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クリード 炎の宿敵
2019年01月20日

T0023215p.jpg不朽の名作「ロッキー」。

アカデミー賞では9部門にノミネートされ3部門を受賞。
シルベスター・スタローンを一躍スターダムに押し上げた完全無欠のボクシング映画にして極上の人間ドラマは、その後、5本の続編が製作された。
なんやかんや言われようとも、どの作品も好きである。

「2」でライバルのアポロ・クリードを下してチャンピオンとなり、「3」で師匠のミッキーを失い、一度敗れたクラバー・ラングを倒してロッキーはチャンピオンに返り咲いた。

そのパート3公開から4年後の1986年。 バブルの足音がそこまで来ていた時代。
「ロッキー4/炎の友情」が公開され、本作はシリーズ6作中最大のヒット作となった。
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キャリア絶頂のロッキーにソ連のボクサー、イワン・ドラゴが挑戦状を叩きつける。
しかし、一度引退していたアポロが復帰してエキシビジョンマッチでドラゴと闘うも、凄まじい破壊力を誇るドラゴの強打にアポロは圧倒される。
セコンドを務めたロッキー「絶対止めるな」と言って闘いを続けたアポロドラゴに打ちのめされてマットに沈み、ロッキーの腕の中で息を引き取った。

ドラゴの挑戦を受けたロッキーは、ファイトマネーなしの非公式戦、敵地ソ連での試合という悪条件をすべて呑んでまでアポロの無念を晴らすことを決意。
ソ連に乗り込み、厳しい自然に囲まれた山岳地帯でトレーニングを積んだロッキーは、最新鋭の科学技術で肉体を磨きあげたドラゴと決死の対戦に臨む。

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どうだ、この分かりやすさ。
シリーズの中では最もドラマ性を省き、ヒーローが敵と戦うというお子様でも分かるシンプルな両極構造で、徹底したエンタメ路線に走った内容である。
大ヒットはしたものの、批評家はこぞってディスり倒し、最低映画を決めるラジー賞では5部門を受賞するという不名誉を頂戴する羽目となった。

当時はまだ得体の知れない閉鎖的な国だったソ連の描写にまで踏み込み、ゴルバチョフ書記長っぽい人まで登場させて、試合終了後、ロッキーに拍手を送るということまでやらせた。
「誰でも変われるんだ」というロッキーのマイクパフォーマンスも政治的で、それが良いか悪いかは何とも言えない。
まあ、スタローンはゴリゴリの共和党派だし。

時のアメリカ大統領レーガンは本作を小躍りせんばかりに大絶賛し、ソ連のメディアは青筋立てて非難した。
そのソ連は、この映画公開から5年後に国家が崩壊することになる。

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なんやかんやで未だに賛否両論あるのは無理もないとは思うが、それでもアッシは「ロッキー4/炎の友情」も全然大好きだ。
これほど分かりやすいシンプルな悪役が出てきて、少年ジャンプ的な「対決ものエンタメ」に寄せたバージョンがあったって全然いいじゃないかと思うが。

ただ、この映画以降スタローンは公私ともに低迷ゾーンに突入してしまう。
共演したブリジット・ニールセンとチョメチョメして、下積み時代を支えたサーシャ夫人と離婚。 ニールセンと結婚するも一年半で別れることに。
仕事の方も、出る映画出る映画、ことごとくコケまくり、「ランボー3/怒りのアフガン」(88)でさえ期待ほど稼げず、批評家からこき下ろされた。

ようやく93年の「クリフハンガー」で巻き返すが、思えばブリジット・ニールセンのことと言い、批評家ウケが悪くなった癖がついたのも、この「ロッキー4/炎の友情」こそ運命の分かれ道だったような気がする。

なんだか「ロッキー4」の話ばかりになってしまっているが、本題である「クリード 炎の宿敵」はそれを抜きにしては語れない作品なのである。

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ロッキー・バルボアが完全に一線から退き、「ロッキー」シリーズに一応のピリオドが打たれて、新たなる新章に突入。

アポロの息子アドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)が父のライバルでもあったロッキーに師事しながらボクサーを目指すと共に、己のアイデンティティを見出す物語「クリード チャンプを継ぐ男」。
2015年に公開された正統派続編と言っていいスピンオフ作品は絶賛の嵐を巻き起こし、スタローンにゴールデングローブ賞をもたらすなど高い評価を得た。

ロッキーのいるところ常に「学び」がある。 ロッキーが口にするすべてが「教え」。
男のハートに強烈なストレートを叩きこんだ傑作から3年。
続編となる「クリード 炎の宿敵」は、「ロッキー4/炎の友情」の流れを汲む熱き物語である。

「ロッキー」シリーズを知らずして「クリード」のシリーズを観る人はおそらくいないと思うが、少なくともこの「炎の宿敵」は「ロッキー4」を観ていない方にはかなりのビハインドになるのでご注意を。

【ネタバレあり】
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前作から3年。
WBC世界ヘビー級タイトルマッチのリングに立ったアドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)。
相手は前作で、父の形見のマスタングを賭けたスパーリングでアドニスがボッコボコにされたダニー・ウィーラー。

大一番を前にロッキー師匠の語録が炸裂する。
「リングへの階段は3段しかない。 たった3つだ。 だが今夜は山にように高い」
「おまえがリングで証明するのは誰かのためか、それともおまえ自身のためか?」


リッキー・コンラン戦を経て、ロッキー師匠の教えのもと、着実に成長してきた油ノリノリのアドニスは見事ウィーラーを撃破。
「マスタングを返せー!」

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実はもうひとつ、アドニスが挑まねばならない“タイトルマッチ”があった。
プロポーズである。

ここまで自分を支えてきてくれた恋人のビアンカ(テッサ・トンプソン)に対し、ここらで男としてのケジメをつけようとアドニスは決心する。
しかし。 ボクシングとはまた勝手が違う。
一体どんな言葉でキメたらいいのか、いいアイデアが浮かばない。

「ロッキーの時はエイドリアンになんて言ったんだよ?」
「う~ん・・・・確か冬の公園で。 俺みたいなので良かったら・・・とかなんとか・・」
アドニスは内心、(うわ・・・ サブっ!)と思ったかどうか・・・。

ここでまたしてもロッキー師匠の語録が炸裂。
「頭で考えるな。 心で話せ」

何はともあれ、アドニスビアンカにプロポーズし、「イエス」の返事をいただく。
しかも、奥さんオメデタ! 女の子ですってよ。 名前も「アマーラ」にすると決めてるのだ!
世界チャンピオンになるわ、嫁はもらうわ、まもなくパパになるわと、盆と正月とゴールデンウイークが肩を組んでやって来たようなハッピー真っ盛りのアドニス
しかし、その頃・・・

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ロッキーの営む店「エイドリアンズ」に、猛烈に目がすわったデカいオッサンが来店。
彼こそ、30年以上も前にロッキーとグローブを交えた因縁の相手、イワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)。 

ここで、さわやかなスポーツマンならあの時のお互いの健闘を讃え合い、思い出話に花を咲かせるのだろうが、残念ながらドラゴはそんなキャラではない。
口を突いて出てくる言葉は恨み節のオンパレード。

「おまえのおかげですべてを失った」
「遠い昔のことだ」
「俺には昨日に思えるがな」


ドラゴロッキーに敗れ去ったあと、ドツボを絵に書いたような人生を強いられた。
妻に去られ、息子と共に国を追放されたドラゴは現在、ウクライナの安アパートで息子と暮らしている。

「ロシアでは今もロッキーは英雄だが、ドラゴの名前は誰も口にしない」

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さて、ドラゴが何ゆえにアメリカにいるのかというと、アドニス・クリードに挑戦しにきたからだ。
もちろん本人ではなく、息子がである。

息子のヴィクター・ドラゴ(フロリアン・“ビッグ・ナスティ”・ムンテアヌ)は親父の指導で鍛えに鍛え抜かれ、今や鬼級の強さを誇るボクサーとなっていた。
ウクライナでヴィクターの試合を観て、ソロバンをはじいたプロモーターのバディ・マーセル(ラッセル・ホーンズビー)は「ドラゴの息子ヴィクターVSアポロの息子クリード」を企画してイワンに持ちかけた。

違う形でもロッキーに雪辱したいイワンにすれば渡りに船。 息子のヴィクターにとっても父の名誉回復の絶好のチャンス。
あとはアドニス・クリードが挑戦を受けるかどうか。
TVのインタビューでドラゴ親子はアドニスに対戦を求めて挑発するが・・・。

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アドニスにとってはここで会ったが100年目の親の仇である。
いや、厳密には父を死なせたのはイワン・ドラゴの方なのであってヴィクターと闘ってどうなるわけではないのだが。

アドニスは父アポロの顔など昔の映像や写真でしか知らない。
物心ついた時からそばにいなかった人の敵討ちなどという情がなぜ今さら湧くのかとアドニスは戸惑っていたが、それでもどういうわけか、どんな挑戦者よりも闘いたいという気持ちが燃え盛るのを抑えられなかった。

"破壊の帝王"の異名をとったチャンピオン、アポロ・クリードの息子として証明せなばならない父の偉大さ。
ドラゴと闘った時のアポロは全盛期ではなかった。
ロッキーに敗れたあと引退し、実に5年もリングから遠ざかっていたのに、無謀な挑戦に賭けた。

もし父が自分ぐらいの年齢でボクサーとして最盛期の実力があった時にドラゴとやっていれば・・・・
アポロ家のファイターは父も息子も偉大であることをドラゴの息子を相手に証明せねばならないのだ。

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だがロッキーは反対だった。
アドニスがやりたがるだろうし、その気持ちは分かるのだが。
「闘う必要はない。 奴らには闘う理由があるが、おまえには守るべきものがある」

多くのものを失ったドラゴ親子に残されたボクシング、そしてロッキーからすべてを奪ってやるという闘う理由。
アドニスにも闘う理由がないわけではない。 だが復讐心というのは、前進するための意欲にも糧にもならない。
過ぎ去った時間は戻ってはこない。 失われたものは戻って来ない。
取り返せぬ過去のために闘っても何も残らないのだ。 だから闘う理由はどこにもない。

それはドラゴ親子にも言えることだが、アドニスには自分一人ではなく、未来を共に歩いてくれる大切な存在がある。
それを守らねばならない人生の責任を、ボクサーである前に一人の人間として忘れてはならないとロッキーは言う。

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過去に囚われ悔み続ける。 そんな人生をアドニスに背負わせたくない。
それはロッキー自身がそうであるからだ。

「絶対に止めるな。 何があってもだ」
ライバルであり、友であったアポロは最後にそう言って、ニュートラルコーナーから飛び出して行った。
どれほどタオルを投げ入れたかったことか。 いや、タオルを投げるべきだったのだ。
親友の頼みであり、また共に共有したボクサーの矜持が、ロッキーを躊躇させた。

血だるまになり、ピクリとも動かない彼が自分の腕の中で冷たくなっていったあの時のことをロッキーは忘れることができないし、今も自分を許せない。
そんな悔恨を、店に飾った写真を見るたびに思い出し、エイドリアンの墓の前に座っては、一人だけ残された自分が背負っている罪を悔い続けているロッキー

アドニスはチャンピオンになったものの、まだまだ未熟で鍛えるべきところは多々あり、そのポテンシャルはある。
その分、今のアドニスはおそらくヴィクター・ドラゴには苦戦するだろう。 全然歯が立たないかもしれない。
その時、セコンドにいる自分はタオルを投げ入れる勇気があるだろうか。
あの時の苦しみと悔しさが甦ることを恐れるロッキー
だからアドニスには強く反対できなかった。 過去のことでメソメソしてる自分には言う資格はない。

「俺はあんたがいなくても闘う」
引き留めることはできないが、自分は一緒にはいられない。
哀しいかな、アドニスロッキーは袂を分かつことになった。


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本当に同じヘビー級かと思うほど、ヴィクターアドニスは体格もリーチも差がありすぎる。
そのあたりは、演じるマイケル・B・ジョーダンは身体を増量し、ヴィクター役のムンテアヌは減量して、ヘビー級の最低体重ギリギリまで持って行ったそうだ。
それはそれとして。

体格差云々ではないほど、ヴィクターのパンチはケタが違うのだった。
ガードの上からにもかかわらず、正面からパンチを受けただけでもアドニスの体は軽くフッ飛んだ。
対してアドニスのパンチは当たってもまるで効かなかった。

やがてアドニスは無残な敗北を喫する。 いや、正確にはヴィクターの反則行為によって、形式上はアドニスの勝利となって王座も守られた。
だが2本の肋骨が折れ、眼窩底骨折の他、腎臓も損傷、重度の脳震盪という状態で病院に担ぎ込まれる羽目となったアドニスにとっては事実上の敗北であった。

見舞いに来たロッキーにも「説教しに来たのか。 帰ってくれ」と言い放つ。
自分が恥ずかしくて情けなかった。

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ケガから回復したものの、心に大きな痛手を負ったアドニスはボクサーとしても闘う理由を見失った。
ここからもちろん誰もが思う通りにストーリーは進む。

「自分の道をあきらめたら、何者でもなくなる」

やがて少しづつ自分の道を見出すアドニスロッキーが和解し、再びヴィクターとの対戦が決まる。
ロッキーいわく「虎の穴」みたいな野営の闘拳場でワイルドなトレーニングを積んだアドニスヴィクターとのリベンジマッチに挑む。
「何かを大きく変えたければ、おまえが変わらないと」

主人公の挫折を挟みながら、観客にも響くメッセージを込めての紆余曲折を描いて、最終的に再び栄光を勝ち取るまでが、こういったスポ根ものの王道だ。
だが、一介のボクシング映画にしないのはロッキー・シリーズなら当たり前。
誰が勝って万々歳。 誰が負けてザマアみろというお話ではない。

本作にもシンプルであるが、しっかりとしたヒューマニティがほとばしるドラマが輝きを放っている。

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アドニスの妻であるビアンカは進行性の難聴を患っている。
前作よりもその病状は悪化しているようだ。
それでも彼女は歌手になることを昔から夢見てきて、努力し、それを叶えたのだ。

だが、生まれてきた子供に病気が遺伝してはいないか。 その不安は的中した。
人よりも聴こえる音や声が限られる人生を送らねばならない娘には想像を絶する闘いが待っている。
その闘いを乗り越えてきたビアンカは覚悟を決めている。

アドニスはそんな妻と子を守らねばならないのだが。
「親父がいつも中にいた。 今は声も聴こえない」
それでいい。 絆は切り離せないが、過去から脱皮して今は妻や子の声に耳を傾けねばならないのだ。

ヒロインが難聴である設定がよもやここで効いてくるのである。
「あの子は自分を哀れんでいない。 しっかりしろ」ロッキー師匠もケツを叩く。

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守るべきものがある。 そのためにリングに立つ。
アポロの息子ではなく、アマーラの父として。

ダウンして立ち上がったアドニスはレフェリーに「名前が言えるか?」と問われる。

「クリード!」

我が娘も聴こえぬ耳で名前を問われても力強く名乗れる子に育つであろう。
どんな困難にも立ち向かうクリード家の血を引く者ならば。
その勇気の証明のためにアドニスは立ち上がる。

これは、人の父となったアドニス・クリードが、闘う理由を見出す物語。

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今回の物語で興味深いのはドラゴ親子の描写である。
ここにも「父と息子」の物語が描かれており、意外な感動をもたらしてくれるのだ。

「ロッキー4」では、最初はほとんど感情を露わにしなかったイワン・ドラゴは、ロッキーとの試合中に政府の高官から叱責されて、「俺は自分自身のために闘う!」と宣言する。

打たれても打たれても向かってくるロッキーに、自身が初めて体験した恐怖。
もう国の威信などスッ飛んでしまい、彼には闘う理由ではなくなっていた。
なぜ闘っているのか、ロッキーもまたなぜ闘っているのか。
それを納得できるために、イワン・ドラゴは最終ラウンドを前に一人の人間となった。

その代償として、妻も尊敬も国も失った彼は未だに心の中でロッキーと闘い続けていた。
息子を手塩にかけて育て上げ、祖国や元妻を見返す気をうかがっていた時に訪れた運命。
息子は息子で父から認められたいという気持ちがあり、それは自分たちを見捨てた母に対してもあるのだった。

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ここで観客が度肝を抜かれるのは、まさかのブリジット・ニールセン登場である。

「ロッキー4」でイワン・ドラゴの妻にして冷酷無比なスポークスマン、ルドミラ・ドラゴを演じてた彼女が姿を現した時、ギョッと驚いているドラゴ親子並みに我々観客もぶったまげた。

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ブリジット・ニールセンは「ロッキー4」の時、まだ22歳だった。
その時のオーラというか、お色気ムンムンは55歳になっても衰えていない。

いや、それよりも。
スタローンが元ヨメをキャスティングするという、この太っ腹に感心してしまった。
離婚した時はまあまあのドロドロだったと聞く。
彼女との関係で色々あったシュワルツェネッガーとも、良好な関係でいれて映画でも共演してるように、スタローンの懐の深さは只者ではない。

さて、ルドミラは元々がウクライナの共産党幹部の娘だったが、30年以上経った今も権力者と同じ立場にいるらしい。
そして、またしても「ロッキー4」の再現のような「試合観戦→愛想尽かしてサイナラ」を繰り返す。 みっともない女だ。

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ルドミラの態度が、ひとつのポイントだったかもしれない。

試合会場から母が去ってしまったことに気付いたヴィクターは激しくf動揺し、同時にスイッチが入る。
だがそれは無くなりかけていた彼のスタミナをさらに消耗させたに過ぎなかった。

ルドミラが去ったのを見たイワンは気がついた。
誰が息子を守るのか。
スタミナが切れて、アドニスに滅多打ちにされている息子の姿に、イワンは静かに決断する。

30年前に「見損なったわ」と自分を捨てた妻のようにはなれない。
そして、彼にはロッキーでさえも為せなかった勇気を示せるチャンスが残されていた。

タオルの投入・・・・・
イワン・ドラゴにも守るべきものがあったのだ。


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アドニスアポロ。 イワンヴィクター
それぞれの「父と息子」のドラマは双方ともに偉大な父の跡を歩む息子の物語である。

それと共にロッキー・バルボアにも複雑な「父と息子」の事情を抱えている。
アポロ親子やドラゴ親子とは違い、ロッキーの息子ロバートは偉大な父の存在に苦しんで距離を取っていた。
「ロッキー・ザ・ファイナル」(06)では"ロッキーの息子"と言われる苦悩を訴えるも、最終的には父の復帰戦をサポートしていたが、本作ではまだ完全に溝は埋まっていないようである。

チャンピオンに昇りつめたことが、ロッキー・バルボアであることが、息子を追いつめてしまったという罪悪感が今も彼を苦しめている。
「クリード チャンプを継ぐ男」でもアドニスが"アポロの息子"であることに苦しんでいた。
それを間近で見ているロッキーにはジュニアの気持ちも分かる。
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だから彼は息子に電話一本さえ掛ける勇気もない。
メモ帳を開けばすぐ分かるところに電話番号が書かれている。 それしか書かれていないのだ。

だがロッキーアドニスヴィクターの試合を機に決心がつく。
それはイワンがタオルを投げたのを見た瞬間なのだろう。

ロバートの自宅を訪ねたロッキーは初めて孫の顔を見る。(この子役がまた可愛い)
その直後、信じ難いものを見てしまった。

ロッキーが目頭をぬぐうのだ。
いや、ロッキーが泣くシーンは過去にこれまで何度かある。
だが、今までのそれとは違う。
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ロッキーにとっては、それほどまでに大事なものなのだ。
エイドリアンもポーリーもいない。 アドニスは息子のようなものだが弟子は弟子。
身寄りはロバートしかいない。

息子に電話を掛けて、家まで会いに行く。 彼にはそんな簡単なことができなかった。
それほどまでに背負ってきた呵責は相当だったのだろう。
息子に会った方がいいのか、会わない方がいいのかと。
しかし、息子と孫の家に行って迎えられるという誰にでもある当たり前のことが実現した時、ロッキーの目頭を熱いモノが濡らす。
彼がどれだけ孤独だったかが計り知れる。

こういう他愛のないことで泣く。 ロッキーも歳を取ったなと思うが、それはいい意味でだ。
普通のジイジであることの幸せ。 ロッキーはまた、ひとつの大切なものを手に入れたのだ。


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何が嬉しいかというと、興行的には成功したが批評家からはケチョンケチョンに言われた「ロッキー4/炎の友情」に対して、スタローンはキチンとした意義を示したことである。
B級映画扱いされた「4」の弔い合戦である。

アッシは声を大にして言いたい。
アポロドラゴの因縁のドラマが30年以上経過しても観客の関心を引き付けることこそが、「4」は決して駄作ではなかった何よりの証だ! ちがうか!

そして、一介のボクシング映画ではなく、人生バイブルの最強シリーズ「ロッキー」のエッセンスをガッチリと保持したまま、このクリードの第二章でも人間の美しい絆の物語をお腹がパンパンになるまで語ってくれている。

“師匠”という名の父。 “父”という名の師匠。
親子愛と師弟愛が見事に調和した名篇だ。

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さて、このシリーズ。 パート3はあるだろうか。
アイデアというか、ネタ的にはかなりしんどい。
クラバー・ラングの息子でも出してきたら、それはバカっぽい。
“実は誰それに子供がいました”みたいなことはもうできないだろう。

多くのことを語りつくした感があるし、そうなると残されてるのは、ロッキーの静かなる人生の締めくくりしかないのだが・・・



「賢人のお言葉」
 
「親として、自分自身に欠けてたものを息子が実現していくのを見たいと思うのは、全ての父親の慎ましい願いなのである」
 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
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家へ帰ろう
2019年01月14日

T0023541p.jpg第二次世界大戦下、ナチスドイツが起こしたホロコースト。
武器を取って戦地に赴いた兵士ではない、まったくの無抵抗の、それも何百万人という一般人が地獄を見た人類史上最悪の殺戮。

それは、命を落とした人だけでなく、生き延びた人々の心にも一生癒えぬ傷を残すことになった。

苦悩と悔恨と憎悪に縛られながら戦後を生き永らえてきた生き証人たちの心に刻まれた傷は想像以上に深い。

それでも、辛い時代の中で、励まされ勇気づけられ、心の支えとなった特別な人や場所などがあるだろう。
その記憶の明かりが灯り続けている限り、それこそが傷ついた人の帰り着く安寧の場所であることを指し示している。


ホロコーストを生き延びて、今はブエノスアイレスで暮らす老人が、70年以上も会っていない親友と会うために故郷のポーランドを目指す感動のロードムービー。
振り返りたくない記憶。 忘れてはならない恩人。 
葛藤と闘いながら、まだ生きているかどうかも分からぬ親友のもとへと長い旅路をゆく老人。
果たして彼は救いの記憶である“家(うち)”へ帰りつけるのか。


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アルゼンチンのブエノスアイレスで暮らす仕立屋、ブルスティン・アブラハム(ミゲル・アンヘル・ソラ)。 88歳。
実はポーランド生まれのユダヤ人である。

ポーランドがナチスドイツに占領された時代、アブラハムはまだ十代の若者だった。
ホロコーストによるポーランド人の犠牲者は300万人とも言われるが、アブラハムの両親も幼い妹もその数の中にいる。
彼もウッチの収容所に入れられていたが、命からがら脱走して何とか生き延びたのだった。

アルゼンチンに逃れた彼は自分の生活を取り戻し、仕立屋を営み、結婚して多くの子をもうけた。
その子供たちも、もう今は立派に自立して家族を持ち、アブラハムには何人もの孫がいる。
妻はすでに世を去り、長年暮らした今の家で余生を終えるつもりだったが、どうやらそうはいかないらしい。
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娘たちが家を売ることを勝手に決めたのだ。
では父親のアブラハムにどこへ行けというのか。

アブラハムは若い頃に負傷した右足が今も思うように動かない。
収容所で暴行されたものだろうか、逃走中に負った不慮のケガだろうか、映画の中では語られない。
その右足も血のめぐりが相当に悪いようで、皮膚が白っぽく変色している。
いずれ切断しなければならないと医師からも宣告されている。

片足を失うことになるアブラハムがもちろん一人で生活できるわけはないし、娘たちの中に面倒を見ようという者はいない。
つまり父親には老人ホームに入ってもらって、空くことになる家を売ろうということになったのだ。

アブラハムは不自由な右足のことを「俺のツーレス」と呼び、「相棒と離れる気などサラサラない」と足の切断に抵抗する。
(ツーレスとは中東欧系のユダヤ人の言語イディッシュ語で『問題』という意味)
だが、家にはもう住めないというのは決定事項なので、こればかりはどうしようもない。
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アブラハムがこの日、娘たちの家族を呼びつけたのは大勢の孫に囲まれた"幸せそうな"写真を撮りたいからだった。
老人ホームの連中に見せつけて自慢するためだとうそぶく。
いや、そもそもアブラハムは老人ホームに入る気などないのだが。

滅多に会わない孫全員の名前や顔など覚えちゃいないアブラハムが、つまらないヤラセの写真撮影にこだわるのは、この光景を人の親となった我が子たちにも皮肉たっぷりに見せつけてやりたいことと、いずれ大人になる孫たちのための教育がこもっている。

一人だけ写真撮影を愚図る孫娘がいて、あろうことか1000ドル払うか払わないかという交渉にもつれ込む。
その末、アブラハムが孫娘に800ドルで手を打たせて写真撮影を翻意させるのだが、実は一枚上手だったのは孫娘の方であって・・・。
さすがワシの孫娘だと、そのずる賢さを怒るどころか褒めたたえるアブラハム

実際、交渉の勝ち負けはどうでもいいのだ。
孫娘を写真撮影に引っ張り出せればそれでいいし、なにより孫娘のそのたくましさがアブラハムを感動させた。
ガス室で死んだ妹も、この子ぐらいの歳だったなと思い出しながら。

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娘ら家族を強引に帰したアブラハムは身支度を整えた。
「ひどい子供たちね」と憤慨する家政婦のパウリーナ「これ、どうします?」と持ってきたのが一着のスーツだった。
仕立屋として彼が最後に仕立てたそれを見てアブラハムはひとつの決心をした。
老人ホームに引きこもる気はないし、どうせ、家にいられないのなら、どうしても行っておかねばならない場所があった。

「ポーランド」 アブラハムの故郷でもあるその国の名前を彼自身が口にすることはない。
口に出したくないのだ。 これまでずっと思い出すのを避けてきた忌まわしい記憶の残る国。
だが、一方で絶対に忘れてはならない恩人がいるのもその国であった。

その恩人に会いに行こう。
70年振り以上になるだろうか。
まだ生きているのか、もうこの世にいないのかは分からない。
行きたくはないが行かねばならないポーランドへ、「俺のツーレス」を引きずりならアブラハムはもう戻ることはないブエノスアイレスから旅立った。

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アブラハムがポーランドのワルシャワへ行く道のりは、飛行機でまずスペインのマドリッドへ入り、列車でフランスのパリに入って、さらにポーランド行きの列車に乗り継ぐ。
単純計算すれば丸二日くらいの膨大な所要時間がかかるが、足が悪いのにそれでも行こうとするアブラハムはそれなりに覚悟ができている。
直行便に乗れば15時間程度だが、たまたま満席でチケットが取れなかったのは、それは神の思し召し。

足が不自由なまま70年以上を過ごしてきた彼は、おそらく積極的に遠出をすることなどなかったろうし、見たところ性格上、人嫌いな面もある。 女は好きなようだ。
ユダヤ人あるいはポーランド人以外には心を開かないような、未だ戦時を引きずっている狭い価値観で世界を見ている。
そんな彼に、「ちょっと遠回りをして、多くの人と出会って、もう一度世界の見方を変えてこい」と神様は計らったのかもしれない。

その通りにアブラハムは道中、たくさんとまではいかないが貴重な出会いを重ねる。
マドリッド行きの飛行機の中で席が隣り合うレオナルド(マルティン・ピロヤンスキー)という青年以外は圧倒的に女性ばかり。

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マドリッドで一つ星ホテルを営むマリア(アンヘラ・モリーナ)。
客のツケや値切りには一切応じない気骨ある女将である。

パリ行きの列車に寝坊して乗り遅れ、もう一泊することになったアブラハムは彼女にバーに誘われて、ちょっといいムードに。
結婚と離婚を繰り返してきたというマリア女将はしたたかに人生を送って来た女だ。
離れた所から一人の女性がアブラハムを意味ありげに見つめ、アブラハム「やあ、どうも」と返す。

するとマリア女将「ちょっと。 今はあたしと呑んでるんでしょ?」
アブラハム「きれいな女性には挨拶するのが礼儀だろ?」
そんなこんなでバーからホテルに帰ると、アブラハムの部屋が強盗に入られたあとで有り金全部イカれてしまっているという事態に。

ここでマリア女将が同情して「宿代は私のおごりだよ」・・・などと言い出す訳はない。
どうにかして宿代と列車代を工面しなければならないアブラハムには頼らざるを得ない人物に一人だけ心当たりが。
アブラハムがブエノスアイレスから乗った飛行機がなぜ「マドリッド行き」だったのかは、これも神の思し召し。
そして強盗に入られたのもまた神の思し召しなのである。

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マドリッドで暮らしているクラウディア。 アブラハムがかつて勘当した末娘だ。

マリア女将に語ったところによると、こんなことがあったと言う。
アブラハムは子供たちに対し、「もう充分に生きたし、財産はみんなやるからその代わり、それぞれワシのどこが好きか言ってみておくれ」という、なんともサブい茶番劇を要求したという。 「リア王」ごっこである。
上の息子・娘たちは財産欲しさにおべんちゃらを並び立てるが、末娘のクラウディアだけは「そんなアホなことできるわけねえでしょが」と拒否。 これも「リア王」のコーディリアと一緒。
これにキレたアブラハムが彼女に「出ていけー!」・・・・・・となってクラウディアはマドリッドに住んでいるのだった。

これを聞いたマリア女将「自業自得」と真っ当なご意見でバッサリ。
で、「今すぐ会いに行くべきよ」と、女将に背中を押されたアブラハムは娘を訪ねてシブシブ助けを求めることになる。

アブラハムの腕にはナチスの収容所に入れられていた証である囚人番号の刻印がある。
そして末娘のクラウディアの腕にも同じタトゥーがある。
これはどういうことかというと、ホロコーストの生存者、もしくは亡くなった人の子孫の間で、その時の同じ番号をタトゥーとして入れることで、ホロコーストを忘れないようにしている若者が実際に多いらしいのである。

顔を合わせた二人の間に微妙な空気が流れる。
どんな顔をして、どんな言葉をかければいいのか戸惑うアブラハム
この試練もまた神様がアブラハムに課したものだ。
自分の愚かさを認めて、過去の鎖など引きちぎり、広い目で人や世界を知れという。

完全和解のような雰囲気ではなかったが、娘の父を思う気持ちはしっかりと残っている。

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クラウディアに1000ドルを借りたアブラハムはパリ東駅へと向かったものの、路線図を見て目の前が真っ暗になる。
ワルシャワ行きの列車が途中でドイツを通るからだ。
パリからベルギーを抜ければ、すぐドイツのケルンであり、ほぼドイツの国のド真ん中を線路が走って、ベルリンにも停車するのである。
アブラハムには耐えられないことだった。

たとえ列車から降りなくても、自分の体がドイツの国内に入るというのはアブラハムには拷問に近い苦行なのだ。
ドイツを通らないでワルシャワへ行く路線はないのか。
これを駅員に説明するのに四苦八苦。 もちろんフランス語など喋れないし、第一彼の望んでることは無理難題。

「ポーランド」という言葉も言いたくなければ、当然「ドイツ」という言葉など口裂け男になっても言えないアブラハムは『NO GERMANY』、『POLONIA』と紙に書いて訴えるものの、駅の案内係も困惑するしかない。

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その様子をそばで見ていたイングリッド(ユリア・ベアホルト)という女性が助け船を出す。
イディッシュ語を話せる彼女は、アブラハムもイディッシュ語を話しているのを耳にしたので力になろうとしたのだ。
とは言え、ドイツを通らずにポーランドに行ける路線など、どうあがいてもムリ。

だが、せっかく通訳までしてくれた彼女がドイツ人であることを知ったアブラハムはいっぺんに不機嫌になった。
ドイツ人の助けを借りるなどアブラハムには屈辱でしかない。
頑なな態度のアブラハムの前からイングリッドは去っていったが、仕方なく列車に乗っているとまたしても彼女と会うことに。

イングリッドはドイツが過去に犯した罪を謝罪しながらも、世界は変わったのだということを語る。
アブラハム自身も分かってはいるのだ。
ドイツだって昔のままじゃないし、みんないい人なのだろう。
昔は昔。 今は今。 歴史は自分だけのものではない。
自分だけが70年経っても世界を拒絶し、自ら孤立して人生を悲観している。
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過去に縛られることなく、先の先、そのまた先を見つめて力強く生きている女たちにアブラハムは出会った。
家を売る親不孝な娘たちも強いといえば強い。
自分からまんまと800ドルをせしめた孫娘。
自分を長年世話してくれた家政婦のパウリーナ
マドリッドのホテルの女将マリア
マドリッドでたくましく生きる娘クラウディア
そして、非寛容な自分の冷えた心を溶かしてくれたドイツ人の女性学者イングリッド

人を許す。 自分を解放し、世界を受け入れる。
すっかり様変わりした世界の中で、自分の帰るべきところに向かう道がやっと見えてきた老人の心に仄かな熱が灯るのだった。


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70年前。 ポーランドのウッチの街で仕立屋を営む両親の元に長男として生まれたアブラハム
だが彼がまだ二十歳にならぬ頃、ナチスドイツの容赦ない迫害が始まった。

ユダヤ人である一家全員どころか60人にも及ぶ親戚までが収容所へと送り込まれたが、アブラハムはなんとか自力で脱走する。
重い傷を負った足を引きずり、衰弱した傷だらけの体でなんとか自宅に帰って来たが、もうそこは使用人たちが自分の住処として暮していた。
彼らはアブラハムをかくまってバレた時のことを恐れて、かつての主人の息子であるアブラハムを追い返そうとする。

しかし、瀕死のアブラハムを救ったのは使用人の息子ピオトレックだった。
主従の関係などを抜きにして、アブラハムピオトレックは大の親友だった。
アブラハムを追い返そうとする父親を殴り倒してピオトレックは傷だらけの親友を家の中に入れた。
「アブラハム、家(うち)へ帰ろう」
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アブラハムの妹は自分で物語を創作する才能があり、それを学校などで元気な声で朗読する姿をピオトレックは大いに嬉しがり、兄のアブラハムもそんな妹が誇らしかった。

収容所行きのトラックに押し込まれた妹と目が合った時の顔をアブラハムは忘れることができない。
なぜ妹が命を奪われなければならない。
あの子が何か悪いことをしたとでもいうのか? この70年間、アブラハムは自問自答し続けた。
妹の罪とはなんだ? ひと月遅く生まれたことか?
妹はその時10歳だった。 11歳だったら助かっていたのだとアブラハムは悔やむ。(このあたりのナチスのユダヤ人拘束のルールのようなものは不明だが?)

ピオトレックの家族が使っていた使用人用の部屋でかくまわれながら戦時をやり過ごしたアブラハム
ピオトレックの助けを借りながら、やがて彼はアルゼンチンに逃れるのだが、それ以来ピオトレックとは音信不通になった。
そして家を失ったことを機にアブラハムピオトレックを訪ねる決心をして旅立ったのだ。
家(うち)へ帰ろうと。

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だが、いやが上にもドイツを通らなければならない列車には必然的にドイツ人もたくさん乗り込んでいる。
4人がけのボックス席で会話を交わし合うドイツ人たちに挟まれたアブラハムの心は一杯一杯になった。
気分が悪くなって席を立って移動するも、どこの個室も ドイツ人で溢れていた。

気持ちでは覚悟はできていたのに身体が受けつけなかった。
アブラハムは列車内で倒れ、気がつけばワルシャワの病院のベッドにいた。

事情を親身になって聞いてくれた看護士のゴーシャ(オルガ・ボラズ)にアブラハムは退院したらウッチまで連れて行ってほしいと頼む。

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アブラハムが出会う女性の一人となるゴーシャもまたある意味強い女性である。
休日を割いて自家用車で一患者のプライベートの世話をしてくれるキャラクターは出来過ぎかもしれないが、ホロコーストの生き証人である老人が長年会っていない命の恩人に探している状況を捨て置くポーランド人はいないのだろうと思う。

アブラハムの長い旅が今終わろうとしている。
ピオトレックは果たして今も存命しているのか。 それとも、もうこの世にはいないのか。 生きていても既に生活の地を変えてどこかで暮らしているのだろうか。

車椅子に乗ったアブラハムゴーシャの手で押されながら、ウッチの街並みを行く。
こんな場所ではなかった。 間違いではないかとアブラハムゴーシャに問うがここで合っているという。

「会えないことも、会うことも恐い」 この期に及んで様々な憶測がアブラハムの心にのしかかる。
「あなたは素晴らしい人よ。 だから遥々ここまで来たの」

やがて見覚えのある風景が現れた。
建物と建物の間の大きめの路地。 その先の突き当たった建物の横にさらに狭い路地がある。
まさにこの建物だった。 この扉の向こうにピオトレックは居るのだろうか。
アブラハムは扉をノックした・・・・・・・


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この映画、昨年末に観ていたがタイミング的に記事を書きそびれてしまった。
昨年の個人的ベスト20に漏れてはいるが、今さらこじ開けるほどでもない。

いや、この映画はメチャクチャ良かったのだ。
最後はきれいに泣いた。 それも危うく嗚咽を漏らしそうになった。
マジでヤバかったがこらえた。 他のお客さんもよく耐えたなあ・・・。


あらためてホロコーストという残虐な歴史の恐ろしさを思い知らされる。
そういう直接的な描写はない。
だが、アブラハムが「ポーランド」や「ドイツ」という言葉を口に出すのを拒んだり、ワルシャワへ行く列車がドイツ国内に入ることを嫌悪したりする拒否反応を示してトラウマに苦しむ、この老人の姿を見せられるだけでもそれは十分に伝わる。

アブラハムは幼い妹をはじめ家族がなぜ殺され、自分が一人ぼっちで世界の片隅に放り出されなければならなかったのかをずっと考え続け、苦しみながら70年もの歳月を過ごしてきた。
若い頃は政治のことなど遠いことだったのだ。 それだけ、かつては幸せだったのに。
だから今もって家族の死の意味が理解できないし、ユダヤ人というだけで異物のように自分たちを見る世界にも、もちろん飛び出していけない。
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そんな老人が遅まきながらもその世界へ飛び出していく。
そして変容を遂げた世界を見て周り、「もし妹が生きていればこんな女性になったのだろうか」と思わせるたくましき女性と出会うのである。
その積み重ねがアブラハムの心を溶かす。

憎悪に囚われ、偏狭だった自分の心を知り、赦しという学びを得た88歳の老人は疎遠だった娘とも和解し、停まっていた時間を進める勇気を奮い立たせるのだ。

米寿にして学ぶ。
この物語は、学ぶべきことは自分の人生の中にあることを教えてくれる人間賛歌でもある。


確かに出てくる人出てくる人、善人だらけである。 泥棒がいたようだが。
しかも、偶然性の高い展開もあって、必然的に「神の思し召し」などと説明もしたくなるというものだ。
ピオトレックに会おうと決心する事の発端から始まり、道中の様々なアクシデントや出会いは、起こるべくして起こり、出会うべくして出会った「神の思し召し」なのだ。

そんな、おめでたい解釈でも不思議としっくり来る。
ゴーシャ「神はいる」と言ってたし。

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アブラハムゴーシャと共にウッチの街に来て、回想シーンと変わらぬ建物の風景が現れるくだりから、心臓をギューッと掴まれるような緊張に襲われ、ここからすでに涙腺がヤバい。
ラストはそれこそ魂を射抜かれるほどの感動が押し寄せる。

「老いと向き合うのは嫌なものだが・・・」と前半でアブラハムが言っていたが、齢を重ねた旧友の姿を目の当たりした我々は、これほどまでの老いの美があるのかと唸ると共に、感涙をしぼらされることになる。

そして最後のセリフがとどめだ。
「アブラハム、家(うち)へ帰ろう」

*-*-*-*-*-*-*-*-*-* -*-*-*-*-*-*-*-*-*-* -*-*-*-*-*-*-*-*-*

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「賢人のお言葉」
 
「あちこち旅をしてまわっても、自分から逃げることはできない」
 アーネスト・ヘミングウェイ

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2018映画ベスト:二十選~邦画の巻
2019年01月09日

 「去年の邦画は実写が少し盛り返しましたね」
 「『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』な。 90億超えだろ? たいしたもんだよな」
 「実写邦画が90億の数字を突破したのは2003年の『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』以来のこと。 でもあれは最終的に170億超えのモンスター・ヒットでしたからね」
 「懐かしいな」
 「親分は『コードブルー』の映画観ましたか?」
 「観てねえなあ」
 「でしょうね。 TVドラマの方だって観てないんですから、やっぱり劇場版もパスでやんすよね」
 「う~ん、そう決めてる訳じゃないけどな」
 「評判が良かったアニメ映画『若おかみは小学生!』も観てないんでやんしょ?」
 「日曜にやってたらしいTVアニメの方、観てねえし」
 「ほら、それ。 それがいけませんよ」
 「いや、TV版は観てないのに劇場版だけ観に行く人って少なからずいるけど、俺は無理だな」
 「じゃあ、今年はテレビドラマの方もどんどんチェックしましょ」
 「それはオメエががんばってくれたまえ」
 「やっぱ映画最優先なんだな。 しょうがねえっすな。 じゃあさっそく2018邦画ベストの発表をば」


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10位 「愛しのアイリーン」

 「コミックの映画化なんですが、『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔監督にピタリとハマる怪作」
 「過疎化、少子高齢化、外国人妻などの社会問題を取り込みながら、愛あるセックスを望む中年男の暴走を描いた、これまた予想不可能な展開が魅力な愛憎劇だ」
 「主人公が途中で死んだと思ったら、最後はまさかの感動」
 「木野花が凄いことになってる衝撃演技が圧巻だ」



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9位 「鈴木家の嘘」

 「新人監督とは思えない構成力に驚かされるファミリードラマでしたね」
 「コメディのようなシチュエーションであるけれど、ユーモアを最小限にして、シリアスにじっくりと家族が再生される姿を追った物語だ」
「引きこもりの若者を持った家族という問題にも向き合わされるでやんす」
「当事者たちの過去の傷を内面からえぐっていく語りが凄まじい。 長女役を演じた木竜麻生が凄い演技を見せてくれる」



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8位 「犬猿」

 「おお、またしても吉田恵輔監督作でやんすね」
 「見た目も性格も違う姉妹。 粗暴な兄に振り回される真面目な弟。 この2組が絡み合うことで確執に拍車がかかる壮絶なドラマだ」
 「ニッチェの江上敬子にはビックリさせられたなあ。 コメディとシリアスのバランスが妙味の作品全体をけん引しておりますよ」
 「生まれた時から一緒で血がつながっていても、あいつのココが嫌!みたいな腹の底が噴出するリアルさは良質のサイコホラーを観てるみたいだ」



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7位 「劇場版 マジンガーZ/INFINITY」

 「親分、嘘をつきましたね。 これが1位だって早い時期から宣言してたじゃないですか。 あれだけブログで、ほぼ逝ってるようなテンションでベタ褒めしておきながら7位ですって? 忖度しましたね。 親分も人の子だった訳だ」
 「謹んで謝罪します。 誠に申し訳ございません。 なんかマジメにランキングを考えちゃったのぉ。 でもこの映画をベスト10に入れただけでも攻めただろ? どうせうちのブログなんざ権威のケの字もねえんだから」
 「だったら、なおさら・・・。 まあ、いいか。 でも面白かったっすよねえ」
 「これだけノスタルジーを刺激されたら射精レベルの感動が襲いかかって来る。 マジンガーだけでなく、この世代のアニメの劇場版をどんどん作ってほしいな」



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6位 「カメラを止めるな!」

 「一大旋風を巻き起こした2018年を代表する邦画でやんすね。 ミニシアターがあんなに連日満員になるなんてひとつの事件の様な映画でした」
 「低予算で無名の人ばかり。 それでも当たるのだから、アートもエンタメもアイデアひとつなんだよ。 製作費とか人気スターなどは集客の武器になるとは限らない。 そういう意味で業界に一石を投じた画期的な作品と言えるな」
 「本編と思いきや大がかりなネタフリだったと気づかされる前半と、時間を巻き戻して答え合わせする後半の「伏線回収スペクタクル」。 見事と言う他ないイリュージョンのような構成」
 「映像作品を作る人たちの普段は見えない努力にスポットを当てたという点ではリスペクトに値する作品だ」


 「ベスト5の前に、11位から20位までのランキングでやんすよ」

11位 「日日是好日」
12位 「孤狼の血」
13位 「青の帰り道」
14位 「blank13」
15位 「空飛ぶタイヤ」
16位 「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」
17位 「飢えたライオン」
18位 「友罪」
19位 「モリのいる場所」
20位 
「検察側の罪人」


 「おや?親分、報知映画賞で作品賞に輝いた『孤狼の血』をベスト10から外したでやんすね」
 「ヤクザ嫌いなんだよな~」
 「どの口で言ってんですか」
 「冗談じゃい、ボケ。 あれ観て、しばらく豚肉食べにくくなった腹いせじゃ」
 「親分って案外繊細なんだな」
 「オメエ、なんでもマトモに受け取んなって」
 「安心したでやんす」 
 「そんじゃあ、ベスト5にいこうかね」


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5位 「栞」

 「サザン聴いてなきゃ『しおり』って読めなかったかもね」
 「ポスターにご親切に『Shiori』ってルビ振ってくれてるのによぉ、オメエって奴ぁ。 いや、そんなことよりだな。 宣伝も金がかかるから色々と難しいとはいえ、もっとたくさんの映画館で上映して、たくさんの人に観てもらいたい作品だよな」
 「予告編なんかYouTubeで観ただけですし、パンフレットも製作されてませんでしたしねえ」
 「不治の病気で死を待つだけの人や、怪我で体が不随になった人に対して、一人の理学療法士が自分に何ができるかに葛藤する、悲壮な人間ドラマだ。 テーマを際立たせるために、あえてやり切れない不幸を連鎖させてるストーリーだが、それだけに医療現場の現実とは壮絶なものなんだ」
 「絶望の淵にいる人が医師から何をされるかではなく、逆にかけがえのない何かを遺すという意外な決着から、主人公の療法士が己の為すべきことに目覚めていく・・・。 暗闇の中に救いが浮かび上がる、気高いドラマでやんす」
 「人間の命はいずれ尽きる。 その矛盾を乗り越えて立ち向かう医療関係者やそれを目指す人へのエールがこみあげてくる」



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4位 「止められるか、俺たちを」

 「今は亡き若松孝二の遺志を継いでのプロダクション再始動第1作でやんす」
 「69年から71年までの脂ぎっていた若松プロを、門脇麦演じる女性助監督の視点で描いた熱血の人間ドラマだ」
 「とにかく熱い!パワフル!そして、めんどくさい! “映画モンスター”たちの人生をかけた闘いの空間に引きずり込まれるぅ!」
 「いろんなことが終わり、いろんなことが始まろうとしていた日本で、映画を武器にして、時代に闘いを挑んでいった猛者たちの一大叙事詩だ。 映画ファンなら何はともあれ観るべし」
 「役者さん全員がお見事に尽きるでやんす。 中でも門脇麦の仕事は間違いなくキャリアハイ」
 「若松死しても、この熱き血潮の熱流は誰にも止められねえぜ」



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3位 「教誨師」

 「名バイプレーヤー、大杉漣が主役を張り、一世一代の役者魂を見せつける傑作でやんす」
 「死刑囚と語り合う牧師と、6人の死刑囚の会話劇。 6人それぞれの様々な罪との向き合い方と人間性が浮き彫りになる中で、観る側は否応なく哀しい人間のサガを悟らされる」
 「人生、罪人になるかならないかは紙一重。 誰もみな同じ。 どこかで何かが狂ってしまうんでやんす」
 「主人公がなぜ教誨師という仕事に就いたかが徐々に明らかになるミステリーを孕みながら、ある種の異次元世界の生者と死者のディスカッションに目が釘付けになる」
 「なんといっても大杉漣ですよね」
 「いろんな役をこなしてきた人だが、これに関して言えばかなり素に近い人柄そのままで演じてるんではなかろうか。 それくらい彼だからこそこなせた役であり、名作になるべくしてなった作品と言えるだろう」



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2位 「万引き家族」

 「ここでこれが来ましたか」
 「文句のつけようがない完璧すぎる名作。 逆に今後これ以上の作品が撮れるのかと是枝さんのことが心配になる」
 「特異なシチュエーションなのに、恐ろしくリアルなタッチで飄々と物語を語っていく。 これぞ是枝ワールドの決定版。 『海街diary』以外はオリジナル物を貫く人ですけど、毎回毎回ストーリーをよく考え付くもんだと感心しますね」
 「物を盗むのもそれは確かに罪だが、一方で人は「捨てる」という罪をやらかす。 今や人が人を簡単に「捨てる」。 物理的な意味ではなく、人ひとりが命として見られることなく愛情ごと捨てられてしまうのだ。 あの女の子も。あの少年も」
 「現代社会の厄介な癌といっていい問題でやんす。 愛を求めて寄り添って家族となった彼らから、他人事と目を背けてきた社会に辛辣なメッセージが投げかけられてる。 強烈な怒りと悲しみが熱塊となって伝わってくる問いに我あれはどう応えるかが求められてるでやんす」 
 「大それた世界の話ではなく、我々の生活のすぐそばにいる、誰かの小さな営みを背景に、誰の心にもグサッとくるテーマを打ち込んでくる。 この作品はまさに象徴的過ぎるくらいに象徴的な是枝映画だ」



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1位 「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」

 「コレっすかぁー!」   「コレだぁー!」
 「納得っす!」   「だろ!?」
 「これを抑えて『マジンガーZ』が上に行ったら、そりゃいくらなんでも頭がおかしいっす」
 「引っかかる言い方すんなよ。 まあ、その通りなんだがな。 この映画の出現が“マジンガー酔い”の脳をクールダウンさせたのは間違いない。 それくらいに、この映画がもたらしてくれた感動はハンパではなかった」
 「吃音でうまく喋れない志乃ちゃんと、音楽が好きだけどうまく歌えない加代。 二人の女子高生がともに互いの劣等感を乗り越えていく瑞々しい青春白書でやんす」
 「誰にでもできることができない人もいる。 コンプレックスのせいで自分のことが嫌になる人にとって、その嫌な部分も含めて自分のことを肯定してくれる誰かがいるということは何物にも代えがたい人生の喜びだ。 こればっかり治らない、しょうがないとあきらめていた未来への進路を、隣りに並んで歩いてくれるという存在。 友人、仲間、同志というものの尊さがストレートに沁みる」
 「吃音の少女がヒロインですけど、『吃音』というワードは一切出てこず、吃音がどうこうという話じゃないんすよね。 これはコミュニケーションの壁や、人にはあって自分には足りない劣等意識を感じた事のある人ならば誰にでも当てはまる話でやんす」
 「そうなんだ。 懐かしいけど苦い記憶の部分を刺激してくるシーンが全編に散らばっている。 ハンデを背負った彼女たちに誰もがリアルに感情移入してしまうのは、観ている我々自身が青春の思い出の中に忘れようとしているものがあったことに気づかされるからだ」
 「吃音の志乃ちゃんにしても音痴の加代にしても、それがどうした、いいじゃないかと、共にハードルを飛び越えるんじゃなくてハードルを蹴り倒して尚、前を向こうというスタンスが美しい」
 「『あの素晴らしい愛をもう一度』が刺さる。 加代の歌の『魔法』もグッとくるな」
 「ダブルヒロイン、南沙良と蒔田彩珠がひたすらグレートでやんす」

゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

 「ベスト10のおさらいをどうぞ」

 1位 「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」
 2位 「万引き家族」
 3位 「教誨師」
 4位 「止められるか、俺たちを」
 5位 「栞」
 6位 「カメラを止めるな!」
 7位 「劇場版マジンガーZ/INFINITY」
 8位 「犬猿」
 9位 「鈴木家の嘘」
10位 
「愛しのアイリーン」



 「ランクに漏れた作品で他にあれば」
 「『いぬやしき』が意外に面白かったよな」
 「あの特撮、ヤバいっすよね」
 「問題作『娼年』も印象深い」
 「松坂桃李がうらやましいっ!」

 「【ええ仕事の俳優20人】に行こう。 まずは男優から」 (映画公開順)

【ええ仕事の男優 20人】
窪田正孝 「犬猿」
高橋一生 「blank13」
成田凌 「ニワトリ★スター」
柄本佑 「素敵なダイナマイトスキャンダル」
松坂桃李 「娼年」
役所広司 「孤狼の血」
生田斗真 「友罪」
リリー・フランキー 「万引き家族」
長瀬智也 「空飛ぶタイヤ」
酒向芳 「検察側の罪人」
安田顕 「愛しのアイリーン」
岡田准一 「散り椿」
大杉漣 「教誨師」
三浦貴大 「栞」
阿部進之介 「栞」
井浦新 「止められるか、俺たちを」
山本浩司 「止められるか、俺たちを」
村上虹郎 「銃」
池松荘亮 「斬、」
大泉洋 「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」



【ええ仕事の女優 20人】
江上敬子 「犬猿」
内田慈 「ピンカートンに会いにいく」
樹木希林 「モリのいる場所」
池谷のぶえ 「モリのいる場所」
富田靖子 「友罪」
榮倉奈々 「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」
安藤サクラ 「万引き家族」
松岡茉優 「万引き家族」
南沙良 「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」
蒔田彩珠 「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」
木野花 「愛しのアイリーン」
烏丸せつこ 「教誨師」
黒木華 「日日是好日」
門脇麦 「止められるか、俺たちを」
原日出子 「鈴木家の嘘」
木竜麻生 「鈴木家の嘘」
篠原涼子 「人魚の眠る家」
真野恵里奈 「青の帰り道」
清水くるみ 「青の帰り道」
松たか子 「来る」



 「いやあ、終わった終わった」
 「終わりましたでやんすね」
 「今年も面白い映画がたくさん観れたらいいな」
 「ホントっすねえ」
 「そりゃそうと。 このブログ、なんと10年目に突入しちゃったぜ」
 「ええっ! 気がつけば確かに」
 「だからどうだってワケじゃねえがな。 我はひたすらに映画を観るのみ」
 
「へへ~っ」

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2018映画ベスト:二十選~洋画の巻
2019年01月05日

 「親分、あけましておめでとうございます」
 「あれ? オメエ、保釈請求が通ったのけ?」
 「去年も同じようなこと言ったじゃないですか」
 「ルノーの会長と会ったか? あのオッサンの様子はどうだった?」
 「だからアッシは拘置所なんかに入ってませんって。 そもそもアノ人が入ってるのは一人部屋でしょ」
 「つまんねえな。 なんか面白いことねえかなあ」
 「そういや、メイウェザーと天心の試合、笑っちゃいましたね」
 「ボクシングルールでやりゃ、ああなるのは当たり前だろ。 4階級も差があるんだぜ。 安全面からしてやるべきじゃないよ」
 「最初はメイウェザー、笑ってたもんなあ」
 「始まってすぐに天心がいい左を出したが、そこからメイウェザーのスイッチが入ったな」
 「直前になってグローブにハンデを付けたらしいですけど、関係なかったっすね」
 「誰が相手だと思ってんだ」
 「どうせエキシビジョンなんだから1ラウンドにつき、キック1本だけOKとかにでもすりゃ良かったかなあ」
 「もういいもういい。 それよりか、俺とオメエが正月に顔を合わせた目的はただひとつ」
 「2018年のベスト映画決定でやんすね」
 「そういうことだ。さっそく洋画編からいくぞ」


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10位 「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」

 「実在の、それも今もピンピンしてる人の過去のしくじりをイジるという、実に下世話な映画なんだが、観る側の先入観を想定した上で、フェイク・ドキュメンタリー風なアプローチを入れ、ゴシップストーリーとはまた違う、味のある人間ドラマになっている」
 「子供のいい訳のような本人・関係者の主張を黒澤明の『羅生門』ばりに貼り付けることで、観てる側にも不思議なバランスが感覚が生まれるでやんす。 伝記映画としては画期的な語り口でやんすね」
 「クズ野郎みたいなキャラばっかり出てくるが、そこの面白さで推したところがいい。 マーゴット・ロビーもアリソン・ジャネイも見事な崩れっぷりを見せてくれる」
 「思えば、遥か昔のどうでもいいゴシップなのに、面白い映画にしちゃうんだもんなあ。 そういう意味ではハリウッドも恐いところ」


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9位 「ぼくの名前はズッキーニ」

 「わずか1時間6分という尺のストップモーションアニメだけど、子供向けとは言えないハードで濃い内容」
 「実写や2Dアニメではなく、二頭身のパペットにしたところが効果的。 それだからこその温かみや情緒が倍増。 つまりそれがないと、ちょっと耐えれない悲惨な話でやんす」
 「孤児院の子供たちが背負った家庭環境。 過酷な現実を受け入れながら、多くは望まずとも日々を健気に生きる子供たちに色んなことを教えられる」
 「一見ハッピーエンドでやんすが、パペットが流す涙には「これ以上、私たちのような子供を増やさないで」というメッセージが込められてるでやんす」


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8位 「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」

 「またもやアスリートの伝記映画でやんすね」
 「人々が抱くイメージとは違う、秘められた人間性を掘り起こした物語はやっぱり面白い。 それも二人分の物語だぜ。 贅沢だろ?」
 「スベリル・グドナソンの“ボルグ降臨”ぶりがハンパないっすねえ。 シャイア・ラブーフもいい演技だけど」
 「人間ドラマも含めてテニスがメンタル・スポーツであることの壮絶さがよく描かれている。もちろんカット割りとか編集がキレッキレのテニス・シーンも見事に尽きる」


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7位 「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」

 「おお、またテニスの映画じゃないですか。 アスリートの実話映画としては早くも3本目のランクイン」
 「観れば分かるが、テニスを前面に出したスポーツ映画じゃない。 同性愛者である葛藤を抱えながら男女差別と闘う主人公のビリー・ジーン・キングだけでなく、不完全燃焼だったテニス人生をやり切りたかったボビー・リッグスの複雑な感情にも目を向けている。 『そのあたりで我慢しとけ』と言わんばかりの世間に歯向かった、二人のテニスプレーヤーの孤独な闘いのドラマなんだ」
 「エマ・ストーンとスティーヴ・カレル。 ともにジャンルを選ばない芸達者。 二人の演技の激突も見もの」
 「マイノリティには何かと生き辛かった70年代。 様々なシーンで闘ってきた先人がいるからこその現代だ。 彼らへのリスペクトを失ってはいけない」


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6位 「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」

 「これはちょっとした衝撃を受ける映画。 フロリダのディズニー・リゾートの近くにある寂れたモーテルが並ぶ一角を舞台に、夢の国とは真逆の現実の中で生きている人たちを6歳の少女の視点で描いた物語だ」
 「192号線沿いに実際に建っているカラフルなモーテルは、当初の観光客を当て込んだ恩恵が全く外れて、今や生活困窮者の逃げ場のようになってるでやんす。 光と陰が隣り合ったままのイビツな世界で、夢破れた現実が浮き上がる物語。 このさりげない残酷さがシュールと言っていいのか、悲劇なのか喜劇なのか」
 「大人の事情が容赦なく少女のおとぎの時間を奪っていくのがキツい。 しかしラストにはアッと驚く、それこそ魔法のようなエンディングが待っている。 もう少しだけ夢を見ていい。 現実のそばにある夢をしばし信じていたい。 子供から夢は奪えないんだ」
 「アッシはさ、「何が夢の国でえ」と、ああいうテーマパークみたいなのには「ケッ!」て思うタイプなんでやんす。 でも二人の少女が走って走って辿り着くマジックキャッスルに感動しちゃって・・・。 現実を忘れさせるオアシスって、なんだかんだでいいもんだなあと」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「ベスト5の前に、11位から20位までのランキングだ」

11位 「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」
12位 「判決、ふたつの希望」
13位 「ラブレス」
14位 「デトロイト」
15位 「ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~」
16位 「RAW ~少女のめざめ~」
17位 「ビューティフル・デイ」
18位 「ダンガル きっと、つよくなる」
19位 「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」
20位 
「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」


 「ヘンタイ系ホラーが2本もありますね(16位・19位)。 ホラーでも一風変わったのが多かった昨年を象徴してるでやんすね」
 「説明しづらい映画なんだが、“なんじゃこれ?”的な目新しい面白さが何ヶ月経ってもずっと頭に残ってるんだよな。 そういう理由で、これは外すべきではないと思ったからランクイン」
 「そんじゃ、ベスト5にいきましょう」


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5位 「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」

 「スティーヴン・スピルバーグ、メリル・ストリープ、トム・ハンクス。 このコラボで面白くない訳がないでやんす」
 「しくじったら地獄かもしれないスクープを出すか否かでせめぎ合う新聞社内の攻防がキレッキレのテンポでサスペンスフルに描かれる。 どんな地味な話でもエンタメ精神を忘れずに、絶妙に盛りあげていくスピルバーグの真骨頂だ」
 「そういえば“電話”による緊迫感の演出が巧くて『アルゴ』を思わせましたね」 
 「始まって一瞬で人物のキャラを説明してしまう描写力もさすが。 あまり馴染みのない俳優さんたちによる脇キャラも魅力的」


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4位 「スリー・ビルボード」

 「小さな田舎町が憎悪の感情に囚われる凄惨なドラマだが、これがまた予測を裏切る展開がたたみ掛けてくる。 観終わる頃には意外にも心が洗われるような啓示を感じずにはいられない、恐ろしく完成度の高いドラマだ」
 「終わりが見えないような、いがみ合いや暴力の世界だけど、“怒ってばかりいたって、いいことなんかない”というシニカルな教訓が滲み出てくるでやんす」
 「赦しが怒りを退ける。 人間は変われるのだという、シンプルだが一筋縄ではいかないテーマに光明が射し込む物語は聖書の一節を垣間見せられてるようだ。 人を憎んでいる己の姿を見つめてみよという、これは現実の世界の国々にも向けられた話だ」
 「フランシス・マクドーマンドやサム・ロックウェルはもちろん良かったけど、ウディ・ハレルソンやピーター・ディンクレイジ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズなどがストーリーを回していく歯車として素晴らしい仕事をしてるでやんす」
 「監督のマーティン・マクドナーによる、さすがに戯曲作家らしいオリジナル・ストーリーだけど、どこからこんな物語を思いつくのだろうか」


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3位 「シェイプ・オブ・ウォーター」

 「ギレルモ・デル・トロ版『美女と野獣』でやんすね。 物語がとにかく美しいに尽きるでやんす」
 「『美女と野獣』に置き換えるだけでは収まらないほど、深遠なテーマが濃く描かれてる。 言葉を発せないヒロイン、ゲイの画家、黒人の清掃員、政治の道具にされてるスパイ、そして半漁人と、世界からハジかれたマイノリティの“声なき声”でもって異種同士のラブストーリーを奏でている深い話だ」
 「スタンダードな価値の外にいる者を徹底的に排除したがる不寛容な世界へのメッセージでもあるでやんすね」
 「ダークな様式美のギレルモ・ワールドが全開ながら、暗喩が散りばめられた実に計算高く奥深いラブストーリーが練られている。 ギレルモ・デル・トロの映画は周囲の評価ほど俺はあんまり何も思わなかったが、この映画でいっぺんに見直しちゃったな」
 「セリフを発することなく、愛と喜怒哀楽を十分に表現したサリー・ホーキンスの神演技があってこその感動でやんすね」
 「そこなんだな。 魔法を湛えたサイレント映画のような味わいだ。 喋らなくても美しい物語は語れる。 奇跡の逸品だ」


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2位 「ボヘミアン・ラプソディ」

 「おお、ここでコレがきたでやんすか」
 「ビートルズの伝記映画に誰も手を出さないように、このクイーンだってハードルは相当に高い。 そこを難なく飛び越えたばかりか、音楽映画としても、人間ドラマとしても、見応えがあり過ぎるほどの傑作になっている」
 「フレディ・マーキュリーの孤独なプライベートの物語だけど、彼にはバンドという家族があったんだという所に帰結する絆の賛歌が麗しいでやんすね」
 「史実に多少の色付けもあるし、向こうの批評家の評価は高くないけれど、それは個々のクイーンに対するこだわりがあるからだろう。 俺はね、クイーンの音楽作りに対するスピリットや、フレディのセクシュアルにも込められた、はみ出し上等のノー定義スタイルを讃えたテーマで推した所に胸を打たれたね」
 「ラストのライブ・シーンは音楽映画史上に残る鳥肌レベルの感動。 ここだけでも、もう一回観たいがためにリピートした人が続出したでやんす」
 「それ、俺もだ。 特にこの映画は映画館で観てナンボだというのは誰もが分かる。 映画館で観るべきと思わせる映画に駄作はない」
 「激似って訳じゃないけど、ラミ・マレックの激アツなパフォーマンスもこの映画の主動力」


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1位 「ワンダー 君は太陽」

 「これでしたか。 意外といえば意外。 なるほどと思えばなるほど」
 「障碍を持った子供のお涙頂戴の苦労話じゃあない。 少年のことだけじゃなく、彼を取り囲む人々の勇気と愛情の物語でもあるんだ。 脇キャラのサイドストーリーが語るテーマこそが主題になってるんだな」
 「少年の姉の視点で描かれる思春期エピソードでやんすね。 家族の中で孤立し、友だちと疎遠になり、恋の予感と演劇での晴れ舞台という、色んな事が目まぐるしく起こるお姉ちゃんが、ちょっとした勇気や世界の優しさを知る物語も大きなポイントになってるでやんす」
 「学校という未知の“宇宙”へ踏み出し、傷つきながらも世界の優しさを知る少年は太陽。 人によっては近寄りがたい。人によっては力強くて美しい。 そんな彼の周りにいる“惑星”の人々が傷つきながらも太陽のエネルギーを感じて大切なことを悟っていく。 視点のチェンジという構成が、観客にテーマをダイレクトに伝える仕組みになってもいる」
 「向こうでは感動ポルノだなんて批判もあったらしいけど、それはナンセンス。 主人公に同情しろなんて言ってないし、それは映画を観れば分かる。 これは周りとはちがう顔を持った人を見る我々の見方に対する啓発でやんす」
 「何年生きても学ぶべきことは多い。 映画というのは時として、『こういう考え方もあるだろ?』という、今まで気づかなかったことを教えてもくれる。 この映画は物語という枠を超えて、人類の課題の一つに大きな再発見をもたらしたといっても過言ではない」
 「でもやっぱ泣けましたよねえ。 感情移入ってことならジュリア・ロバーツとオーウェン・ウィルソンが演じた両親の方で、もし自分がと思えば、この二人の一言一言がグッと来るの連続」
 「文部科学省特別選定だそうだな。 ならば吹き替え版を作って全国の学校で上映したらんかい」
 「同意でやんすな」

゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

 「ベスト10のおさらいでやんす」

 1位 「ワンダー 君は太陽」
 2位 「ボヘミアン・ラプソディ」
 3位 「シェイプ・オブ・ウォーター」
 4位 「スリー・ビルボード」
 5位 「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」
 6位 「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」
 7位 「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」
 8位 「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」
 9位 「ぼくの名前はズッキーニ」
10位 
「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」


 「20位まで見渡してみて、あれ?あの作品は?ってのがありますねえ」
 「みなまで言うな。 おそらくこれだろ?」
 「グレイテスト・ショーマン」
 「ブラックパンサー」
 「君の名前で僕を呼んで」
 「アリー/スター誕生」

 「24位まであったらとは思うが、そこまで言い出したらな・・・」


 「【ええ仕事の俳優20人】でやんす。 まずは男優」 (映画公開順)

【ええ仕事の男優 20人】
ジェフリー・ラッシュ 「ジャコメッティ 最後の肖像」
ウィル・ポールター 「デトロイト」
サム・ロックウェル 「スリー・ビルボード」
バリー・コーガン 「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」
マイケル・シャノン 「シェイプ・オブ・ウォーター」
トム・ハンクス 「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」
ボブ・オデンカーク 「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」
ゲイリー・オールドマン 「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」
ハリー・ディーン・スタントン 「ラッキー」
ティモシー・シャラメ 「君の名前で僕を呼んで」
ジェイク・ギレンホール 「ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~」
ウィレム・デフォー 「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」
ホアキン・フェニックス 「ビューティフル・デイ」
ジェイコブ・トレンブレイ 「ワンダー 君は太陽」
スティーヴ・カレル 「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」
アデル・カラム 「判決、ふたつの希望」
スベリル・グドナソン 「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」
マチュー・カソヴィッツ 「負け犬の美学」
ラミ・マレック 「ボヘミアン・ラプソディ」
ブラッドリー・クーパー 「アリー/スター誕生」



【ええ仕事の女優 20人】
ヘレン・ミレン 「ロング,ロングバケーション」
ギャランス・マリリエ 「RAW ~少女のめざめ~」
フランシス・マクドーマンド 「スリー・ビルボード」
ホリー・ハンター 「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」
サリー・ホーキンス 「シェイプ・オブ・ウォーター」
メリル・ストリープ 「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」
ミリセント・シモンズ 「ワンダーストラック」
ダイアン・クルーガー 「女は二度決断する」
マルヤーナ・スピヴァク 「ラブレス」
ミランダ・リチャードソン 「ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~」
マーゴット・ロビー 「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」
アリソン・ジャネイ 「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」
ブルックリン・キンバリー・プリンス 「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」
ヴィッキー・クリープス 「ファントム・スレッド」
イザベラ・ヴィドヴィッチ 「ワンダー 君は太陽」
エマ・ストーン 「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」
シャーリーズ・セロン 「タリーと私の秘密の時間」
チュティモン・ジョンジャルーンスックジン 「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」
トニ・コレット 「ヘレディタリー/継承」
レディー・ガガ 「アリー/スター誕生」



 
「次回は邦画の巻でやんす」

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謹賀新年&昨年末これ観ました
2019年01月02日

<(_ _)>
あけまして おめでとうございます。


毎年、干支のネタで始まりますが、それではさっそく。


『惑星タトゥイーンのお正月』

犯罪組織の元締め、ジャバ・ザ・ハットの朝は意外に早い。

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「♪ と~しの は~じめの た~めし~とて~ ♪っときたもんだ。 あ~正月かあ。 何しようかなあ。 親孝行でもするか、募金でもするか、ボランティアでもするか。 う~ん、やっぱ犯罪王だから犯罪しようっと。 と、その前に。 お~い、ガモーリアンのお二人よ、こっちゃ来~い」

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 「お呼びでやんすか、ジャバ様」
 「おぅ、あけましておめでとうさん」
 「おめでとさんでやんす」
 「おめえらさぁ、今年の干支が何か知ってる?」
 「イノシシでやんしょ?」
 「知ってんじゃ~ん。 つまり、おめえらの年じゃん。 年男じゃ~ん、いや、年キャラか」
 「いやあ、俺ら、イノシシに"似てる"ってだけでやんすから」
 「つまんねえこと言うなよ。 話が進まねえじゃん」
 「じゃあ、イノシシってことで」
 「うん、だからハイ、お年玉」
 「ジャバ様が人に金品を与えるなんて、天変地異の前触れだな」
 「ああ、このお金なら、そこらへん歩いてたジャワ族のガキをカツアゲして頂戴したもんだ。 遠慮しねえで取っとけ」
 「やっぱりな」
 「ところでよぉ。 イノシシって悲しいほどにキャラが少ねえよな」
 「そおっすねえ。 年賀状書く人が少なくなったとはいえ、年賀状派には悩みのキャラでやんすからね」
 「ヒツジもキャラクターは少ないけど、いくらでも可愛く書けるのに対して、イノシシは地味だし、あまりチャラくしたらイノシシに見えなくなっちゃうでやんすからね」
 「イノシシで何かキャラクター思いつくけ?」
 「まあ、『ライオン・キング』のプンヴァでやんすかね? ローソンで印刷してたなあ」
 「あれは可愛いな」
 「あとは『もののけ姫』の乙事主(おっことぬし)とか」
 「おめえ、あれは話の中でタタリ神になるキャラじゃんよ。 縁起悪くねえか?」

 「石ノ森プロにまで間口を広げたらもっとあるでやんすよ」
ジシャクイノシシ 
 「ジシャクイノシシ!」
 「かっこいいよなあ。 V3の初期に出てくる怪人はだいたいがシブいよなあ」

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 「イノカブトン!」
 「ゲルショッカーの二種合成怪人は言われなきゃ、ナニとナニが合体したのか分からんのがあるよな」
 「カブトムシに寄りすぎてねえか? ツノのインパクトに食われてるじゃん」

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 「ドクロイノシシ!」
 「ほぉ・・・・・いや、わからん! ドクロでもないしイノシシですらないっ!」
 「V3の『キバ一族編』以降の怪人はグズグズだもんな」

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 「イノシシブライ!」
 「『変身忍者 嵐』のな。 ザ・イノシシ怪人の見本だな」
 「う~ん・・・・・ ヒネリがないっ!」
 「ジャバ様は厳しいなあ」


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 「やっぱ、イノシシ・キャラの一番は俺らだな」
 「だから、おめえらよ。 イノシシ年の今年は一層精進しなきゃなんねえぞ」
 「がんばります。 これからもジャバ様の護衛を一生懸命やらせていただきます」
 「よし。せっかくの正月じゃん。 おめえら、なんか芸やれ」
 「え~っ」
 「退屈じゃんよ。 ほれ、さっさとやれ。 さっきお年玉やったじゃんよ」
 「それとこれとは」
 「泥棒。 金返せ」
 「無茶苦茶だな」   「正月早々ストライキでもするか」
 「なんだよ、つまんねえなあ・・・・ あっ!そうだ」
 「なんすか?」
 「映画だ。 映画、観に行こうぜ」
 「ああ、いいっすね」   「行きましょう、行きましょう」
 「そのかわり」
   「はい?」
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「おめえらのオゴリでな」 


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「・・・・・・・・。」




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「セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー」

キューバのアマチュア無線愛好家と、ソ連崩壊による政変のために宇宙ステーションから帰還できなくなった宇宙飛行士との友情を描く、実話をもとにしたハートフル・コメディ。

1991年。 前年のベルリンの壁崩壊を皮切りに、ソビエト連邦をはじめとした社会主義国陣営の政治情勢が怪しくなり、その余波の直撃を受けたキューバは深刻な経済危機に瀕していた。
キューバの大学教授セルジオはモスクワの大学でマルクス主義を学んだ共産主義者であるが、いつ何時変わるかもしれない国政の状況を知るために趣味のアマチュア無線を利用してアメリカの無線仲間ピーターと交信してはキューバで報道されることのない情報を得ていた。

やがてソビエト連邦でクーデターが発生し、それがどうやら失敗したらしい。
ソ連の国際宇宙ステーション「ミール」に長期滞在中の宇宙飛行士セルゲイは母国の政変により、事情を詳しく知らないまま帰還の無期限延長を宣告されてしまう。

間もなくして、キューバのセルジオは偶然にも宇宙から呼びかけ続けるセルゲイの声を無線で拾い、短時間の交信に成功する。
宇宙とつながったことに興奮するセルジオと、ロシア語で雑談を交わせることに安らぎを覚えるセルゲイ。
何度か交信を繰り返すうちに、やがて二人は国境も身分も越えた親友になっていく。

12月。 ソビエト連邦が崩壊して国はロシアとなった。
不安のあまり早く家族のもとへ帰りたいというセルゲイのためにセルジオは一世一代の妙案を思いつくが・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「国と国の間の「国境」というルールは否定しないけど、人と人との間には国境の壁は築けない。 すごく考えさせられるなあ」
 「政治のカヤの外に置かれたまま宇宙にいるソ連の人を、地上の異国の人が、それもキューバ人とアメリカ人が救ってあげるんだね」
 「キューバのセルジオは共産主義者だけど、第一は家族であって、大局的に物を見れる人だね。 弟なんか国外脱出用の舟を作ってたし」

 「キューバの公安もアメリカのCIAも、無線を使いながらやってることは盗聴という、この対比が面白い。 国家はセコいマネをしてて、個人はスケールの大きいことをしている。 この構図の物語はよくできてるよ」
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「おまえら、普段から俺の悪口言ってんじゃねえだろうな。 いつどこで盗聴してるか分からねえから気をつけろよ」

 「これだもんよ」



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「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」

鹿野靖明(1959~2002)。
筋ジストロフィーという難病を患い、ほとんど体が動かない彼は、それでも病院に留まらず、多くのボランティアを自分で集めて、自由気ままに人生を謳歌し、まっすぐに生きてきた。
北海道に実在した、ある一人の身体障害者の力強い人生を描きながら、彼が介助やボランティアに対する考え方に一石を投じたメッセージに共感を覚えずにはいられない感動作。

動かせるのは首と手だけ。
誰かの助けがないと生きていけない鹿野(大泉洋)は病院を飛び出し、札幌市内のケア付き住宅で、大勢のボランティアに囲まれながら風変わりな自立生活を送っている。
わがまま言い放題。 ずうずうしくて、思いつきの要求だけでボランティアを振り回す。
ボランティアが遅刻したり、ドタキャンしたり、失敗をしても、容赦のないダメ出しが鹿野の口から飛ぶ。

そんな鹿野を世話するボランティアの一人である医大生の田中久(三浦春馬)。
その田中の恋人である安堂美咲(高畑允希)はカレシの様子覗きに鹿野宅を訪れた。
それがきっかけで美咲もまたボランティアの一人になり、当初はわがままばかり言う鹿野と衝突したりもするが、次第に二人の絆は強くなっていく。

一方で田中は医師を目指す志が揺らぎ始め、鹿野は病状が悪化し、声を失うリスクがあっても気管に人工呼吸器を付けるか、否かの選択を迫られていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「これもまた色々教えられる映画だね」
 「鹿野さんのスタンスは誤解されるかもしれないけど、「生きていく」ということに遠慮しちゃいけないし、介助する方される方も、もっと正直な思いを交わし合おうということだね」
 「障害者の人は周りの健常者に迷惑をかけたくないと思ってるんじゃないだろうかとか、健常者が無闇に手を貸したりしたら、障害者を哀れんでるように見ていると思われないかとか、双方に変な深読みと言うか余計な遠慮があるよね」
 「確かに鹿野さんは、病院のベッドに縛られるような生き方ではなく、できるだけ普通の人生を望むんだけど、どうにもできないところはどんどん頼る。 そのためのボランティアだし、頼みごとをするのは当たり前。 ボランティアも頼られてナンボ」
 「助けてほしい時は助けてと言う。 なんたって“家族”のようなもんだから」
 「昨年の“スーパーボランティア”と言われた尾畠さんのこともそうだけど、『当たり前のこと』なんだ、普通のことなんだよ。 そこに介助者と被介助者の遠慮なんかあったってしょうがない。 『助けて』と言うのも当たり前。 助けるのも当たり前。 それが美談にならない社会が理想なんだ」
 「鹿野さんが、いよいよ危ない時になって、主治医の野原先生(原田美枝子)に『助けて』というシーン。 そして鹿野さんが唯一遠慮して頼らなかった相手であるお母さんへの想い。 わずかに動く手でお母さんと手を握り合うシーンに激泣。 これこそが、『うわ、なんかグッときたぁ!』だな」
 「出番は少ないけど、綾戸智恵さんがいいんだよなあ」
「大泉洋があちこち引っ張りだこになる理由がこの映画にある。 あの役作りはあっぱれだ」

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「おい、おめえら。 俺の足腰が動かねえようになったらちゃんと面倒見ろよ」
 「ジャバ様に足腰があるようには見えませんが」
 「失礼だな。 よし、おめえら、バナナ買ってこい、バナナ」
 「こんな夜更けに・・・。 ってかジャバ様、バナナなんか食べるんですか?」
 「食べねえよ」
  「でしょうな」



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「アリー/スター誕生」

スターの座から堕ちていく男。 スターへの階段をかけ上がる女。
二人の悲恋を描いた珠玉のラブストーリー。
37年、54年、76年と過去三度も製作された名作。 4度目の今回はレディー・ガガとブラッドリー・クーパーの共演。 しかもブラッドリー・クーパーの監督デビュー作でもある。

世界的ミュージシャンのジャクソン・メイン(ブラッドリー・クーパー)。
だがアルコールとドラッグにのめり込み、もともと悪かった片耳の難聴も徐々にひどくなりつつある彼はギリギリの状態でステージに上がることもしばしばだった。
そんな時、ふらりと寄ったバーでジャクソンは力強く美しい歌声で「ラ・ヴィアン・ローズ」を熱唱する女性と出会う。

シナトラ好きの父と二人暮らしのアリー(レディー・ガガ)は歌手になって大きなステージに立つのが夢だ。
昼はウェイトレスとして働き、夜はバーで歌う。
スターになりたくとも容姿をほめてくれる業界人はおらず、自分に自信が持てないままでいたアリーはバーで大スターのジャクソンと出会った。
夢をあきらめかけていたアリーに「やってみなければ分からない。 何かを伝えるのが君の使命だ」と諭すジャクソン。
二人の仲は急速に近づき、やがてジャクソンのライブに招待されたアリーは飛び入りでステージに立って歌声を轟かせる。

その歌声はたちまち話題になり、アリーは本格的に歌手としての道を歩み始め、スターへの階段を瞬く間にかけ上がっていく。
そして激しい恋愛を経て結婚したアリーとジャクソン。
だがジャクソンのアルコール依存症はひどくなる一方で、遂には妻の晴れの舞台で取り返しのつかない醜態をさらしてしまうことになる。

まだまだ大スターへのさらなる高みが望める妻に、夫の自分がしてあげれることは何か。
もはや歌の世界での使命は終わったジャクソンはある決断を下すのだった・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「レディー・ガガって、演技もうまいねえ。 意外と普通のベッピンだよね」
 「ブラッドリー・クーパーも歌がうまい。 それ以上に監督の才能があったのが驚きだ」
 「過去の3作とは細かい設定が違うけど、おおまかなストーリーは一緒だし、最後はどうなるか分かってるんだけど、でもやっぱり感動しちゃうよね」
 「バーブラ・ストライザンドの76年版もあれはあれで良かったけど、このガガ版も遜色なし。 エモーショナルでパワフルなスピリットを湛えた楽曲が作品を包むオーラをより輝かせてるね」
 「転落していくスターの男と、スターになっていく女の人生が交差するラブストーリー。 男女が逆だったら観るに堪えないけど、なんというか、男の嫉妬が全然見苦しくなく、むしろ情の濃い悲哀がジンワリ染みてくる」
 
「あの方法しかなかったのかとは思うが・・・・」
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「♪ Don’t want to feel another touch~ ♪」
 「歌いだしたぞ」
 「よおし、おめえら。 カラオケいくぞ~」
 「え~、もう帰りましょうよ~」
 「アホけ、これからやぞ。 俺の美声が聴ける、またとないチャンスだぞ、おめえら」
 「しょうがねえな。 付き合いますか」
 「ただし」  「なんです?」
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「おめえらのオゴリでな。 正月料金は高いぞ

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「もうイヤ・・・」


今年もよろしくお願いします

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他にもこれ観ました withファンタビ
2018年12月30日

今年最後の記事。

今年は豪雨あり~の、地震あり~の、台風あり~ので大変な一年だった。
そんな2018年も、もう残りわずか。


暮れも押し迫る某日。 寝床で惰眠をむさぼっていたアッシのもとに訪問者がやって来た。
これは真冬の夜の夢。

ピンポ~ン
「へい、どなたさんでござんしょ?」

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「こんばんわ。 ニュート・スキャマンダーだよ」
「やあやあ、これはこれは。 どうぞ、お上がりくだせえ」
「ごめん遊ばせ」
「今、お茶を淹れますさかいに」
「どうぞお構い無く」
「本日は何か?」
「『ファンタスティック・ビースト』の新作観てくれた?」
「拝見させてもらいましたがや」
「どうよどうよ、ご感想のほどは」

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「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」

 ★ 前作で逮捕された黒い魔法使い・グリンデルバルド(ジョニー・デップ)が脱走。
ホグワーツの教師ダンブルドア(ジュード・ロウ)からグリンデルバルドの追跡を託された魔法動物学者ニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)は友人のジェイコブ(ダン・フォグラー)と共にパリへと向かう。
魔法使いが世界を支配することを目的とするグリンデルバルドは賛同者を増やして勢力を広げ、強大な魔力を持ったクリーデンス(エズラ・ミラー)を仲間に引き込むため、その行方を追っていた。


「これって思ったより話が進みませんな」
「全5作ある中の2作目だからね。 今後の展開を踏まえて伏線などは今のうちに詰め込むだけ詰め込んでおこうと」
「過去と現在を行き来しながら、情報量も多いだけに所々「?」となる時がありましたのぉ」
「ちょっと混乱させちゃったかもね。 J.K.ローリングに次作はもうちょい考えて脚本書けって言っとくよ」
「とか言っても、なんやかんやで面白かったけどね」
「誰が一番良かった? やっぱ僕でしょ?ね?」
「あんさんは、そんなに活躍してまへんけどな」
「う~ん、そうかあ・・・。 ただでさえキャラが多いのに僕の兄貴とかダンブルドアとかユスフ・カーマとかも出てくるから出番の量も確かに少なくなったかもなぁ」
「それよりもハリポタワールドとの共有が少し濃くなってましたな」
「まあ、グリンデルバルドがメインのヴィランだからね。 ダンブルドアなしでは語れないし。 ファンは喜んでくれるだろうけど、あまりハリポタに寄せると僕の主役の意義が薄れて登場人物の一人になっちゃうかも知れないから複雑だなあ」
「それとですな。 できれば残りの3作はそんなに間隔を開けずに公開した方がよろしいかと。 ストーリーの性質上、2年おきでも長いでんな」
「そのこともローリング女史にかけあってみるよ。 まあ多分「アホか」って言われそうだけどね」


 ピンポ~ン
「おや? また誰か来たな」

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「おばんです」
「ジェイコブさんやおまへんか」
「突然訪ねてきて、ご迷惑でしたかな?」
「とんでもねえですよ。 どうぞ上がっておくんなまし」
「では遠慮なく」
「ちょうどスキャマンダーさんが来てはりますねん。 ・・・あれ?おらんな。 帰ったんかな?」
「じっとしてない奴だからね。 それよりもおたく、最近なんか面白い映画観てない?」
「唐突ですな」
「ちょっと嫌なことがあったんでね。 なんかこう、ワーッっと発散できるような」

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「斬、」

 ★ 250年間も戦がない江戸末期。
藩を離れて江戸近郊の農村で細々と暮らす都築杢之進(池松荘亮)。
しかし国内では開国か否かで揺れており、剣の腕は確かでも、まだ人を斬ったことがない杢之進の身辺も慌ただしくなっていた。
そして彼は、京都の動乱で広義のために働ける人材を探していた浪人、澤村次郎左衛門(塚本晋也)と出会う。
澤村の誘いに合意した杢之進であるが、その頃、村には無頼の浪人集団が流れ着き、村人を困惑させていた。
杢之進を慕う農家の息子の市助(前田隆成)が遂に浪人集団と衝突したことがきっかけで事態は思わぬ方向へと傾いていく・・・・・


「ほぉ、ジャパニーズ・サムライの映画ですな」
「と、申しましてもですね、250年間も戦争のない泰平な世で暮らしてきた浪人の話でござんしてね」
「なるほど。 人を斬ったことがない主人公にその時が来て色々とドラマがある訳だな」
「左様です。 刀という、人を殺す武器を手にした時の凄まじい葛藤が描かれてますねん」
「ふ~む・・・・ 暗いっ!」
「いやいやいや、けっこういい映画でおますけど」
「俺はね、今めっちゃ落ち込んでるの。 これではますます気が滅入る」
「そういえば、クイニーさんのことが気がかりですな」
「グリンデルバルドも恐ろしい奴だけど、俺にも責任がある。 ああクイニーちゃん、今頃どうしてるのやら。 そうだ、こんなことをしてる場合じゃない。 すまんが失礼するよ」
「何をしに来たんじゃ・・・?」


 ピンポ~ン
「今日はよく人が訪ねてくるのぉ」

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「初めまして。 ティナ・ゴールドスタインです」
「ああ、これは初めまして」
「少しの間、お時間を頂けるかしら?」
「いくらでも。 どうぞお上がり下せえ」
「変なことをしたら、アバダ・ケダブラで息絶えさせますよ」
「そっちから訪ねてきて、随分なことをおっしゃる」
「クリスマスにぴったりの映画はないかしら? ニュートと一緒に観たくて」
「もうクリスマス終わってまっせ」
「マジで? 闇祓いの仕事に忙しかったから、つい・・・」

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「Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男」

 ★ 『オリバーツイスト』、『二都物語』などで知られる作家チャールズ・ディケンズが執筆した名作『クリスマスキャロル』の誕生秘話。
1843年、このところ落ち目で経済的に困窮していたディケンズ(ダン・スティーヴンス)はクリスマスを題材にした物語を思いつくが出版社からは相手にされない。 当時の12月25日はとてもクリスマスを楽しむような世相ではなかったからだ。
それでも自費で出版することにしたディケンズは主人公の老人の名前を「スクルージ」と決めた瞬間に、その老人(クリストファー・プラマー)が彼の前に現れる。
スクルージと問答しながら物語を書きすすめていくディケンズだが、それは過去の記憶や父との確執に向き合う旅でもあった・・・・・


「クリスマス映画というには少々重たい映画。 ディケンズの作家としての苦労話とファンタジーが融合したヒューマンドラマですな」
「庶民のクリスマスに変革をもたらしたディケンズさん。 尊敬いたしますわ」
「スクルージと自分を重ねて、嫌ってたお父さんを許していく彼の自己啓発でもあります」
「物書きの方の苦労は承知してるつもりですけど、あまり早まったことを書かれると迷惑ですわ」
「ああ、雑誌のスペルバウンドがニュートの結婚の誤報を載せたことですな」
「まったく、振り回されたこっちがバカみたい。 そういえば妹もグリンデルバルドの口車に乗せられて。 本当に面倒ばかり掛けるのよ、あの子は」
「心配でおますな」
「そうなのよ。 あなたと無駄話してるヒマはないわ。 じゃっ、そゆことで」
「なんやねん・・・・ あっ、ひょっとしてまた誰か来るんじゃ?」


 ピンポ~ン
「ほい、来た」

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「かっこよくてすいません」
「なんや、こいつ」 
「俺のことをテセウス・スキャマンダーと人は呼ぶ」
「それしか呼び方がないからな」
「おい、誰が権力の犬だ!」
「なんも言うてへんがな」
「俺は魔法省でちゃんと仕事をしてるだけだ。 動物集めてプラプラしてる弟とは違う」
「なんか、しんどい奴やな」
「しがないノー・マジ君。 なにか面白い映画があるんなら教えろよ」
「やな、言い方」

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「マダムのおかしな晩餐会」

 ★パリに越してきた裕福なアメリカ人夫婦のアン(トニ・コレット)とボブ(ハーヴェイ・カイテル)。
セレブな友人たちを招いて豪華なディナーを開こうとするが、出席者が不吉な“13人”になってしまうことから、急きょアンはスペイン人のメイド、マリア(ロッシ・デ・パルマ)を自分の友人ということにして席に座らせる。
ところが、ボブと前妻の息子スティーブン(トム・ヒューズ)が悪乗りでついたウソのせいで、マリアを「前スペイン国王の又従妹」と思い込んだ招待客のイギリス人紳士が彼女を大層気に入って猛烈にアタックしてくる。
思いがけぬ恋に舞い上がるマリア。 美術館オーナーから不倫を持ちかけられるアン。 フランス語女教師と怪しい空気のボブ。
マリアの身分違いの恋、そしてアンとボブの絆の行方は・・・・・


「倦怠期真っ只中のセレブの夫婦が、自分たちの仕掛けたことがきっかけだったとはいえ、メイドの初々しい恋を見て、妙な嫉妬を覚えてチンケな人間性をさらけ出す物語でごぜえやす」
「どういうところに幸せを感じるかに鈍感になってしまうのが悪いセレブの見本だよ」
「トニ・コレット演じるマダムのいやらしいキャラのユニークさはもちろん面白いけど、ロッシ・デ・パルマ演じるメイドの儚いラブストーリーが最後にグッと来ますねん」
「俺とリタはあんな夫婦にならないさ、フフン」
「フフンやなくて、リタさん、確か亡くなりましたわな」
「あっ!」
「忘れてたんかい」
「失敬するよ、ノー・マジ君」


 ピンポ~ン
「今度は誰やろな?」

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「皮なしウインナーなら日本ハムのウイニー。 オムツならムーニー。 いい女といえばクイニー」
「あっ!クイニーさん。 ジェイコブさんやお姉さんが心配してまっせ」
「どうだっていいわ。 ジェイコブは私に『狂ってる』って言ったのよ。 上等じゃない」
「いやあ、それはですね、あなたを傷つける他意はなくてですね。 なんと言うてええのやら・・・」
「いい訳はいいの。 私はグリンデルバルドについていくことに決めたわ。 どうせノー・マジと自由に愛せない世界なんて私には価値がない。 これからは魔法族の時代よ」
「この先、どうなんねんやろ」
「それよりも、スカッとしたい気分だから面白い映画の話を聞かせてよ」

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「青の帰り道」

 ★ 群馬県の前橋。 7人の高校生はそれぞれの夢を秘めて卒業する。
歌手を夢見て上京したカナ(真野恵里菜)。 親と離れたくて東京へ行ってカナと同居するキリ(清水くるみ)。 「でかいことをする」と漠然と言いつつ道を踏み外すリョウ(横浜流星)。 受験に失敗して浪人暮しのタツオ(森本悠希)。 できちゃった婚で結婚を決めたコウタ(戸塚純貴)とマリコ(秋月三佳)。 現役で大学に進学して上京するユウキ(冨田佳輔)。
夢破れ挫折する者。 希望を見失う者。
それぞれ思い描いていた未来が、こんなはずではなかった残酷な現実へと転がってゆく。
やがて再び“あの場所”に帰って来た彼らが馳せる想いとは・・・・・


「めっちゃええ映画ですねん。 出演者の不祥事で一旦撮影中止になるなど紆余曲折ありましたけどね」
「夢と現実のギャップ。 そこで立ち止まった時に、いかに自分の気持ちと向き合えるかよ」
「犯罪に手を出したり、巻き込まれたり、大人の思惑に利用されたり、中には自殺する者も出てきて、目も当てられないんやけど、それでも不思議な輝きと熱がこもってる作品。 なんやかんやで若者が大人への階段を昇り始める姿は美しい」
「ベタホメね。 それじゃ、私の今回の決断は若気の至りとでもおっしゃりたいのかしら?」
「アッシからはなんも言えまへん。 でもジェイコブさんのあなたへの愛は変わらない。 それだけは言えまっせ」
「気分が悪いわ。 帰る」
「・・・・・帰ってもうたかあ。 さあお次は?」


 ピンポ~ン
「へい、どうぞ」

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「夜分にお邪魔するよ」
「おお!ダンブルドア先生!」
「いやあ、今回は大変だったよ。 そんなに動いてはいないが気苦労ばっかりでね。 ホント、身がもたないよ」
「大丈夫。 先生は110歳以上は生きますから」
「そんなに・・・・。 どんな歳の取り方をするのか、想像すると恐いな」
「サンタクロースのパチモンみたいなジジイになりまっけどな」
「なんだろうな・・・、今ちょっとだけカチンときたが気のせいかな?」
「気のせいです」 「だろうね」
「ズバリ聞きたいんですけど、クリーデンスとはどういう関係で?」
「それ今、私の口から喋ってもいいのかな?」
「やっぱ、マズいっすかね?」
「マズいだろうね。 次回のパート3まで辛抱のほどを」
「それで先生。  アッシが観た映画のことをお聞きになりたいんでっか?」
「よく分かったね」
「今夜はそんな客人ばっかりでやんして」

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「くるみ割り人形と秘密の王国」

 ★ シュタールバウム家の次女クララ(マッケンジー・フォイ)は機械いじりが好きで好奇心旺盛な女の子。
母が亡くなった悲しみに一家が打ちひしがれてるクリスマスの日。
クララは母が遺した金色の卵型の器物を父から渡される。 それには「あなたが必要なものはすべてこの中に入っている」という母からの手紙が添えられていた。
金の卵は、クララの名付け親で発明家のドロッセルマイヤー(モーガン・フリーマン)が作ったもので、中を開けるには一本しかないオリジナルの鍵を探すしかない。
やがてクリスマスパーティーが催される。 プレゼントを渡すための趣向を凝らした企画が行われ、自分の名前が書かれた糸を手繰っていったクララはなぜか森の中に出てきてしまうが、そこは4つの国に分けられた秘密の王国だった。
お菓子の国の摂政であるシュガープラム(キーラ・ナイトレイ)から第4の国を支配するマザー・ジンジャー(ヘレン・ミレン)の企みを阻止してほしいと頼まれたクララは案内役の兵士キャプテン・フィリップ(ジェイデン・フォーラ=ナイト)と共に冒険の旅に出る。


「これはもしかしてチャイコフスキーのバレエの映画化かね?」
「そうなんですが、ストーリーはだいぶ違いますけどな」
「う~ん、これはお子様向けの作品ではないのかな。 今度ホグワーツの校内映画鑑賞会にお借りいただきたいものだ」
「でもアッシは割と楽しめましたがね。 『インターステラー』でマシュー・マコノヒーの娘役をやってたマッケンジーちゃんがすっかり大人っぽくなってて可愛いのなんの」
「なるほど。 教え子のニュート・スキャマンダーも立派な大人になってくれたがね」
「さて。 先生、そろそろお帰りになります?」
「なんだそれは。 私がいたら嫌なのか?」
「いえ、いつもこれくらいで客人がお帰りになるパターンですので・・・」
「よく分からんが・・・。 そういうことなら帰るよ。 ではごきげんよう」


「さてと、次は誰が来るんかのお? ドアの前で待っとくか。 もうすぐチャイムが鳴るはずやし」
  「おい」
「・・・・・。 あれ?鳴らんな。 もう終わりかな?」
  「おい」
「・・・? 今、声が聞こえたような。 気のせいかな?」
  「おい、ここだ」
「部屋に誰かおるんか?」

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「勝手に上がらせてもらったぞ、ハナクソ君」
「ああ! いつの間に部屋ん中に!」
「この私がバカ丁寧にチャイムを鳴らしてわざわざドアから入ると思うか?」
「あんさんは歓迎できまへんな。 どうぞお引き取りくだせえ」
「そんな冷たいことを言わなくてもいいじゃないか、ハナクソ君」
「誰がビチグソだ、この野郎!」
「どんな耳をしとるんだ、君は」
「アッシと勝負したらんかい、グリンデルバルド! ケチョンケチョンにしてもうたる!」
「なかなか面白い寝言を言うね。 ノー・マジのぶんざいで何ができるのだ?」
「フン、映画の話ならいくらでもしてやるぞ」
「そうそう、それを聞きに来たのだよ」

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「暁に祈れ」

 ★ 英国人ボクサーのビリー・ムーア(ジョー・コール)は人生の再スタートを切ろうとタイに渡る。
しかし麻薬に溺れてしまった彼は、気がつけば薬代を稼ぐために闇ボクシングの試合に出続ける自堕落な日々を送るようになっていた。
やがて警察の捜査を受けて逮捕されたビリーはチェンマイの中央刑務所に収監されてしまう。
タイの言葉をろくに喋れないので頼れる者はいない。
刑務所内は凶悪な囚人たちの吹きだまりで、リンチやレイプ、殺人が横行する生き地獄だった。
一日一日を必死で生き延びるビリーだが、我慢も限界を超え、希望を見失いかけていた矢先、刑務所内の「ムエタイ・チーム」の存在を知った彼は再生をかけてチームに加わる。
ムエタイに活路を見出したビリーは外国人で初めて全国大会への出場が決まるのだが・・・・・


「これは実話なんですがね、もっとムエタイの試合のシーンが観れるのかと思ってたらそうではなく、“刑務所ってマジヤバいよ”という映画でしたな」
「刑務所には私も入っていたから気持ちは分かるよ。 あんな所には二度と入りたくないね。 まあ、私はすぐに脱獄したがね」
「タトゥーのお化けみたいなオッサンがワンサカ出てくる光景が凄くグロテスク。 アッシの感覚やけども、あれ見たらやっぱタトゥーって、ほどほどにせんと汚らしいしカッコ悪いわ」
「ノー・マジはチョイと外見をいじったくらいで自分が変わったような錯覚を起こすのだ。 身の丈に合わぬ自信を持っても何の得にもならぬ。 内臓を壊すリスクもあるというのに」
「しかし、この映画、カメラがずっと主人公の背中にまとわりつくような接写の連続。 それも拳闘のシーンでさえも引きで撮らないという徹底したスクリーン内世界の共有視点。 ラストにはビリー・ムーア本人が意外な役で登場して、ココけっこう感動」
「興味深い話をしかと清聴させていただき感謝するよ。 そうだ、君もどうかね。 私と一緒に魔法族の理想の世界を築いてみないか?」
「お断り申す」
「ハッハッハ。 冗談に決まってるだろう。 それではごきげんよう、ハナクソ君」 
「誰がチンカスだ、この野郎! ・・・・・・さて。 まだ誰か来るんやろか。 来るとすればクリーデンス君あたりかな?」

ガサガサガサ・・・・
「何の音じゃ?」
ゴソゴソゴソ・・・・
「うん? ・・・・クローゼットの裏に何かいるような・・・・ あっ!」
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「オッス!おら、フリーザ」
「ちゃうやろ。 二段階でちゃうやろ。 ってか、ニフラー君は喋れるんかいな」
「おぅ、今だけの設定だけどな」
「気を遣ってくれましたんやな」
「どうでもいいけど、オメエんち、めぼしいモノなんかコレっぽっちもねえな」
「クチ悪いやっちゃな」
「なんかこう、キラキラしたモノはないんかい」
「あっても持って行かさん」
「しけたノー・マジだな。 代わりに映画の話を聞いてやってもいいぞ」
「喋らすとこんなキャラなんか?」

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「グリンチ」

 ★ ドクター・スース原作の古典児童ファンタジーをイルミネーション・エンターテインメントが長編アニメ化。
クリスマスが大好きな人々ばかり住んでいる村フー。
一方、北の洞窟では他人の幸せが嫌いなひねくれ者のグリンチが愛犬マックスと共に暮らしていた。
特に村中の人々が幸せになるクリスマスが大嫌いなグリンチは、クリスマスを盗み出そうと計画を立てる。
その頃、フーの村に住む元気な女の子シンディ・ルーは、自分と双子の弟を育てるのに大忙しのママのために「ゆっくりできる時間」を叶えようとサンタクロースを捕獲して直接頼む作戦を練っていた・・・・・


「昔、ロン・ハワード監督・ジム・キャリー主演で一度実写化されてるけど、なんで今さらイルミネーションがこの古典に手を出したんやろか? ストーリーは知ってるし、よほど目新しいアプローチでいかんとウケんと思うけどなあ」
「どうせ、子供向けだろ? 大人が観て文句言う次元の作品じゃねえ。 そういう目線で観てから好きに抜かせ」
「確かに説明が多いけども心理描写は簡潔。 その点はキッズ・ムービーやね」
「クリスマスを盗むかあ・・・。 オイラもたくさんキラキラ物をパクってきたなあ」
「でも、あれやな。 これ観てたら改めてクリスマスの在り方ってもんを考えさせられるのぉ。 プレゼントとか派手なイベントとかではなくて、『この日だけはちょっと人に優しくしてみない?』みたいなクリスマスの過ごし方を提案しとるんよ。 そんでもってみんながハッピーになって新年を迎える。 グリンチが言うとるのはコレや」
「おい、オッサン。 このキラキラしたスマホカバーをもらっていいか?」
「話、聞いとったんかい! ・・・あっ、逃げやがった」


ここでアッシは目が覚めた。
2018年が終わろうとしている12月30日。
来年はどんな年になるだろうか。

皆様、今年もありがとうございました。
よいお年をお迎えください。

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来る
2018年12月27日

kuru_201809_fixw_234.jpgまたまたホラー映画の紹介で恐縮ですね。
こちらも「ヘレディタリー/継承」のようにタダ物のホラーではござりませぬ。

例によって、幽霊だのオバケだのが悪さをする、そこだけを「恐いよ~」と楽しみたいクライアントには向かない一品でして。
まあ、宣伝の仕方も良くないけどね。

2015年に第22回日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智の『ぼぎわんが、来る』の映画化で、メガホンを取るのは「嫌われ松子の一生」、「告白」の中島哲也。

ある夫婦を襲う奇怪な現象。
“あれ”が来るのだという。 幼い一人娘を連れていくために。
相談を受けたルポライター、そして霊媒師の姉妹・・・
それぞれが背負っている過去と罪があぶり出されてゆく中、遂に“あれ”が・・・・・来る。


予告編では名前が伏せられていましたが、「ぼぎわん」という原作者オリジナルの化け物は、悪い子を連れてゆくという、登場人物のうちの一人の故郷で語り継がれている、いわゆるナマハゲ系。

確かにクライマックスはこの化け物との対峙をメインとした、割とガッツリとエンタメな描写になっているものの、この映画の面白さはそこではなく、"あれ"に狙われる人間描写を中心にした前半部分が魅力でもあります。

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田原秀樹(妻夫木聡)は製菓会社の営業マン。
得意先のスーパーマーケットで知り合った香奈(黒木華)と結婚し、新築のマンションを購入。 まもなく一人娘の知紗(志田愛珠)を授かる。

この一見、幸せそうな家族のもとに"あれ"がやって来るのだが。

会社の同僚が奇妙な怪我が原因で謎の死を遂げ、またある日には、帰宅すると玄関にちぎられたお守りやお札が散乱していて、香奈知紗が泣きじゃくっていたという出来事があり、これは絶対に変だと不安になった秀樹は高校時代の友人の民俗学者・津田(青木崇高)を頼る。

その出来事と前後して、秀樹は祖父の十三回忌に帰省した際に、昔の幼馴染の女の子が行方不明になった事件を思い出していた。
だが、なんという名前の女の子だったか、思い出せない。
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故郷に伝わる「ぼぎわん」という化け物に連れて行かれたのだと、地元の人たちは口々に言い、そう言えば自分もあの女の子から「秀樹も連れて行かれるで。 あんた、嘘つきやろ」と言われていた記憶が甦る。
その後、奇妙な夢を見た秀樹は、その不安がずっと心の中にあったのだった。

だから、この奇怪な一連の事件は、もしかしたら"あれ"が自分を連れて行こうとしているのではと思った秀樹は、たくさんのお守りやお札を貼り付けたコルクボードを棚に飾っていたのだ。

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さて、津田からの紹介でやってきたルポライター野崎和浩(岡田准一)。
オカルト、政治、風俗・・・、カネになることなら何でもOKの彼は、恋人である一人の霊媒師を秀樹に引き合わせる。
霊媒師でありキャバ嬢でもある比嘉真琴(小松菜奈)。
彼女は秀樹の家庭のことや、さらには津田のかすかな異変も察知していた。
やがて真琴の姉で、最強の霊媒師である琴子(松たか子)も介入し、"あれ"と対峙するのだが・・・・
    

映画をご覧になった方もご存じの通り、秀樹は"あれ"に殺されます。 未亡人になった香奈も同じ末路を辿ります。
恐るべし、“あれ”。
ですが、この映画。 仕切ってるのは中島哲也ですからね。 直球のホラー映画など撮らないだろうなとは思ってましたが。
なるほど。 ホラー+「告白」風のイヤミス・ワールドを放り込んできましたか。

人の心の闇を嗅ぎつけて狙ってくる“あれ”。
そこらへんの霊媒師が束になっても敵わない最恐の魔物であります。
そんなシャレにならんモンスターと戦った日本最強のシャーマン、我らが比嘉琴子先生にご登場願いまして、今回の出来事について語り合おうと存じます。(映画の結末のことは置いといて)

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「こんにちわ、琴子です。 上から読んでも下から読んでもコトコと覚えてください」

「そんな覚え方しなくても」

「こう見えて、わたくしも忙しい身です。 なにせアチコチで色んな案件を抱えております。 長々と無駄話はできませんので、突然辞去することもある都合をご容赦ください」

「かしこまりました」

「それにしても厄介な案件でした。 これほど霊力が強くて狡猾で、尚もしつこい相手は久々です」
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「元はといえばこの男が、もう少しちゃんとした人間だったら」

「彼だけが悪い訳ではありませんが、この田原秀樹という男は笑えるほど薄っぺらい人間です」

「良く言えば天真爛漫というか泰平的というか、明るい男ですが、何の取り柄もなければ、かといって人望がある訳でもない。 責任感もないし、他人のことには興味なく自分のことばかり主張したがる。 人生そのものが極楽とんぼな奴です」

「そうですね。 何と申しましょうか。 周りの人が自分のことを一段上に見てくれてると思ってる人間がたまにいます。 『あいつ、なかなかデキるな』、『あいつ、いい奴だな』、『あいつの人生がうらやましいな』・・・と、みんなから思われてると勘違いしている“主人公思考”のカスです」

「あの結婚式も・・・。 新婦の友人がスピーチしてるのに、席を外して関係者(上司?)に挨拶に行くというあの態度。 しかも、引き出物が新郎新婦の写真入りのお皿!」

「あれには私も引きました。 違う意味で恐怖を覚えました」
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「こわいでしょ?」

「実際にもいらっしゃるんだろうけど、あれは本当に辞めたほうがいいな。 出席者たちの『いらねえ~』。 当然だよ」

「二次会で、高い声など出ないくせにGReeeeNを歌うのも身の程知らずです。 自己顕示欲の塊です」

「それは言い過ぎじゃねえですかねえ」

「イクメンを気取った子育てブログもいかがなものでしょうか」

「ブログ自体は全然かまわないんだけどさあ、嘘はいかんよね。 嫁さんを育児ノイローゼに追い込むくらい何にも協力しないくせにさ」
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「ブログの内容も、うちの子供はこんなに可愛いんだというだけの記事ばかり」

「そりゃそうだ。 子育てというほどのことなど、な~んもやっちゃいねえんだから、書くことなんかねえよ」

「それでイクメンだと、どのツラさげておっしゃってるのやら」

「ホントホント」

「いい男がパソコンに向かって、せっせとブログを書くことに血道をあげてる姿も気色悪いですね」

「・・・・・・」

「わたくし、何か気に障ることでも申しましたかしら?」

「いえ、別に」

「あんな激安な男につきまとう化け物にも逆に同情します」

「彼は自分自身が空っぽの男だと、どこかで自覚しているよね。 でも認めたくなくて余計に人を下に見たがる」

「奥様に対して『たかが一人産んだくらいで』とほざく言い草はいただけません。 命を育むことを愚弄する人間に“あれ”が憑いてくるのは自業自得というものです」
無題 kjh 
「こわいでしょ?」

「お次は奥さんの香奈さんですが」

「母子家庭で、お母様の借金を背負ってかなり苦労されてたようですね」

「その借金を肩代わりしたのが秀樹だったわけで」

「だからといって、えらそうな態度を取っていい訳ではありません。 人を助けてやったことがステータスになると思いますか? そんなことはありませんよ」
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「そんな負い目もあったので、夫のペースに付き合いながらも、育児には協力してくれない不満から段々とノイローゼになっていくんですな」

「娘の苦労など鼻にもかけなかった母親と、育児に悩む自分をほったらかしにする夫がダブって感じるのは当たり前です。 奥様には同情を禁じえません」

「しかし、秀樹が死んでからは、まるで母親の過去を辿るように自身の生活が派手になり、知紗にも愛情を抱かなくなる所が哀れですねえ」

「母親と暮らしている時期から、人生をやり直したい願望が殊更に強かったのですが、ものの見事に愛した男は貧乏くじ。 しかし、“あれ”がある意味、彼女の人生を変えるのです。 “あれ”が夫を殺してくれたおかげで、彼女の中に眠っていた自由への渇望が目覚めるのです」
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「こわいでしょ?」

「自分の話を聞いてくれる津田にフラフラとなり、知紗が邪魔になってくる。 真琴に『知紗をあげる』なんて言い出すし、野崎がくれた盛り塩の皿も足で踏んでバリッと割ってニヤニヤしてる顔がなんとも・・・」

「そう。 夫だけでなく、子供も“あれ”に連れて行ってほしいと思うようになる。 欲望に歯止めが利かなくなると魔の存在にも頼る。 でも、そういう風に変わっていったところが彼女の運の尽き」

「“あれ”というのは捨てられた愛の怨念の化身でもありますからな」
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「上司に煙たがられても仕事場に子供を連れて行ったり、幼稚園で他の子に怪我をさせた娘を叱らずに、先方の親の前で開き直る態度。 これは夫の秀樹と同じなのです。 『私ってシングルマザーとして頑張ってるでしょ?』、『私の子育て、まちがってません』。 彼女はそう言いたいのです。 軽蔑してた男と同じ穴のムジナに堕落したのです」

「それは娘を愛してるのではなくて、“自分が自分が”ということをアピールしたい、さもしい人間性ですね」

「そんな人間を“あれ”が放っておくはずはありません。 彼女も気の毒なことになりましたが」

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「琴子先生の妹さん、真琴さんですが」

「わたくしは沖縄の出身でして、シャーマンの血を継いでおります。 沖縄では『ユタ』と言いますが、その霊能力を受け継ぐのは実は家系がどうのとか、血筋がどうのとかは本当は関係ありません。 突然どこかの一般家庭にポッと生まれてきたりもするのがユタというものです」

「へえ」

「わたくしの場合は確かに血筋ということもあってユタの能力があったのかも知れませんが、妹は独力で霊能力を身につけていきました」

「それは凄い」

「なんでも私と同じでいたがる。 私の持ってる物は自分も欲しがる。 バカな妹です。 確かに自分で努力して力をつけたのは認めますが、わたくしのスキルと比べたら月とスッポン、火星とアマガエルのようなものです」

「琴子先生の凄さは承知しております」
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「口幅ったい物言いをするのは本意ではありませんが、事実、私の霊能力はケタが違います」

「政府や警察などの国家権力があなたを頼ってるくらいですからね」

「事件の捜査や、外交の裏手段としてもわたくしは力になってきました。 一切表沙汰になっていませんが、歴史の陰に琴子ありです」

「なんだかんだで自慢だな」

「真琴も確かにそれなりの力はありますが、まだまだヒヨっ子です。 それなのにあの子はわたくしと同じようなことをしたがる。 そのせいであの子は体に二度と癒えない傷を負いました。 つくづくバカな子です」

「子供が産めない体の彼女が、親から捨てられようとしている知紗ちゃんに感情移入してしまうのも無理はありませんな」

「ユタを名乗るのなら私情は禁物です。 あの子もそれくらいは分かってるでしょうに。 己の力を計れぬ者は心も弱く、その分、魔物につけ込まれて、バカをしでかすのです」
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「こわいでしょ?」

「真琴さんも“あれ”から知紗ちゃんを守ろうと頑張ってましたがねえ」

「敵もさる者。 裏をかくことには長けていて、用意周到に罠を仕掛けるのが得意な“あれ”は、やはりそこらへんの低級霊とは格が違います」

「まさか津田がねえ・・・」

「田原秀樹を心の底ではバカにしていながら、調子よく近づいて親友を気取り、いずれ秀樹のようなバカ男とは別れるだろうと踏んだ上で香奈を狙っている、下品な男です」
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「だから“あれ”にも狙われたと」

「“あれ”が厄介なのは、ターゲットを得るためのプロセスにおいて枝葉の人物まで利用して犠牲にすることです。 人間誰しも多少の心の闇はあるものです。 ですが、それもあまりにドス黒くて底のないような闇を持ってる者ほど“あれ”の格好の餌食となってしまいます」

「魔道符とはまた手の込んだマネを」

「これには意表を突かれました」

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「魔道符の影響もあって、“あれ”が凄いパワーで真琴さんたちを襲い、知紗ちゃんが取り込まれてしまいました」

「あの子の力では到底太刀打ちできない強大な魔物ですからね。 そもそも、もっと早くに私を頼っていればこうはならずに済んだのです。 その上に、田原家に深入りしすぎましたね。 バカな子です」

「“バカな子”の大安売りだな」

「今回の“あれ”のお祓いは非常に無様なものになってしまいました。 真琴と野崎があそこまで子供というものに執着するのは予想外というか、わたくしの一生の不覚です」

「子供を産むのをあきらめた真琴と、生まれるべき子供を捨てた野崎がね」

「人間は大事なことでもすぐあきらめるくせに、結局いつまでも後悔するという、まったく馬鹿げた神経を持っています。 考えを早まることを“魔が差す”と言うのは実に適した言葉であり、そんな人間の弱さに魔物がつけ込んでくるのです」
無題 kjh 
「こわいでしょ?」

「真琴さんと同棲していた野崎というルポライターなんですがね」

「どういう経緯で知り合ったのかは存じておりませんが、おそらくオカルトの取材か何かの縁でしょう。 いずれにしても難しい妹を好いてくれるなどモノ好きな方です」

「あの男もなかなか複雑な人間です」
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「昔の恋人の子供を堕ろさせたのですよね。 命を粗末にする人間など、なるほど妹にお似合いです」

「でも、そのことをずーっと引きずりながら生きてきたようですね」

「理解に苦しみますね。 ご自分で判断されたことでしょうに。 失うのが怖いから作らないのだという概念は分からなくもありませんが、彼は作ってしまったものを破壊してますからね。 何をどう繕っても彼の罪は重いのです」

「そう言われりゃグーの音も出ませんな」

「心に傷を負ったのは彼だけではありませんよ。 子供を堕ろした恋人もそうです。 この世に生まれてくるはずだったのに流された無垢な命の叫びにも、彼はきちんと耳を傾けたでしょうか。 後悔すればするほど、捨てられた方が逆に惨めというものです」

「そんな彼と真琴さんには一種の絆が芽生えたんですね」

「わたくしからすれば、ただの傷の舐め合いです。 みっともないったらありゃしない。 真琴もホントにバカな子」

「出ました、"バカな子"」
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「人間は小さな命ほど真剣に気に留めないものです。 極論ですが、我々はさして意識もせずに植物を踏みつけて歩き、その途中で蟻の一匹二匹を踏み殺してるのかもしれないのです。 でも、そんなことに心を砕く人などいないでしょう」

「そんなの気にしてたら道を歩けませんよ」

「そこまで考えろとは申しませんよ。 しかし、動物や魚を食べたり、蚊やゴキブリを殺したり、人の営みの中には幾多の小さな命の犠牲があるのは事実です。 そういう意識を少しでも心の隅に引っかけておけば命に対する見方は変わると思うのです」

「そういうもんですかねえ」

「あなた、お年寄りが寝たきりになったら殺しますか?殺さないでしょ。 でも胎児は欲しくないという理由で殺すことが許されてるのですよ」
無題 kjh 
「こわいでしょ?」

「まあ、人の事情もあるから深く考えないよね」

「小さな命ほど気に留めないというのはそこです。 誰が命の大小で生殺与奪を決めたのでしょう。 目に見えなくても触れなくても、体の中に"いる"と認識したら、それも立派な命です。 それを法のもとであろうがなかろうが殺すなどということは立派な罪ではないですか?」

「琴子先生が中絶反対派とはねえ」

「そういうことではありませんよ」

「へ?」

「あなたもおっしゃったように人それぞれの事情もあるでしょうから、私はとやかく言いません。 きっちりと水子の供養をするなり、ご自身の心に確かなケジメをつけれるのなら、他人が目くじらを立てるのは不適切です」

「しかし、さっきまであんなに・・・」

「わたくしの仕事が増えるからですよ」

「はぁ・・・」
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「血のつながった者に殺された水子が親に取りすがろうとする霊障を甘く見てはいけません。 勝手に堕ろしておいて後になってタタリだのタモリだのと騒いで、それまでは信じてもいなかった霊能者を頼って来るバカが後を絶たないのです」

「水子供養をおろそかにしちゃいけませんな」

「仕事柄、相手にしない訳にもいかないとはいえ、わたくしはホントに忙しいのです。 ですから「うっかりデキちゃったのでハイ中絶」などと命を軽んじてたら霊媒仕事が増えて増えてたまったもんじゃありません」

「そういうことでしたか」

「そういうことです。 ああ、もうこんな時間。 長々と与太話に興じてしまいました。 そろそろお暇させていただきますが」

「最後に先生」

「なんでしょう?」

「邪気を祓うのにファブリーズが効果があるというのは本当ですか?」

「あれには『トウモロコシ由来消臭成分』というのが含まれています。 『Cy=シクロデキストリン』というのですが、この成分の分子構造が魔法陣の形に似ているのです。 悪霊退散とまではいきませんが、悪いものを呼び込む気を断ち切るには一定の効果があるでしょう。 ただしワンちゃんやネコちゃんなどペットには直接ふりかけてはいけません。 病気になりますよ」

「わかりました。 お忙しいところ、たいへんありがとうございました」
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「ああ、そうそう。 申しそびれるところでした」

「なにか?」

「来ますよ。 "あれ"が」

「え?」

「あなた、有馬記念でブラストワンピースを切って大損ぶっこいたらしいですね」

「思い出したくないことを・・・」

「それはそれとして、あなた。 周囲の人にも『ブラストワンピースなんか来ねえよ』と吹聴してたそうではないですか。 おかげでどれだけの人の財布がカラっけつになったと思ってるんですか」

「そう言われてもなあ」

「この罪は重いですよ。 一応覚悟しといてください。 あなたを連れていくために“あれ”が来ますよ」
無題 kjh 
「こわいでしょ?」

     

この映画は"あれ"という魔物に祟られる人々の恐怖と、"あれ"と対峙する能力者を描く、エンタメ・タッチなホラーの一面がある一方、祟られる人々の内面に踏み込んだ人間ドラマでもある構成になっています。

ユニークなのは、全体的に流暢で開放的なタッチが大部分を占めていることです。
明らかに笑わせにかかっている演出もチラチラあることは誰もが気づくはず。
ホラーでありながら、肩のこるようなおどろおどろしさは控えめになっています。
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人間の闇に迫るドラマにしても、胸糞悪くなるようなネチっこさや気が滅入るような救いがたさがある訳でもありません。
「こういう人いるよね」っぽい下品な人間の行状を、大層な書物ではなく、カタログでも眺める感じの開けっぴろげな語りで描いており、途中で視点が変わっても、そのテイストは貫かれてます。

性根の汚れた愚人の数珠つなぎのごときドラマは、グロテスクでありながらどこか面白おかしい人間模様のパノラマで、中島哲也の過去作での人間の描き方にも通じています。

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恐怖映画としての本体である"あれ"による一連のシークエンスは確かに一応ホラーの文体ではあります。
毛虫ニョロニョロや、人体破壊に血しぶきブッシャーッ!などのグロ描写もありますし、「ヤバいことが起こりそう」な恐さを煽るシーンもあります。
しかし、こちらも「人間の闇のドラマ」同様に、およそジャパニーズ・ホラーらしからぬ押しの強さがあり、展開が進むにつれ、事がどんどん大それた方向へと走り出します。

政府が動き出し、全国から霊能力者がワンサカ集合。 マンションを封鎖して、大規模な一斉お祓いが敢行されるくだりはまるで「シン・ゴジラ」を観てるよう。
エンタメの方向に振った上に、尚も異様な戦争モードに突入する狂気の展開。
その中心に鎮座するのが松たか子です。
彼女こそが、本作の面白さの重要な核となっています。
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松たか子と言われなければ分からないほど、ヴィジュアルも喋り方などの所作も奇天烈なキャラクターである比嘉琴子
まるでAIの相手をしているかのような機械的口調ながら、観る人の誰にも強烈な印象を残します。

演じてる松たか子自身も「いかにお客さんに笑ってもらえるかが勝負」とコメントしてるように、やっぱりこの映画は笑わせにかかってたのでした。
誰もが知らずのうちに琴子のペースにはまり、彼女と一緒の目線で物語を追うようになっていることに気づくでしょう。
ホラー映画らしさを消し去り、キャラのユニークな魅力で物語を引っ張っていく、松たか子のパフォーマンスは素晴らしいの一語に尽きます。

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確かに、オチは「ハァ?」となるかもしれません。
秀樹香奈、または野崎真琴琴子と視点が目まぐるしく変わる語り口ですが、最後の最後になって知紗ちゃんの視点も加わって、この映画を観てきた我々は『オムライスの国』に放り込まれたままエンドクレジットを迎えることになります。

これは人間ドラマの部分で訴えかけている、廃れ切った現代人に課せられた自己改革です。
真琴秀樹に対して言う「奥さんと子供に優しくして」。 多くの人はちゃんとしてるでしょうが、逆ギレするほどに、こんな簡単なこともできなかった男は死んだことさえも気づかぬバカをさらけ出すのです。

今の世の中、どうしてこんなにも「優しさ」が足りないのでしょうか。
「あおり運転」? なんじゃいそれ? 命に関わるかも知れぬ危険な行為に及ぶほど、そんなに怒ることか?
ひと昔前までならスポーツ界では聞くことさえなかった「パワハラ」の噴出も、奇妙過ぎて理解が及びません。
南青山の児相問題も、困ってる子供のことより土地のブランドを気にする人間が気色悪くてなりません。

優しくなれんのか? 難しいことか?

知紗ちゃん香奈も"あれ"に狙われるのは優しさの欠如の弊害。
知紗ちゃんにとって「優しくしてほしい」というのは、知紗ちゃんレベルで言うなら「オムライスが食べたい」のと同レベルということ。
人に優しくするのは簡単なことなの。 それができないの、今の我々大人は。

スパイスは要らない。 ふんわり卵で人の心を包んであげれる気持ちが問われている。
その答えを出せるか否かを"あれ"はどこかでいつも見ているのだ。

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「賢人のお言葉」
 
「懲らしめの女神はのろまだが、足音立てずにやってくる」
 ティッブルス

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