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ミッション:インポッシブル/フォールアウト
2018年08月18日

T0022830p.jpgトム・クルーズ主演の人気アクション・シリーズ第6弾。

CIAの下部組織であるIMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のリーダーにして凄腕のエージェントであるイーサン・ハント。
世界の危機を救うためとはいえ、体の張り方がハンパなさすぎる男である。

使命感、責任感が肥大しすぎて、無茶をすればするほど恐怖を感じる神経がバカになるのか、死んだら元も子もないような肉体プレイは回を重ねるごとにエスカレートするばかり。
誰かから「潰してこい」とか「やらなきゃ意味ないよ」とか言われてるのだろうか? なぜそこまでするのか?

一つしかない命など一円玉程度にしか思っていない感覚で、口や頭脳よりも体が先走る。
そんな危険中毒の特攻野郎に世界は惚れた。
やりたきゃやれ。 もう好きなだけやれ。
イーサン・ハントに対してというよりは、そこまでして私たち映画ファンを楽しませようというトム・クルーズの破天荒さにはもう誰も文句は言わない。

トム・クルーズ。 すっかりジャッキー・チェン化した娯楽の伝道師。 サービス精神の権化。 アクション大魔王。
形容詞がいくらでも出てくるほどのエンタメの申し子トム・クルーズには感謝の言葉しかない。
いつも面白い映画をありがとう。(たまに「?」なのもあるが)

今回もやはり、スタントマンはオマンマの食いあげ。
超絶アクションに挑んだトム・クルーズの"M:I-6"。
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ブライアン・デ・パルマ、ジョン・ウー、J.J.エイブラムス、ブラッド・バードと監督を毎回代えてきたこのシリーズだが、前作のクリストファー・マッカリーが続投するという初のケース。
しかもストーリーが前作からの"続き"というのも初の形。

【あらすじ】
狂信的な科学者が作り上げた、簡単に持ち運べる小型のプルトニウム核弾頭3基。
それが今、闇商人の手にあり、前作「ローグ・ネイション」の敵だった無国籍スパイ集団「シンジケート」の残党「アポストル(神の使徒)」がそれを狙っている。
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敵の手に渡る前に取り引きに動いたイーサン(トム・クルーズ)らIMFのメンバーだが、アポストルの襲撃に遭い、危機に陥ったルーサー(ヴィング・レイムス)を救うことを優先したために、プルトニウムは敵の手に渡ってしまう。

世界3ヶ所で同時核爆発のテロをもくろむアポストルの計画を阻止すべく再びミッションに挑もうとするIMFだが、「失敗した者に任務は任せられない」とCIAのスローン長官(アンジェラ・バセット)がエージェントのオーガスト・ウォーカー(ヘンリー・カヴィル)をイーサンに張りつかせて監視する条件を突き付ける。
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やむなくウォーカーを同行させ、任務に臨むイーサン。
アポストルとつながっている“ジョン・ラーク”という正体不明の男が、慈善事業家にして裏の顔は武器商人という女「ホワイト・ウィドウ」(ヴァネッサ・カーヴィー)と接触する情報を得ていたイーサン。
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誰にも顔割れしていないジョン・ラークに成りすましてホワイト・ウィドウに近づいたものの、3つあるプルトニウムのうちの一つを持つ彼女が出した交換条件は、今は収監中の「シンジケート」のボス、ソロモン・レーン(ショーン・ハリス)を引き渡すこと。

その条件を呑み、ソロモンの脱獄に手を貸そうとするイーサンだが、それに反対するかつての仲間であるMI6の女スパイ、イルマ(レベッカ・ファーガソン)と対立することになってしまう。
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さらにウォーカーもイーサンこそがジョン・ラークではないかという疑念を深めてCIAに報告。
まさかの四面楚歌という難局に追い込まれたIMFのメンバーは果たして不可能任務を成し遂げれるのか? そして謎の人物、ジョン・ラークの正体とは?


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毎回楽しませてくれるこのシリーズだが、今回の「フォールアウト」は素晴らしい。
一番好きだったのは「ゴースト・プロトコル」だったが、本作はそれを凌駕した最高傑作。

ストーリーはプルトニウムが悪の組織に奪われてナンチャラカンチャラという核兵器ネタだし、最後は定番中の定番のカウントダウン・サスペンス。 その情報だけ耳で聞けば目新しさはないが、そもそも誰もが最後には核爆弾が爆発しちゃうかも?と思いながら観てはいないので、楽しむべきはそこではない。

要は分かり切ってる結末までいかに観客の目を楽しませるアトラクションを配置できるかなのだが、本作はそういったエンタテインメントのボリュームやバランスが抜きん出ている。
スカイダイビング、格闘、車、バイク、ヘリコプター、崖・・・・ まるでテーマパークのアトラクションを順番に周っているかのようなウキウキ感満載の構成は、アクション映画かくあるべきの一つの到達点ともいうべき素晴らしいものがある。
とにかくアクションの迫力、面白さは太鼓判の逸品だ。

ミシェル・モナハンを後半に登場させてイーサン・ハントの「任務に犠牲は付き物か否か」の葛藤に迫り、「苦しみの後に平和が訪れる」という敵側のポリシーと対峙する英雄の苦悩にも迫ったドラマも魅せる。
「あなたがいるから安心して眠れる」というジュリアの一言はウルウルもの。

しかし、一にも二にもトム・クルーズに尽きるであろう。
本物のアクションにこだわり、四捨五入すれば還暦となったその体に鞭打って、観客を楽しませようという表現者のスピリットにはあらためて敬服する。


【 Mission in TOM 】
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トム・クルーズのもとに一人の男が現れ、トムと男は暗号めいた意味不明なやり取りを交わした後、男は一冊の本をトムに渡して帰って行った。
本はホメロスの『オデュッセイア』である。
トムが表紙をめくると、本の中にはテープレコーダーが入っており、自動的に回り出したテープから声が流れてきた・・・・

Mission Impossible tape recorder 
【 Mission 1 折れた足を6週間で治せ 】
おはようフェルプス君。 じゃなかった、クルーズ君。
あっ・・・ひょっとしてオハヨーじゃなくて、こんばんわか? まあ、どうでもいい。
さて、このたび君は映画の撮影中に足をバッキリやってしまったらしいな。
ロンドンでビルの屋上から隣のビルへと飛び移るシーンを撮影していたらしいが、着地に失敗して右足の距骨がバキバキに折れていたらしいではないか。
全治9ヶ月。 それは重症だな。
さぞ痛かっただろう。 まあ、ゆっくり休んでくれたまえ・・・などと言うと思うかね?
映画の公開日も正式に発表してしまったし、スカイダンス・プロダクションズも真っ青になっている。
そこで今回の君の指令だが、全治9ヶ月というその足を2ヶ月以内で治すことだ。
医学的に完治させろとは言わない。 残っている撮影シーンはまだ少しだけ走らなければならない。 それをこなせる程度回復すればいいのだ。
君ならやれると信じている。 健闘を祈る。
例によって君、もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。
なおこのテープは自動的に消滅する。


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日本でも大きく報じられたトム・クルーズの撮影中の事故。
ビルとビルの間が9.92メートル。 ほぼ10メートル。 相当な距離である。
ワイヤーをつけていたとはいえ、リアリティを出すためにかなりの勢いをつけてジャンプしているだろう。
落下スピードからして壁にぶつかった時の衝撃は見た目以上ではないか。
よくアバラをやらなかったなと思う。

全治9ヶ月という重症で、撮影の遅れが懸念されたが、「いや、そんなのいいから無理せずに休めばいいじゃないか」と思うのは一般トーシロの感覚。
現場で体を張ってナンボのプロフェッショナルにそもそも失敗は許されない。 トム・クルーズだってその覚悟だったはず。
だが、やってしまった失敗に対してきっちりケジメをつけたトムはさすがだ。
9ヶ月は走れないと言われていたものを何百時間ものリハビリをこなして6週間で走れるように持ってきた。
これぞインポッシブルをポッシブルにしてしまうトムのプロ魂。

ジャパンプレミアで来日したトムのコメント。
「骨を折りました。 とても痛かったんです」
子供の夏休みの日記のようなコメントに誰もが「分かっとるわい」と突っ込んだのは言うまでもない。


Mission Impossible tape recorder 
【 Mission 2 高度7620メートルからダイビングせよ 】
おはようフェルプス君。 いやちがった、クルーズ君。
今度の映画ではイーサン・ハントとウォーカーがパラシュート降下でパリに潜入するシーンがある。
敵地に空から潜入する場合、飛行機などが相手のレーダーに引っ掛かっては元も子もない。
故にレーダーを避けて、かなりの高度からダイブするのだが、これが特殊部隊で用いられる方法、「ヘイロージャンプ」である。
その高さは7620メートル。 通常のスカイダイビングの高度がだいたい4000メートルくらいと思ってくれれば分かってもらえるだろう。
そこで今回の君の指令だが、ズバリ、ヘイロージャンプを飛ぶことだ。
少なくとも100回のジャンプの訓練が必要とするし、言うまでもなく危険な任務だが、君ならやってくれるだろう。
例によって君、もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。
なおこのテープは自動的に消滅する。


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「ヘイロージャンプ」。 週刊ヤングジャンプ、Vジャンプ、最強ジャンプの様なジャンプの派生誌ではない。
「高高度降下低高度開傘(こうこうどこうか・ていこうどかいさん)」と呼ばれるそれは、1万メートルあたりの上空からダイブし、自由落下して、地上から300メートル以下のところで開傘する潜入作戦用の降下方式。
敵のレーダー網を避けるためには飛行機の高度はもちろん、開傘している時間の短さも重要なのである。

ほとんどの撮影が終わり、あとはこのシーンを残すのみとなった今年の2月。
まだ骨折が完治していない状態でトムはこの撮影に挑んだ。
100回以上の訓練をマスター、といっても少ない方らしいのだが。

こういった空中撮影はなかなかうまくいくものではない。
トムはただ降下するだけでなく、雷に打たれて意識を失ったウォーカーを助けにいくという演技もしなければならない。
絶好の太陽光が得られるのはほんの3分程度。 それまでに数回のリハーサルジャンプを経て本番に挑む。

「トリプルX:再起動」や「GODZILLA ゴジラ」などでも実績のある空中写真家クレイグ・オブライエンがIMAXレンズのついたカメラをヘルメットに装着して撮影しているのだが、ピントを合わせるのも難しいし、トムの動きも読まねばならない。
もちろん一発OKではなく何度もテイクが重ねられているとはいえ、このシーンのカメラマンの働きは凄すぎる。

ノーカットのフリーフォール。 緊張と迫力の魔法が躍動する。
ヘイローもできるヒーロー、それがトム・クルーズ。


Mission Impossible tape recorder 
【 Mission 3 パリの街でブイブイ走ったれ 】
おはようフェルプス君。 あっ、また間違えた。 おはようクルーズ君。
今回の君の指令は実に簡単だ。
君のお得意のカースタントだ。
このシリーズの売りというよりはスポンサーのBMWの宣伝のためにカーチェイスシーンは絶対組み込まねばならない。
86年タイプのM5とバイクはR nine T スクランブラー、それと装甲車も一台用意した。
思う存分走ってくれたまえ。
例によって君、もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。
なおこのテープは自動的に消滅する。


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今回のカーチェイスは車もあるが、それよりもバイクのチェイスがすこぶるカッコいい。
パリの観光名所を中心としたメインストリートをトムの駆るスクランブラーが一般車両をスイスイ交わしながら警察の追跡を振り切っていくシーンは、多分凄いものを見せてくれるんだろうなと思っていても、やっぱり度肝を抜かれる。

パリの凱旋門を中心にオペラ通りまで、日曜の朝6時から2時間までの時間帯を封鎖。
テロなど何かと物騒なことが起きているのに、協力してくれたパリには感謝。

70台ものスタントカーが使用されているが、トムが避けているように見えて、うまくかわしているスタントドライバーのテクも素晴らしい。

顔を見せてなきゃ意味がないとはいえ、ノーヘルでこのチェイスをこなすのは無謀極まりない。 スッテンコロリといけば一巻の終わりだ。
良い子も、良いオッサンも真似してはいけない。


Mission Impossible tape recorder 
【 Mission 4 登れ、そして落ちろ 】
おはようフェル・・・おっと危ないところだった。 おはようクルーズ君。
毎回、シリーズを観てて思うのだが君はやたらに高いところが好きだ。
バカと煙は何とやらと言うが、そういうイヤミではない。
「ゴースト・プロトコル」のブルジュ・ハリファや「ローグ・ネイション」での輸送機しがみつきもナイスジョブだった。
観客に視覚的な臨場感と恐怖感を与えることのできるのは「高所」を置いて他にない。
君はそこんところのサービス精神をよく分かっている。
そこで今回の君の指令だが、ヘリコプターから垂らされたロープをよじ登り、一度機体にしがみついた後、落下してロープに固定された荷物の上に激突するというスタントだ。 楽しそうだろ?
例によって君、もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。
なおこのテープは自動的に消滅する。


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確かにブルジュ・ハリファやエアバスと比べれば、上空600メートルのアクションはさほどでもない。
そう感じてしまうのは、我々の感覚もバカになっているのかもしれない。

まず荷物をぶら下げてバランスを取っているヘリの操縦士も大変である。
真っ直ぐ飛んではいても、風などでちょいと機体を振ってしまうとトムの危険度はぐっと増す。

ヘリのローターが回っている下は空気が薄くて息をするのが難しい。
しかも寒いので血のめぐりが悪くなり、ロープをよじ登る時、足の感覚がなくなってくるのだそうだ。

そして今度は12メートル下の荷物に落下するのだが、これもうまく背中からいかないと怖い。 頭から落ちたら終了だ。
バカでも煙でも、ましてや、おだてられたブタでもこんなことはできまい。
スターだからこそ上を目指す。 だがトムはマジの上を目指す。


Mission Impossible tape recorder 
【 Mission 5  ヘリ操縦しちゃいなよYOU 】
おはようクルーズ君。 アッ言えた! 俺スゲー。スゲーよね? ねっ?
いや、なんでもない。
さてクルーズ君。 君は飛行機の操縦免許を持っているが、ヘリコプターの免許はまだだそうじゃないか。
ヘリコプターはぶら下がるもんじゃない。 乗るものだ。
千昌夫だってヘリの免許を持ってるんだぞ。 君も免許を取ってヘリを操縦して今後の仕事の幅を広げるといい。
そこで今回の君の指令だが、ヘリの免許を取得し、ヘリコプターのチェイスシーンを撮影するのだ。
ウォーカーが乗ったヘリとの追撃戦。 これはド迫力の画が撮れるぞ。
例によって君、もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。
なおこのテープは自動的に消滅する。


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なぜ彼はこうも、なんでもかんでもできてしまうのだろうか?
トム・クルーズがヘリの免許を取るためにイギリスで訓練を受け始めたのが2016年3月。
彼は計2000時間もの操縦訓練を受けたらしいが、ヘリの飛行時間はせいぜい3時間。 これを不休で毎日訓練しても1年10ヶ月かかる。
彼のようなオイソガ氏はもっと時間がかかるだろうに、このロケが行われたのが昨年の7月。 つまり彼が骨折する直前である。
時間的に合わないはずだが、一日にもっと飛んでたということだろうか。
いや、それでも凄い集中力と吸収力だ。
ひょっとして密かにどこかの空港で無免で練習してたとか?

ともかくもクライマックスのヘリコプターチェイスはアクロバットの連続。
スパイラル、低空飛行、ウイングオーバーと、少し前まで免許も持ってなかった人間のすることではないような荒業をやってしまうトム・クルーズ。
なんなのだ?この男・・・


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【 Mission 6 サスペンスのシメは崖だ 】
おはようフェルプス君。 あっ、油断した! ウーン、このクセなんとかならんのか・・・
いや、こっちのことだ、おはようクルーズ君。
さて、サスペンスのクライマックスの舞台といえば、君にもピンと来るだろう。
「火曜サスペンス劇場」、「土曜ワイド劇場」で切っても切れないもの。 片平なぎさの大好物。
そうだ。崖だ。 君もこういう場所は好きだろう。
そこで今回の君の指令だが、物語のシメは断崖絶壁でやってもらう。
船越英一郎も神田正輝も若林豪もいないぞ。
落ちたら一巻の終了の崖でヘンリー・カヴイルとイチャつけばそれで全ての任務が終わる。
ここまでよくがんばってくれた。
例によって君、もしくは君のメンバーが捕らえられても当局は一切関知しないからそのつもりで。
なおこのテープは自動的に消滅する。


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このシーンはノルウェーのプレーケストーレンという観光名所で撮影されている。
垂直の壁の高さが600メートルという一枚岩。 頂上は25メートル四方の正方形。
その形状からノルウェー語の「演説台(プレーケストーレン)という名が付いている。

岩肌が凍ってしまう冬になる前の秋に撮影を間に合わせたとはいえ、やっぱりこういう場所は観光で来てナンボ。
いい大人が飛んだり跳ねたりする所ではない。
トムもまだケガから復帰したばかりの時期に撮影に臨んでいるが、つくづく彼の肝っ玉には感心する他ない。


危ないことをしないと寝付けない「危険ジャンキー」なのか、どこかの神経がおかしくなってて、「危ない」という感覚が消失してしまっているのか。
いずれにしても、トムがこういった危険に身をさらすのも、すべてファンを喜ばせるため。
もうあんなケガは二度と御免こうむりたい。
無理をしないでほしいという気持ちも半分、今度はどんなアクションを見せてくれるのかと期待してしまう気持ちも半分ある。

とは言え、このシリーズのアクションは、もう行き着くところまで行ってしまってるのではないか。
この一本だけでも満腹になるが、過去作も含めて、やれるアクションはやり尽くしてしまったような気もする。
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視覚的に大変さが観客に伝わるようなアクションには限りがある。
高さとスピード。  走る・飛ぶ・落ちる。 これなら一般の人も遊園地などで味わっており、その感覚が刷り込まれているからこそ、トム・クルーズがやってきた一連のアクションもリアルに楽しめる。
ただし、もうネタがそろそろ切れてもおかしくない。

そりゃCGを使えば、さらに凄いものもできるだろうが、もはやそれをやっちゃったら周囲が許してくれないところまで来てしまった。
多分7作目の続編も制作されるのであろう。
トムのことだから色々とアイデアは練っているはず。 そして「よくそんなことをやろうと思いつくなあ」と私たちを呆れさせてほしい。
すっかり抜かれたはずの度肝をもっと抜いてほしい。
そしてくれぐれも体に気をつけて。

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アクションだけではない。
さすがはスパイ映画だけあって、敵をまんまとハメる仕掛けは観客にも「完全ネタ伏せ」で進行するため、観ているこちらもすっかりダマされたと知った時のカタルシスは爽快。
アクションに気を取られるためか、毎回このシリーズで「変装ドッキリ」を見せつけられた時の「やられた感」はいつのまにかどこかへ飛んで行ってしまうが、裏切り者をあぶり出すための「変装の逆ドッキリ」はお見事。

前半の病院のシーンで、「8時だよ!全員集合」を思い出した人は多いのでは? えっ?アッシだけかな?


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「さあ、映画を観終わったところで、どっかメシ行く?」
「えーっ?もう一回観たいわ。 トム・クルーズってやっぱカッコいいわよねえ」
「サイモン・ペッグも良かったよね」
「サイモン・ペッグ? そんな俳優出てたかしら?」
「出てただろ。 なに観てたんだよ」
「あ~、あの宇宙人みたいな顔の。 なんの役だったかしら? 捕まった宇宙人だっけ? ・・・どうしたのよ、なに怖い顔してんのよ」
「うるせえ。 さあ、とっとと撤収撤収」
「ねえ、アレック・ボールドウィンのCIA長官、死んじゃったわよ」
「そうだな、いい人だったのになあ」
「後釜はアンジェラ・バセットが演じたスローンのオバチャンかしら? でもハンリー長官が死んだのは、半分は彼女の責任のようなもんよね」
「まあ、そうとも言えるけれども」
「あとさ、イーサンとウォーカーがトイレで闘った中国人って、めちゃくちゃ強かったわね。 脇役のキャパ超えてたわよ」
「ステゴロになればアジア人はハンパねえからな」
「今回は珍しくトリプルヒロイン。 ミシェル・モナハン、レベッカ・ファーガソン、ヴァネッサ・カーヴィー。 やっぱりレベッカ・ファーガソンはイイ女よね」
「そうかなあ? 俺は新顔のヴァネッサ・カーヴィーが断然好みだね。 アヒル口って可愛いよなあ、テヘヘ」
「テヘヘじゃないわよ、あなた。 レベッカ・ファーガソンの良さが分からないのかしら?」
「う~ん、なんだかさ、“ワレ、しばいたろか”みたいな目つきしてるじゃん? ちょっとキツい顔だよね。 ・・・あれ? なにキツい顔してんの?」

「ワレ、しばいたろか、マジで」

無題 oi; 
「ご愁傷さま」

ええオナゴじゃのぉ、ヴァネッサ・カーヴィー。 えっ?トム・クルーズと噂になってる?
けしからーん! もう一本、骨折れー!


「賢人のお言葉」
 
「偉大な行為は、たいてい大きな危険を冒して成就する」
 ヘロドトス
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スターリンの葬送狂騒曲
2018年08月13日

T0023061p.jpg今、世界ではなぜか独裁者の国家が急増しているように思えるのは気のせいだろうか。
独裁者はキャラ立ちしている人物が多いので、メディアが面白がって取り上げているだけかもしれないが。

任期を撤廃した習近平も、任期があってないようなプーチンも立派な独裁者。
もちろん、北の将軍様も、一時メディアを賑わしたフィリピンのドゥテルテも強烈なキャラであるし、先日選挙が終わったカンボジアのフン・センなどは30年以上も実権を握っている。

独裁政治が何もかも悪いわけではない。
物事ひとつ決めるのになかなか話が進まない議会民主制と比べれば、独裁者ひとりが「明日からこうしろ」とひとこと言ったら、すぐに実行されるのがメリットと言えばメリットだ。
しかしそれは指導者が有能で人間的にできていて、全ての民に効能が高い政治を打ち出せばの話だが。

しかし、そんな良心的な独裁者がいたかどうか。 イメージは正直あまりよろしくない。
自分一人で何でも決めれる権力を個人に与えるのがどれほど危険か。
それだけ「権力」というものが蜜の味だからだ。 手放したくなくなるのだ。
それでも、過去に独裁者の国がうまくいかなかった歴史を本人だって知っているので、自分はそうなりたくないという恐怖が先に立つ。

だから、人が自分をどう思ってるかを余計に気にする。 というよりはビクビクする。
ゆえに不満分子を徹底的に排除することに取り憑かれてしまい、こうしてシャレにならない数の虐殺や粛清の黒歴史が刻まれることになる。

虐殺、粛清・・・ 独裁者とは切っても切れない行事。
ヒトラーしかり、毛沢東しかり、アミン、ポルポト、レオポルド2世・・・・
そして、もうひとり、この男。
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岡田真澄!(ファンファンと呼んでね)
ちがーう! 
クワマン!(箸の持ち方えぐい!)
それもちがーう! もとい。

ヨシフ・スターリン(1878~1953)
レーニン亡き後、激しい権力闘争の果てに、1924年ソビエト連邦の最高指導者の座に就いたスターリンは今日も明日も明後日も趣味の様に粛清をやりまくった。
その数、およそ二千万人とも言われる。

ロシア人ではなくてグルジア人であり、しかも背が小さかったことからコンプレックスのかたまりのような男だった。 もともと人間不信がひどかったが、最高権力者になってからは特にひどくなり、他人に対する残忍さはますますエスカレート。
人を信用することを知らず、「自分の周りにいる者は敵だ」という妄想に悩まされていたという。
臆病であり、猜疑心のかたまりであり、そしてサディスティックな権力者。 死人の山ができるのも無理はない。

殺した政敵は数知れず。
部下に対しても、質問に即答できなかったり、意見を返すような者は即粛清。
神学校時代の牧師から「目が動くのは、よくないことを考えてる証拠だ」と教えられたことを信じていて、会話中に目をそらした人物でさえ「ハイ粛清」である。
自分がそういうキャラだと承知してたのだろう。 側近には何かと言えば「粛清」をチラつかせて、相手がビビるのを楽しんでる節があったという。
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側近も大変だっだが、兵士も災難だった。
敵の捕虜になった者は基本、見殺しにされ、生きて帰ってきても「おまえはどうせスパイだろ」という嫌疑をかけて、帰還兵は片っ端から処刑された。
自分の息子がドイツ軍の捕虜になった時も、交換交渉にも応じず放ったらかし。 結果息子は収容所で自殺したと言われている。

とにかく気に入らない奴はとことん殺しまくった仁義なき粛清マシンには、周りの誰もがビビりまくり、何も言えなかった。

ボクシング連盟の会長など可愛いもんである。
あんなマンガじみたチンピラよりは、スターリンこそあのセリフがよく似合う。
「私は歴史に生まれた"歴史の男"でございます」 ふ~ん・・・・・いや意味わからん!

神をも恐れぬ独裁者。 悪魔も恐れる殺戮者。
そして、ある日突然、その男は死んだ。 脳卒中だった。
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1953年3月5日。 スターリン死去。
クレムリンは一気にざわついた。 後継者は誰?
大将が大将なら子分も子分。
粛清の対象にならないようにスターリンの機嫌を取るためには、他人を貶めることもやってきた奴らばっかりである。
みんなが腹に一物を抱え、互いに信用していない敵同士の様なものだった。

突如降って湧いた椅子取りゲーム。  それを制したのは・・・
スターリン死後の後継者争いのすったもんだを面白おかしく描いたフランスのコミックがイギリスで映画化。
ロシアの役者など一人もおらず。 全編英語。
実話でありながら悪意満々にデフォルメされたブラックコメディ。
ロシアでは上映禁止になった問題作。

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ラジオで生放送されている、とある演奏会。
モーツァルトのピアノ協奏曲第23番を弾くのはマリヤ・ユーディナ(オルガ・キュリレンコ)。
力強い打音が特徴の天才ピアニストであるが、強気な言動や奇行でも有名な「鉄の女」である。

スターリンマリヤの大ファンである。 彼の神推しのピアニストなのだ。
だが彼女の方はスターリンが大嫌いだった。
たびたび政府に対する批判を口にしては音楽活動を制限される憂き目にあったが、不思議と粛清されるまでには至らなかったのは、それぐらいスターリンマリヤのピアノを愛したからである。

コンサートが終わる。 ミキシングルームにいたディレクターのアンドレーエフ(パディ・コンシダイン)のもとに電話がかかってきた。
Death20Of20Stalin202.jpg
なんとスターリンからの直電。
さっきの演奏会の録音をレコードにして送ってくれという御注文である。

録音・・・・? してたっけ? ・・・・・・やってもうたぁ!
すいません、録音してませんでしたなんて口が裂けても言えるわけがないことを言ったら間違いなく粛清される。
「はい、かしこまりました」と答えたアンドレーエフは帰ろうとする客を呼び戻して着席させ、すでに帰ってしまった客の分を埋めるために通行人やホームレスなどを強引に会場に連れてきて座らせた。

ライブの音源でなくてはならないのだ。 スターリンは「さっきの演奏」を御所望している。
だから客の拍手とかも録音されたものでないとダメなのだ。
演奏を拒否するマリヤに法外なギャラを提示して、ようやく演奏会が再開。
レコードを完成させたアンドレーエフは九死に一生を得た。

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スターリンの要望に「NO」は絶対許されない。
スターリンが知りたがってることに「わかりません」は絶対許されない。
スターリンと話す時はスベる話は絶対許されない。

ちょいとでもスターリンの気分に引っ掛かるようなことをやらかした者はソッコーで処刑される。
側近たちにとって、スターリンと一緒の空間を共にする時は、まさに命がけ。

スターリンを囲んだ閣僚たちの晩さん会で第一書記フルシチョフが手榴弾のネタのジョークを話すが、ものの見事に変な空気になる。
笑ってるのは秘密警察長官のベリヤだけ。
元副議長で補佐のマレンコフ「シュリュウダンってなに?」と真顔で言って場をシラケさせる。

スターリンはニコニコしながら「お前らの名前を(粛清)リストに書いておくからな」と言う。
冗談なのか本気なのかが区別がつかないから余計に怖い。

明け方まで続いた宴のあと、スターリンは届いたモーツァルトのレコードを聴きながら悦に浸っていた。
だが間もなくして、「ウッ」と唸って表情が固まったスターリンはそのまま床にぶっ倒れた。
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脳卒中であるが、命取りになった要因は周りに与えていた自身の恐怖という皮肉。
ドアの向こうにいた二人の護衛は部屋から何かが倒れる音を聞いたがドアを開けることはしなかった。
もしも寝ているスターリンを起こしてしまうようなことがあったら即終了である。

スターリンが別荘で寝ていた時に、外でうるさく吠えていた犬にブチ切れ、護衛に「殺してこい」と命じた逸話がある。
「盲導犬なので追い払いました」と言った護衛に「その犬を連れてこい」とわめき、連れてこられた盲導犬を自らの手で射殺し、「今度命令に背いたら、お前もこうなるぞ」と護衛に告げたという。

そんなことを知っていたから護衛たちは何もしなかった。
結局、昼ごろまでスターリンは倒れたまま。 処置の遅れが大きく響いたのは間違いない。

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スターリンが倒れたという報せを聞いて閣僚たちが駆け付ける。
まだこの時には、スターリンは死んではおらず、かろうじて息はあった。
ただ、なぜかションベンまみれであった。

医者を呼ぼうにも有能な医者は獄中にいるか、もしくは処刑されていた。
いるのはヤブ医者だけ。 それも、こっちのほうが病人じゃないのかと思えるほど、みすぼらしいヨボヨボのジジイばかりだった。
かろうじて脳出血だという診断は出来たが。

見るからに助からないだろうと閣僚の誰もが思った。
それと同時に一人一人の胸の中に、黒いものが湧きあがる。
スターリンは後継者を指名していない。 おそらくできないだろう。
と、なれば今後いかに上手く立ち回るか。 男たちは打算を働かせる。
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「ゆっくりオネンネしてな、じいさんよ」

スターリンの死は、実はこの秘密警察長官ベリヤによる暗殺ではないかという説も根強い。
ベリヤ「スターリンに毒を盛ってやった」と自慢話をしたことを外務大臣のモロトフが回顧録に書いているのだそうだ。
しかし、映画はあくまで脳卒中の病死として描いている。

一時期、スターリンは意識を取り戻したものの、意思の疎通は出来ず、倒れてからの4日後、3月5日に死去。
そしてこの瞬間からスターリンの後釜をめぐる内紛と攻防劇が繰り広げられる。


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ニキータ・フルシチョフ(スティーヴ・ブシェミ)
モスクワ党第一書記。
スターリンの前では気に入られようと道化役に徹し、粛清を免れてきたタイコもち。
スターリン死後の政争を勝ち抜いたほどのヤリ手であった反面、やたらに短気で、外交でもドゴールやニクソンがドン引きするほどガキのような振る舞いをしたことも有名。

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ラヴレンチー・ベリヤ(サイモン・ラッセル・ビール)
NKVD警備隊最高責任者。
スターリンの大粛清を直接指揮した“死刑執行人”。
ナチスで例えるならアイヒマンの役どころで、血も涙もナッシングな冷血漢である。
スターリン死後はマレンコフを担ぎ出して政局の主導権を握ろうと画策する。

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ゲオルギー・マレンコフ(ジェフリー・タンバー)
閣僚会議副議長。
ベリヤとは仲良くなったりケンカしたりと複雑な関係を繰り返しながら、スターリン政権下を渡り歩いてきたナンバー2。
それまで粛清されなかったのが不思議なほど、場の空気を読めない困ったKYさん。
優柔不断なため、ベリヤにいいように利用されるが・・・

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ヴャチェスラフ・モロトフ(マイケル・ペイリン)
外務大臣。
スターリンとはお互いにあだ名で呼び合うほど近しい古参。
外交で手腕を発揮したが、スターリンが病気がちだった頃に何かと独断で動き過ぎたために却って警戒され、粛清リストに載る憂き目に。
ユダヤ人だった妻は逮捕されて流刑にされたが、スターリン死後に釈放。

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アナスタス・ミコヤン(ポール・ホワイトハウス)
貿易大臣。
若い頃から革命運動にのめり込み、入党してからスターリン政権下で主に貿易を長きに渡って担当、戦後のソ連を復興させた「赤い商人」。
風見鶏的に政局をうまく立ち回った世渡り巧者。 二度来日。

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ゲオルギー・ジューコフ(ジェイソン・アイザックス)
ソビエト軍最高司令官。
生地には記念館も建てられているほどのロシアの英雄。
数々の戦争で武勲を立てた名軍人だが、その人気をスターリンに妬まれたのか、大戦後に左遷されている。
スターリン死後、誰がいかに軍を味方につけるかがポイントだった政争のキーマンとなる。

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ラーザリ・カガノーヴィチ(ダーモット・クロウリー)
労働大臣。
スターリンのお気に入りと言ってもいいほどの側近中の側近。
言われた命令は着実に実行して多くの粛清者を積み上げて「鉄のラーザリ」と恐れられた。
農業集団化政策の先頭に立ち、ウクライナ大飢饉を引き起こした張本人。

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ニコライ・ブルガーニン(ポール・チャヒディ)
国防大臣。
元秘密警察として赤軍統制にも携わり、副首相や国防相を歴任して国政に尽くしたが、傲慢なスターリンを苦々しく思っていた。
フルシチョフとはそんなに歳が変わらず仲が良かったが、のちにトップになって天狗になった盟友と袂を分かつことになる。
チャームポイントはアゴひげ。


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ベリヤは速攻で仕掛けた。
スターリンが「いや、まだ死んどらんて」という状態の時から動き出し、モスクワの警備を軍からNKVDの自分の部下たちに交代させる。

スターリンが息を引き取ると、ベリヤはさっそくマレンコフと手を組んだ。
かつては政敵関係だった二人であるが、ジダーノフという目の上のタンコブが失脚して一躍スターリンの腹心になったマレンコフベリヤは早くから推しメンとしてツバをつけていた。

空気を読めないことを自覚しているのか、自分に自信がなさそうなのに野心だけは持っている小心者のマレンコフをうまく利用すれば議会を自分の物にできるとベリヤは確信していた。

スターリンが倒れた時、書記長代理を買って出たマレンコフはそのまま幹部会で書記長に選出された。
マレンコフは打ち合わせ通りにベリヤを第一副首相に任命する。

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ベリヤと同じようにマレンコフを担ぎ出したかったフルシチョフは後手を踏んだ。
いつのまにやら流れで国葬の葬儀委員長を押し付けられた格好になってしまい、踏んだり蹴ったりである。

だが、党内にはベリヤを嫌う者は多い。
マレンコフの下に甘んじようなどと思ってるはずもないベリヤはいずれ本性を現す。
俺が俺がと暴れ出せば付け入るスキができる、その時をフルシチョフは待つ。

一方では、父親の死を聞いて駆けつけた娘のスヴェトラーナ(アンドレア・ライズブロー)に我も我もとゴマすり合戦が始まる。
片や次男坊のワシーリー(ルパート・フレンド)は酒癖が悪くてダメ息子ぶりをさらけ出し、「こりゃだめだ」と閣僚はその扱いに辟易していた。

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ベリヤスターリンから命じられた粛清のリストを持っていたが、そんなもんは知らんとばかりにポイして、投獄されていた囚人たちを釈放する。
なんのために? 人気取りのためにだ。

スターリンは無神論者であり、激しい宗教弾圧を行った。
だがベリヤはまるで嫌がらせのように、葬儀に教会の主教を列席させるのである。
ベリヤ自身の家族はグルジア正教を信仰していて、特に母親は熱心な信者だった。
稚拙といえば稚拙な意趣返し。

それに対抗するようにベリヤの部下の警備隊を困らせてやろうとフルシチョフもまた子供の様な報復に出る。
ベリヤとしてはスターリンの葬儀を小規模にしたかった。
全国から国民が押し寄せられたら警備隊はたまったもんではない。
そのためにモスクワ市内に入る列車を制限していたのだが、フルシチョフは独断で列車の運行を再開させる。

するとモスクワに人の大群がどっと押し寄せる事態となる。
これにパニくった警備隊員が銃を発砲。 1500人が死亡する惨事となった。
葬儀に来た人が葬儀に出されるハメになるという、シャレにもならない事態にベリヤは焦るが、一方でフルシチョフのさらなる恐ろしい陰謀は着々と進行しつつあった・・・・・・

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知っている人ならば結末は分かっているが、もちろん何の芸もなく史実をなぞっている映画ではなく、そこに至るまでの騒動を悪意半分で茶化した味付けが面白い。
歴史ものでありながら、軽いノリのタッチや人物のハジけ方などは三谷幸喜の「清州会議」を思い起こさせるが、こちらはもっと毒を効かせ、あの時代のソ連の社会や政治家のダークな部分だけをデフォルメしたネタのオンパレードで勝負したストーリーになっている。

上っ面は史実の通りなのだろうが、会話の中身や人物の思惑の描写はフィクションである。
スターリンが死んでからの閣僚たちの右往左往や、ベリヤの粛清など、公式には大っぴらにされていないことは、作り手も遠慮することなく想像で好き勝手に物語にしている。

誰も本当のところは知らないし、おかみも公にしていないというところを逆手にとって、フィクションと史実の境界線上でふざけてみた遊び心が本作の肝だ。
歴史ものをブラックコメディにする面白さは十分発揮されている。

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上映禁止にするまでもないだろうと思うのは当事国の人間ではないからだろうか。
やっぱり触れられたくない黒歴史を喜劇のように描かれたら、気分がいいものではないのだろう。

ブラックコメディとは言っても、ブラックはブラック。
ドタバタ劇の中にも、人が虫けらのように殺されるシーンがたくさん出てくる。 正直妙な居心地になってくる。
笑えるやり取りなどの後に、さも当然のように人が銃でズドンとやられるこのアンバランス感は、確かにブラックコメディとしては絶妙だけれども、ロシアの人がこの映画で親世代、または祖父母世代を思うとなると「笑え」というのは無理なのかもしれない。

この当時のソ連の社会の恐ろしさ、ひとつしくじったらタマを取られるタイトロープな状況は庶民はもちろん、クレムリンの中のお偉いさんも同じこと。
権力争いに勝たねば、お先真っ暗。
そこに生まれるポリティカル・サスペンス。
しかも笑いにしやすい構図。 アイデアはいいが、知らない人は多少勉強してから観た方がいいかも。

全編英語にする開き直りはもちろん、わざとなのか役者がみんな実際の人物とそれほど似てないのが却って面白い。
全然ってことはないが、特徴だけが少し残っているその「ほぼほぼ感」が、史実とフィクションの曖昧な本作の特徴を象徴している。
恐怖と笑いのチグハグな魅力。 過去は笑って済ませるのがいいのかね。
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「賢人のお言葉」
 
「生物の存在するところに、すべて権力に対する欲求がある」
 フリードリヒ・ニーチェ

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他にもこれ観ました  ~7月編(下)
2018年08月09日

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「インサイド」

出産を間近に控えた妊婦の家に、謎の女が侵入して襲いかかってくる・・・・
2008年のフランス映画で、残虐描写が話題になったスリラー「屋敷女」のスペイン版リメイク。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
愛する夫の子をお腹に宿していることが分かったサラ(レイチェル・ニコルズ)は浮かれていた。
車を走らせながら、助手席の夫と子供の名前は何にするかの話で盛り上がっていたサラだが、運転を誤って対向車と正面衝突する大事故を起こしてしまう。
夫は亡くなり、重症のサラは補聴器なしでは耳が聴こえない障害が残ってしまった。
だが、お腹の子供は無事で済んだ。

4ヶ月後のクリスマスの夜。
悲しみが癒えないサラだが、間もなく生まれる子供だけが心の支えだった。
そろそろ寝ようという時に、誰かが扉をノックする。
車が故障したので電話を貸してほしいというその声は、どうやら女性のようであるが、ドアスコープを覗いてもハッキリ姿が見えず、どことなく不穏な空気を感じ取ったサラは「主人が寝てるので」と嘘をついて追い返そうとする。
だが、その女は夫が死んだことを知っていて「なぜ嘘をつくのか」と強引にドアを開けようとする。
警察を呼んだものの、すでに女の姿はどこにもなし。
不安な気持ちで寝床についたサラだったが、謎の女(ローラ・ハリング)はすでに家の中に侵入していた。

女はサラに薬を嗅がせて眠らせた上、点滴を打って何かの準備を始めた。
間一髪のところで目が覚めたサラだが急な陣痛に襲われる。
女が打った点滴は陣痛促進剤だったのだ。
今にも生まれそうな痛みに耐えながら、侵入者の女の襲撃に立ち向かわねばならないサラ。
女の目的は果たして何なのか? サラはこの窮地を脱出することが出来るのか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「屋敷女」は観ておりませんのであしからず。
とにかく黒づくめの謎の女がコワすぎますわい。
2004年版の「パニッシャー」で悪役ジョン・トラボルタの女房役をやってたローラ・ハリングが演じておりますが、そのブキミさはかなりヤバい。
この女がヒロインの家に侵入した目的がつかめず、どうやら今晩中にヒロインに子供を産ませたがっているというのが薄々分かってくるんですが、だから「なんで、そんなことを?」と思うとさらにコワい。
ラストを除けばほぼ家の中を舞台にした女二人の攻防が描かれるスリラーなんですが、実際のところ「よくできました」な点は前述のローラ・ハリングだけ。

突っ込みどころというか、「?」だったのは交通事故を起こした際にちゃんと被害者の相手と話をつけなかったの? 保険屋まかせだったから分からないの? 賠償というかケアさえしてれば・・・ そういう描写が抜けてるので凄く気になりますのよん。
謎の女は子供を産んでもらわねばならないヒロインへの扱いに凄く迷いますが、それ以外の人物は容赦なく殺します。 それもコントの様な死に方をします。  警察官も何しに来たんだか・・・ 隣家のゲイカップルや悲惨なことになるお母さんはしょうがないとしても。
それと、ヒロインが補聴器をつけてるというのは、結局あまり重要じゃなかったですね。 なんのこっちゃでしたね。
        


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「ピース・ニッポン」

皆様、お盆はどちらへ行楽に行かれるでしょうか?
やっぱり海外ですかねえ。
ただでさえ我が国はクソ暑いしさ。 台風はまるでヘタクソなゴルファーのような軌道でやって来るしさ。
えーい!日本を脱出するでやぁぁぁぁぁーっ!

あいやっ、待たれぇい!
日本ほど美しい国がどこにありましょうや。 この映画をご覧なせぇい!せぇい!せぇい!

美しい日本を映像や音声、写真で後世に遺す「ピース・ニッポン・プロジェクト」の一環として「日本人が知らない本当の日本の美しさ」に迫った、名景絶景ラッシュのドキュメンタリー。
「SF サムライ・フィクション」や「TAJOMARU」などの中野裕之監督がメガホンを取り、47都道府県200ヶ所以上で撮影された映像を厳選し、4K解像度で映画化。 「日本には美しい風景がこ~んなにあるんだぜぇい!」をまざまざと思い知る111分。

いぃやぁ~、心が洗われますのぉ~。
これは「映画」というよりは、全国名所巡りのスライドショーでして、まるで最新の4KテレビのCMを観てるみたい。 というと悪く聞こえますが、個人的には十分満足させていただきやんした。
やっぱり数が多いので、次の名所、次の名所とチャッチャと進行する分、「あっ、今のシーン、もうちょっと観たいのになあ」と感じることも多々。 でもそれを補って余りあるシーンがどんどんたたみ掛けてきます。
東出昌大とキョンキョンのナレーションや音楽が邪魔だという方もおられるでしょうが、アッシは別に気になりませんでしたね。

本編に登場する絶景には純粋な自然の風景もありますが、お城、寺院など人工の建物や、花火、田園、祭事などの人の営みの風景が半分以上あるでしょう。
そこにはやはり、目に見えない心の域のものを敬い、神道をともにしてきた日本人の歴史がこれらの風景に反映されてあるのは紛れもない事実。 確かにナレーション抜きでもいいじゃない?というのも分かりますが。
音楽も感性のもんですからね。 邪魔な時もありましたが、竹内まりやの「いのちの歌」を聴きながら観る福島県の花見山公園が超感動!

本編の「この絶景がすごい!」ベスト10 (北から南の順)
蔦沼(青森)  花見山公園(福島)  蒲生の棚田(新潟) 地獄谷野猿公苑(長野)  幸手権現堂桜堤(埼玉) 瑠璃光院(京都) 姫路城(兵庫) 三佛寺  投入堂(鳥取) 屋久島(鹿児島) 天空の道(熊本)
        


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「ジュラシック・ワールド/炎の王国」

「ジュラシック・パーク」の三部作から14年ぶりに製作された2015年の「ジュラシック・ワールド」は正式なパート4でしたが、そのヒットを受けて新たに2本の続編制作が決定。
新三部作の第2章にあたる、3年ぶりの今回のジュラワは、テーマもグッとシリアスなものになり、予想だにしなかった展開へともつれていきます。 これは驚きましたね。
観る前までは正直、まだやるんかいと思ってました。 しかし、旧作の焼き直しみたいなことをするのだろうかという安易な予想は、いい意味で裏切られます。
これは要するに、一番最初の「ジュラシック・パーク」で神の領域を侵した人間が果たしてどうケジメをつけるのかを問うた「命を作った責任」への言及なのです。

パークがあった島の休火山が噴火し、助けを求めるような咆哮を上げながら噴煙に呑み込まれていくブラキオサウルスの物悲しさがたまりませんね。
そして相も変らず、お約束の様に登場する「恐竜でひと儲けヤロー」どもたちの今回のアホ度は思わず笑ってしまうほど。
こんな奴ら、食われてもうたらいいんじゃと、恐竜の方を応援しながら観ましたわい。
新種のハイブリッド恐竜インドラプトルはタヌキ寝入りだってできるんじゃい。 こえ~ぞ。

そしてクライマックスの展開は、ほぼ「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」。
なるほど、そう来たかのエンディングを見届け、これは2021年公開予定の3作目が実に楽しみ。

殿方のお楽しみ。 ブライス・ダラス・ハワードの巨乳がユッサユッサするのも十分堪能。
        


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「キリング・ガンサー」

アーノルド・シュワルツェネッガーが伝説の殺し屋に扮するアクション・コメディー。
と言っても、シュワちゃんは後半の3分の1程度しか出てきません。 いや、もっと少ないかな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
殺し屋の業界では今や一番波に乗っている若きヒットマン、ブレイク(タラン・キラム)は、世界最強の殺し屋と言われるガンサー(アーノルド・シュワルツェネッガー)を殺してナンバーワンの座をものにしようと企む。
世界各国から凄腕の殺し屋たちを集めてガンサー抹殺チームを結成したものの、正体が一切謎に包まれた伝説の殺し屋ガンサーはとにかく一筋縄ではいかない相手だった。
次々と仲間が殺されていき、ひとり残ったブレイクは遂にガンサーの居所を突き止めて最後の決戦に挑む。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
伝説の殺し屋を倒した際、証拠映像を残しておくために律儀にカメラマンまで雇ったという設定のため、「今時それかい」なPOV形式のアプローチを取っております。
POV映画に多い、「謎の生物」や「幽霊」という正体不明の対象がつまり、ここではシュワちゃん演じる「伝説の殺し屋」。
そして人物が次々と死んでいくPOVホラーのあるあるをなぞるというジョーク半分の語り口で進行していくブラックなコメディです。
なるほど、アイデアは面白いよね。 いっそのこと、シュワちゃんが最後の方になってから出てくることをシークレットにしといたらウケたかも。 いや、ダメか。 「なんだ、全然スターが出てねえじゃん」と最初から客が集まりませんわな。

前半テンポがいいように思ったのは気のせいか、終始ハイにベシャり倒すタラン・キラムがどんどんうっとおしくなってくる。 本当に1時間半かと驚くほどに長く感じた映画でしたな。
        


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「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」

日本では2000年に公開されて一大センセーションを巻き起こしたキューバ音楽ドキュメンタリー「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」。
ヴィム・ヴェンダース監督の代表作でもあり、伝説の一本である前作から早や18年・・・・えっ?18年? そんな昔だったっけ?
ハバナにあった「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」はもう無くなり、バンドのメンバー20人ほどのうち7人が鬼籍に入っております。
他の人も70代から80代。 正直、大丈夫かと心配になるほどヨタヨタしてる方もいらっしゃるので、もうここらへんでいいのではと、グループによるステージ活動に終止符を打つために最後のワールドツアーが決行されました。
その模様と共に、レジェンドたちの生い立ちなどが語られる、後日譚でもあり、前日譚でもある続編。

前作は観ましたが、正直なところキューバ音楽に興味があったわけではなく、「ふ~ん」ってな感じで観てましたねえ。
好きな方は好きなんでしょうが、アッシはちょっと置いていかれた記憶があります。
爺様になってもどこにこんなバイタリティがあるのかというステージ上でのパフォーマンスが印象に残ってはいますが、感動というところまでは・・・・が前作。

で、今回の続編。 いやがうえにも時は移ろい、人は老いさらばえ、そして土に還っていく。
人間の宿命の悲哀を感じずには居られませんが、それでも死の直前までステージに立つ人の、ステージに生き、ステージで死ぬ、ある意味幸せな人生。
同胞の死を幾度か見届けてきたオマーラ・ポルトゥオンドの熱唱が胸を打ちます。 この方、3月に来日されてましたが、これからも長く歌っていただきたいですね。
        


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「未来のミライ」

きっちり3年周期で新作を発表する細田守監督の最新作アニメーション。
甘えん坊の男の子“くんちゃん”と未来からやってきた妹の“ミライちゃん”が時を超えた家族の歴史をたどる物語。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
くんちゃんは4歳。 お父さんとお母さんと犬のゆっこと一緒に暮らしているが、このたび、くんちゃんに妹ができた。
お兄ちゃんとしてしっかりしなければならないくんちゃんだが、お父さんもお母さんも育児にかかりっきり。
愛情を奪われて嫉妬するくんちゃんは、「ミライ」と名付けられた妹のことがどうしても好きになれない。
だが、ある日。 中庭に出たくんちゃんはセーラー服姿の女の子と出会う。
それは未来からやってきた妹のミライちゃんだった。
そのミライちゃんに導かれ、くんちゃんは幼い頃の母さんや若かったころの曽祖父と出会う不思議な旅へと出かける。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
過去作と比べると、世界観はグッと縮まってて、早い話が4歳児の成長のオハナシ。
成長した妹の出現や、過去の家族と出会う、その不思議な現象についての説明は一切ないのはまあいいとして、、家族と命についての根幹を幼子がその目で見て学ぶという、情操教育にしては早過ぎないでしょうか。
何者の力が働いてるのか分かりませんが、そこまで心配せずとも、ちゃんとしたお兄ちゃんに育つと思いますがね。

お片づけは出来ないし、妹をかわいがらないし(オモチャで殴るとはナニゴトか!)、お母さんを「オニババ」と呼ぶし(どこで覚えた!)、それでいてカマってちゃんだし、ワガママにもほどがあるくんちゃんだけども、何より御両親はいい人ですから、育て方も間違えないでしょう。
だから、見方によっては逆の甘やかしみたいなオハナシですわな。 まあ、いい話だったけども。
くんちゃんが、自転車の補助輪を外して練習しようとする、あれが良かった。 補助輪なしで乗れた結果ではなく、チャレンジしようとする気持ちを出したのが成長のあかし。 4歳児で? 大物になるかと思うが、どうやらそうでもないか。

のほほんと観てたらアッサリしてるかもしれませんが、くんちゃんが見るものや人との出会いの中には「広い世界の中の自分とは」を学ぶ深いものが隠されています。

それにしても、ひいじぃじがカッコええわ。 「何事にも最初はある」 声もいいなと思ったら福山雅治でしたか。
声と言えば、くんちゃんの声(上白石萌歌)が男の子っぽくないので、これがどうも気になって・・・
        


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「マイナス21℃」

元プロアイスホッケー選手、エリック・ルマルクがスノーボードをしていた雪山で遭難し、8日間に渡る壮絶なサバイバルを繰り広げた実話の映画化。
主演はジョシュ・ハートネット。 久しぶりじゃないか。 今までどうしてたのだろう? 干されてたのか?
業界で遭難してたのか? 元気そうでなにより。

このクソ暑い時には持って来いの映画ですが、実話とはいえ、「ホントか?」と思うほどに主人公が頑張ります。
さすがスポーツ選手だけあって体力があるからだろうけど、凍傷で両足を失ったとはいえ、よく生きて帰ってこれたなと感心しきり。
ラストには本人さんが登場します。

【雪山で死にたくなければコレ守れ】 (エリックの場合)
※ コカインをキメてスノボに乗るな (ヤクチューはこれだから・・・)
※ 立ち入り禁止区域で滑るな (自分だけは大丈夫という自惚れは命取り)
※ 迷ったら無闇に動くな (不安になると動きたくなるけれど)
※ 雪を食べるな (やってしまいがちだが低体温症・脱水症のもと)
※ 視界が開けた広い場所を歩くな (そこは凍った池。 歩いたらドボン)
※ ビーコン端末を携帯せよ (命綱。 彼はラジオだったが)

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志乃ちゃんは自分の名前が言えない
2018年08月05日

T0022685p.jpg現在は新サイトに移行されているWEBコミック「ぽこぽこ」で2011~2012年に連載された、押見修造原作の青春漫画が待望の実写映画化。

吃音でうまく喋れない女子高生・志乃と、音楽好きなのに歌が下手な同級生の加代という二人のみずみずしい友情を描いた物語です。

今をときめくティーン女優の旗手ともいうべき南沙良(志乃役)と蒔田彩珠(加代役)のダブル主演。

監督はこれが長編商業映画デビューとなる湯浅弘章。
乃木坂46のショートムービーと言えばこの人という湯浅さんですね。
脚本は「100円の恋」の足立紳が手掛けています。

いやあ、これはなかなか感動してしまいましたよ。

自分の思いを伝えるということ。 伝えたくても伝わらないこと。 伝えなくても伝わること。
そうなんだよ。 そこなんですよ、この映画。

コミュニケーションって厄介です。 普通にそれができる人の方が多いかもしれません。
でも、それが苦手な人もいます。 そんな自分が嫌なあまりに周囲から遠ざかってきた人もいます。
しかし、伝えたい思いさえしっかりあれば、無理に伝えようとしなくても、その思いを心で受け止めてくれる人はいます。

誰にでも苦手なことはあります。
みんなは出来るのに自分だけが出来ないことで苦しんでいる人もいるのです。
でも、そういうあなたでもいい、そういうあなただからいいんだと理解してくれる人は必ずいます。


志乃加代
不器用で、迷って、探り合って、ようやく辿り着いた居場所。
かけがえのないものが確かにあった刹那の青春・・・・・


story_pic02_20180731005605cfe.jpg 
大島志乃(南沙良)。 志乃ちゃん
志乃ちゃんは高校一年生。
初登校の日の朝。
目覚まし時計よりも早く目が覚める。 寝つけなかったのだ。
心配そうなお母さんに「行ってきます」と残して志乃ちゃんは玄関を出た。

「初めまして、大島志乃です。初めまして、大島志乃です。初めまして、大島志乃です・・・」
自己紹介は絶対させられるだろう。 志乃ちゃんは憂鬱だった。
「初めまして、大島志乃です。初めまして、大島志乃です。初めまして、大島志乃です」
登校するまでの道すがら、自己紹介の練習をブツブツと志乃ちゃんは呟き続ける。

嫌でもその時が来た。 自己紹介・・・
担任の女性の先生は、名前の他にも趣味とか入りたい部活などがあったら聞かせてと言う。
想定外だった。 (名前を言うだけでも大変なのに・・・でもあれだけ練習したし・・・)

出席番号順で男女交互に座っているクラスメイトが、その順番通りに一人一人自己紹介を終えていく。
一人、変なテンションの男子がいたけど。
どんどん順番が近づいてくる。 大島の「お」はすぐに来る。
前の席の子がもっと喋ってくれないだろうか。 先生が出席簿の名前を見落としてくれないだろうか。 何か不測の事態が起きて自己紹介が中止になってくれないだろうか。

もちろん何も起こるわけはなく、志乃ちゃんの順番は来てしまった。
志乃ちゃんは頑張って声を出す。
「おっ・・・おっ・・・おおっお・・・おっ・・・」
先生が「どうしたの?」と聞く。 教室内がざわつき出す。 みんなが自分を見ている。
「おっ・・・おおおっ・・・お、お、お・・・おっ」
ヒソヒソとクスクスは次第に喧騒になっていく。
焦れば焦るほどつっかえる。

やっと「志乃」が口から出たと思ったら「志乃大島」と続けてしまい、さっきのテンションの高い男子が「外国人かよ~」と茶化す。
志乃ちゃんはこのまま死にたい気分だった。
自分が想像してたよりもキツいことになってしまった。
騒ぐみんなに「静かにしなさい!」と一喝した先生は、ようやく察してくれた。
「もういいわ」志乃ちゃんには何よりの救いの言葉だった。

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志乃ちゃんは自分の名前が言えない。 いつの頃からか人とうまく話せない。

できれば自分か“そういう人”なのだとみんなに知られることなく、いつの間にかうまく喋れるようになっていれたらと思っていたが・・・
笑われるのが嫌だから。 変な目で見られるのが嫌だから。
志乃ちゃんは教室内では下を向く。 先生に指されないように。 誰かに話しかけられないように。
お弁当は自転車駐輪場近くのガラクタ置き場の隅っこで食べる。

ずっとこういう学校生活なのかと、志乃ちゃんは気が滅入る。
帰宅すると「どうだった?」と声をかけるお母さんに「大丈夫だったよ」と答えて自室に入る。
大丈夫ではなかったのだとお母さんの顔は曇る。

先生も相談になってはくれる。 「先生も力になるから。 一緒に頑張ろう。 ねっ? リラ~ックス、リラ~ックス」
簡単にリラックスできるのなら、今頃はこうではない。


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岡崎加代(蒔田彩珠)。 志乃ちゃんの人生を少し変えた友だち。

ある日、志乃ちゃんは校舎裏の非常階段に座っている加代を見つけた。
イヤホンで音楽を聴いてるらしい加代が歌を口ずさむ。
ザ・ブルーハーツの「青空」。
「ピカピカに光った銃で~」  ・・・・音程がかなり外れてた。

見られてたことに気づいた加代は不機嫌そうに去っていく。 それが志乃ちゃん加代の最初の接近遭遇。

普段でもあの岡崎という子は自分と同じように人を拒絶していて一人でいることを志乃ちゃんは気になっていた。
やたらに変なテンションでクラスで浮いている男、菊池強(萩原利久)に、自己紹介のことをバカにされているところを加代は助けてくれた。
下校時に何とか必死で、一緒に帰ろうと伝える。 その事さえもなかなか声に出ない。
 
加代がメモとペンを渡してくれて、「喋れないなら、紙に書けばいいじゃん」と言う。
志乃ちゃんは何だか、体から余分な力が抜けたような気になった。
加代「なんか面白いこと書いて」と言うので、志乃ちゃんは全力の下ネタを書いた。

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「その喋れないやつって何? 病気?」 「さあ・・分かんない」
独り言や、どうでもいいことは普通に喋れる。 言いたいこと、言わなければならないことほど喋れなくなる。
特に母音で始まる言葉が出てこない。

志乃ちゃん加代の家に行った。
音楽が好きな彼女の部屋にはフォークギターがあった。
「何か弾いて」志乃ちゃんはねだる。 最初は嫌がっていたけど加代はギターを手にとって歌い出す。
でも、その歌い方は・・・
志乃ちゃんはクスッと笑ってしまい、加代を怒らせてしまう。
そんなつもりじゃなかったのに。
喋り方を人にさんざん笑われてきた自分が友だちの歌を笑ってしまった。

せっかくやっとできた友だちだったのに。
謝りたい。仲直りしたい。 でも言葉が。
志乃ちゃんは下校の時、加代のあとをつけた。
カラオケボックスに入ろうとする加代は中学時代のクラスメイトたちと鉢合わせした。
「加代の歌がまた聴きた~い」とバカにして面白がる彼女たちが強引に加代を店に誘おうとする。
加代を救おうと志乃ちゃんは思わず動いていた。
「か、か、か、か、加代ちゃんは、わ、わ、私と、お、お、用事がああ、あ、あるんだからぁーっ!」

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そのまま二人でカラオケボックスに入った。
志乃ちゃんは歌ならつっかえることはない。

この大空に翼を広げ 飛んで行きたいよ
悲しみのない 自由な空へ
翼はためかせ 行きたい


二人の願いごとは・・・ 二人がほしい翼とは・・・


うまく喋れない志乃ちゃん。 うまく歌えない加代
誰にも触れられたくない劣等感を抱えて、人と触れ合うことを拒んできた二人が互いに向き合って、遅ればせの青春がやってきた。
志乃ちゃんはもう、独りではない。 加代も独りではない。
あきらめていたはずの「友だち」がそばにいる喜び。
志乃ちゃんは、加代の前ではずいぶん普通に喋れるようになっていた。

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志乃ちゃんは、菊池という男子の一面を知った。
いつもムダに明るく、空気を読まない、ちょっとズレたハイテンションの菊池は、自己紹介の時に自分を笑った奴として志乃ちゃんにとって印象深い男だった。
志乃ちゃんには正直、苦手なタイプだった。

加代が言うには、菊池は中学時代はイジメられていたのだと教えてくれた。
「あんなキャラじゃ無理ないよ」

難しいものだと志乃ちゃんは思う。
自分のようにうまく喋れなければ当然かもしれないけど、のべつ幕なしに喋り、あれだけ明るく振舞っている菊池でも、男子からもうっとおしがられている。
友だちを作るって難しい。

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おもむろに、加代がバンドをやろうと持ちかける。
今度の文化祭で二人で一緒にやろうと熱く語る加代に、志乃ちゃんは焦る。
歌は歌えるけれど、それを人前でってことになったらどうなるのか想像がつかない。
でも、それは加代も一緒なのだった。
そこを乗り越えようとしている。 あきらめていた歌の道を再び夢見ている加代の前向きさは、志乃ちゃんもなりたかった姿だった。
二人でならできる。

何度か練習を重ねたあと、加代が外に出て路上で歌ってみようと言い出す。
不安一杯で気が進まない志乃ちゃんだったが、加代の決意は固かった。
公園の外を出たところの、町へと架かる橋の真ん中。 あまり人通りは多くない。
加代がギターを弾き出す。 志乃ちゃんが歌い出す。

♪ 命かけてと誓った日から 素敵な思い出残してきたのに
あの時同じ花を見て美しいと言った二人の心と心は 今はもう通わない
あの素晴らしい愛をもう一度


♪ 世界の終わりはそこで待ってると 思い出したよに君は笑い出す
赤みのかかった月が昇るとき それで最後だと僕は聞かされる


♪ 運転手さん そのバスに僕を乗っけてくれないか 行き先ならどこでもいい
こんなはずじゃなかっただろ 歴史が僕を問いつめる
まぶしいほど青い空の真下へ


加代が弾くギターで志乃ちゃんは歌う。
傾く夕陽に照らされて、今までできなかったことができる幸せに二人は包まれる。
息が詰まることしか感じなかった世界がすっかり変わっていた。

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「うちら、いけんじゃない?」
ノッてきた加代はユニット名も決めた。
命名:【しのかよ
ツッコミのような名前だけど、余計なフレーズはない、「二人だけ」の絆の名。
日々生き生きしている加代はオリジナルの歌も作っているようだった。


文化祭に向けて順調に練習を重ねてきたが・・・・・

それは志乃ちゃんにとって突然の予想外な展開・・・・・

今度はもう少し人の多い所でやってみようと、駅前のロータリーに行って練習を始めようとしていたところだった。
そこに偶然通りかかったのが菊地だっだ。 志乃ちゃんの一番会いたくない人物である。
まさかの二人が路上ライブをしているということで、当然菊地のテンションが上がる。
はしゃぎ半分でギャラリーを買って出ようという菊池
志乃ちゃんは耐えきれずに逃げてしまった。

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その後も菊池は自分もバンドに加わりたいと言うので加代は仕方なく彼を受け入れることにした。
クラス内で、どこにも居場所のない菊池加代もほんの少し情が湧いたのだろう。
志乃ちゃんは気が進まなかったが。

志乃ちゃんには加代と一緒だから意味があったのだ。
うまく喋れない自分を、珍しくもなんともない、そういう人もいて当然と受け入れてくれて友人になれた加代
片や、キャラ的に悪気があるないは別として、以前に菊池志乃ちゃんの喋り方をみんなの前で笑った。 それが志乃ちゃんの中では未だにシコリとして残っている。
そして何よりも、志乃ちゃんが望むものを菊池は当り前のように持っている真逆の人間であり、彼を見ているだけで志乃ちゃんのコンプレックスは疼く。

なんであんなにスラスラと喋れるのだろう?
あれだけ心を砕いてやっとこさできた友人だったのに、菊池加代はまるでずっと前から友だちだったかのように音楽の話で盛り上がっている。
やっぱり普通に喋りたい。 加代もそういう普通に喋れる子と一緒にいた方が楽しいのではないだろうか?
自分は気を遣われてるだけなのだろうか。
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ずっと加代と二人で、と思っていたのに突然入ってきた異分子に志乃ちゃんの肩身はどんどん狭くなっていくのだった。
3人で練習するために集まったけど。
志乃ちゃんはもう我慢ができなくなってしまった。 やはり無理だった。 逃げた・・・・
追いかけてきた加代「なんで!?」と聞く。
砂浜に志乃ちゃんは書いた。  「やめる」


普通に喋れない自分には本当の友だちなんてできない。
みじめな気持になるだけなら、もう友だちなんかいらない。
菊池がうらやましくもあり、腹立たしくもあり、そんな菊池と簡単に打ち解けている加代に対しても妙な嫉妬を覚える。
そんな卑屈な考え方しかできない自分がさらに嫌になる。

志乃ちゃんはしばらく学校には行けなかった。

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自分のせいでこうなってしまったのかと気をもむ菊池が外に誘う。
まさか自分に気があるのか、デート気分の様なものを出してくる彼の気遣いが志乃ちゃんには正直ウザい。
元気づけているつもりなのだろうか。 放っておいてほしい。

あなたのせいで・・・・ あなたのせいで・・・・
哀れむのは辞めて。
あなたみたいに普通に喋れない自分が嫌い。

ずっと黙ったままなので、何らかのリアクションを欲しがる菊池志乃ちゃんはハッキリと口にした。
「うるさい」


菊池はそれでもこのままでは嫌だった。
孤立していた中学時代よりはマシになろうと勇んだ高校デビューも見事に空振り。
またしても居場所を失った彼だが、劣等感をバネにして殻を破ろうとしている“しのかよ”に居場所を見つけたのだが・・・
いや、何よりも志乃と話したかったのだ。

ようやく登校してきた大島志乃に、菊池は思わずわめいていた。
「空気消して・・・ 私なんかどこにもいませんって振りして・・・ だせーよ。 すげーカッコわりぃよ!」


やがて始まった文化祭。
志乃ちゃんは最初の頃いつも弁当を一人で食べていた校舎裏の隅で縮こまっていた。
そして体育館で行われているバンドコンテストの舞台に今、加代が一人で上がっていた。
加代の歌声が体育館から秋の空へと抜ける。
ヘタだけど、友人に伝えたい気持ちの言霊が志乃ちゃんの背中を押す・・・・・・
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魔法をください 魔法をください
みんなと同じに喋れる魔法
みんなと同じに歌える魔法

それさえあれば それさえあれば
私は外へ出かけてゆくよ

でもどこへ行こう でもどこへ行こう

私は今すぐ帰りたい 私は今すぐ帰りたい
みんなの知らない秘密の場所に
あのコの座る校舎の裏に

魔法はいらない 魔法はいらない
みんなと同じに喋れる魔法
みんなと同じに歌える魔法



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ヒロイン大島志乃の吃音は漫画原作者の押見修造氏の実体験に基づくものだそうで、この物語を描くにあたり、押見氏は作中では「吃音」や「どもり」という言葉を意図して一切使用しなかったそうです。
ただの「吃音漫画」にはしたくなかったからだとのことで、この映画でも本編中には「吃音」という言葉は出てきません。

これは吃音のみならず、加代の音痴や菊池の多動性障害に近いコミュ障などが取り上げられているように、人にはなかなか理解してもらえないコンプレックスを持った多くの人たち自身への葛藤に目を向けた物語です。
もちろんそれだけではなく、こういったハンデとは無縁の人でも何かしらの自己否定や劣等意識を秘めて、周囲とのコミュニケーションに一時的にでも悩んだ人はきっと多いと思います。

容姿や体形、喋り方、動き方、運動神経、クセ、消極的な性格などなど、ちょっとした引け目が対人関係を築くきっかけを阻んだりします。
他人から見れば取るに足らないことでも、本人にはなかなか外せない頑丈な鎖なのです。
この映画や漫画を見て、「これは自分ではないか」と思った方は少なくないでしょう。
押見氏もおっしゃってますが「これは誰にでも当てはまる物語」です。

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ここでひとつアッシのことも書きますが、小学校時代は友だちがいませんでしたね。
とにかく無口な子でした。
家族相手には普通に喋るんですよ。 それもさすが大阪人というか、しょうもないギャグも交えながら。
でも内弁慶なんですね。 学校に行ったら、いるのかいないのか分からない子供でしたね。
女の子と喋るなんてのは四次元の話です。

喋りたいという気持ちはあるんですよ。
でもどんな会話をしていいか分からないというか、話しかけられても会話が続かないので自然と人も離れていきます。
その方が楽だ、一人でも苦にならないという感覚も悪循環でした。 寂しいという気持ちはないわけではないんですが。

たまに何かの授業で、「誰かと自由にグループを作って」っていうパターンがあるでしょ? あれ、実に嫌でしたね。
担任の先生も気を遣って、誰かに頼んだんでしょうね、「あいつを遊びに誘ってやれ」って。(気のせいかな?)  何人かがやたらにグイグイ話しかけてきたことがありました。 気づまりでしたねえ。
でも、いじめられることもなかったのでね。 そこは幸運だったかも。

殻がちょっと破れたのは小6ももう終わりの頃だったと記憶しています。
それも突然きましたね。 何がきっかけだったのか、普段喋らない子に自然に話しかけてました。 ここからちょっとずつですが、人と喋るのに抵抗が薄れてゆきました。

多分に自分に自信がついたからかなと思います。
内気な分、本をよく読みましたし、そのせいか、国語、特に漢字は大の得意でしたのでテストは100点など当り前に取ってました。(そうじゃ!自慢じゃ!)
本をよく読むと、いろんな知識が身に付いたので、人よりは物知り小僧だったという自負もあります。
そんな自信が余裕を生んだと思いますが、本当にちょっとしたことです。

この映画を観ながら、色々と思い出しました。
自分もこんな感じだったかもしれないと。

まあアッシのことなど、どうでもいいです。
不意に対人関係を克服する人もいれば、そうはいかない人もいます。
特に意思に反してどうにもならないハンデを背負った人は、他人に理解されるのも苦労する分、辛い思いをします。
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吃音のように、普通に出来るはずのことが出来ない障害はなかなか人の理解が追いつかない部分もあります。
これがまた厄介なことに、周囲の無理解が余計に症状を悪化させることもあるので、社会的な認知や理解を深めるための啓発は今よりさらに必要だと思います。
この映画はもちろん、吃音だけを取り上げたものではないですが、制作する意味は社会的には小さくありません。
それを意図したものでなくても、この映画で吃音への理解が深まればいいと願います。

「ワンダー 君は太陽」を観た時も思いましたが、障害を持つ人に私たちはどう接するかはいつの時でも考えさせられます。
そっとしておいた方がいいと考えるのは楽ですが、少しそれも違うように思います。
普通に接すればいいのですが、これは非常に時間がかかります。 そこが人間の心の難儀な面ですね。

加代のように、「喋れないなら紙に書けばいいじゃん」は新鮮でちょっとした驚きですね。
相手が吃音だったら、「じゃあいいや」と距離を置いてしまったり、“そういう人”なんだからそっとしておこうと、コミュニケーションを取るのをあきらめたりする人は少なくないでしょう。
でも加代志乃ちゃんとのコミュニケーションをあきらめなかった。 そこが凄いですね。
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吃音者の方たちからも好評価を受けているように、冒頭の自己紹介で志乃ちゃんが追い込まれていく描写をはじめとした、吃音者の心理が細かいディテールで描かれています。
ですから、吃音に対して一歩踏み込んだ見方が出来ましたし、悩んでる人達への接し方も大いに勉強なるところもあります。

この映画に出てくる担任教師やお母さんの対応も、彼女らなりに考えてのことでしょうし、一概に悪いとは言えませんが、「そんな病気ぐらい、あなた次第ですぐに治る」という考えがダメなんでしょうかね。
そりゃ普通に喋れるのが一番でしょう。 どんな吃音者だってそう思っていて、悩みながら努力はしてるはず。
でも人に対する時の恐怖感が一番のネックなのでしょう。

人に迷惑をかけてるわけじゃないし。
自分で自分を嫌いになったり、自分から逃げてはいけません。 志乃ちゃんが最後に言ったように。
志乃ちゃんが体育館に駆けつけて、加代やみんなの前で心の内を吐き出したシーンには圧倒させられました。


コミュニケーションって大事であり、素晴らしいものであり、それでいて厄介でややこしい。
誰もがその温かみと苦しさを知っているからこそ、この映画は響きます。
初めての友だちの記憶・・・
友だちだった人がそうでなくなった記憶・・・
いろんなところを刺激してくる、キラキラの青春映画。 まぎれなく傑作です。

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ロケ地は沼津となっていますが、具体的な舞台はハッキリしていません。
人が多い都会ではないけど、かといってド田舎ではない、その中間の港町という舞台がまたいい空気を出しています。 

それにこの物語ではスマホなどのモバイルツールが一切登場しません。
吃音だって友人同士なら別にLINEがあれば何にも苦労しないんじゃ?という部分はハナから無視したこの潔さこそがよろしい。
スマホをいじり倒す人物など一人も出てこないストーリーほどドラマチックなものはありませんな。

時折、太陽光線の乱反射が入り込むカメラが実に詩的。
音楽のチョイスもいいところを引っ張ってくる。
特に「あの素晴らしい愛をもう一度」は「しのかよ」の行く末を暗示していて切ないですねえ。
加代が歌う「魔法」もズッキュンでした。

南沙良、蒔田彩珠が素晴らしいの一語に尽きます。
沙良ちゃんが鼻水を垂らしながら号泣する、この体当たりは「よくぞ」と言う他にありません。


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「賢人のお言葉」 
 
「人前でしゃべることが苦手な人は、他人へのメッセージが苦手なのではありません。 つまるところ、自分へのメッセージがうまくないのです」
 ジョセフ・マーフィー  

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バトル・オブ・ザ・セクシーズ
2018年07月29日

T0022962p.jpg先日までやってたテニスのウィンブルドン選手権。
女子はケルバーか初優勝。 2年前と同じ決勝相手のセリーナ・ウィリアムズにきっちり雪辱を果たした。
男子はケガから復活したジョコビッチが見事4度目の優勝。
錦織もいいとこまではいくんだけど、ジョコをはじめフェデラーやナダルの壁が厚い。

ひとまず男子テニスのことはさておいて、女子のことを。

女子テニスというと、最初の興味というか個人的な古い記憶はクリス・エバートやマルチナ・ナブラチロワの時代である。
この二人、有無を言わさぬ強さだった。
ただ、スポーツ選手だから別にいいのだが、"アイスドール"と呼ばれたエバートや"鉄の女"と呼ばれたナブラチロワは、もうちょい愛想がよくてもいいのではないかというほどに「マジメか!」なプレイヤーだった。

だからアイドルプレイヤーのようなトレーシー・オースチンの出現は新鮮だった。
1979年の全米オープン。 16歳9カ月でエバートを破って優勝したトレーシー・オースチンの、まるでテニス漫画から抜け出してきたかのような若さハツラツの愛らしさは今も印象に残っている。
彼女は2年後の全米オープンもナブラチロワを撃破して優勝。

あまりに若くして花開いたために、しぼむのも早かったオースチンだが、あの時代のテニスはボルグやコナーズがいた男子よりも、エバート、ナブラチロワ、オースチンのいた女子の方が個人的には熱い視線を送っていたのだ。

エバート、ナブラチロワの世代のもうひとつ前。 その時代で、女子テニスに一つの革命を起こした選手がビリー・ジーン・キングである。
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全豪1回、全仏1回、ウィンブルドン6回、全米4回。 4大大会シングルス優勝12回。
ダブルス、混合ダブルスを含めればグランドスラム39勝を誇る名選手であるが、女子テニスの地位向上とシステムの変革を実現させ、テニスのみならず女子スポーツに多大な影響をもたらした功労者としても知られている。

この当時の女子テニスの賞金は男子テニスの8分の1程度にすぎず、この賞金格差は兼ねてから問題になっていた。
これに敢然と抗議の声を上げ、全米テニス協会を抜けて「女子テニス協会」を立ち上げ、男女同権運動が盛んだったこの時代を象徴する存在にもなっていった。

全米オープンが行われるニューヨーク、フラッシング・メドウズの会場は彼女の功績を讃えて「USTAビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニスセンター」の名称が冠せられている。
ちなみにマイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」とビリー・ジーン・キングは何の関係もない。

i pppp
男女同権を訴えて闘うビリー・ジーン・キングに元世界チャンピオンのボビー・リッグスが男性至上主義の代表として挑戦状を叩きつけ、1973年に実現した「バトル・オブ・ザ・セクシーズ(性差を超えた闘い)」。
現役バリバリのピークの女と、とっくに引退した五十過ぎの男。 果たして勝つのはどちらか?
全世界が見守った世紀の一戦。 それに挑んだビリー・ジーン・キングボビー・リッグスの人間像に迫った型破りな実話の映画化。

ビリー・ジーン・キングを演じるのは「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン。 ボビー・リッグスには「30年後の同窓会」のスティーヴ・カレルが扮している。
監督は「リトル・ミス・サンシャイン」のジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス夫妻。


20.September 73 BATTLE OF THE SEXES
男性至上主義のブタ  VS  もじゃ足のフェミニスト】
 ↑(本当にこんなサブタイトルが付けられたらしい)

共同記者会見!
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「来たる9月20日。 世界が注目するドリームマッチが遂に行われます。 男女平等を訴えて女子テニス界を牽引するリーダー、ビリー・ジーン・キング。 片やウィンブルドンと2度の全米オープン制覇を成し、引退して早や14年の伝説の名手ことボビー・リッグス。 この二人の性別を超えた激突は果たしていかなる決着を見るのか。 対戦前のお二人に話を伺います。 まずは一言ずつ挨拶を」

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ビリー・ジーン・キングです。 よろしくお願いします。
全女性のために必ず勝ちたいと思います。

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やあどうも。 ボビー・リッグスだ。
男の方が女よりも優れていることを証明して見せよう。 まっ、証明するまでもないが。


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お断りしておきますけど、私、もじゃ足じゃないので。
ちゃんとスネ毛は剃ってますわ。


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どうでもいいじゃないか、そんなこと。

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どうでもいいことないわ。 あなただって豚より臭い加齢臭とか言われたら嫌でしょう。 

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なんの話だよ。

「試合が実現するに至るまでの経緯をキングさん、お願いします」

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ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、テニスの大会の賞金は男子と女子とではまるで額が違います。
男子は12000ドル。 女子は1500ドル。
8分の1ですよ。 これは明らかに不当です。
それで私、全米テニス協会の責任者であるジャック・クレイマー(ビル・プルマン)に抗議に行ったんです。


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クレイマーのもとにクレーマーがやってきた・・・ハハッ、こりゃケッサクだ。

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面白くないわよ。

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へい。
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「賞金に差がつくのは当然じゃね? 男子テニスの方が客を呼べるんだもんよ。 スピードがあって力強い男子テニスの方がハッキリ言って女子テニスより断然面白いじゃん。 女子テニスに客が入りゃ、考えないこともないけど? それにさ。 男は家族を養わなきゃならねえんだからさ。 君らがお洋服やアクセサリーを買うためのお金なんか、男の8分の1で充分だろ。 へへっ、言ってやったぜ」

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なんて素晴らしい御高説なんだ。 聞いてるだけで耳にお花が咲きそうだ。

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寒気のするような世迷言ね。 じゃナニ? 男子テニスは女子よりも8倍の客が来るの? そんなに来るわけないじゃない。
家族を養ってるですって? 私だって夫を養ってるわよ。


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ああ、そうだったな。 確か御主人は弁護士だったっけかな。
それでも君の方が稼いでるんだっけ?  ふ~ん、泣けるお話だ。


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うるさい男ね。 今は私がしゃべってんの。
クレイマーの態度に失望した私は仲間たちと共に協会を脱退することを決めたわ。
友人のジャーナリスト、グラディス・ヘルドマンに協力してもらい、私を含めた9人の選手で女子テニス協会(WTA)を立ち上げたの。

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グラディスの娘のジュリー、そしてロージー・カザルス、ヴァレリー・ジーゲンフス、ジェーン・バルトコビッツ、ナンシー・リッチー、ジュディ・テガート、クリスティ・ピジョン、ケリー・メルビル。 そして私。 契約金は1ドル。
「ヒューストンの9人」と呼ばれた私たちの記念すべき船出よ。

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賢くはないが実行力だけは認めてやろうじゃないか。
ついでに俺にも1ドルくれ。 今度の競馬の足しにするから。


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出たわね、病気が。
まだ、その博打好きが治ってないのかしら。
そんなことよりも。
グラディス(サラ・シルヴァーマン)がスポンサーを見つけてくれたわ。

天下のフイリップモリスよ。
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なるほどな。 女性層にアピールしたいタバコ産業なら有り得なくもない。
まあ、良かったじゃないか。
その代わり、君たち、今度からくわえタバコでテニスをやらされるぞ。
 
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そこまではしないけど、試合以外にカメラが回ってそうな所ではタバコを吸うようにしないとね。
なんたってツアー名が「バージニアスリム選手権」ですからね。
しかも賞金は今までとは月とスッポン、7000ドルよ。

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マジか! ちょっとこっちに回してくれよ。 カジノで勝負するから。

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いい加減にしなさいよ、あなた。
私たちの行動をクレイマーが相変わらずごちゃごちゃ言ってるけど、これは男女平等の権利を勝ち取るための闘いでもあるの。
この女子ツアーを成功させて世界を変える足掛かりをつかむのよ。


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フン、何をそんなにイキってんだか。
スポーツにシャカリキになる女なんて可愛くもなんともないぞ。


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「それではリッグスさんのこれまでの経緯をお願いします」

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私がかつて名選手だったってことは、みんな知ってるよね。

 
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センセイ、質問。

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なんだよ。

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そんなの教科書に載ってません。 テストに出るんですか?

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うるさいな、おまえだって載ってないだろ。
いいだろう、私がどれだけ凄かったか言ってやろう。
なんと! ウィンブルドンに1回だけ出てるんだぞ!


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はい、スベった~。

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最後まで聞け!
そのウィンブルドンでな、私はシングルスと男子ダブルス、混合ダブルスの3つを制するというハットトリックを達成してるんだぞ。 どんなもんだ。


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あ~、それは凄いわね。 あなたと混合のコンビを組んだ奇特な女性がいたことが凄いわ。

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アリス・マーブルだ。 いやあ、いい子だったな。 誰かとは違って。
とにかくだ。
私はウィンブルドンの他にも全米を2回優勝してるしな。
戦争のせいで活躍した時期が限られてしまったのが残念だが、まあ私としては満足できる競技人生だった・・・・・ってなワケないだろうがぁ!


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なんなのよ。 大きな声ださないでよ。


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満足なんてこれっぽっちもしてるもんか。 不完全燃焼もいいところだよ。
戦争さえなければ、黄金時代を逃さずに私はもっと早くにプロに転向できてたはずなんだ。
引退して14年も経つが、いまだに自分の中で何かがくすぶってるんだよ。

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あ~なるほど。 その反動でギャンブル依存症になっちゃったってワケだ。

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そうだな。 そこは否定できないな。
今まで支えてくれた女房にも愛想を尽かされちゃったし。

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女房のプリシラ(エリザベス・シュー)は本当によくできた女性で私にはもったいないくらいだったよ。
彼女は私の2番目の奥さんでね。
ドラッグストアチェーン経営者の家庭のお嬢さまなんだが、お高く留まったところなんか全くない。
私が引退して、抜け殻みたいになってギャンブルで落ちぶれていっても、辛抱強く彼女は私を叱咤して立ち直らせようとしてくれた。
そんな素晴らしい女房を悲しませてしまったね。

「あなたはいい人よ」 「君もいい人だ」
「でも私が必要としているのは、いい人じゃなくて頼れる人なの。 それはあなたじゃない」

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私は本当にダメな亭主だったよ。 彼女にはまたいい人を見つけて幸せになってほしいね。

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泣きそう? ねえ、泣きそうでしょ? 泣け、ほら、泣け泣け。
『泣け!叫べ!そして死ねぇ!』(by「キンファイ」)


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ゲーオタか、おまえは!
私はただ単純なギャンブル好きじゃない。
自分の心が満たされるものが欲しいだけなんだ。
何かに人生を賭けて打ち込める、そんな充実した生き方を求めてるんだよ。

そういう意味ではこの社会と闘ってる君たちがある意味まぶしい存在だった。
うらやましかった、ということは認めよう。


90 40
あら? じゃあ男女同権を支持してくれるの? 

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そういうことじゃない。
このあいだもギャンブル依存症患者のためのセラピーの集会に行ったんだ。
そこで一人一人、自分の思いをさらけ出すんだが、私はふと悟ってしまったね。
気づけば私は胸にたまっていたものを全部吐き出していたよ。

「人生は賭けだ! だから面白いんだろう! おたくらは何でここにいる? 賭けがヘタだからだ! 大好きなことをやめるのか? ええ?それでいいのか! 賭けに強くなれ! やりたい人生から逃げるんじゃない!」

90 40
暴言と言えば暴言だし。 一理あると言えば一理あるし。


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私のアスリートの血が沸騰したよ。
また闘おうと。 何かと闘おうと。 その格好の相手が君たちだった。
別に差別主義者と言われたって私はなんとも思わない。
君らを支持する人も、しない人もいる。
君らは支持してくれる人のためにも闘うのだろうが、私は君らを支持しない人のために闘おうじゃないか。
これだけの理由があればそれでいい。
私を再びコートに立たせてくれたのは、勇気を持って社会と闘っている君たちの存在なんだ。

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そういう言われ方をするとリアクションに困るわね。
それで、女子と対戦するエキシビジョンマッチを思いついたのね。
最初、あなたからそれを持ちかけられた時は「こいつ、ラリってんのか?」と思って断ったけどね。
そこで次に白羽の矢を立てたのがマーガレット・コート(ジェシカ・マクナミー)

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マーガレット・コートは偉大な選手だ。
モーリーン・コノリー以来の年間グランドスラムも凄いが、混合ダブルスでも年間グランドスラムを達成している。 それも2回も。
こんな選手は滅多に出るもんじゃない。 ハッキリ言って君よりも凄い。

だがマーガレットはウーマンリブ闘争には距離を取っていた。 クリスチャンだしな。
すでに結婚して子どもを育ててたし、むしろ君らのことはそんなに好きじゃなかっただろ。
私としてはそれではダメなんだ。 そんなのとは対戦しても意味がない。 私の闘う敵はウーマンリブだからな。
マーガレットを倒せば、絶対に君が出てくると思ったよ。
だから張りきったね。


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私は正直、マーガレットが勝つと思ったけどね。
まさか、一方的にストレート負けするとは予想外だったわ。


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勝負事の原動力の大半はモチベーションなんだ。
彼女にはそれがない。 そこが目の付けどころだったし、私が自信満々だった理由だ。
彼女は幸せな家庭を築いていたし、「賞金でベビーシッターを雇えるぞ」とは言って誘ったが、それで闘争心に火がつくような単細胞ではなかろう。
たかがエキシビジョンに負けたとしても何かを失うわけじゃないマーガレット・コートなど、五十過ぎの私でも勝てるよ。
だが、君は「男対女」の対決に勝たねばならない理由があったんだろ? そこは察しが付いている。
私はマーガレットに勝って、何が嬉しかったって、やっと君と闘えると確信したからだ。


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そう。 私は当時、個人的な理由で主人との仲がうまくいってなかったわ。
自分では抑えきれない欲望に苦しんでた私は、なんらかの答えが欲しかったの。
それは正しいのか、間違っているのか。
そして、男だとか女だとかの性別に囚われない、多様な愛が溢れる社会を夢見たの。

勝手かもしれないけど、私にとっては世界が変わるか否かの闘いだったわ。
負ければ私の人生の意味が見えなくなるし、勝てば同じことで苦しんでる人々を救えると思ったの。


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「こうして御二人の対決が実現することになりました。 あらためて試合にかける意気込みなど、今のお気持ちをいただけたらと思いますが」

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男が女に勝るなんて、サルでも分かることをわざわざ証明して見せようじゃないか。
マーガレットに続いてケチョンケチョンにしてやろう。
お金を払って観に来てくれる方には申し訳ないが、試合はアッという間に終わるよ。

そもそも女なんてのはな、寝室と台所にいりゃいいのさ。
何がなんでもコートに入るなとは言わないよ。 だって球拾いがいなくなっちゃうしね。

自信なんて有り放題さ。
女はテニスができても、重圧には耐えきれない。

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女とテニスとウーマンリブを守ります。
一番になって世界を変えてみせるわ。
人を比較して、優劣を決めて、差別される人が生き方を制限される世界は間違っている。 私が証明するのはそのことよ。

マーガレット・コートの試合を観ている限りでは、正直簡単ではないわ。
いくら父親ほど歳の離れたロートルと言っても、パワーはさすが男のそれだし、ストロークのコントロールも落ちていないわね。
でも私は自信があるわ。
女が男に勝てる根拠。 それはここにいる私。


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実際のところ、ビリー・ジーンボビーは険悪な関係ではなく、むしろ非常に友好的だった。
記者会見でもウィットに富んだ言葉を交わし合い、笑いに包まれたインタビューとなった。
試合以前や、その後でも、選手として認め合っていた二人が仲良く談笑している映像や写真も多く残っている。

ボビー・リッグスは特に差別主義者だったわけではないし、女性を尊敬しているところもある。
片やビリー・ジーン・キングも憎たらしい発言を繰り返すボビーにひと泡吹かせようと言わけではなく、「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」はあくまでも彼女による、世界中の女性の声を届ける表現の場でもあったのだ。

男対女の図式にくくろうとする世間とは裏腹に、二人の見ている方向は少し違う。
特にビリー・ジーンの闘いは、自らの身に訪れたひとつの愛の始まりと愛の終わりという、迷える彼女が道標を求める闘いでもあった。

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WTAを立ち上げる記者会見の日に、ビリー・ジーンマリリン・バーネット(アンドレア・ライズブロー)という美容師に髪をカットしてもらった。
彼女に髪をそっと触れられた時、ビリー・ジーンは自分の中に特別な感情が湧きあがってくるのをハッキリと感じ取った。
すでに恋愛結婚した夫のラリーがいるというのに、自分ではそれまで気付かなかった歓びに彼女は多いに戸惑う。

ビリー・ジーンマリリンが、“そういう関係”になるのには対して時間はかからなかった。
マネジメントや膝のアイシングなどのケアをしてくれる優しい夫ラリー。 
そんな夫への愛を失ったわけではない、いやむしろまだ愛している・・・はずなのだと信じたいビリー・ジーンは、なんとかマリリンへの愛を打ち消そうとしたが、目覚めた“本当の自分”を抑えれることはできなかった。
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夫を裏切っている罪悪感。 
このことが世間に知られればスポンサーからも手を引かれる。
失うものがあまりに多い恋と分かっていながらも、燃え上がる想いに抗えないビリー・ジーン

二人がそれとは悟られないようにしていても、くっつきあって談笑しながら歩いている姿を目にする周囲は薄々感づき始めていた。
やがて、それは避けられなかったのが当然のように夫ラリー(オースティン・ストウェル)に知られることとなる。

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ラリーは動揺しながらもビリー・ジーンを信じようとした。
これから世界に闘いを挑んでいく彼女を妨げてはいけない。

だから遠慮することなく、容赦することなく彼は妻の“新しい恋人”にも意見した。
「一時の相手だ。 邪魔をすれば捨てられる」
妻を盗られた夫の精一杯の虚勢も混じっているその見苦しさを重々承知しつつも言わずにはいられなかった。

やがて訪れるであろう、妻と共にいられる日々の終わりを自覚しながらも、ビリー・ジーンをある意味守ろうとするラリーの姿が健気だ。
マリリンビリー・ジーンの道を妨げないことと、愛の狭間で葛藤しながら一時的に身を引く。
ボビービリー・ジーンの試合が終わった時、世界はどう変わっているだろうか。
ラリーも、マリリンも、その後のことを、ビリー・ジーンに託すのだった。

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イギリスのファッションデザイナーでオープンゲイであるテッド・ティンリング(アラン・カミング)。
もともとテニス選手だった彼は引退後、デザイナーやウィンブルドンの司会者など多岐にわたって活躍。
WTAの選手たちのウェアのデザインも手掛けていた。

「ミスター・テニスファッション」とも呼ばれた彼は、選手一人一人のテニスウェアのデザインを手がけたが、1949年のウィンブルドンでグッシー・モランにミニスカートの下にフリル付きの下着を履かせて、ウィンブルドンを追放されていた。

彼はゲイであることを公言しているが、そのことやファッション界のことも含めて、固定概念や因習、不文律といった縛りに窮屈な人生を送ってきた。
マリリンとの仲に感づき、ビリー・ジーンを案ずるテッドは自信が歩んできた不寛容な世界のことをそっとアドバイスする。
「気をつけて。 世界はすべてを許すわけじゃない」

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男はこうでなければ、女はこうでなければ、愛とはこうでなければという価値観に抗う者たちを世界は許さない。
そんな世界に立ち向かうビリー・ジーン・キング
コートの向こうで笑っている男性至上主義の象徴が「かかってこい」と煽る。

負けるわけにはいかないのだった。
この先、夫との仲やマリリンとの関係がどうなるかは分からないが、男だの女だのと性差で苦しみながら世界に許しを乞うのはもううんざりだった。
マーガレット・コートが辛酸をなめさせられた光景を目撃し、同時に日蔭の場所に甘んじながら「まだまだやれる」と這い上がろうとするボビー・リッグスの闘志に、ビリー・ジーンも火がついた。

辱めを受け続けた女性の権利を取り戻す。 ラケットを武器に世界を変えてみせる。 そして世界の方から許しを乞わせる。 
男に勝つ。 絶対に勝つ。
ビリー・ジーン・キング一世一代の勝負が始まる・・・・・


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一方のボビー・リッグスという男も心理的に面白いキャラだ。

彼の闘う相手はあくまでも「社会の潮流」だった。
それはウーマンリブであろうがなかろうが、なんでもいいのである。
流行りものや時代の変革などの世の流れに彼はあえて逆らう男だった。
引退して表舞台から遠ざかってはいたが、彼はもう一度ひと花咲かせたい気持ちを抱えていた。

だが、引退して十年以上も過ぎたオヤジには、その花を咲かせる場所などない。
悶々とした気持ちがそのまギャンブル依存症へと移行し、彼は男としても一家の主としてもサゲ人生一直線だった。

それでも彼にとって幸運だったのは、その頃に男女同権運動という流れが来ている世の中のざわつきだった。
しかも女性テニスプレイヤーが先頭に立ってイキり立っている。 この状況はまさに渡りに舟だった。

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ビリー・ジーンとの試合の宣伝を兼ねて、こんなグラビアを撮ってもらって、はしゃいでいるほど彼は元来目立ちたがり屋だった。
どんなに炎上しようとも知ったこっちゃないのだ。
本格的に現役復帰してメジャー大会に勝とうなんて思っちゃいない。
目立つことが全てなのだ。

だから彼はビリー・ジーンという女性を尊敬しながらも、あえて「男性至上主義者のブタ」と自ら名乗り、バトル好きの世間のニーズに沿って、男女平等の議論を盛り立てるピエロになったのではないか。
実際彼は、ビリー・ジーンの試合を控えた期間中、まともな練習をしていない。 父を案ずる息子もあきれるほどボビーはイマイチ真面目ではなかった。
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マーガレット・コートに勝ったところで、それは彼のゴールではない。
世界を変えるために闘っている女性との相手になってこそ意味がある。

「やりきった感」を残せなかったテニス人生にケジメをつけるために、歴史が変わる引き金に手を添えた者として名を残す。 勝ち負けはどうでもいいのだ。
ビリー・ジーン・キングの名と共にボビー・リッグスの名前がセットで刻まれる。
それが彼の目指した男としての矜持である。


等しく、そして自由を。
テニスのために愛のために闘う女。

己を恥じず、そして奔放に。
自分が忘れられた世界に返り咲くために闘う男。

1973年9月20日。 アストロドーム。
3万人を超える観客の視線の先には歴史の扉にスマッシュを叩きつける男と女がいた。
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この映画では、ビリー・ジーンボビーの試合のシーンをテレビ中継の画面と同じ構成で見せるのがユニーク。
選手にカメラが寄ったり、角度に凝るような映画的演出を避けている。
やはり、その構図が見慣れているせいか、試合の結果は知ってても、細かい内容までは知らないので、このテレビ中継風なショットはなかなかのリアリティがあって思わずのめり気味に見入ってしまう。
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試合は5セット・マッチで、3セット先取した方が勝ち。
ボビー・リッグスはゲーム開始直後は、2万ドルという契約金をもらっていた菓子メーカー「シュガーダディ」のジャージを着ながらプレイした。
お金をもらっていたから脱ぐわけにはいかなかったのか、暑くて動きも悪くなるジャージを頑なに着続け、これがあだになる。

いよいよ劣勢になってきたところで、やっとジャージを脱いだものの、ほとんどバテバテの状態だった。
6-4 6-4 6-3でビリー・ジーン・キングが終始ボビーを圧倒してのストレート勝ち。 
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1998年。 まだトップ10に入ったばかりで10代のビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹が、ランキング208位の男子選手カールステン・ブラーシュとそれぞれ1セットだけやって、どちらも軽くひねられている。
それぐらい女子テニスと男子テニスとではかなりのレベルの差があるのは現実。
今はもっと詰まってるかもしれないが、70年代なんて昔はもっと差があっただろう。

それでも14年も引っ込んでいた55歳という年齢のボビー・リッグスならば十分相殺でき、女子でも相手になると考えるのは素人の赤坂見附か。
女王マーガレット・コートがボロ負けしたのを目の当たりにすると、ビリー・ジーン・キングはよく勝ったなと思う。

ボビーが多少なめてかかっていたのもあるかもしれないが、さしたるトリッキーなことをするでもなく正当なテニスで文句なしの勝利を収めたビリー・ジーン・キング
なんだかんだでスポーツ映画。 けっこう感動してしまう。

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だが試合終了後、一旦ロッカールームに下がったビリー・ジーンは一人で号泣するのである。
さぞ、凄まじいプレッシャーがのしかかっていたのだろう。

絶対に負けられないのだった。
勝たなければ世界はもう女性の声に耳を傾けないだろう。
そしてビリー・ジーンが目覚めた真の愛も、人間として疑われる恐怖が待ち受けていたであろうことは想像に難くない。

勝てた・・・。 勝てて良かった・・・・
想像を絶する重圧から解放された彼女の目から大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちる。 美しい涙だ。


そして、これも一人、ロッカールームで打ちひしがれていたボビーのもとに、一人の女性が現れて労をねぎらう。
復縁、おめでとう。

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「実話」+「スポーツ」の個人的に大好物の素材がミックスされていれば、問答無用に名作。

ほぼスッピンのエマ・ストーンが、オスカー女優にふさわしい名演を見せれば、スティーヴ・カレルのカメレオンぶりもさすがと唸るしかない。
ビリー・ジーンの夫ラリーを演じた「ホース・ソルジャー」のオースティン・ストウェルも絶品の葛藤演技を見せた。


人はみな違う。 だからといって優劣をつける考え方こそ非人道的。

「LGBTは生産性がない」という信じがたい暴言を吐く国会議員のいる日本も変わらねばのぉ。
少数のために多数が我慢をしろとは言わん。 強者と弱者に分かれる社会も止むを得ん。 それでも。
弱者やマイノリティーを思いやるところから始めれないなら国会議員など辞めてしまえ。
成熟した文明とはな、みんなが幸せに暮らしている社会だってのは子供でも理解できる理屈だぞ。

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「賢人のお言葉」
 
「『女性は残りかすで我慢すべきだ』、『女性はいつも感謝すべきだ』・・・そんなことはありません。 私たちにもケーキをもらう権利はあるのです。 アイシングをもらう権利も、トッピングのチェリーをもらう権利はあります」
 ビリー・ジーン・キング

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他にもこれ観ました  ~7月編(上)
2018年07月22日

日本の空はどうなっちまったんだろうか。
200人以上亡くなるほど降る雨って一体・・・
そして7月というのにバタバタ人が倒れるほどのこの暑さ。
日本の災害は地震や台風や寒波だけではなくなった。
そんな国になってしまったのだ。

災害ということで、まず一本目はこれ。

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「オンリー・ザ・ブレイブ」

ムシムシしてる日本と違ってカラッカラに乾燥してるアメリカで多いのは山火事。
特にカリフォルニアは異常ですね。 昨年の10月にも大規模な火災がありましたが。

この映画は山火事に挑む森林消防隊員たちの実話をもとにした感動系スペクタクル。
こちらはアリゾナの話ですが、アリゾナも鬼級の乾燥地帯ですから、そりゃ山火事ハンパないです。
山火事に対処するのは「ホットショット」と呼ばれる森林消防隊のスペシャリスト集団でして、その大部分は合衆国農務省の下部組織である森林局の管理下に置かれています。
しかし、この映画に登場する「グラニット・マウンテン・ホットショット」はアメリカで初めてという地方自治体が組織する森林消防隊です。

町の人々の生活を守るために様々な経歴を持ったヤローたち20人。
てっきり、彼らによる消火活動の迫力がたっぷり観れるのかと思ったらそうではなく、大半が人間関係や葛藤、成長を描いた男気物語でした。 それはそれでいいのですが。
そして2013年に起きたヤーネルヒルでの森林火災がクライマックス。
アッシは予備知識を全く入れずに観に行ったので、男たちが大活躍して火事を消しとめてメデタシメデタシになるんだろうなと思っていました。

ところが実話であるこの映画、予想だにしなかった悲惨極まりない結末を迎えます。
こんな悲しい出来事があったとは知りませんでしたね。
アメリカの人なら知ってるでしょうし、その上で観たアメリカの観客の場合は、前半からの入り込み方からして感じ方は違うのでしょうね。
最後はただただ惨すぎます。 衝撃です。
        


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「女と男の観覧車」

年に一度のウディ・アレン。 80年代頃からずーっと年一本のペースで映画に携わるウディ・アレン。
これで27年連続で監督作を発表しているという映画界最強の創作翁であります。
今度のアレンの映画の舞台はコニーアイランド。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
50年代のコニーアイランドの遊園地。
レストランのウェイトレス、ジニー(ケイト・ウィンスレット)のもとに、夫ハンプティ(ジム・ベルーシ)の娘で5年も音信不通だったキャロライン(ジュノー・テンプル)が現れる。
父親と絶縁したはずのキャロラインだったが、駆け落ちしたイタリア系ギャングと離婚した途端、FBIに証言を強要され、元夫から命を狙われるようになっていた。
不仲の父の家なら追手もやってこないだろうとキャロラインは考えたのだった。
ジニーの不安をよそに、ハンプティは娘をかくまうことにする。
ジニーは息子リッチーの放火癖に手を焼いていたが、ビーチで監視員のバイトをしている青年ミッキーと(ジャスティン・ティンバーレイク)秘密の逢瀬を重ねていた。
もちろんこのことは夫も知らない。

ジニーは、ミッキーが今の切ない自分の生き方を変えてくれると信じていた。
しかし、そんなミッキーは偶然出会ったキャロラインに惹かれていく。
果たして4人の男女は一体どこへ行くのか・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
舞台劇っぽさを意識したライティングがユニークであり、美しくあり。
いつもながら暗喩に富んでいて、どことなく「カイロの紫のバラ」を思わせる、やり直しが叶わぬ人生の諦念と後悔のストーリーです。
終始疲れた女のケイト・ウィンスレットがさらにやつれていく描写は、アレンにしては珍しく「女優をきれいに撮らない」という映画です。
でもなんだかなあ・・・。 話自体は取るに足らないねえ。
不思議にハマりませんでしたなあ。
        


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「ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷」

カリフォルニア州のサンノゼ、サウスウィンチェスター通りに「ウィンチェスターミステリーハウス」という巨大な屋敷が建ってまして観光名所にもなっています。
銃メーカーにして、ウィンチェスターライフルの開発で財を成したウィンチェスター・リピーティング・アームズ社の遺産を継いだ未亡人サラ・P・ウィンチェスター(1840~1922)。

夫の死に続いて、生後一か月の娘を亡くす不幸に見舞われた彼女は霊媒師に相談。
その際に、一族の作った銃によって命を落とした亡霊が災いをもたらしているので、それを防ぐには西海岸で家を買って増築を続ける以外にないという助言を受けます。
奥さん、これを真に受けまして、サンノゼに移住し、買った農家の増築を毎日24時間続けるという生活を始めるのです。

7階建ての屋敷は500もの部屋があり、「どこにも行きつかない階段」、「床に向かって開く窓の数1万」、「“開けた向こうは壁”のドア」、「迷路のようなホール」・・・・ その増築はサラが亡くなるまで続けられました。

不思議な構造があちこちに散りばめられた奇怪な屋敷と、サラ・ウィンチェスターを題材にしたホラー映画。
奇行を続けるサラ(ヘレン・ミレン)から会社の経営権を奪うために、経営陣が送り込んだ精神科医が恐怖の体験をする話です。
幽霊屋敷ものとしては王道かつ無難な作り。
やっぱり肝心なのは屋敷の不気味さでしょう。 これをもっとストーリーに生かしたかったですね。
        

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「死の谷間」

核汚染された地球で生き残った3人の男女の心理サスペンス。
人種も宗教観も違う男2人女1人の、いわゆるドリカム状態。 そりゃギスギスしないわけがありません。
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核で汚染された世界。 唯一汚染を免れた谷間の家で若い女アン(マーゴット・ロビー)が愛犬と共に暮らしていた。
ある日、アンは研究所のシェルターから安全な土地を探して放浪していた科学者の黒人男性ジョン(キウェテル・イジョホー)と出会う。
最初は互いに警戒しながらも、アンはジョンを受け入れ、ジョンもアンに心を開いた。
二人での共同生活が始まり、ジョンがトラクターを修理してくれたおかげで農作業の効率も上がる。
電力を復活させるために滝に水車を作ることをジョンは提案するが、木材を調達するにはアンの父が建てた小さな教会を壊すしかなく、アンは決断がつかない。
やがて二人に特別な感情が芽生えるが、ジョンは慎重な態度でもうしばらく時間をかけようと言う。 教会を壊すか否かでもめたこともあり、酒を飲んで見苦しいほどに荒れた自分に自信がなかったからだ。
そんな時、もう一人の人物がアンとジョンの前に現れる。
ケイレブ(クリス・パイン)という、その若い男は地下鉱山で働いていたために汚染を免れたという。
2人から3人になった生活はギクシャクしながらもなんとか均衡が保たれていたものの、アンとジョンの距離感は以前とは違うものになっていた。
教会を壊して水車を作ることに、ようやくアンの決心がつき、作業が始まるが3人の関係は静かにほころび始めていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
少々緩慢な語り口ではありますが、それでもこういう微妙な男女関係の物語は目が離せませんね。
"アダムとイブ状態"だったアンとジョンですが、「そういう気持ち」は秘めてても互いに一線を引いておこうという関係を保っていました。
そこへ割り込む形になったケイレブ。
ジョンはアンのことが好きですが、自分は黒人だし、ケイレブほど若くないし、信心深い女ってちょっとなあって所があるし、酒癖悪いところを見せちゃったし・・・、アンがケイレブを選んでもまあそれはしょうがないかなと思いながらも、そこはやっぱりいい気分ではありません。
ケイレブは実際どう思ってるかは読みにくいですが、「彼女は俺の方を選んでくれるだろうな」という余裕さが手に取るように出ています。
(黒人のオッサンよりは俺の方が若くて男前だしね・・・) いや、そんなことはおくびにも出さない好青年なんですけどね。
アンの方から一線を超えてしまったのは悲しいな。 二人に何かあったなと感づくジョンがいたたまれません。
そして、こうなるべくしてなったのかという結末。 何があったのかということまでは描かれていないのですが。
おまえ・・・やったな。
        


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「セラヴィ!」

「最強のふたり」の監督、エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュの最新コメディ。
トラブルだらけの結婚式場の一日を描きながら、「セラヴィ(これが人生さ)」が心にしみる一作。
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この道30年というウェディングプランナーのマックスは引退を考えていた。 妻との仲は冷え切り、不倫相手の女性から結婚をせがまれている。
それよりも、今はまずは仕事だ。 17世紀の古城を借りて豪華絢爛な結婚式。 注文が多くてサプライズ好きな新郎の機嫌を損ねないように、この結婚式は滞りなく成功させねばならない。
だが、集まったスタッフたちは揃いも揃ってクセが凄いのだった。

サブチーフは協調性に欠け、常に他スタッフと口論ばかり。 その上、時と場合も考えず笑えないジョークをかまして「今の顔~」と一人でウケている。
バンドのヴォーカルは新郎の希望の曲などよりも自分が歌いたい曲を熱唱しそうで危ない。
カメラマンは料理のつまみ食いで忙しいが、それよりも自分を無視して招待客がスマホで写真を撮りまくるのが気に食わない。
言いたいことをハッキリ言わずに悶々と仕事をするウエイターたちの中には新婦の元カレがいて今も未練たらたらなのであった。
なんだかんだで準備は進むがスタッフ用の食事で食中毒が発生して何人かがダウン。
新郎は「思ってたのと違う」とあれこれ文句をつける。 メインの食材は何故か冷蔵庫のプラグが抜かれていて全部腐っている。

マックスは頭を抱える。 どいつもこいつも使えない奴ばっかり。
なんでこうも物事がうまく運ばないのか・・・
それでも結婚式は始まった・・・ 果たして成功するのか・・・?
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結婚式の準備をするスタッフ。 失敗は許されない一発勝負の、ただでさえピリピリムードの場に、「文句言い」が何人か集まると必然的に問題が発生。
俺が私がと主張して自己判断でいらんことをやらかすとドタバタの輪は広がるという、ちゃんとしなきゃという場が乱れるパターンのコメディは、フランスらしき品格や人間性が面白いようにピタリとハマるもんです。
群像劇という所まではいきませんが、こちらではこんなことが起き、あちらではあんなことが起こってるという、お楽しみだらけの相関図のような巧みなコメディになっています。
事前に描いていた通りに何もかもうまくいかないのは人生も同じ。
それでも、なんとかなってしまうものなんだというポジティヴなバイタリティが溢れています。
パリでテロが多発し、人々の気持ちが沈んでいた頃に「こういう時だからこそ楽しめる映画を撮ろう」と考えた二人の監督の心意気が感じ取れます。
        


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「ワンダーランド北朝鮮」

私たちがテレビのニュースなどで観る北朝鮮の映像というと、軍事パレードとか、金正恩がどこかを視察してるところとか、または飢饉に苦しんでいる寒村部の貧困のあり様など、だいたいのパターンが限られています。
もうちょい、人の生活や仕事など、突っ込んだものが観れないだろうかとは常々思っていました。

このドキュメンタリーは、韓国人女性監督のチョン・ソンヒョンが北朝鮮の人々を撮ったものですが、基本、韓国人は北朝鮮には入国できません。
で、この監督さんは韓国籍を捨ててまでドイツのパスポートで北朝鮮に入国してこのドキュメンタリーを撮りあげたのです。
そこには農家、工場の労働者、エンジニア、保育園など"普通の人々"の意外に素朴な姿があります。

エコな暮らしをしている農家のおじさんや、独創的な服を作りたいと夢を語る衣服労働者の少女、「美しい女性しか描かない」というおちゃめな画家などなど、様々な人々の普通の人の素顔が映し出されています。

そうですか。 へ~、そうなんですか。
で? これを信用しろと?
ワーハッハッハ。 おぬしら、ネイマールの痛がり演技よりもタチが悪いぞ。

北朝鮮で制作される全ての映画は検閲は避けて通れません。
もちろんこの作品だって、当局の"見せたいもの"だけしか見せていないのは当然。
監督さんもそれなりに努力はなさったんでしょうが、「ここはいいけど、これはNGですよ」という縛りがなかったなんてことは絶対ないはずです。
多分に本編に出てくる人は、当局が用意した人とまでは言いませんが、少なくとも命を賭けてまで脱北するまで困っていない一部の人でしょうし、インタビューの答えも「言わされてる感」よりは、信じ込んでる類の本心でしょう。

なんだかんだで「将軍様のおかげで私たちは生きていられる」などという、おなじみのフレーズはどの取材対象者にも必ずや出てくるので、「わかったわかった」と突っ込みながら観てました。
こういうのが観たかったんじゃない。
        


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「子どもが教えてくれたこと」

病気と闘う子どもたちの姿を見つめたフランスのドキュメンタリー。
女性ジャーナリスト、アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアンが自身の娘を病気で亡くした経験をもとに、この作品では子どもたちが家族に与える勇気を映し出しています。

主人公は5人の子どもたち。
肺動脈性肺高血圧症を患っている9歳の女の子アンブル。
神経芽腫(骨髄)を患っている5歳の男の子カミーユ。
同じく神経芽腫(交感神経節)を患っている8歳の男の子テュデュアル。
腎不全を患っている7歳の男の子イマド。
表皮水疱症を患っている8歳の男の子ジェゾン。

日本でも最近はそうなんですが、子どもたちにはお医者さんがきちんと病気の説明をします。
子どもだから難しいことを説明したってどうせ分からないだろうから、ハッキリと言わずに説明は親御さんだけで済ますなんてことはしません。
子どもたちは自分がどんな病気にかかっていて、それがどんなに深刻なものであるかも理解しています。
そしてどんな治療をするのかも把握していて、何種類もある薬の名前さえスラスラと言えるのにはビックリしました。

とにかくみんな前向きというよりは達観しています。
「悩みは脇に置いておくか、付き合っていくしかないの」というアンブル。
「病気だからって不幸じゃいないよ」というジェゾンは「ハクナ・マタタ」という「ライオンキング」の"どうにかなるさ"のフレーズが好き。
イマドは定期的に人口透析をしていますが移植手術の説明を聞いて、そうすれば病院に送り迎えをしてくれるパパの負担が軽くなるというようなことを言うんですね。 そんな風に考えるのかと胸が熱くなります。
そんな彼も人工透析をしている時の辛そうな仕草は見てるこちらも辛い。 「死んだら、その時はもう病気じゃない」なんて言うカミーユに抱きつくお母さん・・・・

でもこの映画は、子どもたちの姿のように全体的に前向きな空気に包まれていて、少なくとも不幸の展覧会にはしていません。
こちらが心配になるほど、カミーユはサッカーをしたり、イマドは消防署の放水体験を楽しんだりと、自分の行動をせばめずにはしゃぎ回る姿には救われます。
家族の考え方も子どもに誘発されるのでしょうか。 アンブルの両親は娘を入院させるのは反対で、「家族は大切。 それを娘から奪うなんて有り得ない」とおっしゃってました。
いろんな理念や方向はありますし、こんなにポジティブな子たちばかりではないでしょうが、彼らの一挙手一投足を見ていると勇気づけられるというよりも、医者でもないのに小児医療のことを考えさせられます。
もっと子どものことを信じていいのではという監督のメッセージが響きます。

劇中に流れるルノーの歌「ミストラル・ギャナン」がなんとも切ない。

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ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー
2018年07月20日

T0022512p.jpg「スター・ウォーズ」シリーズの「オリジナル・トリロジー」と呼ばれる「旧三部作」において絶大な人気を誇るキャラクターと言えば・・・

ダース・ベイダーでしょ? いやいや、まあそうだけども。
R2-D2? C3-PO? いや、もっと他に。
ボバ・フェットか、はたまたジャバ・ザ・ハットか・・・
せからしかぁ!

そう。 ハン・ソロ
彼なしに「スターウォーズ」は語れない。
相棒チューバッカと共に愛機ミレニアム・ファルコンで銀河を駆け巡る密輸業者のパイロット。

ルークやレイアと出会い、やがて帝国軍と反乱軍との戦いに巻き込まれていくアウトローは、ニヒルな皮肉屋である一方でユーモアを兼ね備え、まるで冒険好きの少年がそのまま大人になったかのような奔放な魅力が観客のハートをつかんだ。
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元大工の職人で、当時駆け出しの俳優だったハリソン・フォード。
ちょうど彼はジョージ・ルーカス監督の「アメリカン・グラフィティ」に出た直後だったが、知人のプロデューサーの紹介で「スター・ウォーズ」のオーディションに出向き、そのとき行われていたレイア姫のオーディションの相手役を務めていた。

ルーカスは自作の「アメリカン・グラフィティ」で起用した俳優を再び「スター・ウォーズ」でも起用する気はサラサラなかったのだが、ハリソン・フォードの演技を見ていて「おまえメッチャええやん」となってハン・ソロ役にそのまま抜擢したという。
どこから見ても善人という風でもなく、どことなく嫌な奴のムードを醸すハリソン・フォードの魅力が存分に出たハン・ソロは「スター・ウォーズ」シリーズの躍進の大きな原動力になった。

帝国軍との戦いに身を投じ、レイアと結ばれ、そして我が子ベンの手にかかって非業の死を遂げることになるハン・ソロ
波瀾万丈の人生を送った彼の知られざる前史が遂に「スター・ウォーズ」のスピンオフとして映画化。
チューバッカとの出会いや、ランド・カルリジアンとミレニアム・ファルコンの因縁などのエピソードを交えた、激アツこの上ないイキリ野郎のストーリーがスター・ウォーズ・サーガに新たに加わる。

監督はこれまた、男の暑苦しい剛腕繁盛記を描かせたらピカイチのロン・ハワード。
そしてピッチピチの若さ弾けるハン・ソロを演じるのはオールデン・エアエンライク。 ・・・・・だれ?
「ブルージャスミン」ではケイト・ブランシェット演じるヒロインの義理の息子の役で後半に登場して爪痕を残し、「ヘイル、シーザー!」では大根演技の西部劇俳優役で笑いを誘った、あの彼である。

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時代設定は「スター・ウォーズ/新たなる希望」の約10年前。
つまり、もうすでに宇宙が銀河帝国の圧政下にある時代。

まずはここで一挙にあらすじを。

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ハンは惑星コレリアのスラム出身で、「ホワイトアームズ」というギャング団に属していた。
レディ・プロキシマが牛耳るこの組織は、スラム出身者や孤児たちに身柄の保障と引き換えに犯罪を強要し、ハンも幼なじみのキーラ(エミリア・クラーク)と一緒に犯罪行為に手を染めながら、いつか組織を抜けてコレリアから脱出しようと目論んでいた。
レディ・プロキシマを出し抜いた脱出計画はすんでのところで失敗し、キーラは捕まってしまう。
残されたハンは、脱出のために帝国アカデミーに志願。 銀河一のパイロットになって宇宙船を手に入れ、キーラを救い出すことを誓うのだった。
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それから3年後。 帝国アカデミーを追放され、歩兵として送られたハンは惑星ミンバンで装甲部隊の大尉を名乗るトバイアス・ベケット(ウディ・ハレルソン)と2人の部下と出会う。
ベケットを戦場あらしの強盗と見抜いたハンは自分を売り込むが、逆に脱走兵と密告されて牢獄に拘束される。
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そこで彼は、惑星キャシークのウーキー族出身の奴隷捕虜チューバッカと運命的な出会いを果たした。
チューバッカと協力して牢獄から脱け出したハンは、ベケットらのギャング団に強引に加わり、惑星ヴァンドアで莫大な富を生むエネルギー物質の精製コアクシウム強奪計画に手を貸すことになる。
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だが不測の事態でコアクシウムを奪うことができず、雇い主である犯罪シンジケート「クリムゾン・ドーン」の顔役ドライデン・ヴォス(ポール・ベタニー)の怒りを買うことになったベケットらに最後のチャンスが与えられる。
惑星ケッセルの鉱山にある未精製のコアクシウムを奪うこと。
そのためには速い宇宙船と最高の運び屋が必要だった。
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ハンは意外な人物と再会する。
キーラは今は「クリムゾン・ドーン」の副官となって重要なビジネス業務を任されるほど出世していた。
銀河最速の宇宙船を所有する男、ランド・カルリジアン(ドナルド・グローヴァー)と船を賭けてのカード勝負で惨敗したハンだが、ベケットがランドに分け前をチラつかせて仲間に引き入れる。
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こうしてハンチューバッカベケットらは、お目付役として一向に同行しているキーラと共に、ミレニアム・ファルコンで惑星ケッセルへと向かう。
果たして一体どんな冒険がハンを待ち受けているのか。
そして銀河には大きな戦争の足音が近づいていた・・・・

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆

さて。 この映画。 面白いのは面白いのだが、ひとつ大きな問題がある。

薄暗っ!
8割方、暗いシーンばっかり。
照明スタッフに給料払ったんだろうか?
そういうシーンだから仕方がないのかもしれないが。
外光だけのライティングなので常に逆光になっている室内や、間接照明だけの酒場や賭場。 
宇宙のシーンはしょうがないとしても、ミレニアム・ファルコンのコックピットはもう少し明るくても良かったのでは?
外のシーンも夜か、ドン曇りの悪天候か、砂ぼこりが舞ってるか、などなど嫌がらせのようにスクリーンのトーンが暗い。

ストーリーは面白いし、華々しいアクションがテンコ盛りなのに、気分がワーッと発散するような盛り上がりに欠けるのはこの暗さのせいだろうか。
問題はそれだけ。 それ以外は文句なしにいい。
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「エピソード4 新たなる希望」より一昔前という微妙な若さのハン・ソロの「彼ってやっぱりこうだったんだ」という魅力は十分すぎるほど描かれている。
チューイと並んだ時の化学反応に近いゾクッとくるマッチングは、ミレファルの操縦席に並んで座った瞬間に最高潮に達する。
ランド・カルリジアンとの腐れ縁の描き込みも申し分なしだ。

なんといってもオールデン・エアエンライクがハン・ソロというよりハリソン・フォードの仕草を完コピしてるのが嬉しい。
ブラスター・ピストルの構え方。 これはカメラワークもナイス。
気分が高まってきた時に、ちょこんと小首を傾けるクセや、腰に右手を当てて左肩で壁にもたれかかる仕草も「オオッ!」と唸らされる。
あんちゃん、随分研究してんな。 感心だぜ。

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ハン・ソロ・・・
何ゆえにこれほど愛されるのか。

マーク・ハミルはジャニーズ系の王子さま然としたビジュアルで、もちろん主役。
引き立て役的な位置だったハリソン・フォードは9歳年上だとは言っても、モツ鍋が服を着て歩いてるようなコッテリ顔。
そのビジュアル通りにハン・ソロという役柄も押しが強くて、ビッグマウスの上にデリカシーのデの字もない暑苦しいキャラだった。

女子からすれば「キャ~!マークさまぁ!」となるだろうが、ヤローからすれば、あんなナヨっちい小僧よりはどうしても「別に好かれようなんて思っちゃいないぜ」みたいなハリソン・フォードのハン・ソロに肩入れしてしまうのだ。
人の意見など右から左へスルーして、我が道を行く、強気一辺倒の頼れるアニキの方がヤローの目にはキラキラ輝いていた。

「エピソード5 帝国の逆襲」公開時、観る前からファンは「どうせルークとレイアがラブラブになるんだろうな」と思っていた。
しかし、そんな大方の予想を裏切り、ルークとレイアが双子の兄妹という驚愕の事実とともに、ハン・ソロとレイアが急接近するという展開に、世の中のヤローどもは「生きてりゃいいことあるんだな」と希望を持てたのだった。
そして最後の「愛してる」 「知ってるさ」に泣かされたヤローどもは完全にハン・ソロに惚れたのだった。

最近のメンズどもはどうだ。
しんどいことを嫌がり、せこいことを気にして、他人と同じの「前へならえ」みたいな安全パイの生き方をチョイスするヘタレが多いのには日本の将来を憂慮するばかりである。
ちょっとぐらい、いい加減であってもいいのだ。 男はイケイケだ。 
ハン・ソロから学べるものはたくさんある。


【俺がハン・ソロだ。 ミレニアム・ファルコン号の船長だ(エピソード4より)】
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ハン・ソロが帝国軍の兵士の卵だったというのは、知る人ぞ知る黒歴史だが、彼の名前の由来もここで明らかになる。
コレリアでのトラブルを回避するために、とっさに帝国アカデミーに応募するのだがその際に受付のおじさんに名前を尋ねられる。
名字はなく、「ハン」とだけしか答えられない。
親兄弟はいないからだと聞いた受付のおじさんは、「じゃあ、ソロだな」
歌手デビューじゃあるまいし。

意外な名付け親だ。 まだ響きがいいから良かったものの、「ハン・ゴロシ」とか「ハン・パナイッテ」などと付けられてたらイカレコレである。



ウーキーを怒らせるな!(エピソード4より)】
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相棒チューバッカとの最初の出会いは実にアツいものだった。
帝国軍で脱走兵の濡れ衣を着せられて投獄されたハンは同じ牢獄にいたチューバッカと初の御対面を果たす。
最初は不機嫌MAXのチューバッカにボコられまくるのだが、ハンがウーキー族の言葉を理解できたために互いに協力して牢獄から脱出。
チューバッカは同じく帝国に囚われている仲間を探しており、ハンもそれに協力することを約束する。

名コンビ誕生。
サトシとピカチュウ。 ルパンと次元。 ブラック魔王とケンケン。
そしてハン・ソロチューバッカ。 名作あるところに名コンビありだ。

チューバッカって呼び名は長いからあだ名を考えなきゃな」と言ってたハンだが、いつのまにやら「チューイ」に。
「中尉」って思ってた人が案外いるらしい。

惑星ケッセルで強制労働をさせられていた同胞と再会して救い出したチューイだが、その後もハンと行動を共にすること決意する。
囚われの身から救ってくれた恩義に応えるチューイの義理人情は体毛よりも濃いのだ。



外見はボロだが中身で勝負だぜ!(エピソード4より)】
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ハン・ソロの一つの“武器”といってもいいのが、「ハッタリ」である。
男たるもの、勝負事から逃げるなど有り得ないことだ。
「ちょいと分が悪いな」と分かっていても、そんなことはおくびにも出してはならない。
常にオラオラでいくのがセオリーだ。

ハッタリと嘘をつくとは似て非なるもの。
根拠のない自信を作り上げることで、自分の中にひとつ武器が増える。
相手の心理を揺さぶるには先制攻撃は必須。
相手に余計なことを考えさせる。 疑わなくてもいいことを疑わせる。 ここにわずかなスキが生まれるのだ。
100パーセント不可能だったものが100でなくなるということがもはや奇跡。 「勝負は何が起こるか分からない」という現象が起こっても不思議ではない。 これがハッタリの底力なのだ。

しかし。
本作でもハン・ソロはハッタリをかまし倒すのだが、若気の至りなのかほとんどスベる。
悲しいほどに不発に終わるが、それでもなぜか結果オーライになるところは、前向きな姿勢がもたらす「神が降りる」という現象だ。



確立などクソ食らえ!(エピソード5より)】
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このハン・ソロという男、大阪弁で言うところの「いっちょかみ」である。
いろいろなことに首を突っ込んで強引に輪の中に入りたがる。 そして場をかき乱す。

一見タチの悪い出しゃばりだが、一日一日が博打の人生を送る彼にとっては当然の処世術。
御時世が御時世だけに、どこに有益な情報やお宝があるかもしれないので常にアンテナを張り、ハイエナのごとく匂いを感じたらしゃしゃり出ていく。
チャンスは寝っ転がってるだけでは巡ってこない。



俺に命令できるのはこの俺しかいねえ(エピソード4より)】
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ハン・ソロという男は意外に言い訳が多い。
女々しい奴と言うなかれ。 言い訳というワードがそもそもよろしくない。
人は誰しも失敗をし、図らずも人様にご迷惑をおかけしてしまう。
そういう時、きちんと説明責任を果たすのは社会人なら当たり前。

ただしハン・ソロの場合、現在進行形のピンチの際にハッタリをかます時と違い、過ぎ去った失敗は普通にごまかす。 笑いながら平然と嘘をつく。
レディ・プロキシマに対しても「借金は倍にして返す」ハンは言っていたが、古今東西、どこを探しても借金を倍にして返した奴は存在しない。

実はこんな舌先三寸なところもハン・ソロの魅力のひとつだ。
彼がどこをとっても非の打ちどころのない完全無欠のヒーローではなく、こすからい人間的な面があるチョイワルなところが人から親近感を持たれる所以である。
なおかつ自分をネガティブに追い込まず、常に前向きに陽気に未来だけを見ている生き方がハン・ソロのカラーなのだ。



イイ予感しかしないぜ!(本作より)】
 サブキャラの紹介をチョチョイと。
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トバイアス・ベケット
裏社会を渡り歩いてきた百戦錬磨のギャング。
ならず者を集めて帝国軍の物資を強奪する計画を立て、ハンをも巻き込んでいく。
ハン・ソロ愛用のブラスター・ピストルは実はベケットから譲り受けたもの。
ハンにとっては師匠のような存在だったが、こう見えて食えないオヤジなのである。
「人の動きは読みやすい」

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ランド・カルリジアン
ハンの悪いお友だちで、ゆくゆくは反乱同盟軍の将軍にまでなる男であるが、この時代の彼は密輸業者である一方、詐欺と博打で飯を食ってる悪徳ギャンブラー。
カードゲームのイカサマでハンからケツの毛までむしり取るが、ラストにはきれいに返り討ちに遭い、ミレニアム・ファルコン号を持っていかれる。
以降の活躍は周知の通り。

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L3-37
ランドが信頼を寄せる相棒の女性ドロイド。
自分で自分を組み立てたほどに博識であるがゆえ、何かとドロイドの権利を主張する。
戦闘の末に悲惨な末路が待っているが、意外な形で彼女の魂が息づくことになる。

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ドライデン・ヴォス
新進の犯罪シンジケート『クリムゾン・ドーン』の顔役。 裏で糸を引いている真のボスはアッと驚く意外な人物である。
一応、紳士的に振舞おうと努力してるようだが、根は冷酷でサディスティック。
ライトセーバーの技術応用が見受けられるナイフ形の武器を持っているが・・・

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エンフィス・ネスト
クリムゾン・ドーンを敵対視しているギャング『クラウド=ライダーズ』のリーダー。
ハンベケットらのコアクシウム強奪計画をことごとく阻止するが、果たして真の目的は・・・?
ダースベイダーっぽいヴィラン的なビジュアルだが、仮面の下には真逆の素顔がある。

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キーラ
惑星コレリアでハンと共に育った幼なじみ。
ハンと離ればなれになり、再会した時には犯罪組織のナンバー2になっているという裏出世。
生き延びるためには色々とあったのだろうが、それにしても謎の多い女性である。
ドライデン・ヴォスが死んだあと、彼女がコンタクトを取った大ボスがホログラムで登場するのだが、これには劇場が一瞬ザワついた。

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「ご無沙汰しております」

なんでオマエが生きてるんじゃい?
「エピソード1」でオビ=ワンに倒されて「あ~れ~」と反応炉のシャフトに落ちて行ったはずだが、実はテレビアニメの「スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ」の中では、かろうじて生きていたということでガッツリ再登場してるのだとか。
ただし、下半身は失われていてクモの脚のような機械になってるらしいが。
ダースシディアスとも決別していて、シスとは切れてるのだが、犯罪組織を開店させていたとは驚きだ。


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続編を作っても不思議ではない流れで終わるが、「エピソード4」まで間近の時代設定なので劇的にスケールの大きいストーリーは作りにくかろう。
無理に作るのは現実的ではないと思うが。

スター・ウォーズの世代ではない客層には多少物足りないかと思うが、ストレートに世代である当方は「ハン・ソロの若い時」のポイントだけ楽しめたので、これで十分。

どんづまりの人生から銀河一のパイロットに成り上がっていく青年の夢追い物語。
困難な状況も、未来を信じる心に道は自ずと開けることを、この冒険野郎は教えてくれる。



「賢人のお言葉」
 
「チャンスをもたらしてくれるのは冒険である」
 ナポレオン・ボナパルト

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