼女を傷つけさせはしない。
鋼の肉体と鉄の心で、世界のあらゆる敵から彼女を守ってみせるのだと、エンツォは身も心も鋼鉄ジーグへと生まれ変わっていく。

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その頃、オカマのナル男、ジンガロは進退極っていた。
大ボス、ヌンツァの怒りを買い、仲間からの信頼も失くしていたジンガロは、組織を抜けようとした部下を粛清する。
なんとか金は作ったのに、些細なトラブルからヌンツァの部下を殺してしまい、完全にヌンツァを敵に回してしまった。
もう後戻りはできない。

その時ジンガロが目にしたのは、一般人がYouTubeにあげた「スーパークリミナル」の動画だった。
目立ちたがりで「オレ様一番」でないと気が済まないジンガロにとって、自分の仕事を邪魔した上に世間から持てはやされるフード姿のヒーロー気取り野郎は鼻持ちならない存在だった。
だが、ジンガロが今観ている動画の中のスーパークリミナルはフード姿ではなかった。
路面電車を素手で止め、セルジョの娘をお嬢様抱っこしている、むさ苦しさ満点の男。 見覚えのある顔だった。

自分もスーパーパワーを手に入れたいという一心に駆られたジンガロエンツォの居場所を突き止め、アレッシアを人質に取り、エンツォを脅迫する。
エンツォは仕方なくジンガロを川まで案内するが、その時ヌンツァジンガロを殺すために部下を引き連れて襲撃してきた。
その銃撃戦のさ中、エンツォを守ろうとしたアレッシアは銃弾に倒れてしまう。
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エンツォの腕の中で息を引き取ったアレッシアが残した最期の言葉を彼は涙にくれながら噛みしめる。
「ヒロ。 人々のために戦って」

アレッシアが愛してやまなかった「鋼鉄ジーグ」。
大いなる力を人類の平和のために使って、命の限りに戦う美しきヒーローの雄姿がアレッシアにとっての、このクズだらけの世界の唯一の希望であった。
現代は未だに邪魔大王国の支配下にあるのだろう。
悪の女王ヒミカやハニワ幻人が平和を脅かしているのだ。
人々がジーグを求めている。 人々がジーグを呼んでいる。
強い者が弱い者を泣かし、傷つけて奪う世界がいい方向へと導かれることを願うアレッシアの想いを託されたエンツォのヒーロー魂が今覚醒しようとしていた。

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ヌンツァの襲撃により、火を付けられたジンガロは川へと飛び込んでそれっきりだったが、後日、ヌンツァの屋敷に一見アリス・クーパーを思わせるメタル野郎が乗り込んできた。
その男こそ、川へ飛び込んで、エンツォと同じくスーパーパワーを身につけて、すっかりヴィジュアルが痛くなったジンガロであった。

ジンガロヌンツァをはじめ部下たちを血祭りに上げ、それを動画撮影して御満悦。
「いいね」をたくさんもらえれば彼の気が済むかというと、もちろんそんな訳はなく、大胆不敵に爆弾テロを予告する。

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アレッシアが死んだショックで、呆然とさまよっていたエンツォの目の前で交通事故が起きる。
炎上する車に取り残された少女を救い出したエンツォは、少女の母親に感謝されて温かいものが胸に広がるのを感じていた。
その場で、ジンガロの犯行予告の動画を目にしたエンツォは決意の一歩を踏み出す。
取り囲んでいた人々から「あんた、何者なんだ?」と問う声が上がる。
「ヒロシ・シバだ」
行け、ジーグ。 行け、エンツォ。 今こそ人類のために戦う時が来た。

♪ たたきぬいた この体には
平和の願い こもっている
負けるものか 地獄の敵に
ジーグの力 みせてやる ダダッダー ♪



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「スパイダーマン」を彷彿とさせると言うより、ほぼ同等のテイストのヒーロードラマ。
イタリア人だって、ハリウッド製のアメコミ映画は観ているであろうに、さほど珍しくない"ヒーロー覚醒序曲"の映画が何ゆえにイタリアのアカデミー賞をにぎわすぐらいウケたのだろう?

確かに、イタリア人は日本のアニメが好きだ。 好き過ぎておかしくなっているのではと思うほど、イタリア人のオタ・レベルは度を超している。
そのくせ、自前のアニメや漫画の創作に対する熱はさほどでもないからユニークな国である。
この40年ほどの間で、日本のアニメこそがイタリア人の情操教育を担ってきたと言っても過言ではない。
特に「鋼鉄ジーグ」は、イタリアの老若男女のバイブルであり、ここから多くのことを学んだ人は多いはずなのだ。

映画の舞台であるトル・べッラ・モナカは、ローマをぐるっと囲むGRA環状道路の円の外の東側にある街で、ガラの悪さはお墨付き。
そんな街でクソ人生を粛々と歩んできた一人の男。
AVを観ることだけが楽しみで、ヤクザのパシリとコソ泥をしながらその日暮らしをしている、そんなゴロツキが突然スーパーパワーを身につける。
どん底から一転して恐いものなしの状況に好転する、誰もが憧れる夢のシチュエーションだ。
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誰にもない力を身につけた時、人はその力をどの方向へと使うのか。
誰だって幸せになりたい。 うまくやれば、お金に困らない人生を手にできるかもしれない。
今まで人生にもがいてきた分、多少は周囲に影響を及ぼしてでも、自分の人生のために力を使いたいというのは、人情として分からないではない。
だがイタリア人だけでなく、我々日本人も、世界中の人々もヒーローアニメで大事なことを学んできた。
人より秀でた力は、人のために使ってこそ意義があるのだということを。

邪まな道へ行く者もいる。
その方が楽だし、面白いからだ。
しかし、その力で世界が意のままになると思い違えたその行く末は、人から蔑まれる孤独なガキ大将の人生が待っているだけだ。
エンツォは自分の境遇と重ねずにはいられない女アレッシアと出会い、自分をシバ・ヒロシと慕ってくれる温かい感情に触れる。
そして彼女の愛する「鋼鉄ジーグ」の精神を共有し、人のために力を使う、世界の救世主シバ・ヒロシになることを決意する。

誰からも名を知られることなく、人生を無為に削っていくスラムのゴロツキだった彼の姿は今はもうない。
荒んだ街に光と希望を見出した人々は、この一人の男の名をこう呼ぶのであろう。
「鋼鉄ジーグ」と。

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日本人以上にイタリア人が親しむ「鋼鉄ジーグ」をモチーフに、かつて人々がヒーローに託した夢や生き様を、小悪党オヤジのリアリティあふれる再生のドラマとして昇華させた、イタリア映画らしさと異色さが同居したジャンル映画の傑作。
ヒーローものの王道的な展開をなぞりながらも、泥臭いハードボイルドと、ピュアなラブストーリーが融合した昭和歌謡の様な物語のカタルシスがたまらない。
毒々しさ全開の悪役も見事。


「賢人のお言葉
 「最も熱い炉から最も清純な鋼が生まれ、最も暗い嵐から最も明るい稲妻が生まれる」
 チャールズ・コルトン

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ジェーン・ドウの解剖
2017年06月10日

T0021923p.jpg 基本的に、医者が臨終を見届けなかった遺体は、解剖して死因を確認しないといけない決まりがあると聞いたことがあるような・・・。
司法解剖に、行政解剖。 さらには病理解剖、系統解剖・・・。
万が一、事件性が隠れているかもしれないし、解剖によって医学的な新しい発見が有るかもしれない訳だから、「ちゃんとする」ために人は死んだ後でも切り刻まれるのである。

それにしても解剖を実際に執り行う監察医という仕事は尊敬に値する。
体を鍛えようが、いい学校を出ようが、人間の内臓を目にする生理的な不快感だけは打ち勝つ術はない。
たかが皮膚の下にある、みんな持ってる同じモノであっても。
最初から何にも感じない医者はいないであろう。
多分、何回かやって、慣れるまでは相当きついと思うのだが。


身元不明の遺体に対し、アメリカでは男性の場合「ジョン・ドウ」、女性を「ジェーン・ドウ」と仮の名前をつけるのだそうだ。
(ドゥではなくてドウ {Doe} )
この映画は、ある検視官父子のもとに運ばれてきた一体のジェーン・ドウが巻き起こす恐怖の一夜を描いた戦慄のホラー。
監督は「トロール・ハンター」で大きな反響を呼んだアンドレ・ウーヴレダル。


【Prologue】
バージニア州のグランザンという田舎町で、ダグラス一家3人が惨殺される事件が発生。
バーク保安官らが捜査に当たった現場の地下から、4人目の遺体が発見される。
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土の中から出てきた一糸まとわぬ透き通るような裸体の美女。
だが、この女性。 被害者一家とは何の関わりもない身元不明の名無しの権兵衛。
一体何者なのか? なぜこの家の地下で死んでいたのか?
ジェーン・ドウ」と名付けられた遺体は当然検視に回されることになった。
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_thumb_7af1d697-1417-4081-ab3c-9adf39b18db3.jpg 
『ティルデン死体安置所&火葬場』・・・・1919年以来、親子三代続いている、死体のことならオマカセの保安官御用達業者。
検視官でもある父のトミー・ティルデン(ブライアン・コックス)と息子のオースティン(エミール・ハーシュ)の父子の兼住居でもある。
母親は心を病んで自殺している。

エマ(オフィリア・ラヴィボンド)というガールフレンドがいるオースティンは、この仕事に見切りをつけて町を出たい気持ちと、父を一人にできない悩みの間で揺れていた。
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「どうしたオースティン? 元気がないな。 ハハァン、さては巨人が13連敗したことか? まあ元気出せ。 98年のロッテの18連敗に比べりゃあ、まだまだだ。 どうせなら日本記録を更新すりゃいいさ」
「父ちゃん、巨人の連敗は止まったよ」
「なに? それはそれで逆につまらんのぉ。 じゃあ何を悩んどるのだ?」
「父ちゃん、俺、今夜デートしたいんだよね」
「ワシとか?」
「なんでやねん! カノジョだよ! エマと映画でも観に行こうかなあって」
「お~、いいじゃないか。 行ってこい行ってこい」
「でもさ・・・、父ちゃん一人で大丈夫?」
「失礼だな、オマエ。 ワシは一人でトイレにも行けるし、一人でご飯も食べれますよ~だ」
「分かっとるわい! そういうこと言ってんじゃないよ。 こんな時に限って仕事が入るんだよね」
「う~ん、まあ大丈夫だろう。 おまえだって本当はそれどころじゃないだろ? 早くカノジョと一緒にイチャイチャと解剖ゴッコでもしたいんじゃろ? 『アソコを開いちゃお、アソコをいじっちゃお、アッハンウッフン』とか言いながら。 あ~、うらやまし。 ・・・あれ?怒った?」
「父ちゃん・・・・なんで分かったんだよ」
「当たってたのかよ! なんでもいいが、ここは心配するな。 気にせずカノジョと楽しんでこい」


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「こんばんわ。 保安官ですよ~。 急で申し訳ないけどお仕事持って来ちゃったよ~」
「今夜は息子がデートに行くんだけどなあ」
「アンタとかい?」
「アホか! ちゃんとしたカノジョじゃ。 まあ別にワシ一人でも検視はできるがの」
「そんじゃ頼んまっさ。 ついさっき一家皆殺しがあってね。 そこの現場から“ジェーン・ドウ”が見つかったのさ。 見たところ、目立った外傷がないんだよね」
「ほお・・・。 で、その死因を調べりゃいいのだな」
「そゆこと。 見たらビックリするよ。 ピッチピチの若いネエチャンだから」

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「こ、これはまた・・・」
「きれいな肌してるし、ナイスバディだろ?」
「思わず見とれてしまうのぉ」
「言っとくがホトケ相手に変なイタズラするなよ」

「オマエなぁ、ワシをなんだと思っとる」
「父ちゃん」
「ワッ!ビックリした! オマエまだいたのか」
「やっぱり手伝うよ。 デートはこの仕事が終わってからでも十分間に合うし。 エマにもそう説明したから」
「じゃあ、お二人さん、明日の朝また来るから。 よろしくね~」

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「きれいな体してるなあ・・・」
「まさかとは思うが、若い女と聞いたから、ここに残る気になったんじゃなかろうな」
「バカなこと言わないでよ。 相手は死体だよ。 むしろ父ちゃんこそ、ここに一人にしたら危なっかしいよ」
「確かに、女房に死なれてからずいぶん溜まってるからのぉ。 つい思いあまって・・・ってアホ!」
「屍姦って言うんだっけ? そんなマニアもいるからねえ」
「ワシはそんな趣味はないが、オマエのカノジョはけっこうヤバいな」
「そうだね。 僕の仕事に興味しんしんだし。 死体を見せてって言うし」
「ありゃ、いい女房になるぞ。 ここの暮らしも苦にならんだろ」
「そのことだけどさ・・・。 まあいいや、その話はまた今度」
「なんだよその言い方。 あっ分かったぞ。 ワシにもカノジョを紹介してくれるのか? それなら40代前半までのブロンドで、身長が165センチ以下で、意外にも和服も似合う人を希望します」
「だまれジジイ」 「ハイ」
「まずは写真を撮っとこう。 あの角度からパシャッ。ムフフ。 この角度からパシャッ。イヒヒヒ」

「オマエ、テンションが変になってきとるぞ」

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「では、お目目を拝見しとくかのぉ。」
「父ちゃん。この人・・・カラコンしてるよ」
「ドアホ! そんなボケはいらんのじゃ。 眼球が白濁してるから間違いなく死んでいるのぉ」
「でもさ。 この彼女、地下室の土の中に埋められてたって報告書にあるよね。 どれぐらい前に死んだんだろ?」
「死斑も出てないし、死後硬直もまったくない。 体がまるで生きてるようにしなやかで柔らかい」
「ついさっき死んだような・・・。 なんか不思議な死体だな」
「土の中から発見された割には、まぶたの裏とか鼻や耳に砂の一粒も入っていないし爪もきれいだ。 髪の毛もシャンプーしたみたいにきれいだし。 どういうことじゃ、これは?」
「保安官が気を効かせて洗ったのかな?」
「そんな訳はねえじゃろ。 おっ・・・これは・・・。 両手首と両足首の骨が折れとるのぉ」
「ホントだ。 触るまで分かんないや。 でも、この折れ方は・・・」
「グネったとか、重い物に挟まれたとかでもない。 明らかに強い力で絞められて折れているのぉ」
「ロープか何かで縛られてたのかな? それにしてもそんな外傷の痕がまったくないってのは・・・」
「ますます不思議じゃのぉ」


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「お次は口の中じゃ」
「オオッ!舌が切られてる!」
「切られてるというよりも、ちぎらてるんじゃな、これは」
「ちぎるって・・・どうやって?」
「自分自身では、まずできんじゃろ。 これは多分、拷問の類いだな」
「一体何があったんだよ、この彼女」
「しかも右側の大臼歯が欠損してるな」 


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「口の奥に何かあるのぉ。 どれどれ・・・ほぉ」
「それ・・・糸だね」
「なぜめぐり逢うのかを私たちはなにも知らない・・・」
「中島みゆきを歌ってる場合じゃないよね」
「口から何か布のようなものを突っ込まれとるのかも知れんな」
「むごいな」
「それじゃ次は、いよいよ膣を拝むとしよう」
「待ってました!」
「待ってましたとか言うんじゃない! 検視のためには必要な工程じゃろが」
「父ちゃん、最初に僕が見るよ」
「いや、ワシが先じゃ。」
「このドスケベ!」 「オマエが言うな!」


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「これはひどい。 膣の中がスリ傷だらけじゃぞ」
「父ちゃん、やっぱ僕の目を盗んで・・・」
「オマエ、マジでしばくぞ。 ワシはそんなことはしとらん」
「でも、どうやったら膣の中にこんな傷がつくのかな?」
「何かの器具を突っ込まれて、無理やりこじ開けられとるんじゃろ。 それもネジ式で回転しながら押し広げていくような器具ではないかのぉ」
「子供の頃から今まで数多くのAV観たけど、そんなプレイはなかったよな」
「・・・オマエ、今すごいことカミングアウトしたな。 お小遣いをそんなことに使ってたとはな」
「違うよ。 父ちゃんが押し入れに隠していたコレクションを夜な夜な・・・」
「もういい、分かった分かった。 さすがはワシの息子じゃの」
「だろ?」
「それにしても、この女性の体だが、気がついたか? 異様にウエストが細い」
「近世の欧米の女性がキッチキチにコルセットで腰を絞めあげるっていうファッションの風潮があったけど、それを思わせるような・・・」
「近頃また流行っとるのか?」

「そんなの見たことないけどなあ」

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「よおし、それではこれから解剖にかかるぞ。 最初のメスはオマエがやってみるか?」
「いや、父ちゃんに譲るよ。 親孝行な僕ちゃんだし」
「チキンならチキンって言えよ、オマエ。 まあいい。 じゃあいくぞ。 はい、スパッとね」

 
その時、作業場に置いてあったラジカセが突然大音量で音楽を鳴らし、蛍光灯が点滅する・・・・

「ビックリしたあ。 父ちゃんやっぱ新しいラジカセ買おうよ。 ケンウッドのカッチョいいオーディオシステムがヨドバシカメラで売ってたんだよ。 アレが欲しいなあ」
「やかましい。 そんな金あるけぇ。 そんなことより、ちゃんと蛍光灯を交換しとけよ」
「こないだやったばっかりだよ。 おかしいなあ」
「・・・おい。 切ったのはいいが、血がどんどん流れるぞ。 何だこの死体? まだ生きてるのか? いや、そんなはずは・・・」
「まだ血液が循環してるってこと? だから死斑もないんだろうけど。 でもちょっと異常すぎるよ」


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「肺が真っ黒だな」
「タバコの吸いすぎかあ。 美女の意外な一面ってとこだね」
「ちがうな。 肺が焦げてるんだ。 つまり彼女は焼け死んだってことだ。 死んだあとで火をつけられたら肺はこうはならない」
「嘘でしょ? こんなに全身がきれいなままなのに?」
「どうなっとるんだ、これは・・・」


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「とにかく臓器を全部調べてみにゃあ分からんな」
「父ちゃん、ラジオで今夜はひどい嵐になるって言ってるよ」
「今朝はそんなこと言ってなかったがな。 いや、それよりも臓器という臓器がみんな刺し傷だらけだぞ。 なんでこんなことになる?」
「父ちゃん、(猫の)スタンリーがいないよ」
「そこらへんをほっつき歩いてるんだろ。 それにしてもこれだけ謎だらけの死体は検視のやりがいもあるな」
「父ちゃん、外で変な物音がするよ」
「風の音かなんかだろ」
「父ちゃん、屁が出そうだよ」
「うるせえ、出しゃあいいじゃねえか」


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「胃の中に何かあるぞ」
「なんか、花びらっぽいね」
「チョウセンアサガオの一種かも知れんな。 昔は自白とか麻酔用に使われた毒草だ」
「なんか、布のかたまりも出てきたよ」
「何かがくるまれてるような感じだ。 広げてみよう」
「・・・これ。 さっき、歯がないって言ってたけど・・・」
「抜いた歯を布でくるんで飲み込ませたんだな」
「拷問をした人が? なんのために?」
「何かの儀式のいけにえかも知れんな」

「儀式?今どき? 宗教か何かかな?」

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「布切れに何か書かれてるな」
「ローマ字だけど、適当に羅列されてるね」
「それに、妙な図形も記されてる」
「まじないか何かかな?」
「まじない・・・。 うん、イイ線いってるかも知れんな。 ちょっと待てよ。 この布を三角形にたたんでみよう。 文字が出てこないか?」
「LEVITICUS XX XXVII・・・・これって、ひょっとして聖書の?」
「レビ記だな。 20章の27節だ」


『男または女で、口寄せ、または占いをする者は、必ず殺さなければならない。 すなわち、石で撃ち殺さなければならない。 その血は彼らに帰するであろう』

「“1693”という数字も確認できるよ」
「多分、年代だろう」
「何の?」
「この布に字を書いた日付じゃよ。 つまり彼女が死んだ年じゃ」
「やっべえ。 親父が遂にボケだしたぞ」
「1693年はニューイングランドのセーラムで魔女裁判があった年じゃ。 つまり彼女はその犠牲者じゃ」
「いやいやいや、待ちなよ父ちゃん。 たとえそうでも、このきれいな死体はどう説明すんのさ」

「確かめたいことがある」

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「頭蓋の開溝を行うぞ。 剃髪してるヒマはないから頭皮を項部から切って裏返そう」
「頭皮がベロンとなって顔を覆うと、なんだかシュールだなあ」
「細胞を採取して顕微鏡で見てくれ」
「父ちゃん・・・これ、やべえよ」
「どうした?」
「生きてるよ。 この脳は活動してるんだよ」
「オースティン、こいつは厄介なことになってきたぞ。 ワシらはこのジェーン・ドウを解剖してはならんかったのかも知れんぞ」


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そうなのだ。 この死体だけは解剖してはならなかったのだ。
彼女は300年以上も昔のニューイングランドで、魔女の疑いをかけられ、拷問の末に亡くなった女性である。
その彼女が死んだ今でも、自分の屍に関わる、あるいは至近距離にいる者に対して災いをもたらすのだが、死してなお朽ちぬその肉体の秘密は、彼女が本物の魔女だったのか、それとも恨みのあまりに魔女の様な神秘を身につけたからなのかは定かでない。
劇中では、トミーが後者の意見を述べているが。

今にもムックリと起き上って、「あら、おはようさん」と言いそうな“ジェーン・ドウ”の表情の不気味さがなんとも言えない。
時折、上面から撮った彼女の表情のカットが入るが、開眼のままのせいもあって、何かを訴えているような顔は長い時間正視し辛い。
この“ジェーン・ドウ”の表情演出だけで十分うまくいってる映画だ。

終始寝たっきりで死体役を演じたのはアイルランド出身のモデル兼女優、オルウェン・キャサリン・ケリー。
「美しい死体」といえば、「ツイン・ピークス」でシェリル・リーが演じた“ローラ・パーマー”が有名だが、本作のケリー嬢も「実は怨念の力で生きてる」ことを内在した、ある意味クリーチャーであることから、そのまがまがしさが「スペースバンパイア」(85)のマチルダ・メイの女エイリアンを思い出させる。

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ネタバレを書いておきながら恐縮だが、この映画の面白さは、「解剖」という一種のイベントを、ホラーを楽しむための言い訳としてじっくりと観れることと、そこに謎解きの要素を加えたところにある。
死体をバラしていく描写は、この手のホラー好きの御方には申し分なかろう。
内臓も嫌というほど出てくるし。 脳みそ露出も実にクールな手法で描かれるし。
全身の皮膚をベロンチョとむくシーンの「やりきってる感」が見事。

そして解剖がひとつひとつ進行していくごとに、発見と共に謎が積み上げられていって、真相への興味がジワジワと湧き上がってくる。
ここらへんが、とにかく前のめりになるほどに面白い。
まさか17世紀の魔女狩りにつながるとは。

死体の正体が小出しに明るみになるに連れ、検視官父子の周囲に起こる怪奇現象も次第にエスカレート。
どんどん直接的な攻撃が増していき、こりゃいかんと気がついた時にはすでに遅し。
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冒頭の惨殺事件のくだり以降は、ほぼワン・シチュエーションの密室ホラー。
大詰めになれば、安置されていた他の死体も動き出し、少々ノリがお化け屋敷っぽくなってしまうが、当事者が知らぬ間に追い詰められていく恐さは十分に堪能できる。
住居兼の死体安置&火葬場は、仕事上の都合なのか、廊下の角にカーブミラーが設置されており、これが意外に恐怖演出に一役。

本作を観てやっぱり思った。
遺体の解剖の仕事をする人はホントに偉大。


「賢人のお言葉」
 
「死んだことのない人が、死んだ人のことがわかるかな」
 山下清

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他にもこれ観ました  ~5月編(下)
2017年06月08日

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「追憶」

「駅 STATION」、「鉄道員(ぽっぽや)」などの名作を手掛けてきた監督・降旗康男、撮影・木村大作の名コンビが2007年の「憑神」以来の再タッグを組んだヒューマン・サスペンス。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
富山県警刑事の四方篤(岡田准一)、輪島で土建屋を構えている田所啓太(小栗旬)、東京で倒産寸前のガラス店を営む川端悟(柄本佑)。
この3人は25年前、少年時代に親に捨てられた同じような境遇のもと、喫茶店を営む仁科涼子(安藤サクラ)と常連客の山形光男(吉岡秀隆)の世話になりながら家族のように過ごしてきた。
しかし、3人はある事件の秘密を守るためにあえて別れ別れになり、その25年後に思わぬ形で再会することになる。
悟は殺人事件の被害者となって発見され、刑事の篤はその事件の捜査にあたり、容疑者は啓太だった。
事件の前日、金策のために富山まで来ていた悟とラーメン屋でバッタリと会った篤は、悟がこれから啓太にお金を借りに行くことを聞いていたのだ。
片や刑事として、片や容疑者として25年振りの再会を果たした篤と啓太は、いやが上にも封印してきた過去と向き合わざるを得なくなる。
それぞれが長い間抱えて背負ってきた秘密と運命が交錯する時、やがて明るみになる真実とは・・・
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「グラスホッパー」の瀧本智行と青島武の共同脚本によるオリジナルストーリーでその内容自体は素晴らしい話です。
だからこそ、1時間39分というコンパクトさはあまりに短すぎます。 なんでこんなに短くまとめたのかが解せませんね。
実際、語りが不足している部分もあるし、そこは自由に想像してもいいのですが、たとえば喫茶店の女主人とヤクザのおっさんとの関係なんかもっと突っ込んでほしかったですね。 電気屋のおじさんも描写が足りてないように思います。
突然あっさりと解決してしまう殺人事件の扱い方も、終わってみれば時間を短くまとめるためなのかと思ってしまうぐらい拍子抜けでした。 
演出も前時代的とまでは言いませんが「昭和臭」が強いですね。 このくどさも気になりましたね。
話そのものはいいんだけどなあ・・・。 啓太と奥さんのエピソードなんかは感動するよね・・・。
        

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「ノー・エスケープ 自由への国境」

トランプ大統領が言ってた「メキシコに壁建てたるわい」って件はどうなんたんかね?
ドキュメンタリー「カルテル・ランド」でも描かれてたように、現在も実際にアメリカとメキシコの国境では退役軍人が個人あるいは集団で自警活動しており、時には無差別で発砲して射殺する行き過ぎた行為もあります。
この映画は、まさにそれをメキシコ移民側からの目線で描いた緊迫のサバイバル・サスペンスで、メキシコからアメリカへ不法入国を試みる移民たちが謎の襲撃者の銃弾の恐怖にさらされるという物語です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シカゴにいる息子に会うためにメキシコからアメリカに不法入国を試みるモイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)をはじめ15人の移民たち。
ところが車が途中でエンスト。 仕方なく徒歩で砂漠を歩いていく羽目になる。
ユルユルの有刺鉄線が張ってあるだけで持ち上げるだけでくぐれる国境に入った15人と2人のガイドだったが・・・。
一方、ジャーマンシェパードと一緒に狩りをしていた男サム(ジェフリー・ディーン・モーガン)は偶然にも不法入国者たちの一行を発見するやいなや持っていたライフルで銃撃を開始する。
逃げ場のない砂漠で次々と銃弾の餌食になっていく移民たち。
体力差で遅れを取っていて後ろを歩いていたモイセスら5人のグループは一時的に難を逃れるが、すぐにサムに感づかれてしまう。
素早くて獰猛な犬と銃弾の恐怖。 果たしてモイセスらは生き延びることができるのか・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
広大な荒れ野を舞台に、ひたすらスナイパーと移民の追いつ追われつのサバイバルが繰り広げられる映画です。
国境問題や人種差別などに対するメッセージの投げかけはほぼ皆無。
単純なチェイス・アクションであり、そこを何も考えず楽しめばいいんでしょうね。
クライマックスの岩の周りの隠れんぼは、まるでドリフのコントみたいで笑いそうになりましたが。

それにしてもサムという男。 ハッキリとした素性は描かれませんが、多分に退役軍人であり、射撃の腕もピカイチ。 あの一発必中のマークスマンシップはメダリスト級。 なのに・・・・主人公にはなかなか当たりませんが。
この男もヤバいですが、もっと恐いのがトラッカーという名のワンちゃん。
よく訓練されてること・・・。
デコボコ岩だらけの坂道もパパパーッと走るし、ガブッ!とやられた人間はまずアウト。
でも発煙筒で殺されちゃうシーンは可哀そうだなあ。
        

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「八重子のハミング」

四度のガン手術から生還した夫が、アルツハイマーの妻を看護した4000日の記録の純愛小説を同名映画化した人間ドラマ。
著者・陽信孝氏をモデルとした主人公・石崎を升毅、妻の八重子を久しぶりの映画出演の高橋洋子が演じております。
山口県の萩市を舞台に、元教師だった妻が病気を発症する所から、夫の献身的な介護の日々を丁寧に描いていますが、良くも悪くも想像の範囲を超えるストーリーではありません。 観る前から誰もが思う通りの話です。
でも、一介のお涙頂戴の難病苦労話ではないのです。
かねてから、そろそろこういう題材の話の映画を観たいと思っていたアッシにはタイムリーかつ、またひとつ勉強になる映画でした。

実際にはモデルの夫婦は理不尽な想いをされたことも多々あるでしょうが、映画の中では誰もかれもみんないい人ばっかり出てきます。
一見は絵空事の美談に映るかもしれませんが、ここの部分が大事なのだと思わされました。
旅館の女将さんの粋な計らいや、公衆トイレでハンカチをくれた見ず知らずの女性など、胸が熱くなるエピソードが連ねられてますが、認知症の介護やケアには周囲の人々の理解も不可欠なのだという事を痛感します。
病気そのものは改善せずに、悪くなるのは避けられないので、介護する家族の負担が苦にならないぐらい、人の心も含めた環境の協力があれば、真の成熟した社会と言えるでしょう。

感傷的なくどさがない訳ではありません。 時折挿入される講演会のシーンは必要ないように思えましたが。
それはそれとして、この映画はなかなか出資が集まらずに製作に相当苦労されたようで、ほぼ自主製作映画と言ってもいい作品です。
確かに集客面で大手の映画会社さんも二の足を踏む内容でしょうが、高齢化社会への啓発として世に出さねばならない意義を汲んでいただきたかったものですね。
        

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「パーソナル・ショッパー」

セレブは忙しい。 買い物に行くヒマもない。 行ったら行ったでキャーキャー周囲に騒がれる。 あの女優さんがあの店であの服を買ってたわよナンタラカンタラ言われる。
あ~もう、うっとおしい!とお悩みのセレブのために"パーソナル・ショッパー"という仕事があるのです。
本人に代わって服やアクセサリーを買い付ける買い物代行業であります。
ただし、ファッションセンスは不可欠。 自分の好みではなく、雇い主のセレブ本人の趣味に沿ったセンスのいいモノを選ぶというスタイリストの役割もしなければなりません。
お金を預かるし、家の合い鍵も持つことを許される、なかなか特殊な職業です。
へ~っ、知らなんだのぉと思ったら、日本の百貨店でもそういうサービスをやってるらしいのですな。

という訳で、この映画はパーソナル・ショッパーのヒロインを主人公にしたサスペンス映画でして、目の付けどころと言い、これは面白そうだなあと思うでしょ? そこがアマ茶の花祭り。
監督はオリヴィエ・アサイヤス。 ある意味自由な人なのでかえって厄介。
あまり予備知識を入れずに観に行ったら、これがなんとオカルト映画。 しかも正直つかみ辛い内容。
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パリでパーソナル・ショッパーとして働くモウリーン(クリステン・スチュワート)はわがままなクライアントの女優キーラに苦労しながらも完璧に仕事をこなしている。
3ヶ月前に双子の兄を亡くして悲しみから立ち直れずにいたモウリーンのスマホに、ある日、差出人不明の奇妙なメッセージが届く。
それはまるでモウリーンを監視しているかのようで、居場所や行動が完全に相手に把握されていた。
やがて送信者はモウリーンの心にある願望を暴き、うまくそそのかされた彼女はキーラのために買ったドレスを着用して外出し、高級ホテルの部屋を取って、そこで自撮りしたりする。
そしてキーラの家に戻ってきたモウリーンが発見したのは変わり果てたキーラの死体だった。
モウリーンの周囲で何が起きているのか。 謎のメッセージの正体は・・・・
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カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したものの、観客からは激しいブーイングを浴びたのもうなづけるほど、取り留めのない怪作。
出演しているクリステン・スチュワートでさえも「この映画、変わってるわよ」とコメントしてるぐらいなので、観る人間にも完全に把握することはできません。
殺人事件そのものはさほど重要ではありません。 黒沢清の作風を思い起こさせるアーティスティックな幽霊譚といったところでしょうか。
死んだ兄とのつながりを求める妹の再出発の物語で、兄の幽霊が出てきてはいい方向へと導いてやってるのかなあ?みたいな感じなんですが、それもどうも判然としないんですね。
なんといっても、ヒロインがしょっちゅう幽霊とLINEのやり取りをするのが全然興ざめ。
コントですやん。 時代は変わったのぉ。
        

無題  
「スプリット」

一時期迷走していたが、ようやく前作の「ヴィジット」で、らしさが戻ったM・ナイト・シャマラン監督の待望の最新作。
本作のテーマというものをあえて挙げるなら「多重人格」。
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女子高生3人、ケイシー、クレア、マルシアが謎の男に突然拉致される。
気がつくとそこは殺風景な密室。
やがて彼女たちを拉致したスキンヘッドの男ケビン(ジェームズ・マカヴォイ)が姿を現すのだが、なんと彼は多重人格者。
女性たちを監禁してる部屋に出たり入ったりするたびに彼の人格はころころ変わる。
神経質で潔癖症のデニスという男だったり、パトリシアというエレガントな女性だったり、社交的で人懐っこいバリー、9歳の無邪気な少年ヘドウィグなど、実に異様な変貌を次々と繰り返すのである。
女子高生たちはなんとか知恵を絞って部屋から脱出を試みるが、ことごとく失敗に終わり、ケビンが自分たちをどうしようとしているのも見当がつかなかった。

一方、精神科医としてケビンを数年もの間診察してきた女医カレン・フレッチャーは、ケビンが23人もの人格を持った“解離性同一性障害”であることを突きとめていたが、週一回のセラピーに訪れる彼の様子がおかしいことに疑問を抱く。

ケイシーは最も年齢の低いヘドウィグになる時のケビンを説得して、脱出の手助けをさせようと目論むが、ケビンの恐るべき“24番目”の人格が目覚めようとしていた・・・・・
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【ちょっとネタバレです】
女子高生たちが監禁されてる場所はどこなのか?のオチは「ヴィレッジ」に近いパターンです。 ケビンの中にいるデニスやパトリシア、ヘドウィグという人格の名前にも関連していますが、それはさほど大したサプライズではありません。
このケビン・ウェンデル・クラムという男の解離性同一性障害は、人格の変化と共に体質も変化するという特異性を秘めていたこと。
24番目の人格である“ビースト”になったケビンは、ルフィのギア4みたいに肉体がボーンとなって、まさに野獣級にフィジカルがアップ。 ショットガンも効きません。
人を食いたくてたまらなくなる怖ろしい人格なのですが、自分と同じように虐待を受けていた過去がある者は大目に見てくれるようです。

シャマランというと、どうしても「衝撃のラスト!」みたいなのを期待されてしまいますが、観る我々もいいかげんその先入観は捨てなきゃなりません。 配給会社も悪いんですがね。
ある程度は方向性の見えている一つのシチュエーションの中に、幾多の要素を散りばめながら予想を裏切る展開に持って行く所がシャマランの真骨頂で、本作もいかんなくその魅力に溢れていて面白かったです。
ただし、16年前の作品である「アンブレイカブル」を観たことがない人には、あのラストシーンはチンプンカンプンだったでしょ?
映画館を出る時の他のお客さんの会話の中に、それっぽい不満を言ってらした人がいましたね。 ぜひとも「アンブレイカブル」をレンタルで御覧になって下さい。

とにもかくにも、最後にいきなりブルース・ウィリス登場に面食らったかと思えば、本編終了後に『「アンブレイカブル」と「スプリット」の世界が激突する!』と題して、2つの作品が地続きとなっている続編が2019年公開予定だという宣伝がブッ込まれます。
シャマランは自分でマーベル・ムービーみたいなのをやりたいのだろうか?
        

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「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」

「よぉよぉ、皆の衆ごきげんさん。 続編もアホほど大ヒットしちゃってよ。 あつく御礼申し上げちゃうぜ」
「アイム、グルート」
「まだ観てない不届き者は今すぐ観に行け。 もう観たって奴はもう一度観に行け。 でもって俺らのギャラの出来高に貢献してくれ」
「アイム、グルート」
「それにしても前作も面白かったが、今度のもサイコーじゃねえか。 なあ相棒」
「アイム、グルート」
「オマエがE.L.O.の曲に合わせて踊るワンカットのオープニング・タイトルが素晴らしいのなんの」
「アイム、グルート」
「親子愛ありーの、姉妹愛ありーの、仲間の友情ありーの、ユーモア満載なのはもちろんのこと、ホロリとさせてもくれるストーリーがしっかりとまとまってて言う事無し」
「アイム、グルート」
「音楽性はちょっと大人度が上がってて、ジェームズ・ダンのマニアぶりがエグイな。 エンディングのチープトリックの『サレンダー』はツボだったけどな」
「アイム、グルート」
「・・・・なあ、相棒よ」
「アイム、グルート?」
「ここはひとつ臨機応変にいこうじゃねえか」
「アイム、グルート?」
「俺ばっかり喋っててやりにくいぜ。 そりゃオマエは『アイム、グルート』ってしか喋れない設定だけども、せめてここだけでも融通きかせてもいいってもんだろ?」
「わかったよ、アライグマ」
「第一声が悪口か! アライグマだけは言うな!」
「わかったよ、ゴミパンダ」
「この野郎・・・削ってワリバシにしてやろうか」

「第一、今度のお話にしたって、アンタが惑星ソヴリンからアニュラックス電池をパクらなきゃ、なんにも起こらんかったんじゃないのさ」
「それを言われるとなあ」
「それに今回はヨンドゥに美味しいとこ、かなり持っていかれてたよね」
「そこはしょうがねえ。 オマエの子守りに忙しかったしな」
「それは御世話になりました。 ベイビータイプの僕も人気上々。 次の続編もこのままでいようかなあ。 そしたらアンタはますます出番なし」
「そんなこたぁねえよ。 俺の人気もまだまだ捨てたもんじゃねえ」
「ケケケ。 自分ってもんが分かってないよね。 ただ単に二足歩行して喋るアライグマってだけじゃん」
「オマエこそ、棒っきれに目と口を書いただけだろうが」
「おやおや。 はらわたエグってハク製にして秘宝館で飾ってやりましょうか?」
「さっきはワリバシって言ったが、もっと細かくして爪楊枝ってのも有りだな」
「アイム、グル~ト怒怒怒怒怒!!!!!」  「フングォ~怒怒怒怒怒!!!!!」

        

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「娘よ」

日本で初めて公開されるパキスタンの映画。
部族の長老と強制結婚させられる幼い娘を守るために、母は逃避行を決意する・・・・
しきたりによる年の差結婚はアフリカの一部の国ではたまにあるケースですが、この映画もパキスタンで実際に起こった実話をもとにしています。
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国境に近いカラコルム山脈の麓には多くの部族があり、衝突が絶えない状態が続いていたのですが、だんだんとエスカレートして殺し合いにまで発展。
やり過ぎてしまった側の部族長のドーラットが紛争相手の部族長トール・グルに手打ちを申し込むのです。
手打ちの条件として「じゃあ、おまえんとこの娘を俺の嫁にちょうだい」となった訳です。
部族長のトール・グル。どこからどう見てもジジイです。 ドーラットの娘ザイナブはまだ10歳。
「嫁にくれ」と言い出す方が恥ずかしいと思うのですがね。
このことを知ったをドーラットの奥さんアッララキ。彼女もまた15歳の時に当時まあまあのオッサンだったドーラットのもとに嫁がされているのです。
我が娘にそんな人生は送らせまいと、アッララキはザイナブを連れて村を脱出するのです。

部族間同士で締結された約束事は何であろうと絶対の掟ですので、これに逆らうという事は物凄い大ごとなのです。
逃げた母子を捕らえようと、部族が差し向けた追手が迫ります。 この追手のゴルザングという男がまた冷酷なヤツです。
一方、通りすがりのトラック運転手のソハイル(めっちゃイケメン!)に助けを求めたアッララキとザイナブ。
ソハイルも最初は迷惑そうだったのですが、一度かくまってしまった以上後戻りできなくなり、母子と共に決死の逃避行を繰り広げるのです。
果たしてアッララキとザイナブの自由への旅の結末は・・・・・
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これはコテコテの逃亡アクション劇です。 難しい描写は一切ありません。
パキスタンの宗教事情や、話の内容上、製作にはかなりのハードルがあっただろうというのは察せられますが、それにしてはなかなかの力作。
逃亡劇のハラハラドキドキもいいですが、娘のために奮闘する母親のエネルギーがグッと響きますね。
        

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「光」

すっかりカンヌ国際映画祭の常連になった河瀬直美監督。
本作もコンペティション部門に選出されまして、惜しくも受賞はならなかったのですが、これはなかなかいい映画です。
テーマというか、ストーリーの基盤になっているのは「音声ガイド」。
美術館などでもありますが、ここでの音声ガイドは目の不自由な方にも映画を楽しんでもらうためのバリアフリー上映用のガイドを言います。

水崎綾女が演じるヒロインの尾崎美佐子は音声ガイドの仕事をしているのですが、これが難しい仕事なんですね。
自分でガイドの文言を考えなきゃならないのですが、あまり説明しすぎると「邪魔」だし、行間の余韻を楽しんでもらうために黙っていると不安がられてしまいます。
本の朗読ならまだしも、目の不自由な方にも映画を「観て」もらうわけですから、音声ガイドの言葉の量とタイミングがなんと難しいことか。
障碍者の方が何人かモニターとしてチェックするのですが、当然感想はまちまちで、何度も修正を迫られてしまいます。

そんな美佐子が出会う弱視のカメラマン、中森(永瀬正敏)。
ある映画のモニターとして参加していた彼の無愛想な態度に最初のうちは苛立ちながらも、美佐子は中森の葛藤に触れるうちに、やがて彼女自身の中で何かが変わり始めます。

次第に完全に視力を失っていき、「心臓」とまで表現するほど大事にしていたカメラを捨てざるを得なくなる中森を演じる永瀬正敏の演技も圧巻ですが、水崎綾女も素晴らしいですね。
「HK 変態仮面/アブノーマル・クライシス」でエロい女教師の役をやってた彼女です。
ドアップを多用する河瀬監督の要求する表現は決して簡単ではないですから、それに見事に応えた彼女の仕事のクオリティと成長は感動もの。

人に何かを伝えるという事。
暗闇に光をもたらすために、想いが言葉で伝えられて届く、見事なまでに美しい物語です。
河瀬直美監督の映画は何本か観ましたが、正直とっつきにくいのです。 だから「あん」はスルーしたんですが、この映画は全然とっつきやすく、強烈に感動しました。
いい映画ですわ。

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マンチェスター・バイ・ザ・シー
2017年06月04日

T0021664p.jpg人によっては人生は時に、あまりに過酷な苦境に陥ることがある。
かつてない辛い経験が、心に深い傷となって残り、二度と立ち直れないほど打ちのめされた人たちの姿を、私たちはフィクションでも現実でも数多く見てきた。

それらに対して、励ましや慰めのメッセージが訴えかけられ、やがて当事者が立ちあがって再生していく姿に事実私たちは感動を覚える。

だが、どんなに苦しみ抜いても傷は癒えずに立ち直れない人々はいる。
現実はそうなのかもしれない。 人の心はそう簡単に元には戻らない。
乗り越えなくたっていい。
背を向けて、下を見て、じっと耐える人の心に寄り添えることのできる物語もまた美しい。


過去の重大な過ちから故郷を捨てた男が、兄の死をきっかけに二度と戻るはずのない故郷に再び帰ってくる。
予期せずして甥っ子の後見人になってしまった男は、いやがうえにも過去の悲劇と向き合わざるを得なくなる。
彼はなぜ町を捨てたのか。 なぜ心を閉ざすのか。
そして痛みを癒す希望は果たして見つかるのか・・・・・

監督作品はいずれも日本未公開だが、「アナライズ・ミー」や「ギャング・オブ・ニューヨーク」の脚本家として知られるケネス・ロナーガンの3本目の監督作。
第89回アカデミー賞で主要6部門にノミネートされ、主演男優賞と脚本賞を受賞した珠玉の人間ドラマである。


タイトルの「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は"海辺のマンチェスター"と訳すのではなく、「バイ・ザ・シー」までを含めたアメリカの地名。
どちらかといえば、サッカー・ファンのみならず、先日悲惨なテロがあったイギリスのマンチェスターの方が有名だが、アメリカにも「マンチェスター」とつく場所は複数ある。
マサチューセッツ州のボストンから北へ40キロ上がった所にある港町の"マンチェスター・バイ・ザ・シー"は元々マンチェスターだけの地名だったが、何かと他のマンチェスターとややこしくなるので、1989年に「バイ・ザ・シー」を付けて現在のマンチェスター・バイ・ザ・シーにしたそうな。

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主人公はこの男。 リー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)。
では、あとはよろしく。

俺が説明しろってか? まあいいが。 見ての通り、男だ。
職業は便利屋。 といっても自営でやってる訳じゃなくて、便利屋の会社員さ。

俺の担当区域は4棟のアパート。
そこでトイレの修理や浴室の水漏れ、ゴミ出し、蛍光灯の交換、ペンキ塗りなどをしている。
顧客から、もうちょっと愛想よくしたらどうだと言われる。
他人の家に俺が行くのは仕事をするためであって、あんたらとムダ話をするためじゃない。
ちょいとキツめに言い返したら、さっそくクレームを聴いた上司からチクチク言われた。 知らん。 どうでもいい。

仕事帰りにバーによる。
カウンターで飲んでたら、隣りに来た女がビールジョッキを持ったまま振り返って、わざと俺にぶつかりやがった。
「あら、ごめんなさい」じゃねえよ。 見え透いた逆ナンは辞めろ。
「名前はなんていうの?」 うるさい、あっちへいけ。
カウンターの向かい側を見ると、二人のサラリーマンが俺の方をチラチラ見ながらヒソヒソ話をしている。
酒がまずくなった。 ムカついたので殴りに行ってやった・・・・・


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マンチェスター・バイ・ザ・シーにいる兄のジョーが倒れたという報せを受けた。

元々心臓が悪かったんだ。 
数年前に医師から「うっ血性心不全」と診断され、心臓の機能が徐々に衰えていくらしく、余命が5年から10年だと聞かされていた。
俺もその場にいて、女性医師がこの世の終わりの様な顔で説明しているそばで兄貴は軽い冗談を言っていた。
見舞いに来ていた親父は溜め息ばかりをつき、元嫁のエリーズは緊張でいたたまれなくなって帰宅していった。

なんとかなるさ。 まだ若いんだし。 数年経ったら丁度その時にいい薬が開発されてるかも知れないじゃないか、と正直タカをくくっていた。
だって、あんなにピンピンしてるのに。 本人でさえ実感がないんだから。
そんな風に楽天的に考えていた・・・・・
「今からそっちへ行く。 1時間半で行けると思う」

また、あの町に行くのか・・・・・
もう二度と戻ることはないと思っていたのに。


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病院に着くと医師と共に兄貴の仕事仲間のジョージが待っていた。
1時間前に兄貴は息を引き取ったらしい。
担当医いわく、「弱っていた心臓が力尽きたのだろう」
10年もつんじゃなかったのかよ、この心臓のクソッタレめが。
いや、違う・・・ デキの悪い弟が苦労さえかけなかったら、もう少し長く生きれたはずなんだ。
俺の様なクソッタレこそ、とっとと野垂れ死にゃあいいのに、おめおめ生き抜いて、マジメにやってきた兄貴がなんで丈夫な心臓にも恵まれずに若くして逝かなきゃならない?



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ジョーの息子のパトリックはもう高校生だ。
数年前までは、ちっちゃかったのに早いもんだ。

よく俺は兄貴とパトリックとの3人で船を出して、釣りを楽しんだものだ。
パトリックが8.2キロのスズキを釣り上げて盛り上がったのを昨日のように思い出す。

まだ父の死を知らず、ホッケーの練習をしているパトリックを迎えに練習場まで行った。
この町は小さい。 今どきの若い者も、俺のことを知っているらしい。
遠巻きに噂話をしているのがなんとなく分かる。

病院で父と対面したパトリックは一瞬見ただけで安置室を出て行った。
そういうもんなんだろう。 親の死に顔など長々と見ていたくない気持ちはそれはそれで分かる。
帰宅するなり、カノジョのシルヴィーを呼んで部屋に連れ込むとはな。
紛らわせたいことがそれで済むなら好きにすればいい。


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翌日、兄貴の遺言を聞くために、弁護士の所へ行った。
とんでもない遺言を残してくれたもんだよ兄貴は。
後見人? 俺が? あの子の?
そのことを俺が知らなかったのを弁護士は不思議そうだった。

養育費も準備され、家も船もローンは完済している。
そして引っ越し費用も用意されていると・・・・
つまり、このマンチェスター・バイ・ザ・シーに移り住んでほしいのだと。

この町に戻りたくない俺の気持ちを兄貴は知っているはずなのに。
たかだか40キロ先のボストンに逃げただけだから、嫌でもこの町で起こした過ちの苦しみなど振り切れる訳じゃない。
もっと遠くへ逃げたいが逃げずに向き合えと心が言う。
だけど向き合えれるなら最初から逃げたりはしない。
この町で暮らしていた頃の、あの日の夜のことは一生忘れられない。



無題 
マンチェスター・バイ・ザ・シーに住んでいた頃、俺には妻のランディと幼い二人の娘、そして生まれたばかりの長男がいた。
幸せな家庭だった。 その幸せを俺は自らぶち壊したのだ。

真冬の日の夜だった。
俺は自宅に仲間を集めて酒を飲みながらバカ騒ぎをしていた。 ドラッグも少々やっていた。
午前2時をまわっていた。
産後で体調がおもわしくないランディが「バカ連中を追いだして!」と怒る。

やっと会はお開きになり、仲間たちが帰って行ったあと、子供たちが寝ている2階へ行くとやけに冷え込んでいた。
夫婦の寝室は1階でランディはそこで寝ていたが、彼女は暖房による乾燥を嫌がるので、暖炉に火を入れ、薪を2~3本くべておいた。
俺は家を出て、歩いて20分ほどの所にあるコンビニにビールを買いに行った。
本当に寒い夜だった。 帰り道は雪道に足を取られて転んだのを覚えている。

もうすぐ家に着こうという時、サイレンの音が鳴り響いていた。
家が燃えている。 家全体が巨大な炎に包まれていた。
消防士の消火活動など、もはや意味をなさないほど手をつけられない状態だった。

そばで妻が消防士に抱きかかえられながら泣き叫んでいる。
「家の中に子供がいるの!」

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妻は煙を吸って病院へ搬送されて行った。
子供たちが密かに家から脱出していて、どこかに避難していてくれないだろうかという、心のどこかでほんのわずかな希望を持っていた。 無駄だと分かっていても。

瓦礫となった家の跡地で、現場検証を兄貴と共に見守っていた。
やがて消防士たちが布でくるんだ小さな"何か"を両手で大事そうに抱えて出てきた。
ひとつだけではなく、"何か"は3つあった。
黒こげになった3人の我が子の骸は本当に本当に小さかった。
ただただ俺は泣いていた。


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警察で状況を説明した。
暖炉に火を入れた後、家を出てコンビニへ行く途中、暖炉にファイヤー・スクリーンを置いたかどうかが気になったが、そのままにしてしまったのだ。
薪がはぜて床に転がり落ちてしまったのだろう。
警官は「君の過失は重大だが、誰でも犯すことだ。 スクリーンの立て忘れは犯罪じゃない」と言って、俺を釈放した。
重大な過失なんだろう? 俺のしでかしたことが罪じゃないって言うのか?
妻や、死んだ子供になんて詫びればいい?
なぜ俺を責めない? 誰か俺を裁いてくれ。 あとは自分一人で苦しめというのか?

取調室を出た時に、スキを突いて警官の銃を奪った。 こめかみを撃ち抜けば苦しみは終わる。
だが、あっけなく警官に取り押さえられた。


・・・・・・弁護士の言葉で我に帰った。
「リー、君の経験は想像を絶する。 本当に後見人になりたくないならかまわない。 君の自由だ。」

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兄貴の遺言を無下にはできない。
せめてもの供養になれば。
我が子をここまで育てられなかったこともあってか、血の繋がった少年の自立を見届けたい気持ちになったのかも知れない。

兄貴と、まだ小さかったパトリックの父子と一緒に釣りをした思い出の船はモーターが故障して使い物にならないらしい。 これはもう売ってしまった方が得策だろう。
だがパトリックは売らないと言う。
モーターを交換するのにどれだけ金がかかると思ってるんだ? 係留してるだけでも金は食われていくんだぞ。
それでもコイツは「売らない」の一点張りだ。 好きにしろ。

葬儀屋へ行った。
土が凍ってるために春になるまで埋葬できないので冷凍庫に保管すると言う。
パトリックはこれにも反対した。
しょうがないだろう、できないもんはできないんだから。 何が気に入らないんだ?
よそで埋葬したけりゃ、自分で手配しろ。


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パトリックはバンド活動もしている。
ドラマーがテンポキープできない奴で笑えるがな。
ヴォーカルはパトリックのカノジョのサンディーで、その子の家でいつも練習をしている。
・・・ちょっと待て。 じゃあこの前、部屋に連れてきたシルヴィーって子はなんなんだ?
二股か? あんな可愛らしいガキンチョだったオマエが女転がしになるとはな。 兄貴が今頃泣いてるぞ。
「地下ビジネスみたいな感じかな」 えらそうなことを言うな。

どうでもいいが、なぜ俺までサンディーの家についていかなきゃならない? そのたびにサンディーのお母さんがそれとなく俺を誘ってくるんだぞ。
申し訳ないが俺はその気にはなれないし。 おまえが変な気を回すんじゃない。

兄貴の葬式が終わったら、ボストンに引っ越すからな。
嫌だと言っても通用せんぞ。 俺はマンチェスター・バイ・ザ・シーなどに住む気はないからな。
「僕にはバンドや二人の彼女もいる。 友だちやホッケーやバスケもある。 叔父さんは便利屋だろ。 どこにでも住めるじゃないか」
住めない所もあるんだよ。


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マンチェスター・バイ・ザ・シーを去った日のことを思い出す。
兄貴と、幼いパトリックが引っ越しを手伝ってくれた。
弟はもう二度とこの町に帰ってくることはないのだろうという想いの中で、最後に抱きしめてくれた兄貴の腕の感触は今も残っている。

ボストンでの新しい住まいは半地下にある、薄暗くて狭い部屋。 兄貴は「これが部屋か?」と面食らっていた。
ただ寝るだけだから何もいらないと言って渋る俺を買い物に連れ出し、ソファや家具などを買ってくれた。
何から何まで・・・・
今もそのソファーベッドはボストンの部屋にある。 それに腰をうずめるたびに兄貴が見守ってくれてる気がしていたのに。


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ランディと別れて数年ほどだが、もっと随分たっているような気もする。
兄貴の葬式の前に連絡をもらい、参列したいと言ってきた。
断る理由がないが、正直会いたくはなかった。
彼女も同じ気持ちであるはずだが、そうすることでで彼女なりに過去のことに一区切りをつけれる気になれるかもしれないと思ったのだろうか。

だが電話の向こうで彼女は言いにくそうにしていたが、やがてもうすでに新しい伴侶がいるのだと告白した。 しかももう妊娠しているのだと。
そうか。 君はこの町に留まりながらも、新しい人生へと踏み出したのか。
亡くした3人の子供のことは・・・? 忘れるような君ではないことは分かっているが。
いや・・・、君から何もかも奪った俺がとやかくは言えない。

少しづつでも忘れていかなければ辛いばかりだもんな。 耐えられなかったんだよな。
その苦しみを引き受けてくれるいい人が見つかって良かったと思うよ。


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父親が亡くなっても気丈に振る舞い、青春を満喫しているように見えたパトリックだが、ある晩、冷蔵庫の前でメソメソと泣いていた。
冷凍食品を見て、父親を思い出したらしい。
「父さんを冷凍したくない」
まだそのことを引きずっていたのか。
かと思えば。

別れた母親から電話がかかってきて、偶然出た俺が変にパニくって思わず切ってしまったら、メチャクチャ怒りやがった。
「人生をぶち壊す最悪の後見人だよ、あんた。 僕は母さんと暮らす」 ああそうかい。

後日パトリックは母エリーズの家を訪ねたそうな。
エリーズにはフィアンセがいて、そいつがまたゴリゴリのクリスチャンらしい。
それよりも、母親がえらく緊張してしまって、一緒にしていた食事も途中で退席したという。
その晩、フィアンセから「彼女に母親を求めるのはまだ早い」というメールが届いた。
そう落ち込むな。 お母さんだって、元夫の死もショックだし、その息子が家に転がり込んでくると、色々と心の整理ができないんだ。 新しい人と婚約したばっかりだしな。

兄貴の遺品の銃を売って船のモーターを買い換えよう。
そんでもってカノジョも呼んでクルージングしようじゃないか。


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パトリックとサンディーが自宅でデートしてる間、俺は町ん中をブラッと歩くことにした。
すると・・・。 どうしてこうもタイミングが悪いのか。
ベビーカーを押して歩いていたランディとバッタリ会ってしまった。

俺のことを気遣ってくれる言葉が余計にのしかかる。
「俺は大丈夫だから。 君こそ幸せになれ」
「地獄に堕ちても仕方がないような、ひどいことをあなたに言ってしまったわ」
「俺はなんとも思っちゃいないよ」

そうじゃないんだ。 謝られたら逆に俺はどうしていいか分からなくなる。
地獄に堕ちなければならないのは俺の方なんだから。
話をさえぎって逃げるように別れた後、ヤケ酒をひっかけにバーに立ち寄る。
客の一人に因縁をふっかけて、お決まりのケンカ沙汰。
俺は一体何をしているのだろうか。


ジョージ夫妻と話し合いを持ち、パトリックを養子にもらってくれることになった。
後見人は俺のままだが、兄貴が残したお金はすべてジョージに渡す。
俺は決めた。
7月にはボストンに帰り、再び便利屋として暮らす。
これでいいんだ。 俺は疲れたよ。 
さらばだ、マンチェスター・バイ・ザ・シー。


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誰にとっても故郷には良い思い出も悪い思い出もあって当たり前。
なんであろうと自分の人生の起点である場所は大切にしたいホームタウンのはずだが、故郷を捨てて尚且つ帰れない、帰りたくないという人も少なくはない。

主人公リー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)は重大な過ちを犯し、とてつもない悲劇に見舞われたその苦しみに耐えかねて故郷を捨てた。
それでも移り住んだ町は故郷から車で1時間半程度のボストンで、遥か遠くでもなければ目と鼻の先という訳でもない、非常に微妙な距離の場所であることから、彼の複雑な心情が見て取れる。

悲劇に打ちのめされたのは、もちろんリーだけではなく、別れた元妻のランディ(ミシェル・ウィリアムズ)はマンチェスター・バイ・ザ・シーに残り、心臓の悪い兄のジョー(カイル・チャンドラー)も息子と暮らしている。
リーだけが逃げたように映るのも致し方ないが、過去に向き合うか目を背けるかで揺れる心がマンチェスター・バイ・ザ・シー⇔ボストンの距離差になっている。
まともに陽の当らない半地下の狭い部屋で身を隠すように暮らしていることや、直接的に人の役に立てる便利屋という職業に就いているのも、十字架を背負った彼ならではである。
想像を絶する悔恨の苦しみの中で、自分の気持ちの落とし処を求めているのだ。
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幼い子が3人と、体調のすぐれない妻が寝ている夜中に、仲間を呼んで酒やドラッグをやりながらバカ騒ぎをし、あげく火を使う道具をおろそかにしたことで、3人の子供が焼け死ぬことになる。
1階で寝ていたランディは出火時に煙を吸って気絶していたところを消防士に助けられるのだが、火の回りが早くて2階はすでに手の施しようがなかったのだ。

明らかに自分に非があるのに、警察をはじめ、誰からも責められないという宙ぶらりんの状態にリーは苦しむことになる。
妻からは相当にひどい言葉でなじられたようだが、いっそその方が楽なのに、まともな償いさえもできないまま放置されたことが傷を深くしてしまったのだ。
刑務所にでもブチ込まれていれば、もう少し早く彼は自分を許していたことだろう。

これまでのこういう類いの人生ドラマの大半は、主人公がやがて立ち直って再生の道を歩み出すというポジティヴな方向へと振れるのだから、映画を観ながら勝手にそういう展開を誰もが予想はする。
しかし、部外者の決めつけはいとも簡単に弾かれ、リーの心はすでに完膚なきまでに打ち砕かれていて、決して元には戻らないという傷を負っていることを思い知らされることになる。
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パトリック(ルーカス・ヘッジズ)をジョージ(C・J・ウィルソン)の養子にし、彼の生活を維持させて後見人の務めを果たしたリーは再びボストンに戻ることを決める。
その際にパトリックから一緒に暮らそうと提案されるのだが、その時に彼の口から絞り出された言葉はあまりに突き刺さる。
「乗り越えられない。 辛すぎるんだ」

ドラマのセリフや歌の歌詞の様な励ましをかけられても、それだけで立ち上がれるのは現実には容易いことではない。
人にはどんなに耐えようとも乗り越えられない苦しみだってあるのだ。
それは弱さではない。 乗り越えられなくたって、それはそれでいいのだ。
その苦しみの中に身を置くことで贖罪にもなるし、率直な心情を言葉に出した瞬間にリーは多少なりとも救われて、自分を許す道筋の灯りを見つけたように思われる。

ボストンで新しい新居を探すリー「予備の部屋が必要だ」とつぶやく。
「何のために?」と聞くパトリック
「おまえが遊びに来る」

リーが新しい一歩を踏み出すために故郷を捨てることこそ、現実に沿った希望の選択。
これからも過去が彼の心を苛むことは避け難く、ハッピーエンドとは言えないが、それでもほんのわずかな光をそっと射し込ませた余韻に包まれる。
痛みある人生の、リアルなハートの手触りが感じれる人間ドラマの一大傑作である。

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ケイシー・アフレックの演じる役どころは決して饒舌ではない。
となると、見るべきはやはり「目」ということになる。
事実、彼の目線の動きは感情を力強く語っている。
しかも、終始死んだ目をしているキャラクターの背景上のハンデをものともとせず、エモーショルな熱感を放っている演技は神級とも言わざるを得ない。

マット・デイモンがなぜケイシー・アフレックに役を譲ったのかと、なんやかんや言われていたが、結果論だろうけどもこの役はアフレックだからこそではないか。
ベン・アフレックの弟ということを周囲がさほどあげつらわないのは、「ジェシー・ジェームズの暗殺」などで早くから演技力が認められていたからで、むしろ兄貴の方が焦っているかもしれない。

アカデミー賞の授賞式では「おまえはノストラダムスか」みたいなヒゲヅラで出てきたが、ふと見れば兄貴までノストラダムス化していて笑ってしまったが。

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また出番はさほど多くはないが、リーの元妻ランディを演じたミシェル・ウィリアムズもかなりの印象を残した。
後半、道端で出くわしたリーに涙ながらに過去の態度を謝罪するシーンには、こっちまでリーになったような気分にさせられて胸が熱くなる。
この人もオスカーは今回で4回目のノミネートだがまだ受賞はない。
いつかは何らかの作品で獲るだろうとは思う。 素晴らしい女優だ。


「賢人のお言葉」
 
「逃げた者はもう一度戦える」
 デモステネス

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人生タクシー
2017年05月29日

T0021736p.jpgイランといえば核開発問題がくすぶってることもあってイメージはあまり良くない国である。
しかし、イランの映画というと、これがまた名作が多いのでなかなか侮れない。

昨年、惜しくも亡くなったアッバス・キアロスタミ監督の「友だちのうちはどこ?」や、マジッド・マジディ監督の「運動靴と赤い金魚」、バフマン・ゴバディ監督の「亀も空を飛ぶ」。
また、「セールスマン」で2度目のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したアスガー・ファルハーディ監督も「彼女が消えた浜辺」、「ある過去の行方」、「別離」など、秀作を多く出している。

個人的にはハナ・マスマルバフ監督の「子供の情景」が最も印象深いイラン映画である。 アフガニスタンが舞台の映画だったが。
あの子役の少女は今頃どうしているだろうか。

そんな名作率の高いイランであるが、かと言ってこの国の映画人たちが自由に作りたい映画を作れる訳ではない。
言論統制はかなり厳しく、政治批判の映画など一発アウト。
表現の規制にしても、女性が髪の毛を見せてはいけないのは、いかにもという感じだが、男女が触れ合うことはたとえ親子の設定でもダメなのだ。

アレはダメよ、コレはダメよとお上から言われて素直に従わないのはアーティストなら万国共通のサガ。
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1960年生まれのジャファル・パナヒ監督はイランという国の実情を遠慮なく描く人で、2013年までに7本の映画を撮っているが、イラン国内で上映されたのはデビュー作の「白い風船」だけで、あとは全部上映禁止。
この人は2回逮捕されており、2010年の2回目の際は、大統領選挙の最中に改革派の候補者を支持したとして、自宅で86日間軟禁状態となった。

裁判で20年間映画製作を禁じる判決を出されたものの、映像が収められたUSBをお菓子の箱に隠してカンヌ国際映画祭に応募したというのも話題になった。
その映像に付けられたタイトルは、『これは映画ではない』。
・・・しゃあしゃあとやってのけるレジスタンスの精神が気持ちいい。
そんなアナーキーなジャファル・パナヒ監督の最新作は、なんと監督自身がタクシーの運転手となってテヘランの街を流し、乗り込んでくる人々の姿を車載カメラで捉えた悲喜こもごもの人間模様。

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ハンチングとメガネをかけると随分印象が変わって、人当たりが良さそうに映るパナヒ監督
実際、人当たりは柔らかい。
人生初のタクシー運転手。 それもモグリの。

基本、ダッシュボードに取り付けたカメラを時折クルクル回して位置を変えつつしながら撮った車内の“目”だけで綴られる作品。
予告編からすると「ドキュメンタリー?」と思うが、どうも違うらしいのである。
そこら辺は明言されていない。 あまりに映画としておあつらえ向きなエピソードが続くと思ったら、車に乗ってくる人物は役者らしいと鑑賞後に判明する。
フェイクなのか・・。 いや、それでもイランというお国柄を伝える意図があるエピソードのネタそのものは嘘ではないのだろう。


それにしても、外国の交通マナーの悪さは東南アジアが有名だが、中東も負けてはいない。 日本だけか?ちゃんとしてるのは?
ゲリラ撮影の様なものなので、演者意外の一般人などの光景はリアル。
映画の冒頭はフロントガラスの向こうの外の風景を映し出すのだが、ヒヤッとするシーンが何度か映り込んでいる。
歩行者! はよ渡らんと! 赤なってるし!車が突っ込んできてるやん! 車は車でさほど徐行せずに歩行者をよけて行く。
ベトナムやタイほどではないにせよ、人も車も「ジコらなきゃいいさ」っていう感じなのが怖ろしい。


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【女教師 VS 謎の男】

イランのタクシーは乗り合いが基本。
その方が貸切よりも5分の1ぐらい料金が安くて済む。

強盗に死刑判決が出た話題で、乗り合わせた男性と女性が死刑の是非をめぐって議論を交わす。
女性の方は、何があろうとも命は大事だと訴える一方、男性は泥棒はみんな絞首刑にすべきだと激しい口調で力説する。
この二人、初対面の全くの赤の他人であるが、かなりマジで死刑是非論を戦わせ、どんどん議論は白熱していく。

イランは中国の次に死刑執行が多いことを嘆く女性に対し、男性は停めておいた車のタイヤを4本全部盗まれたのだと言う。 「俺が政治家なら問答無用で死刑だね」と言う男性は女性に対して「あんた職業は?」と聞く。
「教師」と答えた彼女を「やっぱりな。だから現実ってもんを知らないんだ」
「じゃあ、あなた何をしてるの?」と問われた男性は、タクシーから降り際に「俺は路上強盗をしている」と言ってのける。
「貧乏人からタイヤを盗むような奴とは違う」と言い残して男性は去っていき、女性は「あきれたわね・・・」とつぶやく。

イスラム圏国家というと「家族以外の男と話すな」、「男に口答えをするな」など、女性が抑圧されてる社会をイメージするが、男相手でも自分の意見をハッキリと言っているこの女性を見る限りでは全然そんなことはないようだ。
しかも言ってることは政治批判なのだ。 本音は本音、建前は建前ときっちりしているイランの女性は精神的に自立しているということか。

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【海賊版ビデオ屋の文化活動】

オミドと名乗るこの男は、海賊版のレンタルビデオ屋を営んでいて、この日も顧客にDVDを持って行く用事でタクシーに乗り込んだ。
「パナヒ監督ですよね?」と目を輝かす。
パナヒの自宅にもDVDを届けたことがあるのだという。

けっこう立派な邸宅の前で停まり、パナヒに待ってもらってオミドは邸宅に入り、やがて顧客の大学生の男と一緒に出てきた。
タクシーの中でDVDを選んでいる大学生は映画監督志望だと言う。
「何を撮っていいか題材を探しているが見当たらない」という彼にパナヒ「映画はすでに撮られている。本もすでに書かれている。 題材はどこにでも存在している」とアドバイス。
 
大学生はオミドから何を聞かされたのか、「オミドと組んでるんですって?」パナヒに聞いてくる。 これにはさしものパナヒも苦笑するしかない。
反骨の映画監督が海賊版の商売にいっちょ噛んでる? 有り得なくもなさそうなオミドの嘘であるが、あとでそのことを突っ込まれた彼は平身低頭謝罪しながらも「こうでもしないと外国映画は観られない」と言うのだった。

オミドがタクシーから降りる際、パナヒ監督「代金はいらないから君の文化活動に充ててくれ」と言って彼と別れる。

他国の文化を見ることは大事だ。 それを見ることで自国の文化について気付かなかったことも見えてくる。
イランは自国の映画の表現にはうるさいのはもちろんのこと、ハリウッド映画は上映されない。
オミド自身も映画を愛する男である。 調子のいい男ではあるが、パナヒと同じ“戦う映画人”なのである。

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【夫は血だらけ、妻はパニック】

まだオミドが乗ってる時のあいだに起きたエピソード。
バイク事故を起こし、激しく流血し苦しんでいる男が通行人の助けを借りながらパナヒのタクシーに押し込まれる。
バイクに同乗していた妻はただただベソをかきながらうろたえる。
「あ~どうしましょう、この人が死んでしまうわ~、あなた死なないで~」

とにかく病院へ急がねばならないが、見たところ命にかかわるほどでもないようなのだが・・・・
もう俺はダメだと苦しむ夫はパナヒ「紙をくれ・・・」と頼む。 ああ、ティッシュですか。 そうじゃない、遺言を書くんだ。 今ここで?
しかもケータイで撮影してくれとも言う。
パナヒのケータイを使ってオミドが撮影している。 タクシーの車内のなんともシュールな光景。

家とか財産は全部妻に遺す。 兄弟は争わずに遺言に従うように・・・・
それだけ喋れれば、死にゃあしないよと思うパナヒオミドだった。
妻は相も変わらず泣きわめき、病院へ着くなり担架で運ばれる夫と共にダッシュで去っていったが、その後、ケータイで撮影した映像のコピーを催促する電話をかけてくるのには、パナヒもちょいと呆れるしかない。

そりゃあ奥さんにしたらコレは重要だ。
夫が妻に遺産を全部与えるなんてことはイスラム法上は通常有り得ない。 せいぜい半分である。
だが実際にはイランの男性は、そんなことは間違っていると思っている人も多いという。
そこだけは愛する妻にちゃんとしてあげたいと考えているのだ。
この夫の遺言の映像がしっかり残されていることをヤケに気にする妻の気持ちはイランの国柄としては分かる。

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【金魚婆さんズ】

金魚鉢を抱えた二人の婆さんが乗り込んでくる。
テヘランの南のレイという町に「アリの泉」という所があり、そこに正午までに着けてちょうだいと言う。
「絶対着くわよね」 かなり急いでいるようだ。
何をそんなに急いでいるのかとパナヒも興味を引かれて聞くが、この金魚を正午までにアリの泉に返さないと自分たちの命にかかわると言う。
なんだかよく分からないが、何かの迷信を信じているのだろう。
その歳で「命にかかわる」とかを気にするのかとパナヒ不謹慎に思ったかどうかは定かではない。

しかし所詮はモグリのタクシーである。
道にも詳しくないし、時間までに着くかどうかパナヒも自信がない。
何かの拍子に急ブレーキを踏んでしまい、金魚鉢が割れて、金魚ちゃんはタクシーの床でのたうち回る。
「キャーッ!金魚が死んじゃう!」 婆さん、大騒ぎ。
パナヒがビニール袋に水を入れて持ってきて金魚ちゃんを救出。(水道水で大丈夫なのか?)

パナヒは焦る。 時間に間に合いそうにない。 実は彼にも大事な用事があるのだ。
そこで彼が取った行動に婆さんたちはビックリ仰天。
タクシーの運転手が「ヘイ、タクシー!」とタクシーを呼び止めているのだ。
パナヒもちゃんとした他のタクシーに任せた方がいいと判断したのだが、婆さんたちにすれば寿命が逆に5年ぐらい若返るような衝撃である。
「何なの、この人?」 「タクシーの運転手がタクシーを拾ってるわよ」 「どういうことよ?」 「信じられないわね」

婆さんたちに正規のタクシーに移ってもらってやれやれ。
だがパナヒがこれから会う人物は負けず劣らずのクセモノだった。

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【怒れる姪っ子】

パナヒの姪っ子である小学生のハナちゃん
学校終わりの彼女を迎えに行く予定だったが1時間遅れである。
予想通りに姪っ子はほっぺたを膨らませ、目つきは「おまえシバくぞ」と言っている。

「なにこの車? なんでタクシーなの? 私の叔父さんは映画監督だって友だちに自慢したかったのに。 もうみんな帰っちゃったし。 私の信用ガタ落ちよ。 私を長い時間一人ぼっちにして、誘拐でもされたらどうするつもり?」
はいはい、私が悪ぅございました。申し訳ございません。 実は仲がいい二人。 まあいつもこんな調子なのだろう。
まずは機嫌を直してもらわねば。
「教養のあるレディはまずオシャレな店でフラッペよ」 はいはい分かりました。

学校の課題で映画を撮ることになっていると言う。(小学校で?)
でもいろいろとルールがあって難しいと嘆く。
女性はスカーフを着用・・・、暴力はダメ・・・、男女は触れ合わない・・・、善人はネクタイをしめない・・・
「どうすりゃいいのよ」
アニメ「アングリー・バード」が表紙になったノートを手にしながら愚痴が止まらないハナちゃんだった。

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【友人の深き苦悩】

パナヒはある幼なじみの友人と待ち合わせしていた。
友人は見てほしい動画があるのだとパナヒにパッドを渡し、ハナを連れてカフェに行く。
待っている間、車内でパナヒが見た動画とは、防犯カメラの映像だった。 それも友人が強盗に襲われてるショッキングな光景である。

戻ってきた友人は言う。
ケガは治ったけど、犯人の男の顔に心当たりがある。 だがその男が金に困っていることを知っているし、先日強盗に死刑判決が出たこともあって、どうしても訴えることができない。
その悩みを打ち明けるために友人はパナヒを呼び出したのだった。

するとカフェの店員がパナヒの注文した飲み物を持ってきた。
店へ戻って行く店員の後ろ姿を見やりながら、友人は「私を襲ったのが彼だ」と衝撃の証言をする。
「力になれず済まない」と言うパナヒに友人は「いいさ。話を聞いてもらえて気が楽になった」とつぶやき、二人は別れた。

店員の顔をよく見ていなかったパナヒは、フラッペを御馳走になってカフェから戻ってきたハナちゃんに、店員がどんな顔をしていたか聞くが彼女は「普通の顔」と答えるだけだった。

パナヒ自身は死刑制度に疑問を持っている方なのだろう。
友人を苦しめた強盗は許し難いが、その張本人の居場所が分かっていてもどうすることもできないもどかしさにパナヒもイヤな気分になる。
死刑にでもしなければ強盗は減らないのか。 それで強盗が減るとも限らない。
カフェで働く“普通の顔”をした青年が強盗に走るこの国の病巣はどこにあるのかとパナヒは憂う。

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【ヒーローになるか、泥棒になるか】

ハナちゃんは学校の課題のために、常時持ち歩いているカメラを回している。
パナヒが私用のために車を離れてる間、待っているハナちゃんは結婚式場から出てきたドレス姿の新郎新婦にカメラを向ける。
すると新郎がズボンのポケットから紙幣を落としてしまった。
そばで見ていた一人の少年が近寄ってきて、新郎が気づかないのをいいことに、お金を拾ってポケットに入れる。

次にゴミ捨て場を漁り始めた少年にハナちゃんは声をかけて呼ぶ。
「あなたのせいで上映できない映画になっちゃったわよ」
最初は否定していた少年だが、ハナちゃんにしつこく詰め寄られて認める。
「お金を返せばヒーローよ」ハナちゃんに説得され、「仕事のない父親に渡したい」と少年はためらいつつも新郎がお金を落とした現場へと戻るのだが・・・。

戻ってきたパナヒハナちゃんがヤケにふくれっ面をしていて、何かあったのかと思いながらも再びタクシーを走らせる。

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【俗悪なリアリズム】

パナヒの知り合いの人権派弁護士と偶然遭遇。
バレーボールの試合を観に行っただけで逮捕された知人女性を見舞う所だと言う。
その女性は今も100日以上拘禁されている。
また弁護士の彼女も“弁護士会から”停職処分を受けていているのだが、それに屈することなく「あなたと同じね」と素敵に笑う。
この弁護士もパナヒも逮捕された経験があるが、「釈放されても外は大きな独房よ」と嘆く。

タクシーの中のカメラを見つけて意図を理解した彼女は微笑みながら「私の今の言葉は“俗悪なリアリズム”と言われてしまうのでカットしてね」と言い残してタクシーを降りていった。

ハナちゃんはちょっと学んだ。 いやむしろ疑問が増えたのだろうか。
「俗悪なリアリズムって何? 学校の先生は現実を撮れっていうけれど、暗くて嫌な現実は見せちゃダメって言うのよ。 自分がやったことを隠したがるなんて信じられないわ」

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【薔薇は見ていた】

ハナちゃんが車内に落し物を発見。
どうやら、あの金魚婆さんズのどちらかの財布らしい。
ここからならアリの泉はそんなに遠くない。
今から行けばまだ婆さんたちはいるだろうとアリの泉へと向かう。

パナヒハナちゃんは車を降りて歩きだす。
ダッシュボードの上の、弁護士さんが分けてくれた薔薇の花一輪越しに車載カメラが二人を見送っている。

そこにやってきたのは男二人乗りのバイク。
男が車に近づき、どうやら窓ガラスを叩き割っているらしい音が入り込む。
そしてガサガサと金目の物を物色し始める。
カメラに気づき、メモリーカードを抜き取ろうとするが、丁度二人が帰って来たので男たちはあきらめて去っていった・・・・・・

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“モキュメンタリー”の手法で、イランという国を様々な角度から映し取っているユニークな社会ドラマ。
楽しめて、さらに実にタメになる。

冒頭に記したようにイランというイメージはあまり良くない。
中東の国って紛争ばっかりって感じだし。 第一「イラク」と名前が似ているし。 アメリカも目の敵にしてるし。
なので余計になんかガラの悪そうなイメージを持っている人も多いだろう。

しかしこれは大きな誤解。
だいたいイラクはアラブだが、イランはペルシャ人の国だからそもそも、そこからが違うし、中東の国では全然治安のいい方だ。

この映画を観ていると、(これだけで判断してはいけないのだろうが)イスラム国家の割には男女間の関わりがまあまあ緩い印象を受ける。
他人同士の男女でも普通に会話しているし、女性も男に対して言いたいことは言いまくっているように、女性を抑圧している感じはないのは、この映画の演出だからだろうか?

それでもザッと通して観ると、この国はやっぱりいろいろあるのだ。
「死刑執行が多い国」というのは初めて知った。
無題
★ 浮気や婚外交渉は死刑。 同性愛も死刑。 バハーイ教という宗教信者も死刑。 麻薬など問題外。
国際法上望ましくないとされる18歳未満の死刑も容赦なく執行する。
死刑の是非については、ここであれこれ書かないが、この厳しさあってのイスラムだ。

★ 外国映画は海賊版DVDでも購入しないと観ることができない。
イランに生まれないでよかったなあ。
パナヒ監督にしても、外国映画を締め出す政府には憤りながらも、では海賊版が出回るのを容認できるかというとそれもまた違う話になる。

★ 映画製作についてのイスラムらしい条件も、学校の生徒手帳に記された変な校則みたいだ。
だけど、そんなハードルをクリアした上で、傑作を世に送り出してきたイラン映画はやっぱりヤバいのだ。

パナヒ監督の「オフサイド・ガールズ」(06)では、男装してまでサッカー観戦に行く少女たちを描いていたように、女性のスポーツ観戦は固く禁じられている。
本作でも、バレーボールを観に行っただけで逮捕された女性を見舞う弁護士さんが出てくるが、彼女もまたフォローしてくれるべき仲間の弁護士会から処分されてしまう。
外に出ても独房にいるようなものだという彼女の気持ちもうなづける。

★ 中東の国の中でも比較的治安がいい方だと言っても、本作の中ではやたらに泥棒のネタが目につく。
最初の死刑是非論議にしてもそうだし、パナヒの幼なじみが遭った災難や、新婚夫婦の夫が落とした金をくすねる少年、ラストの車上荒らしのシーンが象徴するように、イランはなんだかんだで貧しい国なのだ。
核開発に走るぐらいなら金はある国のはずだが、経済制裁のこともあるのだろう。 パナヒのタクシーの車内や車外で交わる人々のライフはどれも余裕がない。

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中盤から登場するハナちゃんは、正真正銘のパナヒの姪っ子。
小学生とは思えない大人びたおしゃべりで場をかっさらっていく、愛嬌たっぷりのキャラであるが、彼女の言葉がこの国の矛盾に対するツッコミとなって、観る者に率直に響いてくる。

何を言っていいのか、何を言ってはいけないのか。
何が正しくて何が悪いのかを決めるのは、社会の上に立つ人の価値観が先に立つことへの胡散臭さをハナちゃんはふくれっ面で口にする。
嫌な現実でも直視しようとする少女の、素直な目線がこの国の救いに思える。
たくさんの"ハナちゃん"がイランにいるであろうし、苛酷な道かもしれないが、隠し事を是とする大人に流されることなく、素直なファインダーで社会を見据えてほしい。
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「賢人のお言葉
 
「現実を直視する心に 、本当の理想が生まれる」
 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

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ワイルド・スピード ICE BREAK
2017年05月24日

T0021627p.jpg 2001年にスタートしたシリーズも、これが8作目。
16年前の時は、ここまでシリーズが続くとは予想だにしていなかった。

1作目は低予算だった製作費の5倍以上を稼ぐという鬼ヒットを記録したけど、日本での反応はイマイチだったように記憶している。
日本での興行収入は4億5千万。
同年に公開されて、世紀の大失敗作としてギネスにも載った「ファイナル・ファンタジー」でも日本国内の興収が10億いったことを思えば、5億割れはサブい。

どうせヤンキー映画だろ?と敬遠されたのだろうか。
確かにカー・アクションは気合が入っていたが、車が好きな人じゃなかったらムリなほどストーリーは平凡で面白みに欠けていたとは思う。
日本車いっぱい出てきたなあ。 まあ、平均点な映画だろうね、ぐらいな感想を持った映画が、よもやの続編を重ね重ねて16年。 なんだかんだで観てしまうのである。

今となっては「X3 TOKYO DRIFT」(06)のゲテモノぶりに意識が飛びそうになったことや、「MAX」(09)のヤッツケCGにハラワタがボイルしそうになったのはいい思い出だ。
そして故ポール・ウォーカーのリスペクトが炸裂した前作「SKY MISSION」(15)も記憶に新しい。

このシリーズのファンならば重々承知だろうが、「ハチャメチャ」とか「何でもあり」は逆に"お約束"であって、ツッコミは御法度。
シリーズを重ねるごとに、アクションがハメを外す度合いというのか、大人の悪ふざけは天井知らずのエスカレートを見せる。
とにかく楽しまねば損である。

「先生、○○君がさっき廊下を走ってました」とつまらんことをチクる女子のような野暮ったいツッコミはしない。 それがワイスピ愛というものだ。

「ストレイト・アウタ・コンプトン」のF・ゲーリー・グレイがメガホンをとった新作「ICE BREAK」も、これまた「何でもあり」に一層拍車がかかり、誰も止められないノーブレーキのアクション大作となっている。
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1作目は当時ペーペーだらけだったキャストも今やスターとなり、さらに新作のたびにゴージャスさが加わっていく。
「MAX」からドウェイン・ジョンソン加入で一気に厚みが増したかと思えば、「EURO MISSION」のアフター・エンドロールでジェイソン・ステイサムが現れた時にはド肝を抜かれたと同時に、このシリーズが巨大化していく息吹を誰もが感じたはずだ。
カート・ラッセルが加わり、トニー・ジャーやジャイモン・スンフー、ロンダ・ラウジーまでゲストにお呼ばれした前作の「SKY MISSION」のパーティー状態は、一介のアクション映画の域を超えたものになっていた。

さて今回の第8弾は、ヴィン・ディーゼルに、ザ・ロック、ステ様というゲーハー3本柱の暑苦しさに少しでも清涼感を加えようと、なんとシャーリーズ・セロン、ヘレン・ミレンという二人のアカデミー賞女優が参戦。
ドッキリなのかと思うほど、急激に高級感がアップした「ワイスピ8」。
さあ、みんなで楽しもう。 たまげよう。 そしてちょっとだけ苦笑いしよう。


1作ごとにどんどんスケールが大きくなっていくワイスピの今回のお話は突然の急展開を迎える。
ワイスピ・ファミリー不動のセンターである我らがドム兄ぃことドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)が命よりも大事なファミリーを裏切るという青天の霹靂。
これにはよんどころない事情があるのだが、かつてない危機に直面したファミリーの絆が試されると同時に、シリーズ史上最も強大なヴィランと、最も厄介な難事が待ち受けている、ワイスピ最大のエクストリーム巨編である。

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肝心なところをサクッと説明してしまった方が早いだろう。
なにゆえにドム兄ぃがファミリーの敵になるのか? このパツ金の美女に、なにか弱みでも握られたのか?
「あなた、下の毛もツルッツルね」 「なぜそれを!」などという会話は今のところ確認されていない。

答えは簡単。 大事な人を人質を取られているから。
実はドム兄ぃは、恋人のレティ(ミシェル・ロドリゲス)が死んだと思われていて不在だった頃に、ブラジル警察の女性警官だったエレナ・ネベス(エルサ・パタキー)とお熱い仲だった時期がある。
レティが生きていたことで身を引いたエレナだったが、実はドム兄ぃの子を出産していたのだ。
おめでとうごぜえやす、兄貴! おむつを換える練習をせにゃあなりませんなぁ、ヘッヘッヘ~などと呑気な事を言ってる場合ではない。
そのエレナと赤ん坊が悪党の人質に堕ちていたのだ。

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ドム兄ぃのタマをキュッとつかんでしまったその悪党こそ、美しすぎる国際サイバーテロリストのサイファー(シャーリーズ・セロン)。
「EURO MISSION」でナイト・シェードを狙っていたオーウェン・ショウや、「SKY MISSION」でゴッド・アイを開発したラムジーをラチッたジャカンディも彼女の差し金。
世界を自分にひれ伏させる野望に人生をかけている氷の女であり、高度なハッキング・スキルを武器にする。

目的のためには手段も選ばない冷徹さと、やると決めたらチャチャッとやってしまう決断と行動力。 女性の悪党にこういうのはなかなかいない。
自家用スーパージェットで常に移動しており、早い話が住所不定。
メチャクチャ金を持っているのは間違いないが、なのになぜ世界を敵に回したがるのか、どこであんなハッキングの才能を身につけたのかなど、いろいろ謎が多い。
「サイファー(暗号)」という名前も、通称を使っているのか、単なる苗字なのかは分からない。 この点にも何かあるはずだが。

サイファードム兄ぃを陥れてまで実行したい悪さは、核ミサイルの発射コードを手に入れ、ロシアの原子力潜水艦をジャックし、ミサイルを飛ばして世界をギャフンと言わせたろうというもの。
北のぼっちゃん将軍が泣いて喜びそうなことを、この姐さまがやったろうやないかというのである。
エレナと赤ん坊を人質に取られて協力を迫られたドム兄ぃは、ファミリーを守るためにファミリーを敵に回すという選択を迫られる。
この手も足も出ない状況をドム兄ぃをはじめワイスピ・ファミリーがいかに逆転をかまして悪党を成敗するかを、どっしり構えて楽しんでいただきたい。

例によってどころか、今まで以上にかなり無茶なシーンやツッコミどころはある。
繰り返すが、そこをいちいち気に病まないことだ。 逆にそこを特に楽しんでいただきたいのである。
アキラ100%の裸芸ぐらいでBPOに苦情を寄せるようなヒマなクレーマー根性などワイスピ・ファミリーが叩き直してくれるわい。
ここからはワイスピの「何でもあり」なところの魅力を紹介しよう。


【ワイルドすぎるぜ、ドム兄ぃ!】
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ワイスピ名物の公道レースはいきなりオープニングから始まる。
レティと一緒にキューバのハバナにバカンスに来ていたドム兄ぃ
キューバにはフェルナンドという従弟が暮らしているのだが、その彼が借金の肩に車を差し押さえられようとしていた。
「人様から借りたもんを返さんおまえがアホじゃ」と説教を垂れるのかと思いきや、ドム兄ぃは金貸し屋のラルドというオッサンにレース対決を持ちかける。

そりゃあデキの悪い従弟でもドム兄ぃにはやっぱりかわいいのだ。
もうハナっから借金を踏み倒してやろうという気満々で自分の得意分野での勝負をけしかけるのだから、さすがは元強盗団のボスである。
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キューバでも赤のインパラを乗り回していたドム兄ぃだが、レースでは自分の車は使わない。
「おまえのを貸せ」と従弟が乗ってるシボレーの50年式フリートラインをふんだくり、少しでも軽量化しようと、なんとボンネットもフェンダーもバンパーも、ついでにドアまで外してしまうのだ。
兄貴・・・人の車ですぜ・・・。
ただし、エンジンにはちょいと細工がしてあるのだが。

相手のラルドさんはフォードの56年型カスタムライン。
往年のアメ車が現在でもたくさん走っているキューバらしさ満点だ。
もちろんドム兄ぃがレースで負ける訳もないのだが、ラジエーターむき出しのフリートラインがオーバーヒートで火を噴きながらカッ飛んでいくファンキーなシーンには笑いと感動が脳内をフルスピードで駆け巡る。
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俺の熱い走りを見てくれぇ~っ! いや、火ぃ吹いてますよ、兄貴ぃーっ!

火が出る前にエンジンが止まるはずだが、ドム兄ぃが乗ったらそんな理屈は関係ない。
苦情は一切受け付けません。 走るものは走るのだ。
しかもこのあとドム兄ぃはバック走行でニトロをズドンとかましてレースに勝っちゃうのだ。
おもろい! なんておもろいんじゃ!

もちろん従弟の車は見事にオシャカ。
ドム兄ぃはニッコリとさわやかに微笑んで「悪いな、つぶしちまったよ」。 従弟も笑ってすませるこの大らかさ。
まあ、インパラを代わりに従弟にプレゼントしたからいいのだが、あまりにワイルドすぎるドム兄ぃの走り屋魂には感服するしかない。


【ワイルドな鉄球ミッション】
大量破壊兵器電磁パルスがドイツの反体制派の武器商人に奪われたのを取り返せという指令を受けたファミリーはベルリンへGO。
それを奪還するまでのなんやかんやは省かれているが、追っかけてくる敵を振り切るやり方がこれまたワイルド。
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クレーンで巨大鉄球をブイーンと振り回して、後続の追手の車をグッシャー!ドッカーン!
メカ系担当のテズが仕掛けた、大がかりにもほどがある「カーチェイス強制終了作戦」。
これはタイミングをミスってしまうと、前を行く味方が割を食いかねない、おっそろしい作戦である。

いやいやいや。 追っかけてくる車を足止めさせるんなら、忍者が使うマキビシみたいなもんでパンクさせたらよろしいやん。 その方が安くつきますやん。 現地に乗り込んで、どんだけの準備の手間がかかりますのん? その間に大量破壊兵器持った悪党さんたちがどこかに行ってしまいますって・・・・・という御意見はあるでしょう。 それにお答えしましょう。
おもろいから、いいの。 以上だ、諸君。 

だって、すんげぇ迫力ですやん。
こんなの見たことないでしょう?
鉄球が物を壊すシーンといえば、我々世代には懐かしい「あさま山荘事件」だが、あの鉄球は全然ちっちゃい。
ワイスピ・シリーズのアクションの醍醐味は「コレでアレをやったらどうなるか」というのを実際にやってしまうという面白さなのだ。
以上です。
苦情は一切受け付けません。


【規格外れすぎるホブス】
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前作では妻子持ちだったという驚天動地の事実が発覚したルーク・ホブス捜査官(ドウェイン・ジョンソン)。
今回の最初の顔出しでは、なんと女子サッカーのコーチとして登場する。
捜査官の職はただいま休職中。
寸暇を利用して、娘のサマンサちゃんも所属するサッカーチーム「ドラゴンズ」を熱血指導。
「勝ったらネイルサロンに連れてってやるぞぉーっ!」 「キャーッ!」

試合前にはラグビーのオールブラックスがやるHAKAダンスを一緒に踊って相手チームをビビらせる(ドン引きさせる)。
試合中に仕事の話を持ってきたお上のパシリ君にブチ切れ寸前。
「おまえも一緒に応援しろ。負けたらおまえのせいだからな」

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前作で、骨折した腕を力技で治す、北斗神拳伝承者の様なことをやってのけたホブス
今回はさりげなく描かれているが、腕にはめられた手錠をプチっとちぎってしまうというターミネーター芸を披露する。

ベルリンでの任務で、よもやドム兄ぃの裏切りに遭って電磁パルスを奪われてしまったホブスは、逆に電磁パルスをパクッた罪を着せられて刑務所に入れられてしまう。
その際に、政府管轄下の秘密工作組織のミスター・ノーバディ(カート・ラッセル)と、その部下のリトル・ノーバディ(スコット・イーストウッド)が現れて、仕事の条件と引き換えに出所の取り引きを持ち掛けてくる。
何も知らないリトル・ノーバディの無礼な態度にキレたホブスは、まるで割り箸を折る程度の動きで手錠の鎖を切って、新顔の若造をお仕置きするのだ。
これで彼が新型ターミネーターである可能性が何割か増した。

通常、ニッケルメッキされた手錠は250キロの荷重にも耐えられる。
とてもじゃないが250キロの重さを動かすような動作でもないのに手錠をちぎってしまうホブス
え? 何かおかしいですか? ホブスだから当たり前。
苦情は一切受け付けません。


【そんなわけ・・・あるかもね】
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アメリカのニューヨークを訪問中のロシアの国防大臣が核ミサイルの発射コードが収められたスーツケースを持っている。
それを狙ってサイファードム兄ぃを使って、大臣の乗ったSUV車を襲撃させる。
これに大人しく黙ってるロシア人ではない。
なんと! SUV車のルーフからM134ガトリングガンが出現。
そんなわけ・・・あるかも知れんわな。 要人が乗った車なら。
うん、きっとそうだ。 国の偉い人が乗ってる車にはなんだって積まれてるに決まってる。
苦情があるならロシアの大使館へ行け。

ニューヨークのど真ん中だろうが、そんなことはおかまいなしに「ナメたらあかんで」と銃撃戦を展開してまでボディガードの仕事を全うしようとするロシア人の心意気は感動すら覚えてしまう。


【そこまでしなくても】
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サイファーはロシア国防相の乗った車の逃げ道をふさぐために、ニューヨーク中の車のECUをハッキングして遠隔コントロール。
車が生き物のように群がり、道路でグチャグチャーっとなって暴走するシーンは凄すぎるの一語。
これぞ「ムチャクチャ」の極み。
駐車場ビルから車がポロポロ飛びだして落下していくシーンなんかは作り手のストレス解消の趣向としか思えない。

カーアクションもここまで来たかと思わせる、ニューヨークのシークエンスはあまりに現実離れしていて、この世の終わりさえ思わせる。
とはいえ、スーツケース一つ奪うのに、そんなことまでしますかな。
ドム兄ぃに何か動きがあったことを察知したファミリーたちも車で駆けつけるのだが・・・・ あれ?ちょっと待てよ。
車がハッキングされてるってことは、ファミリーたちの乗ってる車もハッキングして無力化してしまえばいいじゃん。
え? しないの? なんで?

まだ言わせますかな。 その方がね・・・・
おもろいから。
ワイスピのみならず、やっぱ非現実表現こそが映画の魅力なんだよ。
苦情は一切受け付けませんとこれ以上言うのも、もうしんどい。


【それでどうするの?】
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サイファーの指示のもと、ドム兄ぃはロシア国防相から核ミサイル発射コードの収められたスーツケースを奪って逃走を図る。
そうはさせじと、ワイスピ・ファミリーがドム兄ぃのロードランナーを五台の車が包囲し、五方向からワイヤーをブチ込んでの綱引き状態。
エンジンがブゥオン、ブゥオン! タイヤがキュルキュルキュル!
あのぉ・・・・ すいません・・・・・
この状態って、オチはあるんでしょうか?
どうなったら正解なんでしょうか?

上からの光景を見た限りでは、ローマンの乗ったヴォルシュタイナー・ベントレーが引っ張るフロントグリルがバッチーンと真っ先に外れそうだ。
だが、そうなるとドム兄ぃのすることは簡単。
アクセルを踏み込めば、前方サイドのホブスのMXTとデッカードのジャガーは後方に持っていかれて横転するか、角の建物に激突するかである。 ワイヤーが外れるかどうかは疑問だが。

だがドム兄ぃのすることはもっとワイルド。
その程度か、オメエら。 100年は早えぜ!と、ドム兄ぃはこの状況からあっという間に脱出してみせる。
ロードランナーは犠牲になってしまったが。


【水に流すのが男ですね】
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前作のヴィランだったデッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)は刑務所でオツトメ中。
そこに収監されてきたホブスと感激の再会を果たす。
「ゲーハーにヒゲのビジュアルがベタかぶりなんじゃ! ヅラかぶるかヒゲ剃るかどっちかせんかい!」
「誰がするか! おまえの方がしろ! だいたい、そのキショいタトゥーを消せ! このゴリラ!」
「おおっと・・・キショいって言ったな。 これはサモアのマオリ族の伝統的なタトゥーなんじゃ! 『モアナと伝説の海』を観とらんのかい!」
「観てないわい! 第一、公務員がタトゥーすな! ジャパンやったら即アウトじゃ!」
「アメリカはいいんだよ~だ」 「アメリカでもダメな地域もあるんだよ~だ」

「ハイハイ、お二人さん。 漫才はそこまでだ」と、ミスター・ノーバディに仲裁され、デッカードはワイスピ・ファミリーに強制加入させられる。
元々はイギリス軍の諜報部員だったが組織に抹殺されそうになって逃亡生活を送っていた時期がある。 ゆえに、そもそもが悪党ではないのだ。
渋々ながら協力することになったデッカードだが、そりゃ他のメンバーにすれば複雑だ。
なんせワイスピ・ファミリーの一人、ハンを殺した男でもあり、ドム兄ぃの自宅に爆弾を送りつけて全損させる悪行三昧をやっている。
普通なら、おいそれと水に流せれる訳はない。

しかし、ワイスピ・ファミリーは心が広い。
ストーリーが進むと共に、デッカードの過去のあれこれはみんなすっかり忘れているかのようだ。
そ・・・そういうもんなんすかねえ?
そういうもんだ。 なぜなら・・・・
ジェイソン・ステイサムが仲間になって活躍してくれる方がおもろいからだ!
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ストーリーの途中から、ある事情でフェイドアウトしてしまうが、クライマックスでは弟のオーウェン(ルーク・エヴァンズ)と共に大活躍。
サイファーのアジトであるスーパージェットに乗り込んで赤ちゃんを救出。
意外にも子供好きであやし上手!
かごを抱えながら、赤ちゃんをまったく怯えさせずに格闘アクションに興じるステ様の生き生きした動き。
コミカルさにウエイトがかかっているシーンであるが、危機的状況を一気に打開する、カタルシス満点の大見せ場なのだ。

しかし、ショウ兄弟にはマグダーレン(ヘレン・ミレン)という恐いお母ちゃんがいる。 
もちろんデッカードも頭が上がらない。
劇中、ジェイソン・ステイサムがヘレン・ミレンにビンタされるという、おそらくこの先未来永劫ないであろう貴重なシーンをお見逃しなく。


【ロシアって本当に寒いもんですね】
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ロシアの原子力潜水艦をハッキングして乗っ取ったサイファー
いよいよ最終決戦。
ワイスピ・ファミリーも集結。
どこに行くのも絶対に車。 だから期待通りに氷上のチェイスをやってくれる。
どんなスタッドレスを履いてるのかとか色々気になってしまうが、そんなことなど、もうどうでもいいぐらいのケタハズレなアクロバット・アクションが大いに楽しめる。

車と潜水艦が競争しても、潜水艦は実際そんなに速くはないけどね。
それでも、まあ一度やってみよう、アホらしいかも知れんが、客にウケたらそれでいいじゃねえかという、作り手どもの潔さというか攻めの姿勢の映画作りが嬉しいではないか。
そんなアホなと言われてナンボだぜ。 それがワイルド・スピードだ。

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競争する相手は潜水艦だけではない。
映画史上初。 車と魚雷のレースである。
ホブスが乗るクライスラーのラムは、車輪に三角形の無期限軌道を装着させた雪上仕様。
これってそんなにスピード出る? 雪面でも100キロぐらい出るらしいが。
いやいやいや。 魚雷やで。
ホブスがドアにつかまりながらスケーティングし、雪上を滑っていく魚雷を素手でつかんで敵の車にブン投げるという超絶ハイパー・アクション。
これが笑わずにおられようか。

確かにマジメなアクションではないけども。
これを仮にヘレン・ミレンがやったら、あまりのバカバカしさに地球がひっくり返るが、ドウェイン・ジョンソンだから許されるのだ。
いやあ、アッパレアッパレ。 泰平じゃ泰平じゃ。


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面白かったねえ。
このシリーズ、本作を含めて、あと2作続くのだそうな。
これが最終章3部作の1章ということらしい。
なるほど、サイファーは逃げちゃったしね。 彼女がこの先も、またあの手この手でファミリーの前に立ちはだかるのであろう。

話がどんどん「007化」していき、スケールの広がりもどこまでいくのやら。
車をメインにしたアクションも、やれることはやり尽くしてしまったんではないかと思うが、もはや海を泳ぐか土に潜るか、宇宙へ飛ぶかしか道はない。
いずれにせよ、まずは2019年を楽しみに待とう。

キャスティングもまた豪華な人が加わるのか、それも期待したい。
その前に、本作で新たにワイスピ・ファミリーに加わった、イカしたアイツ。
そう。 ドム兄ぃと亡きエレナの愛の結晶の君だ!
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「おやおや~、ゴキゲンでちゅね~。 なんの曲を聴いてんのかなあ?」
「アルビン&ザ・チップマンクスの『ザ・チップマンク・ソング(Christmas Don’t Be Late)』って曲だぜ」
「はい、噛まずによく言えまちたね~」
「おめえ、俺が赤子だと思ってバカにしてんのか、このやろ」
「そんなことありまちぇんよ~。 ところでその歌は好きでちゅか~?」
「フニャフニャフニャフニャ、何を歌ってんのか分かんねえよ」
「音声加工した歌でちゅからね~」
「それより、このヘッドホン。 ちょっと側圧きつくねえか?」
「思いっきりヘッドバンキングできまちゅよ~。 よかったでちゅね~」
「やりたかねえよ。 ってか赤子に脳みそ振らせるんじゃねえよ」
「ビーツのヘッドホンは高いんでちゅよ~。 ダダこねないでくだちゃいね~」

「こねたくもならあな。 おめえのキショい赤ちゃん言葉聞かされたらよぉ。 それよりハゲ。 のどが乾いたからミルク持ってこい。ホットでな」

ワイスピ・ファミリーへ、ようこそ。 ブライアン


「賢人のお言葉」
 「世の中がどんなに変化しても、人生は家族で始まり、家族で終わることに変わりはない」
 アンソニー・ブラント

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