トップ

RAW ~少女のめざめ~
2018年02月17日

T0022570p.jpg菜食主義者にも何種類かあって、絶対に肉を食べない訳じゃないって人もいます。

鶏肉なら食べる「ポロ・ベジタリアン」や魚介類なら食べる「ペスコ・ベジタリアン」など、ケースは様々。
肉・魚・卵はおろか、牛乳や蜂蜜などの動物性食品も絶対口にしない「ヴィーガン」と呼ばれるマジのベジタリアンもいらっしゃいます。

「フルータリアン」という人は徹底していて、果物や木の実だけしか食べないんだそうで。
リスか!
grey-squirrel rs 
「えっ? なんですか?」 
いえ、こっちのことです。 でもリスだって昆虫も食うからね。

体質的に肉を受けつけない人はしょうがないとして、個人の自由とは言え、なんでも食べた方が体にはいいと思うんですがねえ。

元々肉は食べてたけど食べるのを辞めたベジタリアンの他に、親の教えなどで、生まれてこのかた、肉を食べたことがない人っているのでしょうか?
そんな人が肉を口にしてみたらどうなるのでしょう?
初お肉。 肉デビュー。 新たな味覚の体験が、もしかしたら心身の中に眠っていた未知の自分を呼び覚ますかも・・・・・


ベジタリアンの少女が偶然肉を口にしたことがきっかけで、隠されていた禁断の本能に目覚める衝撃の問題作。
フランスの新鋭女性監督ジュリア・デュクルノーの初長編にして、一昨年のカンヌ国際映画祭において国際批評家連盟賞を受賞した作品です。
タイトルの「RAW」は『生の』という意味。

ga9iqPNCX9U_maxresdefault.jpg 
ジュスティーヌ(ギャランス・マリリエ)はこの日ちょっとブルーだった。
両親と一緒に入ったファミレスで食べたマッシュポテトの中にソーセージのカケラが入っていたのだ。
「オエ゛~ッ!」
「吐き出して!」
ママは血相を変えて「おんどりゃナニさらすんじゃい!」と厨房に怒鳴りこんだ。

16歳のジュスティーヌはベジタリアン。
それもガチの草食少女。 もちろん両親も。

ほんの一瞬、舌の上に乗ったあの気色悪い感覚。
ほんの一瞬、歯と歯のあいだに肉を挟んでしまったあの気色悪い感触。
ヴ~ッ・・・・思い出しただけでもゲロっちゃいそうな憂鬱な気分のまま、彼女は両親と共に車である所に向かっていた。

360731_010.jpg 
ジュスティーヌは全寮制の獣医科大学に入学することになり、この日が入寮の日だった。
その大学は両親も通っていた大学で、今は一つ上の姉が在学中。

寮の前まで車で送ってもらい、姉が出迎えてくれるはずだったが、どうやらパーフェクトにスッぽかされたらしい。
ママがTELするがケータイはつながらず。 
パパはいっぺんに不機嫌になって車に乗り込み、ママに早く帰ろうと促す。

ジュスティーヌにとっては初めて親元を離れるという、新しい環境での暮らしは不安で一杯。
仕方がないので一人で寮に向かったジュスティーヌ

ルームメイトはどんな子だろうか?
性格のいい可愛い子だったらいいのにと思うジュスティーヌの期待はものの見事に空振り三振を喫する。
ghettotube.jpg 
「オイッス~」

360度どこから見ても男子である。
ジュスティーヌはこれは夢かとほっぺをツネっても、「トレスポ気取りですか?」みたいな風貌のアンチャンが目の前にいることは変わらない。
『男女七歳にして席を同じゅうせず』という。 ならば『男女十六歳にして寮室を同じゅうせず』じゃないんですか?これは公序良俗に反してるのではないですか?と抗議するジュスティーヌ

だが、アドリアン(ラバ・ナイト・ウフェリア)といその男は、エヘラエヘラとニヤつきながら「大丈夫。 俺、ゲイだから」
そういう問題ではなかろうにとジュスティーヌはガックリと肩を落とす。

ヤローと相部屋になったのも問題だが、それよりももっと面倒くさい災難がジュスティーヌを待っていた。
先輩方のありがたい新入生歓迎の儀式の巻である。

photo5.jpg 
夜、グッスリ寝ているところを叩き起こされ、新入生全員が四つん這いになって歩かされて、どこへ連れて行かれるのやらと思ったら、教室を改装でもしたのか、みんなが呑めや踊れやのクラブパーティーが行われていた。
まだ、それくらいならいい。

朝、校庭にズラッと整列させられたかと思うと、頭から動物の血をぶっかけられた。
「キャリー」か!
carrie-1.jpg 
「なにかしら?」  いえ、なんでもないです。

手の込んだ後輩いびりに血道をあげる先輩方。
なんの学問の役に立つかは甚だ疑問である。
だが、獣医科の学校でもあるし、動物の解剖とかもやるから今のうちにこういうのに慣れておくのもいいかと、ポジティヴに受け入れるジュスティーヌ
それに前の晩、やっと姉に会えたし。
360731_006.jpg 
姉のアレックス(エラ・ルンプフ)は、一年の間にすっかり変わっていた。
こんなパンク趣味があったのか・・・
もともとアグレッシブではあったが、さらに攻撃的な感じも加わっていた。

それでもやっぱり優しい姉である。
軍隊もどきのシゴキともいうべき上級生たちの洗礼に戸惑うジュスティーヌを励まし、何かとアドバイスをしてくれる。
これでどうにか寮生活の心細さは解消されたと安心したジュスティーヌだったが、ここで最大の試練が訪れる。

Raw.jpg
新入生歓迎儀式のメインイベント、【ウサギの腎臓を食せ】
腎臓。 焼肉屋的に言えば『マメ』。
体を張る芸人でもあるまいに、何が悲しくてウサちゃんのマメを食わねばならぬのか?
何よりもジュスティーヌはベジタリアンである。
そんなムチャブリは天地がバク転してもノーサンキューだ。

しかし、先輩の命令は絶対。
嫌じゃ嫌じゃと駄々をこねても無駄無駄無駄。
ジュスティーヌ絶体絶命。
「お姉ちゃん、たちゅけてぇ~」と言っても、そこはやっぱり甘やかしてくれない。
「我慢しなさい。 一口サッと食べたら済むんだから」

そしてお姉ちゃんの手で直々に強引に口の中に押し込められた。
ジュスティーヌ初の肉体験。
結果こうなった。
Screen-Shot-2017-02-14-at-8_26_25-AM.jpg
キャーッ! なんじゃこりゃーっ!
ブツブツがぁー! ブツブツがぁー!
かゆーい! かゆくてたまらーん!


そんな時には「ムヒ」をどうぞ。
いやいや、ぜひとも「オイラックス」をどうぞ。
こういう時こそ「プレバリン」がございます。
いや、やっぱりここはド定番の「メンソレータム」でしょう。
他にもございまいたら随時受付中。
ジュスティーヌは医局で膏薬を処方してもらう。

もちろんこうなるのはジュスティーヌだけ。
今まで食べたことのないものを胃袋に入れると、体がびっくらこいてしまったのだろうか。
ベジタリアンがいきなり肉を食べるとこうなるのか。
おそろしや、人体の神秘。

だが・・・・
湿疹だけでは済まなかった。
ジュスティーヌの中に秘められていた恐ろしい本性が目を覚ましたのである。

raw14f-2-web.jpg 
最初は学食でハンバーガーをくすねたことから始まった。
誰が? ジュスティーヌがである。
鬼級のベジタリアンであるはずの彼女が、衝動的にハンバーガーに手を伸ばしてポッポないないしたのである。
なんでこんなことをしてしまったのかと激しく落ち込むジュスティーヌ

そして・・・
ルームメイトのアドリアンは、ジュスティーヌが冷蔵庫のドアを開けてしゃがみ込んで何やらゴソゴソしているのを見る。
「どうかしたのか?」
「えっ!・・・ああ・・・あのぉ・・・ちょっと冷蔵庫の掃除を・・・」
そうそう。 冷蔵庫は色んなものを入れたり出したりするので、食材のカスやらなんやらでけっこう汚れているのだ。
だからちゃんと定期的にお掃除してやるのは非常にいいことなのだ。
感心だなジュスティーヌちゃん。 いいお嫁さんになるぞ。

・・・・・・そうじゃない!
冷蔵庫に中にあった鳥のささみに食らいつくジュスティーヌ
それ・・・ナマですぜ。
ささみは火を通さないと危ないぜ、お嬢ちゃん。
・・・・・・そうじゃない!
ジュスティーヌに明らかな異変が起きていた。
これがただ単に「お肉ってうめえじゃん」と、食わず嫌いを克服して菜食主義から足を洗いましたってなエピソードならまだいい。
事態はもっと深刻で恐ろしい。
WbwImf 02
一体、自分の身に何が起きてるのか?
肉なんて食べちゃいけない。 なのに、肉を食べたい欲求が収まらない。
そんな自分が許せない。
肉の誘惑に抗いたくとも体が求めている、この異常な状態はいつまで続くのか? それともベジタリアンであることを捨てねばならないのか?

イライラすると髪の毛を噛むクセがあるのか、体の異変のことでイライラしていたジュスティーヌは、無意識にずーっと髪の毛を噛んでいたらしい。
すると・・・・
吐き気がする・・・
吐く・・・
口から黒いものが出てくる・・・
糸のような・・・
ちょっとやそっとではない。 大量に吐き出されたそれは髪の毛・・・
自分の髪の毛まで食べていたのか・・・?

これはもう尋常ではなかった。
ウサギの腎臓がよっぽどヤバかったのだ。
とにかくお姉ちゃんに相談だ。

ジュスティーヌは自分の持ってる膏薬と同じものを姉の部屋で見つけた。

maxresdefault_20180213234930064.jpg 
ここでなぜか姉アレックスが妹のムダ毛を処理してやるという流れに。 実はこれが最大の事件のきっかけ。

「あなたボーボーじゃない!」
「ボーボーとか言うのやめてよ!」
「ムダ毛ならワックス脱毛よ。 お姉ちゃんにまかせんしゃい」
「お姉ちゃん、できるの?」
「大丈夫、大丈夫。 ヌリヌリ~の、ペタペタ~の、ベリッとな。 あっ、ちょっと失敗」
「今、失敗って言った?」
「言ってないよ。 ちょっと一回ガーゼを取るからね。 あれ?取れねえや、やっべえな」
「今、やっべえって言った?」
「言ってないよ。 う~ん、ガーゼをどうするか・・・。 よしっ、毛ごとハサミで切っちゃおう」
「ちょっと! なんでハサミ持ち出してんの! 怖い怖い!」
「妹よ、姉を信じなさい。 動いちゃ危ないわよ」

「やめてーっ!」

ジッとすればいいものを、妹のバカチンが足をバタバタさせる。
すると。
ハサミを持ってたお姉ちゃんの指がぁーっ!指がぁぁぁ~っ!!
左手の中指一本、きれいにバッサリ。
中指のなくなった自分の手を見て、アレックスねえちゃん失神。
33640bac501cec0e67973d8fc15ea49b.jpg 
マヌケもいいところである。
それにしても、よっぽど切れるハサミですな。
あの状況で簡単に指を切断するような事故になりますかな?

とにかくも。
事故などで指を切断した場合は、患部にガーゼをあてて包帯を巻き根元をしっかり縛るのだ。
切断された指はガーゼでくるんでビニール袋に入れて密閉。 外側から氷などで冷やした方がいいが、指を直接冷却したりしてはいけない。 細胞が死んでしまうからな。
分かったらジュスティーヌちゃん、ボーッとしてないで急ぐのだー!

fcde623c17f95513.jpg
ちょん切られた指を犬が食べそうになってたところを危うく拾ったジュスティーヌ
その指をじっと見つめる・・・
おい、まさか。 まさかまさかまさか。マサカリかついだ金太郎。
お姉ちゃんの指だぞ。 病院に持って行って、くっつけてもらわないと。
何をするつもりなんだぁ?

分かってはいるが、どうにも抑えきれない欲望にジュスティーヌは屈する。
おいしそう・・・ ちょっと舐めてみるだけ。
ぺロッ。 ああ、肉の旨みが染み込んだ血・・・
ちょっとだけカリッとやってみようかしら。 ほんとにちょっとだけ。


raw3_orig.jpg 
実食!
一口だけカリッとでは済まなかった。
口にしたら、もうそこから止まることなくジュスティーヌは姉の指をむしゃむしゃと食べた。
美味!
これほどの美味しい食べ物があるのだろうかとジュスティーヌは夢中で姉の指をむしゃぶりつくす。
完食!

カニバリズムの覚醒。 人肉への欲望。
おぞましき己の本性をハッキリとジュスティーヌは悟った。
今まで肉など見るのも嫌だった自分が何ゆえに人の道を外れた食人鬼に堕ちたのか?
こんなことは間違っていると分かっていても、ジュスティーヌはこの先、甘美な味の誘惑を退けれる自信がなかった。
姉の指を食べた罪悪感よりも、美食を味わった喜びの方が勝っていたのだ。


ふと見ると、目を覚ましたアレックスが涙を流しながらジュスティーヌを見ていた。
アンタ、私の指を食ったわねとブチ切れることはなかった。
それどころかアレックスは病院で、指は飼い犬が食べてしまったと嘘をついて妹のことをかばうのだった。

360731_002.jpg
実は姉もなのだ。
カエルの子はカエル。
カニバリストの姉はカニバリスト。 カニバリストの妹はカニバリスト。

ジュスティーヌの持ってる膏薬と同じ薬がアレックスの部屋にあったのは、姉も同じ経験をしたのだろう。
姉は一足先に人肉の道に踏み入っていたのだ。

姉ならばカニバリズムに目覚めてしまった妹のことを不憫に思ってやってもよかろうに、この姉貴は逆に妹に「人肉グルメ道」を指南するのである。
ジュスティーヌとしては嫌なのである。 食人趣味などに深い入りしたくない。
こんな異常な自分は許せない。 普通のベジタリアンだった頃の自分に戻りたいのだ。
なのに姉のアレックスジュスティーヌの本性をさらに引きずり出そうとするのである。

ちなみに、姉から「指の味は?」と聞かれたジュスティーヌの答えは「カレーの味」
笑ったな、このセリフ。


45eee7fe0b81b6a793f0a5a6cdea1a8c9e0691f0.jpg 
この映画のオープニングでは、田舎の一本道を走っていた車が、道路脇から飛び出してきた女を避けようとしてハンドルを切り損ね、電柱に激突する事故を起こす。
飛び出して道に倒れていた女はムックリと起き上がり、停まっている車に近づき・・・・
このシーンの女はアレックスなのである。

これがアレックスの人肉調達手段。
どうしても食べたくなったら、自分が車に撥ねられるかもしれない命がけの方法でもって人を死に追いやり、飢餓を満たすための死体をこしらえるのだ。

アレックスジュスティーヌを誘い出し、例によって道路脇に隠れて車がやってくるのを待つ。
姉が何をやろうとしているのか分からなかったが、急に道に飛び出して、ジコった車の運転席を覗きこむ姉の姿に妹は戦慄する。
運転席で死んでる人間を食う姉。
ジュスティーヌは何も言えない。
自分もああなるのが怖くてたまらない。

“食欲”に抗いながら自分を保とうとするジュスティーヌだが、衝動的な感情に引きずられるように時として肉を求める獣の本能が顔を出す。

1486503827_raw_juliaducournau_garancemarillier.jpg
悩めるあまりにジュスティーヌは、いつの間にか異性として意識していたアドリアンと抱き合う。
文字通りにアドリアンの肉体を求めるジュスティーヌ。
食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい・・・・・・
思わずアドリアンの肩や腕に噛みつきながらも、自分を見失ってはいけないと、自らの腕に歯を立てる。


この物語はカニバリズムを描きながらも、セックスをはじめとした性の欲望を知った少女の大人への脱皮をメタファーとしたものであることが伺える。
一応はダークスリラーであるが、カニバリズムに囚われすぎると単なるゲテモノホラーに堕ちてしまいかねない題材を、この女流監督はフォトジェニックなシーンをふんだんに入れたり、何気ないのに可笑し味をたたえたシーンを不意なタイミングで挿入して、生まれ変わる少女の迷いをビターなテイストで演出している。

ただ、暗喩は暗喩として、この作品はやはり忌むべき人外のものに堕ちた姉妹の愛憎劇として見届ける方が見応えがある。

2017_pic_universal_raw_040417.jpg 
姉は孤独だったのだ。
人肉なしでは生きていけぬ怪物と化した自分に震えながら、一方で交通事故を仕立てあげて飢餓を埋め、止めることのできない欲望に慄き続ける一年を過ごしてきたのだ。

ジュスティーヌが自分の指を食べたのを知った時、彼女が流した涙は嬉し涙だったのだと思う。
自分は孤独ではなかったのだ。 
血を分けた妹が、こちらの世界の扉をノックしている。 扉を開けて迎え入れることに迷いはなかった。

こちらの世界に来てはいけないのだと、妹のことを思い、人の道から外れる魂を救う手だてを尽くすのも姉として当たり前ではないかと憤る人もいて当然かも知れぬ。
だがアレックスはむしろ積極的に、いたぶるようにジュスティーヌをカニバルの闇へと引きずり込んでいく。
一人ぼっちではなかった喜びと共に、妹のメタモルフォーゼを嬉々としてアシストしていくアレックスは、さらに恐ろしいやり方で妹を追い込み、姉妹は激しく対立するのだが・・・・・

WbwImf.jpg
ジュスティーヌも姉を思いやりつつ、人肉への欲望に抗う術を求める。
映画の終了時間が刻々と迫ることを意識しながら、この姉妹はどこへ向かうのだろうかと案じた中、とてつもない悲劇が降りかかる。

食人種に堕ちたからには、人を愛するということは愛さえも食い殺さねばならない。
希望さえも噛み砕き、胃袋へと押しやり、全てを失うことになるのだ。
罪深い欲望はあまりにやりきれない悲劇でもって姉妹を引き裂いてしまう。


姉妹がそうなら両親もかと思うが、父親の告白のセリフからして、カニバリズムは母親側の血筋からということになる。
妻との関係や、早くから兆候を見せていた長女のアレックスについて、父親は父親なりに彼女の苦しみを解放させてやろうと努力はしていたのだが・・・
r4.jpg 
「おまえは自分で解決策を見つけてくれ」

    

これはなかなか面白い映画。
女性を主人公にしてのカニバリズムを描くのも珍しく、ことごとく裏切られる展開をはらんだストーリーテリングも魅力。
グロい描写もあるが、ランニングマシン(?)のようなもので強制的に走らされてる馬のシーンや、牛の肛門、緑と黄のペンキ、ブラジリアンワックス、立ちション、股ぐらに寄ってくる犬、ORTIESなど、アーティスティックでありながら、笑いを誘ったり、意表を突くような攻めのショットが随時見られるのが楽しい。

姉妹を演じた女優が実に素晴らしいが、特にジュスティーヌを熱演したギャランス・マリリエは凄い才能なのではないか。
目を離してはいけない女優だ。
raw-2016-1.jpg


「賢人のお言葉」
 
「あらゆる動物において最も激しい欲望は肉欲と飢餓である」
 ジョセフ・アディソン 
スポンサーサイト

このページのトップに戻る

デトロイト
2018年02月11日

T0022450p.jpg毎週土曜の夕方に放送されてる「報道特集」。
先日この番組で、アメリカの白人至上主義者たちの姿がレポートされていた。

インタビューに応じている20代の白人の男は終始ニコニコしながら、「これからは隠さなくていいんだ」と、白人至上主義者であることを誇りであるかのように言う。
大統領が黒人から白人のレイシストに代わって、この浮かれようだ。
彼は、「民主主義なんかに期待していない。白人と非白人が自分の母国を作って別々に暮らせば争いごとなんかなくなる」と言う。
よくこれほどの狭い視野と下品な価値観で生きてきたなと思う。

昨年の8月に白人至上主義者が行うデモに反対する群衆めがけて車が突っ込み、一人が死亡する事件が起きた。 これに関してインタビューアーが「痛みは感じないか?」と聞くと、男は「全く感じない。当然のことだ。 防衛のためにやったことだから」と、相変わらずニコニコしながら胸を張って答えていた。
この男。ビョーキだな。

ケンカする気はないけど仲良くする気もない。
人の内面などに興味もなく、頭を使わずにルーズに生きてきたのだろう。
自分の周りは自分の好きな人だけでいい・・・
お菓子の家に住みたいという子供と同感覚の幼稚な奴だ。
Racism.jpg
数ある理由の中で、ただ肌が黒いと理由だけで人間を嫌悪する。 異常な感覚だと自分で感じないのか?
互いに近づいて色々と知り合い、理解し合おうという大きな視野をなぜ持てない? それぐらいの簡単なことがなぜできないのだ?
差別主義を勲章のように堂々と自慢することが恥ずかしくないのか?
それを恥ずかしく思わないんだったら、おまえはビョーキだ。

親方が親方なもんだから、近頃また白人至上主義者がいきり立つ社会と化したアメリカ。
公民法制定から半世紀以上経つのに何も変わらない、変わろうとしないこの国は果たしてこの先どうなるのだろう?

法律ができても、未だに白人の警官が黒人をどうしたこうしたということが後をたたない。
そしてお決まりのように暴動が起きる。 アメリカの風物詩だ。
大なり小なりある数々の暴動事件の中で1967年に発生した「デトロイト暴動」もまたワッツ暴動やロス暴動と並ぶ最大級の暴動として知られる。
detroit_race_riot_1967.jpg 
それはデトロイト市警が違法酒場に強引な手入れを行ったのがきっかけだった。
不当な捜査に反発した地元住民の黒人たちと警察との小競り合いがやがて暴動へと発展し、略奪、放火などが勃発。 ミシガン州は軍隊を投入するなど、デトロイトの街は戦場と化していった。
死者43人、負傷者は1100人以上にものぼり、被害総額は4500万ドルにも達する大規模な暴動であった。

「ハートロッカー」、「ゼロ・ダーク・サーテイ」のキャサリン・ビグロー監督が次に目を向けた世界の闇。
デトロイト暴動とその最中で起こった「アルジェ・モーテル事件」の全貌に迫った、今の時代だからこその問題作である。
☆★☆★☆★☆★☆★

黒人が人口の8割を占めるデトロイト。
冒頭、絵本のページをめくるようにアニメのテイストで、デトロイトの街に黒人層が流れていった歴史が語られて物語は始まる。

361984_002.jpg 
1967年7月23日。 からりとした暑さのデトロイト。
その日の夜、12番街の交差点に建つビルの2階にある酒場では、ベトナムから帰還兵を祝うパーティーが行われていた。
そこへ、無許可営業であるその違法酒場にデトロイト市警が摘発に乗り込んできた。
怒号や悲鳴が入り混じった喧騒の中、客や従業員ら全員が外に出され、逮捕者は次々と護送車に押し込められていく。

通りは人で溢れかえっており、その中の誰かが警官たちに向かって石を投げた。
騒ぎが小競り合いレベルで済まなくなるのに、たいした時間は要さなかった。
暴動は瞬く間に広がり、12番街では商店への略奪や放火が始まり、もはや手がつけられない状態となっていく。
遂にはミシガン州が軍隊の投入を要請する事態にまで至る。
Detroit_Digital-Nov_-28_Blu-ray-Dec_12_Still-13-1024x577.jpg
暴動は一夜明けても収まる様子はなく、ジョン・コニャーズ下院議員が街頭に立ち、民衆に呼び掛ける。
「自分たちの街をけがすな!」
冷静になることを促す議員の言葉がまるで届かないのか、これまでの鬱憤が溜まりに溜まった民衆の怒りは収まるどころか、ボルテージは上がる一方。
「焼き払え!」

暴動というものの群衆心理のメカニズムには詳しくないので、シロウトの我々は腑に落ちない思いで一杯だ。
警官たちに怒りをぶつけるのはまだ分かるとして。
自分たちが暮らしている街を自分の手で荒し、黒人が営んでいる店を同じ黒人が盗みに入って、中には火までつける奴がいる。
361984_006.jpg
なぜそんなことを?
敵も同胞も区別がなくなる、この狂気は何ゆえに生まれるのだろうか?
あまりにバカげたことを仕出かしていると、なぜ人々は冷静になれなかったのだろうか?
暴動というのは、そういうものなのか?
少くとも街中に戦車まで出てくる状況を見たときに、頭を冷やして家でじっとしていれば、むごたらしい悲劇は避けれたかも知れないのだ。
 
その悲劇、「アルジェ・モーテル事件」。
7月25日の夜、市内のモーテルに宿泊していた黒人の青年たちの一人がふざけてオモチャの銃を窓の外に向けて発泡。
これを狙撃と勘違いした警官たちがモーテルに押し掛ける。
当時、そこには黒人男性7人と白人女性2人がいたが、結果、3人の黒人男性が警官に射殺された。
無題
事件直後は警官の正当防衛による射殺とされたが、のちに容疑者に対して警官や州兵による違法な暴行が行われた末の殺人だったことが明るみに出る。
3人の警官たちが第一級殺人などの罪に問われて起訴されたが無罪となっている。

映画はこの痛ましい「アルジェ・モーテル事件」を中心に進行する。
カメラは被害者・加害者警官ら当事者たちの目となり、我々観客はこれから想像を絶する一夜を目撃する事になる。


【ラリーの長い夜】
361984_010.jpg
インディ・デビューしたばかりのバンド、ザ・ドラマティックスのリードヴォーカル、ラリー・リード(アルジー・スミス)。
この日の夜は彼にとってバンドにとって特別な夜になるはずだった。
はじめて地元の音楽堂、フォックス・シアターの大きなステージに立つのだ。 あわよくばメジャーのレコード会社モータウンとの契約もかかっている。
ステージでは女性3人組のマーサ&ザ・バンデラスが華麗な歌声を響かせ、舞台袖でスタンバってるメンバー全員は誰もかれもが緊張していた。

次はいよいよ自分たちの出番だ。 あぁヤバい。 死ぬほど緊張するぜ。
「一度合わせておこうか」 軽いリハをして緊張をほぐした。 バッチリだ。
さあ、いざ出番だという時になって、突然ステージは中止だと聞かされた。
冗談じゃないぞ、おい。


外で暴動が起きており、警察から強制的に避難の指示が出たのだ。
観客が全員退去させられる光景をラリーたちは呆然と眺めるしかない。

ちょっと待てよ。 まだ大丈夫だろ。 一曲だけだから。
なんでだよ、こんな時に。 みんな戻ってこいよ。


361984_008.jpg
どうしても諦めきれないラリーは、虚しいことと知りながら、ステージに出て歌い始める。
メンバーの弟で友人でもあるフレッド・テンプル(ジェイコブ・ラティモア)がなだめようとするが、それを振り切ってラリーは熱唱した。
誰もいなくなった客席に向かって。
「If you haven't got love」。 So Lonery~ So Lonery~

何してくれやがるんだ、デトロイト。 
返してくれよ、俺のステージを。


劇場を出たザ・ドラマティックスのメンバーはバスに乗り込んだものの暴徒の襲撃に遭って離れ離れになってしまう。
ラリーフレッドと共にバージニア・パークのそばにあるアルジェ・モーテルにチェックインする。
そこはまだ比較的平穏な場所だった。
Detroit_ensemble_motel_kids.jpg
プールサイドにいた2人の白人女性、ジュリー(ハンナ・マリー)、カレン(ケイトリン・デヴァー)と仲良くなったラリーはその足で、ジュリーの友人らが泊まってる部屋に向かう。
やがてジュリーの遊び仲間であるカール(ジェイソン・ミッチェル)ら5人の男が合流した。

リー(ペイトン・アレックス・スミス)、マイケル(マルコム・デヴィッド・ケリー)、オーブリー(ネイサン・デイヴィス・ジュニア)。 そして復員兵のロバート・グリーン(アンソニー・マッキー)である。

このカールというヤツはいつもこんな風にハイなのか?
DEJcLzaUMAAImXv.jpg 
つい先日亡くなったジョン・コルトレーンは「ヘロインで死んだ」などとホザきやがる。
ボケか。 肝臓ガンだろが。
「だからヘロインが原因で・・・」などとまだ言ってやがる。
分かった分かった。クソして寝ろ。


話題はどうしても暴動のことになるが、こいつの口はホントによく回りやがる。
「黒人は常に銃を突きつけられてる。 白人どもは俺の街、俺の車・・・全部自分のモノという」

ピストルを振り回して白人警官のマネごとをするカールは誤ってリーを撃ってしまった・・・と思ったらそれは二人が仕組んだドッキリで、銃は競技用のスターター・ピストルだった。

こんな時に、よくそんな悪ふざけができるもんだな。
だいたい、なんでオマエがそんな競技用ピストルなんか持ってるんだ? 国際陸連の職員か、オマエは?
しょうもないことやりやがって。


detroit-2.jpg
オモチャを手にした幼稚なイチビリ野郎が元凶といえば元凶なのだった。
笑えることと笑えないことの区別がつかないのだろうか。

「ブタどもを脅かしてやるぜ。 俺たちはやられっぱなしじゃねえ」
カールは窓の外に見える警戒中の州兵たちに例のオモチャの銃を発砲する。
ラリーにとって長い夜の始まりだった・・・・・・


【クラウスの熱い狂気】
361984_004.jpg 
デトロイト市警の警察官フィリップ・クラウス(ウィル・ポールター)は暴動の混乱の中で略奪犯の取り締まりを行っていた。
相棒のフリン(ベン・オトゥール)と共にパトカーに乗り込み、変わり果てたデトロイトの街並みを眺めながら嘆きが止まらないクラウス

「暴力で何も解決しないと言うが、問題は我々があまりに非暴力的だったことだ」

俺たちゃ聖母じゃねえっての。 なんのためにこんな制服着て銃持って手錠持って危険な街ん中歩いてんだよ。
黒人様をツケ上がらせると、平気でこんなバカをやらかしやがるぜ。 俺たちの街をこんな風にしやがってよ。

「見てみろよ。 まるでベトナムじゃねえか」

「俺たちのせいだ。 何もせずに見てたからだ」

俺の目の前で好き勝手しやがる黒んぼは片っぱしからブチ殺してやる。
と、思ったらさっそくバカがノコノコと出てきたぞ。 ふざけやがって。

6DETROITJP3-master675.jpg 
雑貨店から、明らかに商品を略奪して外に出てきた黒人の男とクラウスが鉢合わせ。
慌てて逃げ出した男を追いかけるクラウスはちゅうちょなくショットガンをぶっ放した。
攻撃してきた訳でもない相手を背後から撃つというのは警官といえど完全な違法行為だった。

仕留めたか・・・? 当たったはずだが。 後ろから撃ったのはマズかったが、言い訳はなんとでもなるさ。

撃たれた男レオンはクラウスたちを振り切ったあと、知り合いの民家の前まで逃げてきた。
そこにある車の下に潜り込んで隠れたが、それはもうあまり意味がないとレオンは悟った。
驚いて出てきたその家の老婆にレオンは「ママを呼んでくれ」と言ったきり、そのまま息を引き取った。

detroit-movie-7.jpg 
やっぱり怒られたか・・・
うちの上司、だいぶブチ切れてたなあ。
そうか・・・、あの男、くたばったのか。
しらばっくれてやろうかと思ったけど、弾道検査すりゃ俺の仕業ってチョンバレだもんな。
そりゃ、後ろから撃っちゃいけないのは分かるけど、相手は泥棒の黒人だぜ? ほめてくれるんならまだしもそんなに怒られることか?

ハイハイ。わたくしが悪ぅございました。 これでよろしいですか。
差別主義者? その言い方はどうかなあ?
俺がやってるのは正義だぜ?
今度やったらクビ? この人手不足に? まあ、次はうまくやるさ。


このクラウスという警官は病的なまでに黒人を蔑む人種差別主義者である。
職務に忠実というよりは、警察バッジを一種の武器に、嬉々として黒人を排斥することに血道をあげてきた外道なのだ。
黒人を刺激して挑発して暴力を煽って、黒人を正当に逮捕できるように仕向けることも厭わない。
どんなやり方を使ってでも、「黒人を虐げることもできる職業」を最大限に利用することに必死の男だった。

1492013075-0a4f98ade687fc93dc4d887cf34a84aa-600x322.jpg
その日の夜、クラウスフリン、そして新人警官のデメンズ(ジャック・レイナー)を伴って12番街あたりをパトロールしていた。
そこへアルジェ・モーテルから何者かが銃を発砲してきたという通報を受け、現場に急行する。

自分でイタズラをしておきながら、警官隊に包囲されるという事態にチビッたカールは逃げ出そうと2階から階段を駆け下りる。
誰よりも早くモーテルの中に突入したクラウスは、そこで階段を下りてきたカールを見た。
警官の姿を見て、思わずきびすを返して背中を向けたカールクラウスはためらわずに射殺する。

そして彼はのちのち正当防衛が主張できるように、カールの死体のそばにナイフをそっと置いた。
やってやったぜ。 だが、こいつは銃を持ってない。 犯人じゃないってことか? まあどうでもいい。
さあ犯人探しだ。 俺たちに銃を向ける黒んぼに手加減はしないぞ。


クラウスの熱い狂気が燃え盛っていた・・・・・・


【ディスミュークスの厄介な憂鬱】
59792bb25f00b_image.jpg 
メルヴィン・ディスミュークス(ジョン・ボイエガ)は人種差別の激しい南部のアラバマから家族と共にデトロイトに移住し、溶接工をしながら民間の警備員をしている。
この制服を着ている以上は少なくとも白人警官から因縁をつけられることはない。
それどころか、こちらがキチンとした態度で接すれば白人もそれなりに紳士だった。
それが制服の持つ魔力だった。

この世界の御し方を心得てやってきたディスミュークスだが、黒人から白い目で見られることもある。
それも致し方のないことだった。

この制服も時には便利なのさ。
挑発に乗せられて無駄な暴力に訴えて警察に引っ張っていかれるバカもいる。
そんな奴を止めることもできる。
ウッドワード通りで生命保険会社のビルを警備する州兵に若者が食ってかかっていた。
なにをやってるんだ、家に帰って大人しく寝ろ。

「すいませんねえ、そいつはうちの甥っ子なんですよ。 勘弁してやってください」

「俺はアンタの甥っ子じゃねえよ」 「うるさい。 頭を冷やせ、このバカ」
相手が州兵だからいいようなものの、警官だったら真っ直ぐ向かって行った時点で銃を抜かれるぞ。
ちょっとは考えろ。


1503411078173-maxresdefault-6.jpg
その日の夜、契約している食料雑貨店の警備をしていたディスミュークスは明らかに銃声を耳にした。
狙撃事件の発生らしい。
ディスミュークスは州兵と共に現場のアルジェ・モーテルに直行する。

もうすでに警官隊が突入した後で、何人かの黒人がすでに身柄を取り押さえられていた。
白人の女性もいることに少なからず驚いたディスミュークスだが、もっと衝撃だったのは1階のロビーの床に一人の黒人の男の死体がうつ伏せに転がっていたことだった。

その場にいたクラウスという白人警官は「そいつがナイフで襲ってきたから」と言った。
ナイフで襲ってきた相手に銃でか?
それに、この死体は後ろから撃たれてるようにも見えるがな。


だが彼は何も言えなかった。 言わない方がいいというのは、これまで彼が経験してきた生き方が尾を引いているのだろう。
だがしかし、このモーテルの窓から銃を撃った奴がいる。
まずはそれを突き止めないと。 捜査に協力はするが、この白人の警官はなにやらヤバい狂気の匂いをプンプンさせている。
大丈夫なのか? 捜査の名を借りて妙な事態になったら、果たしてこの俺に何かできるだろうか?


ディスミュークスの厄介な憂鬱は収まりそうにない・・・・・・


detroitlineup.jpg
モーテルにいた若者8人が拘束されて1階の廊下に整列させられる。
ザ・ドラマティックスのシンガー、ラリーと友人のフレッド。 殺されたカールの友人のリーマイケルオーブリー。 ベトナムからの復員兵グリーン。 そして2人の白人女性ジュリーカレン

「壁に顔を向けて手をついてろ。 こっちを見るなよ。 抵抗したら即撃つぞ」
感情を抑えたクラウスのキリッとした威圧の声が8人を震え上がらせている。
ちょっとの口答えでもクラウスフリンは容赦なく銃の台座で殴りつけた。

州兵も混じっての銃の捜索が行われたが、問題の銃はどこからも発見されなかった。
クラウスはイラつく。 証拠品さえあれば黒人なんぞ煮ようが焼こうが好き放題できる。
だが、州兵や民間警備員らもいる手前そんな勝手はできない。
「おまえらは容疑者だ。 銃がどこにあるか正直に言え。 撃ったのは誰だ?」

だが誰も「知らない」と言うばかりで、逆にクラウスのサディスティックさはどんどん増していく。
「喋れ」、「知らない」の繰り返しと共にクラウスの恐喝と暴行はエスカレートするばかりだった。

361984_003.jpg 
「恐いか?恐いだろ。 祈れよ。 お祈りするのはオマエら得意だろ。 さあ祈れ。 なんなら聖歌でも歌え。 ほら、大きな声で!」

クラウスは若者の一人にナイフを持たせた。
「ナイフで自分を守れ」 
見え透いた挑発をして相手の反応を面白がるクラウス

フリンはと言うと、女性にコンプレックスでもあるのか、黒人と一緒にいたというのが許せないらしく、2人の白人女性にしつこく尋問する。
「白人だからといって見逃がしてもらえると思うなよ、この売春婦どもが」と、ためらいなく女を殴る。
警察バッジをつけてるのが信じられない卑小な男だ。

これは軍隊のしごきか? 奴隷を虐待する王様か?
およそ日本では考えられないような光景である。
いくら犯罪捜査だからと言って、民間人に対する警官の態度とは程遠い所業が延々と続く。

見るに堪えないこの尋問のシーンは実に40分も続く。
我々観客は否応なく耳目をその現場の中に放り込まれ、一部始終を見届けさせられるのだ。

 
detroit-final-face.jpg 
クラウスにとっては、とにかく銃の在り処だった。 そして誰が撃ったか?
それを知るまではクラウスの“趣味”は続く。

クラウスリーを別室に連れて行き尋問する。
「本当に知らないんだ」
「そうか。言わないんだったら死ぬまでだ」
床にうつ伏せにさせてリーの顔の横で床を撃つ。
「そこでじっとしてろよ。 声を出すんじゃないぞ」
リーは恐怖のあまりに言う通りにするしかない。

本当に殺しはしないのだが、外にいる他の者はリーが殺されたと思い込んでいる。
「殺しやがった。 本当に殺しやがった・・・」
「あっけなく死んだぞ。 嘘をつくからああなるんだ」

それは、順番に殺していくぞと言ってるも同然のクラウスの「死のゲーム」の始まりだった。

361984_015.jpg 
次はベトナムからの復員兵グリーンの番だった。
彼もまた別室に引っ張り込まれ、死を装わされることになるが・・・。

カールが2階から発砲した時、彼はジュリーカレンと一緒に3階の部屋にいた。
音は聞いたが本当に何があったかは知らない。
それよりも、黒人が白人女性と部屋にいたというのがクラウスフリンも気に入らないらしい。 つくづく浅ましい奴らだ。

グリーンがベトナム帰りだと聞いてそこに食いつくところも、妙な虚栄心を感じさせる。
オマエは本当に兵士か? 階級は? 人を殺したのか? 登録証もどうせ偽造だろ?
警官は兵役に就かないからか。 そんなにうらやましいのか、お国の役に立った男が。

女性に対しても黒人とは違う異質の、上から目線な言い草が怒りを通り越して憐れみさえ覚える。
特にフリンという奴はゲスだ。 家に帰ってマスでもかいてろ、ボケ。

John-Boyega-in-DETROIT.jpg 
ディスミュークスは黒人の自分が何とかクッション代わりになろうと気をもむ。
そうでもしないと本当にあのクラウスという警官は取り返しのつかないことをやりそうで恐ろしい。
とにかく、銃による発砲があったのは確かなのだから、彼らが正直に話せばコトは悪い方に転がりはしないとディスミュークスは信じるしかない。
「警官を敵に回すな。 今を生き抜け」

白人におもねって、一緒になって若者たちをいたぶるようなマネなどもちろんしたくない。
スキを見て彼らを逃がしてやりたくもなるが、もはや制服を着て白人警官と一緒に職務を遂行している自分の姿を見ている彼らの目は明らかに敵を見る目だった。 そこがディスミュークスには恐いのだった。

2人の女性をなんとか彼の計らいで解放はできたが、それも彼にとっては後々逆効果となってしっぺ返しが来ることになる。

detroit.jpg
ディスミュークスとは顔見知りで、共に現場に向かった州兵のロバーツ准尉(オースティン・エベール)はこの出来事の中の唯一の良心だった。
州兵に捜査の権限が制限されてるとは言っても、モーテルの中で行われてる警察官のやり方は目に余るものだった。

ミシガン州警察が様子を見にやってくる。
ロバーツ「あれはあまりにもやり過ぎだ。 なんとか辞めさせないと」と訴えるが、州警の責任者は「人権の絡む問題に関わりたくない」と言ってアッサリ引き揚げてしまう。

この「見て見ぬふり」が物語の一つのテーマにもなっている。
ディスミュークスとてロバーツ准尉とて、面と向かってクラウスには意見できず、そのまま悲劇になだれ込むのを食い止めることはできなかった。
どうすることもできなかった状況ではあるが、彼らに限らず、どこにでもある人種差別の現場では被差別者だけでなく、「これはおかしい」と思う第三者が声を発すれば、差別主義者が考えを改めるまでに至らずとも、心の中になんらかの引っ掛かりを与えるきっかけが生まれる。
考えを改めさせられなくてもいいから、まずは考えさせるのだ。
そこから始まるのだ。

そしてロバーツ准尉は行動する。
別室でうつ伏せたまま恐怖で固まっているリーを逃がしてやるという行動に出たのだ。
ちょっぴり男をあげたな。

03still-processing-Detroit-2-master768-kzDI-U1030697874746J1-1024x576@LaStampa_it.jpg 
銃は一体どこにあるのかを口を割らせるために行われてる「死のゲーム」。
クラウスは3人目を新人警官のデメンズに選ばせた。
「おまえがやってこい」とデメンズに任せたのが間違いだった。

別室で本当に殺さず撃つふりをする。 他の者に銃声を聞かせて本当に殺したと思わせて自白を迫るのが目的だった。
この説明がデメンズに伝わっていなかったのだ。
そしてデメンズはオーブリーを本当に射殺してしまうのである。

初めて銃で人を撃った経験ができて顔を上気させているデメンズの様子に、まさかと思って部屋を覗いたクラウスは大変なことになったと焦る。
「本当に撃つ奴があるか、このバカが。 ゲームなんだ。 撃つふりなんだよ」

3人の警官は一気にうろたえた。
真実はもうどうでもいい。 
この状況をどうにか取り繕って、ここから引き揚げないと。 それを考えるだけで精一杯だった。

1753526_full.jpg 
クラウスは拘束していた者たち一人一人に、カールの死体を見せて「ここで起きたことは全部忘れろ。 誰にも一言もしゃべるな。 約束を破ったら殺すぞ」と脅しをかけて解放した。

グリーンラリーマイケルも黙ってモーテルを出て行ったが、最後のフレッドだけはなぜか些細な抵抗を見せた。
自分とは初めてこの夜に出会っただけの、言葉も交わしていない男の死体である。 何の義理もない。 言われたとおりに口をつぐんでも良かったのだ。

だが彼は「見て見ぬふり」ができなかった。
なぜか?
フォックス・シアターで観客が全員退去させられたステージの上で、ラリーが虚しい抵抗を見せて孤独な熱唱をしていた姿が彼の心に突き刺さっていたからだ。
フレッドも抵抗したのだ。 このデトロイトの街の理不尽な暴力に。

「あんたが殺した・・・」

クラウスは銃を抜いた。 フレッドは3人目の犠牲者となった。
ラリーは逃げたというのに皮肉なものである。

こうして「アルジェ・モーテル事件」は一応終息した。
その後の真実を追う物語はまた後ほど。

000e6494-800.jpg
映画を観ている観客にとって最大の疑問だったのは、尋問を受けた黒人たちがなぜスターター・ピストルのことを言わなかったのかだ。
3階にいたグリーンと女性たちは分からないから仕方がないが、他の5人は知っているのは間違いない。
銃の発砲は誤解なんだ、あれはオモチャの銃でカールがふざけてやっただけなんだと言えば状況は違っていたかもしれない。

だが彼らはそれを喋らなかった。 そこが解せない。
5人揃って恐怖のあまりにできなくなってしまったのかというのも妙だ。
やはり彼らはあえて喋らなかった・・・と思うのだ。

警官たちがオモチャの銃の音でビビったのだと知ったら、彼らはそれを認めるだろうか? おそらくは信じないだろう。
トチ狂った警官が「俺たちをバカにしてるのか?」と、さらなる暴力に出ることを思えば、(誰かが喋ってくれないだろうか)という希望のもと、それぞれ自ら口を閉ざしたのだ。

もっとドラマ的な推測を許されるのなら、恐怖のどん底にいながらも、白人ナニクソの感情が頑なに彼らの口を固くしたのではなかろうか。
誰がお前らに従うものか、本当のことは絶対に言うまいと強圧的な警官に抵抗することを彼らは決めたのだ。
殺されるかもしれない。 恐い。 誰か助けてくれ。
そう思いながらも、街で白人への怒りをぶつけている同胞たちと同じように戦うのだと腹をくくってもいたのだ。
hero_Detroit-2017.jpg 
うらぶれたモーテルの中に"小さなデトロイト"ができていたのだ。
冷静になって命を大切にすればいいのにと思うかもしれないが、それでも何かしらの抵抗をせずにはいられない。 そこに"暴動"と似通った心理があるのだろうか。

俺たちはオモチャの銃の音にビビるような腰ぬけじゃないぞ。
銃がどこにあるかだと? 探し出せないまま、せいぜい怯えているがいいさ。
警察バッジと制服がなければ何もできないおまえらに俺たちは負けない。 絶対に生き抜いてやるぞ。

被害を被った彼らのビビり方を見てたら、とてもじゃないがそんな憶測はあまりに漫画チックで現実的じゃないかもしれない。
それでもだ。 あの40分間のシーンの中にいる錯覚をもたらされ、差別主義者の男に向かって「ええかげんにせえ!」と背中を蹴飛ばしてやりたくてもやれない思いで観ていたアッシはね、そうも思いたくなるのだよ。


detroit-john-boyega-faces-racist-interrogators.jpg 
事件後、ディスミュークスは警察に呼ばれた。
現場にいた当事者として、捜査協力の意見を求められるとばかり思っていたが違っていた。

取調室に入ってきた二人の捜査官は、持ってる銃はリボルバーだな?とか、モーテルに入った時に男が撃たれたのを見たのか?などと、どうも的の外れた質問をする。
「おまえは容疑者だ」

白人から身を守ることもできる制服がここに来てアダになったのだ。
現場に自由に出入りし、白人警官に協力していたことが、彼らに虐待された女性たちの反感を買い、面通しで「この人よ」と売られてしまったディスミュークスはデメンズらが自供して逮捕されるまで留置場に入れられることになる。

Detroit-Pic-for-the-Web.jpg
アルジェ・モーテルで地獄を見たラリー・リードは解放された直後、パトロールしていた警察官たちに保護される。
大怪我を負っているラリーに「何があった?誰にこんなことをされたんだ? 病院に連れてってやる」と言った警察官たちの言葉は、今までのことを思えば天使のささやきのように聞こえる。
同じ警官でもえらい違いだ。

だがラリーの心の傷はあまりに深かった。
モータウンからお声がかかってメジャー・デビューのチャンスが訪れる。
だがレコーディングに向かったスタジオのブースの中に、モータウンには似つかわしくない白人の男がいるのを見つけたラリーは歌うのを辞めてしまう。
「白人が踊って喜ぶ歌など御免だ」

やがてラリーは教会の門を叩き、聖歌隊の一員として天に召された友を悼む歌声を贈るのだった。

john-k.jpg 
良心の呵責に耐えかねてデメンズが上司に洗いざらいぶちまけ、フリンもあの日のことを告白する。
窮地に追い込まれたクラウスは最後までしらを切り通そうとする。

かつてディスミュークスを取り調べた捜査官が、次はクラウスにブチ切れた。
「殴れば思いだすか?」
クラウス「弁護士を呼んでくれ」と言うのが精一杯だった。

そして始まった裁判では、弁護士の入れ知恵か、クラウスはもちろんのこと、自供していたフリンもデメンズも容疑を否認する。
全員白人の陪審員、白人の裁判長。
自白は証拠として扱われないと宣言されて、3人の警官は無罪となった。

法廷を出て、タバコで一服しながら「大変な目に遭ったな」と語りあう3人。
どっちがだ? おまえらより大変な目に遭った人のことに思いを馳せてみろ。 そんな想像力などないか? この人殺しどもめ。


361984_011.jpg
変わろうとするどころか時代が後退するアメリカ。
白人と黒人が無理に仲良くしたくないならそれでもいい。 知ったこっちゃない。
だが勘違いしてはならないのは、どちらも「至上」ではないことだ。

居丈高に振る舞う白人も、略奪に走る黒人も、みんなバカばっかりだ。
だからこそ、この国は前進しないのだ。

人種に至上もクソもあるか。
みんな対等だ。 子供に胸を張って教えれる生き方をしろ。
壁の方を向かせた相手の背中に一方的に文句を言って、何が始まるというのだ?
対話は面と向かってしないと成り立たないことぐらい猿でも知ってるぞ。

あの40分間のおぞましいシーンの中には確かにアメリカの病理が描かれている。
まずは対話だ。
別に自分が何かをされた訳でもないのに、特定の人種と仲良くしたがらないボケナスなど論外だ。

誰もかれもがガンジーやマザー・テレサになれとは言わん。
だが、同じ人間同士でありながら、狭いにもほどがある価値観でしか判断できないような人生のどこが面白い?
白いとか黒いとかで分断するような国など、北朝鮮と戦争したって負けるぞ。 肝に銘じておけ。

1512119231_535332_1512119954_miniatura_normal.jpg
トランプ政権の影響で、再び人種間の対立が刺激される世相の中で、キャサリン・ビグローがあえてブチかました問題作。
たかだか映画一本で大国の方向がどうなる訳でもないが、歴史の闇を突く「キャサリン砲」が残す弾痕は決して小さくないはず。
今こそ「対話」が開かれることを望む。 特定人種の至上主義が蔓延る世界などまっぴら御免だ。

この映画でやはり強烈な印象を残すのは、差別主義者の警官を演じたウィル・ポールターである。
もともとがちょいとクセのある顔つきをしている。 彼の武器といってもいい。
つり上がった眉の下から睨む目つきだけで、何も喋らなくても伝わることが伝わる。
それほどの"顔力"を持っている。

こざかしい表情かと思えば、フッと、ワンパク坊やの童顔そのままのおどけた顔を作る時もある。
「ナルニア国物語」や「メイズ・ランナー」の頃から誰もが薄々感づいていた彼の才能が、ここにきて神的な爆発を見せた。

しかし、この映画。 オスカーから全く無視されたとは信じがたいな。

 
361984_001.jpg


「賢人のお言葉」
「私たちを苦しめるあなた方の能力に対して、私たちはその苦しみに耐える能力をもって応じましょう」
 マーティン・ルーサー・キング・ジュニア

このページのトップに戻る

他にもこれ観ました  ~1月編(下)
2018年02月06日

pic_09.jpg 
「パディントン2」

2年前の前作は観るかどうか迷いつつも、主人公のクマのかわいさに釣られて観に行ったら予想外の傑作にビックリ。
一応はファミリー映画だけど、多様性への寛容さというメッセージもある、楽しくてハラハラさせてホッコリさせる極上のエンタテインメント。 超拾い物の映画でした。

本国イギリスで作り手さえも予想してなかったスマッシュヒットを飛ばしたのが2014年。
2年遅れの日本公開は正月シーズンも過ぎてたし、「子供向けでしょ?」という先入観があったのか、さほどのヒットではなかったのが残念ですね。
続編はどうでしょうか。

今回も期待にたがわぬ面白さですよ。 心がささくれだってる人はぜひとも観てちょうだい。
監督は前作と同じポール・キングなんですが、この人は観客を楽しませるツボを心得てますね。 ちょっと感心してしまいました。
流れ的には前と変わらないんですけど、だからといって同じアプローチをしていませんし、人間社会にこなれてきた所もありがら、ゴーイング紳士道のパディントンが知らず知らずのうちに周囲を巻き込んでいく楽しさや、他の登場人物の描写も、時の流れを加味した微妙な変化を添えて掘り下げられています。
前作の悪役はニコール・キッドマンでしたが、今回はヒュー・グラントがノリノリの怪演。

見どころの多いエピソードがてんこ盛りなのですが、列車アクションも刑務所のシーンも楽しすぎ。
囚人服ってピンクにすると、いかつい囚人までも可愛らしく見えてしまうのは不思議ですねえ。
飛び出す絵本の中でパディントンがルーシーおばさんをロンドン見物させる想像のシーンは超絶的に素晴らしい。
この飛び出す絵本のシーンの感動があるから、ラストシーンは爆泣きしてしまいました。 ブラウン・ファミリー最高だ!
ぜひとも、パート3製作求む。
        

361902_001.jpg 
「ルイの9番目の人生」

9年間で9回死にかけた少年の運命に隠された衝撃の真実とは・・・
10年前に他界した巨匠アンソニー・ミンゲラが生前温めていたリズ・ジェンセンのベストセラーの映画化がようやく実現。
先読み不可能な展開が一筋縄ではいかない心理サスペンス。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
僕の名前はルイ・ドラックス。 9歳です。
今、僕は病院のベッドで昏睡状態です。
崖から海に転落して死にかけています。
思えば僕の人生は死にかけの連続でした。
生まれた時は逆子でシャレにならないような難産だったらしいです。
ベビーベッドで寝てるとシャンデリアが落下して全身の骨がバッキバキ。 赤ん坊心に思いました。「マジか」
その後も、コンセントをいじって感電。 クモに噛まれる、ハチに刺される・・・
食中毒もしょっちゅうでした。
毎年死にかけるんですから、8歳の時にはさすがに自分でもおかしいなと思いましたよ。 いずれヤバいなと。
「アンビリーバボー」のネタにされる前に僕ヤベーなって思いました。
そして9歳の誕生祝いにパパとママと一緒にピクニックに行って、崖から落ちたという訳。
しかも、この時からパパは行方不明。 ママはただただ、うろたえるばかり。
担当医のパスカル先生がママを慰めながら、僕の災難続きの謎を独自に調査してくれるんだけど・・・

そもそも僕は学校時代は友だちもいない問題児で、カウンセラーのペレーズ先生の所に行ってよく話をしたもんだよ。
僕って嫌な性格なんだよね。
「先生は“それで?それで?”しか言わないね。 楽な仕事だね」
「パパとママは愛し合ってなんかいない。 離婚したいんだろうけど僕がいるから」
「動物は平均寿命を過ぎたら殺してもいいんだよ」
パスカル先生はママに気があるね。 ヤリたがってるね。 勝手にすればいいさ。

さて、こう何度も死にかける僕の人生って一体どうなってるんだろう?
大酒飲みだったパパの虐待? それとも僕自身の自傷行為?
さて皆さん、この真相が分かるかな?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
監督はあの「ピラニア3D」を撮ったアレクサンドル・アジャであります。
そのあと「ホーンズ 容疑者と告白の角」という風変りなスリラーも撮ってるとはいえ、なんだかつかみ辛い監督さんです。
抑えた語り口のサイコサスペンスですが、厄介なのは視点がコロコロ変わる上に、フラッシュバックや夢のイメージ映像もしつこいところ。
ついてはいけなくはないですが疲れますねえ。
さもありなんな真相への辿り着き方も御都合的。
ただ、ミステリーの真相追及というよりも、ルイを救おうとする担当医のように、観客もいかに少年の傷ついた心に触れれるかがミソ。
        

362484_001.jpg 
「ジュピターズ・ムーン」

突然、空中浮遊能力を身につけた難民の青年。 片や医療ミスで病院を追われ、難民キャンプで違法入国に手を貸して訴訟の示談金を稼いでいる落ちぶれた医師。
この二人が運命的な出会いを果たして、国境警備隊の男の執拗な追跡を振り切りながら逃避行を続ける、衝撃と感動のハンガリー映画。
・・・・・・・・・・・
故郷シリアを捨ててハンガリーの国境を目指していた青年のアリアンは国境警備隊の銃撃を受けて難民キャンプに担ぎ込まれる。
瀕死の重症を負ったアリアンを診察した医師シュテルン。
酒に酔ったまま執刀して有望なアスリートを死なせてしまい、病院を追われた彼は現在難民キャンプの医師をしながら、元同僚と結託して難民を違法に入国させて金を稼いでいた。
アスリートの遺族に訴訟を取り下げてもらうためには、相当な金が彼には必要だった。

シュテルンがアリアンを診察しようとした時、アリアンが「体が変だ」と言いながら突然空中に浮き始める。
驚きのあまりに部屋を出たシュテルンは国境警備隊のラズロと出会う。
ラズロは自分か撃ってキャンプに運ばれたはずの青年の様子を探りに来ており、難民に発泡するという違法行為の揉み消しをシュテルンに頼むが断られ逆上するが、その間、アリアンは国境付近ではぐれてしまった父を探しに診察室を脱け出してしまっていた。
追いかけたシュテルンはアリアンを見つけて合流。 彼の空中浮遊の力を利用して一儲けを企んだシュテルンは父親探しを手伝うことを口実にアリアンと行動を共に。
一方、保身に必死になるラズロもアリアンを殺すために二人の後を追う。
・・・・・・・・・・・
難民青年が特に主人公のポジションにいるわけではなく、空中浮遊がどうのというSF的なことも殊更に全面に出していません。
これはハンガリーの難民問題が全面に出た、れっきとした社会派作品。
ハンガリーという国は難民に非常に厳しい国でして、欧州諸国からも批判されるほどの反難民政策を取っています。
そんな背景を匂わせる描写も逐一盛り込みながら、青年の自由への逃避行と、ゲスの塊のような男だった医師が人間性を取り戻していく過程を力強い筆致で描いています。
コーネル・ムンドルッツォは「ホワイトゴッド 少女と犬の狂詩曲」の監督さんですが、前作には見られなかった長回しが今回は随所に採り入れてますね。
もともと長回しが持ち味の人で、本作でも臨場感を煽る躍動的な長回しを見せてくれます。

安住の地を失くした民に踏みしめる大地はなく、ひたすら天へ天へと、国境のない空を流浪する。
どこに行けばいい・・・ 翼のない天使に自由の朝陽はあたるのか・・・
        

640_20180204231318d4f.jpg 
「ガーディアンズ」

ロシア映画でごわす。
マーベルに対抗意識を燃やしたのか、これは差し詰めロシア版「ファンタスティック・フォー」。

1940年代のソビエト連邦では、遺伝子操作で特殊能力を持つ兵士を生み出す「パトリオット計画」が進行していた。
計画の責任者である科学者クラトフは組織を裏切り、自ら超人となったまま姿を消して50年後。
かつて自分の研究を否定し、抹殺命令まで下した政府に復讐するため、そして自らの力でこの世界を手中に収めようとクラトフが動き出す。
クラトフの野望を阻止すべく、再結成された秘密結社パトリオットは、50年前にスーパー戦士となったメンバーを召集する。

....ここで「50年前って?」と疑問を感じた人に説明しておこう。
遺伝子操作によるスーパー戦士になると、肉体の老化スピードが極端に遅くなり、約30年で肉体年齢が1歳ぐらいしか経過しないという副作用に見舞われるのだ。 うらやましいっちゃあ、うらやましいが、歳を取らないのもまたそれなりに辛いらしい。

打倒クラトフのために編成されたスーパー戦士チーム「ガーディアンズ」。 そのメンバーは・・・
★ 念動力の使い手レア。 ただし動かせるのは石や岩のようなケイ素物質だけ。 本気出したら山も動かす。
★ 300メートルぐらいなら光速移動できる能力を持ち、三日月形の大型ブレード二刀流で敵を斬り裁くハン。
★ 周囲に水があれば身体を透明化できる紅一点の戦士クセニア。 過去の記憶を失っている。
★ ヒグマの遺伝子を注入されているアルススは、強靭なパワーを持った獣頭人身の姿に変身する。

パチもん、猿マネ、二番煎じなどという外野の声などどこ吹く風。
プーチンも飛んで逃げるロシアのスーパーヒーローユニット、ガーディアンズ。 ボルシチ魂炸裂のたくましきアクションB級ムービーをご堪能あれ。

悪い方に想像していたので、思ったよりはマシな映画でしたね。 これ以上を求めるのは酷。
予算(6憶円)だってマーベルムービーとは比較にならんでしょうし、精一杯がんばったと思いますよ。
(「ファンタスティック・フォー」(2015)=130憶円)
ただ気になったのは、聞き慣れていない言語のぎこちなさですね。
洋画を山ほど観てますと、英語をはじめとした外国語も耳に馴染み、それなりに演技度も伝わるもんです。
しかし、このコッテコテのロシア語の映画に慣れていないせいか、セリフが棒読みに聴こえてしょうがないんですね。 演者はちゃんとやってるとは思いますが。
        

362348_001_20180205231006d26.jpg
「ダークタワー」

スティーヴン・キングのライフワークとも言うべき長大なシリーズ小説の映画化。
キングの小説って、昔なんだったっけ?読んだことありますけど、その一冊だけ。
基本的に洋モノ小説の長いのは苦手。
本屋でいつも目にしていた「ダークタワー」の全7巻のボリュームには読破する人に敬意さえ覚えます。
なので、映画化された「ダークタワー」の上映時間が、なんと95分というミニマムなサイズになったのはビックリ。
おそらく巷の低評価もそこに起因してますね。

原作はもちろん未読ですからオリジナルの世界観などの魅力は分かりませんが、キングの小説って映画化の際は大胆に脚色されることが常なので、既読でも未読でも同じこと。
設定そのものは分かりやすい。(分かりやすくしたのかも)
時間を考えれば、人物の数は丁度いい。 キャラクタースケッチもまずまず。
スケールの割にはストーリーはこじんまり。 でも、つまらなくはないですよ。
キングの特色であるジュヴナイル感をもっと押しても良かったけど、結局それも時間が足らんということかね。
ダークファンタジー・アクションとしてはそれなりに面白いじゃない?
「ジオストーム」がウケるんだったら、これだってアリでなきゃね。

マシュー・マコノヒーの"黒衣の男"の存在感もエグい。
「息を止めろ」と言われたらオダブツですもんな。 おっそろちぃ~。

イドリス・エルバのガンさばきがカッチョいい! ニューモデルアーミーの2丁拳銃。 高速の弾込めも含めてのダイナミックな銃の舞いがエクスタシー。

我は手で狙い定めぬ。 手で狙う者、父親の顔を忘却せり。 我は目で狙い定める。
我は手で撃たぬ。 手で撃つ者、父親の顔を忘却せり。 我は気で撃つ。
我は銃で殺さぬ。 銃で殺す者、父親の顔を忘却せり。 我は心で殺す。

このページのトップに戻る

ジオストーム
2018年02月03日

T0022339p.jpgいやはや、寒いなんてもんじゃありませんな。
四十何年振りかの寒波なんですって?
特に冬が苦手なアッシには毎日が修行のような生き地獄であります。

wp1967117.jpg 
くっそサブ~!
風邪ひいてまうわ!


show-me-how-starting-a-business-while-in-school-is-cool-21469839.jpg 
「こらこら! なにをダラけとるかー!」
「パトラッシュ・・・僕はもう疲れたよ。なんだかとても眠いんだ・・・」
「誰がパトラッシュじゃ、アホ。 シロクマらしくシャンとせんか!」
「寒くてやってらんないよ。 あ~、コタツにもぐりたい、温泉につかりた~い」
「ダメだ、こりゃ」


シロクマもへばる、この寒さ。 なんとかならんもんかね。

天気というのは健康や仕事など、日常生活に深く関わります。
人生を左右すると言っても過言ではありません。
この天気を自在にコントロールできるようになれば、それこそ人間は神に近づきます。 ほぼ無敵です。
春夏秋冬が無くなってしまうようなことまでしなくてもいいですが、台風や竜巻、集中豪雨など、災害を未然に防げるようになればいいのですがね。

・・・と言うわけで。
それが実現しちゃいました。 映画の話ですが。
361759_002.jpg
世界中のあちこちで異常気象が続き、「マジ、もう無理!」と根を上げた世界17ヶ国が一致団結。
お金を出し合って、地球上空の宇宙空間に、天気を自在にコントロールできる衛星ネットワークを開発。
全世界の天気が管理されることにより、人類は気象災害とは無縁の日常を手に入れた。
台風とか寒波とか熱波とか、水害や干ばつなどは過去の遺物。
人類は快適な自然との調和を手にれたはずだったが・・・・

ある日突然、衛星が暴走を始め、これまで考えられなかったような殺人的異常気象パニックが世界各地で発生。
気象制御衛星ネットワークを開発した主人公のエンジニア、ジェイク・ローソン(ジェラルド・バトラー)が原因の究明と事態収拾のために宇宙へ飛び立つが、実は故障と思われていた一連のアクシデントは全て何者かが人為的に仕組んだ陰謀だった。
乗っ取られたシステムを奪い返し、滅亡の危機に瀕した人類を救うことができるのか。
地球の命運は一人の男に託された・・・・・・・


【せかいのてんきよほ~】
「みなさま、こんにちわ。 世界の天気予報の時間です。 本日も世界各地の空模様をお伝えしていきます。 まずはレポーターを呼んでみましょう。 今日はどこに行ってるんでしょうか。 気象予報士のジェラルド・バトラーさ~ん」
GEO-07574r_900x600.jpg 
「は~い、どうもぉ。 ジェラルド・バトラーでーす」
「あれ? ラッセル・クロウですよね?」
「そのジョークは笑えませんよ」
「失礼しました。 バトラーさんは今日はどちらにおられるんですか?」
「どこだと思いますか? 実ですね、国際宇宙ステーションなんですよ」
「それは凄いですね。 どうやって侵入したんですか?」
「ちゃんとアポとって正規なルートでお邪魔させてもらってますよ」
「それは良かったです。 では世界各地の天気を伝えてくださーい」
「まずはアフガニスタンです」
「しょっぱなから、その国ですか」
「今日のアフガニスタンの一部の村では人が凍るほど寒くなっております」
hqdefault_20180131233041019.jpg
「そりゃまた寒いですね」
「寒いなんてレベルじゃないですね。 これほどピンポイントのエリアだけがこうなるのは普通じゃないですね」
「ターミネーターのT-1000が液体窒素で凍るシーンみたいだな」

「次は香港です」
「蔵野さんがどうかしましたか?」
「ホンコンさんは関係ありません。 私が言ってるのは香港です」
「同じですね」
「同じじゃないです。 香港では地底からマグマが噴出し、大規模な地割れが発生しております」
dd-composite-geostorm.jpg 
「香港って地震がないっていいますけどね」
「でも地下には古代の超巨大火山があることが分かったってニュースが昔やってました。 それがボン!しちゃったんでしょう」
「急に?」
「急にです。 噴火直前には道路で生卵を落としたら目玉焼きができたらしいですよ。 人は普通に立って歩けるのに」
「そりゃ便利だ」
「でもこの地割れのせいで、いくつものビルが倒壊して大惨事になっております」
「おや大変」

「お次は日本の東京。 銀座ですね」
「ザギンでシースーしたいですね」
「パイオツカイデーのチャンネエとね」
「いいですねえ」
maxresdefault to 
「ザギンではでっかいヒョウが降りました」
「うっひょお~っ!」
「言うと思いました」
「どんなヒョウが降ったんです?」
「ゴルフボール大のものから、デカいやつだと直径5メートルくらいですかね」
「5メートル? それはもはやヒョウとは言わないのでは?」
「ほぼ隕石ですね。 いや、隕氷と言うべきか」

GEO-TRLR2-0112.jpg 
「リオデジャネイロの海岸も強烈な冷凍の嵐に襲われてます」
「アフガニスタンみたいに、人が凍ってるんですか」
「すごいですよ。 人が一瞬にして氷のお人形さんになっちゃうんですよ」
「アナ雪みたいですね」
「その一帯が、あっという間に帯広の氷まつり状態」
「それはそれで楽しそうだな」

Geostorm-movie-2017.jpg 
「竜巻が多いと言えばアメリカですが、その次に多い国は実はインドなんですよ」
「ほぉ。竜巻銀座ですか。マキツタのザギンでシースーですな」
「インドでは今、竜巻が大量発生。 今が飛ばされ時の出血大安売り」
「いらないなあ」
「おちおちカレーも食ってられませんね」

8d09acf90740871f272cccc91b5c740f.jpg 
「ロシアが今アツい!」
「3月に大統領選挙ですからね」
「そうではなくてマジで暑いんですよ」
「雪が溶けてるとか?」
「建物が自然に燃えだすくらいですかね」
「もはや地球の話じゃありませんね」

maxresdefault_2018020200273248a.jpg 
「ドバイではビルを呑みこむほどの大津波が襲来」
「近辺で地震でもあったんですか?」
「ないですね」
「ない? ないのに津波が来たんですか?」
「みたいですね。 まあ深く考えないでください」
「分かりました。 考えないようにします」

1499461159696-Screen-Shot-2017-07-07-at-42929-PM.jpg
「バトラーさん。 何でこんなに世界中で気象パニックが起きてるんですか?」
「世界各国が共同で作った気象制御コントロール衛星があったでしょ?」
「ああ、ありましたね。 通称ダッチワイフでしたっけ?」
「それは悪意のある間違いです。 正しくはダッチボーイです」
「ああ、そうでした。ダムの決壊を指でふさいで村を救った少年の物語から採られてるんでしたね」
「そのダッチボーイに不具合が発生したんです」
「人間が作るものに完璧なものはありませんからね」
「しかし、人類の存亡に関わる一大事です。 神の領域に触れるようなことをするのはリスクも高いということです」
「どうするんです? 修理しなきゃいけませんね」
「ダッチボーイを開発したエンジニアが国際宇宙ステーションへ飛び立って修理に向かいます」
gerard-butler-geostorm-jake.jpg
「この人ですか? あっ、ラッセル・クロウですね」
「再び笑えないジョークですね」
「再び失礼しました」
「彼はジェイク・ローソンと言います。 ちなみに実家がコンビニというわけではありません」
「ボケようと思ったら先に言われてしまいました」
「ジェイクが行けば問題解決かと思いきや、なぜか何者かに妨害されてるようなアクシデントが立て続けに起こります」
「穏やかじゃありませんね」
「実はこれ、陰謀だったのです」
「マジなやつですか?」
「だいたい陰謀ってのはマジです」
「世界の天気予報をレポートしていただくはずが、ただならぬ話になってきましたね」
geostormscreen.jpg 
「ダッチボーイは目下のところ、便宜上はアメリカの管理下にあるのですが、間もなくアメリカの手を離れて管理権が国連に移譲されます」
「まあ、一応は関わった多くの国のものですからね」
「でも、ダッチボーイは使いようによっては兵器としても使えるのです。 アメリカ政府の人間がこのダッチボーイを手放したくないとすればどうでしょう?」
「政府が? 国ぐるみの陰謀? こりゃまた話がでかくなりましたね」
「ダッチボーイの暴走を見て、国連が"こんな不良品、押しつけられたら困る"と受け取りを拒否すればアメリカの管理化の状態が続くのです。 陰謀者の狙いはそこです」
「え~っ? でもダッチボーイを我がものにするために自分が住んでる地球をワヤにするんですか? それでもいいってことかな?」
「大それたことをやるあまりに、ちょっと変になってるんでしょう。 まあどうにでも被害の加減はできますし、人為的なことだとはバレにくいでしょうから」
「アメリカ政府がってことは、黒幕が大統領ってことですか?」
「おお、いいところに気がつきましたね」
「いや、普通そう考えるでしょう」
「でも、そう考えるのが素人の浅はかさ」
「どっちなんですか」
361759_001.jpg 
「いずれにしても、ダッチボーイの暴走を食い止めなければなりません。 ただのエンジニアとは思えない、ベテランの宇宙飛行のようで、身体能力もガチ凄いジェイク・ローソンが大活躍しますよ」
「は? 大活躍? あのラッセル・クロウに似た人のことですか?」
「まだ言うとるかぁーっ!」
「どうしました? 急にキャラが崩壊しましたが」
「ええーい、もうヤメだヤメだ。 実は何を隠そう、俺は気象予報士などではない。 俳優のジェラルド・バトラーだ!」
「道理で」
「今までウダウダと話してたのは全部映画の話だ」
「やっぱり。 あんなこと有り得ませんもんね。 バカバカしい話ですね」
「バカバカしいとか言うんじゃない。 俺の映画だぞ。 全国の映画館で絶賛上映中だ、みんな観に行けよー!」
「番宣が目的だったんですね」
「アメリカではな、ことのほか評判が悪いんだ。 ビチクソが漏れるぐらいボロカスにけなされてるんだぞ。 なんとか挽回せにゃあならん」
「さぞや、お金もかかってるでしょうしね」
「世界興行収入で言えば、元は十分取り返したが、アメリカ国内の成績じゃ製作費の3割しか回収できなかったんだ」
「ガチスベリじゃないですか」
「言うな! 監督がディーン・デブリンだ。 俺も最初、「誰だ、そいつ」って思ったよ。 聞くと、ローランド・エメリッヒの作品の多くで製作とか脚本を担当してきた奴で長編初監督でね。 やってることはエメリッヒのマネごとなんだ」
「嫌な予感はしてたんですね」
11_20180203010033b98.jpg 
「スニークプレビューってご存知かな? 公開される前にタイトルなどの情報を伏せたまま、集まってもらったモニターに出来上がった作品を観せて反応を伺う覆面試写会みたいなもんだ。 この映画はスニークプレビューの時からすでに評判がよろしくなかった」
「おやおや」
「だから、1500万ドルかけて再撮影したんだ。 プロデューサーにジェリー・ブラッカイマー呼んで、監督も「ラストサマー2」のダニー・キャノンに頼んでな。 そういうことをやり出した時点でお先真っ暗さ」
「そんな手を打っても酷評されてるわけですな。 ご愁傷様です」
「確かにツッコミどころは山ほどあるよ。 荒唐無稽にもほどがあるさ。 でもな、こういう映画はそういう面も込みで楽しむのが暗黙の了解だろ」
「そういうもんですかね」
「だいたいだな、有り得ないことがスクリーンの中で起こるから映画は面白いんだろが。 それをなんだよ。 どいつもこいつもアラ探し目的で映画を観に来てるようなもんじゃないか。 悲しいな俺は」
hero_Geostorm-2017.jpg
「この手の映画ってのは人物描写がおざなりになったりするもんですが、この映画はどうです?」
「ディザスターを見せてナンボの作品だし、そんなドラマ部分に時間なんか裂くわけないだろ。 こういう娯楽映画はテンポか大事なんだよ。 なにか?3時間も4時間もしつこい人間ドラマ込みのCG映画を観たいのかよ」
「じゃあ、分かりやすい娯楽で通してあるわけですね」
「ああ分かりやすいとも。 よし、今から問題を出してやろう」
「あまり時間がないんですがねえ」
「実はアンディ・ガルシアが演じたアメリカ大統領は、命を狙われる側であって犯人ではない。 そこでズバリ、悪役を演じた俳優を当ててみろ。 次の3人の中にダッチボーイを使って陰謀を企てた悪人がいる。 題して『悪役は誰かクイズ』だ」
「難しそうだな」
jimsturgess-geostorm.jpg
「1番ジム・スタージェス」
Ray-Ban-Glasses-Worn-by-Daniel-Wu-in-Geostorm-2.jpg
「2番ダニエル・ウー」
video-geostorm-superJumbo.jpg
「3番エド・ハリス さあ、誰かなあ?」
「3番のエド・ハリス」
「正解だ。よく分かったな」
「分かりますよ、そりゃ。 分かりやすすぎるわ! どう見たって2~3人殺してる顔でしょ」
「人を顔で判断するのは良くないな。 エド・ハリスに失礼だぞ」
「おたくがイジってるんでしょうが」
「なんにせよ、娯楽映画は分かりやすさだ。 観客を混乱させたって何の意味もない。 ストーリーの多少のヒネリは必要だが、変に奇をてらっても観客の気が散ってしまうだけだ」
「自分が監督みたいなことをおっしゃる」
GEO-01994r.jpg 
「CG以外でこの映画の特色をあげるならば、女性が大活躍するってところだ」
「時代ですねえ」
「特にシークレットサービスの捜査官サラ・ウィルソンを演じたアビー・コーニッシュには驚かされたよ。 彼女にあんな資質があったとはな。 銃をチャッと構える動作の勇ましさと、大声を張り上げた時の凄味に色気さえ感じる」
「たしかにこういう美人が男勝りな所を見せるとグッときますよねえ」
「その他にもアレクサンドラ・マリア・ララが演じたISSの司令官や、ザジー・ビーツのデータ・アナリストといった女性キャラが大活躍。 この3人の女性がいなければ大災害の陰謀は阻止できなかったと言ってもいい」
「ステキじゃありませんか」
「だけど映画はアメリカじゃスベったんだよなあ。 製作国でウケなかったのは恥ずかしい」
「まあ、これからじゃないですか」
Geostorm.jpg 
「でも日本ではまあまあウケてるみたいだな」
「日本人というよりアジア人は何でもアリなテイストをちゃんと分かってるんですよ。 バカ映画の楽しみ方を肌で知ってる。 余計な頭を使うのが嫌いなのか使えないのかは知りませんがね」
「なんか引っ掛かるな」
「客を楽しませてこそエンタテインメント。 B級映画だろうとC級D級だろうとスケールのでかいバカをやる心意気を受け止めてくれるのが日本人のいいところですよ」
「5年前にも来日したがあの国はいい国だ。 よし、今度お忍びで日本に行ってみよう」
「ザギンでシースーですね」
「そのあとギロッポンでパイオツカーデーのチャンネエとミーノーでそのあとテルホにイン!」
「いいですねえ」


「賢人のお言葉」
 
「誰もが天気のことを話すが、天気をどうにかしようという人はいない」
 マーク・トウェイン

このページのトップに戻る

劇場版 マジンガーZ/INFINITY
2018年01月29日

320_20180123202633524.jpg早くも今年の邦画ベスト1が決定したと言っても過言ではない。

この時をどれほどダブラスM2のように首を長くして待っていたことか。
思えば製作決定の第一報を聞いたのが2016年11月。
マジンガーZがスクリーンに甦る!!!!
それ以来、昭和のオヤジは来る日も来る日も夢精した。

公開の一週間前あたりから、仕事中でも鼻唄が止まらん。
♪ そぉらに~そびえるぅ~、くろがねのぉしろ~ ♪

初日の、それも一番最初の上映回を予約して、いよいよという直前の2日間はアドレナリンが分泌しまくって自分でも変になっているのが分かる。
そして2018年1月13日。
ついにこの日を迎えたアドレナリンガーZは映画館の開館時刻に合わせて、いざ出撃!

シアター入場開始まで、まだ1時間半以上あるが、こんなに早く来たのは劇場オリジナルグッズをいち早く手に入れるためである。
考えることは皆一緒。
グッズ売り場はすでに、黒がねの城、いや、黒山の人だかり。
う~ん、なるほど。 思ったよりたいしたものはないな。 まあいいだろう。
Tシャツ、ステッカー2種類、USBカードリーダー、そしてもちろんパンフレットをご購入。

もちろん、まだ時間はある。 フッフッフ。 だから朝メシを抜いたのだ。
この寸暇を利用して、一旦映画館から出て近くの吉野家に直行。
牛丼大盛りと生卵で光子力エネルギーを充てんして準備万端。

映画館にリターンして、待つこと30分。
入場開始のアナウンスが流れる。 さあ行くぞ!
マジーンゴー!
これ以上ないというほどのド真ん中の座席にパイルダーオーン!

ざっと周りを見渡して驚いた。
オッサンばっかり!
後方を振り返ってキョロキョロするようなことはしてないので、真ん中より後ろの客はどうかは知らない。
だがこちらの前方の視界に入る客はみんなオッサン。 オッサンオッサンの大安売り。
いやあ、なんだか嬉しくなった。
同志たちよ、これからの95分間、子供の頃に戻って楽しもうではないか。

tumblr_inline_ourkz4v0cj1ueqd4k_500.jpg
今回のマジンガーZの映画の製作に関して、おそらく誰もが注目していたであろうことは、ストーリーやキャラクター、世界観を含めた方向性をどう描くのかである。
いろんな選択肢があったはずである。
同じ人物、同じストーリーをイチからリブートするか。
キャラクターはそのままでも、複雑で重いテーマや作家性を主張した新しい世界観を打ち出すのか。
はたまた、世界観を何一ついじくらない完全な続編か。

一体どんなマジンガーZが観れるのだろうか。
予告編を観ている限りでは大きな期待をしてもいいだろうとは思いつつも、一抹の不安はあった。

しかしフタを開ければ、個人的には希望通りのマジンガーZの世界がスクリーンの中に躍動していた。
みるみるうちに気持ちが小学生の頃に戻っていく。
毎週日曜夜の7時はテレビの前にマジーンゴー! 
学校の宿題などにかまけてるヒマなどない。
7時半からは「侍ジャイアンツ」でバンババーンときたあと、8時からはもちろんドリフの「8時だよ!全員集合」を観て、そのあとで銭湯に行くというのがこの時代の日曜夜のルーティーンだった。

ポピーの超合金やジャンボマシンダー・・・、テレビマガジン・・・
様々な思い出が脳裏をよぎる・・・・・と、ノスタルジーにひたってばかりはいられない。 映画の話をせねばのぉ。

Mazinger-Z-anime-2017-image-110.jpg
物語の時代設定はTVアニメ「グレートマジンガー」終了時の時代から10年後。
1985年ということだろうか。
どう見ても二千年代っぽいが。 まあ、そんな小さいことなど気にしてはいけない。

マジンガーZに乗って世界の危機を救った英雄、兜甲児は28歳になった。
現在は新光子力研究所の科学者である。
いくつになってもイキった髪型だけは変わらない。

変わったといえば「声」である。
ここらへんは不満を持たれる方も多いだろう。
TVはジャッキー・チェンの吹き替えでもおなじみの石丸博也だったが、この劇場版は「NARUTO-ナルト」のシカマル役でも知られる森久保祥太郎に変わっている。
「なんで石丸さんじゃないんだ」という御意見も理解できる。
兜甲児だけでなく他の主要キャラのボイスキャストも一新されたが、映像と声が血肉の通ったマッチングになっていれば、あとはもう耳慣れの問題だと思うし、個人的にはこだわってはいない。

hqdefault ys 
弓さやかも随分印象が変わった。
10年たてばそんなもんだろう。
TVの時は、いかにもなオテンバ娘風だったが、すっかり大人の女になっても気性はそのままで、自信のみなぎる強気顔はやっぱり弓さやかである。

そして弓さやかといえばカチューシャ。 カチューシャといえば弓さやか。 このスタイルを10年たっても貫いてくれているのが嬉しい。
これほどカチューシャの似合うアニメキャラは彼女をおいて他にない。
いや、「デビルマン」の牧村美樹もいるな・・・ サイボーグ003のフランソワーズもカチューシャだな・・・
・・・まあいいか。

現在は総理大臣となった父・弦之助のあとを継いで新光子力研究所の所長となっている彼女だが、恋人・兜甲児との仲はあまり進展していない。
甲児がそれほど仕事熱心なあまりにカノジョのことをかまってやれていないのである。
オナゴの気持ちにはとんと疎い。 これぞアニメ主人公のカガミ。
さやかとて男を立ててジッと待つタイプではない。 女としての幸せが欲しいのである。
でもこのままでは・・・と、さやかはこの際別れようかとも考えるほどお悩み中。
こと恋愛にかけては引くほどの昭和草食系の二人なのである。 微笑ましいのぉ。  

359551_002.jpg
二人が勤める新光子力研究所では光子力エネルギーを平和利用する研究が行われている。
“人類最後のエネルギー”とも言われる光子力は現在、全世界の電力や通信などのインフラをまかない、火力や原子力をしのいで、地球のエネルギーの半分以上を担っている。
世界中に光子力プラントが作られて、これにより、世界のエネルギー問題並びに多くの外交問題も解決したのである。

かつての光子力研究所は現在はお役御免で間もなく取り壊しの予定。
その近くにはマジンガーZやビューナスAなどが展示されたミュージアムがある。 行ってみたい!

富士山のふもとには日本だけでなくアジアの光子力を担うフジ・プラントが現在試運転中。
マジンガーZと言えば、やっぱ富士山ですわな。

tumblr_inline_oxlbqzjYje1ueqd4k_500.jpg
映画の滑り出しからグレートマジンガー登場! 早すぎねえ?
アメリカの光子力プラントに多数の機械獣が出現し、我らがグレートの出撃である。
大いに暴れていただきましょう。

アトミックパーンチ!
ネーブルミサーイル!
グレートタイフーン!
マジンガーブレード!
サンダーブレーク!
ブレストバーン!


のっけから凄いテンション!
気持ちの準備もできていない我々オッサン客軍団は有無を言わさすペースに引きずり込まれていく。
2_0.jpg 
♪ お~れは、なぁみだを流さないぃ ダダッダー!
 ロボットだから マシーンだからぁ ダダッダー!
 だ~けど分かるぜぇ 燃える友情
 君と一緒にぃ 悪を打っつぅ! ♪


グレートマジンガーが機械獣どもをバッタバッタとなぎ倒す。
TVの時でもこれほどの勢いで技を連打するというのはあまり見られる光景ではない。
早くも泣きそうになる。目だけでなく鼻から口からも感涙がほとばしりそうだ。


このオープニングが終わった後、皆の衆、お待ちかね。
耳掃除はもう済んでるか? 心して聴きたまえ。
我らがアニキング、水木一郎が熱唱する「マジンガーZ」の主題歌がここで流れるのだ。
キタぜぇぇぇぇぇっと!!!!!!!!  ♪───O(≧∇≦)O────♪
im anison 
空にそびえる くろがねの城
スーパーロボット マジンガーZ
無敵の力は 僕らのために
正義の心を パイルダーオォ~ン!
飛ばせ鉄拳 ロケットパンチ
今だ 出すんだ ブレストファイヤー
マジンゴー マジンゴー
マジンガーゼェェェェェット!


声に出して唄いたくてたまらんかったのはアッシだけではあるまい。
アニソン史上に燦然と輝く名曲中の名曲。
全編これ、サビといっても過言ではない圧倒感あふれるメロディが魂を鼓舞する。

そして歌詞。 シンプルにマジンガーZの魅力がストレートに伝わる神のご託宣のようなリリック。
最近のアニソンはどうだ。 いや別にかまわん。かまわんけども。 あれらをアニソンと呼べるか?
メインキャラの名詞、特徴や武器の名前、ワンフレーズで済むような世界観の説明。 これらのいずれかを歌詞に盛り込まねばアニソンにあらず。

アニソンはだいたい1番から3番まであるか、または2番のあとにサビからリフレインするパターンが王道である。
だが「マジンガーZ」の主題歌は2番でバッサリ終わる。 時間にして2分もないのである。
この削ぎ落としの美学を地で行く、うまい!はやい!のアニソンのマスターピースが、いにしえの日曜7時に流れていたという歴史は日本の誇りでもある。


tetsuya-300x194.jpg
グレートに乗る剣鉄也。 相変わらずのニヒル君である。
共に戦った炎ジュンと結婚。
お腹のなかには赤ちゃんがいる。 おめでとうございます。

アホほど金は持ってるだろうに、鉄也のこだわりなのか、庶民あこがれなのか、質素なアパート暮らしという酔狂な夫婦ライフを満喫している。

さて、オープニングを華々しく飾ったグレートマジンガー。と、思いきや、意外な強敵の出現に&グレートは最大のピンチに陥ってしまうのだが、あいにくこのシークエンスはスッポリ抜けている。
シーンは描いたがバッサリ編集したのか、最初から描かなかったのかは定かでないが。

12fc6ec10315b5dee642b980f500715e1509579853_full.jpg
その6ヶ月前。
フジプラントの工事中に富士山の地下から発見された超巨大遺跡「インフィニティ」。
遺跡と言ったって、見るからにマジンガーのヤリ過ぎ感満載バージョンのロボット。

全長はマジンガーZの約30倍。 すなわち540メートルほど。
ニューヨークのワンワールドトレードセンターの高さとタメ。 それはデカすぎる。
これと戦うことになったらシャレにならんのぉと思うが、もちろんその方向に話は展開しないと、なんのこっちゃであるから、誰もが予想する通りにマジンガーにとっての最大の脅威となる。

新光子力研究所がこの遺跡の調査に乗り出し、兜甲児「さながらマジンガーが乗り込むマジン」と感想を漏らすが、6か月後、その言葉は悪い意味で的中することになる。

360402_ab5aa38e6fb884453c2fb4ffaafc6c41-640x360.jpg
調査に当たっていた兜甲児の前に、インフィニティの中から現れた謎の少女リサ
もちろん人間ではなく、全身の91パーセントが生体パーツでできた人型アンドロイドである。
最初に目にした兜甲児を創造主としてインプットしたらしく、メイドカフェのように「ご主人様」と呼ばれる甲児はひっそりと萌え、さやかは分かりやすくイラつくのだった。

サクッと言ってしまえば、リサはインフィニティを起動させるためのキーの役割を担うアンドロイド。
それが兜甲児と出会ったきっかけによって、悪党に利用されなかったのが実に幸運。
劇中、さほどの活躍はしないものの、実は甲児さやかの将来にささやかな影響をもたらす意外な仲介者であることが示唆され、不意打ちの感動をもたらすのだ。
それが、甲児さやかにプロポーズする、あのドンびきフレーズにつながっている。


line0 k
さて、時間は再び戻り、アメリカの光子力プラントでグレートマジンガーと機械獣軍団が戦った時から1時間後。
グレートマジンガーが行方不明に。 一体何が起きてるのか? 剣鉄也は無事なのか?

復活したDr.ヘル、あしゅら男爵、ブロッケン伯爵。
フジ・プラントが機械獣軍団の襲撃により占領されてしまう。
Dr.ヘルの目的、「ゴラーゴンを起こす」とは何を意味するのか。
えらいこっちゃな急展開。 どうする兜甲児
どうするといっても、こうするしかないよね。
img0.jpg 
マジーンゴー!

遂に来たぞ、この時が。
皆の衆、失禁の覚悟はできたか。
替えパンツは用意してるか。
さあ、みんなでマジンガーZを応援しよう!

なんといっても光子力研究所のプール(正確にはプールではないらしい)が、十戒のように開き、マジンガーZがギュイーンとせり上がってくるシーンだけで鳥肌が立つ。
これや、これや! これやがな!

359551_008.jpg 
予告編の時から誰もが感づいていたであろうが、ジェットパイルダーの方ではなく、ホバーパイルダーの方で「パイルダーオーン!」してくれるのが嬉しい。
これも気がついた方も多いだろう、ほんのチラッと映るだけのシーンだが、ホバーパイルダーの後方隅っこにジェットパイルダーがポツンと置かれているのを。 こういうのがニクいよな。

ジェットパイルダーもいいのだが、やっぱりホバーパイルダーの方が「マジンガー感」は出るよね。(なんやねん、マジンガー感って)
両翼を半分に折りたたむ、あのホビー・テイストが男子の心をコチョコチョするのである。

さらに、ジェットスクランダーはっしーん!!!
スクランダークロォース! ♪ 大空はばたく くれないの翼ぁ~ ♪


マジンガーZのテーマ曲の迫力あるインストゥメンタルに乗ってマジンガーZが、凄い数の機械獣をほとんどノンストップに近いアクションでブッ倒していく。
そのカタルシスがハンパない。
機械獣が次々と破壊され、その爆炎の描写が凄い。 「西部警察か?」と思うほどに爆発爆発また爆発のオンパレード。

0_0.jpg
ロケットパァーンチ!

0_3.jpg
光子力ビィーム!

0_4.jpg
アイアンカッタァーッ!

0_6.jpg
ミサイルパァーンチ!

0_2_20180127215925f85.jpg
ルストハリケェーン!

0_1.jpg 
ブレストファイヤァー!

この時、アッシは思った。
ぜひとも応援上映をお願いしたい。

近年よく見られる応援上映。
サイリウムを振りながらセリフを観客全員で絶叫したり、キャラクターに声援を送ったりする、まるでライブコンサートのような新しい映画鑑賞スタイル。
正直なところ、アッシは「ケッ!」という思いで、こういう風潮に距離を取っていた。
だが今回、マジンガーZの映画を観て、アッシは考えを改めた。
今では解る。 そうですね。いいですね、応援上映。

この映画でもそれをやってほしい。
大声を張り上げて、水木一郎アニキングと歌を合唱したい。
人目もはばからず、全力で「ロケットパァーンチ!」っと絶叫したい。
武器を出す時に、いちいち名前を叫ぶ兜甲児のテンションとシンクロしたい!・・・と思ったら、すでに東京の方では応援上映が実施されたという。

うらやましいぜぇぇぇぇぇっと!
大阪わい!?  ねえねえ大阪は!?
求む!応援上映。 東映様。 東映閣下。 東映陛下。 東映大統領。 アイラブ東映大明神。 何とぞよろしくお願いします。

やっぱり超カッコいい。  マジンガーZサイコーだ!
ロボットアニメの原点、伝説、神・・・ これを世に出した永井豪大先生にはただただ感謝の言葉のみ。

他キャラにも触れておこう。
mazinger-finity1_fixw_730_hq.jpg
ボス。 ちゃんとした普通の名前の設定はあるにはあるが、それは別によろしい。 ボスはボス。
今でもそのTシャツ・・・ 変わらない所はいつまでも変わらないというのは嬉しいものだ。
 
なんとラーメン屋をやってます。
【富士元中華そば ぼすらーめん】 コーヒーの味がしそうだが。
ヌケとムチャも健在。 離れませんな、この3人組は。

みさとの登場にはビックリ。 そのキャラまで出す?
兜家の家政婦さんながら、身体能力が「そんなアホな」というほど高かった女性も今や一児の母。

6_20180127232649408.jpg 
TVでボスボロットが登場した時には、正直ボスがうらやましかった。
彼でも操縦できるロボットをガラクタだけで作った、三博士たちの凄さにも驚嘆したが、完全無欠の正義の心を持ったヒーローでもない、一介の庶民の不良学生がロボットに乗って活躍していることに、我々一視聴者の少年は親近感とも憧れともつかぬうらやましさを感じたのだ。

mazinga-z-infinity-4.jpg 
復活したDr.ヘルの目的は一次元ハイになっている。
世界を征服するなんてのは、もはや興味なし。
インフィニティの力を使って、世界そのものを宇宙レベルから作り変えてしまおうという、「オッサン、とうとうイカれたか」みたいなことを言う。
「この世は存在に値しない。 新しい世界こそ我々にふさわしい」
そう、これこそが「ゴラーゴン」。

スケールのでかさについて行きづらいが、兜甲児と対峙した時には、けっこう理に叶ったことを言うのである。
マジンガーに乗って戦っている時のイキイキした兜甲児「かりそめの平和はどうだった?退屈だったろ?おまえはこちら側の人間だ」と言う。
「平和は手元にないからいいんだ」

そしてこうも言う。
「人類の最大の弱点は“多様性”だ」と。
確かに、これは耳の痛い話である。
世界中のみんなが一つになろう、一緒に歩んでいこうと我々は気安く言うが、いざとなったら私利を優先してまとまらないのが世界の真の顔である。

北朝鮮がDr.ヘルであるならば、日本もアメリカも韓国もロシアも中国も、なぜ大国同士がこうも噛み合わない?
「多様性を処理できないのだ」ヘル爺さんは言う。
まあな。 でもな、存在に値しない世界でもないぞ。 インフィニティの中にいたリサまでもそう言ってるのだ。
希望はあるさ。 「平和の祈りをパイルダーオン!」した我々人類一人一人にささやかでも強靭な愛と勇気がある。

14_20180128004008949.jpg 13_20180128004009da2.jpg
あしゅら男爵のヴィジュアルは色んなパロディにも使われたようにインパクトが強烈。
古代ミケーレの遺跡から発掘された夫婦のミイラを合体手術して造ったという設定らしいが、この無茶苦茶さが永井豪の世界観の面白さ。
妖怪人間ベラと星一徹のように見えるが。

ブロッケン伯爵は好きなキャラである。
首が離れている、このパンチのきき方がかえってオモチャにされるという悲しい扱いが増えていくところが哀愁たっぷり。

この二人が出てきたからには、ゴーゴン大公まで出せとは言わないが、もうひと越えしてピグマン子爵までなんとかならんかったか。 あれも好きなんだけどなあ。
3人出したら、さすがにはしゃぎ過ぎか。 そうだろうな。

line0 o 
ビューナスAですねえ。
クイーンスター、イーン!
♪ ゴーゴーゴー ビューナスエース ♪ 歌も良かったなあ。
炎ジュンが乗れば言うことナシだったが、臨月のためにお腹がつかえて乗れない。 お腹の中の子供が引きとめてるのねというジュンに、我々オッサンまで妊婦になったかのような感動を覚える。

アフロダイA、ダイアナンAから受け継ぐ「おっぱいミサイル」。
バストミサイルとかブレストミサイルとか、もう少し言い方があろうかと思うが、「おっぱいがミサイルになってます」というアホ設定なのだから、名称までこの期に及んで遠慮はしないところが、子供心に妙な感心を覚えた記憶がある。
ありがとう、豪先生。 おっぱい大好き。

さやかが戦闘服っぽいコスチュームに着替えたので、「おっ、アフロダイAも登場か?」と思わせたが、「着替えただけかーい!」

その他、兜シロー、統合軍司令官(声は石丸さん)、弓弦之助、のっそり博士、せわし博士、マジンガールズなど、あれこれ語りたいキャラもまだまだいるが、この辺で勘弁しといてやろうかのお。

credit.jpg 
捕らえたグレートマジンガーを動力源として、ゴラーゴンを起こすべく発動するインフィニティ。
世界が今、消滅の危機を迎えようとしている。
兜シロー、ボスボロットらの協力でグレートマジンガーを救出したマジンガーZは、戦闘機械獣「地獄大元帥」に乗り込んだDr.ヘルと最後の決戦に臨む。

Z Z Z Z Z Z Z Z Z Z

さて、今回の映画であるがアッシ的には大満足である。
おそらくドーパミンが変な分泌の仕方をしていたかもしれない。
多分、ずーっとニヤニヤしながら観ていたはずだ。
95分なんて早すぎる。
星5つ? アホ抜かせ。 星1兆個だぜぇぇぇぇぇっと!!!
 
まあ、落ち着け。
実際のところ、たくさんの人の様々な評価は聞こえてくる。
それもマジンガー世代の人たちの声である。
もちろん、色んな意見があっていいと思うし、人それぞれの理想の丈があって、それに見合うか見合わないかで評価は当然千差万別になる。

どの作品でもそうだが、既存の原典があり、それを再び新たなマスメディアに展開していくのに、どんなやり方が正解というのは存在しない。
この「マジンガーZ」においてもその客層は、原典を愛する世代をベースにしたユーザーがほとんどと言っていい。
それらの人たちもオリジナルの愛し方からそれぞれなのだ。 「マジンガーZ」をどのように愛してきたかという思い入れの目線や感覚はみんな違っていて当たり前。
そりゃね、「サイコーだ!」と言う人もいれば「なんじゃこりゃ?」と言う人もいらっしゃるだろう。
誰の評価が正解というのも、もちろん存在しない。

hqdefault_20180128182559402.jpg 
マジンガーZをはじめ、機械獣も含めてメカニカルなところは全て3DCGで描き、キャラクターは2Dの作画というハイブリッドの手法を選択したのは吉と出たと言っていい。
映画ではまさに効果的。 2Dの人物のシーンからCGのロボット・アクションのシーンに移る時のメリハリが増し、映画ならではの迫力が十二分に発揮されている。

Zとグレートのデザインがハニカム構造というか、ツギハギのフォーマットにした点は違和感を覚えた人も少なくないのは致し方ない。
これはかなり冒険したなと思ったが、これも人間のように動くマジンガーのアクションにボリュームと生々しさを出すという点で3DCGがかなり効いている。
カッコ悪いか? いいと思うけどなあ。

機械獣も出すだけ出してしまえと、大挙わいて出てくるシーンも楽しいことこの上ない。
我々オッサンどもの記憶は今やもうペラッペラになってるが、機械獣軍団の中に「あっ、アレ覚えてる」というのを見つける面白さはあった。
ガラダK7やダブラスM2は定番なので分かり易く出てくるが、サタングロースP10が後ろ姿とはいえチラッと見えた時はちょっと笑いそうになったぞ。

mazinger-z-infinity-koji-kabuto-lisa-1024x576.jpg 
今回、個人的に嬉しかったのは、時代ズレといか昭和風のドラマや性格描写がそのままちゃんと移行されていたことだ。
世代ではない、今の若い人が観たら引きまくるだろうなあと思う。
アッシだって、こっぱずかしいのである。
現実の大人でも、80年代のトレンディ・ドラマでもあんな会話はしない。
最後に誰か一人を中心にして、みんなが囲んでホノボノと盛り上がるシーンなど、「これぞ昭和」である。

しかもだ。
恋バナになると、大の大人がほっぺをホンノリと赤く染めるなんて、今時のヒーローアニメには有り得ないだろう。 「くまモンかオマエは」と突っこみたくなる御仁もいて不思議でない。

だが、これぞ「マジンガーZ」なのだ。
甲児さやかの、もどかしい関係はいつまでもそのままだ。
戦ってなければ、今にもお花畑で手を取り合って「アハハハハ」とはしゃぎそうなノリが昔と変わっていないところが嬉しかった。

世代であるにも関わらず、この「昭和」についていけないという人は非常に残念だ。 これも受け入れてほしい。
全体的にはシリアスであるが、妙にズレたコメディ風な描写のアンバランスなところも「マジンガーZ」の魅力の一つである。

甲児のセリフでも「負けてたまるかぁーっ!」とか「お返しだぁーっ!」なんてのも今じゃ考えられない青臭いレトロなフレーズ。
これらをひっくるめての古臭さに抵抗を覚えた人の中には残念ながら少年の心はもう残っていない。 悲しいことだ。

mazinger_z_fathom.jpg 
あとは、展開などにご都合的というか少々強引な演出があるのも「マジンガーZ」のいわゆるオハコのようなものだ。
TVなどでも多々見られたが、当時の子供は「まあ、そんなもんだろう」と寛大な気持ちで観ていたのだ。

この映画でもそのエッセンスはおそらくワザと十分に盛り込んである。
リアリティとか科学的考証とかをあげつらうことなど論外。 問答無用だ。
帳尻合わせ、力技、なんでもありな急展開などなど、それこそが「マジンガーZ」じゃなかったんですかい?
都合よく運ぶのが昭和のヒーローなのさ。

細かい所を気にしだしたらそれこそツッコミどころは多々ある。
唐突感、無理やり感、大いにけっこう。

最後の方なんかは手を叩いて喜びたかったぞ。
あれって「ドラゴンボール」の元気玉だよね。 「オラに元気をわけてくれ」
でもって、巨大化!
「なんで? どういう理屈?」←やかましい! そうせにゃ勝たれへんからやんけ!

mazinga-z-infinity-1.jpg 
映画の感動とは、愛情や友情、喜びと悲しみなどの、人間の心に訴える要素を物語の中に組み込んで生まれる。
その要素の一つとして近年顕著に活かされるのが「ノスタルジー」である。

「なつかしい」
この感情を呼び起こさせるのも、感動できる映画なのだろうと思わされたのは、やはり「スター・ウォーズ」の新シリーズの影響が強い。
なんだかんだで、あれは未だに70年代を体感している人が観てこそ面白いものだ。
40年前を知らぬ人には伝わらないのだろうかと、ネット上の意見を見てて痛感する。
やっぱり、「スター・ウォーズ」は観る人を選ぶのだと思うと、この「マジンガーZ」は何よりも「なつかしい」という感情こそが第一の感動ポイントであると感じる。

強引な物語や臭い恋愛シークエンス、無理からな展開など、駄作の烙印を押されても止むを得ない要素のてんこ盛りなのに、子供の頃に一気に引き戻されるノスタルジーの大波に呑まれて、「これぞマジンガーだ!」と肯定できてしまうのだ。
できない人もいるだろうが、ノスタルジーはもう波長としか言いようがないから、この映画が面白いか面白くないかはもはや「縁」の問題である。

tumblr_inline_p33tu8d4CI1ueqd4k_500.jpg 
今でもYouTubeなどでは昔の「マジンガーZ」のTV映像のワンシーンなどがあがっているが、よくもまあチャチでペラッペラなディテールのアニメにあれほど熱中していたなと思う。
だが、あの時代にテレビにかじりつきながら観ていた「マジンガーZ」は、まぎれもなく名作だった。

それ以前にあった「鉄人28号」や「アストロガンガー」よりも、申し訳ないがクオリティは何百倍と勝る本格的なロボット・アニメ。
それはもうバイブルと言っていい。
変身するばかりがヒーローではない。 ロボットに乗って云わば同体化し、それを操縦して悪と戦う生身の人間・兜甲児
その不屈の正義が我々に多くのことを教えてくれた。

人間が知恵を絞って築き上げたテクノロジー。
確かにそれは「神にも悪魔にもなる」。
人間の心は神とは限らないが、少なくとも「マジンガーZ」の影響で「正義の心をパイルダーオーン!」された我々はよ~く知っている。
武器が戦うのではない。 人間が戦うのだ。

tumblr_inline_ovjvfmKJTN1ueqd4k_500.jpg 
兜甲児はいつも真っ直ぐだった。
どんな敵にも恐れることなく勇気を持って立ち向かっていった。
あの生まれながらのヒーロー精神は誰にも真似はできない。
武器を信奉するあまりに人が武器に支配されてはいけない。
人が武器に命を吹き込む姿を描いた「マジンガーZ」に我々は崇高なる勇気を見たのだ。

マジンガーZは確かにまぎれもなく武器である。
だが、離れた所からボタン一つで動くような、ヘタレ小僧が物陰から小石を投げるレベルの道具ではない。
人と機械が一緒になって命運を共にする、勇気を試される象徴の御神体なのだ。
♪ 人の頭脳くわえた時に マジンガーZ マジンガーZ
 おまえこそ 未来もたらす ♪


勇気をありがとう、マジンガーZ。
61vMSoS4zxL__SL1105_.jpg 

「賢人のお言葉」
 
「人生は石材である。 これで神を彫刻しようが悪魔を彫刻しようが各人の心のままである」
 エドマンド・スペンサー

このページのトップに戻る

他にもこれ観ました  ~1月編(上)
2018年01月23日

360709_002.jpg 
「オリエント急行殺人事件」

毎年、年頭の一発目にはどの映画を観るかというのがちょっとした悩み。
「これが今年の最初を飾るにふさわしい!」というのを観たいのです。
どうでもいいことだけども、こだわりたいもんなんですよ。
でも、前年に公開されたものはその年の間に鑑賞しておきたい。 それをすると、正月休みには観る映画が無くなってしまうというジレンマが起きてしまうのです。

てな訳で、熟考した結果、12月8日に公開されたこの華やかな映画が2018年のトップバッターに。

アガサ・クリスティのミステリーの傑作がシドニー・ルメット監督によって最初に映画化されたのが1974年。 時の流れは容赦なく速い。
そして21世紀。 ケネス・ブラナーの監督・製作・主演で再映画化された「オリエント急行殺人事件」。
40年以上たっても印象が強烈に残っている74年版と、どう差別化を図るかがポイント。
結末はあまりに有名ですし、まさかそれを変えるはずはないし、世界観をガラッと変える訳にもいかないので、どんなカラーを打ち出すのか・・・・

まずはエルキュール・ポアロのヒゲ! やりすぎなヒゲ!
まあ、慣れたらそうでもないかな。 たかがヒゲだし。
卵のサイズにあんなにこだわる人だったの?
エルキュールという名前を「ヘラクレス」とよく間違えられるというエピソードもあります。

それに今回のポアロはけっこう感情が激しいですね。
極悪人に復讐する人々の執念の凄まじさと悲壮な覚悟の思いがより強く前面に出ていて、ポアロの人間像もそれに呼応するかのようにエモーショナルになっています。
もちろん、殺人はいけませんが、殺しても飽き足らない悪党をみんなが知恵を絞り、力を合わせて葬った一大計画。 そのひたむきな志しに「この世には善と悪しかない。 その中間はない」と言っていたポアロの信念が大きく揺らぎます。
「時として法律は不十分だ。 ここに殺人者はいない。 傷を癒す人だけ」

やっぱり74年版には敵わないとはいえ、まずまず満足できる出来栄えでしょう。
一同を「最後の晩餐」のごとく、テーブルに横一列に並べての山場はなかなか良かったんじゃないでしょうか。
        

362485_001.jpg 
「レディ・ガイ」

殺し屋の男がマフィアとの銃撃戦の末に重傷を負って意識を失った。
やがて目覚めた彼は鏡を見てブッたまげた。
なんと彼は、女に改造されていた。 どんだけ~!

笑わせにかかってるような設定ですが、いたって真面目なアクション映画。
監督はそんなに好みではないウォルター・ヒル。
女にされてしまった殺し屋が壮絶な復讐に乗り出すのですが、そのおもろすぎる設定がイマイチ活かされていないのがもったいない。
せっかくの性転換ビフォアアフターという強烈なシチュがあるんだから、いっそのこと笑いを取りに行った方が良かったのでは。
アクションと言っても全然ヌルいですし、案外会話が多いので、想像していたテンポとは違うので終始戸惑いっ放しでした。 まぼろし~!

ハリウッドきっての野獣女優ミシェル・ロドリゲスがピッタリの役をやってるのですが、オファーが来た時はキレなかったんでしょうか。
女に改造される前の男の役を別の男優さんがやるのかと思いきや、ちゃんとロドリゲスがやってるんですね。
先入観もあってか、どう見ても男装しているミシェル・ロドリゲスにしか見えないのがまた面白いですね。 背負い投げ~!

彼女を手術してしまうサイコな女医をシガニー・ウィーバーが演じており、彼女の回想形式でストーリーが展開するのもなんだかもどかしい。
しかしこれこそがミソ。 ラストは「ええええ????」と目が点になるようなサプライズがあります。
今までの話は××××だったってことですか? すっからけっち~!
        

361573_001.jpg 
「希望のかなた」

アキ・カウリスマキ。 根強い人気がありますねえ。 映画館満杯でしたよ。

無味乾燥。 余計なものを省くミニマリズム。
セリフも少なく、ぶっきらぼうで無表情の役者。
喜劇なのか悲劇なのか判然としない語り口。
情緒感ハンパないBGM。
派手さとは無縁の手法ながら、相も変わらずカウリスマキの映画は不思議な魅力がありますねえ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〔 カーリド 〕
空爆で家と家族を失い、生き残った妹と共に故郷シリアを脱出した青年カーリド。
道中の混乱で妹とはぐれてしまうも、なんとかフィンランドのヘルシンキに辿り着く。
行方の分からない妹を早く見つけて、このヘルシンキで暮らそうと決意したカーリドは難民申請を出して収容所に入るが、まもなく申請は却下され、トルコへの送還が決定する。
だがカーリドは不法滞在者となることを承知で収容所を脱走し、街の中へと紛れ込んでいく。

〔 ヴィクストロム 〕
シャツのセールスをしている中年男ヴィクストロムは酒びたりの妻と別居し、有り金を闇ポーカーに突っこんで大金を手にする。
念願だったレストランのオーナーになったものの、前のオーナーがいい加減だったのか、料理はミートボールとサーディンの缶詰だけ。 常連もビールを飲むだけの客がほとんどで売れ行きはさっぱり。
しかし、気のいい従業員たちに囲まれて、ヴィクストロムは自分の居場所を築いていく。

街中でネオナチに絡まれて逃げていたカーリドに救いの手を差し伸べたのはヴィクストロムだった。
カーリドに食事と住む所を与え、レストランに雇い入れたうえに、偽の身分証まで世話するヴィクストロムの姿に、従業員たちもカーリドを受け入れる。
収容所の友人から妹が発見されたと聞いたカーリドにヴィクストロムをはじめ従業員たちが兄妹の再会をお膳立てしようと協力する。
だが、カーリドにはさらなる試練が待ち受けていた・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
当初は「ル・アーブルの靴みがき」に続く「港町三部作」の二作目だったものの、監督自ら「難民三部作」と呼称を変更。
EUで大きな問題となってる難民をテーマにしていますが、だからといって堅苦しくて大層な話ではなく、社会的弱者を取り巻く人の人情ドラマが基本。
庶民と同じ目線で難民の過酷な現状を見つめ、政治的な思惑など一切排した人助けの温かい心を飾ることなく描いています。
困ってる人がいる。 助けてあげる。 それだけの話ですが温かいのです。
当たり前のことを淡々と慎ましやかに。 カウリスマキの真骨頂が炸裂です。

レストランがあまりに儲からないので、寿司を始めるシーンは爆笑でしたね。 「大勉強の店」と書かれた前掛け!そんなのどこで手に入れたの?

気になるのはラストのカーリドの様子ですね。 無事であればいいんですが。
        

umbrella_pic.jpg 
「キングスマン:ゴールデン・サークル」

大ヒットしたマシュー・ヴォーン監督の傑作スパイアクションの続編。
ロンドンの高級テーラーを隠れ蓑とし、どの国にも属さない最強のスパイ機関「キングスマン」のエージェントが活躍する、トンデモ系路線だった頃の「007」を彷彿とさせる本格スパイ・ムービーは、今回さらにハチャメチャ度がアップ。

なんせ、前作で死んだはずのハリー(コリン・ファース)が実は生きてましたという、嬉しいけれども掟破りスレスレのミラクル復活を敢行。
タロン・エガートン君がピンでメインを張るのは心もとないと製作サイドに思われたのではなく、ハリーとエグジーのコンビがあってのシリーズだという判断。
まあ、いいでしょう。 ハリー、かっこいいしね。
その代わり、ロキシーちゃん(ソフィー・クックソン)が早々と死にますし、マーリンさん(マーク・ストロング)も「カントリー・ロード」を熱唱しながら殉職。

今回の敵は麻薬の合法化を目論む麻薬組織のボス、ポピー(ジュリアン・ムーア)。
前作のヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)ほどのイタさはないですね。
人肉バーガーのくだりはセンス低いなあ。

大ピンチに陥ったキングスマンと共闘するアメリカの組織が「ステイツマン」。
こちらはバーボンウィスキーの蒸留所に本部を構え、コードネームはシャンパン(ジェフ・ブリッジス)、テキーラ(チャニング・テイタム)、ウィスキー(ペドロ・パスカル)、ジンジャー(ハル・ベリー)ときたもんだ。
コスチュームもカウボーイ・スタイル。 もちろん彼らもマナーにはうるさい。
ちょっと出てきてワチャワチャ~っと暴れて、あとはネンネしたままのチャニング・テイタムの使い方がもったいない気もするけど。

エルトン・ジョンも登場して、好き放題やらかしますが、名曲「土曜の夜は僕の生きがい」をバックにしたアクションがなかなか痛快ですねえ。
ともかくもマシュー・ヴォーンの「007」が好きすぎるあまりにパロってイジリたおす、悪趣味ぎりぎりのスパイ活劇の面白さは健在。
        

361997_005.jpg 
「5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~」

若くして視力の95パーセントを失った弱視の青年サリヤ・カハヴァッテが一流のホテルマンになる夢を追いかけて実現させた奇跡の実話を映画化。
「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々」のマルク・ローテムントがメガホンを取ったドイツ映画です。

サリヤ、通称サリー(コスティア・ウルマン)は父がスリランカ人、母がドイツ人で妹と共に4人でドイツに暮らしている。
彼は15歳の頃にベーチェット病という免疫疾患の影響から網膜剥離を患い、健常者の5パーセントしかモノを見ることができなくなってしまいます。
お父さんの荒れ方も残念ですが、職業相談所(?)の人でしょうか、「夢を持つのはあきらめた方がいい」という言い草はビックリしますね。

サリーは若い頃からの夢だったホテルマンの道を目指すことを決心。 それも5つ星の超一流のホテルの。
正直に目のことを申告すると、どこのホテルからも不採用通知しか届かず、止む無く彼は障害を伏せたままミュンヘンのホテルに就職します。
そこからが苦難の連続ではありますが、もちろん彼一人だけの努力ではどうにもなりません。

映画では、サリーの見ている世界はこうだというカットが挿入されますが、これは見えないのと一緒でしょう。 ホテルマンの仕事だけでなく、日常生活でも相当しんどいと思いますよ。
そんな彼をいろんな人がサポートしてくれます。
中でも、女も酒も好きな遊び人タイプの同僚マックス(ヤコブ・マッチェンツ)がまた、いい奴! サイコーだよ、こいつ。
スライサーを分解してコツをつかませてくれる料理長さんや、「俺を頼れ」と言ってくれるアフガニスタン難民の皿洗いの人も、妹さんも、他の同僚たちも。
サリーの努力はもちろんですが、周囲の人の理解と支えもジーンときますね。

そしてこういう物語には「お約束」のように出てくる、容赦なく厳しい鬼教官。 「3度警告したら即クビだぞ」
でも最後には、やっぱりいい人!

『急ぐなら一人で行け。 遠くへ行くなら仲間と行け』というアフリカのことわざが出てきますが、まさに障害者が障害者ではなくなる世界は、個人だけの孤独な努力ではなく、多くの人の理解があってこそ築かれるものです。
もうひとつ、『幸福への道はない。 道そのものが幸せなのだ』というブッダの言葉も出てきます。 いいですねえ、こういう名言の網羅は。
結果ではなく、あきらめずに努力することが幸福な人生。

「アンビリーバボー」にもありそうなベタベタな美談かもしれませんが、めっきりこういう話には弱くなりました。
分かっていても、ホッコリ。そして涙腺もゆるむ。 ええ話です。
        

361624_008.jpg 
「ヒトラーに屈しなかった国王」

「朝まで生テレビ」は観てないけど、この番組でウーマンラッシュアワーの村本が「侵略されたら白旗をあげて降参する。尖閣は中国にあげればいい」と発言したと言う。
「人を殺して国を守るぐらいなら(尖閣を)取られてもいい」のだそうだ。

まあ人それぞれ考え方はあるだろうが、こんな腑抜けた男もいるのだなと驚愕する。
侵略者に対して「お好きなように」と無条件でホールドアップしたら、侵略者から「この国の人たちは、いい人ばかりだ」と褒めてもらえると思ってるのだろうか?
侵略されるということがどれだけ恐ろしいことか想像力が働かないのか?
そりゃ誰だって戦争は勘弁だが、抵抗も思考もせず、侵略行為に正当性をくれてやってもいいというスタンスを取ることそのものが非人道的だ。

ヒトラーは言った。 「他国の侵略に屈する国家は存在する価値がない」と。
ヒトラーがそう言ってるのだ。 妙ではあるが。
侵略者に白旗をあげる国など国に非ず。 戦わないものはゴミクズなのだ。 だから容赦のないやり方をするぞと。 これが侵略者の心理だ。

この映画は1940年、ナチスドイツの侵攻によって降伏を迫られたノルウェーで、当時の国王だったホーコン7世が歴史に残る重大な決断を下す、運命の3日間を描いた物語である。
降伏を受け入れて侵略者に屈するか、国民の命を危険にさらしてでも最後まで抵抗を続けるか。
無論、国王が政治に介入する権利はない。
だが、ナチスの要求を呑むか否かと政府内でも意見が分かれている切羽詰まった状況の中、国の象徴として意向を示すべきかと悩む国王。
だがヒトラーの命令は、閣僚相手の交渉ではなく、直接国王と交渉して降伏協定にサインさせること。

オラフ皇太子と意見を交わし合い、やがては王になる息子に複雑で様々な想いを託した国王はドイツ公使との交渉に臨む。
「要求を呑んだら民主主義でなくなる」

まさにタイトル通りの話であるが、改めて国の主権というものを考えさせられる。
ナショナリズム、大いにけっこう。 「国」の存在っていかに大切か。

ドイツ公使が「平和のために」と利いた風な口をきき、妻から「ヒトラーのためでしょ」と突っこまれ、片やノルウェーの少年兵が「すべては国王のため」と言うと国王が「いいや。祖国のためだ」と言い聞かす、この対比。
孫たちの良きジイジであり、皇太子を一人の息子として案じる国王が、閣僚や家族たちに示す決意が胸を打つ。
        

362339_001.jpg
 
「劇場版「進撃の巨人」 Season2 ~覚醒の咆哮~」

TVシリーズを再編集した劇場版の第3弾。
公開時期を「マジンガーZ」と同じ日にぶつけるという、その心意気たるやアッパレ。

獣の巨人の出現や、ユミルをはじめライナー、ベルトルトが正体を現すあたりの怒涛の急展開を迎える、コミックでいえば9巻から13巻までのストーリー。
巧くまとめてあるのには毎回感心しますねえ。
このあたりのストーリーの面白さと声優さんの素晴らしさもあるのでしょうが、今回はキャラクターの魅力がより前面に出てます。
エレンもミカサも狂気さ増し。 アルミン可愛さ増し。
ユミルの“オトコマエ”なところ。 惚れるわぁ。
エルヴィン団長もすっげえカッコ良かった! 「心臓を捧げよ!」
そして推しキャラ、ハンジ分隊長。 ぶんたいちょぉぉぉ~!!!  やっぱ、ええわあ。
リヴァイ兵長は今回おとなしめ。 「おまえ・・・なにを笑ってやがる・・・」 あのシーン、いいよね。

エンドロールのあとはお掃除ネタ。
芋女サシャ本領発揮。 「パンのようなものは盗んでませんよ」 この子、生き残ってほしいなあ。
掃除に厳しいリヴァイ兵長。 「時間は十分にあったはずだが」 お~、こええ。

このページのトップに戻る

ジャコメッティ 最後の肖像
2018年01月19日

T0022509p.jpg芸術家というのは、やっぱり凡人にはないセンスを持ってる人なわけだから、そのぶん・・・

クセがすごい!

画家だけで言うならば北斎しかり、ピカソしかり、セザンヌしかり、ゴッホもダリもまたしかり・・・
この人たち、変なんですぅ。

脳を働かせる部分が、人とは違うからだろうか。
芸術家のほとんどがそうではないかと思うほど、やたらに変人が多い。

いや、変人というよりは気難しいというのだろうか。
気難しい一般人はいても当たり前なのに、芸術家は気難しいというクセがあるだけで変人待遇がアップするのは少し気の毒ではあるが。
やはり、「人々を感動させるアートを生み出す才能がある人なのに」というギャップが強すぎるのだろうか。
それにしたって芸術家のクセがすごい。
鬼才とは、すなわち人格なり。


albertogiacometti1.jpg
アルベルト・ジャコメッティ (1901~1966)
giacometti_hommemarche.jpg 
彫刻家であり、画家であり、版画家。
スイス出身でお父さんも著名な画家。

ジュネーヴの美術学校を卒業し、21歳でパリに移り、どこの流派にも属さず、独特の作風を発展させて瞬く間に成功を収める。
シュルレアリスムから離れて、目に見える通りのものを作ろうと決意。 簡単なようで不可能といってもいい。
それを突きつめて、ずっと削いで削いで削ぎ落とし続けてできた彫刻がかの有名な「歩く男」である。

人から言わせれば、“目に見える通りのものを作る“はずが「なんでそうなっちゃったの?」とツッコミたくなる彫刻は、昨年催された「ジャコメッティ展」で堂々日本への凱旋を果たしている。
d701c2a11cf3617a1b8808fb1bd3df2f.jpg 
絵画も多数残しているジャコメッティだが主に肖像画が多い。
素人目には「書きかけ?」で終わってるかのような、これもまた一目でジャコメッティの作品だと分かるほど独特の作風である。
本当に書きかけのまま辞めたものが多いらしいが。
 
モデルはカロリーヌという愛人をはじめ様々な人が務めているが、彼の描いた最後の肖像画のモデルとなったのがジェイムズ・ロードというアメリカ人の作家である。
評論家でもあり、長年の友人だったロードは1964年、ジャコメッティの個展が開かれていたパリに赴いた。
その際にジャコメッティから肖像画のモデルになってくれと依頼されて引き受けたのだが、それがロードにとって運のつき。
彼はドえらい目に遭うのである。

その体験談を綴ったジェイムズ・ロードの手記「ジャコメッティの肖像」。
これをジャコメッティの大ファンと公言する俳優のスタンリー・トゥッチが脚色・監督を手掛けて映画化。
これは伝記映画ではなく、最後の肖像画が完成するまでの顛末と、その期間のありのままのジャコメッティを描き出したコメディタッチの人間ドラマである。

ジャコメッティを「パイカリ」シリーズのキャプテン・バルボッサでおなじみのジェフリー・ラッシュが演じ(激似!)、ジェイムズ・ロードには「コードネーム U.N.C.L.E.」、「フリー・ファイヤー」のアーミー・ハマーが演じている。

pic03.jpg 
1964年。 ジェイムズ・ロード(アーミー・ハマー)は浮かれまくっていた。
なにせ、アルベルト・ジャコメッティから肖像画のモデルになってくれと依頼されたからである。
そんなにテンションが上がることなのだろうか? 上がることなのだ。

たとえば突然、本田翼から電話がかかってきて「一日でいいからデートしてくれませんか?」と言われたらどんな朴念仁でも平常心ではいられない。
いかに自制しようとも、一服盛られたかのようにハイになること必至だろう。
それと同じことなのである。

ロードにとってはジャコメッティは憧れの人である。
作家でもあり美術評論家だったロードジャコメッティを取材した当初から彼の作品に魅せられ、個人的にも10年以上に渡って友人の関係にある。
この時も、彼はジャコメッティの個展を観るためにアメリカからはるばるフランスのパリに訪れていた。

もうすぐ帰国が迫った頃、ジャコメッティから肖像画のモデルを頼まれたロードはもちろん喜んで引き受けた。
憧れの巨匠が自分の絵を描いてくれる・・・・・ 巨匠の仕事も間近で見られる・・・・・
ドキがムネムネ、ワクがムネムネ。 トキメキが暴走するジェイムズ・ロード

巨匠は「2~3時間で描き上げる。 遅くとも夕方までには」と言う。
その言葉を信じて、ロードは巨匠の住むイポリット=マンドロン通り46番地へと向かった。
やがて彼は知る。 芸術家の口約束がどれほどデタラメであるかを。

362167_002.jpg 
アトリエはお世辞にもきれいとは言い難かった。
床は石膏の粉まみれ。 作りかけの彫刻がいくつか放ったらかしのまま。
整理整頓などクソ食らえと言わんばかりに、道具という道具は場所も決めずに乱雑に放置されている。
ひいき目に見れば、「巨匠の仕事場は一味違うよね~」などと言えなくもない。

ロードを案内したジャコメッティ(ジェフリー・ラッシュ)。 タバコをくわえてマッチを擦る。 火をつける。 マッチを床にポイ。
(おいおいおい・・・ 灰皿とかあるやろ。  ・・・ないな)

同居している弟のディエゴ(トニー・シャルーブ)が彫刻の完成品用の台座を作って持ってきた。
しかし巨匠。 せっかく完成した作品を「これは駄作だ」とポイ。 ガシャーン!
おいおいおい・・・ せめてゴミ箱に捨てるとか。  ・・・ゴミ箱がないな)

0_201801172209175ab.jpg
真っ白なカンバスをイーゼルに立てるジャコメッティ巨匠
椅子に座らされたロードは顔や足の位置を細かく調整される。
「よし。動くなよ」 (へい)

くわえタバコで絵を描きはじめる巨匠。
「冷酷な顔をしてるな」 (なんやねん急に?)
「凶悪犯に見えるぞ」 (それならアンタの方がよっぽど・・・)
「見たままは描けないな」 筆が止まる巨匠。 (かかへんのかい)

巨匠は言った。 「肖像画とは決して完成しないものだ」
(いや、かかへんからやんけ)

一日目のセッションはこれにて終了。
帰国の飛行機は明後日だし、まあいいかとロードは思うのだが甘かった。
これより彼は地獄の18日間を味わうことになる。
クセのすごい巨匠の気まぐれ、“描く描く詐欺”。
それはまるで吉本新喜劇のすち子と吉田裕の「乳首ドリルすんのかい、せんのかい」を見てるようなお戯れ。

final_portrait-e1486829945960.jpg 
ジャコメッティのもとに時折、ご陽気な婦人がやってくる。
カロリーヌ(クレマンス・ポエジー)。 娼婦であり、ジャコメッティの愛人である。
「シラガ頭ちゃ~ん」とか、または「お~い、老いぼれ犬」などと実に口の悪い挨拶で巨匠を呼びながらアトリエに入ってくる。

そして巨匠はニヤつきながらカロリーヌ嬢とイチャイチャし始める。 奥方の見てる前で。
その奥方のアネット(シルヴィー・テステュー)も、日本人哲学者の矢内原伊作(タカツナ・ムカイ)とあてつけのようにヨロシクやっているのだが。

とっくに夫婦関係は破綻してるのであるが、たまに画廊から札束がドーンと送られてくるジャコメッティのフトコロを考えれば、アネットも早々別れることもできない。
たまにアネットが新しいコートの一つでも買おうものなら、ジャコメッティ「この物質主義者めが!」と罵りだしてバトルが勃発する。
見苦しさ満点の、犬も食わないケンカをそばで見せられるロードは居心地が悪い。

berlinalemereghettifinalportrait_640_ori_crop_master__0x0_640x360.jpg 
2日目以降、すぐに描き上げてくれると思っていたロードの期待は一瞬で吹き飛ぶ。
巨匠は一筋縄ではいかない。
描こうとすれば辞める。 辞めるかと思ったら描きはじめる。 でもすぐ辞める。

真面目に描いてると思ったら、ふと動きが止まる。
そして、「クソッタレー!」と叫んで頭を抱え出して、「今日は辞めだ」。 これの繰り返しである。
そんなこんなで、予定は延び延び。
ロードだってヒマではない。
アメリカではゲイの恋人が首を長くして待っている。
予定が延びるごとに電話で恋人に謝りたおすロード

tszsvdfrmd8.jpg 
「お前の横顔は変質者だな」
「光栄です」(しばくぞ)
「刑務所か精神病院行きの顔だ」

(わかったから、はよかけや)

そして描きだす。
やがて・・・・・
visual.jpg 
「クソッタレー!」

(また始まった。 かかへんのか? かくんか? かかへんのか? かくんか?)

「ダメだ・・・・・」 (かかへんのかい)
「よし、描くぞ」
362167_005.jpg 
(かくんかい)

3日目も4日目も5日目6日目も7日目も8日目も、ずーっとこんな調子である。
final-portrait-003.jpg
「今日の俺は調子がいいぞ」
(何を根拠に)
・・・・・
「続ける価値があるか・・・?」
「え?」(また、嫌なことを言い出したぞ)
・・・・・
visual ss
「クソッタレがぁーっ!」
(もうええっちゅうねん)

例によって、しばし固まる巨匠。
(どないすんねん。 かくんか? かかへんのか?)
「辞めた。 おい、飲みに行こう」
(かかへんのかい)
「いや、やっぱり描こう」

maxresdefault yu
(かくんかい)

どんどん日にちだけが過ぎて行く。
されど一向に絵が完成する気配はない。
「あと一週間あると嬉しい」などと、冬休みの宿題をさぼったまま始業式前日を迎えた小学生みたいなことを言う。

ロードも半ば腹をくくった。
恋人には何回も電話してるうちに愛想をつかされた。
こうなりゃ『かくんかい、かかへんのかい祭り』にとことん付き合ったるわい。

それでもやはり、ジャコメッティという芸術家はロードには実に魅力的だった。
こういう面倒くささも貴重な体験である。
自分が今、この巨匠とともに同じ時間を共有していること自体が素晴らしいのだ。

362167_004.jpg
ある日、一息入れようと二人で散歩に出る。
ジャコメッティがピカソについてディスり倒す。
よっぽどムカつくことがあったのだろうか。

「ピカソは過去の芸術の模倣だ。 人のマネをして自分のものだと言う。 ふざけるな。 アイツはコソ泥だ」

こういうのを拝聴するだけでも貴重である。
そういうナマの本音を聞きたいのだ。 しかもピカソの話だなんて。
「絵についてアドバイスを求められたから、「ここをこうすればいいんじゃないか」と助言をしたらあの野郎、俺の言ったことと逆に直しやがった。 なめやがって」
(そういうとこがピカソだな)

「セザンヌは正しい。 アイツは最後の天才だ」
(ほぉ)

ところで絵の方はどうなのだろうか?
「明日は本格的に始めるぞ」
(ほんまかいな)

visual ss
もちろん本格的に始まるわけがなく、巨匠の例のクセが始まる。
「クソッタレがぁーっ!」
(やっぱり)

「出口が見つからん・・・」 (かかへんのか?)
「やめますか?」 「まさか」 (おっ? かくんかい)
「・・・やめよう」

maxresdefault_201801190024528b5.jpg 
(かかへんのかい)


巨匠のクセのすごさは並ではない。
珍しく筆が進み、半分ぐらい描けたかという時になると、何が不満なのか、せっかく描いた絵をベターッと塗りつぶしてしまうのである。
「描きすぎたな」 (なにが?)
「う~ん・・・・ でも描きたらん」 (どないやねん)


愛人のカロリーヌと連絡がつかなくなり、いっぺんに機嫌が悪くなって筆も止まる。
カロリーヌが舞い戻ると機嫌回復。 絵もそっちのけで遊び回る。

finalportrait_trailerstill716x403.jpg
一日あればどころか、2,3時間あれば描くと言った巨匠の言葉とは裏腹に、もう2週間以上が過ぎた。
「希望が見えてこないんですけど・・・」
「は? 希望が欲しいのか?」

確か、自分は頼まれてモデルになったのではなかったか。
これではなんだか、「何が悲しくてオマエの絵なんか描かにゃならんのじゃ、ボケ」と言われてるようなものである。

「わしはな、希望が最高潮になると投げ出したくなるんだよ」
(ふ~ん・・・・いや、わからん!)


15日目・・・ 16日目・・・ 17日目・・・
このままでは一年たっても、いや、何十年たっても描けないだろうとジェイムズ・ロードは確信した。
見限ってアメリカに帰るのも惜しい。 是が非でも絵は完成させてほしい。
しかし、おとなしく巨匠がスラスラと筆を動かす期待などするだけ無駄なことが分かった今、ロードは途方に暮れるしかない。

我が道を歩くというより、我が道の真ん中で寝転がってるような究極のオレ流を発揮するジャコメッティ
まな板の上に乗せられたまま生殺しの鯉状態で待ち続けるロード
はたして絵は完成すんのかい? せえへんのかい?・・・・・
362167_001.jpg 

ジェイムズ・ロードジャコメッティと共に過ごしたパリでの18日間。
手に負えないほどの芸術家特有のクセのすごさが炸裂する一巨匠の実態を見せつける物語は、実際のところ有益な教訓は何一つない。
そこにはただただ、おもろいオッサンの生態が息づいているだけ。

絵を描いては消し、描いては消し。
叫んで悪態をついて、コロコロと気分が変わるガキ気質。
妻に厳しく、愛人に優しいゲス道一直線。
お金をお金とも思っていないように雑に扱うバチあたり。
ワインとコーヒーを一緒に飲む、食の変態。
こんなおもろいオッサンがどこにいるだろうか。

彼の創作した芸術品の善し悪しは分からないが、巨匠と呼ばれる男は一味もふた味も違う。
実際にこの世界に存在したクセスゴなアーティストの一挙手一投足を楽しませてくれる、監督の「ジャコメッティ愛」が強烈にほとばしった異風の人間ドラマだ。


d5946125x.jpg 
【ロードの肖像画】
巨匠的には完成はしてないのだが・・・

ロードがアメリカに帰国したあと、まもなくしてジャコメッティから手紙が届いたという。
『すぐに戻ってくれ。 もう一度最初から描きたいから』

かくんかい。


「賢人のお言葉」
 
「永久の未完成、これ完成である」
 宮沢賢治

このページのトップに戻る

  1. トップページに戻る
  2. 次のページへ

プロフィール

オハラハン

Author:オハラハン
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

カテゴリ

ご意見・ご感想はこちらから

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター

ブロとも一覧

月別アーカイブ

02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02