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他にもこれ観ました  ~3月編(上)
2017年03月23日

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「東京ウィンドオーケストラ」

「力のある監督が撮りたい映画を自由に撮る」、「新しい俳優を発掘する」をテーマに松竹ブロードキャスティングが立ちあげたオリジナル映画プロジェクト。
第1弾が沖田修一監督の「滝を見にいく」、第2弾が橋口亮輔監督の「恋人たち」。 そして第3弾となる本作はこれが初めての商業映画デビューとなる新人・坂下雄一郎の監督作。
有名なオーケストラと間違われて、コンサートの演奏に招かれたアマチュア楽団と、ミスに気づいたものの何とか本物で押し通そうとする役場の女性職員が巻き起こすホノボノコメディ。
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舞台は屋久島。 屋久杉で有名なあの屋久島である。
島の町役場の職員、樋口詩織(中西美帆)は毎日の単調な仕事の繰り返しに息のつまる思いをしている。
しかし、この日だけは役場の空気が違う。
海外公演もするほどの、日本を代表するオーケストラ「東京ウィンドオーケストラ」がこの屋久島にやってくるのだ。
観光課の橘課長念願の企画であり、樋口はその担当を任されていた。

一方、鹿児島港から屋久島に向けてフェリーに乗り込む10人の男女。 彼らは都内のカルチャースクールのアマチュア楽団だった。
楽団員たちは、なぜ自分たちがコンサートなんてものに呼ばれたのか怪訝に思いながらも、観光気分でハイテンションになっていた。
宮之浦港に到着した一行を出迎えた樋口。 10人だけとは意外に少ない。オーケストラってもっと数十人ぐらい来るのでは? しかもコンサートよりもなんだか観光をエンジョイしに来てるような軽いノリは何だろうかと不思議に思ったものの、せっせとスケジュールをこなすことにする。

一泊何万円するのかというようなホテルの個室に面食らい、役場の課長が「大ファンなんです!」と嬉し涙を流しながら歓迎する姿に不審を覚えた一行。
やがて彼らは自分たちが間違えられて呼ばれたことに気づき、一方で樋口も大きなミスに気づく。
有名な方の楽団は『東京ウンドオーケストラ』。
島にやってきたのは『東京ウンドオーケストラ』。 『』と『』の一字違いの勘違いで、うっかり庶民の“趣味の集まり楽団”を呼んでしまった樋口。
引っ込みがつかなくなった一行がこっそり逃げ出そうとするのを引き止めた彼女は決断する。
「このまま本物ってことでいきましょう。」
「いやいや、そんなムチャクチャな。 絶対バレますよ。」
「聴きに来るのはどうせ素人ですし、なんとかなるでしょう。 第一もうギャラは支払ったんですから、あなたたちこのまま帰れませんよ。」
「そんな・・・。 だいたいアンタのミスでこうなったんだろ。」
だが、「一度でいいからあんな大きな会場で演奏してみたかったんだよなあ。」という声も出始め、渋々ながらも本物のフリをすることになった楽団員たち。
それでもムチャはムチャ。 なんせ島の高校の吹奏楽部の足元にも及ばぬズブの素人集団である。
なんとかなるのか、いやあ、なりはしないだろう。
無情にも開演時間は刻一刻と迫っていた・・・・
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よくある勘違いコメディの王道話。
コンサートは商工会主催で有料の様ですし、冷静に考えれば、嘘をついて客からお金を取ったらまずいでしょうね。
まあそういうことは抜きにして、勘違いから派生していく嘘の上塗りのてんやわんやを気軽に楽しめればいいのです。
毎日同じことの繰り返しに虚無感を覚えていたヒロインが出会うのは、楽器を今さら習ったって大きな夢が叶うわけでもないのに、それでも好きなことにコツコツと打ち込んできた人々。
最初の意図は違うけれど、こんな人たちにもスポットライトが当たってもいいんじゃないかという想いに動かされていくヒロイン。
演じる中西美帆の終始ムスッとしていた表情がラストでほんのかすかにゆるむ時、誰の人生にも時には大きな夢のウインドが吹くのだという温かみを感じさせてくれます。
        


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「彼らが本気で編む時は、」

「かもめ食堂」、「トイレット」などの荻上直子監督の待望の最新作。
トランスジェンダーのリンコ(生田斗真)と恋人のマキオ(桐谷健太)のカップルの生活に転がり込んできた、母親から愛されない孤独な少女トモ(柿原りんか)。
共同生活を始めた3人がそれぞれの幸せを見つけるまでの60日間の物語。

監督の荻上直子は20代の頃、アメリカで6年間映画製作を学んだのちに帰国。
それから12年後にダンナさんと双子のお子さんと共に文化庁新進芸術家派遣制度で1年間ニューヨークに留学。
この時、監督が日米の違いで感じたのは「ゲイ率」の差だそうで。
アメリカではそこらを歩けば普通にゲイの人に出会う。 「まあそりゃアメリカだから。」
そして日本に帰ってきたら、ゲイの人にはまず出会うことがなくなった。 「まあそりゃ日本だから。」
再びアメリカに渡ると、ゲイの人が当然周りにいて、ゲイの友人もたくさんできる。
そして再び帰国して「ゲイ率」が下がった。 しかし監督は、前回とは違って「日本だから」とは思えなかったそうだ。 ものすごく違和感を覚えたそうである。

ゲイの存在は自然のこととして受け入れると違和感があると言う。
テレビではあんなに「オネエ」とカテゴライズされた人たちが活躍しているのに普通の生活をしていても出会わない。
この国では水商売か芸能人にでもならない限り、いまだに存在しづらいのではないか、そのことを公表して普通の生活をするには多くの弊害があるのではないか。 そんな違和感がふくらみ続けたある日に、新聞記事で知ったある親子のことを知る。
“次男”として生まれた彼女は幼少期の頃から女の子の服を欲しがり、中学生の時には「おっぱいが欲しい」と言った。
お母さんは「あなたは女の子だもんね。」と胸につける「ニセ乳」を一緒に作ったという。

女の子になった息子を自然のこととしてしっかりと受け止める母親に感銘を受けて、直接そのお母さんに会いに行って話を聞いた荻上監督。
アメリカ在住時代を通しての違和感やニセ乳を作ったお母さん、自身が双子の母になったことなど、それらの想いを映画にしようと決心して生まれたのが本作。
決してマイノリティとしてのトランスジェンダーの人たちへの同情を求めるような苦労話ではありません。
付いてるモノは違えど、自分らしく当たり前に生きている人への讃歌です。

生きづらい社会や、自分の力だけではどうにもならないことに対して耐える想いを抱え込み、それらを編み物に込めていくリンコの、自分を見失わないバイタリティが生き生きと伝わります。
母親になりたくてもなれない葛藤は、母親に愛されないトモとの出会いによって束の間の疑似親子の愛情に移り、やがてはまた帰るべき道に帰っていくのですが、トモの母親が迎えに来た修羅場のロングカットのシーンが引き込まれますね。

生田斗真も素晴らしいと思いますが、子役の柿原りんかちゃんもお見事ですよ。
桐谷健太は毎日のように見るauのCMの印象が強いので、本作の抑えた演技は新鮮に映ります。
「受け入れます、全部。」のセリフがグッときます。

「ビール発明した人にノーベル賞あげた~い。」もいいですね。
        

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「ラビング 愛という名前のふたり」

“LOVING”というタイトルは実在した主人公夫妻の名字。
アメリカの多くの州で白人と黒人の異人種間結婚が禁じられていた時代。
過酷な試練のもとで愛を貫き、やがては国を動かして法律が変わるまでに至った一組の夫婦の純愛を描く物語。
監督は「テイク・シェルター」のジェフ・ニコルズ。

白人の夫リチャード・ラビング(ジョエル・エドガートン)、黒人の妻ミルドレッド・ラビング(ルース・ネッガ)。 ともにバージニア州セントラル・ポイント出身の同郷。
二人のなれ染めまでは触れられていませんが、世間からは許されない関係だと分かっていても愛を育んできた二人が正式に結婚したのは1958年。 ミルドレッドの妊娠がきっかけでした。
しかしバージニア州では白人と黒人の結婚は違法。 その際、二人は異人種間結婚が認められているワシントンD.C.にまで車を飛ばして届けを出した上で、バージニア州で生活を始めます。 これはちょっとしたズルなんですが。
もちろん保安官に言わせれば結婚許可証があっても「ここでは通用せん。」と、二人は逮捕されてしまいます。

司法取引の上に裁判所が出した判決は、1年間の服役の執行猶予と共に、25年間は二人揃ってバージニア州に戻ってはならないというもの。
ワシントンD.C.の親戚の家に移り住んだ夫妻ですが、出産はどうしても夫の母のもとで産みたいというミルドレッドの願いを受け入れて密かに帰郷。
子供は無事生まれますが、やはり保安官にばれて再逮捕。 いよいよ刑務所かという時に弁護士さんの優しい嘘で救われるのですが、もうこんな危険は冒せません。

その後、6年間で3人の子供に恵まれながらワシントンD.C.で暮らすのですが、息子が街頭で遊んでいて交通事故に遭います。 幸い軽傷で済んだのですが、いつも控えめだったミルドレッドが子供たちが安全に走り回れる田舎に帰りたいと主張し、二人はまたしてもバージニアに戻り、再逮捕に怯えながら周りに何もない農場の一軒家でひっそりと暮らします。
やがて、ミルドレッドがケネディ司法長官宛てに送った手紙がアメリカ自由人権協会を経て、一人の弁護士に渡り、ラビング夫妻の自由を求めるための司法の闘いが始まります。


この物語をありがちな法廷劇に仕立てなかったのは正解。 結果は知ってますからね。
そもそもラビング夫妻、特に夫のリチャードの方は裁判自体にあまり期待しておらず、(一度も?)出廷してませんのでね。
二人が家族の生活を守っていくために支え合った姿を重点に描いていますが、実話だから突っ込んでもしょうがないとはいえ、この二人ももう少しやり方を考えたらよかったのでは?と思いますね。
とにかく生まれ故郷の「バージニア・愛」がハンパなく、違法でも住みたいんですな。 いや法律がおかしいというのは分かりますがね。
ワシントンD.C.からセントラル・ポイントまではそんなに離れていませんし、そこらへんは妥協してたら?と思いますが、やはり彼らの頑なな愛がなければ司法も動かなかったかもしれませんので、なんとも言えないですね。

リチャード・ラビングは1975年に飲酒運転の車にはねられて亡くなっております。
2008年には奥さんのミルドレッドも他界。
「リチャードのことがとても恋しい。彼は私のことをいつも守ってくれました。」という言葉を遺しておられます。
まさに「愛」という名前のふたりですね。
        

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「アサシン クリード」

ゲームの映画化? まあ、今はほとんどゲームってやらないから存在さえ知らんけど、マイケル・ファスベンダーが製作に加わるほど気合パンパンで作られたアクション超大作。
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人間の自由意思を守ろうとする「アサシン教団」と、自由を制限することで人類を支配しようとする「テンプル騎士団」の間では、伝説の秘宝"エデンの果実"を巡る戦いが古来より500年以上にわたって繰り広げられていた。
"エデンの果実"とは人間の暴力性を取り除くパワーがあるのだが、人間の自由な意思も失わせることになる。 故にテンプル騎士団が長年にわたってその在り処を探し続けており、対立しているアサシン教団もそうはさせじと争奪戦が密かに今も続いているのだ。
2016年。 殺人の罪で死刑になったはずのカラム・リンチ(マイケル・ファスベンダー)は、生かされたままテンプル騎士団の派生組織であるアブスターゴ財団のリハビリ棟に連れて行かれる。
そこでDNAに保存されている遺伝子の記憶を呼び起こし、祖先の行動を三次元の世界で追体験できるという画期的な装置"アニムス"を接続され、ルネサンス期のスペインでアサシン教団の一員として活躍していたアギラール・デ・ネルハの記憶を追体験することになる。
歴史上"エデンの果実"を最後に目撃したとされるアギラールの子孫であるカラムが記憶にシンクロすれば果実の手掛かりがつかめるのではという財団の思惑である。
"エデンの果実"の真実に迫る重責を課せられ、幾度となくアギラールの記憶に入り込むうちに、カラムの精神はどんどんアギラールとシンクロしていく・・・・・
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いやあ、これは失敗しましたね。
アッシが? 作品が? 両方です。
少なくともある程度の予習は必要です。 ゲームを知っていれば文句なしなんですが、知らない人は予備知識を出来るだけ詰め込んで観た方が傷口は浅くてすむでしょう。
アッシは全く何の準備もない“一見さん”状態で観に行きました。
最初はウンウン、フムフムと興味深く観てたんですが途中から・・・・・
全然、話が入ってこん!
なんじゃ、このつまらなさは・・・。
予習しときゃよかったかと後悔してもあとの祭りのサブちゃん節。
しかし、それを差し引いてもだよ。
マイケル・ファスベンダーのぬるっぽいアクションは大目に見るとしても、説明の省き方が悪質な手抜きに映るような、非常に出来の悪い脚本なのは確かです。
続編ありきで練ったプロットのためか、グズグズな話のまま締めたのもいただけませんな。
本国じゃ興行成績イマイチで、批評家からもクソミソに叩かれてるので、本当に続編やるんでしょうか?

それにしてもエンドロールがアホほど長いな!
参加しているVFXスタジオの数が凄いことになっとるで。 ちょっとわろてもうたわい。
        

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「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」

「ダラス・バイヤーズクラブ」、「わたしに会うまでの1600キロ」のジャン=マルク・ヴァレ監督の最新作。
妻を亡くしても悲しめなかった男の感情と人生の再生をジェイク・ギレンホール主演で描く物語。
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30代で出世コースノリノリの銀行員デイヴィス・ミッチェル(ジェイク・ギレンホール)は朝、妻の運転する車で出社する途中で交通事故に遭った。
追突された運転席側の妻はあっけなく亡くなり、助手席側のデイヴィスはほとんど無傷で済んだ。
ところがデイヴィスは妻が死んだというのになぜか全く悲しみが湧いてこないことに戸惑っていた。
病院で妻の死を聞かされた直後でも小腹がすいて、シリアルバーの自販機に金を入れたが商品が出てこないことに苛立ち、自販機の会社の連絡先を必死でメモっている。 こんな調子である。
妻のことを本当に愛していたのだろうか? 自分の心はどこに行ってしまったのだろうか?
職場の上司であり、義父でもあるフィル(クリス・クーパー)から「心の整理には点検して組み立て直すことだ。」と言われたことがきっかけとなり、彼は身の周りの物を破壊し始める。
カプチーノ・マシン、会社のトイレ、パソコン、自宅の冷蔵庫・・・。

彼が自販機の会社に宛てた苦情の手紙には、妻を亡くした悲劇のことまで書いてあったのだが、それがきっかけで顧客担当責任者である女性カレン・モレノ(ナオミ・ワッツ)と知り合うことになる。
シングルマザーであるカレンもまた、やり場のない不安の中で日々を送っていた。
なにもかもゼロにして自分の感情を取り戻そうとするための破壊行為を続けても一向に先が見えなかったデイヴィスは、カレンと息子クリスとの友情を通して、どこかに忘れてしまった自分自身に目を向けることに気づいていく。
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あまりにも苦労しなさすぎたんじゃないか?
それでいて、数字とにらめっこしてるだけの空虚な毎日を積み重ねてきて、感情をワッと吐き出す感覚が分からなくなってしまったのだ。
そこで妻を亡くすという突然の喪失を心がすぐに受け入れることができなかった。
妻を愛してはいたのだが、愛してなかったのか?という錯覚がデイヴィスを苦しめていく。
これまでの人生をなかったことにしようとするかのように、身の周りの物を片っぱしから分解していってもスカッと解決とはいかない。
だがデイヴィスが出会うカレンとクリスの親子との触れ合いは確かなきっかけとなったのは言うまでもない。
とりわけデイヴィス自身のミニタイプみたいなクリス少年もまた感情を出すのがうまくない。 加えて会話中の「ファック」の使い方も間違いだらけ。
そんな少年とともに破壊行動に励み、遂にはブルドーザーまでネットで買って自宅を解体してしまう。
これまでの夫婦生活をチャラにできるかと言うとそうではなく、そこにはむしろ彼への愛を失わないように心を痛めていた妻の気持ちの証しがあったのだ。

確かに、主人公の心の混乱は特殊すぎて感情移入しづらい。
「こいつ、何やっとんじゃ?」のオンパレードである。
それでも、徐々に心が開けていくさまは実に分かりやすい。
肉体労働、子供との関わり、義親にぶっちゃけられ、人からしこたまボコられるという、今まで縁のなかった色んな意味での"生の実感"がデイヴィスの心を確実に揺さぶっていく。
そして、この長いタイトルの意味が分かる、あるシーンではグッとこずにはいられない。
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未体験ゾーンの映画たち2017 PART2
2017年03月19日

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皆様こんばんわ。
謎のDJが全2回にわたってお送りするキワモノ映画と音楽の素敵な時間。
「未体験ゾーンへの招待」のお時間がやってまいりました。
先日は「PART1」の御拝聴ありがとうございます。
本日は「PART2」のLast Night。
最後までどうぞお付き合いください。


さっそく参りましょう。
こちらいただきましたのはラジオネーム「デンゼル・ニューヨーク」さん。
群馬県の会社員の方です。

「ルパン三世でもよくやってた、地下にトンネルを掘って銀行に侵入するってやつ。 実はうちの10メートルほど近所が信用金庫です。 うちの裏庭から掘り初めて頑張ったら、ひょっとして一獲千金できるんじゃないかなあなんて思ってます。 いかがでしょう? やってみましょうか?」

ダメです。
多分冗談でおっしゃってるんでしょうが、そんな労力があるんなら働いて稼ぎなさい。
何年か前に実際にトンネル掘っての金庫破りがブラジルであったけど、あれは相当念入りに準備をしてないとできないよね。
人員、道具、調査、根気・・・ヒマと体力ありすぎやんけ、それこそ働いたらええやんけ~ってなもんですわ。
そこで紹介するのは、南米から届いたクライム・ムービーです。

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「エンド・オブ・トンネル」

事故で妻子を失い、孤独な車椅子生活を送る男ホアキン。
彼にできるのは地下室にこもって家電の修理をするぐらいで生活はきゅうきゅう。
そこで2階の部屋をストリッパーのベルタとその娘に貸して共同生活が始まる。
ある日、ホアキンは地下室で作業中、壁の向こうから妙な物音を聞く。
どうやらお隣りでは、犯罪者たちが集まって銀行強盗を計画し、トンネルを掘る作業をしているらしい。
最初は興味本位で彼らの動向を観察していたホアキンだったが、やがて同居中のベルタが犯罪者たちの協力者だということを知ってしまう。
ホアキンはベルタ親子を悪党から縁を切らせたく、また、自分の人生を変えるために、銀行強盗の金を横取りしてやろうと計画する。

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アイデアはいいが、ストーリーに活かされてないような。
些細なツッコミどころに目をつぶれば、それなりに面白いのだけどね。
下半身が動かない主人公がそれを逆手に取る、みたいなそんなテクを見せる訳でもなく、別に車椅子って設定はいらなかったんじゃ?って思うんだけど。
それにしても、この主人公、よくタバコを吸うねえ。
これもなんか、あとあと意味があるのかなと思って観てたけど、単なるニコチューさんでした。
演じてるのは「人生スイッチ」で新車をボコボコにされてキレるオッサンを演じてたレオナルド・スバラーリャ。

それでは一曲お聴きください。
レニー・クラヴィッツで「トンネル・ヴィジョン」。 ジャスティン・ティンバーレイクの方じゃないよ。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


次行きましょう。
鳥取県の学生さんですね。
ラジオネーム「第一関節」さん。

「前にも似たような質問があったかもしれませんが、死後の世界ってあるんでしょうか? 僕はマジで気になって仕方がありません。 これだけ科学が発達してるのに、人間が死んだらどうなるかという疑問だけは未だに解明されません。 僕が生きてるうちにどこかの科学者が証明してくれないでしょうか。」

君は死後の世界があってほしいという願望で言っとるんかな。
研究はされてるんだろうけど元々「ない」ものだったとしたら証明するのは難しいからね。
本当に「ある」のなら、何かしら手掛かりみたいなものはそろそろ見つかっていいと思うけど。
結局落ち着くところは、こればっかりは死ななきゃ分からんということ。
まあ、死んだ後のことなんか気に病まずに、今生きてる世界をちゃんと生きなさい。ってニーチェ先生が言うとる。
そんな君はこの映画を観たまえ。
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「WE GO ON - 死霊の証明 -」

ビデオ編集者のマイルズは、死というものを異常に怖れる男である。
怖れすぎて私生活もままならない。
なんとかこの恐怖心を克服しようと、彼は「死後の世界を証明した者に対して、3万ドルの懸賞金を払う」という新聞広告を出す。
たくさんのインチキくさい応募者の中からマイルズがこれはと選んだ候補者は、科学の教授、メキシコ料理屋で働く女、そして起業家の3人。
マイルズのことを心配する育ての母シャーロットを伴って、候補者を訪ねる旅に出たマイルズだが、やがて彼の身の周りに異変が起きはじめる。


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死後の世界の証明といっても、そんな大それたことはしないのさ。
結局、本人がマジな霊体験をしないと理解しようもない話ということで、前半はイマイチかったるいのよなあ。
だけど後半からは意外に面白く、どちらかというとミステリー色の濃いホラーだったね。
あのラストはどうよ? あれは夢かそれとも・・・。
母親役を演じたアネット・オトゥールの印象が強烈です。

じゃあここで曲に行きましょう。
ルナティック・ソウルで「サマーランド(死後の世界)」。

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次のお便りは滋賀県からいただきました。 フリーターの男性の方。
ラジオネーム「エグゼイドは認めない」さんです。

「僕はコンビニでアルバイトをしてるんですけど、本当にストレスのたまる仕事です。 毎日なにかしらのクレームがあって、まるでデキの悪い召使いみたいに言われます。 こちらの落ち度も確かにありますけど、言い方ってもんがあるでしょうと思うんですよ。 コンビニの店員って、普通の人間より格下だという常識でもあるんでしょうか。 もう辞めたいなあ。」 

「お客様は神様です」って最初に言ったのは三波春夫なんだけど、その意味を履き違えて受け取ってるスカタンがたまにいるからな。
お客様は店員と同じ人間さ。 神様ではないよ。
コンビニは客層が決まってないから、それだけ色んな人が来て、クレームの種類も多いだろうけど、まあなんとか頑張ってちょうだいよ。
さて、この映画は、コンビニに普通じゃない客がゾクゾクやってくるという香港映画だ。

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「クレイジー・ナイン」

金もないし、カノジョもいないし、そのうえ無職という冴えない青年ラウは、求人募集していたコンビニにフラリと行ってみたところ、バイトに即採用され、その日の晩からさっそく働き始める。
そこには、ガミガミと怒りっぽい店長と、どこかスッとぼけた女性店員がいた。
働きに来たとはいえ、初日からほとんどやる気無しのラウは、商品に手をつけたりとやりたい放題しながらテキトーに過ごしていた。
だが、深夜のコンビニに次から次へと来店する客は、なぜかどいつもこいつもクセモノばかり。
やたらにクレームをつけてくる老人、トイレに駆け込んで唸っている下痢の男、セクシーなチアリーダーのネエチャン、そのスジの若ボス、お菓子の景品を引き換えに来た子供、爆弾持参男などが入り乱れ、バイオレンスな事態はどんどんエスカレートしていく。
特殊部隊まで出動する騒ぎに発展する中、なすすべがないラウはやがてクレイジーな客たちの意外な正体を知ることになる・・・・・

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昨年の「大阪アジアン映画祭」において『荒らし』のタイトルで公開された作品なんだね。
てっきり、巻き込まれ型のクライム・コメディかと思いきや、ラストには「えっ?そっち系の話?」という予想外の着地をする。
まあまあ驚いたね。 ちょっと言っちゃうと、これはダーク・スピリチュアル映画。
冒頭の部分で、それとなく香港の社会事情っぽく伏線が張ってあって、ラストで巧妙に繋がる仕掛けになっている。
ただ、前半のトーンとはまるで違う着地をするので、そこにくるまでのガチャガチャした前半の内容は安物のコメディみたいで辟易するのは事実。 ラストで帳消しになるとはいっても。

それではこの曲を聴いてちょうだい。
マドンナの懐かしいバラード、「クレイジー・フォー・ユー」。

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お次は山口県からいただきました、自営業の男性の方。
ラジオネーム「人には人の尿酸値」さんからです。

「今度うちでペットを飼うことにしましたが、犬にするか猫にするかで女房と意見が分かれています。 私は犬なんですが女房は猫と言って譲りません。 私としてはおもいっきり懐かれるペットに憧れるのです。 猫もまあいいっちゃあいいんですがね。 息子に意見を聞くと、『お父さん、ひと駅先のマンションに女の人を飼ってたんじゃないの?』と言いやがったので張り倒してやりました。 女房をチラッと見たらリヴァイ兵長のような目をしていました。」

なんの話やねん!
確かなのは、次におたくが奥さんに張り倒されるということだね。
犬か猫かは人類にとっての古来よりの究極の選択。
いっそのこと両方飼いなさい。 それで問題解決。
あ~、アッシも女を囲いたいなあ。
てな訳で、次に紹介するのはこの映画だ。

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「ペット 檻の中の乙女」

動物保護センターで働く青年セスは、ある日バスの中で偶然、元同級生のホリーを見かけて声をかける。
彼女はセスのことなど顔も名前も覚えておらず、反応もよそよそしい。
SNSでホリーのことを調べ上げたセスのストーキングは次第に加熱してゆき、遂に彼はホリーを拉致して、職場の地下倉庫に自前で設置した檻の中に監禁する。 「これは君のためだ。」
女性を監禁して飼育するストーカー男に囚われた女。
だが・・・実は驚くべき正体を隠していた女が意外な反撃に出る。
もはや飼育されてるのは男の方なのか、女の方なのか。

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サイコ野郎に監禁されてしまった哀れな女がいかにして脱出するかというような、そこらへんのサスペンスとはひと味違う。
ストーカー男は彼女を密かにつけ回して私生活などをチェックしてるうちに、この女がタダ者じゃないことを知るのだね。
「これは君のためだ。」という彼の理由はなるほどとも思える訳だ。
いやいや、警察に言えよ。 言えんのか。 言えんからこうする訳か。
こういう真相って、だいたいはラストで明かしてもいいんじゃないのって思うが、中盤で早々と種明かししてしまうのは、作り手がその後の展開の面白さに自信があったから?
いやあ、それはちょっと微妙だなあ。 
スプラッタな展開に入っていくのも引くし、締めくくりも、まあよくあるオチ。
だけど、言うほどつまらん映画でもないがね。

それではここで一曲聴いちゃってちょうだい。
ワン・ダイレクションで「ストックホルム・シンドローム」。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


ジャンジャンいきましょう。
こちらいただきましたのはラジオネーム「イモモオノコ」さん。
青森県の主婦の方です。

「先日家族で映画『サバイバルファミリー』を観てすごく感動しました。 それにしても電気がなくなるだけで世の中ああなるんですから人間なんてクズですね。 悲しくなりますよ。 ふと思いましたが、停電に限らずなんらかの有事の際はヘタに動かない方がいいんでしょうか、それとも積極的に行動した方がいいんでしょうか。 家族でも意見が分かれました。 DJさんならどっち?」

状況次第って簡単に言えるけど、現実的には状況次第のタイミングが難しいよね。
パニック映画ではだいたいがジッとしてる方が貧乏くじを引くけど、じゃあ動いた方が正解かと言うと一概には言えません。 映画は映画。 人物が行動してくれないと物語にならんからね。
ここで紹介する映画も停電の映画なんだけど、『サバイバルファミリー』とちがって、こちらは動かない方。 

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「スイッチ・オフ」

エバとネルの姉妹は父親のロバートとともに親子3人で、都会を離れた森の中の家で暮らしている。
だがある日、原因不明の世界的規模の大停電によって生活が一変。
ハイテク技術に管理された家のシステムは完全にダウン。 ラジオもネットも繋がらずライフラインが断たれ、町では食料と水を求めて人々が暴徒化していた。
そんな中でも森の中で自給自足をして凌いでいた親子だが、ある日父親が不慮の事故で命を落としてしまう。
悲しみの中、力を合わせながら必死に生き延びようとする姉妹にさらなる試練が襲いかかる。

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エレン・ペイジとエヴァン・レイチェル・ウッドの共演というのがそそられる。
どうやら近未来の設定なのか、照明や家電はすべて音声認識システムで作動するという凄い家に住んでおります。
それが停電で完全アウトになるんだけど、ちゃんとガソリンで動く自家発電機も持ってるんだから、さすがというかご都合的というか。
だから電気うんぬんよりはガソリンの節約に神経を使うという話になっている。
森の中に暮らしてればそれなりの自給自足はできるので、さほどの切羽詰まった感があまり感じられないね。
ただ精神的にきつくなっていくんだよな。 それに加えてお姉さんが侵入者の男にレイプされてしまうという悲劇が。
しかもお姉さん、「私、産むわ。」って言うし。
余ったガソリンを無駄使いしてまで決断した最後の選択はどうも腑に落ちんのだがね。 それにこの邦題はないよなあ。

それでは曲かけるけど、めずらしくビートルズいっちゃおうかな。
森の歌じゃないけども、「ノルウェーの森」。

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さあいよいよ最後だよ。
新潟県からいただきました。 男性会社員の方です。
ラジオネーム「坊主の覚醒」さん。

「新しい『スター・ウォーズ』のエピソード8『最後のジェダイ』が年末に公開されますが、今から待ち遠しくてなりません。 それにしても『ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー』に登場したダースベイダーには鳥肌が立ちました。 ますますもっとダースベイダーが観たくなりましたよ。 現在の新三部作に何らかの形で再び登場するようなことは不可能なんでしょうかね。」

ダースベイダーこそ悪役の中の神。
いろいろと噂は流れてますよね。
ダースベイダーとまではいかずとも、アナキンの霊体が出てくるとか。
とにかく12月が近づけば近づくほど、我々はおかしなテンションになっていくので人様に迷惑をかけないようにしたいもんです。
さてダースベイダーといえばそれを演じた役者デヴィッド・プラウズを抜きにしては語れません。
紹介するのはデヴィッド・プラウズの素顔と葛藤に迫った珠玉のドキュメンタリー。

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「I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー」

旧三部作エピソード4~6においてダースベイダーのスーツアクターだったデヴィッド・プラウズは1935年生まれのイングランド人。
子供の頃から身体が大きかったらしく、20代は主に重量挙げやボディビルの選手として活躍し、俳優の道に進んだのは30を過ぎてから。
大きな身体のマッチョ体形が吉だったのか凶だったのか、フランケンシュタインなどの特殊メイクのモンスター役が多く、素顔でまともな役をもらえたのはスタンリー・キューブリック監督の「時計じかけのオレンジ」での作家の付き人ジュリアンの役ぐらい。
スーパーマン役に立候補してオーディションを受けたけどリチャード・ドナー監督から「クリストファー・リーヴを鍛えてやってくれ。」と頼まれたんだとか。

その前年に出演していたのが「スター・ウォーズ」。 最初のオファーはチューバッカ役かダースベイダー役かの二択だったらしいが「サルの役なんかイヤじゃ。」とダースベイダーを演じることを即決したという。
しかしセリフは喋らせてもらえなかった。 なまりがきつかったそうで、周知の通りダースベイダーの声はジェームズ・アール・ジョーンズである。
「スター・ウォーズ」は誰もが予想しなかった歴史的大ヒットなり、ダースベイダーの中身として世界中にその名を知られるようになったデヴィッド・プラウズだが、その後の「エピソード5」、「エピソード6」の仕事で彼は大きな屈辱を味わうことになる。

「帝国の逆襲」のクライマックスの「私はおまえの父親だ。」という衝撃の名台詞は、実は撮影当時はまるで違うセリフだった。
「オビ=ワンがおまえの父親を殺した。」だったという。 オリジナルとは真逆のセリフである。
本編で喋っているのはプラウズ本人ではないにせよ、プラウズはてっきりそう言ってるつもりで演技をしていた。
このセリフが変更されたのはプラウズ自身も知らず、映画館で鑑賞して初めて知ったという。
もちろん作品の最も重要な部分だけに、徹底した秘密主義を貫いたジョージ・ルーカスの他にセリフ変更を知っていたのは監督のアービン・カーシュナー、ルーク役のマーク・ハミル、吹き替えのジョーンズだけ。

「ジェダイの帰還」においても、最後まで確かにプラウズはダースベイダーを演じたが、マスクが取り外されてアナキンの素顔が現れるシーンまでは演じさせてもらえなかった。 これも誰もがご存じの通り、「男は神に非ず」のセバスチャン・ショウが演じている。
これも撮影ギリギリまでプラウズは知らされておらず、「これではまるでスタントマンだ。」とプラウズは憤慨した。

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デヴィッド・プラウズ本人にも「俺だって役者だぜ。」という自負がある。
若い頃からほとんど素顔を見せることのない役者人生だったといっても、この部外者扱いはあまりに屈辱だった。
「ジェダイの帰還」の撮影終了直後、プラウズが記者に本編の情報を喋ってしまったことにルーカスがブチ切れ、ルーカス・フィルム公認のスター・ウォーズ関連イベントには出禁をくらっている。 のちのち誤解だと判明はするが、プラウズとルーカス・フィルムの絶縁状態は今もなお続いている。

このドキュメンタリーの監督であるマルコス・カボタはプラウズ本人にインタビューしながら、ある提案を持ちかける。
「もう一度ダースベイダーを演じてみませんか?」
他の俳優に奪われたあのシーンをプラウズが演じては?と言う。
わずか数分程度の映像とはいえ、ルーカス・フィルムからはNGが出てるので公式上映はできないプライベートフィルムになるが。
伝説の俳優の失われた時間が甦る。
「エピソード6:デヴィッド・プラウズの帰還」・・・・・・・

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いかんいかん。 内容のほんのさわりを大ざっぱに説明しようとしても、スター・ウォーズ・ネタはやっぱり変なテンションになってしまう。
62本中、わずか12本観ただけとはいえ、今年の「未体験ゾーンの映画たち」の中では一番良かった作品だね。
確かにさ、「スター・ウォーズ」にまつわるトリビアみたいなのが載ってるサイトをあちこち漁ったら知ることのできる話であって、目新しいほどではないよ。

でも、個人的には動いて喋ってるデヴィッド・プラウズを見るのはこれが初めてで、やはり本人の口から胸の中を吐きだしてくれている言葉は何かと刺さるものがあるし、一言では言えない感慨深さがあるよね。
自分自身がこのキャラクターだからこそ自分にできることを理解して誇りに思っているところが素晴らしくて、イギリスの交通安全キャンペーンのTV公報スポットで演じたヒーロー、【グリーン・クロスマン】のエピソードは微笑ましい。
「子供たち、縁石の後ろに立つんだぞ。」
大人気を博したグリーン・クロスマンの広報活動で交通事故が4万人から2万人に半減!
女王様から勲章まで贈られている。

ルーカス・フィルム側の主張はほとんど語られず、一方的とまでは言わずともプラウズ側の恨みつらみ節だけになってしまってるようにも見えなくはないが、それにしたってルーカス・フィルムの器量の狭さはね・・・。
なんにせよ、この歴史的名作の裏話のあれこれだけでも妙に興奮してしまう。 いやあ観て良かったな。


企画が続いていればの話ですが、それではまた来年のこの時期にお耳にかかりましょう。
最後にこの曲を聴きながらお別れです。
ご陽気に締めくくりましょう。
エルトン・ジョンで「サン・オブ・ユア・ファーザー」。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


「賢人のお言葉」
 
「ショックはいいことですよ、先生・・・今後いろいろ起こっても腹が据わるから。」
 チャールズ・M・シュルツ
 (『スヌーピー』より マーシーのセリフ)

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未体験ゾーンの映画たち2017 PART1
2017年03月16日

e624ba6e9fc1215123698a6d0a6f5465_20170205222229f91.jpg今年で6回目を数えるテアトルシネマグループの名物企画。
年々ラインナップの数が増えてまして、今年は63本(一本上映中止になってしまいましたが)。
毎年全作制覇される方がいらっしゃるらしいですが、今年の62本を全部さらい倒したらこれはマジで凄い。
ひれ伏しますねえ。

プログラムに記された簡単な紹介を見てますと、「おっ、これ面白そう」っていうのが少ないなあ。
「またそういうパターンの奴?」みたいなのが、やたらにありますねえ。
それになんで「チアーズ!」がラインナップに入ってんの? 未公開じゃないのにね。 そんなにリバイバルを求める声があったんでしょうか?

ともかくも、何をチョイスして観ようかと例年悩みますが、今年は12本の作品を選びました。
「PART1」と「PART2」に分けて6作品ずつを例によってラジオ番組スタイルで。


真夜中のラジオから聞こえる謎のDJの声・・・

皆さん、こんばんわ。
謎のDJがお送りする『未体験ゾーンへの招待』の時間です。
今宵も素敵な音楽と、イロモノ映画の話題をお届け。
リスナーの皆様からのお便りもお待ちしております。

それではさっそく参りましょう。
今夜最初に紹介するメールは、岡山県からいただきました。
小学生の男の子ですね。 ラジオネーム「てんてこまい」君です。

「DJさん、こんばんわ。 いつも聴かせてもらっています。 僕のお兄ちゃんはエロDVDを押し入れに隠しています。 この前、偶然に発見してしまいました。 イヤなものを見てしまった気分です。 お父さんやお母さんに言うべきでしょうか?」

本心で言うとるんか君は。
そんなこと御両親にチクるもんじゃない。
君ももう少ししたら、そういうのにアホほど興味を持つし、お兄ちゃんと同じ道を辿るのだよ。
世界の男子共通の生態だからね。
むしろ、お兄さんの方に相談しなさい。 僕にも見せてくれと。 いいね?
そんな君にはこの映画だ。  といっても、あんまり面白い映画ではないが。

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「FOUND ファウンド」

いじめられっ子でホラー好きな少年のマーティは兄のスティーヴの秘密を知っている。
クローゼットの中に生首を隠しているのだ。
数日おきに生首の人物が変わるが、大抵は黒人の女性のようだ。
マーティはたまにこっそり兄の部屋に入っては、クローゼットの中のボウリング用のボールバッグに収まった生首を眺める。
ある日、マーティはいつものようにバッグを覗くと、いじめっ子のマーカスの生首が入っていた。
自分が生首のことを知っているのを兄に悟られたかもしれない。
今度は自分の番だろうかと慄くマーティに兄は・・・・
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話の取っ掛かりには興味をそそられるけど、後半からバタバタしだして、いかにもB級スリラー。
「ヘッドレス」という劇中映画が出てくるんだけど、そっちのグロさはなかなかの物なのに、肝心の本筋の方は見せるべきモノを伏せるという妙な演出になっていて、全体的にスカスカな内容になっている。
なんとか低予算でも工夫していいモノ作ろうという苦労は伝わってくるけどね。

そんじゃあここで一曲お聴きください。
アヴィーチーで「ヘイ・ブラザー」。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


それでは次のメールです。
こちらは栃木県にお住まいの会社員の方。
ラジオネーム「コレがアレしてソレなもんで」さんです。

「いつも聞かせてもらっています。 つい最近、映画「アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男」を観ましたが非常に面白かったです。 ナチスの残党は今もどこかにいるんでしょうか? ヒトラーなんかは本当は自殺しておらず、南米に逃亡してたのではないかという都市伝説もありますけど。」

元ゲシュタポ局長のハインリッヒ・ミュラーは逮捕されないまま、その生死も未だ不明ですけどね。
まあ年齢的に多分生きてないでしょうが。
ヒトラーの真偽はともかくも、逃げおおせたまま罪も償わずに勝手に死んだ戦犯には釈然とはしませんがね。
そういえば、こんな映画を最近観ましたよ。

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「ヒトラー 最後の代理人」

アウシュヴィッツ強制収容所の所長で、後に逮捕され、ポーランドで死刑に処されたルドルフ・フェルディナンド・ヘスの手記を基にした歴史ドラマ。
ポーランドの刑務所で裁判にかけられるのを待つヘスの元を訪れた若き判事アルバートが彼の取り調べを始める。
やがてヘスの口から収容所での怖ろしい出来事が語られる・・・・

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それまで収容所で使用されていた虐殺法は一酸化炭素だったけど、実験によってツィクロンBという殺虫剤を使用するのを進言したのがこの男。
彼の手による虐殺の数は100万人とも言われているんだけど。
この虐殺者の口からどれほどのおぞましい内容の裏話が飛び出すものやらと構えてたが、少々肩すかし。
その程度の話?
それならまだ「アイヒマン・ショー  歴史を映した男たち」という映画でアドルフ・アイヒマンが語った証言の方が全然ショッキングでしたね。
アイヒマンもそうだったが、「命令が正しいものだと信じ、我々はそれにただ従っていただけだ」という自己弁護などはもう聞き飽きた。
ほぼ全編が会話劇だというのは気にならないけれど、内容はまるで薄いね。

それでは曲をおかけしましょう。
セックス・ピストルズで「ベルゼンの毒ガス室PART1」。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

では次のお便りに参りましょう。
秋田県にお住まいのラジオネーム「コングキング」さん、学生の方ですね。

「町のあらゆる所に防犯カメラが設置されるようになりましたよね。 最初はプライバシーを心配する声もありましたが、やっぱり犯罪捜査への貢献度と言うか、その効果はテキメンだと思います。 昔の未解決事件だって、当時防犯カメラさえあれば・・・というのもありますよね。」

おっしゃる通り。 個人的な意見としてはもっと増やすべきと思うね。
「カメラがありますよ」という状況を見せてるだけでも抑止効果があるでしょう。
とは言うものの、これを悪用する輩はやっぱりいるんでね。
このあたりの対策はどうしてるのかも気になりますが・・・ということを考えさせられるのがこの映画。

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「アブノーマル・ウォッチャー」

新婚夫婦のライアンとクレアは、ある郊外の一軒家に引っ越してきた。
クレアは妊娠中。 夫のライアンは不倫中。 そんなチュウチュウな二人の新居での暮らしは実は無数の監視カメラによって筒抜けだった。
この家を貸している大家が玄関、リビング、キッチン、プールから浴室、さらにはトイレの便器の中にまでカメラを仕掛けていたのだ。
夫婦のプライバシー映像を「ハァハァ」言いながら観ている、変態中年男のサイコ趣味はどんどんエスカレートしていく。
やがて、カメラの存在を夫婦に気づかれた変態男は怖ろしい行動に出る・・・・
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男の名はジェラルドと言いまして、このキャラクターが凄いよね。
口を半開きにしながら荒い息づかいでモニターを凝視している姿も不気味なんですが、こいつがまたアンバランスなマッチョなんだよな。
特に、肩のあたりの三角筋というんですか、この筋肉がやたらにモコモコッと盛り上がってるんですよ。
「北斗の拳」に出てくるウイグル獄長ですよ。 「あ~?聞こえんなあ。」のオッサンね。
必殺技「蒙古覇極道」を思い出さずにはいられませんな。
足を引きずり気味に歩き、汚物の様な体臭を漂わせ、セリフのほとんどが唸り声。
この突き抜けたキャラの存在がこの映画をバッチリ仕上げてるよ。
ラストがまた救い難いんだな、これが。

それでは曲をお聞きください。
ポリスで「見つめていたい」。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

お次はこちら。
鹿児島県からいただきました、会社員の方ですね。
ラジオネーム「泣きのもう一回」さんです。

「少し前、カナダのケベックで銃乱射事件がありましたが、こういうのには本当にゾッとします。 比較的治安がいいと言われていたカナダでも銃規制が緩ければコレですもんね。 日本での暮らしのありがたみを痛感しますが、それでも将来は我が国でもこんなことが起こりうるんでしょうか?」

日本でも銃乱射がない訳じゃないんですがね。 佐世保の事件とかありましたし。
こういう事件が起きた時、映画館に入るといつも思うのよね。
たくさんの人が集まった空間で、しかも出入り口が限られてるというこの状況。
「今、銃持った奴がここに入ってきたらアウトだな。」 と、いちいち憂いてもしょうがないんだけど。
「灼熱の魂」、「プリズナーズ」などのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の2009年の未公開作を御紹介しましょう。
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「静かなる叫び」

実はカナダでは1989年にも悲惨な銃乱射事件が起きている。
モントリオール理工科大学で、14人もの女子学生が死亡した銃乱射事件である。
全編モノクロで描かれる77分の本作は、この実際に起きた惨劇を基にした衝撃作で、カナダのアカデミー賞である「ジニー賞」で作品賞ほか9部門を受賞している。

モントリオール理工科大学に通う女子学生ヴァレリーとその友人である男子学生のジャン=フランソワは、その日もいつも通りの日常を送っていた。
ところが大学構内にライフルを持った一人の学生が現れ、女子学生を標的にして次々と発砲する。
突然の地獄絵図と化した大学。 14人もの女子学生が殺害され、犯人は自殺。
パニックになりながらも救助活動を行ったジャン=フランソワや、奇跡的にも生き延びたヴァレリーらを、心に残された深い傷が苦しめる・・・・
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まだドゥニ・ヴィルヌーヴがメジャーじゃなかった頃の映画とはいえ、未公開というのが不思議だね。
ジニー賞受賞したって箔がつかんのだろうか。
それはともかく、銃撃のシーンの怖さ・・・。
犯人の男の目つきや、淡々とライフルを撃ちまくっていく姿もしかり、教室に入って男子だけを退室させて女子を残すシーン、リアルタイムで事件を知らない学生がいる場所に犯人がフラリと入ってくるシーンなど、怖いシーンの波状攻撃。
フェミニストに凄まじい憎悪を抱いてる犯人の詳しい背景がハッキリしないという点は、実際の事件でもそうなので推測に頼った説明はしていないね。
一説にはゴリゴリの反フェミニストだった父親に虐待されながら、女性憎しの教育をされた影響と言われてるんだけれども、余計な説明は足さないのが正解。 これだけで十分怖い。
生存者のトラウマのドラマがやや薄いけれども、そこはこっちのインスピレーションに委ねられる。
「女性」・・・、それだけの理由。 それで殺される。 女性じゃないから生かされる。 何というこの理不尽。
突然の非日常に襲われた経験は想像以上に人間の心をも殺してしまうのよなあ・・・。

それじゃあ一曲おかけしましょう。
フォスター・ザ・ピープルで「パンプト・アップ・キックス」。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

どんどん参りましょう。
お次の方は、和歌山県の主婦の方からいただきました。
ラジオネーム「ダンナ帰ってきたらシバいたる」さんです。
・・・えっ? なんかあったの? まあいいか。

「昔のドッキリ番組は一般人の方にも仕掛けてましたが、最近は芸能人をダマす内容の方が圧倒的に多いですよね。 やっぱり人権問題とかあったり、トラブルも多いからなんでしょうか。 『元祖どっきりカメラ』を大笑いしながら観てた頃が懐かしいです。」

今じゃ考えられないことやってましたもんね、あの番組は。
池に落とすんですよ、一般の人を。 いやあ、アッシだったらキレるなぁ。
まあ多分、ヤラセと言うか、仕込みの役者も混じってたかもしれませんけどね。
一般人よりは芸能人の方がリアクションが面白いのは確かだし、万が一訴訟でも起こされたらかなわんからね。
それにしても最近のドッキリは、やたらに手が込んでるよね。・・・と言えばこの映画。
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「スケア・キャンペーン」

人気テレビ番組「スケア・キャンペーン」。 一般の人をターゲットにして、ニセの心霊現象などで恐がらせて、その様子を映した隠しカメラの映像を楽しむドッキリ番組である。
しかし最近では動画サイトを見れば、テレビ番組よりも遥かに面白い過激な映像も多く、番組の人気も下降気味。
そこで監督はさらに手の込んだ大掛かりなドッキリを仕掛けることに。
廃墟の病院でいざ本番スタート。
何も知らない一般人の男が一人現れる。
どことなく様子がおかしいと思いきや、実はその男は病的な殺人鬼であり、一人また一人とスタッフたちが惨殺されていく中、仕掛け人の女性キャストのエマは必死に逃げるのだが・・・・

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実は殺人鬼のオッサンが、ドッキリをかけられたきっかけで"覚醒"して暴走し始める。
これはえらいこっちゃ、シャレにならんぞという地獄絵図へと発展・・・と思いきや、これまた話が二転三転。
主人公はもちろん、これを観る観客にとっても「ドッキリ」になっている趣向。
ドッキリの逆ドッキリときて、クライマックスはそれまでのものを全部ぶっ壊してしまう救い難さ。
う~ん、これはね。 なかなか面白いと言いたいところなんだけど、途中からおもいっきりネタバレしちゃってんのよね。
あの女の子がタブレットでメールしてるシーンだけど。 わざと、あんなシーン入れたんかね?

ここで懐かしい曲かけちゃおうかね。
スージー・クアトロで「恋はドッキリ」。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

最後のお便りです。
ラジオネーム「シン・モスラ」さん。
福井県の自営業の方です。

「いつも聴かせていただいております。 先日、友人のホームパーティーに呼ばれてまいりました。 てっきり全員顔見知りが集まると思っていたら、知らない人も混じっておりました。 招待主しか付き合いのない友人だそうで、他の招待客は誰もその人を知りません。 まあ招待する側が誰を呼ぼうと自由ですが、これは少々気まずい思いをしました。 どう思われます? 私の方がもっとオープンになった方がいいのでしょうか。」

ホームパーティーなんか呼ばれたこともないけれど、よく聞く話だね。
アッシは会社の同僚の結婚式の際に、その同僚の学生時代の友人とトイレで鉢合わせして「ああ、どうも・・・」みたいな感じになったけど。
その時はお嫁さんの話でその場がうまくいったけど、ホームパーティーではなぁ。
まあ気まずい思いは相手も同じだけれど、同じ場所に呼ばれてる以上は共通の話題はあると思うけど。 なかなか難しいよね。
それにしても招待客の誰も知らん友人を呼ぶかね?
それにはちょっと用心した方がいいよというのがこの映画だ。

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「インビテーション」

かつて夫婦だったウィルとイーデンは、ある事故が原因で2年前に別れているのだが、ウィルは未だに心の傷から立ち直れていない。
そんなウィルの元にイーデンからパーティーへの招待状が届く。
ウィルは気が進まないながらも新しい恋人のキーラと共にパーティーに出席する。
出迎えたイーデンにもデヴィッドという新しいパートナーがいるのだが、イーデンは2年前とは見違えるほど陽気なのがウィルには釈然としない。
気心の知れた仲間たちが続々と集まるが、中にはイーデンとデヴィッドしか知らない2人の男女も混じっていて、奇妙な違和感がある。
やけにハイテンションなイーデンと友人たちとの会話が妙に上滑りし、どこかぎこちない。
執拗に玄関を内から施錠しようとするデヴィッド。 あと一人だけ遅れている友人もなぜかなかなか来ない。
デヴィッドが急に宗教の勧誘ビデオの様なモノを見せて熱く語り出し、変な空気になったりする。
やがて、このパーティーは何かがおかしいと感じるウィルさえも予想だにしなかった異様な展開を迎えることに・・・・

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元夫婦が別れる原因になったある事故とはなんなのかということと、元夫は立ち直ってないのに、元嫁は立ち直ったどころかやけに陽気なのはなぜか。
冒頭で、ウィルがパーティーに車で向かう途中、誤って一匹のコヨーテをはねてしまうんだけど、瀕死のコヨーテを楽にしてやろうとトドメを刺すシーンがちょっとした伏線になってるのよね。
もはや生きる力もない地獄に留まるよりは、せめてすぐにでも死を選んだ方が天国ではないかという、苦しみからの解放・・・・・
まったく展開が読めない先に、そういうことかと震撼するオチが待っております。
余計なお世話ですなあ、という話。
これはなかなか巧い映画ですね。

では最後にこの曲を聴きながらお別れしましょう。
クルーウェラで「パーティー・モンスター」。
See You Again~

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

「PART2」に続く・・・


「賢人のお言葉」
 
「人生には予期せぬ落とし穴がついて回る。」
 土光敏夫

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愚行録
2017年03月12日

36b7051c12019d75.jpgどちらさんですか?
えっ、取材? なに?雑誌の方?
今、ブログを書いてて、ちょっと忙しいんやけど。
う~ん、まあ少しぐらいなら。
じゃあ、どうぞ上がって下さいな。
すんませんな、散らかってて。
どうぞ、そちらにお掛けになって。 今、お茶を入れますんで。

『愚行録』? 今やってる映画の? もちろん観ましたけど。
あらすじと感想? アッシが説明するの? それ今、ブログで書くところやったのよ。


ミステリー小説、よく読むけど、貫井徳郎って作家は侮れんよね。
正直、傑作ばかりって訳じゃなくて、当たり外れの差が激しい作家ではあるけどね。
でも時々、傑作をブッ込んでくる人やね。
昨年末に読んだ「壁の男」も面白かったなあ。

でもやっぱり貫井徳郎といえば『乱反射』でしょうよ。
これは衝撃の一冊。 めちゃくちゃ面白い。
未読の方にはぜひお薦めしたいね。

『愚行録』は、その『乱反射』と並ぶ代表作やね。
これも随分前に読んだけど、半分ぐらい内容は忘れたなあ。
一家惨殺事件の被害者の複数の関係者が、取材を受けて答える形の口語文体で綴られている小説だったかね。
「イヤ~な気分になるミステリー」、いわゆる「イヤミス」ってジャンルの小説では傑作って言われとるね。

これが映画化されるとはなあ。
石川慶という監督はよく知らん。 ポーランドで修行なさった? ほぉ、ポーランドとはのぉ。
まあ、何にしてもあの原作をよく映画化したもんだなと思うよ。

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週刊誌の記者・田中(妻夫木聡)の妹、光子(満島ひかり)がね、育児放棄の疑いで逮捕されたのよ。
3歳の娘は衰弱してて、今も意識不明。 助かっても脳に障害が残るかもしれないって言われとる。
シングルマザーの彼女は、まったく悪びれてない。

「だって、急に子供持ったって、育て方が分かんないんだからさあ、しょうがないじゃん。」
彼女、ちょっと様子が変やね。 だから精神鑑定ってことになるんやろうけど、けっこう深い闇を持っとるよ、この子。

彼女の話をじっと聞く兄貴の田中はリアクションが薄い。
怒るでもなく、励ますでもなく。
まあ妹がこんなんになってもうたから、しょうがないかもしれんけど。

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冒頭で、バスに乗ってる田中がさあ、一人のおじさんから「あんた、座ってないで席を譲ってやんなさいよ」と言われて老婆に席を譲るねん。
そして彼は立ち上がるんやけど、片足を引きずって歩き、バスの通路で転倒したりしながらも、次のバス停で下車する。
片足をかばいながら歩く彼がチラリとバスを見やると、説教を垂れたおじさんはバツの悪そうな顔をしてる。
なんか、いや~な光景やろ?
でも、この男。 バスが走り去ったら、普通にスタスタと歩き出しよるねん。 『ユージュアル・サスぺクツ』みたいやね。

公衆の前でええかっこをしたいがために、道徳観を押しつけてきた相手に対して彼は陰湿な復讐でもって恥をかかせよったんやな。
この男もエグい闇を持っとるなあ。
相手の気持ちもおかまいなく、個人の観念で善悪を決めつけて振る舞うと思わぬ罠がある。 この物語はそういう話なんや。
出てくる人物は、みんな人の気持ちなど気にも留めずに、自分の価値観を押し通すイタ野郎ばっかりでね。
聞いてたらムカッ腹が立つで。 そんな映画やねん。


ルポライターの田中が追いかけてるのは、1年前に起きた一家3人惨殺事件。
田向(たこう)っていう家族なんやけど、ご主人と奥さんと、小さい娘さんの3人家族が夜、何者かによって台所にあった包丁でメッタ刺しにされて全員亡くなってる。 今も犯人は捕まってない。
田中はまずは、夫の田向浩樹と妻の友季恵の関係者に取材していくんやけど、ストーリーはフラッシュバックの映像を挿入しながら、田中と被取材者との会話劇が中心になってるねん。

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殺された田向浩樹(小出恵介)は稲田大学を卒業して、明地綜合開発っていうディベロッパー会社に就職して、営業職でかれこれ10年チョイのキャリアのところで事件に遭ったんやな。
8年前に旧姓・夏原友季恵と結婚して、娘の広恵ちゃんを授かった。
奥さんも名門の文應大出身のセレブですわ。
エリート同士の結婚で、傍目にも幸せそうな家庭やったんやけどね。

恨み? 買うといえば買うやろうね。
二股三股当たり前のソケット男やからね。
学生時代は女を選ぶのも就職先のコネを持っているかどうか。 お父さんが社長やってます、みたいな女しか付き合わへん。
自分の人生の肥やしのためなら利用できるもんは利用する男や。

「俺はいい人生を送りたい。 その時に隣りにいてくれる人を幸せにするためならどんな努力でもする。」・・・だと。 支離滅裂やろ?

社会人になっても、こいつにとって女は「一発やってみたい」レジャーなんやな。
遊びで抱いた女が本気になりだしたら、それはそれは汚いやり方でお払い箱にしてしまう。 そんな奴や。

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渡辺正人(眞島秀和)。 田向とは大学も会社も同期の関西人。
田向はね、若手社員時代に新人歓迎会で知り合った山本礼子と関係を持つんやけど、遊びのつもりやったのに本気になりだした相手が重くなって、それで同期の親友、渡辺に相談するねん。

渡辺も女を軽く扱う男でね。 元々山本礼子とやりてえなあって思ってたんやろうね。
そこで、恋人が全然会ってくれずに悩んでる山本礼子に接近する。 彼女の恋人が田向とは知らないってことを装ってな。
偶然会ったふりして、自分も恋人に振られて寂しいみたいなことをほざきながら、気持ちをすり合わせた彼女とチョメチョメしちゃうんやね。
で、後日。 女に向かって「おまえ、田向と付き合ってるってどういうことや。 俺とあいつが親友やって知ってるよな。」って因縁つけて、自分とも田向とも別れるように仕向ける。 えげつないわな。
 
面白い女遊びができたって田向と二人して笑っとる。
自分が何をしたかも分かっとらんのよな。
田中から名刺をもらったのを机に置いて、その上にデンとビールジョッキを置く、その神経みたいにな。

しかも「なんで、あんなええ奴が殺されなあかんのですかねえ。」って号泣し出すんやで。 冗談かと思うやろ?
そら、こいつには“ええ奴”なんやろね。
人を傷つけたことを武勇伝のように語る無神経な奴。 タチ悪いわな。

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田向の元カノ、稲村恵美(市川由衣)。
父親は会社の社長。
大学時代、山岳部の先輩だった田向と付き合ってたけど、田向の浮気で破局。
数年後、田向が就職のために、社長の娘というコネを持つ彼女を頼ってくるねん。
普通なら「帰って屁こいて寝え、ボケ、カス。」ってキレるでしょ、ちゃんとした女なら。

でもね、この彼女、二股かけられたことへの仕返しをしたい気分やったんやろな。
父親に口利きして欲しかったら私と付き合いなさい、と。
マジか!って思うやろ?
しかもやで。 彼女、ちゃんとカレシもおりますねん。 それを承知で復縁するんや。 女の復讐、必殺二股返しやね。

でもね、田向って男の方がうわて。
稲村恵美と付き合いながら、堀内早苗という女とも付き合い始めるの。 ご想像の通り、パパは偉い人。
こいつ、またやりやがったなと恵美田向と早苗を呼び出して、ドラマみたいな修羅場になる。
で、その時に田向が、いけしゃあしゃあと言い放ったのがさっきの言葉。
「俺はいい人生を送りたい。 その時に隣りにいてくれる人を、どんなことがあっても幸せにしてあげたい。 そのために今できる努力ならなだってするさ。」

いよいよここで「おまえ、イタいんか」ってキレてもおかしくないでしょ?
ところが彼女、そんな田向の堂々とした所に反対に感動してしまったんだと。
「やっぱり好きだったんです。 そういう人、今まで会ったこともなかったし、肯定してあげたくなったんです。 母性に似たような感情だったのかなあ・・・。」
勝手にさらせ。 そんなおまえにこっちも感動してまうわ。

もちろん田向とはそれっきりになり、違う人と結婚するんやけど、その抱いてる赤ちゃんの顔が田向に似てるのは気のせい?


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田向の奥さん、友季恵(松本若菜)。 なんかこう、品があるねえ。
娘ともども、事件に巻き込まれて気の毒に、って思うでしょ? 実はメインで殺されたのは彼女やねん。
ダンナと娘が巻き添えになったようなもの。
この女、笑えるぐらいエグいで。

彼女は文應大学の「外部生」なのよね。 分かるかな?外部生・内部生って。
高校や中学なんかの付属学校から進学した人を内部生。 それ以外の学校から受験で入ってきた人を「外部生」って言うんやけど、外部生は内部生から格下に見られてバカにされたりするんやて。
大学からすでに学歴差別が始まるんじゃのぉ。 人を記号化して、そんなに楽しいんかい。

まあそれよりも、この女ですわ。
美人。 住んでるところが良い。 お父さん、一流会社のサラリーマン。 人当たりがいい。
だもんで、外部生から内部生に見事"昇格"。
昇格って・・・。 スネカジリどもが他人を査定するとはチャンチャラおもろいのぉ。
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内部生たちとも大手を振って交流ができるようになった彼女は、どんどん取り巻きを作っていきますねん。
みんなが彼女に憧れてる。
「夏原さんみたいになりたいわ~」って憧れて近づいてくる女たちを従える女王様やね。
自分のまねごとをされるのは気分がええけど、自分より上の立場に立たれるのは嫌やねんな、この女は。
知性とか容姿とか私生活とか、なんか一つでも負けてるようなところを感じさせる女を許さんのです。
持ち前の"好感度"を武器にして近づいては、さりげなく相手をおとしめる。
生まれついてのものかどうかは分からんけど、そんないやらしさを持っている女なんですよ。

外部生と内部生の橋渡しみたいなポジションにもいたから、自分みたいになりたい外部生の女を内部生にあてがってやることもしてましたな。
美人局みたい? いや、みたいじゃなくて美人局ですわ。
そんで、内部生に遊ばれた女は結局仲間外れにされる。 友季恵にはそれが狙い。
恐い女でしょう?

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友季恵の同級生の宮村淳子(臼田あさ美)。
帰国子女ですねん。 現在はハーブ専門のカフェを経営してます。

彼女は「外部生」。
とは言うても、大学内の外部だの内部だのとかいう差別みたいなものには一歩引いて見ているスタンスを取ってた子やねん。 それが普通やで。
でも、そういうところも夏原友季恵には気にくわんねんなあ。
自分になびかん女をキャンといわさな腹が収まらん。 そんな女に目をつけられたら厄介ですわ。

淳子にはラクロス部の尾形っていうカレシがいてましてね。
食事会の席で、友季恵が甲斐甲斐しい女のキャラで尾形にアピールしますねん。 淳子の見てる前で。
で、淳子が嫉妬する。 尾形とプチモメする。
そこへ友季恵尾形に近づく。 「恋人なら、もう少し尾形さんのこと褒めてあげてもいいのにね。」
尾形君、ズッキューンですよ。
カレシが友季恵と密会してると知った淳子は内部生たちのパーティーに乗り込んでいって、友季恵の顔面をパーン!ですわ。 修羅場のシュラシュシュシュでんな。
バレるのも最初っから友季恵の計算の内ですわ。 嫉妬してジタバタした方が負け。
寝取った女の方が勝ちってところを思い知らせることができる。 淳子さん、ご愁傷様。

「ああいう死に方って、夏原さんらしいなあって思ったんですよ。」
彼女が犯人かもって思ったでしょ? 違いまんねんな。
その後、淳子から「夏原さんに人生を壊された人を知っている。」って電話をもらった田中が再び取材に向かいますねんけど・・・・・

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宮村淳子の元カレ、尾形孝之(中村倫也)。
学生時代はシュッとした好青年ってキャラでしたけど、妙にみすぼらしいオッサンになってしもうたなあ。 現在は一児のパパですが。
ふと思ったけど、ラクロスやる男って・・・。 いや、これは失礼。偏見ですな。
ラクロスはむしろ男のスポーツ。 慶應とかが強いんでしたっけな。

宮村淳子とは変な形で別れてしもうたけど、うまいこと夏原友季恵に転がされましたな。
「女って、基本自分の話を聞いてもらいたがるじゃないですか。 でも夏原さんって、こっちの話をきちんと聞いてくれるんですよ。」
めでたいのぉ。 女性に話を聞いてもらいたがる男ってたまにおるのぉ。 友季恵はそこに目をつけたんじゃ。
そんな男の気持ちをヒネるぐらい友季恵にはワケもないわ。

淳子が嫉妬して、友季恵と張り合う気満々やったと述懐。
そんなこたあ、どうでもええねん。
つき合ってた女を裏切ってまで乗り換えた女に、たった1ヶ月であっさりフラれたおまえの気持はどうやねんちゅう話ですよ。
それでもこのヒョウロクダマは遠い目をしながら美しい思い出のように友季恵を絶賛しよる。
おまえみたいなもんがおるから、人の心をもてあそぶ輩と、それに泣かされる者があとを絶たんのじゃ。

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さすがのイヤミス・ワールド全開。
冒頭からラストまで、いや~な気分にさせられて、そのまま映画館をあとにするっていう救いがたい話ですねん。
終始陰鬱なトーンの映像に加えて、中盤まではBGMが流れへんしね。
役者さんに要求する一瞬の暗い表情をうまいタイミングで抜くんですよ。
インタビューで人が他人のことをとやかく話しながらも、それによって自分の本性までペラペラと喋っている浅慮な愚者のオンパレード。
けったくその悪い物語ですけど、引きこまれますねえ。

妻夫木聡なんかね、セリフがないも同然ですよ。
それでもね、得体の知れん「業」を小出しにしながら田中という人物の息苦しい心の感触を投げつけてきよりますねん。 うまいですわなあ。
「世の中は平等にできてるなんて、一度も思ったことありませんけど、誰だって希望ぐらい持ったっていいいじゃないですか。 その希望さえも打ち砕く、悪魔みたいな生き物が、この世にはいるんです。」

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人それぞれ価値観って違うでしょ。 良い悪いの判断はひとまず置いといてね。
その価値観の摩擦は避けられん。 それが世の中っちゅうもんでしょ。
でも中にはね、人を一方的に傷つけてしまう摩擦もある訳ですよ。
傷つけた側は悪いとは思ってない。 その人の価値観やから。
そもそも、他人の気持ちに対して、のめり込むほどに考えを巡らしてる人間はおりまへん。
非があることに気がつかずに人を泣かしてしまうこともある。 気づいてても、その先は考えへん。
相手の傷の深さに鈍感なのは人間としてしょうがないんですわ。
愚かといやあ愚かですわな。

  ●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○
冒頭のバスのシーンなんかは、屈折した固定観念が軋轢を生む意味として象徴的ですわな。
あれは田中が足が不自由なフリをしてましたけど、もしも・・・。 もしもやで。 本当に足の不自由な人が乗ってたっていうシチュエーションがあったらそれこそ目も当てられんでしょ。 ゾッとしますよ。

バスに乗ってたおじさんは、不品行な若者を人前でも堂々と叱ることができる性格で、それを自身が自慢に思っていて、周囲にひけらかした時の快感も知っている。
一人のお婆さんが立っているのに、若者が座席に座ってる。
ここぞとばかりにおじさんは注意する。 お婆さんのため半分、自身の優越感半分。
もちろん若者が足が不自由だなんて知る由もない。

一方、若者は言い訳するのも面倒だった。 どうせ周囲から「こいつ障害者をかたって恥ずかしくないんか」と思われるに決まっている。
何より、積極的に自分は障害者ですと言って、それを武器のようにするのも嫌だった。
なによりおじさんは自分のことを障害者だと知らないんだし、おじさんの言ってること自体は間違ってないのだからと彼は妥協した。
若者は足が不自由なのに立たされる。
おじさんは若者が障害者だと気づいて気まずい思いをする。
お婆さんも「やっぱり私、立ちますから。」とも言えない。 おじさんの善意もあるし。


誰も悪うないよ。 でも誰も無傷で済まない。
人は社会に置いての身の処し方というか、一種のポリシーを持って生きてるねん。
それが同じ環境で交錯した時に、なぜか結果は不幸な形になってしまう。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

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人の感情なんてのは、すれ違って当然やし、バスの中のこんなケースは可愛いもんです。
それでも個人の価値観というか、既成概念あるいは先入観というものが人を蔑んだり、妬んだり、もてあそんだり。
人生観を武器として前面に出して、プライドの保持や愉楽のためには人を虐げることも厭わない。 そんな浮世の鬼は世の中にゴマンと溢れとる。
自分の価値観の範囲内だから、悪気どころか何の抵抗もなく肯定し、傷ついた他人など「まあいいか」で終わらせて忘れられる。
そうやって積み重ねられた愚行は自分の首を絞めることになるんですわ。


ハイ? 結局、田向一家を殺した犯人は誰かって?
それはおたく、映画館で自腹切ってチェケラですよ。

妻夫木聡も素晴らしいのですが、それ以上に注目していただきたいのは育児放棄で逮捕された田中の妹・光子を演じる満島ひかりですよ。
なんか憑いてるような、神がかった演技してますよ。
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「あとで後悔するのは絶対に嫌だったし、将来幸せになるために今できることはなだってやんなきゃって、自分に言い聞かせてた。」

彼女が延々と一人語りをするシーンは圧巻ですね。
なんでこんな演技ができるのかと腰が抜けるぐらい驚愕しますよ。
「愛のむきだし」や「一命」や「悪人」など、病んでる役とか、薄幸な役がやたらに多い彼女やけど、ここでも次元をブッちぎったかのような満島ひかりが拝見できますねん。
凄いです。 常人では手の届かんところに行ってます。 でもたまには、ハッピーになれる役を演じる満島ひかりを見てみたいね。


もういいですか記者さん。
アッシの愚行ですかい?
そりゃ人に言えることから言えないことまで。
ちなみに? そうねえ・・・。

中学の時ね・・・いや言いませんよ。
長野の修学旅行の時ね・・・いやいや、言わんて。
帰りが片道の夜行列車でね・・・アカーン! これはアカン! 絶対言うたらアカン!
帰れ帰れ!アッシはブログ書くのに忙しいんじゃ!


「賢人のお言葉」
 
「分別よりも愚行の方が、とかく仲間や追随者を呼び寄せるものだ。」
 ミゲル・デ・セルバンテス 
(「ドン・キホーテ」)

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他にもこれ観ました  ~2月編(下)
2017年03月08日

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もう1週間以上経ってますが、第89回アカデミー賞はビックリしましたねえ。
あんなことが起こるんですねえ。

あのハプニングで初めて知りましたが、用心に備えて同じ封筒が2つ用意されていたとは。
用心がアダになったという、アホみたいな話。
それにしても素早い切り替えを見せた「ラ・ラ・ランド」のプロデューサー、ジョーダン・ホロヴィッツの対応もさすが。
「ムーンライト」の関係者に向かって「受賞したのは君たちだよ~!」

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プレゼンターがウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイの「俺たちに明日はない」のコンビだという感動も半減。
ベイティは「あれ?」と思ったらしいが、ダナウェイは読み上げてしまった。
 
いやいや、二人に非は無い。 なんにも悪くない。
二人に恥をかかせた「PwC」(アカデミー賞の投票集計をしている会社)がボンクラすぎるのだ。

プレゼンターといえば【美術賞】ではジェイミー・ドーナンとダコタ・ジョンソンの「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のコンビが登場。
おたくら、仲悪かったんじゃないの? そんなことなかったんならいいけどね。

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司会者のジミー・キンメルが「過大評価されてる女優」とトランプ大統領にディスられたメリル・ストリープをさっそくイジる。
「それを受けるには値しないけど、みなさん盛大な拍手を!」
この時のスタンディング・オベーションはちょっと感動。
 
で・・・ジミー・キンメルといえば、マット・デイモン。
「宿敵同士」という“設定”で昔からずーっとヤリあってる二人。
【脚本賞】のプレゼンターとしてベン・アフレックと一緒に壇上に上がったデイモン。 アフレックと交互に喋るのだが、デイモンが喋る時になると大音量でオーケストラが演奏し出すというイヤがらせ。
指揮者はキンメル。 場内バカ受け。
この日はキンメルに軍配。 っていうか、そろそろ飽きないのかね、お二人さん。

「ラ・ラ・ランド」が意外に部門数が伸びなかったとはいえ、最多6部門受賞。
作品賞をかっさらった「ムーンライト」も日本での公開が1ヶ月早く前倒し。 これも楽しみですねえ。



そして、これまたビックリしたのが、先日授賞式があった第40回日本アカデミー賞。
まさか「シン・ゴジラ」とは。 最優秀作品賞はじめ最多7部門受賞。
いいね、いいね! でもどういう風の吹きまわし?
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決まった瞬間、市川実日子が口をパッカーンと開けたまんま固まってたのが印象的でした。
長谷川博巳も「みなさん引いてる感じがしたんですけど、大丈夫ですか?」とコメント。
出演者でさえ、そんな風になるんだから、これは日本アカデミー賞にしたら画期的な結果。
ともかく、おめでとうごじらます。 いや、ございます。


アカデミー賞のことばっかり書きすぎましたな。
ちゃっちゃといきましょう。
本題、【他にもこれ観ました】です。

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「ナイスガイズ!」

ラッセル・クロウとライアン・ゴズリング共演のアクション・コメディー。
クロウはなんでも腕っ節でモメごとを片付けるDQNな示談屋ヒーリー。
ゴズリングは妻に先立たれて酒に溺れ、娘からは"一生幸せになれない男"と烙印を押されている探偵マーチ。
どっちもロクでもないこの二人が、ひょんなことからコンビを組み、図らずも自動車業界と政府との癒着という大ごとに首を突っ込んでドタバタやらかす話です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アメリアという女性から、探偵に付きまとわれてるのでなんとかしてちょうだいという依頼で、探偵のマーチをシメに行くヒーリー。
そのマーチは不可解な死を遂げたポルノ女優を調べるうちに、アメリアという女性の存在を突きとめて身辺を探っていたところだった。
そんな訳でヒーリーにボコられる。
その後、何者かに命を狙われたヒーリーは、アメリアという女に何か裏があると見て、急遽マーチを“相棒”に指名し、姿を消したアメリアを探すうちに、巨大な陰謀に巻き込まれていく・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
時代設定が1977年。
この当時の音楽やファッション、車などのポップカルチャーをはじめとした世相の再現が素晴しいですね。
ノワール的なサスペンスである本筋はまあまあなデキで、思ったほどコメディではないです。
それよりも、すっかり土俵入り目前の体形になり、「グラディエーター」時代と比べて見る影もなくなったラッセル・クロウ。
しかし観てるうちにこの劣化ぶりもなんだか可愛らしくなってくる。
ハ? 役作り? またまたぁ~。 減量した時にそう言いなさいよ。

ライアン・ゴズリングはなんでもできますねえ。 まあまあスッとぼけた役ですよ、これ。
この調子だと、まだ当分はライアン・レイノルズと間違われ続けるのでは。
70年代のロスに不思議とマッチしている、この二人のコンビネーションが実によろしい。
        

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「たかが世界の終わり」

アッシが2015年の洋画ベスト1に選んだ「Mommy/マミー」のグザヴィエ・ドラン監督の最新作ということで、観る前からワクワク。
しかし。 観終わって正直「この監督のクセがすごい!」と気分は千鳥の状態。
一筋縄ではいかんなあ、この人の映画は・・・。

ほぼワン・シチュエーションの物語。
都会で作家として成功している青年ルイが12年振りに実家に帰省してきます。
実はこの青年、もうすぐ死ぬらしいのですよ。
「なんで?」 さあ・・・なんででしょうかねえ。 そのあたりは語られません。 おそらくは不治の病でしょう。
帰省したのは、家族にそのことを伝えるため。
母、兄、妹、兄嫁らが迎えるのですが、ルイはなかなかそのことを打ち明けられず、取り留めのない会話ばかりが続きます。
浮足立ってる母親と妹。
終始不機嫌で何かと突っかかる兄。
口ベタな兄嫁。
ちなみにルイはゲイです。 これは家族も周知。

なんせ12年振りですから、兄嫁なんかはもちろん初対面。 妹の場合、ルイには幼い頃の彼女しか知らない訳で、どことなく微妙な空気が漂ってます。
なんと言っても、兄貴のゴキゲンななめ振りはどうしたものか。
「俺たちを巻き込むのはやめろ。」と、何も言うな何も知りたくないと暗に迫ってるような態度で、ルイに打ち明け話の機会を与えません。
ますます過去に一体何があったかを知りたくなりますが、この映画は一連の情報を観客に一切与えないまま終わってしまうのです。
多分にルイがゲイであることが過去も今も家族の中に尾を引いてるのでしょうが、そういった実情はこの映画には重要ではないようです。

お互い腹を割って話したいことは本当は山のようにあるのに、素直になれない不器用な家族が最後の最後まですれ違っていく、切ない不協和音の光景が描かれています。
色々とお騒がせして家を出て、12年も帰らんかったら、まあこういう感じになるのでしょう。
でもこれ正味の所、1時間半かけて語る内容じゃないです。 冗長さだけが目につきます。
主人公を演じたギャスパー・ウリエルはじめ、ヴァンサン・カッセル、マリオン・コティヤール、レア・セドゥ、ナタリー・バイという、濃密なキャストですが、これは正直もったいない。
あるシーンで「恋のマイアヒ」をブッ込んだのはさすが。
        

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「セル」

スティーヴン・キング原作の世紀末ホラー。
ジョン・キューザック、サミュエル・L・ジャクソンという、これもキング原作の映画化「1408号室」で顔を合わせた二人が再び共演。

携帯電話で会話をしていた人が突然暴徒化しだして世界はシッチャカメッチャカ。
いや暴徒ってもんではないですな。 これはゾンビです。
原作本が刊行される前、正式なタイトルがつけられる直前の仮題が「携帯ゾンビ」だったそうですし。
携帯から発せられる謎のパルスを聴くと、やたらに人を襲いたがるゾンビとなってしまうんですから、おっそろしい話です。
当然アッという間に世界中に広がって、まともな人間は少数。
主人公はたまたまバッテリーが切れていて難を逃れたのだけれど、妻子を探しながら道中いろんな人と出会ってサバイバル行脚するという物語。

一応ロードムービーになっているゾンビ映画ですが、過去のゾンビものと比較すれば全然パワー不足。
携帯依存社会への揶揄とか警鐘のような深みも無し。
なんじゃいな、これ?
冒頭の空港のシーンだけがテンションが上がりますけど、そのあとがダラダラしてます。

赤いフードをかぶった"張本人"の正体も目的も明かされませんが、まあそれはいいとして、観る人に答えを委ねるラストにしたのはいただけませんな。
        

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「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮」

世紀の天才レオナルド・ダ・ヴィンチの人物像に迫ったドキュメンタリー。
なんで今頃かというと、まもなく没後500年を迎えるからでしょう、多分。

いろんな作品について、描かれたことの背景などが、レオナルドゆかりの人たちを俳優が演じて語るという趣向。
ミラノを統治していた当主ルドヴィコ・スフォルツァ。 その愛人のガッレラーニ。
巨匠ラファエロ・サンツィオ。
レオナルドの弟子「サライ」ことジャン・ジャコモ・カプロッティなど。

作品の解説によって浮かび上がるダ・ヴィンチという人の特異な一面のあれこれが面白い。
色んなことに興味持ちすぎ! その分、飽きるのも早っ!
発想が先を行きすぎ! なんでもパイオニア!
ナレーションにもありますが、まさに生まれる時代が早すぎた人ですね。

昔は人物を描く時は真横か正面から描くのが通例だったのを、初めて斜めからの構図で描いたのがダ・ヴィンチなんだと。 ホントにぃ?
どこから見てもモデルの目線が合わない絵「ラ・ベル・フェロニエール」や「最後の晩餐」についての考察も面白かったですね。
でも個人的には、もっと「おおっ!」と言わされるようなネタを期待したんだけどなあ。
上映時間が82分。 つまらなくはなかったけど、お金を払って「世界・ふしぎ発見!」を観たような気分。
        

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「海は燃えている イタリア最南端の小さな島」

「ローマ環状線 めぐりゆく人生たち」のジャンフランコ・ロージ監督の最新ドキュメンタリー。
ロージ監督が今回選んだテーマはズバリ、「難民」。

イタリア半島の南、地中海に浮かぶシチリア島。その下にマルタ島。
さらにその下にあるのがランぺドゥーサ島。 イタリア最南端というより、ほとんどチュニジアに近いですけどね。
このランぺドゥーサ島は人口が約5500人。
この島にやってくる難民は年間5万人超。
キャパオーバーにもほどがある! それ以前に5万人という数の難民が出る状況が怖い。 なんなのそれ?
すぐ近くはリビアですし、無理もないのかもしれんけど。

そんなんだから、小さな島なのにでっかい無線施設があり、港には救助艇が停泊している。
冒頭から生々しい無線のやり取り。
「助けてください!」 「場所はどこですか?」 「助けてください!」 「何人が乗ってますか?」 「助けてください。 沈没しそうなんです!」 「落ち着いて。 現在地が分かりますか?」
ヘリコプターを出して救助活動へ・・・

多くの難民が押し寄せるので、この小さな島の住民たちは、さぞやてんてこまいなんだろうという内容のドキュメンタリーかと思うがさにあらず。
難民の乗った船の救助や、引き揚げられた人たちの様子などを捉える一方で、この島で暮らす人々の日常が淡々と映し出されています。
それはもうまったくの平穏。
12歳の少年サムエレ君は手作りのパチンコで友だちと一緒に鳥の巣を撃ってみたりしながら遊んでいる。
サムエレ君は左目が弱視と判明。 お医者さんの指導であえて右目を眼帯で塞いで、弱視の方の左目だけで見るようにして、弱ってる神経に活動を促すのだそうだ。
これは観客に対して、見ているようで見てなかった難民の現状を広い視野で見てほしいというメタファー。

ラジオにリクエストするおばさんとリクエスト曲を流す、島のDJさん。
そして、島のたった一人のお医者さん。
難民の妊婦さんのお腹をエコー検査で診ているパルトロというお医者さんの仕事の大半は難民の健康チェックや不幸にも命を落とした難民の死体を検視して死亡診断書を書くこと。
「こうした人々を救うのは、すべての人間の務めだ。」と医師は言う。

自分の国でさえも日常を送れなくなり、命がけで海を渡って亡くなる者もいる中、生き残って不安一杯な日々を過ごすことになる人たち。
片や、普通にベッドで寝起きして普通に美味しい食事をする、当たり前の日常を送る人。
この対比が強烈。
難民の問題は、どうやって受け入れましょうかとか、未だにその次元で考えててはいかんなと痛感します。
難民が生まれる根本を解決しなければ意味がありません。 なんとかならんのでしょうか。
「そこまで見せる?」とも思えるほど、ラストの地獄絵図は衝撃です。
平々凡々な毎日がどれだけ幸せなことか・・・。
        

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「素晴らしきかな、人生」

「プラダを着た悪魔」や「ワン チャンス」のデヴィッド・フランケル監督のもと、オールスターキャストが集結して描かれる一人の男の人生再生ストーリー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
広告代理店の経営者ハワードの成功の秘訣は「愛」と「時間」と「死」という3つの要素。
人は愛を求め、時間を惜しんで、死を恐れる。 ここにアイデアが生まれるのだという。
しかし3年後、6歳の娘を亡くしたハワードは別人のように変わり果てていた。
毎日泣きそうな顔をしてオフィスに来たら黙々とドミノを並べている。
CEOが完全に世捨て人状態となったせいで顧客は次々と離れて会社は倒産寸前。
運良く買収の話が来ても、筆頭株主のハワードはウンともスンとも言わない。
なんとかしなければと、ハワードの友人でもある3人の重役たちが一計を案じる。

ハワードはそれまで信じてきた「愛」と「時間」と「死」に裏切られたと憤り、3つの概念それぞれに怒りの手紙を出していた。 返事などもちろん来る訳ではないが。
これに目をつけた重役たちは3人の役者を雇い、「愛」と「時間」と「死」という役を演じてもらって、手紙の返事という設定でハワードに近づいて励ましてもらおうとするのだ。
これで立ち直ってくれればめっけもんだが、あくまでも彼に買収に応じさせるのが目的なのだが。

やがて「死」を名乗る老婆、「時間」を名乗る青年、「愛」を名乗る女性が次々とハワードの前に現れる。
果たしてハワードは娘を亡くした悲しみから立ち直れるのか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
予告編とか観ていたら、感動系のお話。 それもウィル・スミス、ヘレン・ミレン、ケイト・ウィンスレット、エドワード・ノートン、キーラ・ナイトレイ、マイケル・ペーニャというゴージャスなキャストともなれば期待が高まって当然。
しかしこの映画、アメリカではウンコちびるぐらい酷評されております。 おなじみのロッテントマトでは支持12%というゲロスベリ。 なぜに?
それに加えて今年のゴールデンラズベリー賞の「最低スクリーン・コンボ賞」にもノミネートされてるときたもんだ。
そういう情報も込みで観に行きました。 どこが気に入らんのん? それを確かめてやろうというスタンスで映画を観ることもあります。

・・・・・・で。
いい話ですよ。 ほぉ~っ、そう来ましたかってな仕掛けもありますしね。
人は確かに「愛」を渇望し、「時間」を惜しんで、「死」を恐れる。
だけど思うように愛に手が届かず、時間はいくらあっても足りず、死という恐怖と悲しみは回避できない。
それでもそれが当り前だと虚勢を張ったって、人生は面白くもなんともないぞ。
我慢は体に毒だ。 耐え続けてることから自分を解放する勇気を持って人生の一歩を踏み出せば、どんな試練も恐くはない。

・・・・・・と、いいように言ってみた後に手のひらを返すようで恐縮ですが。

確かにツッコミどころはあります。
これってコメディー? ちがいますよね? でもやってることはコントだよね。
会社の偉いさんを友人でもある側近が、ドッキリを使って失脚させるんですよ。
おまえのせいで会社が倒れたらかなわんわってことで、あまりにも手の込んだ方法でもって、CEOの心が病んでるように思わせ、筆頭株主の座から引きずり下ろすのです。
立ち直らせるのが目的でも、時間と金かけてまでこんなことする? つまりはテーマありきのムリからな設定がただただサブい。

ウィル・スミス演じるハワードは立ち直ってない訳じゃない。
会社に出てきてドミノ並べて遊んでるんだから、これはもう「かまってちゃん」以外何者でもない。
娘のことを語りたがらない部分の引っ張り方も不自然に長いですね。
娘の死は受け入れられないのに、死期の迫った同僚のサイモンにはまるで受け入れろと言わんばかり。 この人やっぱり早い時期から立ち直ってたのねと確信。

色々と細かいことを気にせずにスルーしときゃ、素晴らしきかな、この映画なんですけど。
あっ、そうそう。 この邦題もダメ。 「哉」を「かな」にしておこうという厭らしさがムリ。

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エリザのために
2017年03月05日

T0021544p.jpg 親というものは我が子のためなら火の中・水の中・VXガスの中。
我が子により良い人生を送らせてやるためには、いつだってその身を削る覚悟はできている。

その“より良い人生”のためのターニングポイントが「受験」だ。 それがすべてではないと言いたいが、渦中の親子にとっては人生を左右する重大事。
だが実際、親は何もできない。 こればっかりは子供を信じるしかない。

しかし、もし・・・。
受験を控えた大事な時期に、子供に不測の事態が起きた時・・・。
とても受験どころではない状態でも受験は待ってくれない。
そんな窮地を今こそ親として救ってやりたいのが人情。
手立てはある。 それがたとえ法に背くことであっても我が子のためなら・・・

それは親としての愛情であり、正直者がバカを見る社会を生き抜くための賢明な個人努力なのか。
それとも、被害者ヅラをしながら独善的に振る舞う、背信行為なのか。


「4ヶ月、3週と2日」、「汚れなき祈り」に続いて、またしてもカンヌ国際映画祭で話題をさらったルーマニアのクリスティアン・ムンジウ監督の最新作。
卒業試験に娘を合格させるために、違法なコネとツテを使い、奔走する親の姿を描いた、人の心のリアリズムである。

舞台はルーマニアのクルージュという街。 博物館や大学の多い学術都市である。
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主人公はロメオ・アルデア(アドリアン・ティティエニ)。
警察病院の外科医。
マグダと高校生の娘エリザ、そして心臓に持病を抱えている年老いた母と共に暮らしている。
妻との関係は冷え切っており、高校の英語教師サンドラと不倫中。
早い話が、このオヤジが娘のために一肌も二肌も脱いで脱いで脱ぎまくるのである。


最初に留意しておくべきは、ルーマニアという国の実情。
1989年のルーマニア革命が起きるまで、実に24年にもわたってチャウシェスクの独裁国家だったルーマニア。
なんせ大統領が夫婦揃って国家予算を財布代わりにしてきたのである。
国民は腹をすかせてるのに、国を私物化した独裁者は贅沢三昧。
庶民がまともに暮らせる国ではなかった。

娘が生まれる前のロメオは夫婦揃って国外へ逃げていた。
革命によって独裁政権が倒れ、91年に帰国したロメオ。 娘のエリザも生まれた。
我が子の世代のために、これからこの国を自分たちの世代で立て直していくのだと誓ったロメオだったが、現実は厳しいものだった。

誰もが自分のフトコロがうるおうことだけに躍起になり、元々それなりの地位にいた者はもちろん、有力者に群がる者たちとの間で、コネやらツテやら根回しやら裏工作やら便宜供与やら、うまくやったもん勝ちの腐敗が横行する世の中になっていた。
民主化がものの見事に悪い方向に出たのである。
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こんなハズではなかったとロメオはゲキ的にヘコんだ。
地道な努力をしても、報われるとは限らない。
陰でコソコソうまく立ちまわった者だけが得をする腐れ社会には何の希望も持てなかった。
せめて娘には自分たちの二の舞だけは踏ませたくなかった。

こんな国など出て行って、外国でいい大学を出て、ちゃんとした仕事に就いて、幸せになってほしかった。
そのためには父親として、できる限りのことはしてやろうという気概が彼を腐敗へと走らせる。
汚いやり口を嫌っていたはずの父親が娘を思うあまりに、あろうことか本末転倒なことになっていくという物語なのである。

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はじめに「受験」と書いたが、ロメオの娘エリザが直面しているのは高校の卒業試験。
実はロメオエリザをイギリスに国費留学させようと思っている。
それもケンブリッジ大学である。
ケンブリッジはなかなか難しいと思うが、外国人だと余計に狭き門だ。
いずれにしてもエリザが奨学生の資格を得られるかどうかは、高校の卒業試験の点数にかかっている。


卒業試験が翌日に迫ったその日の朝。
ロメオエリザを学校まで送り届けるために車を出す。
いつもは校門の前まで車をつけるのだが、その日に限って交差点の向かい側でエリザを降ろしたのだ。
校門まで遠く離れてる訳でもないが、さりとてすぐ近くという距離でもない。
ロメオにとってはこれから不倫相手の家に向かうには頃合いのいい場所だったのかもしれない。

ところがエリザは学校に向かう途中で暴漢に襲われてしまう。
大事に至ることはなかったが、彼女が病院に担ぎ込まれてる時、父親は愛人の家でゲスの真っ最中だった。

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連絡を受け、青くなって病院に駆け込めば、妻はすでに来ていて、今までどこにいたのか、なぜ車から途中で降ろしたのかと半ギレで聞いてくる。
道は思ったほど流れてなかったし、角を何度も曲がるより、その場所からなら歩いた方が早いと思ったんだよ・・・。

レイプなどされることなく、腕を捻挫した程度で済んだものの、エリザが心に受けたショックは相当なものだった。
見た目には言葉少なだが、あまり取り乱している感じではない。 努めて冷静でいようとしている風でもある。
もちろん明日が大事な日だと分かっているから、娘なりに平常心を取り戻そうとしているのかもしれない。

しかし帰宅して、夜も更けた時、エリザが寝ている部屋からすすり泣きが聞こえてきた。
娘がとても試験を受けるような精神状態でないことを悟ったロメオは目の前が真っ暗になった。
こんな大事な時に・・・。

そして試験の日。
ロメオは学校の中にまで入り、試験官に事情を話して直談判を試みる。
娘の試験だけ、なんとか延期できないか。 犯罪の被害者なんだから配慮してくれてもいいだろ。
もちろんそんな突然のムリなど効くはずもない。

試験官は、足を骨折しても試験を受けた者だっているんだと言う。
「ただのケガとは違うんだぞ。」
「そう言われても学校の責任ではない。」

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警察病院の外科医であるという仕事柄、ロメオ警察署長とは懇意の仲である。
署長の娘もエリザと同い年で、卒業試験を受けていた。

事件があった日に、捜査にあたってくれた署長は絶対に犯人を捕まえると意気込みながら、エリザが無事に試験に臨めるのかも心配してくれた。
その際にロメオ署長から、ある相談を持ちかけられる。
ブライという副市長が肝硬変を患っており、ドナーを探しているのだという。
適合の問題があるが基本は順番待ちである。
しかし、そこをなんとかならないかということだ。

ドナー登録は国が管理しているが、署長は厚生省にも友人がいて、すでに話はつけてあるという。
あとはロメオが手術の順番を早めてくれればいいだけのことだ。
その見返りとして、娘の試験のことなら副市長が手を打ってくれるらしい。
試験委員会の委員の奥さんが産休明けに市役所へ復帰する際に副市長が口利きをしたことがあるのだと。
その恩があるのだから、試験に融通を聞かせてくれるはずだと。 なんなら点数をチョチョイといじるのは造作もないこと。

ちなみにこの署長副市長に頼んで兵役を免除してもらった恩がある。
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試験の翌日。
再び警察署へ出向くと、署長は部下に命じて、なんとエリザ署長の娘の解答用紙を持って来させたのだ。
さすがは警察だ。 裏でも表でも回せる手が何本あるのやら。

エリザの国語は10点満点中8点。
試験は翌々日にもう一回数学の試験があって、平均で9点取らねばならない。
つまり、エリザは次の試験で満点を取らなければ奨学生として留学はできない。
今の精神状態の娘にパーフェクト解答など到底できるはずもない難題だ。
だが、副市長の手を借りれば・・・・・

亡命先から帰国した時、民主化に大いに期待して、自分たちの力で国を動かすのだという熱意はとうに消え失せて20年以上が経つ。
違法なコネやツテがまかり通る社会に失望していたはずのロメオは、自ら背徳者となる決心をする。
すべてはエリザのために・・・・・
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ブライ副市長に挨拶をしておこうと市役所を訪ねるロメオ
「副市長になって敵が増えたが友だちも必要だ。」と上機嫌な副市長は、肝臓が悪い癖に執務室で堂々とウイスキーの瓶を開ける。
「君もやるか?」  やるかじゃねえよ。
そう思いながら、ロメオブライ副市長に肝移植手術の説明などをする。
「何ごとも助け合いだよ。」
試験のことは委員会に話は行っているから安心していいと言う。

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その晩、当然ロメオは試験委員会の委員長シェルバンの家にも足を運ぶ。
パーティーの真っ最中で、人もたくさんいるのでタイミングが悪かったが、ロメオの気はそれだけ急いていた。
どうしても確約が欲しい。 具体的にどうするのか。

「ブライさんには恩義があるから。」という委員長だが、心なしか迷惑そうな感じが口ぶりにも出ている。
それはそうだろう。 試験という最も公正が求められる行事を仕切るポジションにいるんだから。 まったく葛藤がなかったらおかしいよな。
「1ページの最後の3行を横線で消す様に娘さんに言っておいてくれ。」
帰り際に委員長「もうここに来てはいけない。」と言った。

遂に不正に手を出してしまったとはいえ、ここまできたらロメオには自分を責めているヒマはなかった。
自分のポリシーよりも娘の将来の方が遥かに重いのだ。
帰宅して、エリザに試験の裏工作を説明する。
「ズルくなれと言ってるんじゃない。 この国で生きるには、しがらみを逆に利用することも大事だ。」

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ここまでくればロメオは止まらない。
警察で防犯カメラを見せてもらう。
エリザが背後から襲われ、コンテナの間に引きずり込まれる映像には、何人かの通行人がチラッとコンテナの間を見ているのに無視している姿が映っているのがロメオにはショックだった。
カップルがイチャついていると思われたのだろうか。

だが、その通行人の中にはエリザと交際しているマリウスという青年もいた。
こいつ、見て見ぬふりをしやがったか。
マリウスにそのことを問い詰める。 おまえは最低のクズ野郎だな。 二度と娘に近づくな。
マリウスも吹っかけられた変な言いがかりに激怒して、二人でちょっとした小競り合いになる。

ロメオには真相なんか二の次なのだ。
カレシだって留学のジャマになるし、別れさせることができれば御の字なのだが、マリウスから事情を聞いたエリザにキレられた上に、不倫のことについて母親と話し合え、さもなきゃ試験は休むと逆襲される。

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娘のことに猪突猛進になっていくロメオに対して、妻のマグダは冷ややかである。 むしろ考え方は真っ向から対立する。
我が子を一人で知らない国へ行かせる不安と、マグダ自身も孤独になっていく不安を抑えられない。
ロメオが不倫をしているのは夫婦間では承知のことで、とうに壊れてしまっている夫婦関係であるから、エリザがこの国から去るのはマグダには想像のつかない苦行なのだ。
何よりも、若き頃にこの国を変えてみせるんだと頼もしいことを言ってた夫が、娘に裏道を歩かせるようなことをすることに猛烈に反発を覚える。

「あの子はコネでうまくやっていけるような子じゃないから。」エリザがこの国で生きていく難しさを考えて留学を望むロメオ
「僕たちの二の舞にはさせない。 まともな国へ旅立つ手段だ。」
「どんな道でも通ることも大事よ。」
「娘のためなら僕は喜んで信念を捨てるよ。」
「私の娘でもあるのよ。」

夫婦の関係はもはや限界を超えており、やがてロメオは家を出ることになる。

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試験当日。 病院に出勤すると2人の検察官が来ていた。
入院中のブライ副市長を拘留するためである。
だが副市長は目下のところ面会謝絶なのだ。 代わってロメオが話を聞く。

どうやらブライの電話は傍受されていたらしい。
一体どこまでバレているのだろうか。
「捜査している案件は1件とは限りませんので。」
「そのうちお嬢さんにも話を聞くことになるかも。」と、言葉を濁される。

夕方、ロメオ委員長の家までスッ飛んでいった。
見つかったら大ごとだということなど頭にない。
委員長は、解答用紙にエリザがつけておくべき印がなかったと打ち明ける。
・・・・娘は不正に加担しなかったのだ。

明日は卒業式。
試験結果はまだ先になるが、この国でうまくやれるはずがないと思っていた娘が妻の言う通りに代わっていたことを知ったロメオは同時に、自分の世代が為し得なかった、この国を変えることを次の世代が引き継いでいく息吹を感じるのだった。

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娘のためにがむしゃらに不正工作へと走りまわる父親の狂気の物語であるが、ザッと観ていると病的なコネ社会の断面が浮き彫りになっており、そちらの方に慄然とする。
ルーマニアという国だからという訳ではないだろうが、多少極端な構図とはいえ、登場人物のどいつもこいつもコネだらけ。
コネていいのは駄々と小麦粉だけだろうが、人間社会はそういうしがらみとは切っても切れないものなのだ。

◆主人公は警察病院の外科医で警察署長が友人である。 それまでその関係を何かに利用したことはなかったが、いざ娘のためには遂にそのしがらみに頼ることもなんら躊躇はしない。

警察署長はステータスを存分に利用してきた。
副市長に取り入って兵役を免除してもらった恩があり、肝硬変のためにドナーを探している副市長のために順番を早めることをロメオに要求。
厚生省にもツテがあり、ドナー登録リストに手を加えさせることもできれば、試験委員会から解答用紙を手に入れることも朝飯前。
災難に遭ったエリザの試験の口利きも副市長に持っていく。

ブライ副市長署長とのコネの他に、かつて試験委員会のシェルバン委員長の奥さんが産休明けに市役所を解雇されたのを再就職できるように手を回している。
委員長に違法の頼みごとも遠慮はしない。
また、エリザの事件の捜査で似顔絵を担当したジェルという男の名付け親がブライ副市長であり、ドナーのことはジェルを通して署長に来たもの。

ロメオと不倫をしている英語教師のサンドラは、1年前に交通事故にあった時のケガをロメオに手術してもらったのが知り合ったきっかけ。
その縁でエリザの家庭教師もしており、発達障害の息子のために、いい言語療法士をロメオに紹介してもらう手筈になっている。

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コネを利用するというのは別に悪いことではないが、他人に不利益をもたらしてまで自分が恩恵を授かるエゴ丸出しなコネの使い方はもちろん断罪されるべきである。
試験の点数や、ドナー登録の順番をいじったりというのは違法であるから論外なのだが、それでも社会というのはいいことも悪いこともコネで成り立っている側面は否定できない。

コネ以外にも、ツテ、根回し、取り引き、調整、えこひいき、寝技、共謀、圧力、袖の下・・・・悪い言い方ばっかりである。
絆とか縁とか義理とか連帯とか良い言い方もあるが、人が人を動かし、人が人に動かされる時というのはそれだけ善悪が紙一重ということ。
就職。 選挙。 セールス。 行政。 国家外交。
中元・お歳暮。 仲人。 金の貸し借り。 一見さん御断りのお店。 大相撲のマス席。
誰の人生にも大なり小なり、色んな意味を持つ人間関係が発生する。

かく言うアッシだって、若い時の初めてのアルバイトは親戚の紹介だったし、初めて買ったケータイも勤め先の営業職の人の仲介で値段を安くしてもらったのだ。
その程度で、どこかの誰かが泣きを見たことにはなってないだろうと思いたいが。

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実はこの映画には不可思議な描写がある。
冒頭のシーンから、いきなりロメオの自宅の窓ガラスが投石で割られる。
急いで外に出たロメオだが犯人は分からない。

また後日には、車のワイパーがイタズラされていたり、遂にはフロントガラスまで破壊されるのだが、一体誰の仕業なのか分からずじまいで映画は終わってしまう。
おそらくは、サンドラの幼い息子の、発達障害を患っているマテイという男の子が犯人ではないかと思うが。

サンドラから子守を頼まれたロメオマテイと公園に行くと、遊具の順番を守らない子供とその親ともめてしまい、マテイは相手の子に石を投げつけるのだ。
「そんなことをしたって何の解決にもならない。」と叱るロメオマテイは言う。
「じゃあ順番を守らせるにはどうしたらいいの?」
ロメオにはうまく答えられない。

「イタズラの真犯人のことはともかく・・・」という描写になっているのは、もちろん本筋には直接関連していないこともあるが、一連のイタズラはロメオの一日を暗示していると勝手に解釈している。
すべて朝一番の出来事なのだ。

家の窓が割られる・・・・・これから起きる家庭を襲う悲劇。
ワイパーが立てられる・・・・・雨で視界が悪くなってもロメオには必要ないという意味。 いけないことだと分かっていて裏で手を回そうと突っ走る彼の心の視界はぼやけたまま。 この先どうなるか分からないまま走っていたら、という警告。
フロントガラスが割られる・・・・・この日は遂にギクシャクしていた夫婦関係が完全に破壊する。

そしてこの行為を行った者は、ロメオの世代よりも若い世代であって、いつでも彼らが大人たちを見ていて警告しているのだという表現でもある。

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エリザが試験に合格したかという結果も劇中で分からない。
だが卒業式に顔を出したロメオエリザは、やましいことなどしなかったことを打ち明け、試験の際に涙が止まらなくなって自分だけ時間を延長してもらったのだと言う。
辛いことがあったら泣きっ放しですぐにあきらめるような弱い子だとばっかり思っていた親父の目は曇っていたのだ。

「私、うまくやれたでしょ。」
エリザエリザなりに親の行動を見て、そしてこの国でしがらみと付き合っていくやり方を学んでいたのだろう。 もちろん違法ではなく、ちゃんと“順番を守る”やり方で。
(この国でうまくやれてないのはお父さんの方でしょ?)と暗に言われてるようなもんだがね。

人間関係は諸刃の刃。
信頼は築いても、世界は壊れていくこともある。
人は変われるのだ。 だから世界も変えてゆける。
ラストの卒業生たちの記念写真の表情が希望に満ち溢れている。



「賢人のお言葉」
 
「自分が利を得るために、不必要に自分の膝を屈すること決してすまい。 なぜなら、そうして得られた応援や協力は、また目に見えないしがらみを生み、道を暗くするからである。」
 松下幸之助

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ドクター・ストレンジ
2017年02月28日

T0021254p.jpg アメコミヒーローは一体どれだけ湧いて出てくるのか。
特にマーベル・コミックの広げっぷりは加減を知らない。

この先もブラックパンサーの単発映画(2018年)だってあるし、「キャプテン・マーベル」(2019年)もある。
「サブマリナー」や「インヒューマンズ」はどうなったのか?
と、その前に登場するのが、長らく映画化が待ち望まれていた「ドクター・ストレンジ」。
 

元はお医者さんで、修行を積んで魔術師となったヒーロー、ドクター・ストレンジは2018年公開予定の「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」にもすでに参戦が決定しており、今年11月公開予定の「マイティ・ソー/ラグナロク」にも登場するのが本作のアフター・エンドタイトルのシーンからも判明している。

ところで、マーベルヒーロー、特に「アベンジャーズ」の現メンバーにはなぜか元々ダメ野郎だったヤツが多い。
石頭な正義バカであるキャプテン・アメリカは別として、それ以外はだいたいが人としてチンケなのである。

スパイダーマン(ピーター・パーカー)・・・・・ネクラで気弱な運動音痴の学生
アイアンマン(トニー・スターク)・・・・・高慢ちきな武器商人
ハルク(ブルース・バナー)・・・・・内気で社交性ゼロのオタク系科学者
ソー・・・・・傲慢で親不孝上等のボンボン神様
アントマン(スコット・ラング)・・・・・コソ泥体質の抜けないダメ親父

そして、「ドクター・ストレンジ」の主人公であるスティーヴン・ストレンジ
そもそも名字が「奇妙な」とか「ちょっと変わってる」という意味のストレンジであるからなのか、まあまあイタイ奴なのである。
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ニューヨークの病院に勤務する天才外科医スティーヴン・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)。
損傷した中枢神経の再生や脊髄の接合など不可能とも言える手術を成し遂げてしまう、マラドーナもビックリの「神の手」を持つ男。
しかもチャック・マンジョーネやアース・ウィンド&ファイヤーなどのミュージックを聴きながら手術をするのである。
「そのやり方がええねん!」と本人が言うのならしょうがないが、いくらオネンネ中でも手術台に乗ってる患者にすればたまったもんではない「ながら手術」である。

しかし、こういうデキるヤツほど性根はゲスだという格好の見本。
オレ様ナンバーワンを臆面もなく公言し、他人を平気で見下す。
人の気持ちを汲もうという神経などサラッサラ皆無なジコチューにして傲岸不遜な御方である。
「私、失敗しないので。」という「ドクターX」の大門先生とはまた違うタカビーさんが何ゆえにヒーローになったのか。

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【この先の文章はフィクションです】
突然だが。
私はこのたび、人生最大の決意をした。

「出家する!」
しがない現世からフェイドアウトして、出家することにしたのだ。

いや別に、マジメに働いてるのに月給5万円しかもらえないとかではない。 会社からのお給金は正当な額を頂いている。
だからこの先、告白本を出版する予定もない。
ではなぜに出家するのかと問われても、特別な理由はない。
しいて言うならば何もかもイヤになったのだ。
「ディズニーランド大好きおじさん」は暗殺されてしまうし、競馬はドカハズレするし、冬は寒いし、夏は暑いし。
もうどうでもいい。 そこで私は仏門に入る決心をした。

出家と言っても、さてどうしたものか。
変なカルト宗教に入るのはイヤなので、ここはいっそのこと外国を目指すことにした。
どこにするかと悩んだあげく、やっぱりここだろうと決まった。

ネパール。
なんと言っても釈迦を生んだ天空の国である。
ここに行かずして仏道を語るなかれ。
さっそく私はネパールへと飛んだ。
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首都のカトマンズに着いた。
聞いてはいたが、やけにホコリっぽい街である。
ここで、どこぞの寺院に飛び込んで修行させてくれと言うのも節操がない。
実は出発前に多方面から情報を募り、コネやツテを総動員してある所にアポを取ってある。
それが「カマー・タージ」である。

聞くところによると、下半身不随になった、ある男がそこに行って半年後には歩いていたという。
眉にべっとりとツバが付いてるような話だが、行ってみなければ始まらない。
嘘なら嘘でもかまわない。
そして私は教えられた通りの場所へ行ってみたが、そこにはお寺の様な建物などない。
ただの雑居ビルだった。 これは一杯喰わされたなと思いつつも中に入ると、さっそくお弟子さんのような人が現れて、だだっ広い部屋に案内された。
しばらく待っていると、一人の坊さんが現れた。
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一瞬、三蔵法師かと思った。
深津絵里の方ではなく、古い方の夏目雅子の三蔵法師に見えてしまった。
「お師匠様ァ! 一緒に天竺を目指しましょう!」
「あなた、時差ぼけですか? 何を寝ぼけたことを言ってるのです?」
「ハッ!これは失礼なことを。 私は遥々日本からやってきた平々凡々なオッサンです。 どうかここで修行をさせてください。」
「いいのですか? ここの修行は厳しいですよ。」
「私は悟りを開きたいのです。 どんな修行にも耐えてみせます。」
「いいでしょう。 それでは今日からここでしばらく寝泊まりしなさい。 明日からはビシビシいきますからね。」
「へへ~っ。」


ここは、さぞ現世から徹底的に隔絶された場所なのではないか。
多分テレビもねえラジオもねえみたいな吉幾三ワールドなのだろう。
買い物とかはしないのだろうか。 生協の宅配を利用しているのかもしれない。
どんな三食が出るのだろうか。 週一回はカレーをリクエストしたいが。

とかなんとか気に病んでいると、なんとここはWi-Fiの設備があるのだそうだ。
パスワードは[ shamballa ]。
笑わしよるのぉ。

無題 en
この坊さんの名はエンシェント・ワン(ティルダ・スウィントン)。
こう見えて女性なのである。 見事な剃髪だ。 どんな美容師がついているのだろうか。

お弟子さんが言うには年齢は500歳を超えているのだそうだ。
何をバカなことを。 ケムール人じゃあるまいし。
室町時代から生きてきたというのか。 
そんな与太話に付き合っているヒマはない。
大事なのは修行の中身だ。

修行するからには何かこう、特殊能力というか必殺技というか、それなりのスペシャルなスキルが身につけばいいのだが。
私はワン先生に問うてみた。
「かめはめ波を出せるようになれますか?」
「私は亀仙人じゃありません。」
「じゃあ北斗神拳を学びたいのですが。」
「あいにく北斗神拳伝承者はここにはいませんので。」
「南斗聖拳は。」
「それもないですね。」
「ならば北斗琉拳。」 「いいかげんになさい。」 「へい。」
「その代わりと言っては何ですが、あなたが学ぶのはミスティック・アーツ。 すなわち“魔術”です。」
「魔術? エクスペクト・パトローナ~ム!っていうやつですね。」
「それは違う映画です。 魔術とは古来より伝えられてきた、異次元にアクセスして強力なパワーを引き出すための技法です。 呪文によって自らの思考に集中し、身振りによって肉体に集中し、魂を制御することで思考を現実化するのです。 お見せしましょう。」
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「おおっ!」
「これは“エルドリッチ・ライト”。 異次元のエネルギーを引き出すことで作られるパワーで、人間の目には輝く光として見えるはずです。 この光から魔法円を作りだして武器や防具とすることもできるのです。」
「ドラゴンボールのクリリンがやってた気円斬みたいなもんですかね。」
「見た目は似てますが、あれは魔術とは違います。」

この際なんでもいい。
「俺、こんなことできるんだぜ」みたいなのが身につくのなら文句はない。
よおし、我然やる気が出てきたぞ。 修行だ、修行だー!


カマー・タージには私と同じくらいの時期にやってきて修行を積んでいる男がいた。
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スティーヴン・ストレンジと名乗るこの男は元医者だという。
いい学校を出て、エリート職業に就いておきながら、どういう風の吹きまわしでこんなところまで出家してきたのか?

「私は自分で言うのもなんだが、天才医師だったのだ。 私には人にマネできないような外科技術があった。 自分で『ストレンジ式』などと言ってたぐらいだ。 私の上を行く医者など存在しない。 人は私のことを神の手を持つ男と言うがそれは違う。 私そのものが神なのだ。」

「どこからそんなウヌボレ根性が出てくるんだ。」

「以前はそんなことを平気で口走るクソ野郎だった。 今では反省している。 この世界の中では私の存在などカスみたいなものだ。 医学というのはそれはそれで人間の編み出した素晴しい技術だが、なんでもかんでも思い通りになる訳ではない。 私はもっと大切なものに気づいたのだ。 それは目に見えるものではない。 魂なのだ。 人は肉体から生まれて肉体で滅びはしない。 すべては魂なのだ。」

「そりゃまた医者とは思えぬ改心の仕方だな。」
 
「私は夜の道をランボルギーニで走っていた。 ウラカンLP614-Aアヴィオという限定モデルでジャパニーズレートなら2820万円だ。 君にはどれだけ逆立ちしても伸身新月面宙返りをしたって買えない車だ。」

「うるせえ。 全然性格が直ってないじゃないか。」

「これは申し訳ない。 そのランボルギーニで走っている時、不覚にも事故ってしまったのだ。 私のランボルギーニはスピンし、崖から何回転もしながら転げ落ちた。 私のランボルギーニはグッチャグチャになった。 ああ私のランボルギーニ・・・。 もう修理などできないだろう。 私のランボルギーニよ永遠に。 ありがとう私のランボルギーニ。 さらば私のランボルギーニ。 また会おう私のランボルギーニ。」

「もうええ!もうええ! 自分の体やろが問題は!」

「そうだった。 この事故で私は両手の指が全部ダメになってしまったのだ。 C7~C8レベルの完全損傷だ。 もう二度とメスを握ることはできない。 それどころかペンさえもまともに持てないのだ。 私は自暴自棄になった。 医者でない私など、ただの頭のいいイケメン紳士にすぎない。 これはもはや絶望的だ。」

「あんた頭の神経まで損傷したのか?」

「冗談だ。 私はある時、このカマー・タージの話を聞いたのだ。 ここに行って脊髄損傷から回復した男の話だ。 私はパンクボーンというその男に会って話を聞き、ここにやってきたのだ。」

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ストレンジのダンナの中に眠る魔術師としての大いなる可能性を見込んだエンシェント・ワンは彼をけっこう厳しく指導した。

スリング・リングという指輪があり、それをはめた手でクルッと円を描けば時空間にゲートウェイという光の出入り口ができて、どんな場所にも移動できる技がある。
つまりはドラえもんいらずの即席「どこでもドア」だ。
ダンナはワン先生の「どこでもドア」によって雪山に連れて来られ、一人置き去りにされてしまった。 1時間あれば楽勝で凍死する地獄だ。
帰ってきたかったら自分で何とかしろと。
私は以前に「水曜日のダウンタウン」というテレビ番組で、「アメとムチならムチの方が力出る説」というのを観たが、ムチでもダメなものはダメだった。
しかし、この場合のムチはヘタすりゃ死ぬ、リアルガチなムチだ。
なんとダンナは自らの力でゲートウェイを作って、カマー・タージに戻ってきた。
さすがワン先生が見込んだだけのことはある。
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それ以来、ストレンジのダンナはメキメキと腕を上げ、気がつけばあっという間に立派な魔術師になっていた。
うらやましい。
私はいつまでたっても上達しない。 才能など耳カスほどもないようだ。
煩悩が多過ぎるのだろうか。
ジゼル・ブンチェンとドウツェン・クロースを両サイドにはべらせて、あんなことやこんなことをしてみたいなどと常々考えているからいけないのだろうか。

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「まあまあ、大将。 気楽にやんなよ。」
そう言ってくれるのはワン先生の忠実な一番弟子であるモルドさん(キウェテル・イジョフォー)だ。
親切な人で、ジョークも飛ばす気さくな人だ。
だけど道徳意識があまりに強くて、少々クソマジメな所がある。
「誰がクソだと?」
「いや失礼。 じゃあバカマジメと言い直しますが。」
「誰がバカだと?」
「う~ん、困ったなあ。 じゃあクソバカマジメ。」
「足してどうすんだよ、テメエ。」
「これ以上出ませんよ。」
「出さんでいい。」
これだもん。 面白い人なのにやっぱりマジメすぎると、周りからイジられたらキーッってなるんだな。
そうだ。 冗談が通じないと言えばこの人もそうだ。
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カマー・タージには古今東西の魔術書を集めた図書館がある。
そこには危険な呪文を記した魔法書もあるので、それが盗まれないように管理してるのがこのウォンさん(ベネディクト・ウォン)だ。
だけど、この人には何のジョークも通じない。 ストレンジのダンナがそう言ってた。
何を言っても笑わない、最強の芸人殺しなんだと。

あと、「ウォン」という名字がない呼び名のことを「ビヨンセとかエミネムみたいなもんか?」ストレンジのダンナがイジったらしいが、この図書館館長は何を言われてるのか分かってないようなノーリアクションだったそうだ。
ビヨンセを知らないらしい。 こんな人間がいるとは渡辺直美も商売あがったりだ。

さて、危険な魔法書といえば「カリオストロの書」。
「奴はとんでもないものを盗んでいきました。 あなたの心です。」・・・と誰もが突っ込みたくなるようなタイトルの本。
この本の一番ヤバい儀式の記述のページを盗んだ奴がいるのだよ銭形のとっつぁん。
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目のところ、どうしたん?と心配したくなるが、あまり気にしないでいいらしい。
こいつはカエシリウス(マッツ・ミケルセン)といって、かつてカマー・タージで修行していた弟子でありながら、闇の魔術に魅せられてワン先生と袂を分かち、狂信的な弟子を引き連れて出て行った。 出家の出家というのだろうか。
闇の魔術を我がものにして世界を破滅に導こうとしている、不届き千万な魔術師だ。

こいつをなんとかせねばならない。
かと言って私には何にもできない。
魔術のマの字も習得できていないヒヨっ子のままだ。
ワン先生に相談したところ、実に優しいお言葉を頂戴した。
「荷物をまとめて、とっとと失せなさい。」
やはり、そうなるか。 そうだろうな。
「いやこれは言葉が過ぎました。 あなたには明らかに荷が重い。 日本に帰って、身の丈に合った社会貢献をするのです。 それも立派な英雄の行為です。 分かりましたね。」
「先生たちやストレンジのダンナは大丈夫ですか? カエシリウスをやっつけることができるのですか?」
「続きは映画館で。」
「へへ~っ。」

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しかし、ここで私もクリビツテンギョウの事実を知る。
なぜにエンシェント・ワン先生は500歳以上も生き永らえてるのか。
彼女もまた、カリオストロの書に記された禁断の儀式に手を染め、暗黒次元にアクセスしてこの不老の体を手に入れたのだ。
それもこれも、「ソーサラー・スプリーム(至高の魔術師)」を受け継ぐ者が現れるまで、長きにわたって人類を脅かす脅威と戦うために、あえてダークサイドから力を得るというジレンマをワン先生は背負ってきたのだ。

これにはストレンジのダンナは一定の理解を示したが、カタブツのモルド師範代はそうはいかない。
「偽善者じゃないか。」
まあ気持ちは分かるが、今はとりあえずカエシリウスをシメなければならない緊急事態だ。
私も帰りの飛行機の時間が迫っているので、ここいらでオイトマさせていただこう。
 
頼むぞ、ドクター・ストレンジ
世界を救ってくれたら、新しいランボルギーニをプレゼントするぞ! ウソ。
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いやあこれはなかなか面白い。
やっぱり、最初っから「いい人」な主人公では面白くない。
こういう奴がいても、何ら不思議ではないリアルなクソ野郎こそが却って親近感が湧く。 これからヒーローになると分かっているからだが。
人は闇を覗いてこそ光の美しさを知るのだ。

医者として十分すぎるほどの技量を持ちながら、それをただ己の名誉欲のためだけに腕を振るってきた。
人の命を救うためという医者としての魂など捨て去り、限られた世界の中だけでもてはやされるために医者というブランドを守ってきただけなのだ。
それを失った時、彼はずっと前から自分がこの世界の中で孤独な存在だったと思い知ったのだ。

それに対し、エンシェント・ワンは人類を守るために、あえて至高の魔術師であるための本分を捨てた。
この孤独感がストレンジには痛いほど分かるのだ。
犠牲が救いを生む。
影を踏まねば光ある道は進めない。
本作でストレンジがソーサラー・スプリームになった訳ではない。
彼の修行はまだまだ続くのだ。

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この映画の映像的最大の見どころは、魔術によってビル街の建物がドミノのようにパタパタ倒れて、反転したり捻じれたりと上下左右どうなってんのやら分からんような状態になる「ミラー次元」の描写。
非現実にもほどがある視覚スペクタクルは確かに一見の価値あり。
クリストファー・ノーラン監督の傑作「インセプション」にも似たようなシーンがあるが、本作ではいろんなパターンの異次元ビジュアルが堪能できる。
魔術師ってのは楽しいねえ。

現実世界は影響を受けないと劇中で言っているが、そりゃそうでしょう。
逆さまになった人や車が落っこちてくるからね。
まあ、映画だからOKなんだけど、いちいちトリックアートの様な世界を創り出さんでも「普通に戦ったらええやん!」とも思うが。
やっぱそこは魔術師ですから。

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いろいろと聞き慣れない言葉も多々出てくるので、ついていくのに一苦労だが、この手のマーベルムービーは無理せず気にせず流すようにしている。
そう。エンシェント・ワン先生「川に流れに身を委ねるのだ。」と美空ひばりのようなことを仰ってた。

ダメンズが改心してヒーローに目覚めるマーベル王道まっしぐらのストーリー。
「ビヨンセ」や「Wi-Fi」などの適度なユーモアを交え、「腕時計」を伏線とした憎い演出もあり。

単独の続編でなのか、「アベンジャーズ」の新作の中に組み込まれるのだろうかは定かでないが、おそらくモルドバロン・モルドというヴィランとなってストレンジと激突するのだろう。
アフター・エンドロールで、モルドがパンクボーンを・・・・ 「魔術師が多すぎる。」
殺しちゃったのかな?
このシーンの前のストレンジソーのトークも面白かったね。
mqdefault_20170227230159b87.jpg 
ビールのおかわりエンドレス。 
あれはビールの時間だけを戻した?って解釈していいの? 魔術パネーな。

ともかく、またロキか。 こいつ一人にいつまでかかずらってるのかね。


「賢人のお言葉」
 
「修行とは我を尽くすことなり。」
 鈴木正三

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