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天気の子
2019年08月21日

177922.jpg新海誠監督の「君の名は。」以来3年ぶりの最新作。
異常気象により、長期にわたって雨が降り続く東京を舞台に、離島から家出してきた少年と、祈ることでわずかな晴れ間を作る能力を持った少女が、過酷な運命に立ち向かっていく物語。

ディテール豊かなスーパークオリティで圧倒する“新海印”の映像美。
緻密で独自のロマンティシズムを語るラブストーリー。
世界観を力強く引き出すRADWIMPSの神ナンバー。

歴史的大ヒットの前作が置いていったハードルを意識することなく、ぶれることのない“新海ワールド”の「愛の讃歌」が今回も全開。
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2021年。
高校1年生の森嶋帆高は離島から家出して東京にやってきた。
生活に行き詰った彼は、東京行きのフェリーで知り合ったライターの須賀圭介を頼り、オカルト雑誌の編集プロダクションを営む須賀の仕事を手伝うことになる。
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連日雨が降り続く異常気象の東京。
須賀の事務所で住み込み、彼の姪っ子の夏美と共に取材に駆け回る帆高。

そんな中、彼は不思議な能力を持った少女と出会う。
ある事情を抱え、小学生の弟・凪と暮らす天野陽菜。
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「ねえ、今から晴れるよ」
彼女は"祈る"ことで、雨天の街にわずかな時間だけ局地的に晴天をもたらす「100%の晴れ女」だった。

生活が苦しい陽菜のために、帆高は陽菜の「晴れ女」の能力を生かして、晴天を望む人たちのためのサービス業を提案。
「晴れ女業」で能力を駆使する陽菜だったが、その代償が次第に彼女の体に起き始める。

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家出の届け出が出ていた帆高の元には警察の捜査の手が迫っていた。
そして陽菜と凪の元には児童相談所が介入し、引き離されることを恐れた姉弟は帆高と共に逃げるのだが、やがて帆高は陽菜の背負った過酷な運命と対峙せねばならない時が訪れる。

     

台風が過ぎ去り、盆休みも終了し、悪魔のようにクソ暑い今日この頃。
残暑お見舞い申し上げます。

今日もせっせとブログを書いてると、例によって妄想タイムに突入したアッシの前に、軽めのチャラい男が出現した。
(有)K&Aプランニング代表、須賀圭介である。
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「よぉ中年。仕事探してんだろ?」
  
tenkinoko3 cat「探してませんけど」

2136442_201905290596851001559099562c 40「話が続かねえだろ」

tenkinoko3 cat「そんなこと言われたって」

2136442_201905290596851001559099562c 40「なあ中年よ、なんか面白い都市伝説とか知らねえかい?」

tenkinoko3 cat「存じませんな」

2136442_201905290596851001559099562c 40「話が続かねえだろ」

tenkinoko3 cat「うるっさいなあ」

2136442_201905290596851001559099562c 40「中年よ、『天気の子』観たんだろ?」

tenkinoko3 cat「観ましたけど」

2136442_201905290596851001559099562c 40「俺のどこがカッコよかったかを100項目以上述べよ」

tenkinoko3 cat「特にありません」

2136442_201905290596851001559099562c 40「この野郎、なんかあんだろ」

tenkinoko3 cat「夏美ちゃんの胸の谷間とスラッとした脚がサイコー」

2136442_201905290596851001559099562c 40「中年よ」       

tenkinoko3 cat「へい」

2136442_201905290596851001559099562c 40「元気でいいぞ」

tenkinoko3 cat「恐縮です」
       
すると「活力」と「色気」の混じったムンムン臭が辺りに漂った。
そこへ現れたのは須賀圭介の姪っ子、須賀夏美
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「お二人さん、えらく盛り上がってるけどなんの話かしら?」
 
tenkinoko3 cat「あっ、夏美ちゃん。 今、あなたの叔父さんにカツアゲされてたんですよ」

2136442_201905290596851001559099562c 40「おい中年、嘘は良くないぞ」

geo19072105010010-p1 40「圭ちゃん、お金を返してあげて」

2136442_201905290596851001559099562c 40「親族を信用しろよ、おまえ」

geo19072105010010-p1 40「ところで中年さん。 『天気の子』観てくれたんですって?」

tenkinoko3 cat「夏美ちゃん目当てで」

geo19072105010010-p1 40「私の素敵なところをいくつ言えるかしら?」

tenkinoko3 cat「軽く100項目はあります」

2136442_201905290596851001559099562c 40「えげつないぞ、中年」

geo19072105010010-p1 40「陽菜ちゃんだって可愛いわよ」

tenkinoko3 cat「向こうは人のカノジョだしなあ。 夏美ちゃんのようなグイグイくるタイプの方がアッシは好き」

2136442_201905290596851001559099562c 40「中年よ」

tenkinoko3 cat「へい」

2136442_201905290596851001559099562c 40「もう寝ろ」

tenkinoko3 cat「嫌じゃ」

すると、どこからともなく、さわやかな風が吹いてきた。
よどんだ空気がキラキラした粒子で洗い流されるような清々しい風と共に現れたのは天野陽菜の弟・凪くん、10歳。
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「さわやかすぎてすいません」
  
tenkinoko3 cat「凪センパイっ!」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「中年さん、『天気の子』観てくれたんですね。 出演者、スタッフ、配給会社に成り代わってお礼を申し上げます」

tenkinoko3 cat「なんてデキた小学生なんだ。 インチキ話を書いてメシ食ってるどこかのオヤジとはえらい違いだ」

2136442_201905290596851001559099562c 40「口を慎め、中年」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「中年さん、グイグイくる女の子は冷めやすいところがあるからね。 そういう子には中途半端な態度で接しちゃいけないんだよ」

tenkinoko3 cat「そうなんですか、凪センパイ」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「どんな女の子にもそうだけど、付き合う前は何でもハッキリ言って、付き合ったあとは曖昧な態度でいく。 これが基本」

tenkinoko3 cat「ああ、映画の中でも凪センパイおっしゃってましたね」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「“女心と秋の空”。 女性の心をつかむのは天気の予想と同じだね。 先を読んで備えること。 言葉や表情が含んでるものを読み取って、いい関係を保つ努力をするのは男子たるものの役目。 女の子が常に幸せでいられるカレシになることを目指さないとね」

tenkinoko3 cat「なんというありがたいお言葉! なんという素晴らしい御方! おい、そこのイカサマライター、おまえのギャラを半分、凪センパイに差し上げなさい」

2136442_201905290596851001559099562c 40「誰がイカサマライターだ、こら」

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D8mQHrWVUAAeIU_ 40「天気といえばこの映画、ある意味、斬新で壮大な話だよね。 なんたってさ、“愛は地球を救う”とは真逆のことが繰り広げられるんだもん」

tenkinoko3 cat「確かに。 まあ、“人の命は地球よりも重い”とも言うしね。 世界がどんな形であっても、愛する人と生きられるのならば、『天気なんか狂ったままでいいんだ!』は究極の愛の告白」
          
D8mQHrWVUAAeIU_ 40「でも、実際この世界が狂うことを選択したのは僕たちでもあるよね。 正確には今の大人だけど」

tenkinoko3 cat「面目ありません」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「人が暮らしていくなかでエネルギーは消費される。 その結果、あまりにも地球を傷つけすぎたよね」

geo19072105010010-p1 40 「だって電気やガソリンなしじゃ暮らしていけないもの」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「便利で快適な暮らしをとことん追い求める。 そこに商売が絡む。 そのしっぺ返しで、人の暮らしにくい環境になってしまったのはあまりにも皮肉だね」

2136442_201905290596851001559099562c 40「世界中が国をあげて対策には取り組んできたんだろうけどな」
 
D8mQHrWVUAAeIU_ 40「のんきに構えすぎたし、環境に対する意識の高め方が追いつかなかったんだよね。 目先の利得よりも、自分がとっくに死んでるような未来のことを考えろったって、便利さと金儲けの味をしめた人間には土台無理だったんだよ」

tenkinoko3 cat「では凪センパイ、地球はもう救いようがないってことですか?」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「僕らが想像してるより来てるところまで来てるのかもね。 雨の降り方なんておかしいもん。 人が死ぬくらい降るんだよ。 それくらい量も強さも加減知らずだしさ、台風なんか一つ来たら間をおかずに二つ目三つ目と来るじゃない? ちょっと変だよね」

2136442_201905290596851001559099562c 40「もう昔の日本じゃなくなってしまったんだなあ」

geo19072105010010-p1 40「春と秋の間隔が短くなって夏と冬が長くなったもんね」

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D8mQHrWVUAAeIU_ 40「この映画のように東京の大部分が水没してしまう将来ってのは絵空事じゃないかもしれないよ。 暮らしに一番身近な天気のことをないがしろにしたツケは必ず来るよ」

tenkinoko3 cat「なんとかならないんでしょうか、凪センパイ」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「ならないだろうね。 しかも、こういう世界にしてしまった大人たちは次の世代の僕らに問題を丸投げした。 『青春や恋愛にうつつを抜かしてないで、君たちがこの狂った天気をなんとかしろ』と無責任に世界を僕らに譲り渡したんだ」

tenkinoko3 cat「返す言葉もございません」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「だからといって僕らの世代に勝手に押し付けて期待されても特別なことが出来るわけじゃなし、青春や恋愛や普通の人生を僕らはあきらめる気はないよ。 大人が残したこの世界をそのまま受け入れて生きていくんだ」

tenkinoko3 cat「そういう考えになるのもごもっとも」

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D8mQHrWVUAAeIU_ 40「自分の人生や愛する人のことを犠牲にするくらいなら、天気なんか狂ったままでいいさ。 ましてや僕の姉ちゃんを人柱にするなんてのは断固認めないからね」

tenkinoko3 cat 「そうですな。 先人たちが選択した世界ですからね。 あなた方が気に病む必要はない。 世界の形が変わっても愛は永久不変」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「そういう意味じゃ、この映画はキレイゴトじゃない方の結論に向かった点では斬新だね。 主人公の帆高が身勝手とか言われるかも知れないけど、『お前ら地球のために犠牲になれよ』と言う方も身勝手だよ。 どのみち世界は狂うところまで狂う。 その時に現実問題として、生活が激変することを一人一人が受け入れる心構えと備えはしておかないとね」
     
tenkinoko3 cat「環境問題についての説教ではなく、シンプルに世界を救うか、愛を救うかの二択の話ですな。 大人は世界を救わなかった。 子供だってそっちを選択したってとやかく言われる筋合いはない。 愛を救う決断をするのもそれはそれで美しくもある」

D8mQHrWVUAAeIU_ 40「おっと、もうこんな時間だ。 ちょっとデートの約束があるもんで。 女子を待たせる訳にはいかないので、これにて失礼させていただきます。 中年さん、またどこかでお会いしましょう。 夏バテにはくれぐれも気をつけて。 ではごきげんよう」

tenkinoko3 cat「さようなら凪センパイ。 どうぞデートを楽しんできて下さい。 ・・・ううっ、うらやましい! そしてなんていい人なんだ! ううううっ・・・」

2136442_201905290596851001559099562c 40「おい・・・こいつ泣いてるぞ」

geo19072105010010-p1 40「気色悪いわね。 圭ちゃん、いいからこのオッサンは放っといて帰りましょう」

2136442_201905290596851001559099562c 40「もう大人になれよ、中年。 あっ、大人か」

     

短編でもいいから凪センパイのスピンオフ映画の製作を求む!

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「賢人のお言葉」
 
「雨の日は、雨を愛そう、風の日は、風を好もう、晴れた日は、散歩しよう、貧しくば、心に富もう」
 堀口大學
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トイ・ストーリー4
2019年08月15日

T0017158p.jpgピクサーのアニメ映画は通常、前座の短編ムービーがあるのですが、今回それがないというのがもはやただごとではありません。

もうかれこれ9年も前になる前作の「3」でてっきり完結したと思っていましたが。

監督のジョシュ・クーリーは「すべてのエンディングは新しい始まりを意味する」と語ります。

確かに形の上では、オモチャたちがアンディの家からボニーの家に移っただけで、そこから再びいかなるドラマを展開していくのかは、相当にハードルが高いはずです。

オモチャに人格を持たせた設定で、子供に愛されることを生きがいや存在意義としながら暮らす彼らが、いずれは一方通行になる愛情に葛藤する姿が前3編を通じて描かれてきました。

ピクサーの作品は時に、「そこまで深く考えたことがなかった」というテーマに踏み込んでくることがあり、それを普通の人間ではなく、車であったり、魚であったり、モンスターであったり、スーパーヒーロー・ファミリーであったりと、多様なキャラクターに置き換えてアプローチしてきます。

その代表格が「トイ・ストーリー」のシリーズで、子供心の喪失や、無償の愛といった、理屈や善し悪しで計れない複雑な人間のサガに言及した物語なのが特徴。

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なんだかんだでオモチャに人格を与えた設定はズルいですね。

大人になってもオモチャを捨てるなとおっしゃいますのかい?
子供から大人になる成長過程で、得る物があれば失くしていく物があるのはやむを得ないんじゃないんですかい?

そもそもがオモチャが人格を持ってしまえば、それはもう「所有物」ではなくなり、ペットと同じくどう扱うか、面倒を見るかというところまで話が行くと、堂々巡りを繰り返すのは当然。

ウッディバズらは、すっかりオモチャ離れしたアンディから、これからオモチャを必要とするボニーに迎えられたものの、いずれは再び不要となる悲しい運命が待っているのです。
元々このシリーズは、人格を持ったものを所有物として描くあたりに批判とまではいかずとも疑問を呈する声もあったのは確かです。
少々お門違いな指摘のようにも思えますが、映画に出てくる“人格を持ったオモチャたち”は果たしてこのままでいいのか?という、かすかな引っ掛かりを持って「3」を観終えた人も少なくないでしょう。

それに応える形のストーリーが語られるのが今回の「トイ・ストーリー4」です。
あくまでも「トイ・ストーリー」の中でのオモチャたちの話であって、人間のために尽くすだけ尽くして捨てられる"人生"より、他にあるはずの幸せ、オモチャにとって本当の幸せを問う物語です。

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大学生になったアンディから、オモチャの大好きな女の子ボニーに譲られたオモチャたち。
そしてここでも月日は流れて、ボニーがいよいよ幼稚園へ行く歳になります。

しかし最近は、数あるオモチャの中でボニーが遊ぶ時、ウッディが選ばれることがめっきり減ってしまっています。
ウッディは寂しい気持ちもありながら、少しづつ成長へのステップを上がるボニーを親のように見守っている今日この頃。

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ボニーは幼稚園の体験入園にやってきますが、不安で不安で仕方がありません。
家を出る前から気が進まない様子だったボニーを見かねてウッディはリュックの中に入ってこっそりついていくのですが・・・。

教室の中で、他の子供たちに話しかけるタイミングもつかめないまま、ポツンとひとりぼっちのボニーは机にあった工作の材料と、プラスチックの先割れスプーンで、手作りのオモチャを作り始めます。

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ボニーは自分の手で作ったこのオモチャを「フォーキー」と名付けました。
このフォーキーを作ったおかげで、ボニーは体験入園を楽しく過ごせたのでした。

フォーキーにもまた命が宿り、リュックの中で対面したウッディですが、自分がゴミだと思い込んでいるフォーキーはただただパニくるばかり。

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ボニーの家に帰ったあと、ウッディフォーキーをみんなに紹介するのですが、フォーキーはスキを見てはゴミ箱の中に入ろうとします。
そこが一番落ち着く場所なのでしょう。

「自分はオモチャなんかじゃない。 ごはんを食べ終わったら捨てられるゴミだ」
まだフォーキーは自分がボニーにとって大きな存在であり、オモチャとしての役割を理解できないようです。

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ウッディはもはやボニーのための自分の役目はそろそろ終わりに近づいてきていることを確信しています。
子供は成長しつつ、新しいもの、それまでとは違うものと接し触れ合うことで情操が育っていくのです。

古いものに興味が薄れていくのは悪いことではありません。
子供は新しいものに目を向けることで子供なりの見識を広めていくのです。
ウッディはそれを分かっています。

今度は自分の代わりに、フォーキーボニーの支えとなり、成長の友となっていかねばならないのですが、当のフォーキーはとにかくスキあらば逃げ出そうとします。
今、フォーキーがいなくなればボニーは傷つきます。
ウッディボニーのためにフォーキーの面倒を見ようとするのですが・・・。

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ボニーとその両親はキャンピングカーで旅行に出かけます。 もちろんオモチャたちも一緒なのですが、ウッディがちょっと目を離したすきにフォーキーが逃げ出してしまいます。

バズやジェシーたちにあとは任せ、車から飛び降りて跡を追ったウッディフォーキーを発見。
「ボニーを笑顔にできるのは君だけだ」
自分がどれだけボニーにとって大切なのかを説得されたフォーキーボニーのそばにいようと決心します。

二人が辿り着いたある町のアンティークショップでウッディは見覚えのある子供用ランプスタンドを見つけます。
それは11年前にある事情で離れ離れになっていたボー・ピープのセットの土台のランプ。
アンティークショップにボーがいると確信したウッディは店の中へ。

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一方、キャンピングカーに残った他のオモチャたち。
なかなかウッディらが帰ってこないことを心配したバズは単身で車外に飛び出して救いに行こうとします。

胸のボタンを押せば〔内なる声〕が。
〔ソラをトベ ムゲンのカナタへ サア、イクゾー!〕

しかし、着地に失敗した場所は移動遊園地。 射的ゲームの店主に拾われて景品の陳列用ネットに縛り付けられてしまいます。
そこで出会ったぬいぐるみのダッキーとバニーの協力を得て脱出したバズ

しかし、ウッディはいずこに。
ところがこの移動遊園地の裏手にあるのがウッディフォーキーが入っていったアンティークショップだという、まさにバズの〔内なる声〕のささやかなミラクル。

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ボー・ピープを捜してアンティークショップへと入ったウッディが出会ったのはギャビーギャビーという女の子人形。
50年代製の値打ち物のはずが、おしゃべり機能で声が出るはずのスピーカーが壊れているために収集家にも嫌われ、ずっとキャビネットの中にいました。

ギャビーギャビーウッディの中に入っているボイスボックスを狙っており、手下である腹話術の人形たちにウッディを捕えさせようとします。
なんとか逃げ出したウッディですがフォーキーが人質に。

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ウッディはやがてボー・ピープと再会。
「トイ・ストーリー2」に登場しながら、なぜ「3」にはボーが登場しなかったのかが、本作の冒頭で描かれてその謎が解けます。

ボー・ピープはアンディの妹のモリーが愛用していたランプスタンド付属の人形だったのですが、11年前、モリーがボーをいらなくなって、新しい引き取り手に譲られることになり、それ以来ウッディとは離れ離れに。

ボーは前の持ち主からアンティークショップに売られたものの、今は移動遊園地の中で、持ち主のないオモチャ人生を満喫しています。

ボーに助けられ、バズとも合流したウッディフォーキーを救いに向かうのですが・・・。

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ギャビーギャビーもまた孤独なオモチャ。
元々壊れていた不良品だったために市場に出回らなかったことから、今まで一度も子供に愛されたことがありません。

声さえ出れば・・・。
ギャビーギャビーの願いは店のオーナーの孫娘ハーモニーに持ち主になってもらうこと。
ハーモニーは祖父から定期的に古いオモチャを分けてもらっており、おしゃべり機能さえ直り、声が出せればハーモニーに気に入ってもらえて持って帰ってもらえるのではないかとギャビーギャビーは望みを持っているのです。

愛されたことがない。 一度は愛されたい。
大切に扱われてきたウッディがうらやましく、わずかなチャンスに賭けようとするギャビーギャビーの切なる思いに、ウッディは自分のボイスボックスを譲ることを決意します。

こうして、おしゃべり機能が回復したギャビーギャビーは、果たしてハーモニーに気に入ってもらえるのか。
そしてウッディには、さらなる重大な決断の時が訪れます。
愛か。 仲間か。 自分にとっての幸せを・・・。
ウッディの〔内なる声〕が選択した道とは・・・・・
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これは賛否両論あるでしょうねえ。
観終わってもアッシはどうにも複雑です。
いや、映画は凄く良かったです。

「3」でボー・ピープを出さなかったのは「4」を作る目的のためだったのではと思います。
今回のエンディングを描きたいがために。

やっぱり「3」で終わっとけばいいじゃないかという反面、これはこれで有りじゃないかと納得している気持ちもあります。
作り手がここまで物語を掘っていこうとするのは、オモチャに人格を与えたことへの責任感を全うしようという気持ちの表れだと思うと、このエンディングに到達するのは必然だったと思いますね。

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本作で象徴的に描かれているのが、自分の人生のために行動するスピリットです。

ボニーはおそらく人見知りなところもあって、幼稚園に入園するための体験入園で心細い思いにさらされます。
リュックの中で見守るウッディにもこればっかりはどうすることもできません。

この時、ボニーは机にあった材料で、自らオモチャを作り始めます。
これはボニーにとって非常に大きな前進であり、感動のポイントでもあります。
彼女は自ら行動するのです。
自分の“友だち”でもある、家のオモチャは、いわば人から与えられたものです。
しかし、自分の手で、精一杯の想像力を駆使して作り上げたオモチャであるフォーキーが、彼女に勇気をもたらし、一番の友だちになるのは当然です。

幼稚園に行きたくないということが通らないことはボニーも理解しています。 誰もが歩む同じ道を通ることの重要さを分かっています。
そのためには、しばしの支えになってくれる友だちをその手で作り上げ、自ら名前まで付けたボニーの行動力が発動するシーンは何気なく描かれてますが素晴らしいの一語です。

他のオモチャに比べれば、へんてこなビジュアルのチャチなフォーキーですが、ボニーにとっては自分で行動して得た、何物にも代えがたい「愛する存在」ですから、またすぐにでも作ろうと思えばできそうな物であっても、あの心細い思いをした時に誕生したフォーキーこそが大切です。
フォーキーがいなくなってしまった時の、あの落ち込み様も納得ですね。

この、自分で行動して愛するものを得るということが本作の重要な主眼であることは明白です。

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ギャビーギャビーは愛されたことがなく、それでいて何よりも愛を欲する切ないキャラクターです。
彼女もまた愛を得るために暴力的ですがハッキリとした行動に出ます。
望みを叶えるためにはどんなことだって厭わない。 人生を決してあきらめず、小さな可能性にも賭ける意志の力。 その点は立派といえば立派です。

彼女が欲しいのは「声」。
ビジュアルだけでは見向きもされないということを認めてしまっているところが切ないのですが、元から壊れてしまっている、おしゃべり機能という付加価値さえ復活して「声さえ出せれば」ということに望みをかけます。
声が欲しい、そんなギャビーギャビーですが、彼女の手下たちが腹話術の人形だというのも意味深ですね。

ボニーが想像力でもって愛するものを得たことに対し、ギャビーギャビーは直接語りかけるアプローチで愛をつかもうとするのですが・・・。
〔ワタシとトモダチになって〕
ハーモニーからあっさりと「いらない」と捨てられてしまうシーンは現実的で残酷で、選ばれなければアイデンティティさえないオモチャの悲哀と一方通行の愛に、虚しく切ない気持ちで胸一杯。

ギャビーギャビーは最初は不気味な感じでしたが、「3」のロッツォ・ハグベアのような哀れなヴィランで終わらないという展開になり、まさかの涙腺バッツン感動が待っていようとは・・・。
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ボニーなら可愛がってくれるはずだと、ウッディに誘われて行こうとするギャビーギャビーは、遊園地で迷子になって泣いている女の子を見つけて居ても立ってもいられなくなります。
自分の姿とダブったのでしょう。 行くあてのない迷子だった自分と、迷子になっている女の子。

女の子の目につきそうなところまで移動したギャビーギャビー。 ここでも彼女は行動を起こします。
女の子もまた、捨てられているかのような迷子に見えたその人形を放ってはおけませんでした。
〔ワタシとトモダチになって〕
「私が助けてあげる」
互いの愛が通い合う、ジーンとくるシーンです。

お母さんが見つかった女の子に抱かれて去っていく時のギャビーギャビーの幸せそうな表情。
救われますねえ。

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そしてウッディ
薄々そんな感じはしてました。

何よりも、この映画の冒頭にボー・ピープと別れることになるエピソードを持ってきたことがその伏線です。
(別れ際にボーウッディの帽子の位置を直してあげるシーンにキュン死!)

アンディという存在がいても、同じように愛する存在だったボーと別れる悲しい経験をしたウッディには、オモチャにとって必ずしも持ち主のところにいるだけが幸せではないのではという、かすかな気持ちが心の底に芽生えていたのかもしれません。

ボニーに引き取られて9年が経ち、ウッディも男の子用のオモチャでもあることから、次第にボニーが成長と共に気持ちが離れ出していることをウッディもヒシヒシと感じています。
そこに来てフォーキーの出現です。
しかし、ウッディは嫉妬する訳でもなく、フォーキーにオモチャの心得を説き、自分の役割を託すことで、幼稚園通いや、多くの友達をこれから作っていくであろう、未知なる世界へ踏み出すボニーをサポートしようとします。

離れ出したボニーの気持ちがもう元には戻らないことをウッディは受け入れているのです。
そしてボーとの再会と、ギャビーギャビーの孤独に触れたウッディの〔内なる声〕が呼びかけます。
他の人生があってもいいんじゃないかと。
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今はギグス・マクディンプルズという小さい人形を相棒に、遊園地の中で持ち主のない自由な人生を送っているボー
片やウッディボニーの家に戻っても、果たして居場所はあるでしょうか。 いや、バズやジェシーやたくさんの仲間がいますが、オモチャの喜びや役割ということに関してはもう居場所はありません。

ボーも一緒にボニーの家に帰れば?とも思いますが、ランプスタンドのない単なる陶製の人形ではウッディと同じことです。
持ち主に愛されるオモチャでなければ帰る意味がないのです。
何よりもボーだって今の仲間を捨てる訳にはいきません。

もう必要とされない。 でも、自分が必要としているものは何なのかをウッディは自問自答します。
子供を笑顔にすることだけに捧げてきた人生から、いよいよ自分の幸せを考える分岐点に立つウッディ
ボニーのように、ギャビーギャビーのように、自ら愛するものを得るための行動を起こす時が来たのです。

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親友のバズも複雑だったでしょう。
「ボニーはもう心配いらない」
ウッディを解放し、背中を押してあげる一言ですが、内心では(行かないでくれ)という気持ちも少なからずあったと思います。

フォーキーの面倒を一生懸命見てあげるウッディの姿に、彼が心なしか迷っているのだなということをバズも察しています。
「ウッディ、心の声に従うんだ」ということを再三言うのも、ウッディが後々に決心の時を迎える様な事態がやってくるのではということを予期していたように思えます。

愛してくれる存在を見つけて“迷子”ではなくなったギャビーギャビーに対し、愛するボーと共に生き、持ち主のない“迷子”のオモチャの人生を選択したウッディ
いや、自ら見つけた自分の道があるのなら、それはもう迷子ではないと思います。

バズは言う。
「君はもう迷子なんかじゃない」 友情の名言だ!


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結局、最初に書いたことに話は戻ってしまいますが、オモチャに人格を与えて始まったこのシリーズは、いずれこういう一種の迷路にはまる運命にあったように思います。
子供の遊び道具という定義ではなくなり、犬や猫のようなペットと同じように、「捨てるなんて可哀そう」と言いだせば、もはやこれはオモチャの話ではありません。

人間はオモチャから幸せを与えてもらいますが、オモチャにもオモチャの幸せがあってもいいんじゃないかということを突き詰めたら、どうしたってきれいな結論は出ないでしょう。
じゃあバズやジェシーやフォーキーや他のオモチャたちはどうなるの? 彼らだってボニーが大人になれば用なしになるんですし、ギャビーギャビーも同じことが言えます。
「子供のためのオモチャ」という前提を否定してるわけではないでしょうが、それでも、もし今後シリーズが続くならオモチャの存在意義がブレるようであってはいけません。

まあ、でもこれはファンタジーですからね。
ウッディボーには幸せになってほしいなと思います。
バズとも絶対二度と会えないなんてわけじゃないしさ。
そうでしょ?デューク・カブーン
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「イエス、ウィ、キャナダ!」

こいつ面白いキャラだったな。 声はキアヌ・リーブスだそうで。
最後のピクサーのタイトルロゴのシーンにも出てきましたね。


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「賢人のお言葉」
 
「時代の風潮、自分を取り巻く環境、さまざまな価値観、それらを正しく見きわめ、自分の判断で行動できるのは、どこにも属さない「迷子」だけだ」
 夏目漱石

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さらば愛しきアウトロー
2019年08月12日

T0023715p.jpgロバート・レッドフォードが俳優を引退するのだという。
今年で82歳。 俳優だけでなく、製作や監督、さらにはサンダンス映画祭の主宰として、数多くのインデペンデントの才能を発掘することにも尽力してきた、根っからのオールタイム映画人。

八十過ぎていい感じにくたびれたが、それでも全然ジジイっぽくないのがレッドフォードのさすがなところ。
若い頃は相当ブイブイいわせてたはずの、精悍な顔立ちのブロンド男子だった。

彼は野球選手になりたかったようだが、よんどころない事情で大学を1年で中退。
絵描きの夢も挫折して、そこから役者の道を歩み出す。
テレビドラマや舞台のチョイ役ばかりの大部屋俳優時代がしばらく続き、映画にもチョロッと出ていたが、66年の「雨のニューオリンズ」に出たあたりからいい風が吹き始めた。
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そして69年の「明日に向かって撃て!」。
サンダンス・キッド役をやるはずだったスティーヴ・マックイーンが降板し、ポール・ニューマンの奥さんジョアン・ウッドワードのプッシュで(諸説あり)、まだ駆け出しだったレッドフォードにお鉢が回ってきたのだった。

この映画の成功によって、一躍スターダムに躍り出たレッドフォードのそれからの活躍は言うまでもない。
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80年の「普通の人々」で監督業に乗り出し、いきなりアカデミー賞を獲った時は、この人にこんな才能があったのかと驚かされたものだ。
 
91年にサンダンス・インスティテュートを設立した彼は、サンダンス映画祭の主宰として、低予算のインディーズ映画にスポットを当て、若手の映画人の育成に努めてきた。
映画界全体の向上を思うその姿勢にはただただ頭が下がる。
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ロバート・レッドフォードが演じてきた役は不思議と「我を通す」タイプの異端児が多い気がする。
たとえば孤独な一匹狼タイプ、または図らずも孤軍奮闘する状況になる役は「華麗なるギャツビー」、「コンドル」、「ブルベイカー」、「幸福の条件」、「スパイ・ゲーム」、「オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~」などがそうだろうか。

一方、型破りではあるが志を同じくした仲間とデカイことをやろうとする映画も、「明日に向かって撃て!」、「ホット・ロック」、「スティング」、「大統領の陰謀」、「スニーカーズ」、「ラスト・キャッスル」あたりが浮かぶ。
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もちろん常識人の役だって多いはずだが、やっぱり印象に残る役柄はハミだし者、アウトローを演じた時のレッドフォードである。
そんな彼が俳優人生の幕を下ろす。
その記念すべき引退作で、やはりロバート・レッドフォードはアウトローを演じて最期を飾る。

その役は、実在した銀行強盗フォレスト・タッカーという人物。
若き頃から銀行強盗と脱獄を繰り返すこと16回。
最後の犯罪は80歳の時だったという、筋金入りの中毒的盗人。
「NO 銀行強盗, NO LIFE」なその男はそれまで誰一人傷つけることなく、そればかりか紳士的な振る舞いを貫いてスカッとさわやかに強盗を遂行したという。
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ムショから脱獄しては、また銀行強盗をして捕まってムショに戻ることの繰り返し。
それは彼がお金が欲しいからではない。 さりとて、悠々自適に庭いじりの老後を送りながら人生をまっとうしようなどとも思っていない。
泥棒のスリルと追われる緊張感がフォレスト・タッカーの「生きてる」と感じる瞬間なのだろうか。

そんな伝説のアウトローの物語に、オスカー俳優ケイシー・アフレックをはじめ、シシー・スぺイセク、トム・ウェイツ、ダニー・グローヴァーと、これまたシブいメンツが脇を固めて、ロバート・レッドフォードの花道を盛り上げる。

監督は「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」のデヴィッド・ロウリー。


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ダラス警察の刑事ジョン・ハント(ケイシー・アフレック)は語る。

相変わらず景気は悪いし、大統領になったばかりのレーガンはイカレた奴に撃たれるし。 いつまで世の中はシケたことだらけなんだろうか。
仕事も鬼のようにクソ忙しい。 それはそれでけっこうなことかもしれないが、時折これは本当に自分がやりたかった仕事だろうかと思う時がある。
妻と子供がいて、おかげさんで家庭は円満だ。
では一体何が物足りない? それが分からない。


フォレスト・タッカーという男を知ったのは俺が40歳になったばかりの1981年の夏だった。
その日、非番だった俺は息子のタイラーと一緒に銀行へ出かけた。
銀行屋さんは待たせるのが仕事だ。 俺はヒマを持て余す。 タイラーは退屈そうだ。

「大きくなったら何をしたい? 一番好きなことをするのが大事だぞ」
俺が一丁前なことを息子に向かって語っていたその時だった。

ふくよかな体形の支店長が「たった今、当行は強盗に入られました」と言う。
なんだと・・・?


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俺が息子とダベってるあいだ、銀行にやってきた"その男"は支店長に「口座を開きたい」と言いながら、コートの前を開いて内ポケットの銃をチラリと見せたそうだ。
支店長は冷静にカネをバッグに詰め込みながら、行員に合図し、密かに警察に知らせる緊急用のボタンを押させた。
男はカネを受け取ると、にこやかに颯爽と歩いて出て行ったという。

まったく気がつかなかった。
仕事柄、こういう場所に行くと、目が血走った野郎がいないか、変にソワソワしてる奴がいないかとか、自然と他人に注意を払ってしまう俺でさえも何の気配も感じられなかったとは不思議だ。

その後、支店長に話を聞くと「紳士的でした」と言った。
強盗をやらかして紳士も何もあったもんじゃないとは思うのだが、周囲に気取られることなく、被害者に好感を抱かせるほどの態度で犯罪をやり遂げられる手練手管が興味深かった。

防犯カメラの男の顔はかすかに笑っていた。
口ひげはどうせニセモノだろうが、この余裕ぶりの笑顔は決して作りモノではなく、今やってることを本心から楽しんでる笑みだというのは感じ取れた。

そういえば・・・・・
数日前にもアメリカン銀行にそんな銀行強盗事件があった。
事情を聞かれた窓口係は「礼儀正しい人だった」と証言した。

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まあ確かに、銃を出して「強盗だ!カネを出せ!」とギャーギャー叫ぶのはスマートじゃない。
それでも余裕たっぷりに相手を気遣う言葉さえ投げかけながら、ごく普通に預金を引き出しに来た客のように飄々とカネを持って行ってしまう男の人間味とはどこから来るのだろう。

俺は俄然その男のことが気になった。
絶対この手で捕まえたいとかいう正義感が出たのではなく、いや、それもあるのだが、それ以上に男が楽しそうに"仕事"をやっていることに対して嫉妬に近い憧れを抱いたのだ。
俺は彼にぜひとも会いたかった。


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男の名が分かった。
フォレスト・シルバ・タッカー。 フロリダ生まれの74歳。
13歳の自転車泥棒から始まり、これまでに幾度となく犯罪を犯しては脱獄を繰り返し、指名手配になっている男だ。

彼は二人の仲間と共に、この2年間だけでも93件の銀行強盗を成功させていた。
毎週一回オツトメというわけか。 たいしたスタミナだと感心する一方で飽きないのかと思うが。

彼は一応銃は所持しているものの、誰一人として傷つけたことがなく、これまでの調べの通り、相手には紳士的な態度を心がけるという流儀を貫いていた。
どうやら、ただカネが欲しいだけでバカをやり続けてるのではないと俺は見ている。
楽しいのだろう。 誰もやらない生き方が楽しいのだ。

無題 -- 
フォレストたちはメディアから"黄昏ギャング"と名付けられて大々的に報じられるようになった。
捜査の担当である俺も、テレビにたびたび出ては状況を喋らにゃあならない。 めんどくさいがな。
「俺が自分で奴に手錠をかけたい」
半分リップサービス、半分は本音だ。

やっこさんも俺が喋ってるニュースなんかを観てたのだろう。
ある時、署に俺宛ての封筒が来た。 中身は一枚の100ドル紙幣だった。
紙幣には、こう書かれていた。


『TO JOHN HANT GOOD LUCK SINCERELY
  THE OVER THE HILL GANG』


“幸運を祈る”、か。
ますます気に入った。 俺は久しぶりに仕事が楽しいと感じた。


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かつてフォレスト・タッカーを逮捕したことがある地方署の刑事にも俺は話を聞きに行った。
「なぜ足を洗わないんだ?」と刑事が聞くと、彼は答えたのだそうだ。

「楽しいからさ」
人が人生を楽しいと感じられる事はそれぞれだってことだ。

「おまえならもっと楽に生きられるだろ?」
「楽に生きるなんてどうでもいい。 楽しく生きたいだけさ」

犯罪に明け暮れる生き方はともかくも、いくつになっても「楽しい」と思える人生がうらやましい。
俺も彼を追い続ける仕事を楽しむとしよう。 ・・・と、思ってたら俺は捜査から外されることになった。
FBI様のお通りだってことだ。
事件が有名になってきたら、しゃしゃり出てくる。
勝手にやってくれ。


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久しぶりに妻と外でメシを食いに行った。
ちょいと飲み過ぎたらしい。
トイレに立った俺はそこで思いがけない人物と会った。

ネクタイについたシミを鏡で見てた時、あいつが入ってきた。
いや・・・話しかけられるまで一瞬ピンとこなかったのだが。

「テレビで観たことがあるな。 ああ、あの刑事さんか。 ギャングは捕まったのかい?」
「いや、まだだ」

俺を尾けてたのか? 
もう俺には捜査権がないから余裕だな。
しかし、彼の方から会いに来てくれたことに、なぜかワクワクしている俺がいる。

フォレストは俺のネクタイのシミを拭いてくれながら「キチンとしてると優秀に見えるぞ」と言って去って行った。
「フォレスト、俺は優秀だよ」
つくづく楽しい奴だ。

まもなくしてフォレストが逮捕されたと聞いた。
俺は収監されている彼に面会に行った。 あの100ドル紙幣を持って。



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ジュエル(シシー・スぺイセク)は語る。

フォレスト・タッカーに会ったのは1981年のやけに暑い夏だったわね。
私は車で35号線のハイウェイを走っていたのだけど車が故障しちゃってね。
路肩に停めて車のトランクの中を覗いていたら、そこへ現れたのが彼だったの。

直してくれるのかと思ったら彼、車のことにはどうやら詳しくないのよ。
他に目的があったので彼も自分の車を停めたようね。
そのあとにパトカーが凄い勢いで横を走り去っていったけど。


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ずっと耳にイヤホンを挿したままなの。
最初は刑事か探偵かと思ったけど、そうじゃないみたいね。
カタギじゃないってことはなんとなく分かったわ。
まあでも彼が何者なのかはどうでもいいの。
彼もあまり根掘り葉掘り自分のことを質問されるのが嫌そうだし。

でも彼はいつだって幸せそうな顔をしてるのよ。
あれほど人生を満喫し切っているような顔をしている70代の南部の男はそうはいないわ。
仕事自体真っ当なことをしていないかもしれないけど、彼は性根の美しい人だと確信したわ。 その見立ては間違ってなかったと断言できる。

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本当はどんな仕事をしているのか、一度話してくれたことがあったわね。
冗談混じりで銀行強盗をやってると言い出して、それを成功させるコツまで話してくれたわ。

彼にとっては、職業の質問に関して「どうせマジメに答えてくれてない」と受け取られても、本気だと受け取られても、どっちでもよかったんでしょう。
あんなにニコニコしながら銀行強盗の心得を喋られたら私だってどう受け取っていいのやら。
まあ、どっちでもよかったのよ、私には。 あの人が何をしていようと。

お互いどこに惹かれたのかしら?
なんとなく波長が合ってたとしか言えないわね。
私は自由に楽しく生きている彼の人生のそばに寄り添ってみたいと思ったし、彼が私と会う時、それまで一生懸命羽ばたいていた鳥がフッと羽を休めるような安心感を体から醸し出すのよ。
自由に生きるってのも、時には疲れるものなのかしらね。
彼は私に止まり木のような安心感を覚えてくれたのかしら? こんなシワクチャな未亡人なんかに。

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すでに子供は独り立ち。
夫は牧場と3頭の馬と借金を残して亡くなったわ。
フォレストは借金を肩代わりしようと、私の取引先の銀行へ行って現金を払おうとしたらしいけど、私に内緒では銀行に断られたようね。
銀行からお金を盗ることことはできても、お金を収めることはできなかったという皮肉・・・。
でも、それがきっかけだったのかしら? 彼が何か大きなアクションを起こしたのは。

まもなくして彼は刑務所に入ることになった。
もちろん私は彼を待ち、そして帰ってきた彼を迎え入れたわ。
もう、さすがにその道に戻ることはないのかもと思っていたけれど・・・
やっぱり、あの人はそういう人なの。

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私と静かに暮らす人生より、彼はもっと楽しく生きられる方の人生を選んだ。
彼に選ばれなかったことは寂しいけど、それが彼の幸せならば私の出る幕ではないわ。

でも、また羽ばたき続けるのに疲れた時は、いつでも羽を休めに来てね。
それまでさようなら、フォレスト・タッカー。
さようなら、私の愛しきアウトロー。



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フォレスト・タッカーは語る。

映画をご覧になってくれた皆さん、ありがとう。

まず断っておくが、この私の物語は完全な実話という訳ではない。
映画の設定では私は74歳ということになっているが、実際1981年の私はまだ60代だ。
他にも細かい点では事実と異なる部分もある。

でも、そういうことは実話の映画化では珍しくないだろ?
要は楽しければいいのさ。
私がジュエルに語るセリフにこんなのがあったろ?

「嘘でも真実でも大した差はない」

時には小さな嘘が人生に歓びを与えてくれるものさ。


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私の映画を観て、皆さんはどう思ったかな?
そりゃ人生は楽しく生きられるもんならそれに越したことはないだろうが、かと言って私のような生き方はお勧めできないな。
分かっているとは思うが「じゃあ、俺も銀行強盗しながら生きていこう」などとは思わないでくれよ。

私は「楽しく生きたい」とは言ったが、「楽に生きたい」とは言ってない。
日本の漢字というものは実に深いね。
「楽(たの)しく」と「楽(らく)に」とは違う。

「らくに生きる」には実現までが大変だが、そこに達したら心底から心の安寧を得られるよ。
しかし「たのしく生きる」のは今すぐにでもやろうと思えばできるが、いざやってみれば実際は疲れるものなのさ。
人はたまに羽目を外すということをやったりした時に楽しさを感じるだろ?
普段やらない事をやった時に人間は快感を覚える。 まあ、そこまででなくても、休日は少ないから楽しいものなのだという理屈は理解してもらえるはずだ。

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でもそんな楽しいだけの人生をずーっと続けていくのは骨が折れるもんでね。
好きなことをやる時ほど人間は実は心身共にエネルギーを費やすんだ。

仕事が楽しいと感じれるんなら、そりゃけっこうだよ。 でも無給で今の仕事を続けれるかね?
「続けれる」、「仕事が趣味だ」と言えるのは真の人生のプロフェッショナルじゃない。
生活のために働くことと、そこから切り離した日常とのメリハリをつけるのが、プロの生き方だ。
私のような強盗三昧は極端だが、楽しいだけの人生は自分のためにもならない。

私の人生の何が楽しかったかと言うと、悪行を重ねながら、優しさを信じれる人の温もりに触れることができたからだ。
そりゃ最初は銃をチラつかせたら誰もが恐怖するよ。
そこは申し訳ないと思いながら、決してあなた方を傷つけることはない本心を込めて紳士であることを心がけた。

彼らがいつ銃を抜かれるかということを頭の片隅に置きながらも、一見矛盾した私の優しさを信用してくれたことは驚きでもあり喜びでもあった。
"老人の笑顔"を武器に利用しただけなら見抜かれるさ。
「今、自分は最高に楽しいんだ」という男の生きざまに、羨望に近い共鳴をもたらしたというと大げさかもしれないがね。


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銀行で私に対応して好印象を抱いてくれた職員たちをまとめて代表したような人物こそがジュエルだ。
夫を亡くして子供もそばにいない人生に疲れている彼女だからこそ、楽しく生きている私の本質に近づくのは早かった。
私をカタギじゃないと思いながら愛してくれた彼女に、私はそろそろ違う人生を選択しようかとも思ったが、一度バカが染みつくとなかなか元には戻れないものだ。

おそらく長くは続かないだろうことは彼女も薄々分かっていたんだろう。
それでも説教を垂れることなく、べたべたする訳でもなく、そっと見守ってくれていた彼女には感謝しても仕切れない。
最終的に自分の手でジュエルを幸せにしてやれなかったことが悔いといえば悔いだ。


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そういえばジョン・ハントとかいう刑事も興味深い男だった。
テレビで観る彼は、何のために働いているのかを考えがちな男の典型的な顔をしていた。
だからつい、彼を見張るような真似をしてしまったが。

だがレストランで奥方と一緒にディナーを楽しむ彼を見て、「ちゃんとやってるんだな」と安心したよ。
働いて稼いで、家族の笑顔を見れるのが「楽しい人生」さ。
奴が私の事件を追い、私のことを調べたから変わったのかというと自慢になってしまうがそれならそれで幸いだ。

私だって偉そうに説教を垂れることなどできない。
思えば多くの人に迷惑をかけた。
それで自分が楽しい思いをしたとほざいたら、ただのバカだ。
だからといってなぜこんな人生にハマったのかはうまく説明できない。
ただ、こんな生き方しかできないのさ。
結局・・・「楽しいからさ」。 これしか答えはない、それが私の人生だ。


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「セインツ -約束の果て-」、「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」。 デヴィッド・ロウリーの過去2作共にサンダンス映画祭出品作であり、いわばロバート・レッドフォードの門弟的な監督である彼もなかなかの"アウトロー"である。

本作はスーパー16フィルムで撮影されており、多少粗めの画質ながらノスタルジックなテイストを際立たせている。
そこにロウリーが意図的にブチ込んだのが、レッドフォードの過去作の多様なオマージュである。

あのシーンやあのキャラクターがという説明は省くが、「逃亡地帯」(66)、「ホット・ロック」(72)、「スティング」(73)、「出逢い」(79)などなどレッドフォードの栄光の足跡がチラリと垣間見れる仕掛けを施したデヴィッド・ロウリーの、師匠へのリスペクトがハンパないのが伝わる。

ちなみに冒頭に字幕で出る、『この映画はほとんど実話である』は、「明日に向かって撃て!」(69)の冒頭と同じの文言である。

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フォレストの仕事仲間の役としてトム・ウェイツとダニー・グローヴァーが「いい味」プンプンで、彼らもまた「楽しんで」演じてるように感じた。
トム・ウェイツは歳を食って、猿っぽさが薄れたか? いや、そうでもないか。
でも、相変わらずのシブさよのぉ。

ダニー・グローヴァーはどんどん「いかりや長介」化しているような。
「リーサル・ウェポン」の5作目は結局どうなんのかね?

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ロバート・レッドフォードが引退なんてことは、実はアッシは信用していない。 いや、信用したくないのだ。

クリント・イーストウッドだって、それらしいことを言いながら戻ってきた。
スティーヴン・ソダーバーグも、ケン・ローチも、宮崎駿も。
あっ、そうそう。 大仁田厚も。

帰ってくる。 必ずロバート・レッドフォードは帰ってくる。
なぜなら。
彼は型にハマらないアウトローだからだ。


「賢人のお言葉」
 「人生を楽しむ秘訣は普通にこだわらないこと。 普通と言われる人生を送る人間なんて、一人としていやしない。 いたらお目にかかりたいものだ」
 
アルベルト・アインシュタイン

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他にもこれ観ました 7月編 Part2
2019年08月06日

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「ゴールデン・リバー」

「君と歩く世界」、「ディーパンの世界」のジャック・オーディアール監督が4人のハリウッドスターを迎えて描くサスペンス西部劇。
2018年のヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞し、セザール賞でも4部門にノミネートされています。

1851年、オレゴン州。
一帯を仕切る提督から依頼された殺し屋、イーライ(ジョン・C・ライリー)とチャーリー(ホアキン・フェニックス)のシスターズ兄弟は連絡係のモリス(ジェイク・ギレンホール)が追うウォーム(リズ・アーメッド)という男を始末することになる。
ウォームは科学者で、川の中の黄金を見分ける化学式を発見したので、それを聞き出して殺せというのだ。
兄弟は二人を追うが、モリスはいつしかウォームの語る理想郷に魅せられ仲間になっていた。
そして兄弟もまた別の追手に対抗するために二人と手を組むことになる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
殺し屋の兄弟。 連絡係の男。
ターゲットは黄金を見分ける薬品の化学式を見つけた男。
それぞれの思惑が絡み、4人がやがて交わる時に生まれるドラマの意外性が魅力。 
殺し屋と仲間の寝返りと一獲千金といった要素が出てくれば自ずと血生臭い展開になってもおかしくないのですが、ふたを開ければ欲望とは違う「良き人生」を切望する男たちの真摯な心に迫る物語になっています。

引退して普通の家族を持ちたい兄ジョン・C・ライリーと、裏の世界でのし上がりたい弟ホアキン・フェニックスの兄弟の人間描写がことのほか見事で、時に微笑ましく、痛々しくもある兄弟愛がツボを突きます。 歯磨きのシーンはいいですねえ。
この兄弟と、ジェイク・ギレンホールの連絡係の男に秘められた父親の呪縛。 そして、暴力や貧富の差のない理想郷を作りたい思いを語るリズ・アーメッド演じる科学者の男。

この4人が出会って手を組むことになるものの、思わぬ悲劇が待ち構えてますが、そこで突き放してしまわないのが本作の意外でもあり、癒される所。
これはいいドラマだ。
        


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「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」

月の裏側にナチスが秘密基地を建設し、人類を侵略しにくるという「『ムー』の読み過ぎか!」みたいなトンデモSF映画「アイアン・スカイ」は2012年に公開されましたが、決して評判はよろしくなかったはずです。
それがまさかの「続編をつくってみた!」という痛いユーチューバーのようなことをやらかすフィンランドの腐オタ監督、ティモ・ヴオレンソラの悪あがき。

前作はクラウドファンディングで1億円もの寄付が集まったとはいえ、「しょうもないもん作りやがって」とみんなが怒ってないかと気をもんだ監督はそこで遠慮することなく、ダメもとでクラウドファンディングを再敢行。
世の中はなんとハートフルなことか。 1憶5千万という大金がカンパされ、このたびの続編と相成りました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
人類は月面ナチスとの戦いに勝利するも、核戦争で自滅し、地球は荒廃。
それから30年後。 人々はナチスが月面に作っていた基地で生き延びていたが、エネルギーが枯渇し絶滅の危機を迎えていた。
前作のヒロインにして、今や基地の指揮官レナーテには娘がいた。 基地の機関士をしているオビである。
彼女は荒廃した地球の深部にエネルギー源があることを知り、人類を救うため、誰も足を踏み入れたことのない『ロストワールド』へと旅立つ。
しかしそこはナチス〈第3帝国〉のヒトラーが率いる秘密結社ヴリル協会が君臨する世界だった・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
前作は7年も前で、「はて?どんな内容だったっけ?」とすっかり忘れてしまっていたほど、記憶にかすりもしない映画でした。
今回の続編も予告編観てるだけで「バカバカしいなあ」と思っていたのに、気がつけばムビチケを買っておりました。
どうやら予告編映像の中に思念をコントロールするサブリミナル的なカットか音声が仕込まれていたに違いないとアッシは思いました。
「ナチスの仕業だな・・・」
いいだろう、貴様らの陰謀を暴くためにここはあえて観てやろうじゃないか。 虎穴に入らずんばコジルリに会えず。

で、観てみたけど・・・ しょーもな!という予想通りの映画。
確信的にバカバカしさを狙ってるんだろうけど、アメリカとは違ってユーロのB級コメディは変な所でクドかったり、ここという時に中途半端だったりする。
歴史上の有名人とかがクリーチャーになって一杯出てくるけど、あんなにいらんて。
スティーブ・ジョブズ&アップルのネタをもっとイジってほしかったなあ。
        


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「シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢」

注:シンクロナイズド・スイミングは「アーティスティック・スイミング」に名称が変わりましたが、ここでは便宜上「シンクロ」ということで。

男子シンクロに挑む中年オヤジたちの奮闘を描いたヒューマンコメディの本作は本国フランスで予想外の大ヒットを記録し、今年のセザール賞では9部門11ノミネートを果たしました。
タイトルの英題「Sink or Swim」とは直訳の「沈むか、泳ぐか」ではなく、「イチかバチか」という意味で使う言葉だそうな。

人生打開を目指すダメオヤジたちの挑戦というストーリーだけで、なんとなく最初から最後まで予想がつきそうなストーリーですがまさにその通り。
でもみんなキャラが個性的で面白い。

×2年間無職のまま昼間からゲーム三昧のベルトラン。
×妻子と別れた上に、すぐに何かとブチ切れるロラン。
×41歳独身で恋愛経験皆無のコミュ症ティエリー。
×まったく売れないのに夢を捨てれないロックミュージシャン、シモン。
×経営してる会社は倒産寸前、現実を直視できないマルキュス。
×仏語が苦手の無口でマジメなアフリカ系、アヴァニッシュ。
×緊張感ゼロのゆるぐだ野郎、バジル。
「ポンコツ!」、「クズ!」とひっきりなしに罵声を飛ばす2番目の女コーチ、アマンダや、後からメンバーに加わる肺活量抜群の介護士ジョンも面白かったですね。

劇中に流れる80年代のナンバーがツボでして、オープニングから「ルール・ザ・ワールド」を持ってこられると「あっ、この映画はこの手の歌がたくさん流れるんだろうな」と勝手にワクワクしてしまいますね。
予告編でさんざん流れていたブロンディの「コール・ミー」はシンクロ大会の本番で使うんだろうなと予想してた方は多いでしょう。
「イージー・ラヴァー」で来るとは意表を突かれました。
        


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「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」
 
無題 re P:「ピーター・パーカーです」 
spiderman-farfromhome-trailer-happy-plane-700x292.jpg H:「ハッピー・ホーガンです」

H:「ピーター、夏休みだからって羽目を外すなよ。 MJとチョメチョメでチョメチョメしながらチョメチョメばっかりやってたらチョメチョメがチョメチョメになるからな。 気をつけるんだぞ」
P:「ハッピーさんこそ、メイおばさんとチョメチョメをチョメチョメにしてチョメチョメからチョメチョメにするとチョメチョメなことになるから気をつけてね」
H:「なるほど、よく分かったよ」
P:「ホントかよ」
H:「それはそうと。 今度の映画でマーベル・シネマティック・ユニバースのフェーズ3は終了だ。 ご苦労だったね」
P:「ありがとうございましたハッピーさん。 これからもハッピーさんは僕の胸の中で生き続けるでしょう」
H:「勝手に殺さんでくれよ」
P:「だけども、もう僕の映画は作られないってこと?」
H:「いや、今後も作られる可能性は十分ある。 だから身辺はきれいにしとくのだぞ」
P:「その際は、ぜひとも今までのようにラブコメ路線を維持したピーター・パーカーの青春ドラマを完璧に描き切ってほしいですね」
H:「今回の映画はマジで傑作に仕上がったからな。 これが本来の"親愛なる隣人"の物語のあるべき姿だ」
P:「トニー・スターク師匠亡きあとの使命感に葛藤するドラマも胸が熱い」
H:「そういう意味ではミステリオというヴィランはピーター自身にヒーローとしての生き方に目を開かせる重要なキーパーソンとなった」
P:「さて、問題はニック・フューリーとマリア・ヒルだよね。 あんな超超超どんでん返しをエンドロールでやっちゃうなんてえげつないね」
H:「“エンドロールの後にも映像がございます”って教えてくれてるのに、どうして映画館が明るくなるまで待てん客がおるのかな」
P:「ジョナ・ジェイムソンが出てきた“ミッドクレジット”をソレと思いこんだんじゃないの?」
H:「なんて気の毒な。 今回のアフターエンドロールは座席からひっくり返りそうになったもんな」
P:「結局、ニック・フューリーはスクラル星人の宇宙船で何やってたの? 『さあ仕事だ』って言ってたけど」
H:「私も知らん。 キャロル・ダンバースとはダチだから、そのつながりで何かお手伝いでもしとるんだろ」
P:「ああ、キャプテン・マーベル姐さんか。 きれいな人だったなあ。 MJよりも胸が大きいしなあ。 あの人から誘われたらボク浮気しちゃうかも。 ハッピーさん、どう思う?」
H:「そりゃ私だってオコチャマ体形のMJよりナイスバディのキャプテン・マーベルに一票に入れるがね」
P:「やっぱ、そうだよね。 グフフフ」

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「おまえら、シバくぞ」 

        


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「こはく」

「ゆらり」の横尾初喜監督の幼少時代の実体験を基にした半自伝的ストーリーを故郷・長崎県でオールロケして描き上げた感動作。
幼い頃に突然姿を消した父を求めて長崎の街を捜し歩く兄弟の心の旅。
弟の亮太に井浦新。 兄の章一にはお笑い芸人のアキラ100%こと大橋彰が扮しています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長崎県に住む広永亮太(井浦新)は父が借金と共に残していったガラス細工会社受け継ぎ、どうにか経営を立て直しつつある。
その一方で父と同じように離婚し、二人の息子とはずっと会っていないが、現在の妻・友里恵(遠藤久美子)とは幸せに暮らしている。
だがある日、友里恵から妊娠を告げられた亮太だが、喜びながらも人の父親になることへの不安を覚えずにはいられなかった。

そんな折、母の元子(木内みどり)と暮らしている兄の章一(大橋彰)が街で父を見かけたと言い出した。
仕事もせずにブラブラして、妙な虚言癖のある兄が、いつになく真剣な面持ちで父への恨みを口にしたことが亮太には衝撃的だった。

兄と共に父を捜し始めた亮太は、やがて忘れかけていた子供時代を振り返り、孤独だった母の姿や父の人生に思いを馳せる。
父捜しは思いのほか難航し、また兄が嘘をついているのではないかと亮太が疑いを持ち始めた頃、母が病に倒れる。
「お父さんは優しかったよ」と病床の母はポツリとつぶやいた・・・。
友里恵が無事出産を終えた数ヵ月後、母は世を去った。
その葬式で兄弟は父に関する有力な手掛かりを得る・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
兄弟がまだ幼かった頃に両親が別れた過去の出来事は、兄にも弟にも心に小さな穴をあけ、そのまんま歳月が重ねられて蓄積された父に対するそれぞれの思いがクライマックスで爆発します。
父に捨てられたのではない。 自分たちが父を捨てたのだ。 離婚の話し合いの中で、母の方についていくと。
その記憶がよみがえる時の切なさたるや・・・。
本当はずっと一緒に入られる善き家族だったはずだと思うのだが、なぜこうなったのだろうか。

また昔の頃の「お父さんと二人の子供」に戻ったかのような再会のシーンの一気のワンカットが感情に突き刺さる。
過ぎ去った時間は戻らないけれど、その積み重ねた時間にすべてを赦し癒す力があるはず。

服を着たアキラ100%の意外な芸達者にビックリ。
オーディションで多数の市民キャストが起用されており、長崎県の「すごかぁ」な情熱がヒシヒシ。
ちゃんぽん、カステラ、ハウステンボス。 映画「こはく」。 やべーぜ長崎。
        

 
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「マーウェン」

ロバート・ゼメキス監督の最新作は実在する一人のアーティストの物語。
その名もマーク・ホーガンキャンプ(1962~)。 ニューヨーク出身。

若い時は仕事も結婚も長続きせず。
でも絵が非常にうまかったらしく、アートのセンスはありました。
2008年、マークが33歳の時に彼の人生は大きく変わります。

マークは女性の靴を履くのが趣味でした。
バーでそのことを話すと、5人の男たちに絡まれたあげくにひどい暴行を受け、彼は脳に大きなダメージを負いました。
記憶のほとんどを失い、後遺症に悩まされていた彼は独自のリハビリとして、自分や周囲の人に似た人形を、庭に作った架空のミニチュアの街「マーウェン」に住まわせ、彼らの物語を紡いで写真を撮ることに没頭し出します。
彼の独特な世界観によるミニチュアワールドは大きな反響を呼び、ドキュメンタリー映画で採り上げられ、そして今こうして劇映画にもなったのです。

マーク・ホーガンキャンプを演じるのはスティーヴ・カレル。
つくづく上手い役者ですねえ。

この作品は、マーク・ホーガンキャンプという人物像と内面のみにフォーカスした内容で、彼が心の拠り所とするフィギュアの物語の世界に入り込んでいくシークエンスがストーリーの多くの部分を占めています。
モーションキャプチャで俳優が演じたデジタル映像を3Dの人形に落とし込み、これまで見たことのない「人形7:人間3」のような動きをする3Dアニメが不思議な味わいを出しています。

マークが想像するのは、第二次世界大戦下のベルギーの街マーウェンでマークの分身的存在のホーギー大尉とレジスタンスの美女軍団がナチスと戦う、戦争アドベンチャーロマンス。
大の大人が人形遊び? とは言ってもこれはマークにとって現実世界と向き合う準備をするエネルギーに満ちたオアシス。
裁判所の出廷・・・  はかない恋・・・
希望は試練の先にある。 戦えキャプテン・ホーギー。

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他にもこれ観ました 7月編 Part1
2019年08月03日

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「凪待ち」

昨年は「サニー/32」、「孤狼の血」、「止められるか、俺たちを」の3本。
今年もすでに「麻雀放浪記2020」を発表し、ここにきてかなりのペースで作品を撮りまくっている監督・白石和彌。
最新作は香取慎吾と初のタッグを組んだヒューマンサスペンスです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
香取慎吾が演じるのは定職にも就かず、ギャンブルに明け暮れるろくでなしの男・木野本郁男。
ギャンブルから足を洗って、恋人の亜弓(西田尚美)と彼女の娘・美波(恒松祐里)と共に亜弓の故郷である石巻にやってくる。
そこで近隣に住む小野寺(リリー・フランキー)という男のの口利きで小さな印刷工場で働き始める郁男。
しかし、工場の同僚とともにノミ屋連れられてきたのがきっかけで、辞めていたにも関わらず郁男は再び競輪にのめり込むようになっていく。

ある日、亜弓とケンカして家を出て行ってしまった美波を郁男が捜しまわったすえに見つけるが、その夜遅く、亜弓が防波堤の工事現場で遺体となって発見される。
郁男は亜弓と一緒に美波を捜してる時に、つい口論になって車から亜弓を降ろしてしまったことを悔やんだ。
自分のせいで亜弓が死んだという思いから自暴自棄になっていく郁男の日常はさらに荒んでいく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
白石監督のカラー全開で描く、めんどくさい奴のジタバタ人生劇。
殺人事件の真相がどうのこうのは重要ではありません。 キャッチコピーがよくないですね。 いい映画なのに。

ギャンブルに狂った男が転落していく見本のようなドラマが中心であり、一見荒っぽい描写に満ちあふれた内容にも見えますが、一方では、それぞれの事情で人生に行き詰まった人たちがまた前へ進むための凪を待つ心情を静かに見つめた物語でもあります。
堕ちていく人・・・ 立ち直る人・・・ 支える人・・・ 支えられる人・・・
嵐はいつか去る。 人生の海原で凪を待つ人の哀歌。

「ジャニ圧」って本当かどうか知らんけど、実際この映画も大きく宣伝してないよね。
でも慎吾ちゃん、がんばってますよ。
        


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「ピアッシング」

作家・村上龍が1994年に発表した同名小説がアメリカで映画化。
殺人衝動を持つ男と自殺願望を抱く女の一夜を描くサイコスリラーで、監督はインディーズ界の新鋭、ニコラス・ペッシェ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ベビーベッドで眠る幼い我が子をアイスピックで刺したくて刺したくてたまらん男、リード(クリストファー・アボット)。

刺しちゃおうかなあ、どうしようかなあ。 
いや、いかんいかん。 そんなことしちゃダメだ、でもしたいんだ。
どうするどうする、どうする俺。 やるしかない、やるしかない、やるしかないぞ俺。
そうだ。 娼婦を殺そう。 よおし、そうしよう。
やっぱりSM嬢がいいな。 
ホテルにSM嬢を呼び出して、やって来た女はジャッキー(ミア・ワシコウスカ)と名乗った。
シャワーを浴びたい? どうぞどうぞ。 
・・・・・・・・・遅いな。 遅い、遅いぞ。 プランが崩れるじゃないか。
どうした、ねえちゃん、開けるぞ・・・
シャワールームの中でジャッキーは自分の足にナイフを突き立てて、血だらけになっていた。
なにやっとぉーん!!!
止めても、ジャッキーはワメきながら自分を傷つける。
ジャッキーを病院に連れて行って治療し、俺たちは彼女のマンションに行った。
なんだか彼女といいムードになってきたが、俺はどうしても彼女を殺したくてたまらんのだった。
よおし、やるぞ・・・と思ったら俺の体は動かなくなった。
食事の中にジャッキーが妙なクスリを盛ったらしい。
この女、いったい・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
村上龍の本は過去に2作読んだだけでアッシにはイマイチ合いませんでね。
でも、人を殺したい男と死にたい女の話というシチュのこの映画にはちょっとそそられたので地雷覚悟で拝見しましたが・・・
世間の評価はお高いようでございますが、この映画に関してはアッシの完敗。
何でだろうかね? 映像や音楽はユニークだけども、なぜか話はすっげー退屈。
妄想と現実の境目がどうのという語り口のペースが最後まで合いませんでしたね。
        


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「X-MEN:ダーク・フェニックス」

1463047534-james-mcavoy-charles-xavier-x-men-apocalypse.jpg プ:「プロフェッサーXです」
tumblr_pqlt1sFrYW1xu3115o1_400.jpg マ:「マグニートーです」

プ:「マグちゃん、聞いた?」
マ:「どしたん?」
プ:「今のキャストで展開されてる「X-MEN」のシリーズな、本作をもって一応終わりやねんて」
マ:「ほんならもう俺ら仕事減るな。 どないする? 闇営業でもするか?」
プ:「今、一番まずい時やろ」
マ:「そやな」
プ:「それしてもジーン・グレイ、えげつなかったな」
マ:「アホほど強いな。 あんなもん誰も勝てんぞ」
プ:「元はと言えば俺が悪いねんけどな」
マ:「そやな」
プ:「いや、フォローするところやぞ」
マ:「せえへんわ。 みんなプロちゃんが悪いんや。 ミスティークが死んだのもプロちゃんのせいや」
プ:「ミスティーク死ぬのは予想外やったな」
マ:「俺のカノジョ候補がおらんようなった。 ストームもタイプやないしな」
プ:「ジーン・グレイには苦労ばっかりかけてもうたなあ。 優しさを伝えるのは難しいもんや」
マ:「だいたい今度のヴィラン、なんやねん。 エイリアンやなんて聞いてへんぞ」
プ:「エイリアンはズルいよな。 そもそもX-MENの世界観やあらへんわ」
マ:「ジーン・グレイもそうやけど、手に負えん奴ばっかりや。俺らも含めて他はみんな引き立て役になってしもたな」
プ:「とにかく、ジーン・グレイすご!で終始したな」
マ:「彼女の葛藤のドラマも一応あるにはあるけど、なんやイマイチ刺さらんな」
プ:「そら、あれや。 新シリーズになってからのジーン・グレイは特に掘ってきたキャラちゃうもん。 「アポカリプス」で初めて出てきて特に今後が気になるみたいな扱いでもなかったのに、急に今回バリバリの主役にしても観る方も戸惑うわ」
マ:「回想シーンに頼ってるだけじゃ、キャラクターに厚みは出んわな」
プ:「第一な、前シリーズの「ファイナルデシジョン」でもジーン・グレイの話はやってもうてるしな。 それまでの積み重ねがあるからウルヴァリンとの絆が感動できたわな。 どうしてもあれと比較してまうし、やっぱり作品の力としては弱いわな」
マ:「最期はまさか俺とプロちゃんがあれほど仲良くなるとは」
プ:「俺、知らんまに引退させられてたぞ」
マ:「ウケたな。 でもプロちゃん、ガチで仕事なくなったな。どうするよ」
プ:「そやな、吉本でも入ろか」
マ:「そらええわ」
プ:「ええやろ」

        


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「新聞記者」

若き女性新聞記者とエリート官僚の対峙を通して、権力とメディアの裏側をリアルに描く社会派サスペンス。
官僚記者会見で鋭い質問を投げかけるジャーナリストとして知られる東京新聞記者・望月衣塑子の同名ベストセラーが原案で、監督は「青の帰り道」の藤井道人。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
東京新聞社会部の若手記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)。
ある日、彼女のもとに「医療系大学の新設」に関する極秘文書がファックスで届く。
首相肝いりの案件らしいが、誰が何のために送ってきたのかは分からない。
許認可先の内閣府を洗い始めた吉岡は、神崎(高橋和也)というキーパーソンの存在に気づくが、まさにアプローチしようとした矢先、彼は投身自殺を遂げてしまう。
一方内閣情報調査室に勤める杉原拓海(松坂桃李)は苦悩していた。
彼の任務は政権を守るための情報操作やマスコミ工作ばかりだ。
有能な公務員としてひたすら上の指示を遂行してきた彼もまた、外務省時代の尊敬する上司・神崎の死を通じて、官邸が強引に進める驚愕の計画を知ることになる。
内閣情報調査室の冷徹な上司である多田参事官(田中哲司)がかけてくるプレッシャーに苛まれながら、国民のために尽くす矜持の狭間で揺れる杉原。 政権側からの圧力を感じながら、誤報を出すことへの恐怖の中で真相を追う吉岡。
それぞれのキャリアと人生をかけた二人の選択とは・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
首相の肝いり・・・ 学校新設・・・
はて? どこかで聞いたような?
まあそれはそれとして、このサスペンスで明らかになる政府の恐るべき計画は、あまりにも突飛過ぎるというか、およそ日本らしくない、テロ支援国家のような一大陰謀。 ちょっと現実離れしすぎてるんじゃ・・・

むしろこの映画での攻めているポイントは「内閣情報調査室」、通称「内調」のハッキリとは知られていない実態に踏み込んでること。
政権を安定させるために世論をコントロールするのが主人公・杉原の勤める部署の任務。
都合の悪い問題から世間や野党の目をそらさせるために、わざと元官僚のスキャンダルをねつ造したり、マスコミに誤報を打たせる罠を仕込んだ情報をリークしたり、ネットのスレにあることないことの書き込みをしまくっては世論を誘導していく。
本当にこんなことやってんだろうか? 陰湿な仕事!

政権を守るためには手段を選ばぬやり方に対して己の正義感と葛藤していた杉原は恩師の自殺をきっかけに女性記者と共に真相を探り、やがて人生最大の決断を迫られることになります。
妻と生まれたばかりの子供がいる自分の家庭を犠牲にしなければならないかもしれない。 いや、それとも国民に対して本当のことをさらけ出すか。
彼がどう決断したかは分からないまま映画が終わるのですが、う~ん・・・・果たしてこれはどっちなのか・・・。
・・・・・・
ブルートーンで描かれる内閣情報調査室の描写が不気味だけど、参事官役の田中哲司の顔がコワすぎだ!
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「そりゃ悪かったね」

        


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「ハッピー・デス・デイ」

誕生日に殺されるヒロイン。
しかし殺された瞬間にハッと目覚めたら、また誕生日の日の朝に逆戻り。
同じ日を何度も繰り返しては、何度も殺されるという激クソなタイムループにハマり込んだ女子大生の闘いを描く新感覚ホラー。

「ラ・ラ・ランド」の“緑のねえさん”、ジェシカ・ローテが演じる女子大生ツリーは性格ブスの判で押したようなビッチ。
人の気持ちなど、なんじゃそーれな自己チューの彼女は男遊びもお盛んでいらっしゃる元気なお方。
前夜のパーティーでかなり派手に酔ったらしい彼女は、よく知りもしないクラスメイトのカーターの部屋で、誕生日の朝を迎えた。
部屋を出て女子寮へ朝帰りし、ルームメイトが作ったささやかな誕生祝いのカップケーキをゴミ箱に捨て、大学に出て、単位欲しさに教授と不倫する。
父親との食事をすっぽかし、夜になってパーティー会場に向かっていたツリーはベイビーフェイスのマスクをかぶった人物に殺されてしまう。
ところが、「あっ、死んだ」と思った瞬間またツリーはカーターの部屋で目を覚ます。
彼女の誕生日である9月18日がまた朝から始まっている・・・。
そしてまた彼女はベイビーフェイスに殺される。 そして9月18日の朝にカーターの部屋で目覚める。 そして殺される。
彼女も分かってはいるが殺される時の場所やタイミングだけが違うのだ。
その日を繰り返す度に弱っていくツリーは、半信半疑のカーターに相談し、殺人を回避しようとするが神出鬼没の殺人鬼に苦戦。
「誕生日=死ぬ日」のスパイラルから果たして彼女は脱出できるのか。
・・・・・・・・・・・・
ホラーではあるのだけれど、一人のクソ女の成長を描く青春コメディになっているところがミソ。
何度も繰り返す同じ日の中で、自分を殺す奴の正体を探りつつ、人と話をし、話を聞くことで、他人に対する自身の言動を省みるようになっていくくだりが意外な感動エピソードも盛り込みながら描かれています。
最初は右往左往するヒロインですが、同じ日の繰り返しを経て、パターンをつかみ、対策も徐々に強化。 次第に殺人鬼よりも立場が有利になっていくのがユニークですね。

クライマックスではベイビーフェイスの正体が二転三転。
しかし、何ゆえにツリーに「バースデー・ループ」の現象が起きるのかは謎のまま。
 
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「ハッピー・デス・デイ 2U」

「ハッピー・デス・デイ」の続編がほぼ同時と言っていいほどの連続公開。
アメリカでは前作(2017)と続編(2019)の間隔が2年ですが日本では2作とも立て続けの公開。
これは結果的に吉ではないでしょうか。

前作でやっとこさ苦労してループから脱け出したツリー嬢ですが、気の毒なことにまたしても同じ災難に巻き込まれます。

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「なんでぇーっ!?」
それはね。 製作者が続編も作ると決めたからです。 以上。

とはいえ、もちろん同じ話をやるわけではありません。
カーターのルームメイトであるアジア系の青年ライアンが、ツリーの経験した「ベイビーフェイスに殺される一日を繰り返す」というループにはまりこんでしまいます。
現在はカーターと恋人同士になったツリーは、相談してきたライアンを救おうとするのですが・・・

実はライアン青年、大学内で仲間と共に「実験的量子反応炉」の研究をしてるほどの秀才。
ところがこの量子反応炉こそがループを引き起こす要因だったようで、ベイビーフェイスの恐怖にパニクったライアンが反応炉を作動させた際のエネルギーパルスのせいで、そばにいたツリーは違う次元に飛ばされてしまいます。
そんなわけで、彼女はまたもや嫌というほど味わった「9月18日」を再び繰り返すことに。

「何さらしてくれとるんじゃ!」 巻き込まれ事故もいいところ。
すでに経験者ですので勝手を知ってるツリーはさっさとベイビーフェイスを倒してやろうと、前回で正体を突き止めた相手のもとへと直行するのですが・・・

なんと、どうやら今いる次元ではベイビーフェイスの“犯人”が違っているらしく、そればかりかカーターは自分の恋人ではなくなっているという設定に。
さらに、すでに他界しているはずの母が当たり前のように生きている!
愛する母と思いがけない再会を果たしたツリーは心が揺れます。

ベイビーフェイスを倒して元の世界に戻るのか、母の生きている世界に留まるのか。
そんな葛藤とツリーが闘うのが今回のストーリーの山場になるのですが、彼女が下す決断は、違う世界を体験したからこそ。


相変わらず二転三転する目の放せない話ですがエンドロールのあとにオッタマゲな展開に。
どえらいスケールになってきたなと思いきや、残念ながら本作のアメリカでの興業成績が芳しくなかったようで、3作目は作られない模様。

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八甲田山 4K デジタルリマスター版
2019年07月29日

320_20190722195620d71.jpg「午前十時の映画祭」は、10回目となる今開催をもってファイナルだそうですね。
経費の負担が相当きつかったらしいですが。

2週間上映を1週間にし、一般料金1100円を少々値上げしたってアッシは全然かまわねえから続けてほしいなあと思ってるクチなんですが、それだったら「映画祭」的な意味合いがなくなっちゃうのかな。
通常興行のリバイバル上映と変わらなくなっちゃいますもんね。

難しいなあ。 残念だなあ。
とは言っても、アッシもそんなに「午前十時の映画祭」の作品をバンバン観に行ったわけじゃないですがね。

何本か観た中では、なんといっても「新幹線大爆破」を観れたのは忘れ難い思い出。
そのことも含めて10年間続けてくださった運営さんには「ありがとおっ!」と声を大にして言いたいです。


さて、春先に発表された「午前十時の映画祭10 FINAL」のラインナップを見た瞬間に、「天は我々を見放さなかったあーっ!」と快哉を叫んだ方も多いでしょう。


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最後の映画祭にして初登場となる本作。 観たかったのですよ、これが。
多分に映画館ではリアルタイムで鑑賞しておらず、後年にテレビ放送で観たのみだと記憶しております。
映画館という空間でこの「八甲田山」が鑑賞できる幸せ。
選定してくださった委員の方々に感謝。

「八甲田山」は1977年の東宝映画で、原作は新田次郎の小説「八甲田山 死の彷徨」。
明治35年(1902年)に冬の八甲田山で雪中行軍の演習中だった日本陸軍の連隊210名中199名が死亡するという山岳史上最大の遭難事件を豪華キャストで映画化した人間ドラマの超大作です。

監督は「日本沈没」の森谷司郎。 脚本は多くの黒澤映画を手掛けた橋本忍。
キャストの顔ぶれがまた、どえりゃあ状態に。

高倉健  自分、不器用ですから・・・
北大路欣也  わしも格好つけにゃあならんですけぇ
三國連太郎  スーさん
加山雄三  若大将
栗原小巻  コマキストを生んだ超絶美女
緒形拳   必殺仕掛人・藤枝梅安
丹波哲郎  霊界の宣伝マン
島田正吾  日本のTVドラマ主演最高齢記録保持者
大滝秀治  本官は・・・
神山繁  ザ・ガードマン
森田健作  よしかぁー君!
秋吉久美子  子供は卵で産みたい
小林桂樹  日本のサラリーマン
前田吟  寅さんの義弟
藤岡琢也  「わた鬼」の大吉さん
東野英心  はっちゃくパパ
下条アトム  エディ・マーフィーの声
大竹まこと  シティボーイズ
加賀まりこ  元祖小悪魔
菅井きん  ムコ殿ぉ~
加藤嘉  山田五十鈴の元ダンナ 
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年代によっては「誰それ?」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、これはなかなかのメンツ。

派手なアクションのある映画ではなく、雪山の中で兵隊さんがヒーヒー言ってるか、部屋の中で誰かが会話してるシーンのどちらかしかない映像の作品でありながら、出てきただけで画が引き締まる人、あるいはセリフを発するトーンで場を支配する口調の役者さんでもって、相当な重厚感と緊張感が醸し出されており、役者のパワーで引っ張ってる大力作と言えるでしょう。

200人近い人数、それも鍛えられた兵隊さんばかりが一辺に犠牲になった痛ましい八甲田山の遭難。
「雪山なめたらいかんぜよ」の教訓話ですが、極限状況で露呈する組織力の意外なもろさも描いている一大悲劇です。


明治35年、日本は朝鮮半島と満州の権益をめぐり、これはいよいよロシアとの戦争は避けられんなというところまで来ていたのでした。
しかし、相手は寒さなど屁とも思わない、元気ハツラツな風の子雪の子ロシア人。
地理的に寒冷地での戦いになるであろうし、そうなったら日本軍にとってはメッチャ不利。
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日清戦争の際にリャオトンで戦った日本兵に凍傷者が続出したことも鑑みて、第四旅団参謀長・中林中佐(大滝秀治)は「日露戦争に備えての寒地教育訓練確立」を目的とする「八甲田雪中行軍」を提案します。
ロシア人と戦うのに「寒い寒い」とは言ってられませんので、雪の八甲田山での行軍訓練で兵士たちを「寒さなんてへっちゃらだぜい」と言えるくらいに鍛えましょうやということです。

弘前第四旅団本部に集められたのは、「青森歩兵第五連隊」と「弘前歩兵第三十一連隊」という二連隊の上官クラスの面々。
五連隊の中隊長・神田大尉(北大路欣也)と三十一連隊の中隊長・徳島大尉(高倉健)は雪中行軍の共同提案者でもある弘前第八師団旅団長・友田少将(島田正吾)から「二人とも、冬の八甲田を歩いてみたいとは思わないか」と提案されます。 まるでツアープランナーみたいな言い方。

これは実質上、命令だと受け取った双方の連隊長、五連隊の津村中佐(小林桂樹)と三十一連隊の児島大佐(丹波哲郎)は、「どうせならお互い、逆方向からのルートを歩いて、途中ですれ違うってことをやろう」と言いだします。 まあ確かに連帯感というか、テンションは上がりますわね。

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実際のところ、やるかやらないかは両連隊に任せるという中林中佐のニュアンスだったものの、なんだかんだと言う間もなく雪中行軍実施が事実上決定。
建さん・徳島大尉北大路・神田大尉はそれぞれの連隊の指揮官に任命され、まずは徳島大尉の自宅で二人は勉強会を行います。

上の者は簡単なように言っていますが、岩木山での雪中行軍の経験がある徳島大尉は雪山の怖さも熟知しており、神田大尉ももちろんこれが難しい任務であることは百も承知。
雪山での心得などの情報を共有し、酒を飲み交わした二人はわずかばかりの間に友好を深め、雪の八甲田での再会を約束して別れたのでした。

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健さん・徳島大尉が立てた三十一連隊の行軍計画は弘前から十和田湖を南側から回り込んで東進し、八甲田を東南から攻めるという、全行程240キロにも及ぶ長い道のり。
なんでこんな遠回りをせなばならなかったのかというと、児島大佐らが「五連隊と合流する」という余計な"イベント"を組んだため。
青森側の西北から直接八甲田に入るコースを取る五連隊と出会うには、三十一連隊は東南側にわざわざ回らなければなりませんでした。

日程は10泊を予定。 距離が距離だけに大人数をゾロゾロ連れて歩くのも無謀ということで、人数をグッと絞って27人という編成に。

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徳島大尉の提出した計画要項に児島大佐や門間少佐(藤岡琢也)らは当然、「27人ってどゆこと?」となります。
「小隊規模にも満たないじゃないか」と。
「小隊」とは30~60人程度の編成部隊。 分隊ほどではないにせよ、こんな少人数では行軍訓練の意味がどうたらこうたらとブーたれる上官に徳島大尉はハッキリと言います。

「このような計画になった責任は連隊長にあります」
すべては連隊長同士で三十一連隊と五連隊との"合流イベント"を安易に口約束してしまったため。
過密日程による無茶苦茶遠回りな距離を行軍するには大人数では危険で、少数編成にせざるを得ません。

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その代わり、兵卒よりも下士官の割合を多くした少数精鋭で行けば、万が一の場合は申し訳が立つと徳島大尉は言います。
「自分は安請け合いしたことを後悔しています。 冬の八甲田は恐ろしい所です」
装備はできるだけ軽量にし、民泊にも頼ることも決めた大尉は部下にルートの下調べや現地での案内人の手配を指示します。

27人を集めての結団式での徳島大尉の訓示はなかなかタメになります。
「水筒の水は満水にせずに七分目までにすること。 絶えず動かしてれば凍ることはない」
「人間の体もそれと同じことで、たとえ小休止でも靴の中で足の指を動かしたり、手袋をはめた指も動かし続けること」

聞いてるだけで、逆に恐ろしくなってきます。 今からそんなところに行くんかい? そんなところなのです。 冬の八甲田はヤバいのです。

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さて片や、北大路・神田大尉が率いる青森歩兵第五連隊。
行程は青森から直接八甲田を攻め、2ヶ所の直営地を経て、三本木(現・十和田市)までのおよそ60キロ。 日程は2泊3日の予定。
人数は小隊規模にすることを決めていた神田大尉ですが、思わぬ横やりが入ります。

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大隊長・山田少佐(三國連太郎)。 このオッサンがすべての元凶といっても過言ではありません。
弘前三十一連隊の行軍距離が240キロ。 それに対してこちらの五連隊は人数が少々多いくらいで距離は4分の1程度。
(うちの方が貧相じゃね?)
なぜか山田少佐は変な対抗意識を持ってしまいました。

うちはもっとスケールでかくやろうよみたいなことを言い出し、行軍本隊の参加人数を196名という中隊規模にした上に、調査のためという目的で大隊の14名が随行するということを勝手に決めてしまうのです。 
大隊長が言うのならそれに従わねばしょうがない神田大尉は、総数210名という大人数に膨れ上がった雪中行軍の見通しに暗い予感を覚えるのでした。

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三十一連隊と比べて距離的に楽そうに見える五連隊のコースですが、実はこちらの方が難所中の難所であることを神田大尉徳島大尉からも聞いています。
2泊3日という日程も実は当初は1泊2日だったのを1日だけ下方修正したもの。 そんなに簡単にはいかないだろうと。 2拍3日でも強行日程なのですが。

行軍前の調査で田茂木野村を訪れた神田大尉は村長の作右衛門(加藤嘉)に、冬の八甲田の田茂木野から田代まで行った経験者はいるかと尋ねるのですが「そんなバカ者はいねえよ」と一蹴されます。
「一度踏みこんだら生きて帰れねえ、白い地獄だ」

それでも靴は軍靴よりもワラ靴がいいなど、装備のアドバイスをもらい、行軍当日、田茂木野まで来た際には道案内を頼むことになるという約束をしたのですが・・・・・

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明治35年1月20日。 
建さん・徳島大尉率いる弘前歩兵第三十一連隊が行軍に出発。

映画をご覧になった方はご存知の通り、最終的に彼らの隊は行軍を成功させます。
一人の負傷者を出しはしましたが、240キロという長い行程を、さして大きなトラブルに見舞われることなく、ほぼ予定通りの日数でコースを踏破しました。
もちろん余裕しゃくしゃくという訳ではなく、終わった頃には、よく生きて帰って来たなというほど、全員が霜まみれの満身創痍の姿であり、それほどの難行を成し遂げたということ。
いや、命令とはいえ、ハナから無謀な行為だったのですが。

地獄の冬の八甲田を制した要因として。
何よりも、少数精鋭での編成であったこと。
万全の防寒対策が周知徹底されていたこと。
道中、民泊を幾度か挟んで体を休め、おごることなく民間の案内人を頼って難所の峠越えを乗り切りました。

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「軍歌ぁーっ! 『雪の進軍』、はじめーっ!」

♪ 雪の進軍 氷を踏んで ここは河やら道さえしれず~ ♪

気合が入りますな。
雪道をただただ足を動かす単純作業。 そういう時に全員揃って歌を合唱するというのは作業効率を挙げる点では効果的(だと思う)。

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宇樽部から中里まで三十一連隊の道案内をした滝口さわ。
演じるは当時23歳の秋吉久美子。

当たり前だけど・・・ 若いっ! そしてカワイイ!
秋吉久美子にもこんな時代があったのですな。 いやこれは失礼。

"シラケ女優"と言われたほど、デビュー当初は愛想もクソもない、心ここにあらずな態度の人でしたけど、この頃は多少丸くなってきた頃かも。
プリップリの若さが弾ける秋吉久美子を拝むだけでも本作は一見の価値あり。

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中里で案内人・さわと別れることになった三十一連隊。
一人の少女が男たちの先頭に立って、危険な道のりを導いてきてくれたことに対して、我らが建さん・徳島大尉は何びとであろうと感謝の念を忘れません。

「気をつけーっ! 案内人殿に対し、頭(かしら)ぁーっ、右ぃーっ!」

日本の戦時を描いた映画は数々あれど、これほどカッコいい敬礼をする軍人さんの姿があったでしょうか。
いや、建さんがシブすぎるのだな。
ペコリとお辞儀をする秋吉久美子もなおカワイイ。

ちなみに、この時点ではまだ三十一連隊はまだ八甲田山に入っておりません。
さわと別れてから、三本木へまもなく辿り着く三十一連隊。
そろそろ出会うはずの神田大尉率いる青森歩兵第五連隊の姿を見かけることなく、徳島大尉は不安にかられます。
その時すでに第五連隊はもう・・・・

八甲田で出会うことを約束し、互いに楽しみにしていた徳島神田
しかし、徳島大尉は八甲田山中の賽の河原にて、意外な形で神田大尉と再会することになるのです。


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弘前三十一連隊とは3日遅れの1月23日に本部を出発した青森歩兵第五連隊雪中行軍隊。
彼らにこの先、地獄が待ち受けてる訳ですが。

確かに距離はさほどではありません。
途中一泊する予定の田代までは20キロくらいのもんです。
しかし、彼らはそこにさえ辿り着けずに遭難してしまうのです。

何が原因だったかというと、弘前三十一連隊とはまったく対照的で、映画を観てれば素人目にも一目瞭然。
そもそも、寒い国のロシア人と戦うために備えて、雪山を歩いて経験しておこうかという、お偉方の発案も短絡的ですが、まあそれはそれとして。

何はともあれ、雪山をナメ過ぎたこと。
いや、神田大尉はナメてなかったでしょう。
すべてはこのスーさん、いや三國連太郎演じる大隊長・山田少佐という、アホ一人が混じっていたのが原因。
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かなりハッキリと悪ものに描かれている山田少佐

まずは、当初小隊規模で雪中行軍をする計画を立てた神田大尉にダメだし。
弘前三十一連隊と比較した上で、五連隊の人数を増やして妙なカッコをつけたがって我を通してしまいます。
行軍の目的が「三十一連隊に勝つ」という、お門違いな方向に変わり、人数を中隊規模にしてなおも大隊が随伴する大所帯に。

おまえ、ただイキりたいだけやんけ。
そう。 軍人の諸刃の刃ともいうべき「面目」が悪い意味で勝っている男なのです。

たかだか2泊3日の数十キロだとナメてかかっていたのでしょう。
好天の平坦な道ではなく、極寒で視界も悪く、足元もおぼつかない雪道だと分かっていても、それでも日数と距離を「三十一連隊と比較」してしまったから麻痺したのではないかと思われます。 うちは全然楽だと。

200人超の集団がゾロゾロと悪条件の中を行軍する。 この大人数がどれほど危険なことか。
雪山に不慣れな人間が混じる割合が増し、ペースが保てなくなり、時間が遅れるのは最初から明白。
中には、ちょっと歩けば田代に着いて、温泉に浸かって美味い酒が飲めると気楽に構え、満足な防寒対策をせずに軽装で来た者も多かったようです。

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にぎり飯が凍ってカッチカチ。 そらそやろ!
笹紙一枚で包んだだけですもんな。

「クッソー! こんなもん食えるかー!」 
気の毒というしかありません。

足元は悪い。 視界は鬼のように悪い。
腹が減る。 疲れる。
こうして集団行動はあれよあれよという間に乱れ出し、ちょっとの距離さえなかなか進みません。

そうして山田少佐の「暴挙その2」。
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田茂木野まで来た時、村長の作右衛門が顔を出します。 「このまえ来た兵隊さんは?」
事前調査の際に、神田大尉が案内人の雇用を依頼していたのですが、山田少佐が対応したこの時はその場に運悪く神田大尉がいませんでした。

「神田大尉が道案内を頼んだと言うのか? 五連隊が案内人など頼むわけがなかろう。 おまえたちは案内料を稼ぐ目的でそんなことを言ってるのだろう。 戦をする者がいちいち案内など頼んでられるか」

「いや、ここから先は案内なしじゃ無理だべ」

「我々には地図と方位磁石がある。 案内などいらんと言ったらいらん」
と言って、作右衛門を帰してしまいます。

バカ! ほんっっっとにバカ!

「お~い、神田大尉」  「どうされました?」
「さっきな、案内料欲しさに「田代まで案内なしじゃ無理だ」と抜かすバカな奴が来てな。 追い返してやったぞ、ワハハハハ」
ワハハじゃねーよ。

呆然とする神田大尉
「じゃ、まあそういうことだから」と平然としている山田少佐は高らかに言い放つ。
「しゅっぱーっつ!」
出発じゃねーよ。

大隊が随行しているとはいえ、行軍とは形の上では無関係の編成組織なので、指揮権は一切神田大尉に一任されているはずでした。
これが山田少佐の「暴挙その3」。
出発した時から何かと口を出したがるような所が見えた山田少佐に、副官の伊東中尉(東野英心)は「一体どっちに指揮権が・・・」と不信を抱いていましたが、ここにきて神田大尉が完全に指揮権を奪われた形に。

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せめて案内人さえいれば・・・・

物資を積んだソリ隊が大幅に遅れ出し、何人かが援護に回らざるを得なくなる。
隊列はほとんどバラバラの状態となる。
神田大尉山田少佐にソリの放棄を進言しますが、少佐は頑として受け入れません。

そうこうしてるうちに完全に道に迷う。 田代まではあとほんの2キロだという所まで来ているのに。
寒さの中を立ち往生。
辛抱たまらなくなった山田少佐「帰営する」と言いだします。

ところが進藤特務曹長(江角英明)が田代までの道を知っていると言いだすのです。 夏の八甲田に来たことがあると。
来たことがある? それだけ?
それを真に受けた山田少佐は帰営の途中にも関わらず、また引き返して田代まで行こうと言い出します。 これが運の尽き。
進路を大きく外れた五連隊は駒込川の峡谷に迷い込んでしまい、ここで完全な遭難状態に。

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朝令暮改と言うんでしょうか。 朝言ったことが夕方に変わるという、指示が二転三転して現場を混乱させる山田少佐は非常に悪いリーダーの見本です。

良いように言えば臨機応変の末の結果論なのでしょうが、過信の上に謙虚さもなく、その場しのぎの指図しかできなかったことが悲劇を生みます。

暗くなって動いてはいけない時に動こうと言い出す。
その逆のパターンもあり、朝まで待っていてはいけない、今動かないとダメだという時に頑固に動こうとしない。
神田大尉の言うことにはことごとく反対し、その上やることなすこと裏目裏目。

過酷な環境と疲労の限界で隊員たちがバタバタと倒れていきます。
中には発狂し、服を脱ぎ出して凍死する者や、勝手に動いては崖から滑落死する者も。

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雪濠を掘るためのシャベルを持った隊員もすでに落伍し、「ここは動ける時に動かないと」と言う神田大尉に対し、「さっきは夜のうちに動いたのが失敗だった」と認めた山田少佐は今度は「朝になるまで待つ」と譲りません。
夜が明けて、天候が回復していてくれたら・・・ 望みはそこしかありませんでした。

しかし。
1月25日の朝。 天候は回復せず。
ここであのセリフが。

「天は我々を見放したぁーっ!」


その頃。
三本木に先に到着したのが弘前三十一連隊である連絡を受けた青森の本部ではようやくここで五連隊の遭難を知ることになります。
一方で三十一連隊は八甲田山に突入し、鳴沢の付近で神田大尉の従卒にして、斉藤伍長(前田吟)の弟である長谷部一等卒(佐久間宏則)の遺体を発見し、徳島大尉もまた第五連隊の遭難をここで察知します。

斉藤伍長は弟を背負って帰りたいと懇願しますが、隊の安全や後先を考えれば置いていかざるを得ません。
のちに救助隊が収容すると諭された伍長は泣く泣く行軍を続けることに。

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徳島大尉は賽の河原にて第五連隊の複数の遺体を発見。
その中に、神田大尉の亡きがらも。

神田大尉は江藤伍長(新克利)に、地元住民の力を借りて救助を要請するために田茂木野まで行かせ、伍長を見送った後、彼は遭難の責任を取って、舌を噛み切って自殺していたのでした。
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徳島大尉神田大尉の死に顔を見ているうちに、まるで彼が労をねぎらってくれてるかのような幻影と対話をするのでした。

ここまでさぞや大変だったでしょう・・・
この先もどうぞ気をつけて・・・


増沢から道案内をしてくれた熊ノ沢部落の4人の男たちに「八甲田で見たことは一切口外してはならない」と諭した徳島大尉は悲しみを押し殺しながら、田茂木野に到着し、遺体安置所で神田の妻・はつ子(栗原小巻)に会います。
そばには神田大尉の遺体が・・・。

実は賽の河原で徳島大尉神田大尉の遺体と対面した日の前日には、すでに神田大尉の遺体は安置所に運び込まれていたのでした。
では、徳島大尉が賽の河原で見たのは・・・・?

神田大尉は約束を守ったのです。 守りたかったのでしょう。
「八甲田で会いましょう」
彼の魂は遺体を収容された後でもその地に残り続け、じっと徳島大尉を待ち続けていたのだと思います。

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「夫は『八甲田で三十一連隊の徳島様に会うのが今回の雪中行軍の楽しみ』と申しておりました」はつ子が伝えました。
それを受けて、「まちがいなく自分は、雪の八甲田で会いました」と告げる徳島大尉

神田大尉の熱き思いに触れて泣きむせぶ徳島。

「男泣き」  ・・・・日本映画界の長い歴史において、これほどグッと来る男泣きを見せてくれる役者はいまだ高倉健ただ一人しか存在せず。
大和民族のDNAを揺さぶる、「日本男児の男泣き」の真髄ここにあり。


ラストは遭難事件から推定60年後といったところでしょうか、杖をついた一人の老人がロープウェイに乗って八甲田山系を見つめるシーンで終わります。
青森歩兵第五連隊第二小隊所属で雪中行軍に参加していた村山伍長(緒形拳)です。 今はすっかりくたびれた老人です。
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彼はあの時、バタバタと隊員が倒れていく悲惨な状況下で、「自分は思い通りに歩く」と言って隊を離れて単独行動に出たのでした。
結果、五連隊の最初の目的地だった田代温泉に辿り着いたのは村山伍長一人だけ。
ただ、彼は凍傷で左腕を失いましたが。

どんな思いで彼は八甲田を見つめているのか。
自分たちは何をして、何を残し、何を得たのか。
戦争でも天災でもないのに多くの若者が命を散らした、あの雪中行軍とは一体何だったのか?

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この映画は原作自体が史実とは異なる点も多く、ほぼその原作通りの映画化なので人間ドラマの部分は創作です。
しかしそれも踏まえた上で、この悲惨な事故の物語は観るものに強烈な衝撃と、やり場のないセンチメンタルをかき立てずにおられません。

雪山の怖さも確かにそうなのですが、集団行動の歯車が狂った時の恐ろしさが、滑稽さも併せながら実にリアルに描かれている所がこの映画の秀でた点です。
こういった、集団行動が頓挫する物語自体が珍しく、それでいて実際の出来事を題材に、こうして人間の愚かな部分をあぶり出した集団崩壊劇を見せつけるこの映画は我々に新鮮な訓示を与えてくれます。
人災と言っていい、この悲劇から反面教師として学べることを多々あります。

自信と過信は紙一重です。
集団のリーダーは無論、自信を持つのも大事ですが、それが過信なのかは本人では気づきにくいのが怖いところです。
もちろん神田大尉はしっかりとした人であり、元凶は力関係を自己制御せずに出しゃばり過ぎた山田少佐にあります。

勉強が不十分なのに、根拠もなく楽観的でいられて、周りにおごり高ぶる。 そんな人物が一人いただけで組織の計画も行動も簡単に瓦解するのです。
決して多い種類の人間ではないですが、チームワークを築くのはチームという形を先に作ってからでは遅く、チームワークに適した人材を選り分けてからでないと、集団の統率は思い通りにいかないのです。
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人数編成や、防寒対策の周知、指揮系統の徹底、案内人の件など、あの時ああしてればというタイミングの悪さも重なり、どんどん状況が悪化していく五連隊。

神田大尉が何もしなかった訳でもなく、倉田大尉(加山雄三)という、冷静で大局的に物事を判断できる人もいながら、安直な発案や計画性の甘さ、自信過剰な男の場あたり的な指示が多くの命を地獄に引きずり込みました。

この物語には、単なるリスクマネジメントのメッセージだけではなく、日本が太平洋戦争へと踏み込んでいった原因、不利な戦況を認めずに泥沼化させた原因、そして戦争に負けた原因が、この八甲田山大量遭難事件の中に集約されているように思えます。

日清、日露と勝って、アメリカをナメてかかった訳ではないでしょうが、負け戦と分かっていても引き返せずに多くの犠牲を出した当時の日本のイケイケドンドンの悪い所が、すでに明治の頃に予兆としてあったということです。

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今回、4Kデジタルリマスターで公開された「八甲田山」ですが、フィルム劣化した名作を甦らせてくれる技術の粋に感謝。

この映画はマジの冬の八甲田で撮影されており、3年に渡るロケは非常に困難を極め、照明効果があまりいい出来ではなかったことをカメラマンの木村大作氏も認めております。
それゆえに逆に迫力が出ています。

キャストもスタッフも必死で作り上げた過酷な作品ですが、実際そのキツさゆえに数名の俳優がトンズラしたそうな。
発狂して裸になって凍死する兵士役の原田君事の顔がこげ茶色に変色するのはメイクでも何でもなく、凍傷寸前の症状だそうです。
健さんも軽い凍傷になったと聞いております。

それほど昭和の日本映画は本気を出したら、えげつない力作を生みだすパワーを持っていたのです。

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「賢人のお言葉」
 
「勇気と力だけがあっても、慎重さを欠いていたら、それは無に等しいということを忘れないでいてほしい」
 エドワード・ウィンパー

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ハウス・ジャック・ビルト
2019年07月21日

T0023953p.jpg鬼才と呼ばれる映画監督は少数派だから言われるかと思いきや、考えてみればけっこういるものだ。

鬼才20傑・・・「( )」は独断と偏見の鬼度
ミヒャエル・ハネケ(鬼鬼鬼鬼鬼)
デヴィッド・リンチ(鬼鬼鬼鬼鬼)
クエンティン・タランティーノ(鬼鬼鬼鬼鬼)
アレハンドロ・ホドロフスキー(鬼鬼鬼鬼鬼)
タル・ベーラ(鬼鬼鬼鬼鬼)
ギレルモ・デルトロ(鬼鬼鬼鬼)
テリー・ギリアム(鬼鬼鬼鬼)
ジョン・カーペンター(鬼鬼鬼鬼)
デヴィッド・クローネンバーグ(鬼鬼鬼鬼)
キム・ギドク(鬼鬼鬼)
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトウ(鬼鬼鬼)
ティム・バートン(鬼鬼鬼)
クリストファー・ノーラン(鬼鬼鬼)
ジョエル&イーサン・コーエン(鬼鬼)
ペドロ・アルモドバル(鬼鬼)
ポール・バーホーベン(鬼鬼)
ギャスパー・ノエ(鬼鬼)
ダーレン・アロノフスキー(鬼)
デヴィッド・フィンチャー(鬼)
フランソワ・オゾン(鬼)

存命中のひと限定で、とりあえず思いつくままに並べて20人で締め切り。
あとからまだまだ名前が出てくる。
要するに、映画監督は意外に鬼才だらけなのだ。

しかし。
鬼才の中でも「こいつイッてるな」というヤバめの奴がいる。
デンマークの生んだ変態・ラース・フォン・トリアーである。
残念ながら彼は「鬼才」の枠に入らない。
鬼才というよりは「奇才」と呼ぶ方がお似合いではなかろうか。
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ともかく観客を挑発する映画を作ることに感しては超一流である。
ワーハッハッハ! どうだ、ムシャクシャ、モヤモヤするだろ!
「おまえになんかこの映画の意味が分からんだろ」って言われてるような嫌な気分だろ! その通りだ!ワーハッハッハ!
そうなのだ。
この監督は、観客を見くだしながら映画を撮っている節がある。

さすがは「ドグマ95」の言い出しっぺだ。
観客の観たがるようなエンタテイメントを外したがるのは何も珍しくはないが、彼の場合はさらに観客の嫌がるようなものを押し付けてくる。
観てて不快な気分になる素材のストーリーを偏執的に語りまくるか、映画として面白いのかどうか自分でも分かっていないままに見切り発車したような、徹底的に実験的なアプローチで貫いたりするようなこともする。

そんな変態、ラース・フォン・トリアーの「ニンフォマニアックVol.1/Vol.2」以来5年ぶりの最新作はまたしても良い子の鑑賞には向かないコンプライアンス無視の毒作である。
前作でセックス依存症の女の波瀾万丈を描いた奇才は、今度は死体マニアの殺人鬼の物語を描く。

◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎

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その夜。
ラース・フォン・トリアーは呑気に屁をこきながら爆睡していた。
世もすっかり深まった丑の刻、ある者が夢枕に立った。

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「おいラース、起きろ。 起きるのだ」

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「う~ん、せっかく気持ちよく寝てたのに・・・あっ!部屋ん中で立ちションは困るよ、坊や」

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「気にするな。 これはただの水道水だ」

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「いや、水道水でも床ビッチョビチョになるし」

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「そんなことより、おまえに話がある」

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「坊や、いま何時だと思ってるんだ」 

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「言っておくが、私はこう見えて坊やではない。 おまえとタメのオッサンだ」

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「だったら、なおさら人の部屋に入り込んでフルチンになっちゃいけないと思うがね」

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「説明しておこう。 私は実はおまえであり、おまえは私でもある」

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「言ってる意味が」

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「私の正体は、おまえの“良心”が目に見える形となって現れた姿だ。 このところのおまえの堕落は目に余るものがある。 おまえの中の良心が見るに見かねて、こうして小便小僧の姿となっておまえの前に馳せ参じてやったというわけだ」

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「これは悪い夢か? それとも私の頭がどうにかなってしまったんだろうか? 夕べはクスリもやってないのに」

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「おまえ今、サラッと怖いことを言ったな。 まあいい、それよりもおまえ。 たいがいにしとけよ」

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「なんのこと?」

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「また、くだらん映画を撮ったな」

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『ハウス・ジャック・ビルト』のこと? え~?心外だなあ。 けっこう評論家のウケもいいんだよ」

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「だろうな。 それはおまえが撮ったからだ。 ラース・フォン・トリアーが撮った映画と聞いた時点で、観客の見る目に自然とバイアスがかかるのだ。 「ああ、どうせ例によってお得意の挑発映画だろ」という色眼鏡をかけて、おまえの映画を観ているに過ぎない。 観終わって不快な気分になれば「さすがラース・フォン・トリアー」となるし、逆にしっくり収まってしまっても、トリアーの映画を理解できたと錯覚を起こしてるだけの話だ」

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「そう言われたってなあ」

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「今度のような映画でも、同じ内容の物をスピルバーグやスコセッシが撮ってみろ。 気でも触れたかとボロカスに言われるだけだ。 おまえが撮った映画だから、おまえらしいデキかどうかを判断されてるだけだ」

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「私にどうしろと?」

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「おまえも昔はこんな映画人ではなかったはずだ。 確かに『イディオッツ』の頃から変な監督だとは思われていたが『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の芸術性は高いし、ドグマ95を提唱した本物志向の姿勢は素晴らしい。 『ドッグヴィル』『マンダレイ』のようなテーマの追求に特化した挑戦的アプローチは他の誰もやったことのない攻撃芸術だ。 ともかくおまえは映画作りにかけては人一倍の向上心があったのだ」

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「そりゃどうも」

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「しかし『アンチクライスト』あたりから陰湿な作品をおまえは連発し始めた。 それも、かなり救い難い内容のものばかりだ。 その頃は心の病を患っていたから致し方ないかもしれぬが、愛や人生や人間そのものを否定する映画への傾倒が顕著になり出したのは明らかだ」

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「私はね、普遍的なキレイごとは嫌いなんだ。 人間なんて本質は薄汚いものさ」

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「まあそうだがな。 ひとつ聞くが、おまえは女性が嫌いなのか?」

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「女性? 人並みに好きだけど?」

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「おまえの一連の作品を観てるとそうは思えんのだがな。 おまえは女性をバカな生き物だという風に見ているだろう? そして女性をサディスティックに蹂躙したがる、一種のフェチのようなものも垣間見える」

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「それはよく言われるよ。 でも私は男だからどうとか女だからどうとかなんて意識してないね。 ただ、撮りたいテーマによっちゃあ、女性を主人公にして話を回す方がやりやすいんだよ。 オッサンよりも女性がワヤな目に遭う方が痛ましさも伝わりやすくて印象に残るでしょ。 テーマを伝える近道でもあるのさ」

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「おもろいことを言うのぉ」

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「おもろいでしょ?」

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「おもろないわ!」

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「なんだよ~」

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「ものは言いようだな。 そんなえらそうなことが通用する映画なのか、今一度振り返ってみようじゃないか」


【第1の出来事】
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それは12年前のことでございました。
ワシントン州の田舎道を1台の赤いワゴン車が走っておりました。
運転しているのは建築技師のジャック(マット・ディロン)という男。
特別に急いでる訳でもない家路への途中、ジャックはパンク修理に四苦八苦している女性(ユマ・サーマン)と遭遇したのでございます。
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どうやらジャッキの部品が折れてしまったようです。 これではパンクの修理はできません。
ジャックは知り合いの鍛治屋が近くにあることを教えてあげました。

女の顔には(私にそこまで歩いていけってか?)と書いてありました。
ジャックとしては、できることなら女を置き去りにしたい気分でしたが、それも気が引けるので仕方なく女を車に乗せました。

鍛治屋へ行く途中も、そこからまた戻る時も、車の中で女はよく喋りました。
女は明らかにシナを作っておりました。
(こういう時って男から誘うもんでしょ。 こんないい女が目の前にいるんだからさ。 あっ、もしかして童貞? やっだー、キショッ!)
分かりやすく顔に出る女のようでございます。
もちろんジャックは女とイチャつく気持ちはサラサラございません。
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鍛治屋に直してもらったジャッキがまた壊れ、再び鍛治屋に戻らざるを得なくなりました。
ジャックは女に関わったことを激しく後悔しました。
女は相変わらずよく喋ります。

「あなた、もしかしたら殺人鬼かも。 そんな目をしてるもの」
まことに無礼な女でございます。
「でも違うわね。 虫も殺せないようなあなたが・・・」

数秒後、その無礼な女は死体になりました。 合掌。
無題 asd
これがジャックの最初の殺人でございます。
ジャックは女の死体を持ち帰り、冷凍倉庫に保管しました。


【第2の出来事】
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ジャックは、ある家を訪ねました。
中年の女性クレア(シオバン・ファロン)が玄関口にまで現れて応対いたします。
自分は警察の人間であると、いけしゃあしゃあと嘘をつきながら部屋の中に入りたがるジャックでしたが、バッジを見せようとしない男を易々と部屋に招き入れるほどクレアもバカではないようです。

ジャックは焦りました。 近所の住人に姿を見られるのも得策ではありません。
しかし、適当な言い訳を並べれば並べるほどグダグダになり、クレアはますます不信を露にいたします。

ジャックはチラリと部屋の中を伺い、リビングに飾られてる写真や表彰状からクレアの、鉄道員である夫が亡くなってまだ間がないことを察します。
抜け目のない男なのでございます、ジャックという男は。

ジャックは作戦を変更。 自分は実は警官ではなく保険調査員であると名乗ります。
年金が増額になるかもという話を持ち出すと、クレアはようやくジャックを部屋の中に案内したのでございました。
外で長々と待たされたことにムカついていたジャックは、すぐさま行動に移りました。
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数分後、クレアは死体になりました。 合掌。

殺人の痕跡を消す細工をし、死体をお持ち帰りしようとしたジャックですが、いざ現場を離れようとすると、色んなことが気になって気になって仕方がありません。
ジャックは潔癖症の上に、強迫性障害を患っていたのでございました。
あそこの指紋は拭き取っただろうかだろうか? 血痕を残してきてないだろうか? 
車に乗り込もうとしては、また家に戻るということをジャックは何度も繰り返しました。

明るいうちに退散するつもりが気がつけばすっかり夜になり、パトロール中の警官に尋問までされる始末。
念には念を入れようとする性格が災いする本末転倒ぶりにジャックは己のバカさ加減を呪うのでした。

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適当にその場をなんとかうまくごまかしたジャックですが、余裕もヘッタクレもござませんでした。
とにかくその場を早く離れるために、シートにくるんだクレアの死体をロープでそのまま引きずりながらワゴン車で逃走いたしました。
プロスペクト通りの倉庫に到着した時には、クレアの顔はのっぺらぼうになっておりました。

ちなみに死体を引きずった血の痕はそのあとに降った激しい雨に洗い流されました。

その後もジャックは殺人を重ね、集めた死体を使って芸術写真を撮ることに熱中しはじめました。
強迫性障害も症状が改善し、ジャックの人生はアゲアゲの絶好調でございます。
ジャックは自ら『ミスター洗練』と名乗り、写真を新聞社に送り付けて世間をざわつかせては悦に浸っておりました。


【第3の出来事】
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ジャックは交際中の女性(ソフィー・グローベール)と幼い二人の連れ子ジョージとグランピーと共にハイキングに出かけました。
3人の母子はさぞ楽しいピクニックを期待していたのでございましょうが、まことにあいにくなことで。
確かにジャックにとっては楽しいイベントでしたが、母子にとっては地獄でございました。

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ジャックは監視塔に上り、ライフルを構え、母子たちを鹿に見立てて射撃を楽しみ始めました。
まさに鬼畜とはこのこと。

一人目の子鹿をズドン。 次いで二人目の子鹿もズドン。
二人まとめて、合掌。

母鹿は呆然とするしかありませんでした。
そんな哀れな母鹿に対し、ジャックは子鹿の死体を蹂躙しはじめました。
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ジャックは死体を人形のように利用して、母親にピクニックごっこを強要しました。
母親が、死体となった我が子の口に食事を運ぶ様をジャックは大いに楽しみました。

屈辱を通り越した地獄を強いられた母親はこのあと射殺されました。 合掌。


【第4の出来事】
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ジャックが次に夢中になっていたのはジャクリーン(ライリー・キーオ)という臆病で神経質な美女でした。
ジャックは彼女に「シンプル」というあだ名をつけて呼んでいます。 おまえは単純な奴だという意味でバカにしたあだ名でございます。

シンプル嬢の部屋に行ったジャックは、自分はこれまで60人も人を殺してきたということを告白いたします。
最初はシンプル嬢も信じていませんでしたが、やがてジャックが新聞を賑わしている殺人鬼『ミスター洗練』であることにようやく気がつきました。
窓の外から警官に助けを求めても酔っ払い扱いされてスルーされてしまいます。
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この日のジャックは、なぜかよく口が回ります。
最低の町、最低の国、最低の世界では誰も救ってはくれない・・・・・
男はいつも犯罪者扱いだ、男に生まれただけで罪を背負っている・・・・・

誰に向かって言っているのか、人生や世を儚んだ恨みつらみがジャックの口からほとばしるのでございました。

ジャックはシンプル嬢のオッパイを御開帳し、乳首の周りをマーカーで円を書きました。
印です。 切り落とすための。
両乳房を胸パッドのように切り落とされたシンプル嬢はその後、死体となりました。 合掌。

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切り取った乳房の片方をジャックはパトカーのフロントガラスにペッタンと貼り付けました。
もうひとつの片方の乳房は有効利用。
手先の器用なジャックは乳房を材料に財布をこしらえました。
乳首がワンポイント刺繍のデザインにも見える、乙な財布をジャックはしばらく愛用したのでございます。


【第5の出来事】
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ジャックのことを女子供ばかり殺す外道とお思いになられるでしょうが、男もそれなりの数を殺しています。
このたびジャックは男を次々とさらって監禁。
集めた5人の男たちを頭が重なるように横一列に台座に固定いたしました。
ちょうどラグビーのスクラム状態のまま男たちが縛られております。

ジャックがやりたいのは、あるチャレンジでした。
連なった男たちの5人の頭を一発の銃弾で貫通させることができるのか?
ある程度距離を取った位置から側頭部に狙いを定めて、ライフルから弾丸を発射して5人の頭に一発で穴を開けてみようという、そこらのユーチューバーよりも断然面白いことをやろうとジャックは考え付いたのです。

しかし、銃砲店で購入したはずの弾丸がフルメタルジャケット弾でないことに気づいたジャックは店主のアル(ジェレミー・デイビス)に怒鳴り込みますが、逆に警察に通報されてしまいます。
どうやら自分が『ミスター洗練』であることがバレたようです。
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時間がありません。 ジャックはトレーラー住まいの狩猟仲間であるS.P.じいさん(デヴィッド・ベイリー)のもとに向かい、怪しむ彼を刺殺してようやくフルメタルジャケット弾を手に入れたのでした。
S.P.じいさんに合掌。

説明が遅れました。
フルメタルジャケット弾とは先端が鋭利に尖った軍用の弾丸のことでございます。
他にも弾丸の種類として、先端がくぼんだホローポイント弾や先端が丸まったソフトポイント弾などがございますが、これらの弾丸は著しく貫通能力が低いのです。
着弾した際に弾丸が変形しやすい形状になっているのは、より相手に痛みを与えるのが目的だからです。

それに比べるとフルメタルジャケット弾の尖った形状は貫通させることを目的とした弾丸です。
この弾丸ならば、ジャックのやってみたいことが実現するのでございます。
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S.P.じいさんのもとに駆け付けた警官を射殺して、めでたくフルメタルジャケット弾を入手したジャックは冷凍倉庫にトンボ帰り。
縛られた5人の男たちが震えてるのは寒さのせいか、それとも刻々と近づく死の恐怖のためか。

さあ、準備は整いました。
ライフルに弾丸をセット。 サイトで照準を定め、あとはトリガーを引くだけでございます。

しかし、ジャックを追う警官たちがすでに倉庫の場所を突きとめて、今まさに踏み込もうとしているのでございました。

     

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「これが大まかなストーリーの流れでおます」

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「もちろん、連続殺人の有り様を並べ立てただけの映画ではないが、相変わらずおまえのやり方は理屈っぽいな」

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「アートですよ、アート。 人間のマニアックな思考を音楽や絵画などの芸術的アプローチで解体してみるのが私のアートなんですよ」

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「引越センターか、おまえは。 アートアートアートアートアート・・・・・ フン、屁理屈をならべるには便利な言葉だよ、まったく。 確かにな、主人公の異常心理を掘り起こしていく語り口はかなり興味深い。 『こういうのが好き』っていう観客が少なくないのも分かる気はする」

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「そうなんですよ。 強迫性障害を抱えていた天才ピアニストのグレン・グールドの映像を挿し込んだり、デヴィッド・ボウイの「フェイム」をバンバン流したり、ボブ・ディランの「ホームシック・ブルース」をパロったり、とにかくジャックというシリアルキラーの心理そのものにをより興味を持ってもらえるようにしたのさ」

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「おまえの好きなものを散りばめたのだろう? 自分自身の反映でもあると言いたいのか?」

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「私だけじゃなく、人は誰でもシリアルキラーになる下地を持っているのさ。 好きなことへのこだわりや、嫌悪するものへのこだわりという偏執性がさらに狂気を増し、禁欲性が取り払われた時、人は容易く、ためらわず周囲を攻撃する。 それは人間誰しも持っているパラノイアなのさ」
 
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「ジャックが家を建てようとするが、結局完成しないな。 そうして出来上がるのは死体製ハウス。 究極の欲望遂行だが、趣味が悪いにもほどがある」
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「人を殺す行為というのは、人間が一段階ステップを上がる、一種の隠された進化でもあるのさ。 その行為に芸術性を追及する者が出現する時、我々はそこに神の姿を見るのさ」

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「おもろいことを言うのぉ」 

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「おもろいでしょ?」

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「おもろないわ!」

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「またかよ~」


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「劇中何度か、ジャックと会話をし、クライマックスには本格的に登場する謎の老人のヴァージ(ブルーノ・ガンツ)のことを聞こう」
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「ヴァージってのはね、ダンテの「神曲」に登場するローマの詩人ヴェルギリウスのことさ。 ジャックを地獄に案内してたでしょ。 ジャックはつまりダンテ。 ジャックもまた芸術家ということだね」

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「なんだおまえ、「神曲」みたいな芸術作品、俺にも描けるぜってことをやりたかったのか? それともやっぱりキリスト教にコビってるのか?」
 
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「単なるジャックの死に対する知的欲求だよ。 人を殺してアートにしてきた男が、どうせ自分は死ぬ時は地獄行きだろうから、その時どんなアートな死に方をするんだろうなと考えた先に、問答の形で導いてくるのがヴァージという幻影さ」


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「非現実的な世界観を挿入したのは「アンチクライスト」「メランコリア」でも見られた終末描写と似通っているな。 この物語はのっけからヴァージと会話をしていることからジャックの回想という形式なのだが、現実のジャックは絞首台の上に立っているという見方ができる」

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「もうすでに死者になってるという見方でもいいよね」

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「確かにな。 それに劇中で描かれる殺人の告白の真偽さえ怪しい」

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「彼の妄想だと?」


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「そうだ。 彼は実は誰一人として殺してはいない。 次々に描かれる殺人は、家を建てたかった男の、"こんなふうに家を建てたい"という願望の満たし方を「殺人アート」という歪んだ形で妄想したものだ」
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「つまり、“家を建てたい男”というのは実はメタファーではなく、そっちが本筋で、殺人描写がメタファーであるという逆の考え方?」

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「最初のユマ・サーマン演じる女がジャックを「虫も殺せない男」と値踏みするのは間違っていないのだ。 タイヤがパンクして困っている女を車に乗せてやったまでは現実なのだ。 だがあれほど侮辱されても彼は何もできなかった。 ジャッキで顔面を殴るシーンは妄想だ。 それ以降の殺人も全部妄想だ」

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「そりゃいくらなんでも飛躍してるよ」

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「ユマ・サーマンや“3番目”のソフィー・グローベールらの被害者のキャラクターにハッキリとした役名が付いていない。 “4番目”のジャクリーンは“ジャック”の変形であり、わざわざ“シンプル(一般人)”とニックネームを付けたのも現実のことではないことの証だ」

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「クレアとか、子供たちのジョージやグランピーは?」

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「グランピー(イライラする)って変な名前だと思わないか? 多分にな、ジョージもグランピーも、かつて家で飼ってた犬か猫かのペットの名前であって、“2番目”のクレアと鉄道員の夫のグレンという故人はジャックの両親だと見た。 彼は両親から追い出されたか、それと似たような経験をしており、家の外で長々と待たされるエピソードはそのことを示唆している」

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「すげえ想像力」

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「“5番目”のフルメタルジャケット弾の生贄にされる5人の男は、学生時代か会社の同僚か、いずれにしても彼にとって思い出したくない嫌な人物なのだ」

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「すると、どういうことに?」

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「ユマ・サーマンにバカにされたままジャックは帰宅した。 いや、その足で湖に向かった。 建築家として自信を失くした彼はそこで入水自殺したのだ。 家を建てようとしたり壊したりするシーンで、「何でそんな場所に家を建てるのか?」が気になったが、あの湖にはジャックの死体が沈んでるのだ」
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「作った私が言うのもなんだが、シリアルキラーの話じゃなくて、メンタル激弱の建築士の妄想話だったとはガッカリだな」

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「言っただろう。 私はお前の“良心”なのだ。 おまえの好きそうな救い難い話なんぞ私には興味の外だ」

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「まあ、見方は人それぞれさ。 私はね、常に「こんな映画、今まであったか?」と人に驚かれたいのだ。 それが私の目指す「映画職人道」なのさ。 そして人間の闇の心理に目を背けずにまじめに考えたいのだよ。 うつ病を患った自分からすればね」

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「よかろう。 今回の映画は駄作だと断じることはできない。 が、傑作でもない。 周囲に媚びないおまえのポリシーは認めよう。 常にセンセーションを巻き起こさねば、それはそれでラース・フォン・トリアーではない。 これからもその調子でマイウェイを突き進むがよい」

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「ありがとうごぜえやす」


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「おやすみのところを邪魔したな。 ゆっくり寝グソでもひねって惰眠をむさぼるがよいぞ」

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「あのぉ・・・ すいませんけど」

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「なんだ?」


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「床がビッチョビチョなんですけど、ちゃんと拭いていってもらえませんかね」

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「知るか、ボケ」

◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎

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「賢人のお言葉」
 「お前の道を進め、人には勝手なことを言わせておけ」
 ダンテ・アルギエーリ

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